チョコレートの誘惑と呪い

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1:もふもふ中二病:2016/03/11(金) 19:54 ID:a.U

感想など貰えると嬉しいです。

2:もふもふ中二病:2016/03/11(金) 20:09 ID:a.U

チョコレートは悪魔の食べ物である。人を骨抜きにしてしまう程甘い。

バレンタインデー…それは浮かれた甘い恋愛ソングが街中に流れ、チョコレートの甘い香りが鼻腔をくすぐる。何となく甘い雰囲気で酔ってしまいそうだ。

それは僕、山田太郎の通う桜田門中学校も例外ではない。

贈られる側は、その甘いお菓子を受け取り、まさに骨抜きという言葉が相応しい状態となる。
贈る側は、普段の猿山の猿のような様子は一変し、随分としおらしくなる。

…実に不快である。

3:もふもふ中二病:2016/03/11(金) 20:17 ID:a.U

たかが甘い食べ物、あのようなただ砂糖で甘い味を付けただけの代物。
あれごときに一喜一憂するなど全く同じ人類として情けない。

僕は廊下のカップル共を睨みつける。
下駄箱にも、机の中にも、念のため体操着袋も調べたが、僕宛の甘い悪魔の食べ物は一つも入っていなかった
。別に、奴らが羨ましいわけではない。これはきっと、人類普遍の心理…異性に好かれたい。あわよくば、人前で大声では言えないような関係になりたい。あんなこと、こんなこと…

ようは、山田太郎(14)は思春期なのだ。

4:とびら◆xw:2016/03/13(日) 19:39 ID:zZA

面白いですね。
バレンタインの事をdisっておきながら、チョコレートを探してしまう山田くんにすこし萌えました。w

ゆっくりでもいいので、続きの更新頑張って下さい。応援してます。

5:もふもふ中二病:2016/03/16(水) 09:30 ID:a.U

>>4
ありがとうございます!
書き溜めていないので、更新遅めですが頑張ります。

6:ボタン hoge:2016/03/16(水) 09:36 ID:urs

面白いです!
思春期の男子かぁ...と思います(笑)←イミフ
頑張ってください!

7:もふもふ中二病:2016/03/16(水) 09:41 ID:a.U

>>6
ありがとうございます!
男の子の心理なんぞ解らないので想像ですが…w

8:もふもふ中二病:2016/03/16(水) 09:55 ID:a.U

放課後、僕は図書室に寄った。
なぜなら、僕は四六時中脳を甘い物でいっぱいにした、とろけた甘ったるい奴らとは違うのだ。
常に将来を見据え、勉学に励む…二宮金次郎の様な学生なのだ。

図書室のお菓子の本が陳列した棚に向かう。その棚だけは、妙に甘い香りがする…女子の匂いがする、そんな錯覚を覚えた。

「これは…中々美味しそうだ。」

『超初心者向け!美味しいバレンタインチョコの作り方』
その本は、やたらと「簡単」であることを主張していた。恐らく、猿山の猿でも理解できることを伝えたいのだろう。
ぱらり、ぱらりとページをめくる。
今にも甘い香りがしてきそうなお菓子たちの写真…

基本のクランチ、ガナッシュ、少し難しいガトーショコラに難関の中の難関であるフォンダンショコラ…

「クランチがおすすめだよ。クッキー砕いて入れるだけただからさ。」

不意に背後から奴の声が聞こえた。

9:もふもふ中二病:2016/03/17(木) 08:14 ID:a.U

「何だよ富岡」

奴…富岡は、僕のそんなふてぶてしい態度すらも滑稽だと言う様に、くすくすと笑った。

「酷いなぁ…チョコが貰えなかったからってそんな苛々しちゃ駄目だよ。」

10:匿名:2016/03/27(日) 18:54 ID:LpM

「苛々?僕がチョコを貰えないごときで?…ふざけるな!僕は他の奴らとは違う。奴らは思春期の欲に負けて獣のごとく求めるものを欲するが、僕はその思春期の欲を理性で抑え、奴らよりも進歩した判別ある文明人であって…」
「よく回る舌だこと。」

ふうふうと息巻いて反論する僕に富岡は冷ややかな目を向け、鞄からすっと小さな包みを出した。

「無欲な山田君には迷惑かな?こんな物」

富岡はくすっと笑い、包みを鞄に仕舞おうとする。僕は消え入る様な声で言った。

「来るものは拒まない…」

11:もふもふ中二病:2016/03/27(日) 19:05 ID:LpM

あっコテハン忘れてた

12:もふもふ中二病:2016/03/27(日) 20:10 ID:LpM

林檎色の夕焼けが綺麗だ。
身を切る様な冷たい風すら愛おしい。
ああ…富岡から貰った包みに手を触れるたびに、僕は…

笑ってなどいない。異性にチョコを貰う時でさえ、僕はいつもの寡黙な態度を変えることなく、こう返した「甘い物は大好きだ」と。

13:もふもふ中二病:2016/03/27(日) 20:34 ID:LpM

「いつもに増して、良い湯だった…」
「太郎、今年のバレンタインはチョコ貰えたのかい?随分機嫌が良いがな」

皿を洗っている母が何気なくうかがう。

「僕は平常運転だ」

「太郎」のプレートが掛かった扉を開ける。
参考書が積まれた机の上には一つ、場違いなあの包み。

「チョコ…本命というやつだろうか」

否、そうに違いない。富岡は僕にばかりちょっかいをかける。僕に気があるのだろう。

どきどきと、リボンをほどき、包みを開こうとしたその時、キキィーッと頭にブレーキが掛かった。

「その包みを開けるな山田太郎!」

脳内に屈強な男のイメージが映し出される。これは僕の自尊心の苛責。
厳格で、我慢強い僕の心の具現化。
…危ないところであった。他の奴ら同然、骨抜きになるところであった。

「色々と、疲れてるんだ。多分…」

僕は沈み込む様にベッドに入った。
目をつむり、深い眠りの底へと…

14:もふもふ中二病:2016/03/28(月) 06:56 ID:LpM

「ねえ山田君…」

富岡の声だ。
ふらりふらりと暗闇の中、誘われるように声のする方へ向かう。

「何だこれ…」

そこには、悪魔の羽を生やした富岡の様な少女が、リボンで拘束されていた。

「私はチョコレートの悪魔…君が嫌悪して抑えようとする性欲の権化とも言えるわ」

にっこりと悪魔が笑った。

15:もふもふ中二病:2016/04/01(金) 23:11 ID:a.U

「はあ…」

性欲の権化が富岡似の悪魔とは、まるで僕が彼女を性欲の対象と見なしている様ではないか。断じてその様な事は無いだろう?ええ?山田太郎。

「さて、独白がやたらと長く、くどい山田君。君に頼みたいことがあるの」

皮肉っぽい口調も富岡似だ。

「私のこの、リボンを解いてくれない?」
「?別に良いけれど…」

16:もふもふ中二病:2016/05/01(日) 11:57 ID:HLo

(まるで血液だ…)

だらん、と垂れ下がった赤いリボンの端を引っ張る。

「あれ?」
「ふふふっ…そんな事で解けるわけ無いでしょう?お馬鹿さん!」

引っ張っても、引っ張っても、悪魔を拘束したリボンは緩む気配すら無い。
反響する悪魔の小馬鹿にした様な笑い声が僕を苛立たせる。

「分かってるくせに!頭のかたーい山田君!」

…山田太郎!解かなくても良いのだ…だってこれは…

「何の事だ?」
「この場に及んでかまととを装うつもり?いい加減止めたら。」
「何がだよ…」

山田太郎…落ち着け。挑発に乗るな。

「性欲の権化を解放するんでしょう?それが表す意味すらも分からないお馬鹿さんなのかしら。」
「…」

これは罠…

「それくらい僕には分かる!」

17:もふもふ中二病:2016/05/20(金) 17:01 ID:HLo

まるで自分の声では無い様な声が反響した。
…僕の声はこんなにも低いものだったのだろうか。

これは成長。
大人に近付いてしまう…厭らしい、不潔な情事を出来る様に、体が形成されていくんだ。

そして、馬鹿な能無し共が鼻の下を伸ばして食い付く脂肪の塊や、柔らかな草原に興奮さえ覚える様になるのだ…嫌だ嫌だそんなの。

「成長が怖いのかしら?」
「違う!違う…僕は嫌悪感を催してるのだ!不潔だ、性欲なんぞ無くなってしまえ!」

…まさにその通りだ山田太郎!その悪魔は縛られたまんまで良いのさ。暴れた性欲は人を駄目にすると、どの本にも書いてあるのだ!

18:もふもふ中二病:2016/05/20(金) 17:29 ID:HLo

「ふぅん…面倒臭い理屈をこねる山田君には、優しく説明してあげなきゃね」
「はあ?何言って…」

ふと、悪魔が微笑む…否、僕の目の前に居るのは羽の生えた悪魔では無く、富岡だった。

「ねえ、山田君…」

彼女を縛っていたリボンが少し緩んだ…彼女が腕を動かせるくらいに。

「山田君、そういう欲が湧いてしまうのは、君に言わせてみれば人類普遍の心理でしょ?なら、そうして抑えることも無いんじゃないかな」
「だから、湧いてしまうから僕は抑えてるのだ…丁度、生理現象を我慢するのと同じ様に」

これでどうだと、富岡をきっと睨んだ。
それでも富岡は怯むどころか、むしろ小馬鹿にする様に、くすくすと笑う。

「可愛い可愛い山田君…!生理現象だって、ずっと我慢していたら体に毒でしょう?ちゃーんと、どこかで出しとかないと!」
「出すって…」

するりと富岡は腕を伸ばし、僕の肩を抱いた。甘い甘い、蠱惑的なチョコレートの香り…誘惑し、人を骨抜きにしてしまう呪いの含まれた毒…

「富岡…僕は…」

リボンがずるずると床に垂れ下がっていく。
そのリボンは、触手の如く、屈強な男の方へと伸びて行く…

「山田君、これはね、ちっとも厭らしい事でも無いのよ。貴方の言う通り、人類普遍の心理…厭らしいと考える方が可笑しいわ」

富岡は耳元でそっと、くすぐるように囁く。
僕はただ、その毒の香りを吸い込まんと息を止めた。

「山田君、素直になりなよ…みんな素直になるのに貴方だけ意地を張ってるのって疲れない?流されておしまい!絶対楽になるわ…」

苦しくて、息を吸う。
彼女を縛るリボンはすっかり解けてしまった。

…山田、太郎…

「五月蝿いのよ。あんたの心の具現化って奴…」

…太郎!太郎!目を覚ますんだ…僕の声を

「五月蝿いよ…もう良いんだ」

その一言で、富岡のリボンは全て解け、屈強な男を縛り上げた。

19:もふもふ中二病:2016/05/20(金) 17:41 ID:HLo

ーこうして僕はもう、思春期の葛藤に頭を痛める事は無くなったのだ…

目覚めは素晴らしいものだった。
酷く開放的で、今まで僕を縛っていた憑き物を全て取り払ってしまったかの様。何で今まであんなにも悩んでいたのだろう!

机の上の、富岡からの包みを手に取り、べりべりと包装を剥がす。






そして、僕はそのチョコレートの形状とそこに描かれた文字を見て、すっかり骨抜きになってしまったのであった。

屈強な男の声が聞こえる事は無かった。

めでたしめでたし。


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