『想い』を伝えるのは難しいですか?
『想い』は伝わるものですか?
『想い』だけだと消えやすいから
言葉や体温、贈り物。
人は形に『想い』をこめて、ずっとつないで生きてきました。
これはみんなでつないだ大切な人との『想い』の形。
あなたを想う、私達の物語。
「奈々ー、起きや〜」
「ふかふか……。気持ちいい」
「おい、二度寝すんな! え、嘘やろ!? マジ二度寝!?」
私、桜井奈々は届いたばかりのベッドでごろん、と寝返りを打った。カーテンを透かして、暖かい春の日差しが降り注ぐ。それを背に私を揺らし、起こそうとするのは、遠い親戚の小原伊織ちゃん。
私はずっと北海道のおじいちゃんおばあちゃんと暮らしていた。雪が残ってない新学期って初めてだ。
同じく伊織ちゃんも関西の大阪から、方南のストライドに飛び込むため、上京してきた。
二人で上京してきて一週間。新しい部屋にも馴染んできた。古い木造住宅をキレイにリノベーションした、素敵な家。耕ちゃんは不便かもって心配してたけど、私達はすぐに気に入った。
耕ちゃんこと、耕一おじさんはお母さんのしたの弟で、今の私達の保護者。耕ちゃんのところに居候させてもらえることになったおかげで、ようやくおじいちゃんは方南への進学を認めてくれた。
耕ちゃんが居なかったら方南に通うのは無理だったと想う。
一階のお店からコーヒーの香りがのぼってきた。耕ちゃんの家はピリカって言うカフェだ。ピリカはアイヌの言葉でかわいいって意味。ぴったりの名前だ。
ふかふかのベッドにコーヒーの香りで目が覚めるなんてステキだなぁ。
何て思いはスマートフォンの画面を見た途端に吹き飛んだ。
「もうこんな時間!」
「やからさっきからゆーとるやろ!?」
伊織ちゃんの怒鳴り声をBGMにあわてて飛び起きる。やっちゃった……。
自己ベストのスピードで用意をして、だーっと、一階のお店に駆け下りる。
カウンターの中で耕ちゃんがコーヒーを入れていた。白シャツに黒いエプロンが今日もキマっている。
「おはよう、奈々、伊織」
耕ちゃんの笑顔は写真で見たお母さんにそっくりだ。
「おはよう!」
「はよっす」
制服姿の私達を見て耕ちゃんはばつの悪そうな顔をした。
「ゴメン、入学式って今日だった?」
「大丈夫。あ、部活見てくるからお昼過ぎるかも」
「心配しんでください」
「はいはい。じゃあこれ御弁当。急だから店のサンドイッチで悪いけど」
「「大好物です!」」
ピリカのポテサラサンドはとっても美味しい。
大喜びでサンドイッチの包みと、紅茶の入ったタンブラーを受け取る。
「行ってきます!」
「行ってきますわ〜」
私達はお店から勢いよく飛び出した。
「わっ」
そのとたん、私だけぽふっと何か柔らかいものにぶつかった。
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