その瞬間が訪れたのは突然だった。下校中の僕は、何思うでもなくぼんやりと空を見上げつつ、近所では切り替えが長すぎると不評の歩行者信号に足止めを喰っていた。だからだろうか、自身に向かってくる大型トラックの姿に気付いたのはただの一瞬であった。記憶はそこで途切れ、意識を取り戻したのは暗闇の中だった。目を開いても何も見えない。僕は焦りを感じた。昔見た、触覚以外の感覚を失った傷夷軍人の映画を思い出したのだ。そんな風に、身動き一つ取れぬまま、何を伝える事も出来ぬまま病院のベッドに横たわっているのではないか……?
幸いというべきか、それに怯えた自身の情けない叫びと、飛び起きる音がはっきりと耳に入った。暫く待っていれば、暗闇に慣れた目がブレザー姿の首から下を捉える。五体満足ではあるようだった。
しかしそれはそれで新たな疑問を呼ぶ。ここはどこなんだ……?地面があることを確認しつつ、僕は当てもなく、どちらへ向かっているのかも分からぬまま暗闇を歩き始めた。
=つづく=