仕返し

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1:しおん:2015/08/13(木) 18:54 ID:ZRo

「唯と菜緒」

「ちょっと!あんた何でこんな点数なのよ!?」
夕日の色に染まっている家に、ヒステリックな女性の声が響いた。
少しあいているカーテンから、その姿が見えているというのに、名門高校の制服を着た女の子と、白いエプロンをつけた30代くらいの母親であろう人が構わずに自分の娘を怒鳴りつけている。
テーブルの上に置かれた解答用紙。
そこには、92といういい点数が赤いペンで書かれていた。
「習ったところしか出てないテストでしょ?しかも、小テストなのに何で100点が取れないの?」
その母親の声に、ストレートロングの髪型をしたかわいい女の子は、少しカクンと下を向いて
「ごめん……」
と小さな声で言った。
その時、玄関のドアが開き、明るい女の子の声が聞こえてきた。
「ただいまー!」
その声を聞いたとたんに、母親の表情はほころぶ。
「あら、お帰り。菜緒」
「うん。お姉ちゃんもただいま」
いきなり声をかけられた菜緒の姉、唯は、少しこわばった表情で
「お帰り」
と返した。
そんな姉を見て、菜緒はおや?と思ったが、何だかそれには触れない方がいい気がして黙って自分の部屋に上がった。
菜緒が行ってしまうと、母親は解答用紙を唯に突き返し、早く勉強にするようにと言った。
自室に戻ると、唯は黙々と勉強をし始めた。
いつもそうだ。
名門校に通う、2つ違いの姉妹、荒木唯と菜緒は仲が良かった。
しかし、菜緒は毎回テストでは学年トップだし、クラス委員も務めている。
唯も十分優秀だが、やはり僅差でも優秀な方がいいのだ。
だから、母親は唯よりも菜緒のことをかわいがる。
「はぁ……菜緒と入れ替われたらなぁ……」
ため息をついたところで、電話の内線が鳴った。
多分夕食だろう。
唯は椅子から立ち上がり、菜緒の部屋のドアをノックする。
「菜緒。夕食だよ」
「聞こえてるよ。今行く」
これが唯の役目。
電話があるのは、リビングと唯の部屋だけ。
父親は、出張が多くてめったに帰ってこない。
だから、食事の時間は、唯と菜緒と、母親の3人でいる。
菜緒と母親は仲がいいけれど、唯にとっては苦痛の時間でしかない。
触感も味もわからない。
早く部屋に戻りたい。
そんな思いで食べていると、菜緒の髪にスズランテープが付いていることに唯は気付いた。
唯は箸をおいて、ポニーテールに結んでいる菜緒の髪の毛に触る。
「お姉ちゃん?」
「ゴミついてる。じっとしてて」
ゴミをとると、唯はそれをゴミ箱に捨て、再びご飯をほおばった。
「ありがと。お姉ちゃん」
「ん……」
夕食を食べ終え、唯はお風呂に入った後、椅子に座ってノートと参考書を広げていた。
母親に従いたくはないけれど、叩かれるのは嫌だし。
でも、嫌いな人に従っている自分にも何だか腹が立つ。
でも、それでしか自分を守れないんだ。

2:しおん:2015/08/13(木) 20:23 ID:ZRo

「姉の嫉妬」唯side

7月になり、熱さもだんだん厳しくなってきた。
あれから私は、何も変わっていない。
変わったことと言えば、冬服から夏服に変えたことくらい。
「唯、髪切りなさい。伸ばしすぎよ」
お母さんは、朝ごはんの食パンを食べている私の髪を見て、そんなことを言ってきた。
朝からしかめっ面でそんなことを言うのはやめてほしい。
「私、ロングヘアが好きなの……」
「あんたっ……!」
朝からヒステリックに声を荒げるお母さんを、隣に座っている菜緒はなだめてくれて。
その隙に私は食器を下げて学校に向かった。
「菜緒」
リビングから出る際に、菜緒に声をかけて、私達は二人で登校をする。
私達は、凄く背格好が似ている。
顔や声も同じだし、菜緒が髪を下ろせば本当に双子みたい。
でも、身長は、私の方が5センチほど高いから、やっぱりただの姉妹なのだろう。
「菜緒は、可愛くていいよねー。お姉ちゃんうらやましい」
何となく菜緒の顔を眺めていた私の口から出た言葉は、それだった。
菜緒は私を見上げて首をかしげる。
「そうかな?というか、私とお姉ちゃんってホントにそっくりだから。そんな変わらないんじゃない?」
「確かにねー」
違うんだよ。菜緒。
私は外見のことを言っているんじゃない。
もちろん見た目もだけど、菜緒の内面もみてそれを言ってるんだよ。
校門のところですぐに菜緒と別れて、私はいつも通りに授業を受ける。
私は、この学校が好きだ。
トイレは一人で行けるし、興味もない恋愛話とか、アイドルとかファッションの話に付き合わされることもないし……。
とにかくみんなサバサバしていて居心地がいい。

3:しおん:2015/08/13(木) 21:44 ID:ZRo

その日の6時間目は体育だった。
学食でご飯食べた後に、この炎天下の中でマラソンだなんてありえない。
重いため息をつきながら、私はグランドの隅の方にある木陰で涼んでいた。
そういえば、私はだいぶ焼けてきた気がする。
「早く唯!日焼け止めっ!」
友人の早苗が几帳面なおかげて助かってるけど……。
「あ、そういえばさ、3組の岡島って、唯の事好きらしいよ」
日焼け止めを塗っている私たちにマイマイこと舞子がそんな話題を持ち込んできた。
恋愛話には興味がないけれど、自分の事となったら話は別だ。
でも、私には一つ思い当たる節がある。
「それってさー……もしかして、私と菜緒を勘違いしてない?いくらそっくりだからって……」
私の話を途中で遮り、マイマイは首を横に振った。
「んーん。確かに唯って言ったらしいよ」
「本当に?高等部2年7組って言った?」
「うん。流石に2年7組までは言ってなかったけど、確かに唯だよ」
言葉を失う私に、早苗は興奮気味に話しかける。
「で、どーすんの?唯。告られたら付き合うの?」
早苗の発言に、マイマイは批判の声を上げた。
「やめときなよ。唯、アイツの性格分かってるでしょ?」
「うん……まぁ」

4:しおん:2015/08/14(金) 15:13 ID:ZRo

私は岡島の性格を知っている。
女たらしで有名なやつで、浮気した回数は5回以上。
でも、顔がいいもんだから、騙される女子は多い。
「たらし……だったよね?」
「そーそー!でも、もし付き合うなら応援はするけど、お勧めはしないよ?」
「いや、そもそも付き合わないから」
なんて言って、盛り上がっているうちに授業開始の鐘が鳴った。
準備体操をしてから校庭を女子は4週男子は5週走る。
くたくたになって走った後は、みんなで教室に戻って休憩。
それで今日の授業は終わる。
「はい。じゃあ気を付けて帰るように!」

5:しおん:2015/10/10(土) 21:46 ID:ZRo

一人で通学路を歩いていると、沢山の男に囲まれている一人の小柄な少女の姿が目に入った。
……菜緒!?
そう、その少女は、菜緒だった。
私と同じ顔に、ポニーテールの髪型をしているものだから間違いない。
「菜緒?」
明らかにナンパだけれど、私は違った時のために優しく菜緒に声をかける。
すると、菜緒は目を見開いて私の方に手を伸ばした。
「お姉ちゃん助けて!」


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