魔法の口紅
13:( ・∇・):2016/02/26(金) 21:17 ID:ffE >>12
コメントありがとうございます。
面白いと言っていただけて、
とても嬉しいです( * ̄ー ̄)
応援ありがとうございます!
フライや天ぷらを食べた後のように、唇が油で覆われる。鏡がないので確認することはできないが、それはきっと、ぬらぬらと色っぽく、光っているだろう。
初の背中はもう目の前。
まだ、心の準備ができていない。なんて声をかけよう。このまま二人きりになったら、どうするんだろう。
「ねえ」準備ができていないのに、言ってしまった。
首をひねって顔だけこっちに向け、目を見開き、初はびっくりしている。まさか、なんで、昨日会ったばかりで、あの場所じゃなくて、あの時間じゃなくて、二人っきりで、なんで──?!──そんな表情だ。それでいて、口元は幼く無邪気に緩み、頬は桃みたく赤い。少し産毛があり、本当に桃そっくりである。初って、どうしてこんなにかわいいんだろうと、純粋に思った。
「あ、あの」
あわあわと初が言う。
いつものあたしには、見せない顔だ。二人きりの場所で見れて嬉しいのに、たまらなく悔しくて、かなしい。こんなのが好きなら、いつものあたしのことくらい、好きになれんだろ・・・言ってやりたかった。なのに口は、違うことをしゃべりだす。「こないだは、ごめん」
嫌われていなかったと安心したのか、初の肩はすっと下りている。こんなわび言に何ホッとしてるんだよと、いらいらした。でも言えなかった。
「あの、おれ・・・・・・」
あっ!
あの、あたし、好きなんです。
導かれたように頭にうかんだその台詞を言うつもりが、いつもの癖で、おれだなんて、言ってしまった。
バレたかもしれない。
とたんに涙があふれてくる。心臓がばくばくして、止まらない。
また走っていた。初の顔を見れずに。
自分の部屋に閉じこもり、声をおし殺して泣いた。
今度こそおしまいだ。もう、初と話せない。顔を見れない。あの姿で、あの場所で、あの時間に会えない。
髪が、短く元通りになっている。
ああ、戻ったんだ・・・そう思って、頬を伝ってきたこぼれそうな涙をぬぐおうとしたとき、手が唇に触れた。指をよく見ると、ピンクのぼやけたラインができていた。
なにかがおかしい。
鏡を見た。いつものあたしがいる。
ヘンだ・・・そう思ってもう一度口紅を塗っても、鏡の前のあたしは、男っぽいままだった。
何度も塗ったのに、何一つ変わらない。
絶望した。
なんで? これは、かわいくなれる、魔法の口紅じゃないの? かわいくなれない、意味のないこいつなんか、いらないよ!
それなのに、大事に口紅を枕の下に隠しておく、自分が憎い。
一晩経って、朝、癖のように口紅を塗る自分もだ。
男みたいな見た目して、唇だけピンクの自分もだ。
なんとなく、洗い落とす気になれず、どうせ気づかれないだろうと、そのまま学校へ行った。そんな自分も憎かった。
*
教室に入ってすぐ、座っている初と目が合う。どきっとしてそらしたけど、きれいな目だった。好きな目。もう一度初を見たら、そわそわと、でもあたしの方を見ながら、その瞳を上へ下へ、右へ左へ、動かしている。
消えてしまいたい。
「ね、ねえ、初・・・」
おれ? あたし?
初に声をかけたものの、自分のことをなんて呼べばいいか、わからなかった。見えないなにかに押しつぶされそうで、涙が出そうでたまらない。
この恋はおしまいだ・・・そう教室の入り口で立ち尽くしていると、初が、震えた声で少し笑った。「座らないの?」
なにも言えずに、ただ、初の隣の自分の席に着いた。
首だけ動かして右を見れば、初は、あたしと同じように、不安げに唇を揺らしている。口紅なんかつけているはずないのに、ピンク色の、薄くて愛らしい唇だ。
「なんだよ、見んなよ」恥ずかしそうに初が言った。じっと見ていた、こっちの方が恥ずかしい。ごめん、と謝ろうとしたが、そんな間もなく「あのさ」と、そして唾を飲む音が聞こえた。
「おれ、女の人と知り合って」
女の人、だって? あたしの、こと?
「約束して、何度も会ったんだけど」
嫌だ・・・言わないで。
「昨日も会って」
もうやめて。
「その人、なんかさ」
やめろってば──
「その人、なんかおまえに似てたんだ」
・・・あれ?
初は、やさしい笑顔だった。
*
帰って枕の下を確かめたが、そこに口紅は見当たらなかった。
〜瑠佳〜
うっひゃあああああ!!!
最高!切ないね!そこがいいね!!
もうもう、とてもとても応援しています!
更新楽しみにしていました。ので、見れて嬉しいです!
これからも応援しています。頑張ってください!!
>>22
コメントありがとうございます!
楽しんでいただけたようで、とても嬉しいですヾ(@゜▽゜@)ノ
更新も長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんm(__)m
これから先も、魔法の口紅がテーマの物語を書いていくつもりですので、ご支援ありがたく受け取っておきます!
出会いは十五年前、恋人同士になってもうすぐ一年の健ちゃんと、明日はデートだった。
「水族館のチケットあるから、せっかくだし、行かない?」一週間前にメールが来た。春休み中、しかも四月から高校生ということで、浮かれた様子である。
健ちゃんから誘われて、私も少し浮かれていたけど、デートなんて初めてだ。そもそも、初めてできた彼氏だし、付き合っても今まで通りみたいな関係だったから、どうしたらいいかわからない。それに健ちゃんはモテる・・・慣れているのかと思うと、なんだかさびしい。
憧れて買ったもののまだ使ったことのない道具でメイクをした方がいいのか、どんな服装がいいのか、タンスの前であれこれ考えているうちに、夜遅くになってしまった。
ずっとこうしているわけにもいかない。私は寝ることにした。布団の中にもぐりこみ──あっという間だった。
聞き慣れた電子音で目が覚め、閉じた手の中に、何かを感じる。ぼんやりとしたまま、手をゆっくりと開けると、手のひらに、金色に光るものがあった。
・・・口紅?