視えざる目を持つ者

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1:湊◆Qg:2016/01/28(木) 23:01 ID:Zqk

真っ暗だった部屋のカーテンがいきなり開けられ朝日の光が差し込む。
ベットに横になっていた男が目を開ける。
カーテンを開けた白衣の女性が横になっている男に話しかけた。
「おはよう、気分はどう?」
問いかけられた疑問に対しての返答を考えているのか、男は何度か瞬きを繰り返すと小さな声で
「...問題なし。」
と答えた。
その答えに満足した様子の白衣の女性はハイヒールの音を響かせながら部屋を出ていった。
男性はゆっくりと起きあがると無機質な部屋に備え付けで付いている洗面所に向かう。

<未来の科学医療研究所>、それは白衣の女性が勤めている研究所の名前だ。
彼女の名前は上原那智[うえはら なち]。
大学をトップで卒業後、この研究所に就職。
何かと面倒事に巻き込まれる損な女性だ。
那智は昨日も残業し、今日も寝不足で研究所の仕事をしている。
はぁ、と小さなため息をつくと今朝那智が会話した男の部屋の異常を示す赤いランプが点滅した。
那智は急いで彼の部屋へ向かう。

那智が部屋に着くと、彼は取り乱していた。
ぼさぼさで前髪が伸びて目が見えない髪の毛を掻き毟り、息を荒げ目を押さえて叫んでいる。
那智は状況確認を急いだ。

2:湊◆Qg:2016/03/01(火) 23:38 ID:Zqk

先ほどまで綺麗だったカーテンも破られボロボロになっている。
彼の目は赤く充血し、目の焦点があっていない。
すぐに数人の白衣を着た男性が彼を押さえ精神安定剤を投与する。
彼は数秒暴れた後事切れたかのように静かになった。
彼をベッドへ移すと同時に医療スタッフと記録委員が数名ずつ部屋に入ってくる。
彼の瞼を無理やり開け、瞳孔の大きさを確認した後血圧、振拍数、血液中の酸素濃度を記録し彼を取り押さえた男性たちと共に部屋を去っていった。
部屋には那智と規則正しい寝息を立てる彼だけが残った。
那智は彼の体に布団を優しくかけた後、部屋から出ていった。

「バケモノ!」
「キモチワルイ!」
「シネ!」
幼き頃の記憶が蘇る。
違う、俺は化け物なんかじゃない。
俺だって分からない。
何で気持ち悪いの?何か皆とは違うから?皆には見えないモノが視えるから?
分からない。
俺は、おれは...。

3:湊◆Qg:2016/03/01(火) 23:55 ID:Zqk

俺は気がつくとまたいつものベッドに横たわっていた。
目の奥が焼けるように熱く、視界はぼやけてはっきりと見えない。
手が動かせない、末端神経が痺れているのだろうか。
カーテンはいつの間にか新しいものに取り替えられていた。
この部屋は白い。
部屋のなにからなにまで白で統一されていて色があるのは俺と窓の外の景色しかない。
そのうち自分も白くなってしまいそうなほどこの部屋は無機質だ。
俺は感覚が戻りつつある足や手を無理に動かし起きあがる。
もう何年がたっただろうか。
いや実際には数カ月しか経っていないのかもしれない。
無理に眠りにつかされては起き、何の味か分からない固形の食物を食べてはまた寝るの繰り返し。
曜日感覚どころか、今が何年何月何日何曜日なのか分からなくなってしまった。
この生活はつまらなく、とても退屈だ。
娯楽が無ければ話し相手もいない。
会話は唯一、朝の健康診断で日替わりで変わる白衣の人と事務的なものだけ。
こんなに他人と接する機会が減ると徐々に自分の感情までもが薄れていく気がする。

4:湊◆Qg:2016/03/02(水) 00:08 ID:Zqk

俺は立ち上がり、窓に向かって歩き出す。
秋なのだろうか、見える木々には葉がちらほらとしかついていない。
何気ない顔で窓の下を覗く。
案外俺が居る部屋は地上から15mほど離れたところらしい。
落ちてしまえば楽になるのでは?
ふとそんな思いに駆られ窓を開け、身を乗り出す。
外は思ったほど寒くなかった。
下はコンクリートで舗装された道だ、頭から落ちればひとたまりもないだろう。
俺は迷うことなく、外に身を投げる。
落ちていく体、自分がいた窓が小さくなっていく。
頭の中はとても冷静で、心は落ち着いていた。
そしてどこか安心していた。
いよいよ地面が近くなり、俺は目を瞑る。
もう地面とぶつかる、といったところで体全体が水に浮いているような浮遊感が全身で感じ取れた。
足が丁寧に地面につけられた時に目を開けた。
目を開け最初に飛び込んできた映像に俺は驚いた。

5:湊◆Qg:2016/03/04(金) 00:32 ID:Zqk

「こ、子供...?」
目の前には俺の身長より何倍も小さい男の子が立っていた。
その子は俺の手を握った後、すぐに走り出した。
急に引っ張られたことにより体勢を崩しそうになったがなんとか持ち堪え、訳も分からぬまま走る。
俺はどこへ?あの部屋から出られたのか?人は追ってこないのか?
様々な疑問を頭に抱えながら今はただひたすら走ることにした。

研究所は混乱していた。
荒々しい足音、鳴り響く誰かの怒号、皆焦っていた。
「おい!サンプルはどこに行った!?」
「じ、自室から脱走したらしい!」
「くそっ!油断していた!急げ!!」
「だからこういう時に備えてGPSを埋め込めと言ったのに!」
研究所内の全研究員は今までしていた業務を放置し、彼の捜索にあたった。
ただ、手がかりは"自室の窓から脱走"しかない。
彼が警察や病院、他の研究所の手に渡ってしまったらもう二度とこの研究所に戻らないだろう。
なにせ彼はこの世界でたった一人しかいない****なのだから。


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