おれ、イモリ

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1:とかげ◆4lKzA:2015/01/17(土) 13:42 ID:ffE

あの生物に感情が
あったなら。

2:とかげ◆4lKzA:2015/01/17(土) 13:50 ID:ffE

 おれの名は、イモリ。

 腹が赤くて、背中が黒いらしい。自分では見たことがないから、わからない。なにやら、狭い場所で毎日たいくつを過ごしている。そばには、いつも仲間がいた。そいつらは腹が赤くて、背中が黒い。茶色い奴もいて、模様のついた奴もいる。おれもそうらしいが、なんせ自分では見たことがないから、やっぱりわからない。

 おれたちの暮らすこの場所には、おれたちのうんこがいっぱい落ちていた。時々綺麗になるが、そのときの苦痛といったら他にはない。視界がくるくる廻って、お腹を掴まれて、逃げ出してしまう。でもそうしたら、また大きな何か≠ノ掴まれ、尻尾をキュウと持ち上げられて・・・・・・気がつくと、また別の場所にいるんだ。

3:とかげ◆4lKzA:2015/01/17(土) 14:10 ID:ffE

 仲間も同じようにそうなっているのを、何度も何度も見た。ただ、そのときの怪物≠フ姿を、おれは忘れられない。あんな大きなものに襲われていただなんて、想像するだけで身震いがする。おれは目がわるいが、ちゃんとはっきりと見たんだ。すごく、すごく恐かった・・・・・・。

 だけど、いつもの狭い場所よりもっともっと狭い場所にいる間に、あいつらは何をしているんだろう。また掴まれてあそこへ戻ったとき、水はありえないほどに透き通っていて、とても不思議に思う。

神様の魔法だろうか・・・・・・怪物≠ゥらの魔の手に堪えた、そのご褒美として、住み好い環境へ整えてくれたのだろうか。もしそうだとしたら、おれたちは神様に感謝しなければならない。

4:とかげ◆4lKzA:2015/01/17(土) 14:16 ID:ffE

 おれはさっそくそのことを仲間に教えようと、近くにいた奴に近寄った。

「おい、みんな。いつも知らない間に水が綺麗になっているだろ。きっとそれは、神様の魔法だ。神様に感謝しなくてはならないぞ。」

 そう言うと、仲間の一人は驚いた。よほど嬉しかったのだろうか、狂ったように喉をすごい早さで膨らましている。
 そいつは、ぴゅーんと飛んでゆき、別の仲間におれが言ったことを教えていた。
 けど、神様に感謝するって、どうすればいいんだろう・・・・・・おれたち、なにもできやしない。

5:とかげ◆4lKzA:2015/01/17(土) 19:29 ID:ffE

 そういえば、おれたちの住む所には時々、ご馳走が空から降ってくる。ぽちょん、ぽちょんと茶色い塊が水に落ちて、よだれが出るような匂いがただよってくるんだ。中にはそれを食べ過ぎて、ぶくぶくに太っている仲間もいる。おれは喧嘩が弱いから、2つぐらいしか食べられないけれど・・・・・・。

 ──そうだ、空──おれはひらめいた。
 わかったぞ。水が透き通るたびに。ご馳走が降ってくるたびに。空の方を向いて、ありがとう、と言えばいいんだ。神様は素直なはずだから、きっと喜んでくれるに違いない。喜んで、もっとご馳走を降らせてくれるに違いない。神様は、空の向こう側に住んでいるはずだから。おれたちの頭の上の、未知の世界!

6:とかげ◆4lKzA:2015/01/17(土) 21:45 ID:ffE

 なんだか、わくわくしてきた。おれの心が躍り出す。今までにないくらいたらふく食べて、また神様に感謝したら・・・・・・もっとたらふく食べられるかもしれないんだ。喜ぶしかないじゃないか。

 おれの気持ちを察したのか、近くを通りかかった奴が「どうしたんだ?」と尋ねてきた。神様に感謝する人が増えれば、そのぶん利益も増えるはずだ。さっきも1匹に話したから、3匹──順調に話が広まれば、やがては仲間の全員が神に祈り・・・・・・。
 ああ、おれはなんという野心家だろう。

7:とかげ◆4lKzA:2015/01/18(日) 10:20 ID:ffE

 そんなことを考えていると、突然、目の前に何か塊が落ちてきた。ああ、これは神様からのお恵みだ。褒美だ。匂いを嗅いだら、すぐにわかる。
 おれは吸い込むようにそれをくわえ、ごくりと一飲みにした。

 もっと食べたい。

 そばにいた奴が落ちている塊を吸い込もうとしていたので、おれはそいつの尻尾にかじりついた。おれは正気を失っていた。だけど相手は強くて──今度はおれが頭をかじられて、ぶんぶんと振り回される始末だ。
 やっぱりおれは野心家だった。

8:とかげ◆4lKzA:2015/01/18(日) 14:44 ID:ffE

 ああ、馬鹿だ、おれは弱いのに。この前も、尻尾の先をかじられた。すぐに治ったけれど、おれのプライドはずたぼろだ。飛んで火に入る夏の虫とは、このこと──。

 奴はぶるんっと首を振り、おれから離れた。助かったようである。怪我もない・・・・・・これだけで済んで良かった。
 おれはすまない、と謝った。奴もすまない、と一言言い、どこかへ飛んで行った。とはいえ弱肉強食のこの世界、仲間だろうと時には争いをしなければならないだろう。
 仕方がない。神がそうしたのだ。

9:とかげ◆4lKzA:2015/01/20(火) 19:35 ID:ffE

 さて。
 神はごちそうを用意してくれたのだ。さっそく感謝しよう。おれは目をつぶり、礼を唱えた。少々愚かなことをしたと、そのことも謝った。

 その途端──視界がぐらりと揺れ、体に不快な感触がした。怪物≠セ。

 おれは必死でもがいた。精一杯の声を出し、体をくねらせた。だけど、身体中が熱い。火傷をしそうなくらい、熱くてたまらない。
 だけどやがて、ひんやりと心地よい水に浸された。そこには水があったのだ。・・・・・・ああ、またあの狭い空間か。

 神様よ・・・・・・まだ感謝の気持ちが足りないというのだろうか。

10:一等星◆A.:2015/01/21(水) 18:13 ID:d9k

面白いです!これからも頑張ってください!

11:康◆ek:2015/01/21(水) 19:11 ID:VqA

話スンゲー面白い!

これからも頑張ってください!

12:とかげ◆4lKzA:2015/01/21(水) 21:35 ID:ffE

>>10
ありがとうございます!
頑張ります!!

>>11
スンゲー だなんて(;▽;)

ありがとうございます!
頑張りますー!

13:とかげ◆4lKzA:2015/01/21(水) 21:36 ID:ffE

「まただな。」

 隣にぽちゃん、と落ちてきた奴がそう言った。本当、こりごりだ。おれは同意し、頭をかしげた。
「だけど、このあとには、綺麗で過ごすのに一番の場所が待っているんだ。頑張ってみんなで堪えよう。」隣の奴は言う。おれは忘れていた・・・・・・そうだ、我慢すれば、必ず神様は褒美を与えてくれる。真剣に祈れば、まっすぐに答えてくれるのだ。

「ああ。」
 そう言って気が付けば、周りにはたくさんの仲間がいた。
 どこだかわからないこの地で──故郷(ふるさと)とはまるで違う、この地でずっとこいつらと過ごしてゆくと思うと、なんだか嬉しくなる。

14:とかげ◆4lKzA:2015/01/23(金) 18:13 ID:ffE

 突然、ゆらりゆらりという、不思議な感覚がして──おれは目が覚めた。いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
 ここはどこだろう、そう思ったが、いつもの場所だった。水が綺麗になっている。眠っている間に、神様が浄化してくれたのだろう。
 神よ、ありがとう。

 おれは眠たくて、ひとつ、大あくびをした。水から顔を出して、口をかあっと開け息を吸い込む。再び顔を水に戻すと、大きな黒いものが間近に見えた。

「やあ。」声が聞こえた。それは、目≠セった。

15:とかげ◆4lKzA:2015/01/24(土) 22:09 ID:ffE

 おれはのぶのぶと後退した。
 金色に光り、真ん中を黒く塗りつぶしたような目が見える。そいつは、おれの匂いをくんくんと嗅いだ。
「暇だね。」匂いを嗅いではそれっきりで、なんだかのんびりとした奴だった。
 おれも匂いを嗅いでみると、奴はごちそうの香りがする。忘れていたのに、また食べたくなってしまった・・・・・・。ついでに、がじりっ! と、噛みつきたくもなったが、ここは我慢である。

 突然、のんびり野郎は尻尾をくねらせ、スイ〜と上へ泳いでいった。おれも真似をして、同じ方向へ尻尾を体をくねらせる。水がビュビュビューと当たり、気持ちがいい。
 陸は、すぐそこだった。

16:とかげ◆4lKzA:2015/01/25(日) 11:37 ID:ffE

 ごつごつとした、黒い岩。だけど、本物じゃない・・・・・・神様がお恵みくださったに違いないのだけれど、かつての物とはまるで違う。そんな中、懐かしさが込み上げてきた。
 岩はぷかぷかと揺れ、それに合わせてのんびり野郎もぷかぷか上下する。おれの視界もゆらゆらぷかぷか、上へ下へと揺れた。

 ・・・・・・なあ、おれが知ってる岩は、こんなに揺れたりしないんだ・・・・・・。

 のんびり野郎はふわあ、とあくびをし、一言言った──ここは、どこなんだ、と。

17:49を書き込んだ奴:2015/01/25(日) 15:59 ID:6BA

面白いですね。

ぜひ、僕の小説こない?

バトルリレー小説だよ!

18:とかげ◆4lKzA:2015/01/25(日) 19:25 ID:ffE

>>17
ありがとうございます!

申し訳ありませんが、わたしはリレー小説などに参加するつもりは一切ありません。
また、そういった勧誘はご遠慮ください。

19:とかげ◆4lKzA:2015/01/28(水) 17:56 ID:ffE

 そんなこと、おれだって知りたい。早く彼処へ帰りたいんだ・・・・・・。
 なんだか懐かしさと、むなしさと、悲しさが込み上げてくる。仲間はたくさんいるから、寂しくないはずなのに。どうしてだろう。

 ただ、あの頃は、色々なものを口にしていた。そのときの匂いさえも、忘れているんだ。遠い遠いむかし。忘れてはいけないことなのに、とっくに記憶から消えてゆく。そんな自分を想うと、むなしくて、悲しい。そして悔しかった。

 戻れるのなら、戻らせてくれ。

20:とかげ◆4lKzA:2015/02/01(日) 09:59 ID:ffE

 おれは祈った。
 早くこんな所を出て、もっと豊かな場所へ、故郷(ふるさと)へ、仲間と共に戻りたい。
 きっと神は、そんなに甘くはないだろう。だけど、可能性があるのならば、その可能性の限り、おれは祈りたい。水の流れのない所なんて、嫌だから。

 ──と、突然、急に辺りが真っ暗になった。なにも見えない。かすかに光がもれているのは、ずうっとずっと向こう側だ。こんなことは、日常茶飯事である。それにいい加減、もう怪物どもが出ていく時間なのは、わかっていた。
 さあ、おれたちの時間は、これからなのだ。

21:とかげ◆4lKzA:2015/02/03(火) 19:29 ID:ffE

 遠くでガチャリ、という音がして、そこにあった光も、やがて消えた。
 すると、あっ──という間に辺りは騒がしくなり、ばちゃばちゃと水が揺れ、跳ねた。こんなふうに気分が躍るのは、きっと、怪物がいなくなったという喜びだけから生まれるのではない。心の奥底に眠っているような、本能でそうしているのだと、おれは思う。

 ああ、みんなを見ていたら、おれも騒ぎたくなってきた。
 暗い水の世界ではなにも見えやしないが、それでもやっぱり、心は躍りだすのだ。むしろ、そんな夜の世界だからこそ、本能が蠢く(うごめく)のかもしれない。

22:とかげ◆4lKzA:2015/02/10(火) 19:19 ID:ffE

 ──あれ、なんだか、おしりの方がもぞもぞする。
 ただ単に不快感とはいえない、まさにこれこそ、本能的であること。唸る前に、それはポンと出た。便だった。さっきからやけにお腹がぐるぐる鳴るなあ、と思ったら、そういうことだったのだ。おれはすっきりした。やあ、快便、快便!

 そうはいっても、これは今日のぶんではないことを、おれは知っている。おれたちはなんせ消化するのが遅いから、きっと、三日ぐらい前のものであろう。良いのか悪いのか知らないが、おれたちの間では、常識である。
 見ると、周りの奴らも、次々に便をしているではないか。ああ、可笑しい。おれはくすりと笑った。

23:とかげ◆4lKzA:2015/02/11(水) 19:41 ID:ffE

 気分がよくなったので、おれは鼻唄をうたった。なんてことない、どこにでもありふれたメロディ。ちょっとだけスリムになったお腹が、踊りをおどるように、ふかふかと上下している。

 それにしても夜だからか、水が冷たい。なんたる癒しだろう。日々(といっても、時々、だが)怪物の魔の手によって焼き焦がれた身体中を、うっとりと癒してくれる。ゆらゆら揺れるのも好い。
 満足できていないとはいえ、此処はやはりある程度、住むのに良い環境である。おれは馬鹿だからすぐ忘れてしまうけれど、神様のおかげなのだ。

24:とかげ◆4lKzA:2015/02/15(日) 13:39 ID:ffE

 おれは目をつぶり、水の音を聴いた。泡が弾け、皆の泳ぐ音々が、おれを包む。
 もっと素敵な場所で、悪い奴もいない。そんな所で一生を仲間たちと過ごすには、どうしたらいいんだ。やはり、祈るしかないのだろうか・・・・・・実現するのがいつになるかなど、分かりやしない。悟れやしない。ましてや、この世界の真理など、ちっぽけなおれたちが、手に触れることすら不可能なのだ。

 おれはもっとかたく、目をつぶる。視界が真っ暗だ。光は一切、見えない。
 さらさらと流れる、あの小川を。旅した田んぼを。まぶたの裏に、描いた。二度と、戻ることのできない・・・・・・。

25:とかげ◆4lKzA:2015/03/10(火) 21:13 ID:ffE

 声が聞こえる──宴じゃぁ──そんな仲間たちのどんちゃん騒ぎ、おれ、たったひとりが、眠るように目をとじる。

 ますます騒ぎ立てる泡や波の中、気がついたら朝≠セった。
 まだ辺りは暗い。
 ぼんやりしていたが、「よう、起きたのか。」という声で、ぱっちりと目が覚めた。「あんな騒ぎの中、よく眠っていたな。」
 体つきのむっちりとした、筋肉質、リーダー的存在のヤツ。まっかっかに燃えるような腹が、強さを強調している。
「あんた、夢をみていたんだろ。」

26:とかげ◆4lKzA:2015/03/15(日) 11:17 ID:ffE

 え?
 そういえば、と、おれは思い出した。
 もやもやふあふあした意識で、夢をみていたんだ。なんだっけ。ええと──(忘れちまった)。
 むちむちした奴は大口を開け、にんまりと、ぶきみに笑った。
「手足をばたばたさせて、寝たまま、泳いでた。夢の中、泳いでいたんじゃないのか?」
 寝たまま手足をばたばたさせて泳ぐだって? おれはなんて、まぬけなんだろう。しかも、こいつと同じくらい、ぶきみじゃないか。そんなことを口に出したら、きっとこいつに、ころされてしまう≠ノちがいないけれど・・・・・・。
「じゃあな。」奴は、瞳をぴくぴくさせながら、無理やりウインクした。相変わらず、ぶきみだ。

 おれもやってみようと、ウインクしてみたが、やっぱり目がぴくぴくする。周りからすれば、たぶん、おれはまぬけでぶきみなことをしているのだろう。
 もし、──なにをしているの?──と聞かれて、あいつの真似をしたんだよ、と答えたら、チクられて、あいつにころされるのは当然の気がする。

27:とかげ◆4lKzA:2015/04/20(月) 21:21 ID:ffE

 ・・・・・・そんなことはいいけれど。
 まったりのんびり過ごしていたら、いつのまにか辺りは明るかった。もしかして、またあいつらがやってきたのか? ほんのすこしおびえながらも、辛いのはたった一瞬だ──脳みその奥にそう刷り込ませるように、おれは心の中で唱えた。何も起こりませんようにと、神様にお願いしながら。

 しばらくお祈りに集中していたが、それをさえぎるかのように、声が聞こえた。「お腹減ったよう。」
 手足の細い、やせっぽちの奴がいた。
「この前、ごちそうをいただかなかったのか?」
「うん。ぼくは気がよわいから、すぐ取られちゃうんだ。すばやさには自信があるけれど、いわゆる、優柔不断ってやつさ。ああ。快便なんて、一度もないよ。」
 やせっぽちは言う。体型と奴の話すことからか、なんだか気の毒になってきた。今度、少し手伝ってやろうかな? 

28:とかげ◆oNE:2015/05/08(金) 20:53 ID:ffE

 それからしばらく。
 おれたちはずっとのっそりと過ごし、気楽にしていた。
 そう、なにかを忘れた頃だった。悪夢≠フ始まりである・・・・・・。

 ぬうん、と、空から、熱い熱いかたまりがやってくる。水をかき乱し、おれらの住みかの中を、好き勝手暴れ狂う。こっちの方が狂いそうだった。ああ、絶体絶命。今日こそ殺られてしまうんじゃないかと、気が気じゃない。仲間だって、おびえている。

 だけど──今の今まで、ぽっかりと、空洞のように忘れてしまったこと。
 そうだ。
 感謝することを忘れていたから、神様が怒ったんだ・・・・・・。

29:とかげ◆oNE:2015/05/10(日) 21:23 ID:ffE

 ──ごめんなさい──今までのぶんも感謝します──だからどうか助けて!!──おれはただ祈った。こんなの自分の欲のためだって、わかっている。知っている。だけど、神様に祈るって・・・・・・感謝するって・・・・・・そういうことだろ?

 カッと、体が燃え上がるような感覚。
 次には、シュウシュウととたんに冷やされ。

 さっきと同じように、おれは一心に祈る。早く、こんな辛い時間が過ぎますように、って。
 だけど、あちこちを見たら、辛いのはおれだけじゃないんだ。みんな、苦しそうに顔を歪めてる。

 ・・・・・・もしかして、みんなが辛い思いをしているのって、おれがお祈りを、感謝を忘れていたせい?

30:とかげ◆oNE:2015/05/17(日) 09:43 ID:ffE

 ほんとのほんとにごめんなさい。

 おれはもう一度、謝った。それは神様に向けてじゃなく、みんなに向けてだった。
 たとえ、みんながお祈りや感謝を忘れずに毎日過ごしていたとしても、おれひとりが何もせずにいたら、みんなの気持ちはだいなしになる。

 なあ、おれって最低だ。最悪だ。しんだ方がましなのかしら。
 熱く体を焦がされて、このまま、ぐったりと気を失ったら。痛くないかしら。辛くないかしら。恐くないかしら。
 ・・・・・・やっぱり恐い。
 だけど、ほんとのほんとにしぬのなら。せめて最後に理想郷(故郷)、見させておくれよ。


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