ムキムキで有名な武人のゴツゴツとした手のひらの中で、小さなベージュの玉が転がった。
「真珠拾った」
「マジかよ見して」
「ほれ」
「マジだ」
太郎はそれをよく考えることもなく本物だと思った、だって武人は嘘をつくことはほとんどないのだ、特に太郎には。
武人と太郎は物心つく前からの仲で、母親の腹の中で育っていたときも羊水や肉越しにだが出会っていた。
太郎は武人にどこで拾ったのかを聞こうとした、しかし武人に「まぁまぁ、待て」とわざわざ手を前に突き出しながら止めたため聞けなかった。
「トーヤの机の中から拾ったんだよ」
どうやら自分から言いたかったらしい、それはいいのだが、今の武人の話によるとそれは拾ったと言うより盗んだと言った方が正しいのではないか、と太郎は思った。
「馬鹿、早く返してこいよ」
「やだね、アイツまだ俺に150円返してねーもん」
「おいおい」
たったの150円で真珠を盗られてはトーヤが可哀想だ。トーヤは確かにちょっぴり足りないところがある、太郎も被害にあったことはある、それでも可哀想だと思えるくらいには太郎は心が広かったし、トーヤと仲がよかった。
「トーヤには言うなよ」
ニヤリ、とまるで時代劇にでてくる悪代官のような笑みを武人は太郎に向けた。誰もいない放課後の教室、射し込む夕日のオレンジがあちこちを染め上げていた。
太郎は不思議な感覚を楽しんでいた、親友と二人きり、遠くから聞こえてくる運動部のかけ声、キラキラと光ながらゆっくり宙を泳ぐ埃、なにもかもが特別だった。
「しょうがねぇなぁ」
結局太郎は友達ではなく親友をとった、当たり前の行動だろう。太郎も武人と似たり寄ったりな顔をして共犯になることを承諾した。