これは、昔々のお話。……ではない。電子世界といういかにも近世代っぽい世界でのお話。
きっと珍しい、「主人公が『不幸』な結末を迎える」お話なのです。
ここは、バーチャル世界。すなわち電子空間である。
今 “リアル・ワールド” と呼ばれる世界で流行りのボーカルアンドロイド、VOCALOIDが住む世界。
綺麗な黒い髪を持ったリン。をの綺麗な黒髪は首の上で切られている。
その黒髪のてっぺんに白いリボンをひょこひょこと跳ねさせている、幼気の残る美少女。
そして長い、綺麗な青緑の髪を持つミク。長い髪の毛を2つにまとめている。
もう1人、金色の髪を持つレン。男性にしては少し長い髪を1つに纏めている。
みんな、幸せなはずだった。なのに、いつから……
「おはよう、レン」
窓の外から綺麗な声が聞こえる。この声はミクと呼ばれる者の声だった。
彼女がレンと呼ぶだけで、胸が苦しくなる。
「今日も、耐えないとな……」
彼女が呼んだレンという少年。リンもミクもそのレンに、好意を抱いている。
(2人が両想いなのは、知ってるの。だけど…)
応援したいのに、出来ない。この気持ちがもどかしくて、リンは作曲をやめて外を見る。
「今日、仕事だ」
憂鬱な朝。苦しい朝。嫌な表現はいくらでも出来るのに…いい表現なんてちっとも浮かばない。
爽やかな朝、なんてのもあるのだろうが、今日は天気も悪い。
小鳥のさえずりも、眩しい光も窓から入ってこない。
……入ってくるのは、彼女とレンが楽しそうに話す声だけ。
リンは、思う。何で僕は神に嫌われているのだろう、と。
(なんて、神じゃないんだし、分かるはずないか。)
こんな辛い日常、過ごしたくもない。どうせなら、死んでしまおうか。そう考えてしまうほどリンにとってはキツい日々なのだ。
リンはみかんを取りに行くため、椅子から立ち上がるが、よろけてしまう。
元から身体が弱いリン。それは日に日に酷くなってきている。
(このまま、死んじゃうのかな?だったら、それでいいのかも…)
うまく歩きながら鏡で身支度を整える。森になっているみかんはとても美味しいのだ。
リンはみかんが大好きなため、楽しい仕事よりも張りきってしまう。
「行ってきます」
誰も居ない部屋…いや、フォルダに声をかけてフォルダからでる。
フォルダと呼ばれる家を出た先には道路が続く。
その道路を進んでいき、森へと向かう。
(みかん、楽しみだな)
このかけがえのない今を、大切に生きよう。リンは心でそう、呟いた。