⚠attention⚠
・流血シーンあり
・アドバイスがあればください
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「___ねぇ、マジでやるの」
誰かがそう言った。
「当たり前でしょ。せっかくの夏休みなんだし、どうせ暇だし」
「暇なのは美空(みく)だけじゃん。うちらなんて部活あるし補習もあるんだよ?勝手に呼び出しといて。これから肝試ししようなんて。こっちの都合も考えてよ」
「うるさいなぁ。いいから黙ってついてきてよ」
柊美空はわざとらしくため息をつき、友人の塩村あきの腕を強く引っ張った。
天野実宇(あまの みう)はまたか、と黙ってその光景を見つめていた。
肝試しをするきっかけは、あきの一言からだった。
「はあ、夏休みだるいなぁ」
帰りのHRを終え、あきは独り言のようにそう言った。
それを耳にした美空はすぐに反応した。
「は?なんで?」
美空は聞き返すときは必ず「は?」と言う。その刺々しい聞き方に、クラスメートのほとんどはうんざりしている。
あきの隣に座っている実宇は、二人の会話に耳を澄ましていた。
もともと、実宇とあきは親友だった。その関係を壊したのが美空だ。
美空は気が強く、思ったことをすぐに言う性格だ。そのため、同級生からは避けられていた。
美空は平気なふりをしていたが、それでもやっぱり友達が欲しかったのだろう。
ある日、あきと実宇が話しているところ、美空は友達になってほしいと突然割り込んできたのだ。
ふたりは美空が避けられていることもその原因も知ってはいたが、しぶしぶ許した。
しかし、それが間違いだった。
美空の性格は、思っていたよりも問題があった。
自分勝手すぎるのだ。
休日に、美空はふたりを遊びに誘ってきた。それだけならまだいいが、こちらには都合があると言っても彼女はどうしても来いと言って聞かなかった。
もっと酷いのは、買い物に出かけたときだ。
彼女は自分が選んだものにも関わらず、ふたりにお金を払わせるのだ。
さすがにそれはあり得ない。
あきは「自分で払いなよ」とはっきり言った。
しかし彼女は動じずに、「だって財布忘れたもん」とあきから目を反らしながら言った。
絶対わざと忘れただろうと実宇は思ったが、口に出せる勇気がなかった。
言いたい放題、わがまま放題のまさにお嬢様のような性格の美空に、ふたりは我慢の限界に近付いていた。
もう、友達やめたい。
ふたりは毎日そう思っていた。いつか絶交したいとも思った。
しかし、正直に気持ちを伝えてしまうと大騒ぎされそうなので黙っていた。
「――え、なんでって…だって部活とかいろいろあんじゃん」
あきは疑問混じりにそう言った。
「うちはないもん。ガンバー」
美空の適当な返しに、あきは少しだけ顔をしかめた。
実宇はあ、と思い出す。
―そういえば、美空は文化部に入ってるんだった。
所属している部活は文化部の中でもとびきり夏休み中の登校日の少ない英語部だった。
登校日はたった1日だけだ。その少なさに嫉妬する生徒も多くいた。
そのたった1日を、美空は平気でサボった。
成績も良くないのに、補習には参加していない。
将来絶対ニートになりそうだと、密かに実宇は思っていた。
「何か楽しいことしたい…」
あきはポツリとそう言った。その一言に、美空は目を輝かせた。
「じゃあさ、夏休み中にどっか遊びに行こうよ!」
ふたりの目を交互に見ながら美空が提案した。
だけど、美空がいるんじゃ絶対楽しくない。
実宇の心は重たくなった。
それはあきも同じようで、口元がひきつっていた。
「……やだよ。どうせまた財布忘れるんでしょ?」
あきは正直にそう言った。
あきは実宇とは違って思ったことははっきり言える方だった。
ー美空ほどではないが。
「は?そんなわけないじゃん。なに、うちが忘れん坊とでも言いたいの?」
高い美空の声がどんどん低くなっていく。
「いや、それは……」
何も言えなくなってしまったあき。実宇にはかける言葉が見つからなかった。
「あきってばすーぐ決めつける。直しなよその性格」
いや、性格直すのはあんたの方だと、実宇は心の中でつっこんだ。
「はいはい、直すよ」
あきは息を吐き出した。
美空はしばらく神妙な顔つきをしていたが、「あっ!」声をあげた。
「金使わないで楽しめること思いついちゃった!」
彼女が立ち上がる。
大きな声を出したからか、周りのクラスメートが一瞬こっちを向いた気がした。
「何それ」
「えっ、あきわからない?あれだよあれ!夏にとっておきの!」
「プール?」
「違う違う。ほんと鈍感なんだからー」
「いいからさっさと教えてよ」
「……肝試しだよ肝試し」
「えっ……」
肝試しという単語が出た瞬間、思わず実宇は声を漏らしてしまった。
お化け屋敷やホラー映画が苦手な実宇には到底できない遊びだ。
そんなもの、実宇には楽しめる心理が理解できなかった。
「え、それはちょっと……」
実宇がぽつりと言ったときだった。
「いいね!やろうよ!」
あきが目を輝かせて言った。
あきなら断ると期待していたので、まさか賛成するとは思わなかった。
「そ、そんな…」
実宇は何とか断ろうとした。
美空はじっと実宇を凝視してくる。そしてニコッと笑って言った。
「もちろん、実宇もやるわよね?」
目が怖い。逆らったらどうなるか。
そう考えると恐ろしくなり、実宇はもうだめだ、と俯いた。
嫌だ。行きたくない。
あきは実宇が人一倍怖がりなのを知っているはず。
なのにどうして断ってくれなかったんだと実宇は少し腹を立てた。
「実宇はやりたくなかったらやらなくてもいいよ?」
諦めかけていたとき、あきが救いの一言を投げかけてきた。
しかし、美空は納得がいかない様子だ。
「いやいや、実宇もやらなきゃ。せっかくの夏休みなんだから、3人そろって遊ぶ決まりなんだからさ」
美空は実宇を睨んできたが、もう慣れた。
「でも、実宇怖がりだし…」
「はぁ?そんなの我慢すればいいじゃん。ただの怖がりでうちらの計画ぶち壊しにしないでほしいんですけど」