365日を毎日なにかの日にしちゃうスレ

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3:匿名:2016/10/18(火) 08:48

10月18日:遠いやの日

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「体を大事にしてね。」
母が肩の荷物をかけ直しながらそっと言った。一晩中荷造りしていた疲労が隈となって、痩せこけたその顔に浮かんである。額の汗の粒が朝日を受けて宝石のように輝いている。ミツコは齢八とは思えぬ大人しさで母を見上げながら瞬きをした。子供らしい柔らかさを湛えた小さな手を宝石に向かって差し出そうとして、その手をそばに立つ父に捕まれてしまった。父は制裁の意を込めてミツコの手を強く握った。やがてミツコは諦めて、再び母の顔に視線を注ぐ。本家から追い出されるその女は、それでも美しかった。
遠ざかる背中を見つめながらぎゅっと強く、繋がれた父の手を限界まで力を振り絞って握りしめた。

ーーーほんとならあの時母さんに抱きついて、「連れてって」と泣きたかったんよ。
線香を立てながら心の中でポロリと零し、18になるミツコは少女の憂いを帯びた目で、墓石に刻まれた懐かしくもどこかよそよそしい名前を見つめる。結局あの別れから一度たりとも顔を合わせることはなかった。手紙のやり取りも、電話も、何も。気が付けばあっという間に10年が過ぎ、母は病で帰らぬ人となった。最期を看取った看護婦の話では、朦朧とした今際でずっとミツコの名を呼んでいたそうだ。木の枯れ枝みたく細い手に、幼いミツコを抱いた写真を握りしめて。
いつか会おうと思っていた。けれどその『いつか』はやって来なかった。あの日の別れが今生の別れとなり、ミツコはこの世でただ一人の母を喪った。しかし、今もまぶたの裏に灼きついたあの背中と目前の墓石を重ねようにも、それは無理だった。記憶の中の母はやはり美しい女だった。今にも手を伸ばせば、あの時汗に混じってこぼれた母の涙を拭えてしまえそうだ。嗚呼、拭たかった。現実でいくら手を伸ばそうともがいても、もう届きはしない。

「遠いや」

溢れた涙が墓石を濡らす。


匿名:2016/10/18(火) 09:09 [返信]

こういうの泣いちゃうからやめえや(´;ω;`)


匿名:2016/10/18(火) 10:31 [返信]

泣いたわ


匿名:2016/10/18(火) 11:45 [返信]

昭和文学みたいですこ
こういうのあるとより特別な日っぽくなるな


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