>>756
「 こんにちは、この狂った物語の主人公さん。 」
鏡に映っている私に、こんにちは。
何度も諦めようと思ったけど、私にはまだ秘策がある。……という台詞を言うのは、此れで何回目だろうか。いい加減飽き飽きした。すみれの力を借りても、全てのセキュリティを欺いても、最期には彼奴が嗤って奪い去る。脳裏にそんな言葉を描きながら、私はもはやテンプレと化している、複数の看守に死刑を宣告される場へ向かう作業を始める。腕には手枷、脚には足枷、この場から逃走することはできない。今までの繰り返しでそれはよく判っている。
「 とっとと前へ歩いてくださぁい、囚人。気に障るんですよ、そういう何でも知ってるぞって態度。 」
最初はこんな事を宣っているが、彼女はどの時間軸でも必ず私の味方になる。尤も、彼女は彼奴とは違い使い捨てだから、余り役には立たなかったが。其れでも、必要な存在であることに間違いはない。私はこの後、死刑を宣告され、僅か五十日間の日数を牢獄で過ごすことを強制される。愉快で不愉快な、イカれた仲間達と一緒に。もしも脱獄できたら何をしようか、なんて無邪気に話し合い、笑い合えていた時もあった。でもそれは昔の話だ。今の私には関係ない。歩みを少しずつ進めていく内に、まるで軽蔑するような視線を此方に向ける警官の後ろには、巨大な断頭台が見える。彼処で私は命を散らすのだ。
「 ……囚人に宣告する、貴様には大勢の人々を惑わし、貴重な金品や国家が保管している品を盗んできた報いとして、 」
「 それに見合う罰として、死刑が与えられる 」
何度聞いても、この発言を耳に入れると背筋に悪寒が走る。所詮私は臆病者だ。他人のために命を投げ出せるような立派な志を持つ人間でなければ、殺されることに悦楽を覚える異常者でもない。依夢や、幸奈辺りは死にたがってても可笑しくはないが。
「 ほら、やっぱりこうなった。 」
目の前に見えるのは無惨に転がる死体、絶望的な現実、閉ざされた未来だけだ。希望一筋もなし。今、私の頭には銃口が突きつけられている。
「 あと少しだと思ったのにな 」
幾らセキュリティを乗り越えても、看守を消しても、
最期には彼奴が嗤って奪い去る。
「 ナナコちゃん、ごめんね 」
彼女は、くふくふ、と存分に普段は柔和な笑みを浮かべる表情を歪ませながら、私の頭を撃ち抜いた。…貫通した弾が、床に落ちる。最期に聞こえたのは、
「 さようなら、この狂った物語の主人公さん。 」
狂おしい程好き、、、すみれさん凄、、、