「そうやで、ポルトガルやで〜。お兄ちゃんが可愛い可愛い弟(スペイン)のところに来たったで〜」
ポルトガルは猫撫で声で茶化して答える。
いつものスペインなら「子供扱いすんな!」とか「うるさい!」とか真っ赤になって喚くのだが、今日は違った。
ポルトガルの胸に頭を擦りつけて、彼をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
兄分の存在を確かめるように、縋り付くように。
よく見るまでもなく、スペインの目の下には酷いくまが出来ていることがわかった。
血の気も完全に失せている。彼は小刻みに震えたままだ。
「何で……来てくれたん?どうして来れたん?」
「ん、不満か?」
「違っ――――」
焦るスペインを無視して、ポルトガルは面白がるように続けた。
「せやねえ。お前がダメダメになっとうかなぁ思て、上司に無理言って来たったわ」
「…………」
「よしよし」
大昔、まだお互いが少年と形容できる容姿だったころのように柔らかく弟分の頭を撫でてやると、とうとうスペインの堰がきれた。
「兄ちゃ……う、うぁぁぁ、ううぅあぁ!」
いつも嫌というほど能天気な笑顔を浮かべる彼は、大粒の涙をこぼして子供のように号哭した。
床にうずくまって腕に顔を埋めてひとしきり叫んだあと、震える微かな声で己の抱える気持ちを吐露し始める。
「痛い、いたい、怖い、恐い、苦しい、気持ち悪い、熱い、暑い、冷たい、寒い、キツい、えらい、えらい、暗い、暗い、暗い、嫌や、いや、いやや――――」
ポルトガルは怯えるスペインを、複雑な気持ちで見下ろしていた。
今、スペインはまさに体を二つに引き裂かれるような感覚なのだろう。
彼は気が狂う直前まで追い詰められているのだ。
もともと最近スペインは内戦のせいで不調であったが、これまでにも何度かあったしもう慣れていたこともあって、まだ空元気を振りまく余裕はあったようだった。
しかし案外内戦は激しくなり、日に日に彼はやつれていって、『空元気』がただの『空』になり、そして、追い打ちをかけるように、4月26日。
スペインは世界のどの国も体感したことのない攻撃を受け、傷を負ったのだ。