第一章「謎の男の子」
ねぇ、初めて出会った時のキミは、
凄く切なくて、さびしそうで―。
放課後の図書室で、私は一人本を読んでいた。
小説の内容は、お互いに愛し合っていたのに、彼氏が病魔に襲われてこの世を去るっていうお話。
私は、ハッピーエンドが嫌いだ。
だって、幸せな最期なんて、ほんの一握りにしか過ぎないのだから。
まだ図書室が閉まる時間にはもう少しあったけれど、私は本を本棚に戻して帰ることにした。
桜井純。それが、私の名前。
本当は、「椎名純」になる予定だったんだ。
私の父親は、妊娠したママを捨てて逃げた。
そしてママは私を産んで間もないころに交通事故でこの世を去ってしまった。
今は母方のおばあちゃんに育ててもらっているけれど家には帰りたくない。
だから私は家庭教師の美月先生が家に来てくれる時間まで町はずれのボロボロの空き家で時間をつぶす。
床に横になり、そっと目を瞑ると、眠気が襲ってきて、私はそのまま寝てしまった。
―それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
そっと目を開けると、変わらない夕日の光が窓から差し込んでいた。
身体を起こして帰ろうとしたときだった。
「ねぇ」
突然後ろから声をかけられ、凍りつく私。
滅多なことでは動じない性格だと思っていたけれど、この時ばかりはつい声をあげそうになった。
振り返ると、そこには50歳くらいのおじさんが立っていた。
「ねぇお譲ちゃん、おじさんとスケベしようやぁ…」
そう言って、おじさんは私に近づいてくる。
情けないことに、私は恐怖のあまり身動きがとれなくなってしまった。
「こ、来ないでください…っ」
震えた声で、そう言うのが精一杯だった。
「おじさんな、お譲ちゃんみたいな強気な子がタイプなんや…ニヒヒ」
気持ち悪い笑みを浮かべながら、おじさんはどんどん近づいてくる。
ーもう、駄目…。
そう思ったその時ー