「強盗だ!金を出せ!」←一番ドラマチックに解決した奴優勝

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4:匿名:2019/02/21(木) 00:22

「お父さん、明日は運動会だからね!絶対に見に来てね!」
画面の中で興奮気味に跳び跳ねる我が子が愛おしくて、画面の上から頭を撫でてやった。この可愛い娘を手放してしまった。それが俺が今日まで生きてきた中での一番の失敗だった。だが、そんな人生ももう長くは続かない。そう思うと全てが尊くも思えてきたが、ここでやらねばいつやるのだ。自分を叱咤し車から降りた。
町を歩くと、やはり多くの人間に訝しげな視線を投げ掛けられた。平日の真っ昼間に全身黒の大柄な男が歩いているのだから無理もないだろう。不格好とは分かっているが、なんせ銀行強盗なんて生まれて初めてなもので、テレビドラマから得た薄い知識で補うしかなかったのだ。
俺は学生の頃からそうだった。真面目な割に、勉強、運動、交遊関係、趣味と全てのことにおいて中途半端で無様だった。そんな俺は社会人になって、仕事に就き嫁も貰えたことに傲っていた。俺でもこんなにできるんだ、と自分を過信していた。しかし今はどうだ。真面目さが裏目に出て会社の面倒な事件に巻き込まれ犯人扱いされ一銭も払われず追い出されるようにリストラを食らったかと思えば、優しくしていたつもりだった嫁には突然見に覚えの無いDVで訴えられ証拠データも揃っていたせいで裁判に持ち込む間もなく、養育費を払う契約だけ結ばされ娘を連れ逃げられた。その後2年近く、生きているのか死んでいるのか分からない日々が続いた。そんなある日突然元嫁からかかってきた、「娘が重い病にかかった」という電話。その日から俺の払う養育費は5倍にまで跳ね上がった。俺は適当な職場を見つけ、死に物狂いで働いた。全ては娘のためだと思えば辛さなんて一切なかった。だがついに貯金も底をつき、働けど働けど金が間に合わなくなってしまった。
そうなれば、俺に残された道はただひとつ。金のあるところから貰っていくのみ。
そんなことを考えている間に、銀行に到着していた。深呼吸をして、銃を取り出しながら扉を開けた。
「強盗だ!金を出せ!」
野太い声で叫んだついでに、一発ドカンと銃を発射してやった。逃げ惑う客らしき女が俺にぶつかる。職員の一人に銃を向けると、すぐに重そうな札束を持ってきた。乱暴に受け取り、懐にしまった。
ああ、ついに俺はやってしまったんだ。俺は、銀行強盗に手を染めてしまったんだ。
顔を覚えられてはまずい。さぁ、背を向けて帰ろう。
「待って!…くだ、さい」
不意に声がかかり振り向くと、客らしき若い一人の女がいた。
俺が振り向いたのが分かると、女は一瞬表情を明るくしたと思えばすぐに泣き出してしまった。
「やっぱり…お父さんだ」
お父さん?その言葉を言われるのが久しぶりで、理解に時間がかかる。
そうしているうちに目の前の女に抱きつかれた。
「お父さん…あたし。梨香だよ。今日なんとなくお父さんに会えるかもって思ってここに来て正解だった。あたし病気なんかじゃないの。お父さん優しいから信じちゃったんだよね。お父さんがお母さんと離婚した後、お母さんはお金が足りないからって嘘付いたの。私が言いに行けばよかったのに、お母さんが怖くて言えなかった。ごめんね、本当にごめんなさい」
目の前の女が実の娘であったということに驚きと感動を感じ、自分の奥から忘れていた暖かい感情が沸き上がるのがわかった。元妻への憤りよりも、娘への愛情が上回ったことも俺にとっては驚きの対象だった。同時にこの愛しい命のためとはいえ、俺はなんと汚いことをしてしまったのだろうと深く後悔と反省をし、娘を抱き締めたまま泣き崩れてしまった。これからはもっと綺麗な手段で娘が幸せになれる手助けをしてやりたい。今泣いている場合じゃない。そう思えば思うほど、涙が溢れて止まらなくなるのだった。


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