*夜砕小説 >>20の続き*
「…のぅ砕蜂」
「はい?」
「お主からのプレゼントはこれだけか?」
「えっ…」
ぱちくりと目を瞬かせる。
さっきまでの永い口付けから数分後。
夜一が発言した言葉は砕蜂の想像を遥かに超えるものだった。
「すっすみません…」
「いや、謝らなくても良いのだが…その、何と言うか…」
砕蜂が不思議そうにこちらを見つめる。
ごにょごにょと夜一にしては珍しい曖昧な返事を彼女に送った。
もっと、お主が欲しい。
ただこれだけだった。
こんなことは幾らでも口で言えるのだが今回は少し違った。
___砕蜂から攻めて来て欲しい。
いつも受け身な彼女が自分へ攻めて来て欲しい。
我ながら性欲丸見えの馬鹿な発想だなと夜一は静かに突っ込んだ。
しかし自分の誕生日の日。
これくらいしてもらいたい。
押さえ切れない欲望が破裂して遂に自分で言ってしまう。
「____砕蜂」
「はっ、はい?」
「10秒以内に儂に口付けろ。口付けないなら今夜は寝かせんぞ」
「____えっ、え、ええええー!!?」
突如言われたものだから砕蜂はただ口をポカンと開けていた。
それに構わず夜一はニヤリと笑みを浮かべ笑いながら言う。
「いーち、にーぃ、さーん」
「あっ、あっ!!待って…!!」
「だーめじゃ。待てん」
「ええ…っ!!」
カウントダウンを始めた夜一は止めることなく続けた。
その横で砕蜂はあたふたと焦りまくっている。
“うー”だの“あー”だの色々言うがどうも夜一に口付ける勇気が無いらしい。
それもその筈だ。
今まで彼女に、ましてや誰にも自分から口付けようとしたことが無い。
しかも口付け等夜一としか経験が無いため未だに慣れていないと言うのに。
それなのに自分から口付けるなんて砕蜂にとっては大きな試練だった。
「ろーく、しーち」
「あっ、えっ、と、うぅ…」
お構いなしに続けられるカウントダウン。
徐々に数字は進んで行く。
砕蜂の額には一筋の汗が流れ落ちた。
でも____
今日は彼女の誕生日。
今日くらい、良いのではないか。
彼女の望みを叶えるのが一番良いのではないか。
ふとそう思う。
ゴクリ、と唾を飲み込み、夜一の頬に手を添える。
「んっ…やる気になったか?」
「そうさせたのは貴方じゃないですか…」
膨れっ面でそう言うと夜一は余裕のある笑みを溢した。
不安や緊張の欠片も無い笑顔。
それを歪ますことが自分にできるのだろうか。
こちらが緊張してしょうがない。
夜一の整われた顔立ちを見るだけで目眩がする。
そこを何とか押さえ、そっと唇を寄せた。