男の子はそれに気づくと。
「平気。すぐ治るし」
「でも、ちゃんと止血しないと……」
「少年、人の厚意は受け取っとくもんやで」
いおりちゃんが横からそういってくれたので、私がポケットからハンカチを取って差し出した。ふわりとさくらちゃんの香水の良い匂いがする。さくらちゃんからのプレゼントだけど、怪我してるんだから止血が先!
「君達、やさしー!」
ハンカチを受け取った男の子の顔がパッと輝いた。
「サンキューです! コレ、借りるね」
人懐っこい笑顔。子供みたいな目で真っ直ぐに見つめられる。ちょっとびっくりしていると、さっきの怖そうな先生が近付いてきた。
「猿かお前は! 眼鏡も怪力か! さっさと掲示板を見てクラスへ移動!」
また先生に追い立てられて、私達はクラス分けの掲示板に向かった。
見上げるとすぐに自分の名前が目に飛び込んできた。C組だ。よかった、いおりちゃんも同じ!
「君達、なん組だった?」
男の子が振り返ってそういった。
「え、えっと、C組みたい」
「俺もC組やったで」
「一緒だ! おれ、八神陸です。よろしくお願いします!」
男の子が急に敬語になったので笑ってしまった。
「桜井奈々です」
「小原伊織や。気軽にいおりて呼んでくれて構わへん」
私達が名乗ると八神君はニッと笑ってくれた。
いおりちゃん以外知り合いが居なかった方南で、初めて話せそうな人ができた。
「なら行こや、急ご」
いおりちゃんの一声で、私達は校舎へと駆け込んだ。
**
「担任の壇だ。現代国語を担当する。一年間よろしく」
壇先生は簡潔に自己紹介を終えた。
私達の担任は物静かで、落ち着いた雰囲気の先生だった。さっきの角刈りの怖そうな先生が担任じゃなくてよかったな。
でもなんで壇先生はジャージに着替えてるんだろう……? 入学式の最中は確かにスーツだったのに。ポリシーなのか、ものぐさなのか知らないけど、なんだかただ者じゃない気がする。
「八神陸です! 好きな焼きそばは焼きそばパンです!」
八神君の自己紹介はいきなり飛ばしていた。なんじゃそりゃーと言う声と共に笑いが巻き起こる。八神君って、友達すごく多そう。
「あと、スポーツ全般大好きなんで、早く体育祭とか来ると良いなーって思います! よろしく!」
笑顔のクラスメイトの中で、一人だけ八神君に険しい視線を向けている眼鏡の男の子がいた。
なんだろう? 知り合いなのかな?
そう思って見つめていると、目と目が合ってしまった。射抜く様な強い眼差しに目が離せなくなる。
ひゃー、ど、どうしよう……。
しかも、いきなりその人が立ち上がった。
びっくりしたけど、自己紹介の順番が来ただけだったみたい。
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