ご主人様が私のファンで??

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1:(´・д・`):2019/08/25(日) 23:30

小説はあまり描いたことがないのですが、暖かい目で読んでいただければと思います!
泣けて笑えてタメになる(?)、そんなドタバタラブコメ目指して頑張ります(^^)

>>2 character file

2:(´・д・`):2019/08/25(日) 23:31

☆〜character file〜☆

【私立美駒学園高等部】
花織 恋種 Hanaori Kotane ♀
茅原 葉詠(かやはら はよみ)というペンネームで小説を書いているが、クラスメイトには隠している。
ひょんなことから熾央のパシリにされてしまう。
おばあちゃんっ子で、趣味は釣りや囲碁など渋い一面も。

玉敷 熾央 Tamashiki Shiou ♂
恋種のクラスメイトで、大人気イケメン俳優。
女を取っかえ引っ変えしているが長続きせず、自分を満たしてくれる存在を探し求めている。
茅原葉詠の大ファンだが、恋種の正体を知らずにパシリにしている。
意外にも戦隊ヒーローが好きで、主役を目指している。

右城 雪希 Migishiro Setsuki ♂
恋種のクラスメイトで親友。
右城出版の編集長の娘で、クラスで唯一茅原葉詠の正体を知っている。
真面目な人がタイプで、文麿のことが気になる。

天崎 文麿 Tenzaki Fumimaro ♂
熾央の幼馴染で親友。
成績優秀で常に学年トップを維持している学級委員長。
生真面目で不器用だが人情深く、熾央が心から信頼している人物。
恋種とは釣り仲間で、会うと魚の話しかしない。


【その他】
大森さん ♀
茅原葉詠の担当編集者。
サバサバ系の美人だが男に興味は無く、可愛い女の子が大好き。
恋種をからかうのが趣味。

松島さん ♂
熾央のマネージャー。
温厚で穏やかだが一度怒ると誰も手をつけられなくなるほど怖い。

3:(´・д・`):2019/08/25(日) 23:36

──先生、今月の原稿確認できました! お疲れ様でした。

そう書かれたメールを受信し、私はほっと胸を撫で下ろした。

「あ〜締め切り間に合ったぁっ!」

花織 恋種(はなおり こたね)、今年で高校2年生。
中学の時に描いたネット小説から始まり、今では書籍化3本を出すまでの作家になった。
雑誌でも何ページか頂いて連載させてもらって、おばあちゃんの年金に頼らずとも生活できるレベルだ。

「徹夜明けはキツいけど……学校は休めないな」

私が無理してまで小説を描いているのは、おばあちゃんの為だ。
幼い頃に爆発事故で両親を失い、私はおばあちゃんに引き取られた。

二人の遺産とおばあちゃんの年金でなんとかやってきたけど、私が就職するまでに貯蓄はもたない。
だから少し無理してでも、今のうちにお金を稼ぐ必要があった。
おばあちゃんは快く承諾してくれたし、印税もそこそこ入っているので順調だ。

眠い目を擦ってトーストを喉に詰め込み、いつも通りローファーに足を通して戸を開ける。
雀も元気にさえずる程の気持ちい良い晴天だ。

「おばーちゃん、いってきまーす! 今日出版社で打ち合わせあるから遅くなる!」
「恋種、気をつけてね〜!」

優しいおばあちゃんの声に送り出されながら、緩やかな坂を早足で下って行った。

4:(´・д・`):2019/08/26(月) 00:02

いつも通り登校して教室に入ると、なんだか浮き足立った雰囲気だった。
見慣れない他クラスの女子までいる。
特に女子が色めき立っているということは、どうやら今日は"彼"の登校する日らしい。

「おはよう、恋種」
「あ、雪希ちゃんおはよ!」

挨拶してくれたのは、右城 雪希(みぎしろ せつき)ちゃん。
私のお世話になっている出版社、右城出版の編集長の娘さんだ。
雪希ちゃんは普段から出版社に出入りしているから私の正体がバレちゃったけど、今では一番の親友だ。

「もしかしてあの人が登校するの?」
「そうみたい」

あの人、というのは──。

「あ、来たよ玉敷君!」
「きゃーっ! 久しぶり〜玉敷君!」

無言で教室に入ってきたのは、玉敷 熾央(たましき しおう)君。
数々のドラマやCMに起用されている人気の俳優で、一週間に二、三日は登校する。
俺様でワガママ、しかも色んなアイドルや女優とのスキャンダルが絶えないのに衰えない人気。
玉敷君の机は端っこだというのに、そこだけ人だかりというか、群れができていた。

着崩した制服、ブランド物のピアスやネックレス。
いかにもチャラい遊び人、という感じだけど顔はピンセットで配置したかのように整っている。
それに演技も実力派だ、と監督やプロデューサーからも評判が良い。
まぁ、人気があるのも頷ける。

「すごいなぁ」
「そういきえば、前に雑誌のインタビューで何度か"うち"に来てたわよ。恋種も鉢合わせないように気をつけた方がいいかも」
「え、玉敷君って右城出版に顔出してるんだ……」

俳優だから当然雑誌の取材も受けるんだろう。
右城出版は数多くの女性誌や週刊誌を出しているし、玉敷君が出入りしていてもおかしくはない。

「今日も右城出版に打ち合わせ行くんだけど……まぁすぐ終わるし大丈夫でしょ」
「油断は禁物よ。恋種、バレるの嫌なんでしょう?」
「うん……」

小学校の頃、ノートに描いた小説をみんなに回し読みされて笑い者にされて以来、小説を描いていることを秘密裏にしてきた。
まだ大して知名度もない作家だから、気をつければバレたりしないと思うけど……。

5:(´・д・`):2019/08/26(月) 17:42


放課後、私は授業を終えるとすぐに出版社へと向かった。

「遅れてすみません!」
「あ、茅原先生こんにちは」

ラウンジでは既に担当編集者の大森さんがスタバのコーヒー片手にパソコンをチェックしながら待っていた。
スタイルの良い美人さんで、組まれた脚はスラッと長くて細い。

「早速だけど、次回作について打ち合わせしましょうか」
「あ、はい」
「ジャンルとかはもう決めているの?」
「次もSF系を……」

私が得意としているジャンルはSF、いわゆるサイエンス・フィクションだ。
前作は近未来が舞台で、AIとその開発者が共に事件を解決していくミステリー小説だ。

「んー、SF系とかミステリー系もいいけれど……もう少しジャンルの幅を広げてみましょう!」
「幅……ですか……」
「茅原先生に足りないのはそう……恋愛要素なのよ!」
「はぁ……」

大森さんはパソコンをくるりと私の方に向けると、画面を力強く指さした。

「先生が今まで出した作品全てには、恋愛要素が全くと言っていいほど無い! 恋愛小説を描けとまでは言わないけど、恋愛は作品のスパイスになるの。これを機に恋愛を意識して!」
「確かに、言われてみればありませんでしたね……」

今まで登場人物の人間関係については友情や敵対、尊敬などが主で、恋愛といった要素は全く描写してこなかった。
というのも自分の経験が乏しすぎて描くのが苦手なので描きたくないのが本音だが……。

「茅原先生、高校生でしょう? 彼氏とかいないの?」
「まさか! 原稿に追われてそれどころじゃないですよ!」
「それなら少女漫画とか読んでみたらいいわ。今度おすすめ貸してあげる!」

ポンポン、と大森さんの綺麗な手で頭を撫でられた。
大森さんは大人の女性だし、美人だし──和泉式部みたいに恋多き女性なのだろうか。

「考えてみますね」

気は乗らないにしても、作品を良くするために恋愛要素が必要なのは確かだ。
私は曖昧な返事をして、ジャンルやストーリーなどを決めて打ち合わせを終えた。

6:(´・д・`):2019/08/26(月) 20:11

「恋愛要素……か」

打ち合わせを終えて帰ろうとロビーを通ると、甲高い女性の声が聞こえた。
ひどい鼻声で、泣いているのが一瞬で分かる。

「私のどこがいけなかったの!? 教えて、直すから……っ」
「だからそういう問題じゃねぇ。初めから大して好きでもなかったってだけ。冷めた」

──はぇーっ、別れ話だ……。

自販機の影から様子を伺うと、私はその女性の彼氏の姿に息を飲んだ。
彼は縋り付く女性を軽く振り払うと、こちらへ向かってくる。

「そんな……ひどい……熾央!」
「気安く呼ぶな」

げ、玉敷熾央──!?

「やば、こっち来る……」
「なーにがやばいって? 花織恋種さん」
「ぎゃぁぁぁあ!」

時すでに遅し。
隠れる間もなく玉敷君に見つかり、あの時の雪希ちゃんの忠告を聞いていれば良かったと後悔した。

「盗み聞きとか趣味悪ぃな」
「勝手におっ始めたのはそっちでしょうが!」

どちらが場所を指定したのか定かではないが、別れ話ならもっとマシな場所を選んでくれ。
夜景の見えるレストランとまでは言わないにしても、喫茶店とか各々の家とか……。

「てかあんたクラスメイトの花織恋種だろ? なんで出版社に?」
「うぁー……あの、えっとそれはですね……」

ここは正直に小説を描いていることを言うしかないか……。
そう観念して言いかけた時、先に口を開いたのは玉敷君の方だった。

「あ、分かった! あんた俺のストーカーだろ?」
「………………は」

7:(´・д・`):2019/08/28(水) 00:43

ふざけてるとか、冗談とかじゃなくて、彼は私の目を真っ直ぐ覗き込んで言った。

「いるんだよなぁ、撮影現場とかに入り込む熱狂的ファン」
「はぁぁあ? 違うしっ、自惚れないでよ!」
「じゃあなんで出版社なんかにいんだよ」
「それは……っ」

自意識過剰さにムカつきながらも、言い訳できずに口ごもる。
小説家ですって言えば絶対ペンネーム聞かれるし、そしたら言いふらされたりする……。
私の小説は回し読みされて笑われて、小学校の二の舞に──。
それだけは絶対に嫌ァァァ!

「あー……そうです! 私、玉敷君の大ファンで……会えるかなぁって……」

うわぁ、そんなわけないじゃんん!
おばあちゃん家なんかブラウン管テレビしかないし、令和になっても地デジ未対応だし!
ニュースは全部新聞。
ドラマなんて全然見ない!

「ふぅーん。このことが学校のやつらにバレたらどーなるかなぁ」
「え゛っ」

玉敷君をストーカーしていると知られれば、玉敷君の親衛隊が黙っていない。
壮絶ないじめ、暴力、嫌がらせが待ち受けているに決まっている。
それだけならまだ私だけ被害を受けるのでマシだが、警察にでも突き出されたらおばあちゃんにまで迷惑がかかる。

かといって小説家だってバラしたくはないし。
どちらにせよイニチアシブは玉敷君に握られている……!

「お願いします、なんでもするんで黙ってて下さい、お願いします! パシって、どうぞ」
「へぇ……なんでも……? そんなこと軽々しく言っていいんだ?」
「あの、自殺しろとかは……ちょっと……」
「せっかくパシリができたのにそんな勿体ないことするかよ。んーそうだなぁ」

玉敷君は顎に手を当てて少し考えると、なにか思いついたのかパチンと指を鳴らした。

「じゃあ明後日、この本買って屋上に来いよ。明後日は学校来るから」
「本……?」

彼が指定したのは、パシリの常套句である焼きそばパンでもメロンパンでも無く、本。
玉敷君はスマホの画面を私に掲げて見せた。
そこには通販サイトのページが開かれており──。

「明日発売の『生殖不可能パンデミック』の最新刊! 俺明日ロケで買い行けねぇから、明後日学校ですぐ読みてぇの。買ってきて」
「え、えっ……えっ!? その本って、その本って……!」

生殖不可能パンデミック。
感染すると性別を失うというウィルスが蔓延し、生殖が不可能になって衰退していく人間を描いたSF小説。

「その作者って……」
「茅原葉詠、俺が今一番好きな小説家。ほんとすげぇおもしれーの。死ぬまでに一度は会ってみてぇな〜」
「はぁ……」

一度は会いたいもなにも、今アンタの目の前にいるんですけどおおぉ〜!?

8:(´・д・`):2019/08/28(水) 01:16

「じゃ、絶対買ってこいよ。約束破ったら言いふらすかんな」
「はぁ……」
「んじゃ、俺は雑誌のインタビューがあるんで」

立ち尽くす私を置いて、玉敷君はウィンクをひとつ飛ばして去っていった。

「いや……買うもなにも今家に現物あるけどさぁ……」





──時は流れて2日後。

四時限目のチャイムが鳴ると同時に、玉敷君は女子の群れから逃げ、なんとか屋上へとダッシュして行った。
私もタイミングを見計らって屋上へと向かう。
どういう経路かは知らないが、屋上の鍵を入手して開けていたようだ。

「おせーぞ! 早く出せ!」
「あ、はい……」

分厚い文庫本を手渡すと、玉敷君はひったくるようにして私から受け取り、早速ページをめくった。
その貪欲さといったら。

「……そんなに面白いの? それ……」

彼が"面白い"と言うのは分かりきったことだ。
けれどもっと賞賛の声が聞きたくて、わざと問う。

「マジで面白い。前回主人公が敵に局部切り落とされそうになっててさ……続きすっげー気になってたんだよ」
「えへへぇ〜 それはどうも〜……」
「あ゛? なんでお前が笑ってんだよ」
「いや、なんでも!」

あの人気俳優の玉敷熾央に褒められたとなれば嬉しくないはずもなく、つい頭をかいてニヤけてしまった。
美人モデルを簡単に捨てるような男が、食い入るように読む小説。
その作者は私。
そんな優越感が私を満たす。

普段はSNSとかアンケートとかの文字でしか感想を見てこなかったから、実際に目の前で言われるのは威力がある。
一人に言われただけで心臓が暴れるほどなんだから、サイン会でもしたら心臓破裂するんじゃないかね。

「その作家さんの作品、結構読んだことあるよ」

というか、書いてる。

「はぁ〜? どうせ俺と話を合わせたいが為のにわかだろ」
「ちょっ、そんなわけないでしょ! そこまで言うならクイズ出してみる? 絶対答えられるから!」

噛み付くように言うと、玉敷君は訝しげにこちらを見て言った。

「じゃあ、生殖不可能パンデミックで最初にウイルスを発見した教授の名前と所属大学は?」
「横島祥一郎、島川大学……!」
「AI捜査官で和人とエイモが最初に解決した事件の名前は?」
「S市和菓子屋連続放火事件!」
「じゃあ……AIエイモの名前の由来は?」
「Emotion&Innovation&Motivation&Operation(エモーション&イノベーション&モチベーション&オペレーション)の頭文字を取ってEIMO」
「なっ、こいつAI捜査官の設定資料集まで読破してやがる……!」

そもそも、その設定資料集を作ったのは私ですからね!

9:(´・д・`):2019/08/30(金) 14:30

「でも意外だなぁ……女の子と遊んでばっかの玉敷君がSF小説読むなんて」

小説より漫画を好みそうなタイプだとばかり思っていたから、そのギャップに驚いてしまう。

「文麿が読んでたんだよ」
「え、文麿って……学級委員長の天崎文麿君!?」

天崎文麿君は、私と玉敷君のクラスの学級委員長だ。
常に学年首席を維持、剣道も強い上に真面目で責任感があり、先生方からも一目を置かれる優等生だ。

「なんだ、何か言いたそうな顔だな」

玉敷君の視線は本にいっているはずなのに、そう言った。

「だって天崎君と玉敷君ってすごいタイプ真逆じゃん。片や遊び人、片や真面目な優等生……」
「家が隣なんだよ。趣味が釣りとか盆栽とかジジくせぇの」
「釣り!? 私も好きだよ。これこの間酒匂川で釣った鮎の魚拓!」

私はスマホを取り出し、写真を見せた。
かなり大きな鮎を釣って、その記念に撮ったものだ。

「はぁ? お前も釣りかよ……」
「だって楽しいんだもん。おすすめの釣り堀紹介しようか?」
「いや遠慮しとく……」


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