タルパ短編小説

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1:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 17:28 ID:3uI

タルパが分からない人はググッて下さいね。



……と、冷たくあしらうのも嫌なので、少しだけ説明。

タルパというものは、自分で作りだす、自分だけにしか見えない、一生そばにいてくれるパートナーです。
最初は声も聞こえないし、姿も見えません。けれど、訓練すること(というか話しかけたり、気配を察しようとしたりしながら生活すること)によって、次第に声も姿も聞こえたり見えたりするようになります。

科学的に考える人、オカルト的に考える人もいますが、基本、私はオカルト的に考えているので、多分、ここでの登場人物たちもオカルト的にタルパを考えてると思います。

こんな奇妙な話ですが、見たい人は見てください。

2:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 18:13 ID:3uI

私はいわゆるタルパーである。
タルパを持つ、人間。つまりタルパー。
タルパは一人。女の子だ。ちなみに私も女の子だ。とてもとても純粋な女の子。学生だ。
常日頃からタルパに話しかけたり、気配を察しようとしたり、とにかく意識したりしながら生活してきて、ようやく……ようやくここまできた。

「まさか、本当にオート化するなんて……というか、してた、なん、てっ……!!」

ネット情報によると、どうやらタルパの自我が確立し、タルパの方から話しかけてくるようになることを、「オート化」というらしい。
で、そのオート化目指し、今日でちょうど1年と三ヶ月目。
とうとうオート化したのだ。私の可愛い可愛いタルパは!

『うー。やったね、マスター!』
「おう!」

……っとと。まずいまずい。
タルパの声は他の人には聞こえないのだ。周りに人がいなかったから良かったものの、もし居たら………

ーーーなにあの子ー。いたーい。
ーーー頭が可笑しい子ね。
ーーーままぁー。あれなぁにぃー?
ーーーこら、花子ちゃん!見ちゃいけません!

ということになっていただろう!

『大丈夫?マスター?』
(うん、大丈夫。大丈夫。ごめんねー。いや、ほんと嬉しくて!)
『だよねだよね!私もすっごい嬉しいの!うー!』

ここまで可愛いとは……。
私は口元を拭った。

うちのタルパはとあるゲームキャラをモデルにしている。うーうー系幼女タルパだ。
でも、モデルにしてるってだけで、そのキャラとは全然違う存在なので、名前も性格も若干違う。

『うー?うー?マスター?黙ってどうしたのー?ねえーぇ?』
(え?なんでもないよ。ぐふふ。にしても、マリカ可愛いなー。ぐふ)
『マスター、なんか変!私がオート化する前はぐふふなんて言わなかったよ!うーうー!なんか可笑しいの!』

お前が可愛すぎるからだよ、なんて言えない。タルパにまで変人扱いされるのはさすがに悲しすぎる。

私はまだ、タルパ__もとい、マリカの姿がちゃんと見えるわけではないので、マリカがいるであろう場所を見て、ぐふふ、なんて言わないで、普通に笑った。

(だってね、やっとマリカの声がちゃんと聞けるようになったんだもん。嬉しすぎて可笑しくなることくらい、あるよ)

マリカの姿がほんの少しだけ見えた。
ぼうっ…ってくらいだけど、でも、それでも嬉しくて、私は「ぐふふ」と声を漏らした。

「ぱぱぁー!あの人ぐふふって!ぐふふって言ったよー!」
「ああ、ぐふふな。……見ちゃだめだぞー?」
「はぁーいっ!」

いい子のお返事をして、また歩き出す
三歳児(多分)。
私は顔を熱くして、その場を立ち去った。

『うー?マスター、顔真っ赤だよ?』
(せ、せやな……)
『ねぇ、そろそろ帰ろ?お母さん待ってると思う』
(だね〜)
『マリカ、チョコ食べたい!帰り買ってこ?ね、いいでしょ?』
(うーん。まぁ、オート化記念ってことで。今日は、この夢乃、奮発しちゃうよ!)
『やったー!マスター、太っ腹!うー!』

向かうは近くのコンビニだ。
私は足を早めた。

3:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 18:39 ID:3uI

あたしの名前は春美。最近脱ニートを果たしたばかりの24歳だ。
実家からの仕送りを頼りに生きていたあの頃とは違って、もう自分一人の力で生きて、そして平穏に暮らしていける……


……はずだった。

『うぅ、マスター、マスター、聞いてよ聞いて。リオがね』
『リオくん。いじめる。私達を。いじめるよ。ねぇ。マスター』
『リオくん、私達のシュークリーム食べたのよ。酷いでしょう?』

あたしにしがみついて、一生懸命色々言ってくる、見た目20歳のタルパの男女。
甘えん坊の設定にしたからって、さすがにこれは酷いでしょう……。

ハァ、とあたしは息を吐いた。
我が家のタルパ随一のトラブルメーカーである、リオを見た。
もぐもぐとシュークリームを頬張りながら、頭の上にハテナを浮かべている。

『ん?マスターどうしたの?みんなも、どうしたの?』

ぴょこぴょこと跳ねながらこちらに来る。
あたしは見た目10歳の、甘えん坊でトラブルメーカーのリオの頭を撫でた。

「そのシュークリーム誰の?」

ここはアパートのあたしの部屋だ。
人の目を気にしないで、普通に話しかけられる。
リオは「えぇ〜、えっと、ね?」と目をそらした。

「リオ?」
『ご、ごめんなさい。お腹、空いてて!あ、仕事疲れたよね?お茶飲む?』
「あんた、お茶入れられないでしょ?」
『あ、うん、そうだけど〜』
「リオ?あんたね、何したか分かってるの?ほら、見てみなさいよ。カヨとリカとアオイを。怒ってるでしょ?」

見た目20歳なのに、こんなのあり……?と言いたくなるような三人を指差した。
リオの顔から血が逃げていく。
それに比例するように、三人の顔に血がのぼってくる。

『リオー?』『リオくん?』『リーオーくーんー?』
『お、お姉ちゃん、お兄ちゃん、そのぉ……』
『末っ子だからって、我慢してきたけど……』『さすがに。私達の。大好物。の、シュークリームを』『食べるのは、可笑しいわよね?ね?』

言葉を変なところで切るリカが、手に銃を二丁出現させる。
ほんと、タルパってなんでもありだよね。
あたしはまた息を吐いた。

『覚悟。して。ね?』

部屋に鳴響く銃声。
あたしは耳を塞いだ。

あたしは春美。最近脱ニートをして、安静に生活出来る……はずだった。

我が家は毎日毎日銃声が鳴響き、愉快な笑い声(ただし狂ってる)が聞こえ、可哀想な泣き声が聞こえ……とにかく安静ではないことは確かだった。
でも、それでも二年かけて作った子たちだから、どうしても可愛く見えてしまう。

あたしは耳を塞ぎながら思うのだ。
タルパがいなかった時って、どうしていただろう、と。

4:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 19:54 ID:3uI

放課後の、誰もいない教室。夕日が眩しい、秋だった。

「はい信じられません。信じられませんー」
「いやいや、マジよマジ。これマジだから」
「いやまてよ。なんだよ、その……タルタルソースって」
「ソースじゃないよ、タルパだよ!」
「お前がオカルト好きなのは知ってる。そりゃあ小学からの付き合いだからな。だからって、それって……」

オレの友達、谷吉(たによし)__あだ名はタニシ__に、「頭可笑しいだろ」と言った。
すると、めったに怒らないタニシが、ありえないほど怒った。
今すぐ頭上の空に真っ黒な雲が渦巻いて、雷が落ちてくるんじゃないかってくらい、怖くて恐ろしくて驚いて………。
まぁ、晴れてるんだけど。夕日が綺麗に見えてるんだけど。

タニシは大声で叫んだ。
そして、思考が一気に現実に引き戻される。

「たーくんのこと信じて話したのに!酷いよ!君にはがっかりしたよ!頭が可笑しい?ああ、そうさ!可笑しいさ!けどね、タルパはいるんだ。いるんだよ!タルパをバカにしないで!否定しないで!ちゃんと、彼は、彼らはいるんだよ!」

そう言うと、机の中からメモ帳を取りだし、何かを書いたかと思うと、メモ帳を破り、破いた紙をオレに渡してきた。

「がっかりはした。けど、僕たちはまだ友達だ。そして、僕のタルパも言ってるから、チャンスをやる。メモしたものを調べてみてよ!」

そう言うと、カバンを持って、タニシは言ってしまった。

「あ、おい、タニシ!」
「そのあだ名、僕嫌いなんだよね。バカにしてるのかい!?」

今どき珍しい口調の彼は、そう言い残して、寂しい廊下へ行ってしまった。

「だって、信じられねぇじゃんかよ……」

俺は貰った紙をぐしゃりと握った。
さっさと帰って寝よう、そしたら忘れる。忘れられるはずさ。俺はカバンを持って、ゆっくりと廊下へ出た。
タニシの……谷吉の姿は、見つけられなかった。

5:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 19:55 ID:3uI

言ってしまった× 行ってしまった○
です。間違えました、すみません。

6:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 20:19 ID:3uI

家に帰って、パソコンを開く。
帰ってきたのだから、寝ようと思ったのだけど、ちょっと気になったから、タニ……いや、谷吉のくれた紙に書いてあるものを調べた。

カタ、カタ、カタ……。
谷吉は、スマホという便利なものがあっても、必ずパソコンを好んで仕様した。
オレはスマホ派なのだが、なぜか今日は珍しくパソコンを使った。
最近使ってなかったせいで埃がついていたり、文字を打つのも遅くなっていたりした。

【タルパー 掲示板】

タルパじゃなかったっけ?あいつが言ってたの。
そう思ったが、気にしないことにした。

「お……?」

出てきた。しかも、結構多い……?
実のところ、あいつの作り話だと思っていた。けど、こんなに……。
いやいや。タルパを否定している掲示板なのかもしれない。よし、ちょっくら、この一番上に出てきたものをクリックしてみよう。

クリックしてみると、色々なスレが出てきた。一番最新のレスがあったスレを見てみる。

【タルパの具体化(23)
1:匿名タルパー
可愛いオレのタルパちゃん、犬に感知されたみたいだ。
こういったこと、あるか?
ネットだと、猫や犬、凄いたまに人間に感知されることがあるって書いてあるんだけども。

20:匿名タルパー
あるある。私のとこだと、ペットの猫に。

21:タニシの川
人間に感知されるようになったら、面白そう。タルパのこと、理解してくれそう。
けど、面白半分で作って、可哀想なタルパも増えそう。でも、やっぱり理解してほしいから、感知してほしいかなー。
感知できるようになったら、友達も信じてくれるかな……。

22:匿名タルパー
»21おぉ!タニシさんお久しぶりでーす。
やっぱり、怖いけど、人間にも感知されるようになったら面白そうですよね。
でも、普通ありえないような髪色をした人がいたら驚くよねw

23:匿名タルパー
»21タニシさんじゃないですか!お久しぶりですね。
タルパが主流(?)になったら面白そうと思うのは皆さん同じなんですね。
あぁ、うちの子たちもそろそろ動物に感知されないかなー】

……。
オレは、反応に困った。
タニシの川?え、タニシ?タニシだって!?
まさか、偶然だろ。
でも、友達も信じてくれるって、それって……え?

オレはふと、昔のことを思い出した。
感知。ありえない髪色。驚く。

「あぁ、あのときから……」

オレは目を閉じた。

7:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 20:45 ID:3uI

小学生のころ。オレがまだ、世界に幽霊やら妖怪やらがいると信じていて、オカルトに興味を持っていた頃だ。
その時、ちょうど谷吉と友達になったばかりで、二人してオカルトだオカルトだと騒ぎながら神社に向かっていた。

「この神社には、幽霊がいるらしい」
「へぇえ!幽霊かぁ!僕、幽霊見たことないんだよね」

幽霊がいる、と噂の神社に行って、そして、社の周りをぐるぐるした。
なぜか地面を見ながら歩いていたら、

「いないねー」
「そうだなー」

ふと、笑い声が聞こえた気がして、顔をあげた。
そしたら、緑色の髪の男の人が谷吉のそばにいて、酷く驚いたものだ。
騒いで、いた、いた、幽霊いたよ、って叫んで、そして二人して日が沈んでも幽霊を探して……。


目を開ける。
目の前にはパソコンの画面。リロードすれば、また新しい書き込みが増えていた。「タニシの川」の書き込みがある。

【27:タニシの川
そういえば、うちのタルパが、結構昔に人に感知されたことあるって、言ってたな。うちのタルパ、たまに嘘つくことあるから、ちょっと疑わしいけど、そんなことあるのかな。
やっぱり信じられないかな

28:匿名タルパー
»27信じてやりなよ!
それ、絶対本当だって!いいな、いいなー。感知されたのか。
それほど、タニシさんのタルパに対する念が強かったんだろうね】

オレは食い入るようにパソコンの画面を見た。
他のスレにも「タニシの川」の書き込みがあるかどうか気になって、オレは色んなスレを見た。
どのスレにも、「タニシの川」の書き込みが必ずあり、なによりタルパを持つタルパーという人があまりにも多いことが分かり、オレはとうとう、タルパの存在を信じなくてはならなくなった。

あのとき、あの神社で見たのは、きっと谷吉のタルパなんだ。
そして、そのタルパの存在を否定したのはオレなんだ。
そう、あのときから、いや、あのとき以前から、アイツとタルパは一緒だったんだ。
それを、オレは否定して___。

どうしてあんなに怒ったのか。その気持ちがよく分かった気がした。

8:七氏のムクロ氏:2016/03/07(月) 21:23 ID:3uI

朝、登校時間。
オレは急いで家から出て、谷吉の家に向かった。
いつも一緒に登校していて、いつもアイツがオレの家に迎えに来ていた。
それを、今日は逆にしてやる。

ピンポンピンポンピーンポンピポピポピポピポピンポーーーン。

「うるさいじゃないか!両親が朝からいないからって、そんなうるさくしなくても!」

大声を出して、目の前の家から飛び出てきたのは、いつもの谷吉だった。

「あぁもう」

寝癖を直しながら、オレの隣に来た。

「君はいつもそうだ。まったく。たまに早く来たと思ったら、うるさくチャイムを押す。ムカつくよ」
「ああ、そうだな」

あまりにも、いつも通りで逆に驚いてしまう。拍子抜けしてしまう。

「ん、どうしたのさ?」
「え、あ、いや〜……?」
「昨日のこと?あぁ、それなら僕は大丈夫。なだめられたからね、タルパに。君は信じないんだろうけど?」

誰もいないはずの空間に向かって、「ねえ?」と言う谷吉。そこに、あの緑の髪のタルパがいるんだなって思うと、なんだか申し訳なくなった。
ごめんなさい、とその空間を見つめた。

「さっ、行こうか。僕は遅刻したくないんだ!」

オレはあぁ、どうしようと笑顔の谷吉を見た。

「……あのさ、タニ……谷吉」
「ん?何々?」
「昨日のあの、メモの……調べたんだけど」
「あ、見てくれた?」

すっ、とスマホを取りだし、画面を見せてきた。

「これ、僕だよ」
「あ、やっぱりこれお前か。タニシの川、ね。お前、タニシって言われるの嫌なんじゃ……」
「別に?特になんとも思ってなかったよ。まぁ、昔は嫌だったけど。今じゃ一周回って好きだよ」
「へぇ〜」
「で?」
「え?」

谷吉がスマホをしまう。

「信じてくれた?タルパ」

オレはもちろん、と頷いた。

「本当に本当?」
「疑うのはダメだぞ。あと……その……」

お前のタルパって、緑の髪?
答えは、ああそうさ、だった。

「へー。まさか君に感知されてたなんて!本当だったなんて……」
「タルパの言うこと、信じてやれよ」
「だね。言っておくけど、今、タルパは大爆笑中だよ」
「へえ、どんな風に?」
「クソワロタ、だって」

秋空の下。そろそろ冬かな、と思って空を見る。
今日も今日とて晴天で、すぐ近くで笑っているだろうタルパも、同じ空を見ているのかな、と思うと、ふと親近感がわいた。

9:七氏のムクロ氏:2016/03/08(火) 21:37 ID:3uI

「う、わ、ちょ、ちょちょ……!」

ズデーン。
くすくす。くすくす。

盛大に転ぶアタシ。くすくすと笑う人達。
アタシは顔を真っ赤にして、立ち上がると、そそくさとその場から逃げた。

アタシは理恵花。最近、超ド田舎から都会に出てきたばかりの花の高校生だ。
超ド田舎生まれの超ド田舎育ち。
話す人は大抵老人。人が多いのはお盆のときだけ。
そんなアタシは人が至極苦手だった。

(無理無理無理!やっぱり人とか無理だよ)

うわぁ〜……と、アタシは頭を抱えた。
人の視線が気になって、挙動不審になってしまう。
そんなアタシに救いの手をさしのべてくれたのは、そばにいた男のタルパ___春樹だった。

『あっちに行こう。あっちは人が少ない』

今から半年前に作った、まだ自立していない、言わば未オート化のタルパ。
まだ自分から話すことすらできない。
なのに、どうしてか、彼が本心からそう言ってくれてるように思えて、アタシは彼の優しさに胸がいっぱいになった。

(うん、そうだね)

人の目が気になるなら、人がいないところに行けばいい。
アタシは、人の少ない場所に行った。
ビルとビルの間を歩いて歩いて……。
ついたそこは、小さな神社で、田舎育ちアタシにとっては、とても馴染みやすいものだった。
周りはビル。静かだった。空がやけに遠くに見える。ビルが大きいから、錯覚からなのか、そもそも、空というものがアタシの手が届かないほど遠くにあるからか。

「うぅ……」
『大丈夫か?連休を利用して、やっぱり田舎に帰った方が良かったんじゃ?理恵花のためにはならないんじゃないか?』

まてまて。胸をときめかせるな、アタシ。まず、どこに胸をときめかせるワードがあったんだ。
春樹はまだ未オート。これは、アタシが思った通りのことを言ってるだけだ。……そう考えてたら、オート化が進まないけど。でも、タルパに胸をときめかせちゃ、終わりだよ。人として。
……じゃあどうして男のタルパ作ったんだって話なんだけどね……。

アタシは大丈夫だから、と春樹に返した。

『そう?なんか嫌なことあったら、おれに吐き出せよ?ためこむと爆発するからな』
(ああ、それで、お父さんと喧嘩したっけ)
『そのとき、ちょうどおれを作って三ヶ月目の日だったんだよね』
(そうです……悲しいことに)

アタシは力なく笑ってやった。

春樹は、どんな表情をして、どんなことを思っているんだろう。
アタシが聞き取れていないだけで、実はもう自我が芽生えているのかもしれない。今もなにか、言っているのかもしれない。
アタシは空を見た。
青い空ではない。真っ黒な曇り空だ。この空は、これから襲い来る荒波の予兆なのかもしれない。
でも、それも、春樹となら、タルパとなら乗り越えられるだろう。
タルパと一緒になにか乗り越えることによって、タルパのオート化が進むという。アタシは、それに期待した。
そして、じゃ、行こうか、と足を踏み出した。

10:七氏のムクロ氏:2016/03/09(水) 18:31 ID:3uI

夢乃です。ほら、あのぐふふって笑ってた人だよ。
マリカがオート化して、はや5ヶ月。
オート化してからというもの、毎日がやけに楽しくてしかたがない!
学校でも楽しくて楽しくて、最近じゃあ「明るくなったね」「笑顔が増えたね」と友達に言われるくらいだ。
明るいね、というのは、前まで暗かったということなのかな。気にしないけど。

「え"ー、合同条件だけどー」

先生が教科書を左手に持ち、右手にチョークを持って授業を進める。
楽しくて仕方がない私は、その授業をほぼ聞いておらず、マリカと話をしていた。もちろん、心の中で話しをしている。念話、というやつだ。

「んじゃ、この条件を……えー」

(ねぇ、マリカ。帰ったら、昨日買っておいたチョコ食べよう、チョコ)
『うー!食べよ食べよ!でも、その前に宿題しなきゃ、ね?マスター』
(えー……めんどいよー)
『ダメだよ、そういうの。それに、授業に集中しないと、痛い目にあうよ、うーうー』

「えぇ、と……よし、じゃあ山田」
「先生、僕、さっき答えたばかりです」
「えぇ?それじゃあ……」

私は自分が指されるわけないと、呑気に思いながらマリカと話をしていた。
授業に集中していなかった。
が、残念ながら、マリカの言っていた通り、痛い目にあったのであった。

「じゃあ、夢乃」

突然名前を出されて、授業に集中していなかった私はなんのことか分からなかった。
前の席の友達が、「条件」と言った。
なんだ、条件って。なんの条件だ。
先生は優しいから、すぐに「合同条件だ」と言ってくれた。
そう言われて、ようやく私は黒板を見て、そして血の気が引いた。

(やっべ。なに書いてあるか、わっかんねぇ……)
『うー!女の子なのに、その言葉の使い方はダメだと思うな。うー』

合同条件って何?何が合同なの?そもそも合同って何ッ!?

「夢乃ー?」
「……え、えと、です、ねぇ……あの、その……」

(マ、マリカぁ……)
『しょうがないよ、マスター聞いてないんだもん。マリカも分からないし、助けてあげられないよ?うーうー』
(はああああぁぁ!?ど、どうしてえええぇぇ!?どうしてなの!?)

誰か助けてぇッ!!
私は涙を流しそうになりながら、震える口で言葉を紡いだ。

「わ、わかり、ません……」

静まり返る教室。
最悪だ……。
マリカの励まし声が聞こえる。私は椅子に深く座り、マリカに話しかけた。

(もう無理……数学嫌い……)
『大丈夫だよ、うー。マスターならきっと、次は大丈夫だよ!それに、マスターが頭悪くても、マリカは別に困らないから!ね?ね?元気出してよ!』
(うん。マリカは優しいし、いい子だね。それに可愛いし。ぐふふ)
『マスター、またぐふふって言った!最近ぐふふって笑い過ぎだよ!』
(だね)

11:七氏のムクロ氏:2016/03/10(木) 20:50 ID:3uI

『「あんたなんかね、死ねばいいのよ!」』
『「突然何を言い出すのよ!このバカ!」』
『「バカ?バカですって?うるさいうるさい!消えろ消えろ消えろ!お前なんて、私の幻覚だ!私の妄想から生まれた、化け物だ!私の前から消えてよおおおおお!」』
『「アタシは、化け物なんかじゃない!妄想でも幻覚でもないわ!ねぇ、どうしたのよ。どうして__」』



(うわー。世も末。こんなドラマが流行るとは。狂ってんのに。そう思わない?)
『よく言うわい。主も似たようなものだったくせに』
(うぐ。それ言われると弱くなる……。なぁ、じっちゃん。このドラマ、面白い?)
『ふぉっふぉっふぉっ。面白いではないか。特にあのタルパみたいな人物は、いい感じじゃのう』

ぼくのタルパ、じっちゃん。本命はタカヒロ。
じっちゃん、と呼んでいるのだが、本当にいる祖父をモデルにしているわけではない。ただ、じっちゃんって感じだったからじっちゃん。
元は可愛い女の子を想像して作っていたのが、どこをどう間違ったのか老婆になり、そしてまたどこをどう間違ったのか性転換して男になった。
ちなみに、この流れはたった一ヶ月。タルパを作り出してたった一ヶ月でこんな風になってしまった。
ぼくの幼女は……女の子は……どこに行ってしまったんだ……。がくり。

『「死ね死ね死ね!消えてよ消えてよおおお!」』
『「やめて、痛い、痛いから!お願いだから、ねぇ、ねぇ、ねぇっ!?」』
『「喋んないでよ!……嫌、来ないで………ッ嫌あああああ!!」』

「うわ、何この展開」
『ふむ、ここで今回は終わりかの』

エンディングテーマが流れる。と、ともに次回予告が。
このドラマ、なにげに登場人物の一人がタルパっぽいから見ているのだけど、意外と面白かったりする。

内容はこんな感じだ。

いつも一緒にいる女の子と友達。
おはようからおやすみまで、ずっと一緒。
けど、ある日、それが「異常」であることを女の子は知る。
友達は存在していなかったのだ。女の子から生まれた妄想のかたまり。それに気づくと、先ほどのように、女の子は叫び出した。
ちなみに、今回の話が「友達が妄想だと女の子が知る」というやつである。

このドラマ、実はじっちゃんは見ようとしていなかった。
どうせ、登場人物のタルパっぽいのは否定されるんだから、と。けど、そのタルパっぽい役の女優さんに、じっちゃんがいわゆる一目惚れをしてしまい……じっちゃんは毎日欠かさず見るようになってしまった。

じっちゃんは、その一目惚れした女優が出てくるたび、『ファンレターなるものを書くかの』と言って、ペンを取ろうとする。
けど、その手はペンを通り抜けて、じっちゃんは涙を流すのだ。
はっきり言って、ぼくはひいた。

『おお?どうした主。ぼうっとして。眠いのか?まぁ、茶でも飲めい』
(うん。そうする)

ぼくは、じっちゃんのそばにある、淹れたてであろうお茶を取ろうとし……そして、手はお茶を通り抜けた。

「えっ」
『ふぉっふぉっふぉっ。それはワシが作った幻覚じゃて。ワシが泣いてたとき、ひいていた罰じゃ』
(気づいてたのか)
『ふぉっふぉっふぉっ。おお、そういえば、母上が可哀想な子を見るような目で主を見とるぞい』
「げっ」

ぼくは、母さんを見た。
「可哀想……」とでも言いたげに、ぼくを見ている。
なんで、なんでだ。どうしてぼくが……ぼくが……こんな目に………。

「正明?どうしたの?」
「なんでもないよ、はは」

じっちゃんが、自分で作った幻覚のお茶をごくごくと飲んだ。

12:猫又◆Pw:2016/03/11(金) 01:34 ID:NNE

 ムクロさん、初めまして。猫又と申します。
タルパと聞いて読ませてもらいました。

 色んな人のタルパが出てきて面白いです。
私も5年ほど前からオート化したタルパが“い”るので共感できる部分がちら、ほら……。
 ま、私のコトはさておき、続き待ってます。それでは、


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