乱れる世の中でも、変わらず存在し続ける、月
入る者を拒むその別世界の中、彼らはそこにいる
厳格な掟で結ばれたその世界に、大小の騒動が巻き起こる時
禁断の扉は開かれる。
では、この物語を始めよう。
すべてはあの世界の中に。
phase0
「命月!」
メイゲツ族の屋敷に駆け込んできたのは徊月である。
「命月はいないか!?」
······やけに切羽詰まっている様子だ。
ただ、それを聞いてやって来たのはやけにのほほんとした少女であった。
「命月さんなら居ませんよー?何のご用ですか?」
「なっ···なら副族長はいないか?銘月は流石にいるだろう!」
「不在です」
突き放す少女。······徊月は空を見上げた。
「なら仕方ない。内々で処理するからな······」
「あっ、駄目ですよ。一応副副族長の私に報告してってください」
「······」
頭を抱えそうになった。
ともかく、緊急性が段違いの事柄である。
「ザンゲツ族が壊滅寸前だ。既に斬月以外全員が新月になってる」
「······」
「命月が戻ってきたら言っておいてくれ。こっちはこっちで調査を始める」
徊月が屋敷を出ると、まるで出待ちをしていたが如く、ちょうど二人の少女がそこを通る。
彼の目が光った。
「双月じゃないか。族長のパーティーでもあるのかな?」
「「······?」」
ソウゲツ族の長、双月。通りすがりの二人の少女はその人であった。
そして冗談を言うも怪訝な目で見られる徊月。
「まあまあ。話を聞いてくれ」
「「···何?こっちも暇じゃないんだけど···」」
至極真っ当な言である。現在のソウゲツ族は混乱の渦中にあるのだ。
「そこを何とか。まともに動ける戦力はお前さんくらいなんだ」
「「······戦争でもするの?」」
「まあそう···とも言えるな。ああ面倒だ、全部言ってしまおう」
彼が大まかに説明したのはおおよそ信じ難いことだった。
ザンゲツ族が月神の殺害に向けて動いた、という。
「「······!?」」
···当たり前だが月神に危害を加える行為は重罪も重罪である――そもそも試した者がいない。
今までは月の巫女がその好奇心を抑えつけていたのだが、彼女が死亡した今、頭がおかしくなった輩がいないとも限らない。
そして、その最悪に近い事態が起こってしまった。巫女がいないため神の生死は不明。
先程は命月ではなかったためかなり適当に話したが、これが事態の真相だ。
「「······とりあえず、ザンゲツ族は取り潰しだね?」」
「そうだろうね。そもそも族長以外新月になってるからなぁ」
双月の言に頷く徊月。
「次の14番手は···ひとまずゼツゲツ族になりそうかな」
「「たった一人なのに···絶月も大変だね」」
「ユイゲツ族もそんな感じだから良いだろう。···それに全ては月神の無事を確認してからだね」
ともかくである。
「とりあえず双月。今すぐ照陽の海に行ってきてくれるかな?斬月はまだそこにいるから」
「「了解。殺しちゃってもいいよね?」」
「とりあえず月神の安否だけ確認したら後はどうとでも」
その瞬間、徊月の眼前から双月の姿は消えていた。
「······さて、大丈夫だとは思うけど······こっちからも増援送っておこうかな?」
そして、そう呟いた徊月も、元来た道を引き返す。
不思議な空気が月に漂い始めた。
「······」
地球を背後に回して、一人の男がそこに立っていた。
場所は、照陽の海。平坦な低地である。
「「いた」」
彼を見つけ、文字通り飛んでやって来た双月が武器を構える。
「「斬月。お縄だよ」」
男の名は、斬月。月神の殺害の容疑がかかる、『とりあえず捕まえろ、生死は問わない』の対象となる、もはや敵と言っても過言ではない存在だった。
ただ、彼は存外冷静だった。
「その前に聞くことあるだろ?······その後に戦うなりなんなりしてやる」
「「······月神は?」」
「俺に勝てたら教えてやろう」
刀が抜かれた。星を斬りそうな程の大業物が、凛々と鍔鳴りを響かせて現れる。
双月もその得物を構える。大鉄槌と、斬月には劣るものの、刀。だが、双月は手数に勝る。
戦闘の開幕は突然であった。
新スレおめ
9:鷹嶺さん◆lIlJ.:2022/05/07(土) 14:34 >>8
ごめんなさい間違えました