勇者様に楯つくつもりなど毛頭ございませんわ!

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1:蒸しプリン:2016/02/06(土) 13:39 ID:SlM


「よくぞいらっしゃいました、勇者様」

まるで物語にでも出て来そうな、甲冑を身に纏った青年が恭しく腰を折る。
齢24、5と言ったところだろうか。顔立ちも、まあまあ整っている。____私達の見知った、アジア系のものではないけれど。
頭を上げた青年の右手が差し出された先にいるのは、私_____

「ふ、ふぇえ?なんで僕なのぉ?」

ではなく、やはり澤崎玲奈。

いや、なんとなく予想は付いていたがここまで世界が彼女に味方していると……辛い。流石に辛い。
さながら彼女は運命に愛された女神の子、私は憎悪と嫌悪に彩られた魔物の醜子と言うところか。うん。自分で言いながらなんか悲しくなってきた。

……なんて現実逃避している場合じゃないんだ。なんせ、状況が状況なのだから。

「ええ、勇者様。貴方様こそこの世界に光と栄光をもたらす真の先導者。運命に愛された女神の子。_____その御顔を一目見て分かった。きっと貴方様である、と。」
「ふぇえ……よく分かんないよ……」

澤崎さんが困った様に眉を下げれば、それこそゴキブリの様に男どもがワラワラと集る。
あ、ていうか甲冑男、私が考えたのと同じこと言ってる!やっぱり彼女の強運は神様の小細工だったのか。うむ、納得納得。

……って、現実逃避してる場合じゃ(二回目)

↓以下、ゴッキーズの台詞。

「玲奈、怖がることはないよ。僕たちがついてるから。」
「そうだよ玲奈ちゃん。君は一人じゃない。」
「一人で抱え込もうとするのはお前の悪い癖だ。少しは俺達を頼れ」
「君の苦しんでいる顔なんか見たくない……側にいるから、せめて笑っていてくれ」
「……ふえっ……みんな、ありがとぉ……」

………甘ぇ甘ぇ!!砂糖ゲロリそうなぐらい甘ぇわ!!
現在進行形で繰り広げられる愛の(笑)告白シーンを苦笑しつつ鑑賞していると、ふと一人の目線がギロリとこちらに向いた。

「何を笑っている。玲奈を陥れたこの悪女が。」

げ、なんで気付くんだ。
そこで一生激甘してろよ、と思ったがそうもいかず。一人の目線が二人、三人と増え、とうとう全員の目線がこちらを向いた。それはまるで蜘蛛に見つめられているような、薄気味の悪い悪寒だ。痛い。非常に痛い。

「うわー……こんな状況でよく笑っていられるね。玲奈を傷つけといてなに?今更嫉妬?」
「女狐っぷりもそこまでにしとけ」
「マジいい加減にして」

……これで分かったと思うけど、私、なんか冤罪かけられてみんなの嫌われ者になっちゃったみたいなの★
簡単に言うと、『クラスの美少女に嫉妬して彼女をいじめる大して可愛くもない性悪女と、嫌がらせに耐えながらも健気に前を向くその美少女』みたいな。ちなみに美少女が澤崎さんで大して可愛くもない性悪女が私ね。

そして、尚も続けられる数々の罵倒の言葉に、私の心は……ボロボロどころか擦り傷ひとつなく艶やかに輝いておりますがなにか?

まず現実味もクソもねえような出鱈目話を証拠として突きつけられて、ハイそうですそれ私ですって認めるアホが何処にいるんだよ。

あんなど田舎のビルの一つもない様な場所でどうやったら地上500メートルより高い場所から人を突き落とせるんだよ。そして澤崎さんはなんで生きてるんだよ。どうやったら全治2週間で済むんだよ。怖いよ。
てかなんで17歳で一億円近くの大金を所持してんの澤崎さん。それこそ犯罪級だよ。

「先生、少しいいですか?」

かれこれ一時間前、帰りの会がちょうど始まろうとしていた時、断罪劇は始まった。
啖呵を切ったのは生徒会長兼学級委員長のイケメン・雨蛹 亮太。黒ぶちの眼鏡を中指でクイっと上げる仕草をしながら、ゆっくりと教壇の前に出た。
彼の話によると、どうやらこのクラスでいじめが起きていたらしく、加害者は被害者である澤崎さんに執拗な嫌がらせを繰り返していたらしい。誰そいつ、と思ったら私だった。急に名前呼ばれてめっちゃびびったわ。

7:蒸しプリン:2016/02/12(金) 23:28 ID:SlM



「よっしゃ!諦めた!!」

魔物と目が合って三秒で人生捨てた。諦め早いとか言うなし。

いや、無理っしょコレ。絶対無理っしょ。
明らかにこっち殺気向けられてるよね?これ死ぬパティーンだよね?
生憎どこかのヒドインじゃあるまいし、魔物一撃で倒す超人外技とか持ち合わせてないんで。平凡人間なんで、マジで。

……取り敢えず今は、素直に負けを認める!誠心誠意の謝罪!!そして………

「……逃げるっ!!!」

HA★HA★HA!誰がいつ「死ぬ」という選択をしたかなっ!?こちらと仮にも華の女子高生なんでねっ!!死んでも死んでなんかやるもんかよチクショー!!「逃げるが勝ち」という言葉もあるんだよチクショー!!…え?腰抜けって?普通抜けてたら走れないよね(すっとぼけ)
……まあ今はとにかく、走れーーーっ!!!!

ピシッ

……その瞬間だった。
踵を返して走り出した私を嘲笑うかのように、魔物の一撃が私の右耳を吹き飛ばしたのは。

「……え?」

一瞬、何が起きたのか分からなかった。
気付いた時には鋭い痛みと生温い液体が頬を伝っていて、痛みが身体中をか駆け巡った。焼けるような、じくじくと蝕まれるような痛みだ。

「っ………」

苦しくてとうとう膝をついた私に魔物は、勝ちを確信した狼のようにゆっくりと近づいてくる。

「……」

来るな。こっちに来るな。
滴り落ちる雫をなんとか抑え、精一杯の抵抗がてら、魔物を睨みつける。
その時初めてしっかりと見た、底のない暗闇に思わず私は身震いした。

ああ、怖い。怖いとも。
あんたのその虚ろな瞳が。精気というものがさっぱり感じられないその瞳が。どこまでも深い闇を携えた、その瞳が。たまらなく、怖い。怖いよ。

今誰かに助けを求めたって、絶対に誰もこない。
だって、人間の絆なんてそういうものだと。脆く、さっさと割れてしまうようなものだと。ついさっき、よく分かったから。
だから誰も信じたくない。信じられない。
でも、助けてほしい。死にたくない。

「……ん?」

……よく考えたら私、なんて可哀想な目に遭ってるんだろう。
今日一日だけで、無実の断罪、異世界トリップ、森へ投棄、魔物からの一方的な蹂躙。しかも全部、私何もしてない、悪くない。…あ、酷い。幾ら何でも酷い。

理不尽だよ神様。
自分で作った癖に。気に入った人はとことん愛して、気に入らなければポイ捨て。その捨てられた人間の気も知らないで。
……なんて考えていたら、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。

「グウウウウウウゥゥウ!!!」

私の怒りの気配を感じ取ったのか、魔物が低く唸り声を上げる。
私はそれに立ち向かうように、まっすぐ魔物を見据える。

神なんか知らない。
私の人生めちゃくちゃにした分、その神とかいう存在をめちゃくちゃに壊してやる。

怒りの思考が身体中を支配した時、すっと真っ黒な「何か」が私の中に入り込んできた、
私はそれを操り、支配し、自分のものにして……魔物に、ぶち撒けた。

「取り敢えず、八つ当たり」

なんか、呆気ない。
跡形もなく黒炭になった魔物の亡骸を放置し、私はすっかり闇に包まれた森へと、歩みを進めた。

8:蒸しプリン:2016/02/12(金) 23:30 ID:SlM

>>6
光稀◆Yk6様
はい!頑張ります!お気遣いありがとうございます!


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