暗闇の中は平地が続いているのか、あるいは運良く障害物を避けているのか、足取りに何ら支障は無かった。ただ、スマートフォンの画面やカメラ照明を照らしても、自分の身体の他には何も明るくならなかった。電波も圏外。自分を閉じ込めるような空間に恐怖を募らせていたところ……。
「オイ、こっちだ。」
「うわ!」
それが人の声であると気付くのに、腰を抜かした直後の半秒を要した。振り向いてみれば、自分が歩いてきたはずの背後……そのすぐ真後ろに、卓上ランプに照らされた男の姿。男は黒い差し色の入った、グレーの軍服らしき整った身なりである。取調室じみたスチールの事務机を挟んで椅子に座っている。
「座れ。」
「な、何だよあんた……ここは一体……。」
「座れ。これから話す。」
=つづく=