ちょうちょうむすび

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1:匿名:2017/06/25(日) 23:53

なんだか最近、すごくさびしい。
このさびしさはどこからくるものなのか、考えるのも面倒なので、
僕はひたすらこのさびしさを引きずり、
アルバイトをしつつネットカフェで睡眠をとると言う、
悪くない生活を続けていた。 

2:匿名:2017/06/26(月) 00:06

僕は住むところがなくても、
とにかくしっかり清潔に暮らすことに決めている。
僕はよく銭湯に行くのだ。そこのコインランドリーで
洗濯もする。
僕は露天風呂に浸かりながら、ぼおっと物思いにふけった。
僕はとっくのむかしに、
自分のことを性的不能者だと宣告している。
恋人を持つことはコストがかかる。
自慰をすれば、すっきりする。
それを死ぬまで続けるのだ。
ところが、性欲の満たされた先にあるのは、
田園ではなく、砂漠だった。
今こそ認めよう。
このさびしさは、恋人がいないせいだ。

3:匿名:2017/06/26(月) 00:11

しかし、やっぱり恋人はいらない。
人体というものはよくできているもので、
そんな時、恋人といる夢を見るようにできている。
僕は効率的に生きたいだけだ。
とあるネットカフェで、
僕は毛布を取り出し、
荷物を盗まれないように、しっかり固定して、
耳栓とアイマスクをして眠った。
最初の頃は、なかなか眠れなかったものだが、
もう慣れた。
僕はすぐに眠りに落ちた。

4:匿名:2017/06/26(月) 00:15

しかし僕の見たのは悪夢だった。
僕は何かから逃走していた。
何か恐ろしいものから。
しかし、それが恐ろしいものだということは
知っていても、
それが具体的に何なのかは、
時々振り向いて見ても、
よくわからなかいのだった。
人体はやっぱり不思議だ。
思い通りにはならない。
目が覚めて、汗がびちゃびちゃだという目に、
久しぶりにあった。

5:匿名:2017/06/26(月) 00:20

夢の中では誰でも精神病患者だ。
夢を現実でやると、本当の精神病患者だ。
僕はそれに近づきつつあるのかもしれない。
僕は起きている間にも、
謎の強い不安感に襲われるようになった。
まるであの夢のように、どこかへ逃げて言ってしまいたい。
しかし、どこへ?
僕はボードレールの散文詩を思い出していた。
「この世の外ならどこへでも!」
だって、自分からは、どうしたって逃げられないのだから。
やがて変なものが見え出した。

6:匿名:2017/06/26(月) 00:30

一つは、小指の赤い糸。
ファンタジックな世界に迷い込んだものだ!
この糸は西の方角に、どこまでもどこまでも伸びていっている。
きっと、この向こうに、僕の運命の恋人がいるのだ。
僕は夢の女なら、付き合ってみたい。
もう一つは、真っ黒いモンスター。猿とか、鳥とか、いろんな動物の
形をしているが、ダークマターでできているみたいに真っ黒だ(ダークマターを見たことはないけど)。
僕は、邪魔をしてくるダークモンスターを倒しながら、
赤い糸の先のヒロインの元へ向かうことに決めた。
ダークモンスターは、
「消えろ!」
という意思で消えるらしい。
しかし、意思を使うことは、思ったよりも疲れることだ。
今日のところは、眠った方がいいだろう。
そして明日の朝出発しよう。
ところで、今日僕はどんな夢を見るか、予想してみよう。
多分、おそらく、僕は今日夢は見ないだろう。
夢は現実の方に来ているから。
今夜はぐっすり眠れそうだ。虚無虚無っと。

7:匿名:2017/06/26(月) 00:30

予想は当たった。

8:匿名:2017/06/26(月) 00:39

僕は荷物をコインロッカーに預けて、最小限の荷物で
歩き始めた。
最初、歩いていると、景色は見慣れたX町そのもので会ったが、
Y町まで来てしまうと、もはやそこは僕の知ってるY町などでは決してなく、
いつも夕暮れでトマトみたいに真っ赤な町に変わっていた。
やたらダークモンスターも多い。僕の思考も、
「消えろ!消えろ!消えろ!」
と常に意思しないといけないので、正月と盆が一緒に来たみたいに忙しい。
歩けば歩くほど僕は夢の現実に引きおこまれていくかのようだ。
赤い糸はまだまだ先へと伸びている。
Z町に来ると、そこはオズの国のごと緑色だった(オズの国に行ったことはないけど)。
喉が渇いて、ふと、水を取り出すと、その中身はグリーンスムージーに変わっていた。
不味くはないが、うまくもない。
さっき、Y町で飲もうとすると、トマトジュースだったのかもしれない。
次の町は、もううじゃうじゃと、気持ち悪いくらいモンスターが湧いていて真っ黒なので、
とても僕の意思では突破できそうにないと思われるほどだった。
しかし、赤い糸はその向こうまで伸びている。

9:匿名:2017/06/26(月) 15:20

ダークモンスターはあまりにも多いので、
どんなに消えろと念じても、ちっとも
減ったようには見えない。
そこで、僕は諦めた。
ふと赤い糸をひっぱってみると、意外と
軽い。
スルスルとひっぱっていくと、
十分くらい経って、
ダークモンスターの群れの中から、
赤い糸は全て回収された。
花嫁など、ついてこなかった。
途中で切れたのか、
最初からこうだったのか……。

10:匿名:2017/06/26(月) 15:25

僕は気を落として帰路についた。
僕は途中で、自分にそっくりなダークモンスターを
発見した。
そいつが近づいて来る。
「消えろ」
と意思しても、なぜか消えない。
「ははは、消せないでしょう。だって僕はあなたですからね」
 僕は恐ろしくなって、
走って逃げ始めた。
 しかし、僕そっくりのそいつは、僕と同じ速さで
走ることができるので、絶対に逃げることはできないようだった。
「ははは、逃げられないでしょう。僕はあなたの影みたいなものですからね」
 僕は諦めて立ち止まった。
「影なら、無害にちがいない」
「さあ、どうだか、ははは!」

11:匿名:2017/06/26(月) 15:35

 影は言った。
「あなた、私なら、赤い糸を繋げてくることはできますよ。
ダークモンスターは、私に攻撃することはありませんから、
私なら、さっきの町の、向こう側まで、行って来ることができるんですからねえ」
 僕が乱雑にあつかったので、絡まってしまっている赤い糸をほどきながら、
影はついて来る。
「わかった。明日までにそうしてくれ。僕は今日は戻って寝るから」
「了解です」
 影は颯爽と去っていった。
 その晩僕は夢を見た。どうやら影視点の夢で、
切れた赤い糸を、ちょうちょうむすびで結んだ夢。
 ところがそのとき、巨大な化け物が一瞬だけ見えて、僕の影を撲殺したので目がさめた。

12:匿名:2017/06/26(月) 15:40

 目が覚めて、赤い糸を引っ張っても、手応えがある。
 僕は昨日の夢が気がかりだったが、出発することに決めた。
 昨日はZ町の向こうの町には、ダークモンスターが大量にいて、
その向こうまで行けなかったが、
僕の影がうまく回り道をしてくれてたみたいで、赤い糸の導きは回り道をし、
僕はさらにその向こうの町まで難なく行くことができた。

13:匿名:2017/06/26(月) 15:48

 日本とは思えないような草原だ。
 丘があり、僕の赤い糸は、その丘の大きな樹の方へ伸びている。
 僕は、その樹に、僕の影の死骸を発見した。
 ここは昨日の夢の場所だ。
 警戒をした。昨日の夢に出て来た巨大な怪物が、
近くに潜んでいる可能性があったからだ。
 と言っても、広々としたこの草原に、ひそめるような場所は見当たらない。
潜んでいるとすれば、あの樹の後ろである。
 しかし僕は、樹の後ろにも怪物などいないことを確認して、
ホッとした。
 そして、足元の、僕の影の死骸。  
 人間は、影を失っても、大丈夫なのだろうか?
 変な、精神病になりやしないだろうか?
 そんなことを考えていると、突然僕は
怪物に、殴られた。
 怪物とは、この樹そのものなのだった。
 樹は、生き物のように動くことができる。太い幹のハンマーで、
僕を殴ったのだ。
 僕は吹っ飛ばされた。気絶しそうなのを、持ちこたえた。
 樹は、根っこを地面から引っこ抜いて、その足で、
こちらにドシンドシンと向かって来る。
 僕は必死で逃げ始めた。

14:匿名:2017/06/26(月) 16:07

 めちゃくちゃに逃げているうちに、
赤い糸が辺りに引っかかり、
それに樹の化け物が足を引っ掛けて倒れ、
それっきり動かなくなったので、僕は助かった。
 僕は先を急いだ。
 赤い糸のちょうちょうむすびを見つけた。
 ちょうちょうむすびは弱くて強い結び方だ。
 人間の強さも、そこにある。
 海辺に来た。
 海の真ん中を、長い狭い砂の道が水平線まで通っている。そのちょうど上に、
赤い糸が伸びている。
 

15:匿名:2017/06/26(月) 16:11

 海の道を歩けば歩くほど、その道は狭くなり、
やがて僕は綱渡りをしなければならなくなった。
 なんとか歩き続けていると、
ついに道は消滅して、そこから先は、
赤い糸が、向こうの方へ、塩辛い海に、ぷかぷか浮かんでいるだけだった。
 僕はそこから赤い糸を手繰りながら泳ぐことにした。

16:匿名:2017/06/26(月) 16:13

 サメやクラゲが、怖いと思っていたが、
それどころか、この海には、生物が、一切いないみたいだった。
 僕は泳ぎ続けた。
 ところが数十分も泳いだとき、僕の体力は限界に達して、
ついに海の底まで沈んでしまった。

17:匿名:2017/06/26(月) 16:22

 僕は目をさますと、
知らない部屋のベッドの上だった。
 ベッドといっても、綺麗なものではなく、
生臭いにおいだった。 
 見渡すと、どうも漁師の部屋らしい。
 僕は漁師に釣り上げられたのだろう。
 頭が痛い。
 僕の小指の、赤い糸は短く切れていた。
「お目覚めかな」
 年老いた漁師が、熱いコーヒーを入れて持ってきた。
「助けてくれて、どうもありがとうございます」
「元気がないようだが」
「僕の小指の、赤い糸が切れてしまったのです」
「ああ」と、漁師は言った。「それは、わしが切った。不便だったから」
「そ、そうですか」
と、僕は無理に笑った。
 僕はそれ以来、記憶を失ったふりをして、しばらく
漁師の家の家事をすることで、泊めてもらうことになった。
 本当は、記憶は、嫌という程あった。だけど、ないふりをして、
生きていきたかった。
 家事といっても、孤独な老いた漁師には、家のことなど、
どうでも良いことのようだったが、僕は極力彼をいたわって、
マッサージをよくしてやった。

18:匿名:2017/06/26(月) 16:32

 そんな生活が、「日常」と呼ばれるほどになってからある日、
老人が、赤い糸を持って、漁から帰ってきた。
 老人は言った。
「これ、お前さんのだろ?途中で、海の上で、偶然見つけたんだ。わしが、
いつか、切ってしまったんだったね」
 老人は、その赤い糸を、僕の小指から出ている、短い赤い糸に、
ちょうちょうむすびをした。
「すまんかったな。大事なものを、切ってしまって」
 僕は、赤い糸のことなど、忘れてしまうほど、ここでの生活に慣れてしまっていた。
近所に友人もいるし、この国のギャンブルも覚えた。
 だけど、この赤い糸を思い出したとき、僕は今にも旅立ちたいという欲求に
かられた。
 老人は咳き込んだ。
「だ、大丈夫ですか、おじいちゃん」
「体は大丈夫じゃないかもしれん。が、心は大丈夫だよ」
 老人は笑って言った。「お前さんが心配してくれるから、心配いらないよ」
「心配するから、心配いらない。心配いらないなら、心配だ。」
 僕たちは、こんな、禅問答みたいな会話を、いつもよくするのだった。
「そういうもんじゃ」
 老人は静かに目を瞑った。
 死んだのだ。いつでも、死にそうな老人だったので、覚悟はしていたが、
その時がついにきてみると、やはり悲しい。
 僕は老人を綺麗に墓に収めて、
それから旅立った。
 老人の船で、海に出ることに決めた。

19:匿名:2017/06/26(月) 16:36

 海の上で、赤い糸は、突然浮き上がって、
空に向かってまっすぐ伸びているところまできた。
ここから90度真上の地点に、空中に浮かぶ島があって、
どうやらそこにお姫様はいるのだ。
 よじ登ることを少し考えたが、それは難しい。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」
じゃないが、途中で切れたら、たまったものではない。
 僕はひとまず近くの島に上陸した。そこには、
未開人がいたが、老人の竿で釣った魚を献上すると、
仲間と認めてくれた。

20:匿名:2017/06/26(月) 16:46

 未開人は、ほとんど裸で、暮らしている。
僕は、ピグナと呼ばれるそこの若い少女の、
美しい肉体を見て、つい勃起してしまうのだった。
ピグナの方でも、僕のことを、悪く思ってないみたいだった。
 しかし、彼女は、赤い糸でつながれた、
運命の人ではない。 
 でも、ピグナでも、いいような気もしていた。
 僕は、巨大な大砲を作って、空高く飛び上がり、
パラシュートでゆっくりあの上空の島に上陸する作戦を立てた。
 少々空想的すぎる気がするが、無理な話でもないだろう。
 そのためには、この未開の人たちが協力してくれるほどの信頼が必要だ。
 僕は日々、彼らを助けて暮らしたので、慕われるようになった。
 ある晩、ピグナが夜這いしてきた。
 赤い糸のつながれていないピグナを受け入れるか、迷った。
「ねえ、いいでしょ?」
 ピグナは、赤い糸をプチンとかみ切って、それを自分の小指に
結んだ。そして、うっとりとした。
 彼女はいつも、僕の糸にただならぬフェチシズムを感じていたのだ。
「ね?」
 そういうのもありなのか、微妙な問題だったけど、
結局彼女の肉体の魅力に負けて、僕はその晩彼女と寝た。

21:匿名:2017/06/26(月) 16:52

 この島の人たちの風習では、一緒に寝ることは、そのまま夫婦になることを意味していた。
 僕はしょうがないからピグナと結婚した。
 ピグナは美しく、心も立派なもので、いつもいたわってくれた。
 だけど、この島からも見える、あの空の島に、いつも憧れていた。
 だから、僕はただの知的好奇心を装って、未開人たちに、
「みなさん、あそこへ行きたいと思いませんか?」
と提案した(僕はこの島の言葉を、すでにマスターしていた)。
 そして、ずっと考えていたことーー大砲の設計図、火薬の製造、パラシュート、
大砲の角度、力、計算式ーーを皆に説明して、
ついにこの計画を、この島の一大プロジェクトとすることに成功したのだった。

22:匿名:2017/06/26(月) 16:54

 三年後、僕の30歳の誕生日の日、この計画の準備は完了した。
 その晩誕生日のお祝い兼、空の島へ行くことの前夜祭が行われた。
 未開人の音楽、踊りは素晴らしい。

23:匿名:2017/06/26(月) 17:09

 皆が寝静まった頃、突然誰かの慌てる声が島中に
響き渡った。
「おい、大変だ!」
 僕は目をこすりながら目を覚ます。隣に、ピグナがいない。
 明るい満月。
 僕は起き上がって、外に出て、
皆がすでに集まっているところ、
あの、計画の大砲があるところに行ってみると、
あのピグナが、大砲に入っている。
「ピグナ、どうするつもりなんだ」
 僕は聞いた。ピグナは言った。
「ああ、ご主人様。私、あの島にいる、あなたの運命の人のことが、
絶対に許せませんの。妬ましいの。殺してくるわ、いえ、決闘してくるわ」
 僕は運命の人のことなど、一言も言わなかったけれど、ピグナには、
僕の心がわかっているみたいなのだった。
「やめるんだ!」とは、僕は言えなかった。
 なぜなら、ピグナも好きだし、別にいるはずの、運命の人にも会ってみたいのだから。
 むしろ、成り行きに、どちらを取るか、決めて欲しかった。 
 突然、ピグナは、空めがけてとんだ。
 その時、僕とピグナの赤い糸がプツンと切れた。 
 そのピグナを、空の島から発射された、レーザービームが
撃ち殺した。
 骨すら残らない。ピグナは灰となって、海に降り注いだのだろう。
 島中の人が僕を攻め立てた。
「騙したな!」
 騙すつもりなど、神に誓って少しもなかったが、島民は僕を死刑にすると言った。
 そして、その死刑の手段が、まさにこの大砲で、あの島のレーザー光線に打たれて死ぬことだ
と言い始めた。皮肉のつもりだろう。
 すぐに僕は大砲で発射された。
 ところが、今度はレーザービームには打たれずに(これじゃ、何が何だか)、僕は
難なくパラシュートを広げ、この島に降り立った。

24:匿名:2017/06/26(月) 17:19

 ここには、青い宝石でできた神殿があるだけだった。
 それも、古代の遺産のように荒れ果てていた。
 神殿の奥に、玉座があって、その上に、骸骨が座っていて、
その小指から、赤い糸が出ているのだった。
 僕は骸骨のために、ここまで旅をしてきたのかと思うと、
がっかりした。
 僕は、この骸骨から、生前の姿を想像した。
 着ている服からして、本当に高貴な、そして、貞淑なーー。
「おや?」
 僕は、そばの石でできたテーブルの上に置かれている、鏡に気がついた。
 僕は、それに自分が写ってないので、不思議だと思って、触って見ると、指が通り抜けた。
 この鏡の向こうは、森の中につながっているみたいだ。
 狭くて行けそうになかったが、無理やり鏡の縁を広げると、
それに合わせて向こうの世界への通路も大きくなったので、ついに向こう側に出ることができた。
 同時に、通路は消えてしまった。これじゃ、どうやって帰るのか、と呆れながら僕は森を見回した。
「あ!」
 僕は叫ばずにはいられなかった。
 指の赤い糸が、まるで手品のように、また別のどこかへ
つながっているのだったから。

25:匿名:2017/06/26(月) 17:21

  
 第一部  おしまい

26:匿名:2017/06/26(月) 17:25

 
 以下 第二部

 海辺の町に出た。
 僕はこの町がどこか懐かしいと思っていたら、
あの老人に助けてもらった町のようだった。
 未開の島で生活するうちに、漁が得意になっていたので、
魚を取ってきて、お金に変えた。
 それでカフェに入っていると、ラジオを聞いて驚いた。
「XXXX年、XX月XX日の放送ーー」
 やけに、昔の音楽ばかりが流れると思っていたら、
僕はタイムスリップをしていたのだ!
 僕は、あの老人(今は僕は同じくらいの年だろう)に会えると
思って、少し愉快になった。

27:匿名:2017/06/26(月) 17:52

 閑話休題。
 書くことにおける文体とは、人生における生き方に相当すると思うんだよなあ。
 真摯な生き方が、自ずと道端で倒れている人に手を差し伸べさせるように、
文体さえ決まっていれば、物語も勝手にできてしまうだろう。
 そこでは、職人が泥をこねるように、書くという肉体労働があるだけだ。
 だから文章修行とは要するに文体修行であって、文体は、生きる姿勢というものに大きく関わるるものなのだ。
 この生き方というものが、わけわからんくなって着たのは、おそらくシェイクスピアの時代から。
 そして現代はさらにわけわからん。まず、インターネットというものがよくわからん。
 「匿名」というあり方と、現実(というものがあればの話だが)の僕のあり方は絶対に
違う。しかし、インターネットがさらに大きくなれば、匿名のように僕は肉体を持つだろうか?
 哲学書なんかも、よくわからん。プラトンなんかは、哲学書というよりも
読み物だから、読みやすいけれど、ポスト構造主義の哲学なんか、玄関にすらいれてもらえない。
 プラトンだって、大事なことは本には書かずに、実践していただけだったに違いないから、
プラトンを読めばそれでいいというわけでもないだろう。
「これだけは間違いがない」
というものはないだろうか。
 愛?そうかもしれない。 
 しかし、僕はノリで生きていたくはない。否、人生しょせんノリなら、やはりノリだと納得したい。
 愛なら愛と、腹の底から納得したい。
 解剖学ーー論語ーー文化人類学ーー哲学?
 中途半端なダンス。
 僕はすでに、赤子のような自然さを失った現代人である。
 自然は、取り戻すのではない。もともと全ては自然なのだ。
 

 こんなのが、僕の狂った、ある種イタい、脳内である。
 これでも切実である。 
 小説を書いてはいけない気がする。

28:匿名:2017/06/26(月) 18:05

 コーヒを飲んでいると、外で大騒ぎが起こったようなので、
僕は残ったコーヒーを一気飲みして、
行ってみた。
 超巨大な、怪魚が打ち上げられていて、するどい歯をガチガチさせながら、
野次馬の人々を食べたそうにしていた。
 ある男が、槍を持って着て、投げて殺そうとしたが、
それを、おじいさんが
「海の神かもしれん」
と言ってやめさせた。 

29:匿名:2017/06/26(月) 18:10

 槍を持った男と、おじいさんの問答。
「海の神?そんなのいるわけないし、いたとしても、
あんな恐ろしい姿をしているとは思えない」
「海が、時に優しく、時に厳しいように、海の神もあんな風になって現れることも、
考えられるじゃろ」
「でも、あんなのがいたら、不便だぜ」
「殺すことはない。なんとか、話し合って、妥協をするのじゃ」
「魚が話せるかえ」
 槍を持った男は、怪魚めがけて、叫んだ。
「おーい!話せるかあ!」
 怪魚の目が、男の方に、赤く光った気がした。
 深く、低い、厳格な声が響き渡った。
「イケニエヲサシダセ」

30:匿名:2017/06/26(月) 18:18

 噂は新聞で広がった。
 そうして、一人の男が、ただその一人だけが、自らイケニエになる
と言った。
 僕はその人を見て、一目で、あの、僕の恩人だと気がついたので、
イケニエになるのはやめてくれと何度も頼んだ。しかし、彼の決意は固かった。
「結局、誰かが死ななくちゃならないからね」
「でも、一体、どうしてそこまで死にたがるんだ。
この町には死刑囚がいるじゃないか。死刑囚がしねばいいんだ。」
 彼は黙ってしまう。
 町の人々は、とにかく彼が進んで死ぬと言っているので、安心して、
あと三日後に彼を生贄に差し出そうと決めてしまった。
 僕は何度も何度も、彼と話した。
 僕にはそうすることしかできなかった。
 最後の日、彼は僕に心を開いてくれたみたいで、
ついに教えてくれた。


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