輝き―2光―

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1:リオン:2015/07/25(土) 18:32

私立徳応学園。
この学園は、初等部から高等部までエスカレーター式で行ける進学校。
成績がすべてのこの学校では、校内戦争が絶えない。
そんな中で、成績上位の姉妹が2人。
双子の姉、有栖川ありすとその妹のありさ。
この学校という名の小さな世界を変えたのは、双子の姉妹の勇気でした。

2:リオン:2015/07/25(土) 18:52

。。。ARISU side。。。

「あっつ〜」
8月。暑さが真っ只中のこの月。
私、有栖川ありすは下敷きをうちわ代わりにして仰いでいた。
「ありす、だらけ過ぎ」
そんな私を見て妹のありさが笑う。
「えー、だってさ、こんな暑くちゃ授業にも集中できないよ」
「別にありすは良いでしょ。何もしなくても成績いいんだからさ」
「よく言うよ」
私達の会話に、もう一つ声が加わる。
手島咲。ショートヘアの背が高い女の子だ。
「ありすもありさも成績いいでしょ。おまけに可愛くて、スポーツ万能で……完璧な双子だよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
羨ましそうに私達を見つめる咲。
私とありさは顔を見合わせた。
確かに、この学園の初等部4年の中でも、私達は成績がいいと思う。
186人中、一桁の順位から外れたことはないし、足も学年では一番早い。
容姿は、自分たちではよくわからないが、みんな可愛いというから、多分そうなのだろう。

3:リオン:2015/07/25(土) 19:05

「早く席に着け。授業始めるぞ」
「あ、ヤバッ」
ありさは慌てて席に着いた。
その時。
ガシャアアアンと言う破壊音が耳に届いた。
でも、私は大して驚かなかった。
前の席に座っている、ありさもそうだ。
音がした方を向くこともなく、ただ教科書をめくっている。
「ったく、またか」
担任の山田先生が小さくつぶやき、廊下に出た。
「おい、何してるんだ!」
山田先生の怒号が響く。
それに食いついていく野次馬達。
いつもの光景だ。
この学園は、ただ頭がいい学園なだけで、初等部にかかわらずに荒れている。
「ね、ありさ」
私が声をかけると、ありさは後ろを向く。
「この調子だとさ、また自習かな?」
「んー……。多分、そう。あの調子じゃ、山田先生戻ってこないよ」
「だよね……」
はぁ、と私たちは二人そろってため息をつく。

4:リオン:2015/07/25(土) 19:11

「でもさ、自習でもいいよね。だって、予習だってできるし、自分の苦手なところもやれるんだから」
「まぁね」
「悪い、自習で頼む」
山田先生は、それだけ伝えると、また教室を出て行った。
「やろっか、自習」
「……だね」
私とありさは算数の教科書とノートを開いて真面目に自習をし始めた。

5:リオン:2015/07/25(土) 21:13

。。。ARISA side。。。

今日の授業……正確に言えば自習だけれど、それは午前中の授業だけで済んだ。
放課後、私は図書室で静かに本を読んでいた。
「あの、もう戸締りしたいんですけど……」
「え?」
私はメガネをかけたまま、図書委員の女の子に向き直った。
時計を見ると、もう5時を回っていた。
塾の時間が迫っていたので私はメガネをはずして慌てて席を立つ。
「すっ、すみませんっ」
おまけに荷物は教室だし!
なんかいろいろと最悪。
そう思いながら教室のドアを開けると、そこには私にそっくりな女の子が。
ありすだ―。
「ありす?何してんの?」
私が声をかけると、ありすは少し驚いた様子で振り返った。
夕日の色で髪が染まっていて、すごくきれいだった。
「あ、ありさ……」
「どうしたの?塾、遅れちゃうよ?」
「あのさ……ありさはさ、この世界の外に何があるか考えたことってある?」
「この世界って?」
私はありすがいる窓辺まで歩いて近づいた。
尋ねる私を見て、ありすは少しだけ微笑んで返す。
「うん、この学校っていう世界の外には何があると思う?」
「学校の外……それは普通に、親とか友達とか……さ」
「……私はね、変えようと思うの」
「何を……?」
「この世界を、私自身の力で」
そう言うありすの大きな瞳は、深い色をしていて……でも、とってもきれいに透き通っていて……。
この言葉は本気なんだとすぐに直感した。
「でも……変えるって、どうやって?」
ありすは私にその方法を伝えた。
一つ一つ、言葉を結ぶ口の動きがきれいで。
でも、私はその言葉に目を見開いた。

6:リオン:2015/07/26(日) 18:41

。。。ARISU side。。。

赤く染まった空を見上げながら、私は今までの事を考えていた。
窓ガラスを割った男子生徒。怒鳴り散らす先生たち。それに集まっていく野次馬。
本当に、本当にこれでいいのだろうか?
自分の……自分たちのこのちっぽけな世界の外に出ることができれば、何かが変わるのではないだろうか。
私は空に右手を伸ばした。
その時、ある方法が頭の中に浮かんだ。
「ありす?」
不意に声をかけられ、ドキッとして振り返った私を見つめる女の子。
「あ、ありさ……」
突然声をかけられた驚きと、自分の考えをありさに言おうかという迷いが混ざってそれしか声が出てこない。
でも、私は、意を決意していうことにした。
「塾、遅れちゃうよ?」
私はその言葉には答えなかった。
「あのさ……ありさはさ、この世界の外に何があるか考えたことってある?」
私のその質問にありさは少し戸惑った様子だった。
「どういうこと?」
分からなくて当たり前。だって、分かりにくいことだし、私の考えがありさに分かるはずがないのだから。
「私はね、変えようと思うの」
私はありさをまっすぐに見つめる。
「あのね……」
私が話したことはこうだった。
この学園には、必ずどの学年にも成績がトップクラスの者たちが集まる、特進化コースがある。
私とありさは、今このクラスにいる。
それで、理事長のところへ行き、考えを変えてもらうという事だった。
リスクは高いが、成功すれば、ずっと安心して学園生活を送ることができる。
もちろん、退学になっても構わない。
「そんな……危ないよ……」
ありさは信じられないといった様子で首を横に振った。
「安心して。ありさに迷惑かけないから」
「ありす……」
ありさは私の手をぎゅっと握りしめた。
「ちょっとは迷惑かけてよ……ありすの妹なんだからさ」
私はその言葉に、ギュッと手を握り返した。
しかし私は「いいの?」と聞いた。
こればかりは、本当に危険なことなので、できれば妹を巻き込みたくないのだ。
「もちろん」
ありさは笑顔で答えてくれた。


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