『よろしくね』
『ウル…さん』
『グレイを』
何のことを言っているのだろう。
『待って!!』
笑いながら、消えていく。
「は!!」
ルーシィは目を覚ました。
まだ、世界は闇におおわれている。
額を触ると、冷や汗をかいていることが分かった。
ここんところ同じ夢をずっと見ている。
上も下も右も左もわからない。
そんな場所にいつも、ウルさんが来て、青白い一筋の光を入れてくれる。
でも、最後は帰ってしまう。
見たことも声をきいたこともないのに、その時ははっきり見える。
でも、目を覚ますと、顔にもやがかかり、声にモザイクが付く。
あの日から、同じ夢を見ていた。
あの日、あんなことが起こったのに、ウルさんは、同じことを言ってくる。
もう、無理なのに。
こぶしを強く握っているのに気付いて、手を緩める。
そして、まっすぐ月を見据えて、決心した。
もう一度、布団に入る。
違う展開になるように…。
『よろしくね』
『…』
『グレイを』
『無理よ』
今まで何回見てきたかわからない夢が、ついに違う方向へ向かっていく。
『ウルさん…無理よ』
『…できるわ』
『死んだの!!!』
初めて、笑みが消えた。
『あなたの夢を見るようになったあの日…グレイは死んだ』
『…どうしたいの?』
こんなに会話が続いたのは、初めてだった。
『ウルさん、私…』
『グレイは、よかったと思ってるわ。あなたにこんなに思ってもらえて』
『行ってもいいですか?』
『…いいわよ』
世界が変わった。
一つ扉が見えた。
ゆっくりと歩きだす。
『名前だけ、いい?』
『ルーシィ。ルーシィ・ハートフィリアです』
にっこり微笑む。
『いつも、グレイに墓から聞いてたわ。ありがとう』
ドアノブに手をひっかけ、開けた。
光が、ルーシィを包んだ。
翌朝、ルーシィは死んでいた。
鍵も、すべて消えていた。まだ見つかっていない。
そして、ルーシィの頬にはきらりと光る氷のような涙があったという。
END