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○三瀬川
黄泉「やぁ、目が覚めたかい?」
目が覚めてから数秒、見知らぬ少年がニコニコとこちらを見てそういった。
目が覚めたばかりでボーッとする頭をフル回転させる。たしか、学校から帰ってきて、その後、久しぶりにとてつもない睡魔に襲われて、久しぶりに寝てしまったのだ。…この少年は誰だ?そしてここはどこなのだ。状況を理解しようとあたりを見回す。…見た感じここは喫茶店…なのか?
黄泉「喫茶店ではないよ。じゃあ少しここの説明をしようか。まずボクは黄泉。わかるとは思うけど黄泉平坂の黄泉!よろしく。」
随分縁起の悪い名前だ。そう思ったが口にするのは野暮だろう。
奏「よ、よろしくお願いします…」
黄泉「タメ語でも全然いいけどね〜。んで、ここは、寿命が不要な方、必要な方が来る、言わば寿命の譲渡会みたいなところ!」
奏「そう…なんですか。じゃあ、私の寿命を引き取ってください。いらないので。」
黄泉「珍しいなぁ…君みたいな人!いや、みんなここに始めてきたとき大体の人は「夢だ!」って言ったり信じない人が多くてさ〜納得させるのも大変なんだよね、本当に。」
奏「みんな…そう言う割には、人が全然いないですね。」
黄泉「別にとって食ったりしたわけじゃないよ。知ってるかい?世界は一つじゃないんだ。何個もあるんだ。…まぁパラレルワールドってとこさ。みんなそれぞれ別の世界に行ったってこと。それにみんな死にたいわけじゃないから」
分かったようなわからないような。
まぁいい。他人がどうなっていようが別にいい。それよりも私は藁にもすがる思いで、懇願する。
奏「お願い…私、もう死にたい。これが夢だろうとなんだろうと。もう嫌なの……」
黄泉「OK!と言いたいところなんだけど、残念ながら条件があるんだよね。寿命を引き取るなんて、世の理に反することだからそう簡単には行かないんだ」
奏「条件って」
黄泉「それは、この世界の住民になること。それでも良いって言うなら____」
奏「なんだ…勿論良いに決まってるじゃない。」
思ったより、条件がマシだ。私はじれったくなり彼の言葉を遮る。
すると彼は、まるでクリスマスにプレゼントを貰った子供のように嬉しそうに笑う。少年のような見た目をしてる割には、芝居がかった話し方をしていたから、少し意外だ。
奏「何…?気持ち悪…」
黄泉「いやぁ君を見てると気持ちがいいよ。ウジウジしてないっていうか、死に対して負の感情がない?感じが特に!なんで君みたいな人が今まで自分を自分で殺さなかったのかなぁ?」
目の前で芝居のように考え込む。
黄泉「…」
奏「…」
シンとした静寂がうるさく感じる。何だこの空気。
黄泉「よし!決めた!君はこの店で働きなよ!いや、この店で働いて!絶対!」
奏「うるさっ!…え?」
働いて?なんで?嫌だ…
黄泉「お願い!君みたいな人がほしいなって思っちゃって!」
目の前で、手を合わせお願いしてくる。キモチワル…
黄泉「ここに来る人皆、うじうじしてるからさ!君みたいな人が背中を押してくれると嬉しいんだ!…ここで断ったら、寿命を引き取らないって言うこともできるからね、僕」
…最後になんてこと言ってくるんだこいつ…!私は、ここで唐変木とよくわからない世界で働くか、クソ親父のもとに帰るか、天秤にかける。…そうなったら、ここで働く一択だよな。秒で結論が出る。
奏「…分かった。ここで働く。だから、寿命を引き取って」
黄泉「やった!今日からよろしく!」
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そんな事もあったなと、思い出す。ぶっちゃけてしまうと、もう現世にいた記憶はもうない。まぁ別に欲しくもないけど、あんな記憶。そろそろ、思い出に浸るのは終わりにしよう。
そう思い、パタリと日記を閉じた。