冤罪者の鎮魂曲

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1:マキ:2013/07/13(土) 19:03 ID:2Sc

冤罪者の鎮魂曲

 冤罪。
 それは罪無き者が罰せられる事。
 何時の時代になっても、冤罪は消えない。
 そもそも、冤罪が生まれ行く原因は「人が裁く」と言う事にある。
 
 冤罪と言うのは、どうして生まれるのか――……
 警察が間違った方法で真実を得ようとしているからか――……
 新犯人が証拠を消したり、他人を犯人にしようとしているからか――……
 いや――……
 冤罪者は結局を言うと、悪いのは警察ではなく――……
 『間違われる奴が悪い』
 ――らしい……。

 
 【作者コメント】
 こんにちは、マキです^^
 アドバイスや感想コメント大歓迎です^^
 (荒らしや中傷はやめて下さい)←

50:戦刃むくろ ◆Anf.:2013/09/18(水) 00:21 ID:e3M

葉っぱ天国の素人が創作した小説で初めて面白いと思った。
頑張れ。

51:マキ:2013/09/21(土) 10:30 ID:TUE

 戦刃むくろさん>>

 コメント有難う御座います
 面白い、と言っていただけてとても嬉しく思います(#^.^#)
 ですが、葉っぱ天国には私のような者が作る小説よりも
 はるかに高レベルな小説を作る方々が大勢います。
 私なんて、足元にも及びません

 コメント、誠に有難う御座います
 これからも、頑張ります
 お暇があれば、またコメント宜しくお願いします

52:マキ:2013/09/21(土) 23:24 ID:TUE

『と、こ、ろ、でー』
 幼稚臭い事をズラズラと並べられていると、不意に電話越しの人物はそんな事を言った。
 変に一文字一文字の間を空けたのは、何を思っての事なのだろうか。
 浦風は反発の言葉を投げかけようと口を開く。っが、それよりも早く電話越しの人物は続けた。
『浦風君ってちっちゃい子好き?』
 間髪入れずに放たれたその言葉。
 それを聞いた途端、浦風は固まった。そして、どう答えるべきか迷った。
 ちっちゃい子、とは、‘幼女’と捉えるべきなのだろうが。
 そして、もっと考えるのであれば、その質問は浦風が幼女好きなのか聞いているということである。
 それを人知れず察した浦風は、あからさまに顔をしかめた。
「あの、さーせん。電話切っていいッスか?」
『っえ?! なんで?! ロリコンなのか、聞いてるだけじゃ――』
「黙れ、クズがッ」
 浦風からなんとも言えない殺気がそこらじゅうに放たれる。
 殺気を空気的に感じると、矢野は「壁殴んじゃねーぞー」と浦風に念を押す。
『まぁまぁ。話は最後まで聞いてよ。……君も男でしょ? だったら、‘ミッション’とか訊くと燃えない?』
 口角が上がった。
 電話越しでもそれが理解できるほど、電話越しの人物は話し方に感情を込めたようだった。
 「……わりぃな。俺はミッションとか言う言葉には心揺るがねぇんだよ」と浦風は言う。
 電話越しの人物は笑った。
『でもさっ。人生に一回くらい、あってもイイとは思わない? とっても、とっても刺激的な……――』
 浦風は表情を険しくし、受話器から発せられる声に耳を傾けた。
 人を小馬鹿にしたような口調の言葉に。
 自分の人生をぶち壊すことになる言葉に。

『――死ぬほど充実した、‘ミッション’って』

 やはり、人のことを馬鹿にしたような口調だった。

53:りな ◆fDt6:2013/09/21(土) 23:40 ID:GgY

「さぁ、どんなミッションなんだっ!?」
次回浦風がーーーー………っっ!?

↑心の実況↑

54:マキ:2013/09/22(日) 09:11 ID:TUE

 りな>>

 さぁて、どんなミッションでしょうか〜(2828←
 乞うご期待! って言っておきたいけど、期待される程の物でもないしね-▽-
 まぁ、浦風が死なない事を祈っていて下さい←

 浦風「っえ゛?」 

55:マキ:2013/09/22(日) 16:50 ID:TUE

 ミッションとは、一体どういう物なのか。
 浦風は顔をしかめた。
「自分の素性を明かさねぇのに、ずいぶん勝手なこと言うなぁ。テメェ」
 低い声で言うと、受話器から鼻で笑うような声が聴こえた。
 浦風が投げている質問は、問いかけて良い質問と言えるはずだ。
『アッハハ。僕の素性? そうだな〜……。容疑者Xとでも名乗っておくよ。面白いでしょ?』
 面白いわけあるかっ、と言ってやろうと思ったもののやめることにした。
 言ったら言ったで、電話越しの人物のペースに乗せられているような気がしたからだ。
 代わりと言ってはなんだが「っで、ミッションってなに」と素っ気ない口調で聞く。
 『クスッ』と鼻で笑うのが、受話器から浦風の耳に入った。
『君が警視庁に呼ばれて、事情聴取を受けた理由って何となく解かってるよね?』
 浦風が所轄署を差し置いて速攻で本庁に連れて行かれたのは、どうも幼女刺殺事件が関連している。
 どうにも、事件のナイフに浦風の指紋がついていたのが浦風をマークする決め手となったらしいが。
 詳しい理由は知らないものの、それくらいなら通常は使わない浦風の頭でも理解している。
「……餓鬼殺しで、らしいな。それ以上は――」
 「それ以上は知らない」と言うつもりが、不意にも脳裏に映った光景がその言葉を遮断させた。
 光景。刑事の男が、突如動かなくなった。あの光景。
 声にならない嘆きが浦風の口から溢れた。
「ッ――……!」
『っお? まさか、まさか? 思い出しちゃった? あの刑事さんが死んじゃった時のこ、う、け――』
「うるせぇッ!」
 焦りを隠せない浦風の怒鳴り声が、その場に小さく響いた。

56:りな ◆fDt6:2013/09/22(日) 20:53 ID:OOQ

もしかして……警察じゃなくて例の携帯電話の人……?(勝手に警察だと思っている)

そして、犯人!?

浦風くんがんばれ〜っ

57:マキ:2013/09/23(月) 12:54 ID:TUE

 りな>>

 浦風君、応援されてるんだから頑張ってね!
 私も応援するからっ!
 浦風「いやいや。俺の今後を決めるのはお前だから。
  頑張れって言われてもどうしようもねぇんだけど……」

 りなも応援してるんだから、頑張ってねっ!←念押し

 浦風「……はい……」

58:マキ:2013/09/27(金) 22:46 ID:jUs

 不意に、浦風の頭にとある質問が浮かんだ。
 それは、浦風が電話越しの人物と接触できた際必ず聞こうと思っていたもので。
 浦風は動揺を隠すことが出来ないまま、その質問を口にした。
「なんで……なんで、テメェ、あの兄ちゃんが……」
 あの時。
 あの刑事の男が動かなくなる前に電話越しの人物が言った言葉。
――その男の人……撃たれて死んじゃうよ?――
 言葉とは裏腹な軽い口調。
 嫌と言うほど鮮明に覚えているその言葉の意味。
 その言葉を聞いた後、男は動かなくなった。
 その光景は忘れることなく、浦風の頭の中に残っている。
『っえ? ……あぁー。あのお兄さんのこと? っえ? 浦風君そんなことも解かんないの?』
 口調が軽すぎてイラっとくる。
 不思議と浦風がそう思うことは無かった。
 それとは逆に、焦りと恐怖が浦風を襲った。
 そんな浦風など知ったこっちゃないとでも言うように、電話越しの人物はいつもの口調で続ける。
『そんなの決まってるじゃん』
 その後の言葉は解かるから、言わないでくれ。
 不意にもそんな事を思ってしまう。
 自然に、後の言葉を聞かないようにと耳を塞ぎたくなる。
 しかし――

『僕があのお兄さんを撃ったからだよ』

 ――その言葉を言う者は、遠慮など知らぬ様子だ。

59:マキ:2013/10/06(日) 10:37 ID:jUs

 浦風の時間が一瞬止まった。
 受話器から何故か笑い声が上がる。
 続いて『あれー? どうしたの、浦風くーん』と人を馬鹿にするような声が飛んだ。
 他にも戯言(たわごと)をほざくように電話越しの人物は言葉を並べた。
 そして言うのだ。
 浦風に課せられた‘ミッション’とやらを。

『っあ、うん。でねー? 幼女刺殺事件と同じくらい今騒がれてる事件知ってる?』
 知るか。
 そういい返したかったが、口が動かなかった。
 頭の回転事態がストップしたかのように、浦風は一切の言動能力を持っていなかった。
 電話越しの人物はそんな浦風を無視しながら続ける。
『‘幼女誘拐事件’って、知ってるでしょ?』
 淡々とした子供のような口調が浦風に問いかける。
 それは浦風にも聞きおぼえがあった。
 幼女刺殺事件と同じくらいの動揺を人々に与えた事件だ。
 ここ数日、幼女刺殺事件同様、新聞やテレビで報道されている。
『っで、その事件で誘拐された子たちがまだ見つかってないってのは、知ってるかなー?』
 どうでもよかった。
 どうせ、他人事だ。浦風には関係のないことだ。
『浦風君には、その子たちをヒーローみたいに助けてみて欲しいんだよ! 意味分かる?』
 どこか解かったような気がしたが、解からない方が良かったのかもしれない。
 しょせん戯言が並んだおかしな日本語でしかないのだ。電話越しの人物が言っていることは。
 だが、自分の頭にそう言い聞かせてしまったら何かを失ってしまう気がする。
 そんな考えが、浦風の頭のあちこちを行き来するのだ。

60:マキ:2013/10/12(土) 20:57 ID:jUs

「……ダークヒーロー、ってか……」
 浦風は呟くように言った。
 『え?』と言う電話越しの人物。
 浦風が静かに続ける。
「俺ぁ、ダークヒーローより根っからの悪役の方が向いてんだよな……。個人的な感想だけど」
 軽く笑って見せた。
 表情は読めないも、笑っているのは解かる。
 電話越しの人物はなにも返さない。
 少し経ってから『なにが言いたいの?』と返ってきた。
 浦風はうつむきがちだった顔を上げた。
「あんま自分勝手に話を推し進めんじゃねぇって言いてぇんだよ」

 浦風は受話器を置いた。
 振り返ると驚いた表情の矢野が呆然とした表情でたっていた。
 いかにも今の状況を説明してくれと言っている顔だ。
「お、お前、一体何があったってんだよ……」
 矢野が言う。浦風は矢野の顔を真っすぐ見つめた。その顔は真剣そのものの顔で。
 浦風は矢野の顔を見据えながらゆっくり口を開く。
「矢野」
 静かな言葉に、矢野は一瞬「はいっ」と変な声をあげそうになった。
 声を上げない代わりにか、矢野の表情には浦風への恐怖が露わとなっていた。
 浦風が静かに続ける。
「黙って俺に、協力してくれ」

61:マキ:2013/10/13(日) 10:52 ID:jUs

 矢野は浦風の口から発せられたその説明に耳を疑わずにいられなかった。
 第一突飛すぎる浦風の話を信じること自体が無理に近い。
 一通り浦風の話を聞き終えた時、矢野の頭の中は混乱状態に陥っていた。
 話されたことを整理するのに少なくとも五分は必要とされる。
「――っえ、あの、う、浦風君? つまり、お前の言ったことを整理してみると……」
 矢野は浦風に言われたことを順を追って言ってみる。
 
 まず、最近巷(ちまた)を騒がせている事件の重要参考人として仮逮捕。
 なぜか警視庁に直行で行ってみれば、ドラマ厨の部屋に連れて行かれドラマ厨の取り調べ。
 次に一人の刑事付きでトイレに行ってみたら外から音楽が聞こえ浦風が外に出ると携帯を発見。 
 その携帯に出てみると何かイラつく奴が出てきて付き添いの男が動かなくなった。
 その後は無我夢中で逃げて、今に至る。
 
 小学校の読書感想文の前置き並みの矢野の自己解釈説明に浦風は頷いた。
 矢野の表情が色が消えていく。
「あ、あの……じょ、ジョーダンだよね? 浦風君。お願い。ジョーダンかドッキリだって言って」
「俺的にはこの部屋を何かのドッキリかと思いてぇよ」
 うなだれる矢野に浦風は言う。
 矢野に状況を説明しろと言われ通された部屋は、壁全面的に同じ女の子が写ったポスターが貼ってある部屋だった。
 緑色の短い髪と青い目が特徴の女の子。 
 ポスターだけでは飽き足らずか、マネキン代のフィギアまで置いてある始末。
 浦風はこの部屋にただただため息をつくしかなかった。

62:リルル:2013/10/13(日) 21:27 ID:rRI

祝☆連載(?)3ヶ月!!

いきなり来てすいませんm(_ _)m

リルルと申します。

この物語には今日初めて出合ったのですが、もう夢中で読んでしまいました〜!!

これからもずーっと読ませていただきます〜。

時々コメすると思うので、その時はまたよろしくお願いします。

ではでは〜!!(^^♪

63:リルル:2013/10/13(日) 21:35 ID:rRI

>>62

今日初めて出合った × 
今日初めて出会った ○ 

です……。
わたくし、バカでして。
無駄レス申し訳ありませんっ。

64:マキ:2013/10/14(月) 08:25 ID:jUs

 リルルさん>>

 コメント有難う御座います。
 
 っえ? 投稿始めてから3ヶ月も経ってたんですか?!
 うわぁー……。
 ……何だか、驚きです。自分の小説なのに。

 む、夢中に、ですか?
 こんな突飛すぎる小説をそのような感情で呼んで下さっているなんて……っ
 有難う御座いますっ!

 はいっ! 
 これからもお暇があったらで良いのでコメントお願いします!
 では!
 本当にコメント有難う御座いました!

65:りな:2013/10/14(月) 08:54 ID:cFE

昨日で祝3ヵ月なんだね!
今日でうちがここに初コメして3ヵ月だ!

続きの展開超気になる!
今後もがんばってね〜♪

(by読者2号)

66:まっちゃ:2013/10/14(月) 09:03 ID:55Y

はじめまして!今日から小説書かせて頂きます!お願い致しますw

67:まっちゃ:2013/10/14(月) 09:06 ID:55Y

とてもいい話ですね!続きがきになります/(*´з`*)\

68:マキ:2013/10/14(月) 10:12 ID:jUs

 りな>>

 これもりなたちがいてくれたお陰だよ!
 きっと感想コメントとか無かったら挫折してた……←
 
 そして、3ヶ月も経ってるのに思った以上に話が進んでいないって言う現状……。
 頑張んなきゃな……っ
 それじゃ、りな!
 コメントいつも有難う!
 これからも暇があったら宜しく! 

 まっちゃさん>>

 コメント有難う御座いますっ!
 今日から小説投稿始めるんですか^^ 頑張って下さいね!
 お褒めの言葉有難う御座いますっ!

 これからもお暇があったらコメントお願いします!

69:マキ:2013/10/14(月) 10:46 ID:jUs

 矢野は考えた。浦風の言っていることを鵜呑(うの)みにするか否かでだ。
 冷静に考えればこんなにも突飛すぎるはなしはドラマやアニメでしか見たことがない。
 もっと考えるのであれば、基本不登校の自分に仕掛けられたなにかのドッキリなのか。
 そんな考えもあったが、目の前の腐れ縁の友人の真剣な面持ちはそんな考え持たせてくれなかった。
 頭が痛くなるのを矢野はおさえた。
 ため息をついて白い天井を見つめた。綺麗なくらい白い天井だ。
 矢野は目の前の浦風の顔をもう一度直視した。
 真剣だが、どこか恐怖を抱えているような悲しい顔。
 自然とため息がこぼれる。
「ハァー……。わぁったよ、俺のやれる範囲で協力してやるよ」
 浦風の表情が明るくなるのが解かった。
 同時に友人を巻き込んでしまったことに罪悪感でも感じているような顔を作る。
「テメェが協力しろつったんだろうが。なに自分で巻き込んで自分で落ち込んでんだよ」
 片手を上げて呆れたような顔で言う。
 浦風の口から「すまねぇ……」と重々しい言葉がこぼれる。
 矢野は「あぁあああぁぁ゛!」と言って頭を掻いた。
 面倒くさいとでも言うようなトーンだ。
 矢野がイラついた面持ちで浦風の顔を睨んだ。
 そして怒鳴るように叫んだ。

「天才弁護士、矢野徹(やの とおる)の息子! 矢野翼(やの つばさ)をなめじゃねぇぞ!」

70:マキ:2013/10/14(月) 12:51 ID:jUs

 まるで決め台詞を言いきった主人公のような面持ちの矢野を浦風は目をパチクリさせながら見つめた。
 浦風は矢野の家族が弁護士であることを知って矢野を訪ねに来たのだ。
 だが、なぜかしら決め顔でそんな事を言われると言葉を失う。
 なにが言いたいのか理解できなくなる。
 とにかく空気を呼んで「ッア、ウン。ソウダネ」と言っておく。
 片言だったので完全に矢野が怪訝しい顔をしたがそんなことはどうでもいい。
 浦風は険しい表情に戻り、本題を切り出した。
「っで……問題なのが……」
「その‘ミッション’ってヤツだな」
 浦風の言葉を矢野がつなぐ。
 浦風が険しい表情で「あぁ」とうなずく。
 矢野は考えるようにまた天井を見つめた。またも綺麗な白い天井が目に映る。
 少しの間をおいて「っで、そのミッションってヤツの内容は?」と浦風に問う。
「……餓鬼を救いだせだとよ。ヒーローみたいに」
 浦風がそう言うと、矢野は突然にも大声を上げて笑い出した。
 「ギャハハハハハッ」と不気味な笑いが家中にこだまする。
 浦風に怒りの感情が募る。
「なに笑ってんだよ。アマゾン川にフィギア捨てるぞ」
「アハハハハッ! だってよぉ! お前がヒーロー?! んだ、そりゃ! 笑えねェ!」
 「それにアマゾン川は日本のほぼ裏側だからいけねぇよ」と笑いながら付け加える矢野。
 矢野の発言に「腹の底から笑ってんじゃねぇか」と突っ込みを入れる浦風。
「だって、お前さー……ヒーローって器じゃねぇだろ? まぁ、ヒーローはヒーローでも……」
 矢野は片手で顔を覆った。そして手の下から黒色の瞳を覗かせる。

「ダークヒーローの方がお似合いだろ」

 それは浦風自信と同じ考えだ。
 浦風と矢野は口角を上げた。

71:マキ:2013/10/14(月) 20:59 ID:jUs

 浦風と矢野の考えが一致した。
 矢野が少し身を乗り出して「そのミッションとやらはいつだ」と切り出す。
「……午後一時。ショッピングモールに行けってよ。その後のことはそん時って言われた……」
「確定された連絡手段は言われてないわけか」
 矢野の痛い言葉に浦風はうなだれた。
 しかし、矢野はそんな浦風は放ることにして「っで」と口を開く。
「話は少々巻き戻って、お前が所轄署を差し置いて本庁へ直行したわけってのは」
「事件に使用とされたと思われるナイフになぜか俺の指紋が付いてたから」
 浦風が座っているソファの背凭れに寄りかかる。
 天井を通り越して自分の背後が見えた。相変わらずのフィギアが目に入った。
「そんだけじゃ物的証拠としては扱われない。そもそも、お前と殺された餓鬼。会ったこともねぇんだろ?」
 流石は天才弁護士と名高い男の息子、とでも言ったところだろうか。
 顔がマジだ。高校に上がってから二年間、二次元に囚われ学校には全く来ていないような奴のツラではない。
 と、一人静かに思う浦風であった。
 浦風は矢野の問いに「今回のニュースで初めて知ったよ」とそっけなく返した。
 矢野が顎に手をあてる。ドラマやアニメで探偵がするポーズだ。
「つーことは、ケーサツは指紋だけをカテにお前をパクるつもりだったわけだ」
「? 指紋だけじゃダメなのか?」
「いや、それでも場合によっちゃ充分だ。普通だったらな」
 真剣な面持ちの矢野に「どう言う意味だよ」と再び問う。
 矢野は浦風の問いにゆっくりと、懇切丁寧に、とまでは言わないがそれなりの親切さをこめた説明をする。
「指紋が出たとは言え相手は高校生だぞ? 前科持ちとは言え、最近では全く問題を起こしていない奴だ」
 「指紋だけで引っ張ろうとしたなんて考えられねェ」と矢野は付け加えた。
 真剣な面持ちの矢野。浦風は落ち込んだような顔でうつむいた。
 浦風の頭の中は「だったら、なんで」と言う言葉でいっぱいになっていた。

72:マキ:2013/10/19(土) 17:13 ID:Qfw

 矢野は人知れず目の前の友人の心境を察する。
 そして、言うかどうか悩んでいた言葉を静かに口にした。

「……ケーサツに、お前を犯人に仕立て上げようとしている奴がいるのかもしれねぇ」

 沈黙が流れた。
 浦風も矢野もなにも言わない。
 なにも言えない。
 その沈黙を破ったのは矢野だった。
「まぁ、これはただの推測だ。確信なんかねぇよ」
 最後に「まぁ、ホントにそうだったらお前そうとう嫌われてるってことだけどよ」と付け加える。
 浦風はなにも言わない。
 黙ったままだ。顔を見せないせいで、なにを考えているのかさへ矢野には理解できない。
 矢野は無表情になってため息をついた。
「……ホントにそうだったら、俺はどうすればいい」
 沈黙を挟んでのその言葉はひどく重い声だった。
 矢野は友人のその言葉にどう答えて良いのか解からなかった。
 笑って「知るか」と言ってやるべきか。真面目な顔で「さぁな」と言ってやるべきか。それとも……――。
 どの考えも名案ではなかった。
「……ホントにそうだったら、俺はお前になんて謝ればいい」
 沈んだ声だった。
 「なんで謝んだよ」と矢野が言う。
「だって、ケーサツ相手じゃお前でも太刀打ちできねェじゃねぇか。お前に……物凄い迷惑かけるじゃねぇか」
 本当に、酷く落ち込んだような口調だった。

73:きゅー:2013/10/19(土) 18:26 ID:SSE

この小説面白いです!

犯人の正体すごく知りたいです( *`ω´) !!

74:マキ:2013/10/19(土) 19:27 ID:Qfw

 きゅーさん>>

 コメント有難う御座います

 面白い、と言って頂けて嬉しいです^^
 犯人の正体……ですか?
 実を言うと、私も解かりまs((殴

 犯人の正体……ですか?
 それは、まだまだ秘密ですよ^^
 
 では。
 コメント本当に有難う御座います
 今後もお暇があったらコメント宜しくお願いします

75:マキ:2013/10/19(土) 22:19 ID:Qfw

 矢野は黙って浦風の頭にチョップを喰らわせた。
 「いっで」と声を上げると、浦風は頭をさすって顔を上げた。
 無表情の矢野の顔が見えた。
 「なにすんだ、テメェ」と言うと、矢野は静かに言った。
「迷惑? 今更、何言ってやがる。今更んなこと言ったってどうしようもねぇだろうが」
 最後に「イラつく」と付け加えて、矢野は言った。
 浦風は驚いたような表情を作った。
 コイツこんな良い奴だったっけ?、と頭の中に疑問を浮かばせていたのだ。
 しかし、その疑問はすぐに打ち砕いて、静かに笑って見せた。
 「ワリィ」と笑いながら答える。
 「謝んな、ド阿保」と矢野がイラついた表情で答えた。
 これが普通なのだ。
 そう、これが浦風秀哉と言う人間と矢野翼と言う人間の関係なのだ。
 憎まれ口を叩いて殴り合える関係なのだ。
 一方が笑っていれば、一方が怒っている関係なのだ。
 その普通が目の前に広がることが、浦風にとってどれほど温かい物なのか――。
 到底矢野には理解出来ないものだろう。
 
『ピンポーン!』

 不意に無機質な音が家中にこだました。
 二人とも驚いた顔色でその部屋の扉に目を向ける。
 そして顔を見合わせた。

76:マキ:2013/11/03(日) 09:19 ID:zic

 片桐は一之瀬と一人の男と一緒にとある一軒家に訪れていた。
 今、巷を騒がせている幼女刺殺事件と警視庁で起こった刑事射殺事件の重要参考人の友人の家だ。
 片桐の記憶が正しければ、家の住人の名前は矢野翼。
 天才弁護士の息子で、数年ほど前からひきこもりになったとか。
 確か中学生の女の子もいたと聞いたが、今の片桐にその情報はさほど関係ない。
「おい、片桐」
 片桐がきつい眼差しでその家を凝視していると、不意に一之瀬が片桐の名を呼んだ。
 突然のことに一瞬ひるむも、「なに」とすぐに切り替える片桐。
「……んな、鬼みてェな顔してんじゃねぇよ。相手さん、まだ高校生なのに女の本性を知ることになるぞ」
 「悲しい現実は成人になってからでいい」と付け加える一之瀬。
 一之瀬の言葉にカチンと来たのか、片桐は自分の周りに黒いオーラをまとわせる。
「それは何か? ケンカ売ってんの? ケンカ売ってんでしょ? 私、ケンカ売られてるんでしょ?」
「心外だな。俺は自分より年下の奴にケンカを売るようなことはしねェ」
「年下つっても、数ヶ月だけでしょうが! そんだけで年上気分に浸ってんじゃないわよ!」
「肉体年齢の話じゃねェ。精神年齢の話だ。俺は精神年齢小学生にケンカは売らねェって言ってんだ」
「アンタ、やっぱりケンカ売ってんだろ!?」
 いつの間にか口喧嘩を勃発させる二人。
 そんな二人を呆れ顔で見つめていた男がため息を吐いた後、一人その家のインターフォンを押した。
 男はインターフォンを押すと、面倒くさいと言わんばかりに頭を掻いた。
 少し経つと家のドアが、チェーンをつけたまま開いた。
 ドアの隙間から茶髪の髪を持った少年が顔を出す。
 少し怪訝しそうな顔をつくった後「誰ッスか、アンタら」と少年は言った。
 男は言い争う二人を一瞥した後、「警視庁から来ました」と極力丁寧な口調で言ってみせた。

77:マキ:2013/11/03(日) 20:08 ID:zic

 少年は訝(いぶか)しげな顔でその男を睨む。男は面倒くさいと言うように頭を掻く。
「……ホントにケーサツなんすか」
 少年は男に問う。少年の視線は男から言い争う片桐と一之瀬に向けられていた。
 男はその二人を一度だけ見据えた後、少年に顔を向けた。
「そーだよー、ケーサツだよー。あそこに体は大人、頭脳は子供の人がいるけど間違いなくケーサツだよー」
「……それ逆じゃないっすか?」
 「良いんだよ、そういうことは」と言って、男は少年にドアを開けるよう言った。
 少年は目の前の男と言い争う二人を交互に見据えた後、ため息をついて一度ドアを閉めた。
 チェーンを外す音が聞こえて少し経つと、ドアが静かに開いた。
 少年が黄色いカチューシャをつけた頭を掻きながら「どーぞ」と男に言った。
 男は「どーも」と言って家の中に上がった。
 言い争う二人を置いて。

 * * *

「――最近の浦風秀哉との接触はー?」
 少女が描かれたポスターが壁と言う壁に貼られた部屋の中で男は言った。
 少年はその部屋の入り口付近で口に手を当てながらあくびを一回。
 男に言われて、少年は「あ? 浦風?」と聞き返す。
 男は部屋の中を一瞥し、部屋中央にあいてあるソファに腰掛ける。
「っそ。浦風秀哉。聞くには小学校時代からの知り合いらしいじゃん。最近も会ってんの?」
 警察の者とは思えない口調の男に少年は呆れを覚える。
 少年は男の質問に頭を掻きながら答えた。
「浦風君とならついさっき会ったよー? もー、どっか行っちゃったけど」
 少年の口調も男と引けを取らない。
 男は少年の発言に具体的な感情を示さず「ふーん」と返した。

78:マキ:2013/11/04(月) 10:03 ID:zic

「行き先はー?」
 脱力感溢れる男の口調に、少年は気を悪くするでもなく「駅前のショッピングモール」と答えた。
 男はそれを聞くと「あざした」と言ってソファから立ち上がった。少年はまたも訝しげな顔をつくる。
「信じんのかよ」
「疑うことは大事だが、信じる方が何かと良いんでね」
 少年の質問に男はケロリとした顔で返した。
 その部屋を出ようとする男の背中に少年は言う。
「アイツは……浦風は餓鬼殺しなんてやってねぇ」
 男は少年の顔を見た。長い髪のせいで表情は読めたものではないが、少年の口調で今の表情に察しはついた。
 一度ため息をつくと、男は玄関に歩を進めながら言った。
「それを決めるのは俺でもお前でもねェ。どこぞのお偉い裁判官だ」
 「そっちに至っては、お前の親父さんの方が適任だろ」と付け加えて、男は玄関へ向かった。

 * * *

 男は少年宅を出た後、ズボンのポケットから携帯を取り出しどこかにかけた。
 プッシュ音のあと着信音が男の耳に届き、少し経つと着信音が切れる音がした。同時に誰かが電話に出た。
「っあ、龍崎(りゅうざき)です。はい。容疑者の友人宅捜査終えました。はい」
 まだ言い争っている精神年齢小学生を無視して、男は続ける。
「容疑者、来てませんでした。はい。えぇ。こっちじゃ足取りもつかめそうにねェっすわ。えぇ」
 「引き続き、そこらへん捜査します」と言って、男は電話を切った。
 携帯をポケットに入れなおすと、男はスタスタとどこかへ向かって歩き出した。
「――っあ、っちょ、どこ行くのよ、龍崎……!」
 男の行動に、一之瀬と言い争っていた片桐が疑問符を浮かべ、そう言った。男は片桐の質問に一言。
「駅前のショッピングモール」

79:愛乃れい(元、りな):2013/11/04(月) 23:14 ID:9Fk

刑事さん信じるんだ...←うちも信じる。
逃走劇だなんてヤバい(//▽//)
っていうか、家に居るじゃん(笑)

80:匿名さん:2013/11/09(土) 16:36 ID:Viw

上げ♪(*^ ^)ノ

81:マキ:2013/11/09(土) 22:02 ID:zic

 れい>>

 コメントありがと!
 逃走劇なんて響きの良いものじゃないよ((笑
 でも、まあ、うん。
 頑張るだけ、頑張るよ←

 匿名さん>>

 有難うございます!

82:マキ:2013/11/09(土) 22:40 ID:zic

 矢野はソファに腰を沈め、白い天井を見ながらため息をついた。どうしよもない脱力感が矢野を襲う。
 その時、矢野の頭を駆け巡るのは腐れ縁の友人の顔と、その友人の二つの言葉だった。
 つい先ほど、家のインターフォンがなった時、矢野は即座にその友人に家の裏口から逃げるよう言った。
 友人は少しだけ反抗の色の見せたが、矢野の真剣な面持ちで言葉を詰めていた。
「いいから、行けつってんだよ」
 そう言って、矢野は壁に掛けられていたハンガーから紺色のパーカーを友人に投げつけた。
 友人はひどく困惑した表情で矢野を見つめていた。
 矢野は頭を掻きながら「その服、洗濯して返せよ」と言ってゆっくりと玄関へ向かった。
 友人は矢野の名前を呼んだ。「んだよ」と言いながら振り返ると、そこにはあまり見ない友人の真面目な顔が見えた。
 友人はその顔で矢野を見つめながら言った。「ホントに、ワリィ」と。
 そして――

「次は、このキャラの名前、フルで言ってみせらあ」

 ――そう言って、友人は家の裏口へ向かった。
 矢野はその友人がどこに向かうのか察しがついていた。
 友人は‘ダークヒーロー’になりに行くのだ。
 矢野は苦笑すると玄関のドアの前に立った。
 そして、今。
 矢野は、一人、天井を見ながらつぶやいた。

「言えなかったら訴えてやらあ」

 第三話・幼女誘拐事件 終 

83:愛乃れい:2013/11/10(日) 00:42 ID:9Fk

三章も、やっぱり素晴らしい!!

友情…(感動っ)

84:マキ:2013/11/10(日) 14:43 ID:zic

 れい>>

 コメントありがとう!
 第三話も無事完結! これも、れいたちのお陰だよ!
 
 友情ね……。うん。
 きっと、仲良いんだろうね。あの二人。

85:マキ:2013/11/17(日) 12:05 ID:zic

 第四話・幼女救出作戦

 駅前に位置する、大手デパート。
 デパート中心に広い中庭を構え、洋服店、飲食店などが配置される。
 他にも、そこには中庭一個と半分をしめる巨大ホールも設置してある。
 そのホールに設置された非常用階段への鉄筋扉が、静かに、内側に開いて行く。そして、
「よし……誰もいねェな」
 そこから、警戒心を尋常じゃないほど露わにした浦風が顔を出した。
 ほとんど人通りのないデパートの通路に設置された扉をあけると、浦風は物静かに誰もいない通路に出た。
 通路に出ると、つい先ほど矢野に貸してもらった紺色トレーナーのパーカーを深くかぶった。
 一度ため息をついて誰もいない通路を見る。
「来れたもんには来れたが、流石に早すぎたか……。車力半端ねェ」
 誰もいない通路に人知れず設置されてある時計を見る。十一を少し過ぎたころだった。
 矢野の家を出た浦風。
 すぐ近くに今いるデパートへ向かうトラックを見つけた浦風は、すぐさま行動を起こした。
 「ヤバいかなー……」と思いつつ決心し、そのトラックに乗り込み歩くよりも早くデパートに到着したのだ。
 だが、
「俺、どうすんのッ?」
 心配は募るばかりなのだ。

86:マキ:2013/11/24(日) 14:37 ID:zic

『――お客様のお呼び出しを致します』
 
 不意に、デパート内に放送が入り浦風はその放送に耳を貸しながら人通りの無い通路から普通通路に出た。
 誰もいない通路は幅が広く、壁とガラス窓で囲まれていた。ガラス窓を覗くと広いデパートの中庭が見える。

『浦風、秀哉様〜、浦風、秀哉様〜。落し物が届いております。至急――』

 デパートなどの独特な区切り放送を聞いて、浦風は宛ても無く動かしていた足をとめた。
 そして、壁に設置されている新品同様の綺麗なスピーカーに目を向けた。
 一瞬、驚きと困惑が入り混じった顔で「っえ」と漏らしたが、放送の声はもう一度同じことを言った。
 疑心を募らせ、不審に思う浦風。
 同姓同名? いや。偶然にだってほどが……。
 そんな事を考えながらスピーカーを見ていた浦風はある答えに行きついた。
 それは不意に思ったに過ぎない答えだったが、どこか自分に説得力を持たせるものだった。
 浦風は渋い顔をつくって、声を漏らした。

「あの野郎か……」

 それは、今の現状をつくりだした元凶の……――。

 * * *

「――お手数お掛けしてしまい、申し訳ありません」

 浦風が放送で指定された個室に向かうと、少なからず美人に類される女性が頭を下げながらそう言った。
 今、『落し物管理センター』と言う名札が掛けられている個室の前に浦風はいた。
 その目の前には赤い柄の携帯を持った美人の女性が一人。
 浦風は「ああ、大丈夫っすよ」と丁重に言いながら女性と向き合う。

「っで、あの、そのケータイなんですけど……」
「ああ。どうぞ」

 女性は特になにを言うでもなく、浦風に携帯をつきだした。浦風はそれをぎこちない仕草で受け取る。
 その際、

「あの、このケータイ、どこにあったんですか? でもって、俺……のだって解かった理由とかって……」

 浦風は区切り区切りに聞く。なるべく変な感情を抱かせないよう自然と笑みを浮かべながら。
 女性は浦風のそんな考えを察する様子もなく「ああ」と微笑みがちに言った。

「つい先ほど、こちらに届けられて、電話がかかってきたんですよ」

 女性の言葉に「電話?」と浦風は聞き返した。

87:きゅー:2013/11/24(日) 20:43 ID:gBM

久しぶりに来ちゃいました( ̄▽ ̄)

やっぱり面白いです!( ̄▽ ̄♡))
しかも心情が上手過ぎますよ…!!

88:マキ:2013/11/29(金) 22:31 ID:zic

 きゅーさん>>

 コメント有難うございます。

 お褒めの言葉、光栄に思います!
 自分では、これで本当にいいのか分からないので、
 きゅーさんのように、率直な一言が頂けるとありがたいです。
 有難うございます

89:Siki:2013/11/29(金) 22:39 ID:APM

こんにちは!
読ませて頂きました!

すごく面白いです!更新頑張ってくださいね!

90:マキ:2013/11/30(土) 10:15 ID:zic

 Sikiさん>>

 コメント有難うございます

 Sikiさんにコメントをいただけるとは……長生きはするものですね←w
 お褒めの言葉、ありがたいです

 これからも皆さんに「面白い」と言ってもらえるよう努力する所存です
 では、コメント有難うございました
 今後もお暇があれば、お願いします

91:マキ:2013/11/30(土) 11:03 ID:zic

 浦風の聞き返しに女性は頬笑みを浮かべる顔で「はい」と答える。

「『浦風君って言う子がこの携帯落っことして今泣き喚いてるんです』って言って……」

 頬笑みの顔でそう言われ、浦風は怒りに似た感情を芽生えさせた。
 浦風はそこらへんの物を破壊したくなる衝動を抑えて「へぇー、俺が泣き喚いてるー」と言う。
 女性は、まだ頬笑みを浮かべて言う。

「ええ。あと、『茶髪で髪の毛をピンでとめてる子だからすぐ解かります』と言われましたね」

 浦風はそれを聞いてなるほどと納得した。
 だから、本当に自分の手にある携帯が浦風の物だと簡単に断定したのだろう。
 まあ、正確には浦風の物ではないが。
 「っあ、そう言えば」と女性は何か思い出したように言う。

「『黒いパーカーを着ていて、その下は学ランだけど怪しまないで下さいね。近くでバイトしてるだけなんで』」

 「って、笑って言ってましたよ」と女性は付け加える。
 女性は「怪しむ」と言うことを知らないように微笑んだ。
 しかし、それとは対照的に浦風は目を見開き言葉を失った。 
 「そうッスか。有難うございました」と言って浦風は頭を下げると、踵(きびす)を返し駈け出した。
 そして、考えた。

――どうして、電話の相手は自分がパーカーを着ていることを知っている?――

 浦風が今着ているパーカーを着始めたのは、矢野の家にいた時から。
 そう考えると、浦風は矢野の家にいた時から電話の主に監視されていたことになる。
 速めていた足を、浦風は緩めた。そして、自分の背後に目をやる。
 そこには天井に取り付けられた、防犯用のカメラが。
 浦風は、それを見て苦笑と自嘲を混ぜたような笑みを浮かべた。

「本格的すぎんだよ、『容疑者X』さんよお……」

92:マキ:2013/11/30(土) 18:55 ID:zic

「――ちょ、龍崎(りゅうざき)!」

 片桐は自分の前を黙々と進む男――龍崎(りゅうざき)の名を叫ぶように呼んだ。
 呼んでも全く微動だにせず、黙ったままの龍崎の肩に片桐は力強く手を置いた。
 「龍崎ってば!」と言いながら、無理に龍崎を振り向かせる片桐。
 背の高い建物を横に、龍崎は足をとめた。「なに?」と虚ろな目で片桐に問う。

「な、なにはこっちのセリフよ! 駅前のショッピングモールって、なんでそんなとこ向かってんのよ!」
「えー? なんとなくー?」

 龍崎の脱力したような答えに「はあ?!」と片桐は声を荒げる。
 龍崎は気の抜けた目で複雑な顔をする片桐を見ている。
 それとは対照的に、馬鹿でも見るような目で片桐は龍崎を見た。

「な、なんとなくって……、アンタふざけてんの? 私たちは遊んでるわけじゃないのよ」
「片桐の言うとおりだ。龍崎、今回の事件に関係あるなら構わないが説明くらいしてもらわねえと困る」

 片桐に一之瀬の加戦が加わる。
 龍崎は真面目な顔つきの片桐と一之瀬を前に、一度頭を掻いた。
 そして、虚ろな目を青い空に向ける。先ほどまで厚い雲が覆っていた空を。

「じゃあ、言うけど。怒んない?」
 
 「怒んない」とため息交じりな片桐。

「始末書モンだ、とか言わない?」

 「言わん」と鋭い目つきの一之瀬。

「自分たちはカンケー無いから他県に飛ばされるなら俺だけ飛ばされろ、とか言わない?」
 
 「「言わない」」と二人の揃った声。
 龍崎はなにを言うでもなく、少し考えるようなそぶりを見せた後、口を開いた。

「容疑者の浦風秀哉がショッピングモールに向かってるって、さっきの男の子が言ってたから」

 静寂が、三人の間だけを、包み込んだ。

93:マキ:2013/11/30(土) 22:23 ID:zic

 その静寂を突き破ったのは、片桐と一之瀬の二人だった。
 二人は打ち合わせでもしたかのように「はあああああああ゛?!」と同時に声を上げた。
 龍崎はその声が飛ぶ前に耳を塞ぎ、鼓膜が破れることは回避する。

「な、ちょ、はあ?! さっきの男の子って、や、矢野翼?! あ、あんたその時なにも……」
「言うわけ無いじゃん。だって、言ったら言ったで本庁に連絡するし」
「当たり前でしょ?! って言うか、あんた本庁に連絡してないんじゃないでしょうねぇ!?」
「っえ? してないけど? って言うかする必要がどこにあんの?」
「あんたの脳味噌はスポンジとワタの合体物か?!」
 
 「って言うかそんな怒んないでよ、片桐ちゃん」と龍崎は片桐を鎮めようとする。
 だが――

「龍崎! そんな重要な情報を本庁に報告してないなんて知れたら、始末書モンだぞ! 解かってんのか?!」
「なんとか回避するって。俺、本気の時はいろいろ開花する人だから」
「始末書書くのを回避する余裕があるなら、本庁に連絡入れろ!」
「やだよー。所轄に手柄とられるかもしんないのにー」
「子どもか、お前は! 容疑者逮捕が最優先だろうが! 始末書だけじゃすまねえぞ!」

 「わかったって。って言うか、始末書、始末書うるさい」と龍崎は一之瀬を鎮めようとする。
 しかし――

「移動がきてもお前だけ飛んでけ! 俺たちは一切関係ないからな!」
「他県の所轄に飛ばされることになっても、あんただけ飛びなさいよ! 私たちは全くの無関係だから!」

 二人は声を重ねて龍崎に言い張った。
 瞳孔を開き、怒鳴り散らす二人を前に龍崎はため息を吐いた。

「って言うか、さっき約束したことフツーに破ってない?」

94:愛乃れい:2013/12/01(日) 09:12 ID:9Fk

コント見てるみたいで楽しいっ!(笑)

普通に約束破っちゃってるじゃんw

95:マキ:2013/12/01(日) 09:37 ID:zic

 れい>>

 最近、書き方を変えてコメントを少し増やそうかと思ってね
 今まで無駄に描写とか心情とか多すぎて、
 セリフ無かったから読みずらいかなーって思ってさ^^
 そしたら、書いてるこっちも楽しかった←
 

96:マキ:2013/12/01(日) 11:38 ID:zic

 「って言うか、大丈夫だって」と言って、龍崎は片桐と一之瀬を追い越す。
 「なにが大丈夫なのよ」と片桐は龍崎の背後から喰いかかる。
 龍崎は足を止めず、片桐に背を向けたまま口を開いた。

「本庁にこのことバレる前に、浦風秀哉をしょっ引けば問題ねえだろ?」

 そう言う龍崎の顔は、先ほどまでの気の抜けた顔とは一風変わっていた。
 大きく開かれた瞳孔と、大きく上がった口角を見せるその顔を見て、一之瀬と片桐は息を呑んだ。
 先ほどのまでの軽い口調とは一変した、低い声に背筋を凍らせる。
 一之瀬も片桐もなにも言えなくなり、ただただ表情の変わった龍崎を見ていることしかできなかった。
 そんな二人を尻目に、龍崎は鼻で笑うと一人で黙々と足を速めた。
 
「……マジな目つきね」

 龍崎の背中を前方に、片桐が言う。「ああ」と一之瀬が短く肯定する。

「餓鬼殺しの容疑者逮捕がかかってんだ。アイツも本気なんだろうが……あの目は、まずいぞ」

 一之瀬は冷や汗を頬に垂らし、苦々しく言った。
 片桐も一之瀬の思っていることを察したのか「同感……」と声を低める。
 
「こら、あいつが逮捕する前に私たちが逮捕しないとまずいんじゃないの?」

 苦笑にも似た笑みを浮かべながら、片桐は言う。一之瀬も苦笑のような笑みを浮かべた。
 そして足を進めていく。
 歩を進める3人の背後に、人影がついてくることにも気付かず――……。

97:マキ:2013/12/01(日) 13:49 ID:zic

 不意に手元にある携帯が振動するのを感じて、天井に取り付けられた防犯カメラから視線をそらした。
 見れば、携帯の画面に『非通知』から着信がきている。
 浦風は一瞬どうすべきか迷ってから二つ折り式の携帯を開き、受信ボタンを押す。
 「もしもし」と戸惑ったように言うと、少しの間を置いて聞き覚えのある声が聞こえて来た。

『やー! 浦風君! 元気にしていたかい? 余裕はあるかい? 生きていることを謳歌しているかい?』

 電話越しから大声で突然的にそんな事を言われ、一瞬ひるみ携帯を耳から離す浦風。
 電話越しの相手はそんな浦風を気にかけてない様子で大声で続ける。

『いやー! 午後一時って言ったはずなのに早すぎるねー! どうしたの? 僕が恋しくなったのー?』
「その自信はどっから湧いてくんだ殺人魔っ」

 皮肉たっぷりに言ってみたが、相手にはそんなこと屁でも無いのか『あっははー!』と笑って返された。
 その笑いでさへも今の浦風にとっては、怒りを思わせるものであるわけで。

『まあ、いいや。浦風君の誠意に答えて、ちょっとだけ時間を早めておいてあげたからさ』

 口角を上げるのが電話越しでも察しがついた。
 浦風は「?」と思いつつ誰もいない通路で電話に耳を傾ける。
 壁とガラスで囲まれる通路。聞き耳を立てれば、通路の向こうから人の物らしき声が聞こえてくる。

『浦風君、その通路をまっすぐ進んだ先にある曲がり角を右に曲がってよ』

 一瞬眉間にしわを寄せ、自分の横に構えてある通路のガラス窓に目をやった。
 ガラス窓の外には小さな人の群れと、車の行列が大きな道路で成しているのが見える。
 その他にも大きなビルの群れがいくつか。
 浦風は立ち並ぶビルを睨みながら言われた通りまっすぐのびる通路の先にある右折道を曲がった。

98:マキ:2013/12/01(日) 17:39 ID:zic

『そしたら、まっすぐ進んでモールまで行ってよ』

 曲がり道を曲がったところで電話の主は言う。
 浦風は携帯と道を交互に見ながら、目の前の道を直進した。
 数メートル行けば、昼間だと言うのに子供を連れた母親が多いショッピングモールエリアが見える道。
 少し速足で歩くと、壁に設置されたスピーカーからショッピングモールのテーマソングが聞こえてくる。

『でもって……、はい! そこでストップ!』

 言われて、浦風は即座に足をとめた。そこは、デパートの中庭へ行く階段がすぐ横に設置された通路。
 階段が設置されているところの反対側には洋服店がズラーっと並んでいる。
 テーマソングが大音量で浦風の耳に入ってくる。

『っで! そこに関係者以外立ち入り禁止の通路があるでしょ? そこ入って!』

 電話越しの人物が大声で言う。浦風は一瞬「っは?」と思いながら辺りを見渡した。
 すると、今の場所から少し行ったところにある店と店の隙間に幅が狭い通路が見えた。
 近付くと、確かに黄色と赤がまじりあった看板に『関係者以外立ち入り禁止』と書いてあった。
 中庭にも店の中にも人だかりが出来ている中、浦風は一瞬ためらった様子を見せてから静かにその通路に入った。
 電球が無く、窓も無いので通路は薄暗かった。
 人の和気あいあいとした声やテーマソングが遠く聞こえると同時に、左折道が見えて来た。

『っでもって。左に曲がる道があるはずだから、そこを曲がってつきあたりにある部屋に入ってよ』

 浦風は言われた通り曲がり角を左に曲がり、道のつきあたりにある扉を見つけた。
 不信感を胸に抱きつつ浦風はその扉を開けた。
 そして――

99:マキ:2013/12/01(日) 18:14 ID:zic

「おにいちゃん……」

 不意に自分の下から弱々しい小さな声が聞こえた。聞くにまだ若い声。
 「っあ?」と、声を上げつつ、浦風は視線を下げた。
 そこには、まだ小学生くらいの小さな女の子が――

「おにいちゃん、こんなところでなにしてるの?」

 女の子は浦風の顔をまじまじと見上げながら問いかける。
 窓は無く、電気もついていない、物置のような部屋の中、浦風はその女の子に変な視線を送った。
 大きな黒い瞳と、黒い長髪を頭上で二つに結んだ女の子は、まだ浦風をまじまじと見つめている。
 浦風は「っあ、いや、っえ、あの」と言葉にならない言葉を並べる。
 
「っえ、いや、あの、お、お前こそ何やってんの?」
 
 やっとの思いで浦風は女の子に聞く。女の子はなにを言うでもなく大きな瞳で浦風を凝視する。
 
「……まいは、ままをまってるの」

 女の子は小さな声で言った。
 浦風は「っえ」と声を漏らした。
 まい、と名乗った女の子は浦風に言う。

「まい、ままとはぐれちゃって。だから、ここでまま、まってるの」

 浦風は何と言っていいのか解からず、とにかく一度その場にしゃがみ込み女の子と視線を合わせた。
 こんな時、何と言っていいのか分からないがとにかく何か言わなくては。
 なんでもいい。なにか一言。
 浦風は「だけど、まま、ぜんぜんきてくれなくて」と言って目に涙を浮かばせる女の子を見つめる。
 少し考えたような間を開けると、浦風は優しげな口調で言った。

「じゃあ、俺がお前の母さん探してやるよ。だから……、泣くなよ」

 不器用に笑ってみせると、女の子は少しの間を開けた後、にっこりとほほ笑んだ。
 「うん」と笑顔でうなずく、女の子を、浦風は懐かしむような視線で見つめた。

100:マキ:2013/12/07(土) 21:35 ID:zic

『――ッピ……』

 そんな音が浦風の耳に入ったのは、女の子と一緒にその部屋から出ようとした時だった。
 浦風は薄暗い通路から出る道へ出ていた足を止め、視線を背後に向けた。
 背後には物置にしか見えない部屋が見える。
 無造作に置かれた段ボール。それに敷き詰められたいろんなもの。その段ボールにかぶせられた白い布。
 浦風は目を細めた。
 床に適当に置かれた、白い布がかぶせてある段ボールの中。赤く光るなにかが――。
 それを見た瞬間、浦風は目を見張った。

 * * *

 昼間なのに天井に着いた電球が光を放つ、デパートの通路。
 洋服店がズラーっと並ぶ中で、何人もの人が世間話に吹ける。そして笑う。
 並んでいる店で品物を手にとって話し合う店員や客がいる。
 店の前に流れるように続く通路に設置された中庭へ通じる階段の下からも楽しげな声が漏れてくる。
 そして、中庭からも子供の声や大人の女性の物の声が空へ向かって飛んでゆく。
 そんな中で、『関係者以外立ち入り禁止』という看板が立てられた狭く薄暗い通路から一人の少年が――

「ッ――!」

 一人の少年が一人の女の子を両手で抱えて、その狭い通路から姿を現した。
 少年は来ている黒いパーカーを後ろになびかせながら、通路の目と鼻の先にある中庭へ行く階段を――

「みんな、逃げ――」

 なにかを言いながら階段を飛び越えた。だが、その言葉を言うよりも早くその場に轟音が響いた。
 その場に響いたのは、人の耳をつんざく音そのものだった。

『ドォォオオン――!』

 その日。
 駅前に置かれた巨大デパートの一角が壮大な音と被害を上げて爆発した。

101:マキ:2013/12/08(日) 18:16 ID:zic

『ドォォオオン――!』

 地鳴りのような音が耳に入って着た瞬間、片桐、一之瀬、龍崎の三名は目を見開きその身を震わせた。
 「な、なに?!」と焦りの声を漏らす片桐。
 三人はその声に同感するかのように目を見開きあたりを見渡した。
 そして、数十メートル行ったところにある建物から煙が立ち上がっているのが見えた。
 
「ちょ、あそこって浦風秀哉がいるって言うデパートじゃ」

 片桐が驚いたような口調と表情で言ったとほど同時に龍崎は駈け出した。
 それを追って一之瀬も駈け出す。そして、またもそれを追うように片桐も駈け出した。

 * * *

 目の前の光景が、正直信じられなかった。
 ただ呆然としていることしかできない自分を、他人はどう思うのか。
 そんなことを考えながら浦風は目の前の光景を黙って見ていた。
 
 燃え上がる炎。
 床に倒れる人。
 地面に流れる血。
 鼻に届く鉄の香り。
 聞こえてくる喚き声。
 
 そんなものが浦風の周りを包む。そんなものが浦風の世界を埋め尽くす。
 「怖い」と言う感情も「マズい」という思いも「嘘だろ」と言う言葉もなかった。
 
「……なんだ、これ」

 呆然とする中で、それだけが出せた言葉だった。
 燃え上がる朱色の炎を目に、浦風は成す術も無く先ほどまで平穏だったデパートの中庭に座り込んでいた。

102:マキ:2013/12/08(日) 20:50 ID:zic

「……おにいちゃん?」

 まるで魂が抜けたみたいにボーっとしていた浦風だが、不意のそんな声に我に返った。
 そして声のした方を見れば先ほどの女の子が今にも泣きそうな顔で浦風を見ていた。
 浦風は「あー……」と思いながらその女の子を見た。そして、手に握っていた携帯を耳に宛てた。
 『ツー、ツー、ツー』と無機質な音が流れてくる。
 
「おにいちゃん……、だいじょうぶ?」

 なんの感情もこもらない顔で立ちあがった浦風に女の子が声をかける。
 色の無くなった浦風の瞳に泣きそうな顔の女の子の声が写る。
 どこか遠くからサイレン音が聞こえて来た。
 女の子がサイレンのする方に視線を向けた。浦風はそんな女の子の頭に手を置く。

「……おにいちゃ」
「わりぃ。お前の母ちゃん探せねえは」

 女の子の言葉をさえぎり、浦風は静かにそれだけ言う。心配そうに「おにい、ちゃん?」と声をかける女の子。
 それを見下ろしながら浦風は来ていたパーカーを女の子の頭からかぶせた。
 「いいか、がきんちょ」と前置きをして浦風は女の子に言う。

「なるべく早く、こっから離れろ。どこでもいい。誰かいるところにだ。誰でもいい。わかったか」

 静かにゆっくりそう言うと、浦風は心配げな顔をつくる女の子をその場に置いてその場を去った。
 別にどこに行くでもない。ただ歩を進めたかっただけだ。そうでもなければ狂ってしまいそうだった。
 今にも壊す勢いで手元の携帯を握り、浦風は歩を進めた。
 なんの感情から来たのか解からない思いを胸に、なにも考えずに。

103:マキ:2013/12/09(月) 17:03 ID:zic

「なにこれ、ひっど」

 目の前のデパートから黙々と空へ立ち昇る煙を見ながら、龍崎は他人事のように声を漏らした。
 デパートからは人の群れが外へ必死に逃げだしてきている。子連れの女性の割合が多い。
 それとは対照的に早くも駆けつけた消防車から一斉に数人の男たちが現れデパートの中に入っていく。
 片桐たちが駆け付けた時、デパートはすでに困惑と悲鳴が響く場所と化していた。
 無論、警察ではあるものの消防隊ではない片桐たちに出来ることなど一つも無い。
 出来て逃げ遅れた人たちの誘導だろう。
 
「出火元はデパートの中庭! 至急、救急隊、及び消防隊はむかえ!」

 消防車の近くでそんなことを言っていた人がいたのを片桐は知っていた。
 だから出来ることなら中庭へ行って誰か助けてやりたかったが、

「消防隊がいる今、俺たちに出来ることは無い。ここで様子見だ」

 と言う一之瀬に止められた。
 片桐は悔しそうな顔をしながらその言葉に従うことにした。
 だが、

「……」

 龍崎は一人、真剣な顔つきで見える範囲のデパート一体を見ていた。
 と言っても、円形方のデパートの表面を流すように見ていたにすぎないが。
 そして、ある一点を見た瞬間、龍崎は顔の動きを止めた。そしてそこに向かって走り出した。

「! りゅ、龍崎?!」

 突然の行動に反応が遅れる片桐と一之瀬。
 龍崎はそんな二人の声も無視して『関係者以外立ち入り禁止』と赤文字で書かれた白い扉を開けた。

104:きゅー:2013/12/14(土) 18:42 ID:imA

きゅーです。
やっぱり、ストーリー構成と登場人物のチョイスが良いですね。
警察達の性格も真面目だけではなくてGOODと思います。
しかも、刑事物とか、サスペンスなのは、若干読み飽きる部分もあるのですが、
この作品は、飽きずに読みやすいので私の大好きな小説です!

あと、なんだか
 上から目線になってしまいました!
スイマセン(>_<)

105:マキ:2013/12/14(土) 19:36 ID:zic

 きゅーさん>>

 いつも、コメント有難うございます
 そう言って頂けると、不肖このワタクシ、嬉しいの一言で御座います←
 
 誰か一人でもそう言ってくれる人がいると思うと、
 とても嬉しいですね。やっぱり。

 上から目線だなんてとんでもない!
 胸を張って言いたい事を言える人はいい人じゃないですか!

 今後も、バシバシ言いたいこと言って下さい!
 コメント、本当にありがとうございました!
 今後もお暇があれば、ぜひお願いします!

106:れい:2013/12/14(土) 21:38 ID:9Fk

龍崎は、浦風くんと一緒に居た女の子を助けに行ったのかな?とか、推測してみたり(笑)

107:マキ:2013/12/15(日) 09:35 ID:zic

 れい>>

 推測されると、今後を考えている自分がなんか嬉しくなる
 『おー。そう考えたかー。おしいww』とか思いつつ、今後の展開を作成(笑)
 まあ、自分の考えてる展開に不満があったらみんなの予想に身を任せちゃうかm((殴
 
 いつも、コメント有難う!
 れいの期待に添えられるような作品をつくっていけるよう頑張るよ!

108:マキ:2013/12/15(日) 10:35 ID:zic

「ハァ……ッハァ……ッフ……ッハ」

 息を荒げ走っていれば、やっと自分がどこにいるのか解からないのが理解出来た。
 よくよく見ればいつの間にか人気の無い、薄暗い通路にいた。
 「どこだ、ここ」といろんな意味でかいた汗をぬぐう浦風。
 周りに人らしき者は一人としておらず、見えるのは電気のついていない薄闇の通路と、

「? ボイラー、室……?」

 『ボイラー室』と赤字で書いてある白い扉だけ。
 一瞬考え、ここからならどこか外へつながる道があるのでは? と思うと、浦風は即座にその扉を開いた。
 すると、

『ドン!』

 重々しい音が、行き成り耳に飛び込んできた。そして、空を切るような聞き覚えのある音も。
 反射的に「どわっ?!」と言いながらその場にのけぞる。鉄製の床に手をつき伏せると声が飛んできた。

「っあ、わりぃ。当たった?」

 のんきな声だった。
 浦風は鉄製の床につけられた鉄柵に手を伸ばし、柵の隙間から声の飛んできた方に視線をやった。
 浦風が伏せている通路の下、本当の地面と言えばいいのか分からい場所に。
 そこには黒い短髪をこしらえ、右手に黒い拳銃を握った男が、

「浦風秀哉だな。幼女殺人事件、及び、刑事殺人で――」

 男が淡々とした口調で言っていると突然男のズボンのポケットから音楽が流れて来た。
 携帯かなにかの受信音楽だろう。
 男は舌打ちをすると拳銃の銃口を浦風に向けながら携帯を開いた。

109:マキ:2013/12/15(日) 14:38 ID:zic

「はい、こちら龍崎。んだよ。今いいとこなのに――」
『アンタ今どこ!? ――独断行動たぁいい度胸してるなテメェ! 殴るぞコラ!』

 男と数メートル離れている位置にいる浦風からも電話から流れる声が聞こえて来た。男と女の声だった。
 浦風は行き成り聞こえてきた大きな声にびくりと体を震わせた。
 龍崎、と名乗っていた男が携帯から少し耳を離し手話のような動きで浦風にゴメンと言っている。
 「っあ、案外良い人」と思いながら銃口を向けられていることを忘れかける浦風。
 
『ヴー、ヴー、ヴー』

 不意に制服のズボンのポケットに入れた携帯が音を立てて振動を起こした。
 またもびくりと体を震わせる浦風。すぐにポケットから携帯を取り出し電話相手を見る。
 まあ、相手など見るまでもないが。
 浦風は『非通知』と出ている相手を見ながらあからさまに顔を険しくさせ、受信ボタンを押した。

「……ッテメェ! さっきの爆発、一体なんだ! テメェ、なんか知ってんだろ!」

 受信ボタンを押した直後に怒鳴るように叫んだ。龍崎が怪訝そうな顔で浦風を見る。浦風はそれを無視。
 電話から返答らしき声は聞こえてこない。っが、

『浦風君、浦風君! その男の人! 死んじゃったりしちゃったりしちゃうかもしれないよ!』

 国語能力の無い言葉に、「っはい?」と声をあげてしまう浦風。
 気を取り直して携帯に話しかけている龍崎に視線をやり、その周りにも目を向けてみる。
 すると――、

110:マキ:2013/12/15(日) 17:17 ID:zic

 突っ伏している浦風からすれば、はるか上空に近い天井に、赤く光るなにか。
 見覚えのあるそれを目に、浦風は目を見開いた。

『そこボイラー室でしょ? 運が悪いねー、浦風君も。なにもそこに逃げ込むことは無かったのにさ』

 まるで語尾に音符マークでもつけられ、可愛さアピールでもしてくるような女子の口調に怒りがわいた。
 しかし、怒りの言葉を口にするよりも先に体が動いていた。
 気付いたら鉄柵に足をかけ、龍崎に飛びつこうとしている自分を、浦風は「大馬鹿だ」と思った。
 焦りからか、呆れからか、怒りからか、浦風の口角が上がった。
 龍崎が浦風の突然的な行動に驚き即座に銃口を向けるも、浦風が龍崎に飛びかかる方が早かった。
 「テメ……!」と携帯と拳銃を両手に握って口ごもる龍崎を下に、浦風は一言だけ声に出した。

「ボイラー室で爆弾が爆発したら、どうなるよ?」

 苦々しい笑みで言うと、浦風は視線をはるか頭上の天井に向けた。

 * * *

『ドォォオオンッ――!』

 地響きのような音がして携帯を片手に握った片桐と険しい顔をした一之瀬が体を震わせた。
 他にも、その場にいる消防隊や警察陣、そして報道陣も身震いをし耳をふさいだ。
 そして、その場にいる皆が皆、視線を目の前のデパートに集中させる。
 見れば、デパートの一部から黒い煙が炎と一緒に空へ向かって上がっているではないか。
 
「……ざき、龍崎! ねえ、ちょっと! 龍崎!」

 携帯に向かって叫ぶ片桐。
 携帯からは『ツー、ツー、ツー』と言う無機質な音しか聞こえなかった。

111:れい:2013/12/15(日) 23:23 ID:9Fk

女の子じゃなくて、浦風を見つけたのか!

112:マキ:2013/12/22(日) 16:37 ID:zic

 れい>>

 ご明答!
 さあて、これからどうしようかなー(にや←

113:マキ:2013/12/22(日) 17:04 ID:zic

 耳に届く思いの無い無機質な音は片桐の顔に絶望の色を浮かばせた。
 「嫌だ」と言う言葉が、片桐の脳内を埋め尽くす。
 その隣で、一之瀬も黒縁眼鏡のレンズに空へ立ちこむ黒い煙を映しながら息を呑んだ。
 二人の後ろで消防隊や警察官が大声で何か叫ぶ。

「……ざき」

 片桐はか細い声で呟いて弱々しく一歩足を踏み出した。
 そして、はっきりと「龍崎」と声に出して走り出そうとする。
 それを止めたのは一之瀬だ。

「やめろ、片桐! 今行ったら……」
「離してよ、黒眼鏡!」

 片桐の腕を力強く掴み、言った一之瀬に片桐の率直な言葉が飛ぶ。
 「くろめが……!?」と自分につけられた悪態に言葉を一瞬なくす一之瀬。
 しかし、すぐに気を取り直して、片桐に説教でもたれてやろうかと一呼吸置く。
 だが、一之瀬が言うよりも早く片桐が、

「早く行かないと龍崎が死んじゃうじゃない! もう、嫌よ! 知り合いが死ぬのなんて!」

 そこまで聞いて、一之瀬は片桐の腕を掴む手の力を少しだけ緩めた。
 その時、頭の中にはつい数時間前射殺された刑事の顔が――。
 そこまで考えて一之瀬は思考回路を強制的に止め、片桐の腕を力強く掴んだ。

「じゃあ、お前は死んでいいってか?!」

 怒鳴るように叫ぶと、片桐は怒られた時に子供が作る顔をつくった。
 一之瀬は真剣な顔で、今にも泣きそうな片桐を見据える。

「……冷静になれ。お前一人で突っ走っても、なにかが解決できるわけじゃねえだろ」

 片桐は大粒の涙を流しながら、数秒を置いて「ごめん」と一之瀬に返した。

114:マキ:2013/12/23(月) 18:06 ID:zic

「――……えぇっと、誰が死んじゃうんだって……?」

 泣き出す片桐の肩に手を添えて火を上げるデパートに目をやる一之瀬の背後から聞き覚えのある声がした。
 一之瀬は驚きから目を見開き即座に振り返る。
 そこには、見覚えのある男の顔が。

「りゅ、りゅう、ざき……」

 一之瀬は驚きが隠せないと言う口調でそう言った。
 片桐が一之瀬の言葉に目を見開き素早く下げていた顔を上げる。そして、一之瀬の背後に目をやる。
 やはり、そこには見覚えのある男の顔があるわけで。

「りゅう、ざき……?」

 疑問形の言葉になってしまった。
 しかし、自分の数メートル前にいるのは確かに見に覚えるのある男。
 着ている白い服が所々ボロボロで、かすり傷なんかも見える。でも、その男は確かに。

「りゅうざき……!」

 片桐は大粒の涙を流しながら男の名前を叫んだ。その声を聞いて男がため息をついた。
 一之瀬がパクパクと口を閉じたり開いたりして信じられないと言う文字を顔に浮かべている。
 男――龍崎はムッとした顔で「んだよ」

「お、お前、ど、どこから?! ッと言うか、い、今の爆発は? お、お前、な、なんで」
「ああ? なに? 俺がここにいちゃだめなワケ? 死ねってか? 殉職(じゅんしょく)しろってか?」
「誰もそこまでは言ってないだろうが!」

 ムキになって怒鳴りを上げる一之瀬とは対照的に片桐は今だ泣き止む素振りを見せない。
 龍崎はそんな二人を交互に見比べてもう一度ため息をついてから頭を掻いた。
 そして、「まあ、ちとあってな」といって明後日の方向に視線を向けた。

 * * *

「ボイラー室で爆弾が爆発したら、どうなるよ?」

115:れい:2013/12/23(月) 22:01 ID:9Fk

…ん?ボイラー室て何すか?←アホ

116:マキ:2013/12/26(木) 18:28 ID:zic

 ボイラー室って言うのは、暖房を管理する部屋のことだよ^^
 でねえ、ボイラー室で爆弾が爆発しちゃうと((ry

117:マキ:2013/12/26(木) 18:52 ID:zic

 突然そんなことを聞かれた時には、一発ぶん殴って説教でも垂れてやろうかと思った。
 ボイラー室で爆弾が爆発? そんな事起こってみろ。明日の新聞はそのことで持ちきりだ。
 そんなことも理解出来ないのかと、目の前の青年に怒りを思わせる視線を向けた。
 青年は苦々しく笑っている。

「……知ったこっちゃねえな。浦風秀哉、幼女殺害、並びに警官殺害でたい――」

 逮捕、と言いたいところだったがあることに気付きその言葉を止めた。
 なぜ、目の前の青年は行き成りそんな話をし出した?
 単なる時間稼ぎ? ならば、飛びかかるようなリスクが多いことはしないはず。
 そう言えば、先ほど天井を見ていたような――。
 そう思うと、龍崎はおもむろに首を動かし視線を天井に向けた。
 明かりが無いため、天井なんてほとんど見えない。だが、暗がりの天井で光る何かが。
 赤く光るなにかが――……。
 それをぼんやりとだが直視した瞬間、龍崎は息を呑んだ。そして、目の前の青年に喰いかかった。

「てめえ! あれ爆弾か?! ボイラー室で爆発なんざ起こしてみろ! ヘタしたらてめえも俺も――」
「やっぱり、爆弾すか」

 龍崎の言葉をさえぎって青年は引きつり笑顔で言葉を流した。龍崎は目を丸くする。

「て、てめえが仕掛けたもんじゃねえのかよ?」
「んなわけねえだろ。仕掛けたのは、多分『容疑者X』とか名乗ってるオチャラケ魔であってー……」

 頭を抱えて説明する青年を前に今度は眉をひそめる龍崎。
 容疑者X? オチャラケ魔? この犯罪者高校生は一体なにを言っているんだ?
 そんなことを考えながら、龍崎は目の前の殺人魔を見据えた。
 すると、龍崎の思考を顔を見て読みとったのか、青年が訝しげな顔をして

「あー、言っとくけど、俺ガキ殺しの犯人じゃねえから」

 と言った。

118:れい:2013/12/27(金) 00:32 ID:9Fk


そーだよ!浦風くんは犯人ちゃう!

「ボイラー室で爆発」<検索>

119:マキ:2013/12/27(金) 12:22 ID:zic

 浦風君を心配してくれる人が一人でもいると思うと、私が嬉しくてたまらないよ……ッ
 ぜひとも、れいだけでも浦風君を信じてあげて! たとえ、浦風君が死んでも←おい

120:マキ:2013/12/27(金) 16:57 ID:zic

 龍崎は顔をしかめて、「今更言い逃れか」ときつく言った。龍崎の前で青年は困ったように頭を掻く。

「今更って言うか、朝も言ったっつーの。それを聞かなかったのはあんたらだろ?」

 青年は呆れを込めた顔でそう言った。龍崎はさらに表情を険しくさせる。青年はその顔を見て、黙った。
 少しの間、その場に沈黙が走ったかと思うと青年は悲しそうな顔で目線を落とした。そして口を開いた。

「たしかに、俺は四捨五入したら犯罪者なのかもしれねえ……でも、ガキ殺しなんざ……」
「しねえってか? 笑わせんなよ犯罪者。証拠はきちんと上がってんだ」
「指紋だけじゃ引っ張れねえんじゃねえのかよ」
「アリバイもねえだろうが。それに警官殺人に至っては、目撃証言もあんだよ。残念だったな」

 龍崎はニヤリと笑って見せた。
 しかし、それとは対照的に青年は目を見開いて驚いたような顔をしている。
 青年が、「け、警官殺人?」と問いかけるような声を出す。
 龍崎はしらを切るつもりかと思い、「てめえ、また言い逃れか」と問い返す。

「いや、だから、警官殺人って、なんの話し――」
「とぼけんな、犯罪者。警視庁で起こった警官射殺事件だ。てめえが犯人のな」

 青年はまたも、目を見開いた。そして、「射殺って……誰が死んだんだよ」とか細く言う。
 龍崎はまたも顔をしかめ、目の前の青年を睨んだ。青年はまだ驚いたような顔をしている。

「てめえがトイレに行くっつって、そこで殺した奴だよ。忘れたんじゃねえだろうな」

 少しの間を開けてそう言うと、青年は覚えがあるのか今以上に目を見開いた。
 青年の口から、「っは?」と言う声が漏れた。

「死んだって……あ、あの、兄ちゃん、が……?」

 青年の口からこぼれるその声は、ひどくか細く聞くのが困難なほど小さかった。

121:れい:2013/12/28(土) 22:55 ID:9Fk

携帯拾ってバァン!のシーンだっっ(汗)

122:マキ:2013/12/29(日) 19:00 ID:zic

 小説上は笑うところではないですが、今は笑って言いましょう←
 ピンポーン! 大正解!

123:マキ:2013/12/29(日) 20:27 ID:zic

 青年は、ひどく困惑したような顔をつくると静かにうつむいた。そして、黙りこんだ。
 沈黙がその場を包む中で、龍崎は目の前の青年の言動が理解出来なかった。
 なぜ、行き成り黙りこみ、うつむいて、手を、手を震わせているのだろうか。
 龍崎は困惑から、「お前、なにやって……」と戸惑いながら声を漏らす。だが、青年から返答はない。
 少しの間、その場を沈黙が包んだ。そして、それを青年が砕いた。

「そっか、そっか! あの兄ちゃん、死んじゃったんだ! まじでか! そりゃ、残念!」

 最後に、「あの人とは仲良くやれる気がしたんだけどなあ」と言って、青年は勢いよく立ち上がった。
 立ち上がると、腰に手を宛てて鼻高らかに笑いだした。「そーか、そーか」と言いながら。
 龍崎はその言動に、あっけに取られ少しの間、なんの反応も出来なかった。そして我に返った時――。

『ガン――ッ!』

 龍崎は思いっきり青年の頬を殴った。
 変なうめきを上げて、青年は地面に体を打ち付けた。
 龍崎は、険しい顔で手を強く握りしめながら荒々しく息づいていた。
 龍崎は、地面に横になる青年に向かって怒鳴りの声を上げた。

「てめえは……っ、てめえは、人の死を一体なんだと思ってんだ!?」

 思いっきり怒鳴ると、龍崎は肩で息をして地面に寝転がる青年に目を落とした。
 地面に寝転んだまま、青年は黙っていた。
 龍崎はまだ荒い息で転がっている青年を睨んでいる。
 少しの間、またもその場に沈黙が走った、かと思うと。

「じゃあ、なんて言やあ良いんだよ?!」

 青年が寝転びながら叫んだ。青年は寝転んだまま叫んだ。

「素直に泣けばいいのかよ! ご愁傷様ですって肩を落とせがいいのかよ! 金でも出せばいいのかよ!」

 龍崎は青年に近付き、「てめえ……!」と言いながら青年の服の胸倉を掴んだ。

124:マキ:2013/12/29(日) 23:59 ID:zic

 そして、青年に向かって怒鳴りでも上げてやろうかとしたが、無理に終わった。
 なぜなら、青年が唇を噛みながら必死に声を抑えつつも涙を流していたからだ。
 龍崎は、それを見た瞬間言葉を無くした。逆に青年が龍崎に叫んだ。

「――んなこと出来るわけねえだろ! 俺そんな強くねえんだよ! 俺そんな良い人じゃねえんだよ!」
 
 龍崎の手の中でもがき、掴まれていた胸倉から龍崎の手をほどくと青年は体勢を取り直した。
 そして、先ほどよりも小さな声で、しかしよく聞こえる声でつづけた。

「俺……っ、そんな器用な人間じゃねえんだよ……っ!」

 目から流れ出る涙をぬぐって、青年はかすれる声で告げた。
 龍崎は、言葉を失い、その場に立ちつくすことしかできなかった。
 まるで自分が悪者のような立場になってしまい、龍崎がどうしようかと悩んでいると。

『ヴー、ヴー、ヴー!』

 と、言う携帯の振動音が聞こえ、目をむいた。
 見れば目の前の青年が涙を流しながらズボンのポケットから携帯を取り出し耳に宛がっているではないか。
 
「はい!?」

 青年が涙声のまま大声で電話越しに叫ぶ。
 龍崎の位置からでも、『おー、こわ』と言う電話越しの声が聞こえた。

「てめえ! よくも、まー、電話なんざかけてこられたな! さっさと爆弾止めろ!」
「ああ? 時限爆弾じゃねえから問題無い? ふざけんなよ、てめえ!」
「ああ? もう泣かないで良いの……お前、まじ死んだ方が良いわ! って言うか死んでくんない?!」

 電話を耳につけたままなにやら叫びまくる青年を前に、龍崎は目をパチクリさせた。
 青年は電話越しの人物となにやらギャーギャーワーワー叫んでいる。
 しかし、少し経つとそれがピタリとやんだ。
 叫んでいた青年が行き成り静かになり、電話の相手と真剣になにか話している。
 そして、なにかを言い終えて電話を切った。舌打ちをするのが龍崎にも聞こえた。
 青年が、涙の跡を残した目を険しくさせて龍崎を見た。

「――……刑事の兄ちゃん、とにかく、あれだ、あんた、あれ、協力しろ」

 龍崎は、反射的に、「はあ?」と声を上げた。

 第四話・幼女救出作戦 終

125:マキ:2013/12/30(月) 16:58 ID:zic

 冤罪者の鎮魂曲 第五話・人が死ぬと言うこと

 龍崎が反射的に、「はあ?!」と声を上げたとほぼ同時に青年は携帯の画面で時間を確かめていた。
 青年は舌打ちをするとズボンのポケットに携帯を入れ龍崎と向き直った。「時間がねえ」

「とにいかく、今は協力してくれ」

 そう言いきると青年は龍崎の顔も見ようとせずにボイラー室の中を見渡した。なにかつぶやきながら。
 龍崎は通常あまり使わない頭を使って考えた。
 協力、とはなんの話しだ? そしてさっきの電話の相手は? 第一、なぜ警察の自分に協力を求める?
 考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。そんな龍崎に、「おい」と声がかかる。
 青年が腕まくりをしながら、「ちょい、こっち来い」と龍崎を手招き。

「……っ、お前、さっきの電話……、つーか、犯人じゃねえとか……、あと、協力って」

 なにを中心に話していいかわからず、話しの内容がバラバラになる。
 戸惑ったような龍崎の口調に青年は、龍崎の困惑≠察した。

「俺はガキ殺しの犯人じゃないし、協力してもらわねえと俺たちは死ぬ。今はそれだけしか言えねえ」

 まっすぐな瞳と視線で言われると、龍崎は驚いたように目を開き目の前の青年を見つめた。
 戸惑いと困惑を込めた口調で、「お前……ッ」と口ごもった。青年は静かに笑うと、

「とにかく、早く手伝え。爆弾なんかで死んでたまるか。あと、もう犯罪者とか呼ぶんじゃねえぞ」

 青年、もとい、浦風秀哉は龍崎を指さしてはっきりとそう言った。

126:マキ:2014/01/01(水) 00:26 ID:zic

 みなさん、新年明けましておめでとうございます。
 去年はどんな年でしたか? そして、今年はどんな年にしたいですか?
 わたしは、今年中に、『冤罪者の鎮魂曲』の半分は終わらせたいです。
 一年の内に半分=B……亀更新こじらせすぎですね。はい。すみません<(_ _)>
 まあ、中学二年生になるのでリアルにそうなるかもです。辛いです←

 さて、これはワタクシ事なのですが。
 今年になることで、『冤罪者の鎮魂曲』の更新六ヶ月記念と成りました。(正確には十三日)
 早いものですねー。気がついたら、あっと言う間に月日が流れていました。
 そして、六ヶ月も更新していたのにまだ五話になったばかり。
 我え、舐めとんかい。亀更新すぎるだろ(見えない威圧感)。と、自分にツッコミを入れてしまいます。
 もう、まずいですね。途中挫折が見えてきてしまうような気がします。絶対したくありませんが。

 そんなこんながあったのが、わたしの一年間でした。
 この一年間、個人的にもいろんなことがありました。
 そして、葉っぱ内でもいろんなことがあったと思います。
 それは、今後も変わらないものだと願っています。
 来年も再来年も、その次の年も。その次も。ずっと、ずっと。変わらないことを願います。
 
 そんな思いと思い出を胸に、わたしは一年を開けようと思います。
 みなさんはどんな思いを胸に一年を開けるのでしょうか? 良い思いですか? 悪い思いですか?
 どんな思いでも、それは今後の成功に、そして今後の幸せにつながることを願います。

 では。
 新年明けましておめでとうございます。
 今年も、去年と同じようなお付き合いをお願い致します。

                                 マキ

127:れい:2014/01/01(水) 03:27 ID:9Fk

今年もよろしくねー!

128:マキ:2014/01/01(水) 10:35 ID:MZU

 明けましておめでとうございます!
 今年もよろしくね!

129:マキ:2014/01/01(水) 13:12 ID:MZU

*えんざいしゃのちんこんきょく(れくいえむ)* お正月、番外編

作者「はい、こんにちは。『冤罪者の鎮魂曲』の作者でございます」
浦風「あけおめでーす。『冤罪者の鎮魂曲』の主人公、浦風秀哉です」
矢野「それの腐れ縁友人、矢野翼でーす」
片桐「でもって、浦風を逮捕する刑事の片桐でーす(笑顔」
一之瀬「その同僚の、一之瀬でーす」
龍崎「で、無関係の一般市民、龍崎君でーす」
片桐/一之瀬「「己も警官じゃ、ドアホ」」
浦風「(こわっ)」
矢野「(日本が一番平和な国って誰か言ってなかったっけ?)」

作者「っで、今回本編を無視してなんでこんなことをしたかと言うと――!」
浦風「どーせ、くだんねえ理由だろ? 本編書くの面倒くせえとか、本編書くの面倒くせえとか」
矢野「そうそう。本編書くの面倒くせえとか、本編書くの面倒くせえとか、本編……(ry」
作者「本編書くの面倒くせえ、しか言ってないじゃん?! 言っとくけどそんな理由じゃないからね?!」
浦風/矢野「「!?」」
作者「リアルに驚くのやめてくれない?! 涙が出ちゃうからっ」
片桐「っで? なんで、行き成りこんな番外編を考え付いたわけ? 理由、あるんでしょ?」
作者「よくぞ聞いてくれました! 実は、今回このように番外編を開いたのは他でもなく――!」
五人「「「「「他でもなく?」」」」」
作者「本編も思いつかないんで、息抜きがてら暇つぶしでもと思いましてー。あっはは」
浦風「……っえ。それが、この番外編の……開かれたって言うか、とにかく理由……?」
作者「ん? ええ、まあ? なにか問題でも?」
五人「「「「「……」」」」」
作者「ではでは! たかだか数十行のお付き合いでしたが、これにて番外編閉幕にございます!」
浦風「こんなヤツに少しでも期待した俺がバカだった。……おい矢野。本編戻んぞ」
矢野「命令すんなー。って言うか、浦風君作者に期待しての? だいぶバカにしてたように見えたけど」
一之瀬「片桐、龍崎。俺たちも本編に戻るぞー。台本読みなおしとけー」
片桐「言わずもがなよ。次、龍崎が登場回数多いんだから気い引き締めなさいよ」
龍崎「あいあいさー」

作者「っえ、ちょ、ちょっと待って?! え、ちょ、ちょっとお?!」
             
――今後もこんなグダグダ駄文小説と成りますが、ぜひ、良いお付き合いを宜しくお願いします!
                *えんざいしゃのちんこんきょく(れくいえむ)* お正月、番外編← 終

130:マキ:2014/01/01(水) 15:38 ID:MZU

 浦風は自分の頭の中にある限りの知識をふり絞って今やるべきことを考えた。
 そして、それを的確に、かつ、冷静に龍崎に話した。

「タコ糸、レンガ、ガムテ……って。んなもん急に言われたって見つかるわけねえだろ」

 浦風が真剣な顔で今かき集めなければいけないものを龍崎に言った時の第一声は、それだった。
 無茶振りとも言えるそれを言った当本人の浦風でさえも無理があるのではと思ってはいた。だが――。

「知るか。『必要なものは置いてあるから頑張ってねー』って言われたんだから。探せばなんかあんだろ」

 そう言ってボイラー室内を見つめる浦風。
 ボイラー室は、その名の通り、暖房を管理していると思われる円型の大きな機会がある。
 浦風はそれを支える鉄の柱の裏や、機械と機械の隙間なんかにも手を這わせて今必要なものを探す。
 それを見て、龍崎も渋々暗がりの中、いたるところに手を這わせる。

「……おい」

 地面に手を這わせつつ龍崎は浦風に言う。「あ゛?」と浦風が素っ気なく聞き返す。

「……お前が、ガキ殺しと警官殺しの犯人じゃねえなら、一体誰が犯人なんだ? さっきの電話のヤツか?」

 龍崎が浦風の顔を見ずに聞くと、すぐに「たぶんな」と返ってきた。
 「なら、警視庁に来てそれを話せ」と言うと、浦風は少しだけ黙った。そして少ししてから口を開いた。

「無関係な……、ガキが人質に取られてる」

 重々しく言う浦風に、またも反射的に、「はあ?!」と聞き返してしまう龍崎。
 そして、それを、「うるせえ」の一言で黙らせる浦風。
 辛い過去でも思い出すような顔で、浦風は話す。

131:きゅー:2014/01/02(木) 19:09 ID:b1c

どもです。マイペース女王のきゅーです笑

警察&容疑者VS容疑者xですか〜。

台詞も無駄にカッコつけないで行動も繊細に書かれているので、
まるでリアルで起きてると思ってついつい浦風君を応援したくなりますね〜♡

そして、マキ様と同い年と言う事にビックリ!
大人の方が書かれていたと思いました笑

132:マキ:2014/01/03(金) 10:37 ID:MZU

 きゅーさん>>

 コメント有難うございます
 『警察&容疑者VS容疑者X』……さあ、どうでしょう?ww
 今後どんなどんでん返しがあるかわかりませんよ?ww(←作者すらわかってません

 浦風を応援ですかー……。
 浦風がその期待に答えてくれると有難いんですけどね(他人事)←おい
 
 っお!? きゅーさんと同い年?! ビックリです! なんだか嬉しいですね〜^^
 では、同い年同士! 今後とも、頑張っていきましょう!

133:きゅー:2014/01/03(金) 10:58 ID:F7s

>>マキ様

はい!(何を頑張るかわかんないけど)頑張りましょう!!
小説楽しみダナーヾ(@⌒ー⌒@)ノ

134:マキ:2014/01/03(金) 11:34 ID:MZU

 きゅーさん>>

 いつも、コメント有難うございます!
 頑張ると言ったらそれは、もう!
 ……勉強とか……←
 ではなく! 小説ですよ!
 お互い頑張りましょう! しょ・う・せ・つ・を!

135:マキ:2014/01/03(金) 11:34 ID:MZU

「ガキの誘拐事件、あんだろ? それで誘拐されたガキを人質に取ってんだと」

 浦風の感情の無いぶっちゃけ発言に言葉を無くし、浦風の後ろ姿を唖然とした目で見つめる龍崎。
 「っえ、じゃあなに……?」と龍崎は前置きをしてから今聞いた話しを整理した。

「お前は冤罪で任意逮捕されて、警官目の前で死んで、ガキ助けろって言われた……ってか?」

 「イエス。話しが早いね、お兄さん」と浦風がまたも感情のこもらない声で言う。
 龍崎はやはりなにも言えなくなり現実味が無い今の現状を再び頭の中で確認した。
 まず、目の前の高校生は一度逮捕されて、警官が目の前で死んで、逃げだして……。
 そこまで考えて、龍崎はとある疑問を胸に抱いた。
 それを聞いてみて良いものかわからなかったが龍崎は浦風を後ろ目に見ながら聞いた。

「それじゃあ、てめえの言う真犯人……、容疑者X? は、ずっとてめえを監視してたってことか?」

 浦風が動きを止め、無表情の顔を龍崎に向けた。
 「たぶんな」と重たい声で言うと浦風は龍崎から視線をそらした。
 龍崎はそんな浦風に困惑の意を込めた目を向ける。

「てめえ、一体、その真犯人となにがあったんだよ……」
「知るかー。俺だってなんでこんなことになってんのか皆目見当もついてねえんだからよ」

 そう言う浦風だが、一切の疑心を抱いていないわけではない。
 どうして、容疑者Xと名乗る男が自分にここまで執着してくるのか。狙いはなんなのか。
 普段使わない頭で考えてもその答えに行きつくことはなく、途中で思考を止めていた。
 しかし、他人に改めて言われると考えずにはいられなくなる。
 もしかしたら、容疑者Xと言う男と自分は面識があって、なにか問題を起こしたのではないか?
 もしかしたら、容疑者Xは自分の知り合いでなにを思ってか自分を陥れようとしていのでは?
 もしかしたら、容疑者Xは自分たちが信じてやまない警察の……――。
 そう思うから浦風は自分のバカな考えを止めるしかなかった。

136:きゅー:2014/01/03(金) 13:14 ID:ESk

小説ですか…恥
分かりました( ̄^ ̄)ゞ!!
犯人と浦風君に何か接点でもあるのかなー?

137:マキ:2014/01/05(日) 13:07 ID:MZU

 きゅーさん>>

 小説ですよ(笑)
 
 浦風と犯人の接点……、さあ、どんなものでしょう
 正直、作者自体考えてうませn((ry

138:マキ:2014/01/05(日) 13:24 ID:MZU

 * * *

「――紙ガムテに、ビニル紐、っで、ポリバケツ二個……。まじでありやがった」

 床に転がるそれらを見て浦風は言った。龍崎が、「完全に手の中で踊らされてるだろ」と浦風の横で言う。
 浦風はその場にしゃがむと、青いバケツの底を上にして天井で光る赤いなにかの真下に置いた。

「踊れる間に踊っとこうや。にしても、あんの野郎、俺がここに来ることも考えてたなあ。ちくしょっ」

 「あんの野郎」とは言わずもがな、容疑者Xと名乗っている男のことである。
 なんだかんだ言って相手の手の中で良いように弄ばれている気分で怒りがたまっている浦風。
 浦風はバケツとバケツの間に少し隙間を開け、龍崎にその隙間に拳銃を挟むよう指示する。
 「つうか、てめえなにする気だよ」と問う龍崎に、「まあまあ」と言い流す浦風。
 バケツの間に拳銃を挟むと、ガムテープで拳銃をバケツに固定する。引き金の部分を省いて。
 
「……っと、ビニル紐、どんだけの長さある?」

 浦風がビニール紐を持つ龍崎に聞くと、「見る限り、十メートルくらい」と返ってきた。
 「まあ、そんぐらいあれば」と言って浦風はビニール紐を龍崎から受け取る。
 そして、紐の先端に輪を作り拳銃の引き金にその輪を引っかけた。

「……てめえ。そんな方法どこで手に入れやがった」

 今から行われることをなんとなく察した龍崎。
 龍崎に言われると、手元の作業を難無くこなしながら、「火曜サスペンス」と一言で返す浦風。
 「最近のドラマってすげえな」と思う龍崎であるがあえて口には出さない。

「さってと」

 束になっているビニール紐を片手に立ちあがる。
 そして、浦風は自分がボイラー室に入る時に使用した出入り口に目を向けた。

139:aribaba chiaryrain@s7.spaaqs.ne.jp:2014/01/06(月) 12:43 ID:bQY

いや〜、すごいですね。
自分と同い年だなんて思えません!
全部一気に読んでも飽きない作品です。
なにを仕掛けているのか楽しみです^^

140:れい:2014/01/08(水) 23:11 ID:9Fk

火曜サスペンスwww

141:マキ:2014/01/13(月) 14:13 ID:MZU

 aribabaさん>>

 コメント有難う御座います!
 同い年ですか〜。嬉しいですねえ(*^∀^*)
 飽きない作品、と言って頂けて幸いです
 私自身、最近、全面的に無理矢理じゃね? 
 と思っていたので、そう言って頂けると本当にうれしいです(笑)

 また、お暇があればコメント宜しくお願いします!

 
 れい>>

 火サスねwww
 もう、それ以外に思いつかんかったww
 笑いのネタになったらいいんだけどねww

142:マキ:2014/01/19(日) 16:41 ID:MZU

 * * *

「――本当にこれで良いんだろうな?」

 白いビニール紐を伸ばし、ボイラー室のドアの取っ手に結ぶ。

「保障は出来ねえよ。だから死んだらごめん」

 ドアの前に佇(たたず)み、目の前に立つ龍崎を見ながら浦風は取っ手に手をかける。
 どこか呆れた顔で、「ごめんで済むかよ」と苦情を漏らす龍崎。
 それを見ながら、「まあまあ」と言いつつ取っ手に結ばれたビニール紐に向けた。
 そして長く伸ばされたビニール紐の先に目を向け、最後に一度だけ生唾を飲み込む。
 伸ばされた紐は床に置かれた拳銃の引き金に輪となって軽く引っかけてある。
 今、紐を全力で引けば引き金に引っかかる輪が縮まり、発砲できる、という単純な仕掛けだが――。

「……やらねえよりマシだろ」

 浦風は目を細める。やらなきゃ死ぬ。自分も、目の前の刑事も。
 先ほどの電話で容疑者Xと名乗る男が言っていたことを思い出す。

 * * *

「ああ? もう泣かないで良いの……お前、まじ死んだ方が良いわ! って言うか死んでくんない?!」
『あっははー。って言うか、良いの? 爆弾が近くにあるのに、こんなふうに駄弁ってて』
「時間制限式じゃねえんだろ。だったら問題ねえだろうが」
『うん、そうだね。でもさあ、時限爆弾じゃないってことは僕の好きなように爆発できるってことだよ?』

 電話越しからそう言われて、浦風の眉が少しだけ動く。
 「つまり、てめえは好きなように爆弾を爆発させられるってことか」と問えば、
 『そーゆうこと』とやはりな口調で言われる。

『っあ、逃げようとか考えないでね? 浦風君が逃げたのがわかった時点で爆発させるからね?』

 そこまで言われて、浦風は電話越しの人物がなにを言いたいのかどこか察した。

『最低限の道具はテキトーにそろえてあるから頑張ってね? っあ、ちょっとは爆発するかもだけど――』

 そこまで言われて深いため息を吐き、浦風は頭を掻いた。そして、真面目な口調で電話に向かって言った。

「ガキ救出の次は、爆弾止めろってか? てめえ、ホント――ぶっ殺してえほど腐れ下道だな」

 電話越しの人物は不気味な笑い声を浦風の耳に届かせた。

143:れい:2014/01/20(月) 15:37 ID:9Fk

火サスを笑いのネタにっ?(笑)

容疑者Xさんょ……爆発させちゃいけませんよww

144:マキ:2014/01/25(土) 22:26 ID:MZU

 わたしは常に笑いを狙って生きています←おーい。
 
 容疑者Xね……。ホント、あの人なに考えてるんだろうね。キチガイなのかな?←おいっ

145:マキ:2014/01/25(土) 22:44 ID:MZU

「――おいっ」

 浦風は龍崎の少しだけ苛立ったような声を聞いて我に返る。
ッハとしたような顔をして龍崎を見ると、龍崎は少し訝しげな顔で浦風を見つめていた。
「なんだよ」と問えば、言葉ではなく視線で答えが返ってくる。
龍崎の目は言っている。「まだ、完全にお前を信じていない」と。浦風に訴えかけている。
 浦風は黙って自分が握る取っ手に目を向けた。目に映る自分の手がひどく小さく見える。
本当にこんな小さな手でなにかを成し遂げることなんて出来るのだろうか?
 襲い来るのは底の見えない不安と底なんて無い恐怖。

「……正直、俺は死にたくない」

 浦風は自分の小さな手を見ながら言った。龍崎が少しだけ黒目を見開く。浦風は続ける。

「だから、生きたい」

 特に考えた様子の無い言葉には重みなんて一つもない。ただ、正直な思いだ。
 龍崎は黙りながらそう言う浦風の顔を見た。
冷たく冷めきった顔をしているがその目にはどこか熱がこもっている。
見ているだけで嫌気がさす。融通(ゆうずう)が利かない、馬鹿うるさい女の同僚と同じ目をしている。
龍崎はそう思った。

「……開けっぞ」

 沈黙が数秒だけその場を包んだ後、浦風は取っ手を強く握り返した。

「ストップ」

 そう言ったのは龍崎だ。龍崎は間髪いれず続ける。

「俺が開ける」
「はあ? どっちが開けるって関係無くね?」
「俺が開けるから、てめえは先に外に出ろ」
「……あ?」
「これでもお巡りさんなんでな。一般市民より先に戦線離脱するわけにゃいかねえんだわ」

 そう言う龍崎の顔を、浦風は一瞬だけきつい目で見た後に、ニッと笑って見返した。

146:マキ:2014/01/25(土) 23:09 ID:MZU

 龍崎は先ほどまで浦風が握っていたドアの取っ手を握った。深く深呼吸をして、呼吸を整える。
安定した色の無い声で、「行くぞ」と目の前にいる浦風に言う。浦風は首を縦に振る。
 龍崎はゆっくり、だが確実にドアの取っ手をひねる。なんとも言えない緊張感が走り――、

「ドアにタックルぶちかませ、浦風秀哉!」

 そう叫ぶと、勢いよく取っ手をひねった。
それに合わせて、言われた通り浦風はドアに体を勢いよくぶつける。
反動でドアが外側に開く。
取っ手に結ばれたビニール製の紐が伸び、その先にある拳銃の引き金に結ばれた小さな輪がその口を閉じ――、

『ドン――ッ!』

 銃声が一発だけその場に響いた。
 浦風が出た後、そのすぐ背後について龍崎は駈け出す。背後に銃声が聞こえた。
 発せられた銃弾は空を切り、螺旋を描き、空中に向かって線を描く。そして――、

『ドォォオオン――ッ!』

 暗がりの天井に設置された爆弾に直撃し、微力な爆発を招いた。

 * * *

 背後から爆風を受け、
ほとんどその風に押し出されるようにショッピングモールの通路に飛びだした浦風と龍崎。
 二人とも服の所々に汚れや穴を作っていた。

「……」

 浦風がボイラー室に入るために通った薄暗い通路に、
爆風で吹っ飛ばされたのか、ボイラー室のドアが無残な姿で倒れている。
そして全開になったボイラー室の入口からモクモクと黒い煙がわき出ている。
 それを、地面に寝っ転がりながら見ている限り、言葉なんて出てこなかった。
 高い天井を見ていると、黒い煙でそれもさえぎられる。
 静かな人時がその場を包み込む。

「……おい」

 不意に隣に目を向けると、そこには白いワイシャツをボロボロにした龍崎の姿があった。

147:マキ:2014/01/26(日) 16:18 ID:MZU

「っあ、生きてたんだ」

 浦風が寝っ転がりながら言うと龍崎は顔をしかめながら、「たりめえだ」と言った。
浦風は龍崎に向けた目を天井に向けた。煙が立ち込める天井が見える。

――出来た。

 心なしかそう思った。
自分の頼りない、小さな手でも、自分の命と目の前の刑事の命は守れた。自分の小さな手で。
 そう思うと、胸の内に秘めていた変な感情が勢いよくこみあげて来た。

「ばっかみてえ……っ」

 その感情をどう表現していいのかわからず、ただそれだけつぶやいた。

「おい、浦風秀哉」

 龍崎が頭を掻きながら浦風を見据えている。「あ?」と言いながら浦風は龍崎を見た。

「てめえ、なんで爆弾をぶっ壊そうなんて考えた。
もしかしたらとんでもねえ事になってたかもしれねえんだぞ」

 起き上がりながら、「ああ」と言う浦風。そして、ズボンのポケットから赤い携帯電話を取り出す。

「爆弾をそれごと壊しちゃえばデッカイ被害は無いから、そこにいる刑事さんの拳銃で壊しちゃってよ。
まあ、壊したとしてもすぐに逃げないと死んじゃうけどねえ=v
「……っは?」
「って言われたんだよ。ボクっ子気取りのキチガイ野郎に」

 言い捨てるように言うと、浦風は静かに立ち上がり、周りを見渡した。
それを見ながら、「逃げるつもりか?」と言って立ち上がる龍崎。
警察官として、目の前の、一応容疑者≠フ青年をみすみす逃がすわけにはいかないのだろう。
それを知ってか、「いや、逃げるとかじゃないし」と浦風は返す。

「さっきも言ったろ? 無関係なガキが人質様に取られてんだよ。だから、サツに捕まる訳には」
「だからこそ、助けてやるつってんだ」

 その一言に浦風は、「っえ」と言うように目を見張った。龍崎は続ける。

148:れい:2014/01/26(日) 22:03 ID:9Fk

龍崎さぁぁん!!

149:aribaba chiaryrain@s7.spaaqs.ne.jp:2014/01/27(月) 19:41 ID:bQY

急にかっこよく見えてきました!
龍崎さんサイコー!


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