―ぱちり
すっきりと目を覚ましたはいいけど、部屋の中はまだ、真っ暗。
それでも、カーテンの隙間からほんのりと薄明かりが漏れていて、そろそろお日様が上る時間なんだってことは分かったので。
私はお布団からそっと抜け出して、極力音をたてないように気を付けながら、一階へ。
古い階段なので、ゆっくり下りないといつ陥没してもおかしくないからね。
そんなことを考えながら、私は洗面台の前で洗顔と歯磨き。
それが済むと、もう一度自分の部屋に戻って、制服に着替える。
お水と泥で制服が汚れないように、きちんとエプロンと三角巾を付けて……。
「おはよー」
私はドアを開けて、お父さんとお爺ちゃんにご挨拶。
私の家は、私と、お父さんとお爺ちゃんの3人暮らしで、商店街の一角で花屋を営んでいます。
お母さんはというと、私が5歳の時に亡くなったの。
でも、寂しくないよ。
友達もいるし、商店街の人たちも大好きだからね。
「おはよう、桃茄」
「おう、早いな、桃茄」
「うん。マーガレットが50で、ピンクローズが……いくつだっけ?」
「薔薇が175。で、そのうちの130本がブーケぞな」
「分かった。ありがと」
私はお爺ちゃんに、ちゃんとお礼を言って。
奥からほうきを持ってきて、お外へ出ます。
カラカラカラ。
ドアを開けると、ほんのり香る、春のにおい。
「んー……気持ちいー」
やっぱり早起きっていいよね。
何だか得した気分だよ。
ザッザッと、ほうきで掃いているうちに、真っ暗だった外がだんだん明るくなってきていて。
「あら?桃ちゃん!おはよう」
「あ、おはよ」
「あれ?桃花ちゃんじゃん」
「ん?おはよう。桃花って、誰?」
「あれ?桃花じゃなかったっけ?」
「違うよー!私の名前は桃茄!かじゃない。なだよ。も・も・な」
「あははっ。ごめんごめん」
「おー!桃ちゃん!今日は晴れるってよ!」
「うん」
次から次へと、いろんな人が話しかけてくる。
でも私は、この時間が大好きだし、とっても嬉しいんだけどね。
ザッザッ。
私はほうきを動かし続ける。
「あれっ?桃茄。早いな。何してんの?」
この、金髪の男の子が有栖川 翔。
私、柊 桃茄の幼馴染です。
「お店の仕込だよ。翔はお手伝いしないの?」
「するわけねーだろ!面倒くさい」
「そっか。でも、そっちはパン屋なんだから、うちよりも大変なんじゃないの?」
「別に。ってか、知らねーよ。んなもん」
それだけいうと、翔は顔を引っ込めてしまいました。
朝は早起きの翔だけれども、いつも翔は遅刻しています。
理由は分かりません。
だけどたぶん、二度寝だと思うんだ。