短編集(´・ω・`)

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1:invincible:2020/01/07(火) 18:16

短編集です。いろんなジャンルの小説を書くと思います。

2:invincible:2020/01/07(火) 20:20

第1話「ターバン」


私は中東の方に少しだけ興味がある。これほど遠い地域にもかかわらず、我が国と密接な関係を持っている国は、欧米を除けば中東ぐらいだからである。しかし、欧米と違って一般人にはわからないことも多い。そこがさらに魅力なのだ。
だから、私はネットや本で調べたのだが、それで得た情報は頭の中をフワフワと浮かぶばかりで、どうも腑に落ちなかった。何故だろうかと考えているうちに、一つの結論が出来上がった。中東の人間に直接話しを聞いていないから理解できないのだ。ネットや本で見たときは、どこか遠くの国の話程度にしか捉えられなかったが、中東の様子を生で体験している人に目の前で語ってもらえれば、現実感を感じることもできるだろう。
そこで、私は友人を頼って在日の中東人を教えてもらった。本来なら、現地に赴いたほうがいいのだろうが、残念ながら私にはそんな勇気も語学力もなかったのだ。
その中東人とは土曜日に某イスラム系料理店で会うことになった。時刻は9時ごろ。私は、友人から貰ったその中東人の写真をテーブルに置いて、眠った。


当日、私は鞄を持つと、大急ぎで店に向かった。友人曰く、中東人は約束を守らないので時間より早く来た方がいいということだった。だから、持ち物を確認する暇もなかったのだ。
友人に教えてもらった店に行くと、店内には多くの黒い頭と少しの白い頭を見ることができた。日本ではターバンを巻かないのかと思いながら入店した。同時に私は驚いた。黒い頭の者たちは全て黄色い肌ーー要するに日本人だったのだ。拍子抜けだった。だが、そのおかげでいくらか緊張も晴れた。少なくとも怖い店でないことはわかったのだ。ともかく、私は紹介してもらった中東人を探した。しかし、私はとんでもないことに気づいてしまった。友人からもらった写真を忘れて来たのだ。そうして、私がオドオドとしていると、

「ひょっとして〇〇さんですか?」

と色白で彫の深い顔をした男性が声をかけてきた。私は一礼して、

「そうです。もしかしてアラヴィーさんですか?」

彼は「そうです」と言って、にこやかに右手を差し出してきた。

3:invincible:2020/01/07(火) 21:15

彼と固く握手を交わすと、席について、まず簡単な自己紹介をした。彼はイラン人だった。だから色が白かったのだろう。そして、適当に料理を頼んだ。イスラム教は戒律が厳しいので、料理も結構制限されているのだろうと思っていたが、案外種類があった。
料理を頼んでしまうと、私は何を話していいかわからず黙ってしまった。日本人相手ならある程度話ができるだろうが、相手は初対面の外国人なのだ。下手に話して、機嫌を損ねたらまずい。
そんな私を見兼ねてか、アルヴィーさんは、

「イスラム系の店とは思えないでしょう?」

と笑顔で語りかけてきた。老人が孫に向けるような優しい笑顔であった。これだけで、私の心のハードルはかなり下がった。そして、彼が「中東人は契約を知らない」という自虐のジョークを披露してくれたことで、ハードルは完全になくなった。
最初は家族や日本に来た事情などから話をしてもらった。私としては、もっと突っ込んだ話もして欲しかったのだが、友人から「中東人は感情の起伏が激しいから変な話はよせ」と言われているので、控えていた。
しかし、彼と話しているうちに、この柔和な男が突然怒りだすなどとは思えなくなっていた。だから私は勇気を振り絞って言った。

「なんで中東は争いが激しいのですか?」

するとアラヴィーさんは表情を固めて、茶を一気に飲み干した。

4:invincible:2020/01/09(木) 23:22

「色々あるんです。宗派とか、他国介入とか。イランだと民族も違いますし、宗教も多様です」

アラヴィーさんは一語一語を噛みしめるように言った。これだけのことを落ち着いて言うことすら、彼には辛い事なのだろう。だが私としても折角あったのだから、少しくらいは踏み込んだ話がしたかった。ただ、今の彼の表情を見ると、とても口に出せない。すると、アラヴィーさんはまた気を利かせてくれたのか、

「大丈夫ですよ。石油の出る魔法のツボとしか思われないよりは、興味を持っていただく方が気持ち良いですから」

と言って彼はまた微笑んだ。ちょっと毒が入っていたがやはり彼の語り口は優しい。これで私も踏ん切りがついた。

「今のイランは自由じゃないんですよね。昔の皇帝がいた時の方が自由で良かったと思いますか?」

と少々新聞記者のようなことを聞いてしまった。こんな発言、場所が場所なら私の命はないだろう。すると彼は、

「皇帝の時代は日本より自由でした」

と言って、一息ついた。私は思わず「えっ?」と言ってしまった。しかもやや強めの語調で。今回ばかりは彼の発言に違和感しか感じなかった。しかし、それは私の早とちりに過ぎなかった。彼は間をおいて、

「強盗も放火も殺人も好き放題できましたから。苦しかったらしいですよ」

ひどい冗談だ。彼には悪いがイギリス人でもこんなジョークは言わない。しかし、これが彼の率直な感想なのだろう。そして彼はこう続けた。

「今は不自由でも治安はマシです」

言い終わると表情を崩して、

「ここほどじゃないですけどね」

と言って笑った。

それからというものは、踏み込んだ話は無しにして、日常的な話題のみを交わした。会話は終始和やかなムードに包まれて終わった。私は、満ち足りた気分でその店を後にした。

5:invincible:2020/01/09(木) 23:23

忘れてた完。三流の政治小説みたいになってて残念

6:invincible:2020/01/09(木) 23:49

第2話「最も好かれる顔」

男は生まれてこのかた一度も付き合ったことがなかった。それどころか、まともに会話したこともほとんどない。彼は生徒の頃から、母親以外の女性に何もされてこなかったのである。多少、いじられたりしていれば彼の現状も少しはマシであったろう。だが、石ころのように扱われるというのはいじられるより深い傷を負わせることがある。
彼は、女性に相手にされず、また自分からぶつかりに行こうともしなかった。その理由はコンプレックスがあったからである。彼の風貌は清潔感がなく、腐りかけのモヤシのようであった。手入れをしないものだから中の下ほどのルックスもより酷いものに見えた。これだから、生徒時代も意地悪をする勇気のある女子が出てこなかったのである。

彼は自身が女性に相手にされないのは女性のせいだと思っていた。まず、このような顔に産んだのは母親であり、母親は女性だ。そして顔でしか判断しない女性も悪である。それが彼の考えであった。もっとも、顔だけで判断している女性など少数派なのだが。

少なくとも彼は、顔がすべての原因であるので顔をなんとかしようと考えていた。「女なんて」が口癖の彼であるが、流石に魔法使いにはなりたくなかった。だが、彼には清潔感を保つ根気も整形する金もなかった。そこで彼はネットに頼ることにした。「溺れるものは藁をも掴む」とはこのことだと冷笑するものもいたが、なんと彼は整形より安く顔を変える機械を発見したのである。

そのページは最終更新日が10年以上前であった。背景や説明文も怪しかった。何より、ページ管理人兼開発者が全く無名の人物なのである。しかし、彼は特に何も考えず、

「これで俺も勝ち組」

と言って購入したのである。
驚いたことに、目当ての商品はきちんと彼の元に届いた。その商品には「最新のAIがあなたを女性が一番好きな男性の顔を判別、この機械が整形してくれます。これであなたもモテモテ(麻酔付属)」と古臭い字体で書かれていた。彼は早速、この機械を組み立て、顔に被せ、麻酔をした。決して器用ではない彼であったがこの時ばかりはトントン拍子で作業が進んだ。
整形作業から数時間、彼はついに目を覚ました。顔を触ってみると、前とは違う感触がする。彼は自分がモテモテの勝ち組になったことを確信した。そして、ステージ上で多数の女性の前で脚光をあびる自分を想像しながら、眠りについた。

その後、彼の願望は半分だけ達成された。その年のモノマネ番組で「一万円札の肖像画のそっくりさん」として登場したのである。

7:invincible:2020/01/09(木) 23:50

完。

8:invincible:2020/01/19(日) 00:33

第3話「死と虐待」

私は、出てから1年も経たないうちに、また戻ってきてしまった。そして、もう二度と出てこれないだろう。私の肌はシワばかりでハリがなく、髪は真っ白だ。最初に入った時から随分と老けた。受ける刑罰も、罪状も最初の時と変わらない。だが、前と違って、刑罰を全うするほどの体力はもう残っていない。

私の人生の序盤は順風満帆だった。両親の期待を受けていたし、友人もそれなりにいた。だが、私の人生の中盤、終盤は殆どが刑務所の中での生活だった。たとえ出たとしても、出迎えてくれる人はいない。だが、都会に行って、生活するほどの活力も能力もない。私も人生がここまで狂い、どうしようもなくなったのは、1943年のあの瞬間からだった。

そんなことを考えているうちに、居室についた。刑務官は表情ひとつ変えず、私をその中へ乱暴に詰め込んだ。二段ベッドが並べられただけの部屋はひどく簡素だ。これなら、軍隊の方が全然マシだとつくづく思う。

居室に入って少し経つと、若い受刑者が隣に座って来た。彼は前に私が万引きで捕まった時からここにいた。その受刑者は私に話しかけてくる。

「よう、じいさん、また何かやったんですか」

「ああ、窃盗……」

「またか!」

若い受刑者は私の話を遮って、叫声をあげた。彼は悪い人間ではないのだが、ちょっとそそっかしい。

「違う。窃盗犯をぶっ殺した」

彼は声を出さず、じっと私を見た。彼の目は少し泳いでいる。

「なぜ?」

と声をひそめて問いかけてきた。

「駆けつけた住民にリンチされていたから、殺した。田舎は怖い」

彼は息を呑んだ。どうも、納得行っていないようだった。理由はわかる。ここワシントン州は田舎だが、その中でも格差がある。彼の住んでいた所は、比較的進んでいたからリンチなんて滅多になかったのだろう。だから、分かりにくいのかもしれない。しかし、田舎の中の田舎である私の故郷は民度がひどく低い。

「これで2回目だ。意識して人をころすのは」

と私が付け加えると、彼は、

「1回目はどこで?」

と聞いて来た。私は、咳払いをして、

「ああ……あれで、私の人生は変わった。本当は、墓まで持って行こうと思っていたのだが、君にだけ話そうかな。いいかね?」

彼はゆっくりと頷いた。私の目をじっと見ながら。

9: すみれ ◆YQ:2020/01/25(土) 19:46

>>6
やっぱり人間お金がスキだ〜〜って心理が表されていて、その、スキッス(´・ω・`)(語彙力)

10:invincible:2020/01/25(土) 20:09

>>9
ありがとうございます


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