暗い山道を走っていた。
「はぁっ、はぁっ」
息を切らせながら走っていると急に視界が開いた。
崖の向こうに海があり、崖に波が打ち寄せていた。
「行き止まり...。」
パキッ。
後ろから小枝を踏んだ音と人の気配がした。
(どうする?...振り返るか。)
そう思い振り返った瞬間、体に冷たい物が通り抜けて行った。
「...え?」
一瞬、何が起こったか分からなかったが、冷たい物が通り抜けて行った所を見ると赤い血が流れていた。
相手を見ると血に染まったナイフを手に握っていた。
その時、自分に何が起こったかが分かった。
(刺されたのか。)
ドンッ
誰かに押された。
振り返ると自分を刺した男だった。
「あっ...。」
声を上げた瞬間、崖から落ちた。
自分的にはゆっくり落ちていく感覚だった。
ドボーン
水に落ちた音が耳に聞こえゆっくり沈んでいくのが分かった。
水面が遠くなっていくのを見て目を閉じた。
家に帰ると母が晩ごはんの準備をしていた。
喉が渇いたのでコップに水を注いで椅子に座って飲んでいると母が
「どうだった?あの人。」
と聞いてきた。
「元気そうだったけど、記憶喪失になってた。だから自分の名前が分からないし住んでた場所の住所も分からないし家族の名前も分からないんだってさ。」
と言った。
すると母が
「退院したら住むとこ無いんでしょ?それに身寄りも無いみたいだし...。お母さん明日ちょっと病院行って来るからね。お父さんにもそう言っといて。」
と言った。
何をする気か分からないが一応、父には言っておく事にした。
しばらくして、晩ごはんが出来たみたいで母がお皿を並べ始めたので手伝う事にした。
晩ごはんを食べ終えて1人で食器を洗っていると父が帰ってきた。
食器を洗うのを一時中断し味噌汁を温め直していると父が
「今日、あの人の所に行ったんだろ?
どうだった?」
と母と似たようなことを聞いてきたので母に答えたのと同じ返答をする。
すると父がまたしても母と同じことを言ってきた。
「退院したら住むとこ無いだろ?身寄りも無いみたいだし...。父さん明日ちょっと病院行って来るからお母さんにそう言っといてくれ。」
と言った。
似たような人たちだなと思い心の中でも笑いながら
「わかった。そう伝えとく。」
と言った。
実際伝える気は無いけれど明日、病院でバッタリ会うのが想像できる。
父の皿を洗い2階に行くと早速弟に教えた。
弟も爆笑しながら
「いいね!それいいわ〜!面白そう明日バッタリ会うところ見てみたい!」
と言っていた。
「じゃあさ、明日こっそり病院で待ち伏せしてみよう。」
と言い弟も賛成のようだ。
明日が楽しみだと心の中で呟きながら目を閉じた。
病室で特にすることもなく十字架を見ていると病室のドアが開いて龍と透と知らない男性と女性が入って来た。
その2人は昨日来た龍と透の両親らしい。
すると男性が
「私は戸田誠でこっちが戸田幸子と言います。」
と言った。
すると幸子が
「私たちがここに来たのは理由があって来たの。あなた退院したら住むところ無いし身寄りも無いでしょう。でねさっき家族で話し合ったのだけれど、私たちの家に住まない?部屋はあるし今すぐって訳じゃなくてちょっと考えてくれたら良いと思って。」
と言った。
確かに退院したら住むところも無いし身寄りも無いけれど服も何も持っていないのにそれは少し気が引ける。
「でも、服とか持って無いですし迷惑でしょう?」
すると誠が
「大丈夫、そこら辺は私たちが何とかするから心配しなくてもいい。」
と言った。
しばらく考えて大丈夫そうだなと思い
「じゃあ、よろしくお願いします。」
と頭を下げた。
透が
「竹田先生には言っておいたから。」
と言った。
少し嬉しそうな顔をして帰って行った。
あと1週間くらいは病院に居なくてはいけないのだが退院したあとのことは安心しても大丈夫だと分かってホッとしながら月を見た。