あの日の君を今でも憶えている。

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1:理空◆6Y:2016/11/30(水) 20:58

こんにちは、りあです。

小説を書くので、気軽に読んで下さい。

感想を書いてくれたら、嬉しいです。

2:理空◆6Y:2016/11/30(水) 21:24

☆登場人物紹介☆

七瀬 陽鶴(ななせ ひづる)♀
〈私立星空高等学校〉に通う高校2年生。背が低く普通の見た目だが、過度のお人好し。
ニックネームは、ヒィ。

風浜 美月(かざはま みつき)♀
陽鶴の友達で、同じ高校の同級生。中学生の頃から杏里と付き合っている。

黒崎 杏里(くろさき あんり)♂
陽鶴の友達で、同じ高校の同級生。中学生の頃から美月と付き合っている。

水野 稜也(みずの りょうや)♂
陽鶴の友達で、同じ高校の同級生。陽鶴のことが好きになる?

七瀬 千鶴(ななせ ちづる)♀
陽鶴の姉。5歳年上で美貌の持ち主。ニックネームは、チィ。

津川 明日奈(つがわ あすな)♀
陽鶴の友達で、同じ高校の同級生。心配性で泣き虫。

津川 瑠璃奈(つがわ るりな)♀
陽鶴の部活の後輩で、明日奈の妹。高校1年生。

3:理空◆6Y:2016/11/30(水) 21:30

ちょこちょこ更新します。

毎日は無理ですが、出来るだけ更新します。

よろしくお願いします!

4:理空◆6Y:2016/11/30(水) 21:35


『あの日の君を今でも憶えている。』


__どうして君は、私たちを置いて逝ってしまったの?

5:理空◆6Y:2016/12/02(金) 00:39


第一章『それは、終わりの始まり』


1,七月十八日月曜日。~前半~
緩やかだった暑さが急に乱暴になった。頼りなく広がっていた雲も、白の密度を増した入道雲へ姿を変えていく。いつの間にか、夏の入り口に差し掛かっているらしい。
日中の暑さもすっかり影をひそめた日暮れ時。美術部の部室で画材の手入れを終えた私は、薄墨の広がり始めた空を見上げながら、ひとり帰っていた。ひんやりした風が頬を撫でていくのが心地いい。
初夏の夕暮れはとても好きだ。まだ暑さに馴染めない体を労ってくれているような気がする。それに、この時期特有の空の色がなんとも綺麗なのだ。オレンジ色と群青色、深い黒がゆっくりと混じり合う様子は、いつまで見ていても飽きない。
「あ。フェルメールブルーだ。綺麗」
無限大の空のキャンバスにひときわ煌めく鮮やかな青を見つけて、指で作ったファインダーで囲う。偉大なる画家が愛した、ラピスラズリを溶いた色。金を内包した鮮やかに濃い青は、一番好きな色でもある。
空を眺め、ふんふんと鼻歌を歌いながらのんびりと歩く。そんな私の足を止めたのは、先を歩く一組の後ろ姿だった。
仲良さげに手を繋いで歩いているふたり。それは、隣のクラスの黒崎くんと美月ちゃんだった。
二年二組、黒崎杏里くん。おそらく180cmを超えるくらいに背が高く、顔立ちがとても整っている。意志の強そうな深い黒の瞳が印象的。高すぎず低すぎずのしゅっと通った鼻筋と、それに最高に似合った形のいい唇がバランスよく配置されており、女の子からの人気がとても高い。容姿だけでなく運動神経も抜群で、所属している陸上部で誰よりも足が速いというのも、魅力のひとつ。性格はというと、無愛想……いやいやクールで冷静。休み時間にほうきでバトルとか絶対しない、少し大人びた印象。我が校でも指折りの、イケメン人気男子である。
そして、風浜美月ちゃんは、その黒崎くんが長年付き合っている彼女だ。背の高い黒崎くんと並んでいても全くひけをとらない長身の持ち主で、モデルのような体形をしている。顔立ちはとても可愛らしく、肌なんて陶器みたいにつるつるで、腕利きの職人が作ったビスクドールみたいだ。背中の中ほどまで伸びた栗色の髪は緩くウェーブがかかっていて、一本一本が絹糸のよう。身内自慢になってしまうかもしれないけれど、美貌の姉の千鶴と比べて勝るとも劣らない、完璧な美少女だ。
そんな美月ちゃんはブラスバンド部に所属していて、ブラバンでも花形の、トランペットを担当している。彼女の吹くトランペットはとても澄んだ音をしていて、そしてその佇まいがとても綺麗で、私はしばし彼女の姿に見惚れたこともある。イケメン黒崎くんの彼女として、彼女以上の人はいないと思わせる、最高の子だ。
思わず足を止めた私だったが、すぐに歩き出す。よく会うが、いつも一言声をかけて通り過ぎる。
「おつかれさま」
通り抜けざまに声をかけると、美月ちゃんが「あ!陽鶴ちゃん、おつかれさま」とにっこり笑う。私も、出来るだけ笑ってみた。

6:理空◆6Y:2016/12/02(金) 00:51

2,七月十八日月曜日。~後半~
「じゃあね」
手を振って横を通り過ぎようとしたその時だった。
「陽鶴ちゃん!そういえば、同窓会の連絡来た?」
美月ちゃんが私を呼び止めた。
「へ?同窓会?」
知らなくて思わず足を止めてしまうと、美月ちゃんが「まだ来てないのかぁ」と呟く。それから、長い髪を耳にかけながら言う。
「なんかね、中学校の時の同窓会が計画されてるみたいなんだ。もうすぐ夏休みでしょ。その間にやろうって」
私と美月ちゃん、黒崎くんは同じ中学だった。しかも、美月ちゃんとは三年間同じクラス。
「へえ、そうなんだ。美月ちゃんたちは、行くの?」
「うん!せっかくだし。それに、計画立てた喜和子たちから、絶対参加してって言われてて」
ね?と美月ちゃんが隣を窺うと、黒崎くんが面倒くさそうに頷いた。
「普段でも結構同中のやつに会うし、仲いいやつとは遊ぶし、同窓会なんていっても懐かしくないけどな」
「あーもう!あーくんったら、またそんなこと言うんだから!会ったら絶対楽しいもん!」
ぷう、と頬を膨らませてみせた美月ちゃんが、私に顔を戻す。
「陽鶴ちゃんも、よかったらぜひ参加してね。せっかくだから、みんなで会いたいし」
「あー、うん」
……ごめん、美月ちゃん。私も、黒崎くんと同じくちょっと面倒だわ。そう思ったけど、この天使のような笑顔の前ではそんな冷めたこと言えなくて、曖昧に笑った私だった。
話しながら歩いているうちに、私たちは交差点の信号に捕まることになった。
ああ、やだな。なんでここの交差点は、青になるまで時間がかかるんだろう。なんだか私、ふたりの空気をお邪魔してるって感じ。
少しの距離を彼らと取って、信号が変わるのを待つ。
「あ、信号変わったよ」
長い長い赤が、青に変わって、私はほっとする。
「ここの信号、長すぎだよねー。さ、行こう!」
黒崎くんの腕からするりと離れた美月ちゃんが、私の横をすり抜ける。軽やかな彼女を追うように、足を進めた。
「美月、走るとこけるぞ」
黒崎くんが柔らかな声で言った、その時。視界の端に、真っ直ぐに向かってくるトラックの姿を捉えた。
……え?な、に?
一切スピードを緩めることのないトラックは、私たちをゴールだと言わんばかりに突進してくる。
これは、だめだ。いけない。
『死』という単語が頭をかすめた。巨大な乗り物が、あのスピードに乗って迫ってきたら、私の体なんて脆くも潰れてしまうと、本能で分かる。
「危ない!美月!」
鋭い黒崎くんの声が聞こえた。
危ない。そうだ、危ない。逃げなきゃ、と思った瞬間、私の記憶は、ぷつんと途絶えた。

7:理空◆6Y:2016/12/02(金) 02:04

3,七月十九日火曜日。~前半~

__真っ黒な世界にひとりぼっち。そんな夢を見た。


「……ん、む……」
耐えられない痛みに、目を開けた。目を閉じていた、ということはやっぱりさっきのは夢だ。って、夢……、私、寝てたの?
視界には、見慣れない真っ白な天井が広がっていた。え、何ここ。どこ?ていうか私、どこで何してたんだっけ。
自分の置かれている状況が掴めない。何度も瞬きを繰り返して、それから体を動かしてみた。体の節々が痛む。長く動かしていないような違和感があった。それから、思うように動かない顔をどうにか動かして、周囲を見渡した。
「ここ、どこ……?」
「ヒィ!?目が覚めたのね!」
私の顔をずいと覗き込んだのは、姉の千鶴だった。泣いていたのか、目の周りを真っ赤にしている。
「あ、れ?お姉ちゃん……?私、どうしたんだ、っけ……」
「事故に遭ったの!意識取り戻さなくて、もう心配で……」
わあ、と泣き崩れた姉の肩を抱いたのはワタルさんだった。ワタルさんは、姉の彼氏で医者の卵。彼もまた目の縁を赤くして「よかった」と言った。
「本当によかった。僕、お母さんたちに連絡してくるよ。さっき、家に帰ったばかりなんだ」
「え?あの、私……よく理解できなくて。事故って……?」
記憶があやふやだ。私は何をしていて、ここにいるんだ?ぱちぱちと瞬きを繰り返す私に、ワタルさんが「落ち着いて聞いてね」とゆっくりと言った。
「帰り道に、家の近くの交差点で、ヒィちゃんは事故に遭ったんだ。居眠り運転のトラックが突っ込んできて、君は車に弾き飛ばされた」
「トラッ、ク……、事故……」
言葉にすると、少しずつ記憶が戻ってくる。
ああ、そうだ。私は交差点を渡ろうとして、突進してくるトラックを見た。そして、黒崎くんの『危ない』という叫び声を聞いた。
「え……ああ、そうだ。トラックが向かって来たんだ。私、びっくりして……」
「そう。それでね、君は幸いにも大きな怪我もなく、助かったんだよ。それでも、丸一日、目覚めなかった」
「うわああん、よかったあぁーー!」
姉の泣き声が、ワタルさんの声に覆いかぶさった。
そっか。私、あの時トラックとぶつかって、でも生き永らえたってわけか……。
のろのろと両手を持ち上げる。右手に包帯が巻かれている。ピリピリと痛んで無意識に顔が歪むけれど、しかしちゃんと動く。グーパーを繰り返してみると、両手は意識に沿ってきちんと動いた。足も動かしてみる。声が洩れるくらいの痛みが右足に走ったけれど、でも動かせないほどでもない。
ああ、大丈夫だ。体に、目立った不備はない。そんな私の考えていることが、ワタルさんには分かったのだろう。泣き笑いのような表情を浮かべた。
「大丈夫。後遺症の残るような傷は、一切ない。これからも、絵は描けるよ」
「そ、っか。よかった」
ほっと息をついて、そしてその時ようやく思い出した。
あの場に。私以外の人間がふたりいたことを。
ワタルさんに目を向け、「どうなったんですか!?」と叫んだ。
「私と一緒にいた黒崎くんたちはらどうなったんですか!」
ワタルさんが、眼鏡の奥の瞳をぎゅっと閉じた。それは、彼が都合の悪い時にみせる仕草だ。心臓が力任せに掴まれたように痛む。
「ワタルさん!」
叫ぶように聞いた私に、ワタルさんはゆっくりと言った。
「君と一緒にいた、ふたりは……」

8:理空◆6Y:2016/12/02(金) 02:41

4,七月十九日火曜日。~中間~

__美月ちゃんは、あの事故で命を落とした。


季節には少しだけ早いひまわりで鮮やかに飾られた祭壇の中央には、どの花よりも生き生きとした、天真爛漫に笑う美月ちゃんがいた。
「即死ですって……。あんないい子が、なんで惨い……」
「なんでぇ?なんで美月が死ななきゃならないのよ……?」
「嘘だよ、嘘って言ってよ、美月ぃ……」
たくさんの弔問客で溢れたた斎場は、哀愁に満ちていた。誰もが涙を浮かべ、美月ちゃんの早すぎる死を悼んでいた。
姉とワタルさんの手を借りて、どうにか葬儀場にやってきた私だったが、すぐにその深い嘆きに呑まれた。
美月ちゃんは、過剰な表現でもなんでもなく、言葉通り本当にみんなに愛された子だった。誰にでも優しくて、朗らかで、明るくて、愛されるのが当たり前の子だった。そんな彼女がどうして、16歳なんて年齢で命を断たなければいけないのだろう。
「陽鶴!あんた、大丈夫なの!?」
私に気付いたのは、明日菜だった。泣きすぎてアイメイクがはげ落ちている明日菜は、私を見てますます泣いた。
「私、陽鶴まで死んじゃったらどうしよう、って……。よかった。生きててくれて、ホントによかったよぉ……」
「ありがと、明日菜……」
痛む体を動かして、明日菜を抱きしめる。明日菜は抱きしめ返してくれて、それから私の顔を覗き込んだ。
「顔の傷、ひどい……。痛むでしょ?」
私は、右腕と右頬に擦り傷、右足首には捻挫を負っていた。右頬の擦り傷は結構大きくて、青あざもできていて見た目はひどいけれど、しかしそんなのは日が経てば治るものだ。
何より、私は死んでいない。命があるだけ、幸運だったのだ。
「大丈夫。こんなの、平気」
明日菜を安心させようとそっと笑ってみせて、祭壇に向かって歩き始めた。ふらふらと歩く私のそばに、姉と明日菜が付き添って支えてくれた。
美月ちゃんの笑顔が近づく。真っ白な白木の柩の上には、彼女の愛用していたトランペットが静かに置かれていた。
遺影を見上げる。いつもと変わらない、しかし物言わぬ笑顔に、胸が締め付けられる。姉と明日菜の腕を掴んだ手に、力が籠もった。
最後の時、美月ちゃんは笑っていた。スカートの裾を軽やかにひらめかせ、私よりも黒崎くんよりも、生き生きとしていた。
なのに、嘘でしょう?美月ちゃんが死んじゃったなんて、嘘でしょう?
「美月、ちゃん……」
名前を呼ぶ声が潤む。喉の奥から大きな塊のようなものが込み上げてきて、呼吸を止める。息苦しさにむせ返る。
だけど、まだ、実感が湧かない。こんな場所に身を置いても、納得できない。本当に、美月ちゃんは死んじゃったの?それを認めなくちゃいけないの?
「これは冗談でーす!」って言って、おどけて出てきたっていいんだよ?美月ちゃんなら、みんな許してくれるよ。笑ってくれるよ。
だから、ほら、出てきてよ。

9:理空◆6Y:2016/12/02(金) 03:37

5,七月十九日火曜日。~後半➀~
「ヒィ。彼女に、お別れの挨拶をしなさい」
姉に促されて、柩に向かう。そっと、覗き込んだ。狭そうな桐の箱の中で、美月ちゃんはただ眠っていた。
擦り傷ひとつない。私の頬の方がよほどひどい状態だと思う。なのに、どうして美月ちゃんがこんな所に入っているの?
まるで、白雪姫だ。そうじゃなければ、王子様のキスを待っている眠り姫だ。きっと愛する人のキスさえあれば、彼女はするんと起き上がって、あの素敵な笑顔を浮かべてくれるんだ。
ねえ、美月姫。王子様はどこ?私、呼んできてあげるよ。
清らかな寝顔に語りかける。王子様はどこ?ねえ、美月ちゃん……。
その時、背後で「大丈夫?」と声がした。のろりと振り返ると、遺族席の端っこでうずくまる黒崎くんがいた。
__あの事故で死んだのは、美月ちゃんだけだった。私も、黒崎くんも、どうしてだか死ななかった。
私と同じように擦り傷だらけの黒崎くんは、顔色を真っ白にしていた。過呼吸を起こしたらしく、呼吸を荒げている。
「大丈夫ですか?これを被って」
斎場の職員さんが慌ただしくやってきて、黒崎くんに紙袋をかぶせる。
「ゆっくり呼吸して。大丈夫。ゆっくり。楽になるから」
痙攣するかのように体を震わせていた黒崎くんの体が、次第に落ち着く。
「だ、いじょうぶ、です……」
それからしばらくして、弱々しい声がした。
「杏里くん、あなたも事故の後で、まだ無理をしちゃいけない体なのよ。お願いだから、控室で休んでてちょうだい」
美月ちゃんのお母さんが泣きはらした目で黒崎くんに言う。私が姉たちの力を借りないと動かないように。黒崎くんもきっと、体がキツいのに違いない。なのに彼はずっとここにいたのだろうか。
「大丈夫です、俺……」
袋の下で、彼が小さな声で言う。
「美月の傍に、いたいんです……。死んでも」
それは、今まで聞いたことのない黒崎くんの声だった。頼りない、小さな子供のようだ。黒崎くんは、か細く繰り返す。
死んでも。俺は死んでも美月の傍にいたいんです。
彼の必死の声に、誰も何も言えなかった。だって彼が誰より美月ちゃんを大事にしていたことを、知っているから。本気でそう願っていると、分かっているから。
「……馬鹿なこと、言わないで。杏里くんが死んだら一番悲しむのは、美月よ」
果たして、涙声で、美月ちゃんのお母さんが言う。
「だから、そんなこと言わないで。美月のためにも、杏里くんは頑張らなきゃ」
「すみま、せん……。俺……」

10:理空◆6Y:2016/12/02(金) 03:39

5,七月十九日火曜日。~後半➁~
「あーくん!」
そんな時、澄んだ声が響き渡る。その声を聞いた私は、耳を疑った。
__え。まさか。そんなこと、あるわけがない。だけど。
のろりと振り返り、斎場の入り口を見る。
人ごみの中に凛と立つその子を捉えた瞬間、肌が総毛だった。足元からすうっと血の気が引いていく。
なんで。まさか。見違えるわけがない、けれど、あり得ない。
だって、その子は祭壇の上で笑っている。柩の中で眠っている。
「美……月、ちゃ……?」
出入り口から、黒崎くんに向かって真っ直ぐに駆け出していくその子は、美月ちゃんその人に他ならなかった。
「あーくん!あたしここにいるよ!ここにいるの!ねえ、気付いて、あーくん!」
制服のスカートを確かに揺らして、長い髪を振り乱している。幻でもなんでもない。それは、確かに美月ちゃんだった。
でも、どうして?だって美月ちゃんは、死んでいる……。
「あたしここだよ!ねえ、あーくん!お母さん、お父さん!ねえ、あたし、ここにいるの!」
美月ちゃんは、黒崎くんを介抱する両親に向かった。だけど、誰も美月ちゃんが見えていない。声も、聞こえていない。
これは、何……?何なの……?何が、起こってるの……?
「何、これ……」
思わず呟いた私の小さな声は、ちゃんと姉に届いだのらしい。
「どうかした、ヒィ?」
「お姉ちゃん……何、これ……」
震える指先で、美月ちゃんの方を指す。しかし姉は遺族席を悲しそうに一瞥したあと、「どうかした?」と訊いた。明日菜も「何かあるの、陽鶴?」と不思議そうに言う。
……やっぱり、お姉ちゃんたちにも美月ちゃんの姿は見えていない。
これは、美月ちゃんの幽霊?私だけが、見えてるの?でも、どうして?
誰にも見つけてもらえない美月ちゃんが、涙を拭いて止まった。私の視線とかち合って。周囲を見渡す。
「ねえ。お願い。あたしに気付いて、誰か、誰かーーっ!」
彼女の絶叫に、私の心が悲鳴をあげる。この場所で、彼女のこの叫びを聞いているのは、きっと私だけだ。両親でも、黒崎くんでもない。どうして、私だけ。
涙を手の甲で拭った彼女がきょろきょろと視線を彷徨わせる。それが、一点で止まった。私の視線と、かち合って。
「陽鶴、ちゃ……?」
悲しみで染まっていた瞳に、希望のような光が見える。
「もしかして、あたしのこと、見えてる……?」
見えてるよね!?そう叫んで駆け寄ってくる美月ちゃんの姿を見ながら、私は気を失った。

11:愛音◆Bc:2016/12/02(金) 18:25

こんにちは!あのん、です。
素晴らしい小説ですね!見習いたいです。
これからも、頑張ってください!応援しています(=´∀`)人(´∀`=)

12:理空◆6Y:2016/12/02(金) 22:06

>>11
愛音さん、ありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、頑張りたいと思います!応援よろしくお願いしますね!

13:理空◆6Y:2016/12/03(土) 09:22

6,七月二十日水曜日。
「……っ!」
目覚めた時に見たものは、薄暗い、自室の天井だった。どうやら私は、自分のベッドに横たわっているようだ。
「あ、え……?」
何度も瞬きをして、それから目を擦る。やはり、なんの変哲もない自分の部屋だった。あれ?私、どうして部屋で寝てるんだっけ……。
「起きた?ヒィちゃん」
私の顔を覗き込んだのは母だった。
「あれ?お母さん、私、えっと……」
「どうしても風浜さんのお葬式に行くって言ってきかないから行かせたけど、まだ無理しちゃいけなかったのよ。ヒィちゃん、途中で倒れたの覚えてる?」
「あ、そっか」
ぼんやりと思い出す。そうだ、私は美月ちゃんのお葬式に行って、そこであり得ない幻を見て倒れちゃったんだ……。
なんて幻を見たんだろう。誰にも見つけてもらえなくて泣き叫ぶ美月ちゃんの幽霊なんて、趣味が悪すぎる。顔を歪めた私だったが、頭にひんやりしたものを感じてはっと我に返る。母が頭をゆっくりと撫でてくれていたのだ。
「チィと明日奈ちゃんが支えてくれてたから、倒れ込まなくって済んだのよ。もう、お願いだから心配させないで」
「ごめんなさい……」
そう言う母の顔には疲れが滲んでいた。
もしかしたら、母は私が目覚めるまでずっとここにいてくれたのかもしれない。
申し訳なさを感じて、顔の半分以上を布団の下に隠して謝った。
「悪いと思うのなら、せめて今日一日はゆっくりと寝ていてちょうだい。後で部屋までご飯持ってきてあげるから」
「ありがと……。ねえお母さん、今何時くらい?」
カーテンを閉じた部屋は薄暗い。壁にかけられた時計の文字盤が見えなくて訊くと、立ち上がった母がカーテンを開けた。途端に、まばゆい光が室内に飛び込んでくる。
「朝の9時前。ヒィちゃんは昨日のお葬式で倒れてから、ほとんど一日眠っていたのよ」
「そんなに」
眩しさに目を細めながら呟く。
「じゃあ、美月ちゃんのお葬式、終わっちゃったんだね……」
「ええ」
胸の奥に重たい物が落ちる。もう本当に、美月ちゃんは死んじゃったんだ……。
母が部屋を出て行った後、体を動かそうとしたが、上手く動かせない。
「あー、くそ。調子悪いな」
そう呟いた。


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