華の苦悩

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1:にゃん:2017/07/24(月) 13:30

初めまして(でもないか)にゃんです。ここでは「この間柄で」という題で参加させていただいたことがあります。あまり時間がなく、文章も拙いですが、何卒よろしくお願いします。
「華の苦悩」という題名ですが、華でもなんでもない戦国時代を背景としたおはなしです。

またこのお話はフィクションです。人物、出来事など当時とは一切関係ありませんので、ご了承ください。

2:にゃん:2017/07/24(月) 13:49

―戦国時代―
 朝日が廊下を照らし、城下町は活気にあふれてきた。廊下をさらさらと音もなく渡っていくのは、この扇城の当主、細川白州守信辰の側室、いさであった。髪は墨を流したように黒く、目は半ば切れ長の真横に切れている綺麗な目だった。今、夫の信辰に朝の挨拶をしにいくところだ。この女はこういう事はしっかり忘れぬ人で、毎日同じ時刻に挨拶をする。ある部屋の閉じた障子の前で屈んでやや低い声で
「いさにございます。旦那様、起きていらっしゃいますか」と言った。ここでもし彼が起きていなければ、彼女が起こすことになる。朝の当主を起こす係りでもある。早起きの信辰にとってそんなことはないのだが。
「失礼します」
なかなか返事がないので寝ているのだろうとおもったいさは遠慮なしに障子を開けた。開けた途端、この城に(少なからず今は)めったに飛び込まない大声がひびいた。
「入るな!」

3:にゃん:2017/07/24(月) 14:00

 反射的にすぐ退出して障子を閉めたが、もう一度開けなおすと素直に部屋を通してくれた。朝早くに大声を上げて疲れた顔の信辰と、いまだ驚きで何が何だかわからない伊佐が向き合った。伊佐は眉間に少し眉を寄せ、上目遣いに信辰を見ると、きちんと指をそろえどこかとげを含んだ口調で挨拶をした。
「おはようございます」
「うん」
彼もまたみけんに皺を寄せ、彼女の挨拶に応じた。しかしすぐに立ち上がり、くるりと伊佐に背を向けたあと厳しくいった。
「退出せよ」
はっと顔をあげた。
「何故にございますか」
伊佐のしつこさに苛々し、さらにきつい声で彼女を叱った。
「私は当主だ。国を治めねばならぬ、かような下らぬことに相手をしている暇などないのだ。退出しろ」

4:にゃん:2017/07/25(火) 12:38

いつもより一段と冷たい旦那の対応に疑問に思いつつ、礼儀正しくもう一度、「ご無礼いたしました。」と言ってそそくさと退出した。
 廊下を歩いて思った。今、戦が始まろうとしている。ここ、扇城も戦の最前線になるかもしれないと考えている信辰が気が立ってしまうのは仕方がないかもしれぬ、と。朝食を食べ終わり、自室に戻ろうとして再び廊下を歩いていた。小姓が、廊下をはしゃぐように駆けており、片手には一通の手紙を持っていた。小姓が伊佐の横を過ぎようとしたとき、彼女は静かに小姓の手首をとって行く手を遮った。
「お放しくださいませ、伊佐様」えらく興奮した調子で彼は手を振りほどこうとした。

5:にゃん:2017/07/25(火) 12:43

「まあ、待ちなさい。お前はえらく騒いでいるが、その手紙はそんな重大なことがあるのかね?」
伊佐は微笑を持って訊いた。
「私は読んでおりませぬが。使者の方はひどく興奮しておられました。急ぎ殿に届けよと」
「私が届けましょう」伊佐は手紙をやや強引に小姓の手から抜き取った。「その代り、おまえは使者の方に酒を出しておやりなさい。さあ、早く」
小姓はまた走って戻っていった。

6:にゃん:2017/07/26(水) 14:42

 人気のない端によると、伊佐は手紙をそっと開けて読んでみた。内容に驚きが出て、手が震えた。
「こ、これは容易ならぬ。はやく殿にお伝えせねば」すぐ読んでいないようにごまかすためたたみ直そうとしたが、手が震えてうまくできない。誰か来るやもしれぬ、、、そう思うと一層うまくたとめなかった。その時、後ろから左手首をつかまれた。全身がびくりとはねあがり、恐る恐る後ろを振り返った。信辰がいた。狼狽し、手紙が手から抜け落ちた。足に力が入らず、膝頭が震えた。

7:にゃん:2017/07/30(日) 13:58

「だ、旦那さ、、、。殿」
ぎこちない笑顔で声をかけた。信辰は、笑みかけない。鋭く、小さく声かけた。
「何をしておる」
頭の中が真っ白になった。何とか声を絞り出す。
「こ、これにございますか」
「そうだ」
「し、書状にございます。旦那様に宛てて、、、」
信辰は眉をしかめた
「何故お前が持っている。無礼ではないか」

8:にゃん 家臣(男)の名前募集中です!:2017/07/31(月) 13:40

「ご、ご無礼いたしました。小姓がえらくはしゃいでおりましたから、きっとお国に重大なことであろうと思いまして…」
「言い訳がましいことはよい。話がある。ついてまいれ」
「…はい」
 信辰が座敷に座ると、伊佐も向かい側に座った。信辰は黙々と手紙を読んでいる。読み終えると重く目を閉じ、ため息を漏らした。
「…どう思われますか」
「いいとうない。お前が言え」
「東の兵が、こちらに軍を差し向けた、ということにございましょう?」
うなずく信辰。伊佐は続けた。
「西に軍を差し向けるといううことは、此処、扇の国を手始めに抑えるかどうかが敵にとっては大事になってくる。もちろん我らは西に加担していますので敵にしてみれば落とさなければならない。ということは…」
「西に総大将のもとに拝謁するよりも先に、東が来てしまうということだ」
「如何なされるおつもりで?」
「西に手紙を書く。お前が今話した通りのことをな。退出しろ。もうお前に用はない」
そう言ってすっくと信辰は立ち上がり机に向かった。伊佐は一礼すると退出して自分の部屋に戻った。

9:にゃん:2017/08/07(月) 14:29

 部屋にいて座っても落ち着かず、また廊下を歩いた。遠くに、歩いているのを見た。向こうも。こちらに気付いたらしい。伊佐のもとに歩み寄って、笑顔を振りまいた。
「母上」


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