虹色付箋_rainbow color tag_

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1:匿名希望:2014/05/31(土) 11:37 ID:kE.

【移転させていただきました】
http://ha10.net/test/read.cgi/novel/1396956391/l50#Z

rainbow color tagとはまあ、虹色付箋です。

✄------------------------- キ リ ト リ -------------------------✄

__付箋。付箋に一言書いて貼って、
また一言書いて貼れば何気ない言葉でも、
それを読めば文章として出来あがりますよね。
その付箋を貼る作業を繰り返したのが
小説かもしれませんね。

……さて、虹色付箋とは俗に言う短編集ですね。
我ながらタイトル短くまとめあげた気がします。
*・゚・*:.。.*.。.:*・゚・*:.。.*.。.:*・゚・*:.。.*.。.:

.・ルール・.・・.・・.・・.・・.・・.
・掲示板でのルールには       ・
・従ってください。         ・
・感想、アドバイスは歓迎致します。 ・
・更新は遅いです。御了承下さい。 ・
>>5までは上記URLのコピーとなります。・
・. .・. .・. .・. .・. .・. .・. ・

_=-ーSTARTー-=_

2:若葉◆l.:2014/05/31(土) 11:41 ID:kE.

【blackgirls】

[prologue]


黒には闇しかない。

「…………そんなの誰が決めた? 」
黒には黒の希望がある。偽善の白を私は赤で制す。
そういう仕事≠ナ運命≠ネのだから。

偽善の白より素直な黒がいい。

「____それが君の最後の言葉だったっけ」

3:若葉◆l.:2014/05/31(土) 11:42 ID:kE.

【episode1 孤独】

__どうやらまたのようだ。
寝汗がシーツに染みて気持ちが悪い感触を肌が感じ取っている。
カーテンからそよ吹く風に顔を当てると
ベッドからその体を退いた。
そういえば今日はあの人の命日だったことを思い出す。

「二年前……か。あの日から」

鳥の無邪気な囀りさえも涙に変わってしまう。
憂鬱な気持ちのまま私はクローゼットから
瑠璃色に黒の刺繍が施してある長袖のワンピースを取り出し着替える。
時刻は純金で出来ている時計の針が九時を指し示している。
部屋は実に静寂に包まれており、必要のあるものしか置いてない
この殺風景な部屋にはとても静寂が似合うと思った。

白い机に白いベッド。ベッドの上は窓。
そして私らしくない白の机の上にあの人と私の写真。隣にはもういない家族の写真。
この部屋には虚しさと孤独しかない。
自分の部屋なのにそう客観的に見る自分がいた。

「行ってきます」
そう言ってドアノブに手をかけて部屋を後にした。

二階の自分の部屋から一階の玄関へ行き、黒いパンプスに足を入れる。
そして電気を消し外へと踏み出した。
眩しい日差しは春だと思えないくらい夏らしさを感じさせた。
赤煉瓦で全体的にできているこの街を歩き花屋を見つける。
花屋の女性店員は繕った笑顔で挨拶を交わしてくる。

「__貴方も館に行くんですか?」

甲高い花屋の声。確かにあの女性の声。
「え……? 」
「行くんですか? 」
彼女は真っ直ぐな目で見つめる。

「__行きますよ。彼の敵を討ちに」

そういうしかなかった。

4:若葉◆l.:2014/05/31(土) 11:43 ID:kE.

「私もなんですよ」

影のある笑顔を作る女性。
外見は柊の葉のように髪は落ち着いた緑で目はオッドアイだ。
恐らく推測であるが身長は百六十センチぐらいであろう。

「お花、これがいいと思いますよ。」

そういうと彼女は白いアネモネの花束を私に丁寧に差し出し
「花言葉は『希望』……館でお会い出来るのを楽しみにしてますね」

そう言って歩き出す私を繕った笑顔でまた見送った。

「__そう。私はアイツ≠ノ会うんだ」
白いアネモネを持って私はまた北へ北へ歩いた。

館は案外近く、五分もあれば十分な距離だった。
古びた赤煉瓦の屋敷。この地域では最大であろうこの建造物。
年季は相当入ってると思われる。錆びているこの館への門は
鍵さえも壊れているのかいつでも空いていた。

館の玄関へはそこだけ白い砂利道が敷かれており
砂利道以外は全て芝生だった。
芝生を触るとスプリンクラーの後なのか若干湿っている。
「ご在住……ですか」
約十メートル程の砂利道を歩きとうとうドアの目の前の来た。

生唾が喉を通り過ぎて行く。
二十度超えてるというのに別の意味で汗が吹き出る。
ゆっくりとドアを開けると真っ暗で奥が何も見えなかった。
見えるのは自分の影。何も見えない中手探りで壁を見つけ
壁に沿うような形で前へ進む。

「あ……ああ……あ……あ。聞こえてるかな? 」

突然真っ暗な中反響するその垢抜けたその声は
十代の少女ということは間違いなさそうだ。

「新しい子が来たね。そこの青いワンピースで
綺麗な黒いショートヘアーのコリー・アレントちゃーん」

……何かが可笑しい。先程まで遠くから反響した声だったのに今度は
頭上≠ゥら声が聞こえる。
「あれ。気づいちゃった? 私、この館主のメアリー・イラエムです」
その次に何か鈍い音が聞こえた。人が落ちたとかではなく、
重力を思いっきり床にかけてる。そんな感じの音だった。

「コリーちゃんは実に賢いよー私をよく見てるね
そう、私は重力をある程度操ることができるんだよね
後目も良いし聴力も侮らない方がいいよー」

暗闇で顔は見えないが向こうは今この部屋の真ん中にいる。

「さあ、能力の蕾を持つティーンエイジャーの皆様。
__その蕾私が開花して差し上げましょう」

5:若葉◆l.:2014/05/31(土) 11:44 ID:kE.


「ティーンエイジャー……」
「そう。今はまだ君一人みたいだけど
予定としてはあと六人かな。もうそろそろ明るくしようか」

手を叩く音が二回する。すると周りが白く明るくなった。
床は大理石でできていて館主のメアリーと思われし少女は口角を上げて
吹き抜けになってる二階の手摺に腰をかけていた。
真っ黒な髪を二つに纏めており、その髪は若干パーマが入っている。
そして真っ赤な瞳は血を思わせる様な色で、色白な肌は人形のようだった。

「君の能力≠熄レしく言っとかないとね」
「__私…………の……」
「君はあのアレント家の血を持ってるから
そうだね。物の形を変えたりできてそれをある範囲まで操れるってとこかなー? 」

__物の形を変える。だけども方法がわからない。

「いずれ分かるよ」
またもや鈍い音を立てた。今度は床に着地しただけではなく
一旦着地したあと天井へ脚力で張り付いていた。
「__何の目的で? 」
私は買った花が潰れるほど握り締める勢いでメアリーに問いた。

「後で、ね」

__そう聞こえた瞬間扉が開く音がした。

6:若葉◆l.:2014/06/01(日) 10:32 ID:kE.

その音がしたとき手を叩く音がして真っ暗になった。
何か嫌な予感がして私は壁を這いながら柱へ隠れていた。
隠れて数秒後にだんだん光が館内へ差し込んでいくのが分かる。
それにつれて人影が伸びていき、人数も一人や二人ではない事も確認できた。

扉が完全に開き、足音がホール中央部分に集まっていく。
だんだんと鮮明に人々の声が聞こえてきた。
性別は女だけはない。男も混じっていた。

「__人が僕ら以外にも居るよ。姉さん」
「そう……ね」

そんな見ず知らずの少年少女の声の後一斉に視線を感じる。
この位置から彼らのいるホール中央部分までは三十メートルはある。
でもこの視線は違う。普通の視線の類ではない。
近くから見られてる、だけども遠距離からも見られてる。
確かに言えるのは違和感のある視線だという事だ。

「居るよ」

体が凍てついていく。そんな感覚が走った。
驚くほど冷たく冷静な声で、例えるなら機会音声のようだった。
女とも取れる男とも取れる中性的な声でどこか人間の心理を揺さぶる。

「逃げるな。コリー」

真上から聞こえるメアリーの声に従うような形で私はまた柱に張り付く。
静寂な館に手を叩く音が私の視線を解除するかのように鳴り響いた。
電気が恰も生きてるかのように付いていく。
六人の方に目を向けるとやはりホール中央部分に集まっている。
ただ先程と違うのは六人は警戒するような素振りをしていた。

「御機嫌よう。館主のメアリー・イラエムです」

優雅に歩いていくメアリーの姿に唖然とする六人の人々。
それもそうだろう。彼女は平然と床を歩いていくかのように天井を歩くのだから。
その六人の中には先程の花屋の女性店員もいた。

「さて、と。全員揃ったみたいだし……
____さあ、君らは今日からこの館で生活してもらうよ」

騒ぐ六人。私はまだ柱に張り付きながら向こうの様子を伺う。
どうやら六人は私の存在には気付いているが、
正確な位置までは気づかれていないようだった。

7:若葉◆l.:2014/06/08(日) 18:26 ID:xTk

「コリー……出てきなよ」

その瞬間かなりの勢いで地中を走る音がした。
そして床を突き破ったのかと思うと体が引っ張られてゆく。
ゆっくりと。それは実にゆっくりと私の体内で何かが弾けた。

「__『ナンバー01コリー・アレント』才能開花完了」

機械じみたメアリーの声が聞こえる。その一秒後に私は視界を失った。
意識が深海にでも沈んだかのように消えてゆく。
死の瞬間と言うのはこういうものなのだろうか
人々は何を考えてあの世に逝くのだろう、そんな遠のいて行く意識の中私は考えていた。

目が覚めると見慣れた真っ白な天井。そして明るい日差し。
確かに意識はあったはず、確かにあの暖かい日差しを感じ、確かに私はあの館へ行った。
疑問しか浮かばない私の脳。体を起こし時計を見ると、館へ行ったあの日の起床時刻の九時を示していた。

「……何これ」

あまりにも驚き声を漏らしてしまう。
左手に視線を下ろすと灰色の金具のようなものが付いている。
真ん中には薄いアクアマリンのような直径一センチ位の楕円状の何か。
これがメアリーの言う才能開花≠フ証というだろうか。
他にも何か自分の体に変化があるかもしれないと思い足や右腕、
左腕と様々な部位に目を配らせるが何もない。
そばにある鏡で顔を見るといつもの青い瞳ではなく、左目が青、右目が薄い水色になっていた。

____孤独。君のために私はそれを背負ってきた。

8:若葉◆l.:2014/06/15(日) 12:25 ID:kE.

【episode2 異変】

 ふと夜中に目が覚めた。時刻は午前一時過ぎを迎えていた。
膝でベッドに立ってカーテンを開け
窓を開けると気持ちの良い風が頬を撫で回す。
 普段とは違う町の空は満点の星空と月が照らしていた。

「__もう帰ってきて」

 虚しさより先に体が無意識にベッドへ倒れ目を瞑った。
数分経つと意識は何処か遠くへと無くなった。

 __鳥の鳴き声と日差しが私を目覚めさせた。
上半身をベッドから起こすと溜め息が自然と漏れる。
 午前七時。今日もあの館へ行こうと私は準備をする。
直感で全て選び黒のレギンスに水色と
グレーの長袖で薄い素材のワンピースをクローゼットから取りだし着替えた。

 忙しく動くと机の上に見知らぬ封をしてある封筒が置いてあることに気がつく。
手にとって開封すると四つ折りの手紙が入っていた。

「親愛なるティーンエイジャーへ。
 今日午前八時に館へ来てほしい」

 達筆な字で書いてあったその手紙は
恐らくメアリーが書いた物だと思われた。
 ____時は午前七時十分。
時間に余裕のあったので朝食をとろうと一階のリビングへと下る。
誰もいないこの家に慣れたもののやはり寂しいものは寂しかった。

 ダイニングテーブルにはいつものラップをかけてあるサラダと
オムレツとフランスパンを切ったものがあった。
 そしてサラダの横に小さなメモの様なものが置いてあった。
「コリー様。御食べ下さい」
 飯使いのアリアが私に残した朝食を食べ私は館へと出向いた。

9:若葉◆l.:2014/07/21(月) 21:00 ID:kE.

blackgirlsは1回途切れさせて頂きます。

10:若葉◆l.:2014/07/23(水) 20:20 ID:kE.

白紙のスケッチブック



__私は君の顔を描き続ける。
君の顔を忘れないように。

「俺の顔描いてて飽きないの? 」

私はきっぱりと確かに貴方の質問に答えた。
「先輩の顔は飽きませんよ。ずっと見ても」

淡い橙色で染まった教室に照らされた貴方の顔は
誰よりも素敵で誰よりも輝いていた。

11:若葉◆l.:2014/07/23(水) 20:21 ID:kE.

↑の投稿で「君」の部分は全て「貴方」でおねがいします

12:若葉◆l.:2014/09/14(日) 17:58 ID:tdo

【一話 秋風】


____体育祭。
澄んでいる空の下日差しによって白くなった校庭に
歓声が響き、一瞬で過ぎ去る足音と通り過ぎる風。
バトンが渡ると目的を果たした選手は満足そうに笑みをこぼす。

「……内田先輩。格好いいです」
「ありがとう」
秋の風が吹いて微かに聞こえた先輩の声。
貴方は振り返って私に笑顔を見せてくれた。

__嗚呼どうしようか。
あの体育祭の日からこの思いを紙に目一杯描きたい、そう思えたんだ。

13:にっきー:2014/10/19(日) 22:10

もしかして若葉?

この小説面白い!

情景描写上手だね!やっぱ!

14:若葉◆l.:2014/11/17(月) 20:23

体育祭から数週間ほど経って、生温かった風が
冷え冷えとした風になり、殆どの学生はマフラーに半分ほど顔を埋めている。
通学路の脇には茶色く色付き、すかすかになった木が並んでいた。
「……寒い」
「本当寒いよねー」
独り言に返事が返ってきたことに驚き辺りを見渡す。
「あ、内田先輩。おはようございます」
「おはよう」
そう言うとへらっと笑って頭を少し掻く。

「あー寒い寒い……手袋とかマフラー
ないけど寒くないの?」
妙に冷え冷えするのは防寒具が無いせいだと今更気づく。
「寒いですよ……ここまで寒いとは
家出るまで思ってなかったです……」
「そっかー……あ、じゃ手出して」

言われた通り手を出すと小さなカイロを握り締められた。
シャカシャカ振るとゆっくり温かみが増していく。
先輩はまた笑って、冷えた手を息で温めていた。
「あ、寒いですよね……お返しします」
「いいよ。俺なんかより、知佳の方が寒そうだしさ
あ、ごめん友達から呼ばれてるっぽいし先行く」
そう言い残すと軽い足取りで小走りしていった。

15:若葉◆l.:2014/11/24(月) 19:51


__少し大人びた彼女は背伸びすれば
もう二個離れた俺と同じくらいの背丈になっていた。

放課後、用事のため廊下を歩いてると
窓から差し込む橙色の光に廊下が染まっていた。
外を眺めると木々が騒めき、くすんだ葉が落ちる。
季節はもう冬に近づいていることを実感した。

「美術室……だっけ、面倒臭いな」
誰もいない廊下に響くのは自分の足音と
上の階から聞こえる吹奏楽部が練習してる音だった。

美術室のドアは開いていて中には人は居ない。
「あー……俺だけか居残り」
席へつくと机の上には開いてるスケッチブックに
色鉛筆、筆箱、パステルが置かれていた。

スケッチブックをパラパラと捲る。
ほとんど白紙できっと新品のスケッチブックなのだろうか。
最初のページのシャーペンで描かれたラフな絵以外なにも描かれていない。
最後まで一応見ておこうと捲っていくと一番最後のページに
最初のとは違う色付きで描かれた少年の絵があった。
眺めていると軽い、走ってる様な足音が聞こえてきた。
急いでスケッチブックを閉じ、足音の先には見慣れた“彼女”がいた。
腕には段ボール箱いっぱいに入った絵具を抱えている。

「あっ内田先輩。こんにちわ」
「こんにちわ」

満開の花かのような笑顔。
彼女の容姿がどんなに変わってもこれだけは変わっていなかった。

16:若葉◆l.:2014/11/26(水) 23:49

絵の具を丁寧に絵の具が積まれている棚に詰めていく。
後ろ姿を改めて見ると、一回り成長したと思う。
細い体は相変わらずで、短くなった髪は動く度に揺れる。
「あの……その、スケッチブック見ました…………? 」
か細い声で少し悲しげに彼女は言う。
「……見た。もし、気に障ったなら謝る。ごめん」
自分の私物を他人に見られるなんて俺でも嫌だ。

「いや、そうじゃないんです……。
最後のページの絵。モデルがいるんですよ」
ゆっくりと、俺に背を向けたまま絵の具を整理して話す。
「__内田先輩、なんですよね」
「本当? こんな格好良く描いてて……」
「嫌だったら____」
「全然。嬉しいよ。なんなら貰っても良いかな? 」

彼女の手が突然止まった。ぱっと振り向き笑顔で
「良いですよ」
と今までの会話よりも柔らかな声でそう答えた。

不思議と胸が高鳴って、頬が熱くなる。
後輩相手にこう思うのは異常なんだろうか。

彼女は絵の具の整理が終わるとこっちの机に来て
俺の横に下ろしてあった古い木製の椅子に座った。
隣に座った彼女からはシャンプーの匂い、柔軟剤の甘い匂いがする。
何となく今の気持ちを伝えたくて、呟いた。

「知佳。好きだよ」

そう言ったら何だかすっきりした。

17:若葉◆l.:2014/11/30(日) 13:15

突然の告白っていうものはやっぱり緊張する。
テストのように答案用紙はない告白は正しい答えがあるのだろうか。
無駄に広い美術室に二秒間の沈黙が流れた。
「それは友達として。ですよね? 」
憧れの先輩、大好きな先輩、だからこそ返事が怖い。
私に顔を背けている時点もう終わりだとわかっていた。
期待はしないけれど心の隅でやはり期待していた自分がいた。
「……そうだね」
恋が終わるというのはここまで早いのか。ふと窓を見ると
晴れてた橙色の空はいつのまにか灰色の雲がかかっていた。

立ち去ろうとする先輩を私は呼び止めた。
「涼斗先輩。私、先輩のこと
異性として、恋愛として好きですから」
何故だか溢れる涙で前が見えなくなった。
でも過ぎ去っていく先輩の後ろ姿がいつもより
ずっとずっと鮮明に見えていた。

一人の美術室はいつもより広く感じた。
徐ろに私はスケッチブックを開き、色鉛筆を手に取った。
真っ白な一ページに殴り込むように色が入っていく。
「一人は……慣れっこなんだけど
先輩がいないとやっぱり……寂しいな」
自分の涙でぐしゃぐしゃになった紙と
手に力が入りすぎて折れた黄色の色鉛筆は一番無惨だった。

18:柳葉◆l.:2015/01/21(水) 21:35

見つかりなんてしない。
曖昧なまま君に答えるなんて出来ないんだよ。
自分に自信がない君が一番愛おしくて。

「ねえ、俺だって。好きなんだよ」

すすり泣く彼女の声を聞きながらドアを挟んで座り込む俺は
世界一の卑怯者かもしれない。
不思議と窓の向こうはヒトの事情など知りもせずじりじりと
太陽が照りつけていた。

____どれくらい時間が経ったんだろう。
橙色の空には藍色が混じり、もうすぐ日が落ちようとしていた。
答えは見つからないまま立ち上がり、廊下を歩いた。
短いはずの廊下なのに、一生歩くんじゃないかってぐらい長く感じた。

階段を一段一段下りる度に後悔が積もっていく。
何を恥ずかしがって“友達として好き”ってことに
してしまったのだろうか。
ぼーっとしながら昇降口まで行き、踵が潰れ土で汚れた靴を履く。

「もう一回。チャンス、くれないかな……知佳」

あぜ道を踏みつぶす様に、歩いて帰った。

19:柳葉◆l.:2015/01/21(水) 21:44

寂しさなんて、慣れていたのに。
そう思って、ぐしゃぐしゃになった絵を破り、捨てた。
貴方なんかに会わなきゃ良かったんだ。そんな私を
烏の鳴き声が現実に連れ戻す様に、煩く鳴いていた。

校門を潜った所で無性に、走りたくなった。
何が原因で何があってとかそんなのではなくて。
私が今走った先に何かがある、そんな感じで追い求めるように走った。

「ねえ、貴方の心は何処なの?何処にいったの?」

ぐるぐる目まぐるしくずっと、頭に走っていた。
通り過ぎる風景、一つ一つどうでもいいと思った。

揺れるセーラー服。脱げていくローファー。
ずり落ちていくヘアピン。もう、身なりとか要らなくて。
ただ、走ったら貴方に会える気がする。

川原に来た時。ゆっくり歩く貴方を見つけた。
貴方の好きなところはねああ、その歩いている時の背中とか。

20:柳葉◆l.:2015/01/22(木) 20:31


待って下さい。知らないうちに声をかけていた。
「……俺、用事あるから」
「一分。一分だけ言わせてください」
川原から吹く風が私の髪を揺らす。
「ずっと前から。体育祭の時から好きでした」
彼は振り返っているその首を前に戻し
ただただ、前に進んでいた。
数メートル歩くと、彼はまた振り返って

「俺も好きだよ。でも____」
「何があろうと私は好きです」
叫ぶように強く言い、自分を奮い立たせた。
「私は、根暗だし、頭悪いし、不細工だし。
そんな私と喋ってくれてるの貴方だけでしたから」
後半、ぐしゃぐしゃになって、言葉にもなっていないだろう。
「……知佳。一緒に帰ろう」
いつの間にか近付いていたのか私の腕を引っ張って
貴方は歩き始めた。

「好きだよ、涼斗」

この言葉が聞こえないように、私はかすれた声で言った。


【おわり】

21:柳葉◆l.:2015/01/24(土) 19:38

【白波ラムネ】

温い潮風。熱い白浜。
そして緩やかに足に被る冷たい白波。

ラムネを開け、一口飲む。
透明な泡は乾いた喉をすり抜ける。
そして、水平線に向かって私は叫ぶんだ。

「君が好きだ」

白波はまた、足に押し寄せた。

22:柳葉◆l.:2015/01/24(土) 20:39


真夏の八月、暑いから寝ていると体が揺らされた。
「__っちゃん、いっちゃんもう起きなさい」
祖母の声が耳に響く。目をゆっくり開けると
少し困ったような顔をして私の顔を覗き込む祖母がいた。
私が目を開くと今にも怒鳴りつけようとする顔に変わった。

「婆ちゃん……起きてるって。カウンターの仕事だろ」
鉛の様な寝起きの体を無理やり起こす。
どうやらまた椅子でうたた寝をしていたようだ。
体を伸ばしつつ、カウンターに出る。

「勇ちゃん、今日は海の家、休んでいいわよ」

調理場から聞こえる祖母の声とフライパンの音。
滅多にないシーズン中のオフは珍しい。
あまりにも休みがないから私は祖母に問う

「婆ちゃん、冗談じゃないよねー」
「冗談じゃないさ。今日は幼なじみの
海人君来るんだからねぇ」

真夏だというのに顔が凍りつきそうになった。
心地よいはずの潮風が真冬の北風のように思える。
思わずカウンター横にあるカレンダーを見て絶句した。
八月十四日……お盆だった。
「……嘘でしょ、今何時よ」

焦りつつ調理場にある壁掛け時計を見る。
針が示す数字は両方十二だった。
急ぐどころじゃない、観光客をすり抜けて階段を駆け上る。
自宅のドアを開け靴を荒々しく脱ぐ。

戸を開けて目の前の和室の姿見に映るのは白いタンクトップとハーフパンツ履いて
寝癖がついている、可愛いとは言えないものだった。
布団も敷いてあるままで人を呼び込めない程の酷さだった。

「ああもう……嫌」

急いで上からワンピースを着て、髪をとかす。
先程よりはまともな格好になるのに一分もかからなかった。
別に幼なじみだから好きではないが、一応身なりは整える。

「別に……好きじゃないよ」

そう呟いた瞬間、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

23:柳葉◆l.:2015/01/25(日) 16:58

階段を駆け下りると、店は一時閉店の看板を
祖母が入口横にかけていた。
入口は先程まで空いていたはずがいつの間にか
柵がたてられて、簡易的なカベが出来ていた。

数分前に寝ていたベンチには見慣れた少年が見える
「勇。挨拶しなさい」
母から尖った声が聞こえる。
「海人今年もよろしく」
そう言うと海人ははにかんで、言った。

「毎年来てるんだしもう挨拶要らないですよ、おばさん。
あ、そうだ勇。これから海行こうよ」

丁寧に母に言葉を返す。潮風が彼の真っ黒な髪を揺らす。
背丈は私より高く、男の子らしさが溢れていた。
サンダルを履いて裏口から海人と外へ出ようとしたら祖母に声をかけられた。
「いっちゃんと海人くん。これ持っていきな」
祖母が私らに青いガラス瓶を差し出す。

「おっ婆ちゃんのラムネだ。婆ちゃんのところの
ラムネは格別に美味しいんだよねー」
ほい、と言いながら海人が私の頬にラムネを当てる。

「うわ、冷たいんだけど」
悪戯に笑い、彼はお先にといい走って白い砂浜を駆ける。
私はそのあとを裸足で追いかけていた。

照りつく太陽と真っ青な海が広がる。潮の匂いも
一層強くなった気がして、なんだか懐かしかった。
少し走るスピードを弱めた海人が私に呼び掛ける。
「足遅いなー。早く来いよ」
「うるさいな、今行くってば」
私が走ると彼は止まっていてくれた。

24:柳葉◆l.:2015/01/25(日) 17:03

(一応主人公、勇の読みはイサミです。海人はカイトです。)

25:柳葉◆l.:2015/01/27(火) 20:12

二人で浜を歩いた。栓の開いていないラムネを持って。
海のずっと端の方を目指していく。
海は驚くぐらい澄んでいて、白波は透明だった。
右を見ると山々と道路が見える。左は海、そして目の前には海人。

「なあいさっちゃん。俺、この町出たことねえんだけどな
今なら何処でも行ける気がするんだ」

駆け落ちでもしてみるか。と笑う海人。
振り向いて見えた彼の顔は太陽と同じぐらい輝いていた。
私は何となく、安心して
「海人なら駆け落ちしたっていいんだよ」
と波と風に混じって呟いた。
「いさっちゃん何もう一回__」

教えないよ、と私はすかさず答えた。

26:柳葉◆l.:2015/01/27(火) 20:29

私と海人は数分かけて日陰が多い海の端の岩場に着いた。
汗をかいている海人は岩場に座り込むとラム
ネ瓶をすぐ開けた。
ねえ、と海人から呼ばれ何、と返事を返す。
「いさっちゃんさ、中学に上がっただろ。
そのさ……好きな奴とか居ないの」
遠くを見るように、私の目すら見ないで言い放った。
「居ないよ」
そう言いながら、私は彼の横に座る。

そっかーと素っ気なくいい、海人は
残りわずかのラムネを飲み干した。
飲み終わった瞬間に、今度は私の目を見て言った。
「俺さ、明後日誕生日なんだよね」
知ってるよ、と返すとまた、海の遠くを見るように言った。
「プレゼント、頂戴よ」
「何も用意してな__」
私は、そう言おうとした。

「僕、江田海人は、上原勇さんが欲しいです」

静かに、波は何度も何度も波を打ち、風は髪をなびかせた。

27:柳葉◆l.:2015/01/31(土) 23:08

おわり

28:柳葉◆l.:2015/01/31(土) 23:25

【忘却ボタン】

例え、僕が死後の世界に飛んだとしても。

もし、押すだけで一生大切な人を守れるボタンがあるなら
存在が世から消え去り、忘れられていても
僕は君の顔を思い浮かべて、押すかもしれない。

僕の名前を覚えてなくても僕は
ずっと君を覚えている。

____とても君が大切だから。

29:柳葉◆l.:2015/01/31(土) 23:43

普通。私はこの言葉が嫌いで
“学校の教室”なんか通ったことなかった。
異常、が私には適切かもしれない。

「ねえ。私はどうして外に出れないの?」

過去に何度も父母に聞いても
「大人になってないからだよ」
と誤魔化されて、流された。

幼いながらに、違う理由があったのは分かっていた。
大人になってないから、という生易しい理由では解決しない物だと。
外に出ると小さく悲鳴を出され、家には何処にも鏡がない。

“モンスター”、“怪物”。そんなレッテル
貼られたってもう慣れてしまった。

今日もまた、カーテンをしめきり、布団に閉じこもる。
「いっそ死ぬ方がいいかもしれない」
そう、掠れた声で呟いた。

「その願い、僕が叶えようか」

そんな、甘い囁きが頭で響いた。

30:柳葉◆l.:2015/02/01(日) 18:43

私は布団に体を委ね、段々息苦しくなり布団を剥いだ。
「ああ、いいよ。君に任せる」
先程聞こえた誘いに答えてみせた。
随分と欲がないんだね、とせせら笑う声が聞こえた。

私の部屋は屋根裏部屋で、天井が歪な形をしていた。
天井近くの壁には日が入る程の割と大きめな窓がある。
その場所に黒いパーカーを羽織り、フードを目元まで被る少年がいた。

「僕と一緒に旅をしないか」

彼の口元が怪しく上がる。
「こんな怪物で良いならね」
私はそう答えると彼は、僕も怪物さとまた笑った。

彼は、一瞬にして私の側へ移り、私を何でもない顔で担ぐ。
不思議とジャンプをしていたのに物音一切しなかった。
さあ、旅の準備だと囁きまたジャンプをした。
「エミル、しっかり捕まって」
そう言った途端、窓ガラスが弾け飛んだ。

31:柳葉◆l.:2015/02/01(日) 21:00

宙に浮く感覚、にやりと笑う少年。
「怪物らしく空を飛ぶのも良いでしょう?」
彼はまた澄んだ声でけたけたと笑い、実に愉快だと言う。

「ねえ貴方の名前を教えて欲しいの」
空を駆けながら彼はリルと名乗った。
随分可愛らしい名前なのね、というと
落ち着いた声でそうだねと答えた。

数十分飛んでいるのだろうか、彼は突然止まった。

「エミル、僕がどんなに醜くても
君は受け入れてくれるかい」
「勿論。私達は化物同士なのだから」
そういうとふっと微笑んだ。

また数分彼は私を抱えて宙を舞う。
ただ空が、妙に白っぽく見上げても日を感じない。
彼のフードの隙間から見えた顔は少し、困惑した顔だった。

「少し行き先が変わるかもね」
「どうして?」
「後で話すよ、今は無理だ。
どうやら僕の住む国に敵が来たみたいでね」
そう言うと彼の足は何もない草原についた。

「少し揺れるかもしれないけど、我慢して」
静かな声でそういうと彼は、人類最速と言える
速さで草原を駆け抜けた。
ただ一面に見える緑の世界、吹きつくのは湿っぽい嫌な風だ。

「____にするはずだったんだ」

穏やかな声の彼とは全く違い、聞き取れないほど荒々しかった。


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