妖怪恋絵巻

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1:スミレ◆5w:2017/03/27(月) 20:44

「翼、強くなりなさい。とは、言わないわ。あなたは、無理するから。…そうね、気高く在りなさい。それが、お母さんの願いだから。」

そう言って、お母さんは、天に逝ってしまった。

2:スミレ◆5w:2017/03/27(月) 20:59

「恋谷、校内オニゴしないか?」

恋谷翼は、ハッとした。
黒髪のキリリとした、ショートカット。
時に、彼女は、男と勘違いされる。

「…別に良いけど。」

「ッシャアー!!じゃ、スタート!恋谷が鬼な!」

そう言って、男子生徒は、翼から逃げる。

(ハァ、めんどくさいが、やるしかないか。)

10数え、歩き出す。廊下には、走るの禁止!と、書かれた紙が貼られている。

階段を覗きつつ、上る。踊場を歩いていると。

ツルリッ!

水があり、翼は、鏡に手をかける。

いつもなら、鏡は冷たい。

そう、いつもなら。

グニャリと、鏡が歪む。翼の手が、鏡の中に入っていく。

(ウソ、だろ?)

鏡は、ジェル状になり、翼の全身を飲み込んだ。

(一体、此処は?)

翼の目の前には、鮮やかな桜の木。

大きな山。

点々と連なる家々。

(此処は…?里、か?)

座り込んだ翼の背から、ヌッと誰かが現れた。

3:スミレ◆5w:2017/03/27(月) 21:21

赤色の髪を持つ、かっこいい?青年がいた。

「イチイ兄さん、惚れたのか??」

その青年の背から、ヌッと、白銀の髪を持つ、これまたかっこいい青年がいた。

「ッ…ゴウ、テメェの面、顔面骨折させても良いんだぞ…(怒)」

ケンカし始めた、兄弟を翼は、唖然として見る。

「……………兄さん達、見苦しい。」

冷ややかな声がした。

「……ニィ!関係ないだろ!」

「兄上は関係ないのでは…?」

青色の髪を持つ、かっこいい青年がいた。

「……俺、ニィ。こっち、兄のイチイ。あっち、弟のゴウ。きみは?」

ニィの声に、翼は、

「私は、恋谷翼。此処は、一体何処?」

「ここはね、翼ちゃん♡」

ヒョイと、緑の髪を持つ、青年がいた。

「オレは、サィヤ。ここは、鬼村。」

「鬼村!?」

翼は、サィヤの言葉を反芻する。

「そんでもって、俺らの家。」

新たな声がした。

黄色の髪の、青年がいた。

「オレは、シイヤ。よろしくな、翼。」

(5人兄弟!?)

翼は、頭がクラクラしてきた。

4:スミレ◆5w:2017/03/28(火) 13:53

サィヤが、不意にまじめな顔で、翼に聞く。

「なぁ、翼ちゃん。」

「…はい?」

「椿姫から何か聞いてないか?」

椿姫は、翼の母親だ。

翼は、目をぐるりと回した。

「…特に。」

「あちゃー。椿姫、伝えてないってか。」

ニィが、

「…なら、呼べば。」

翼は、申し訳なさそうに、

「母は、10年前に、死にました。」

「「「「「嘘だろ!?」」」」」

5人兄弟全員が、ハモる。

「それじゃ、翼が知らないわけだ。」

イチイが、言った。

シイヤも、うなずき、

「椿姫、鈴玉も託さなかったんだろ。強情だったしな。」

翼は、思い切って、

「鈴玉って‥…?」

すると、鈴のような声がする。

「神の御子が抱く、聖なる玉よ。」

ふわっと、その少女は降り立つ。

「「「「「杏樹!!」」」」」

(杏樹……??)

5:スミレ◆5w:2017/03/29(水) 07:13

ふわふわの茶髪の女の子は、うなずく。

「私は、杏樹。よろしくね、翼ちゃん。」

シイヤが、不思議そうに、

「今日は、何で来たんだ?」

杏樹は、ニンマリ笑って、翼の方を見て、言った。

「イチイ兄さんを雅様が、鬼頭にしたいと。」

わけが分からない顔をしている、翼に、

「鬼頭は、鬼の頭という意味よ。あと、、」

あたりを見回し、コソッと、杏樹は言った。

「ゆくゆくは、香乃姫のところに、婿入りしてほしいみたいよ。」

(こっちでも、婿入りとかあるのか…)

イチイの顔は、真っ青だった。

6:スミレ◆5w:2017/03/29(水) 12:01

(どうしたんだろう?)

イチイは、ブルブルと、

「あの婆め!!」

「ど、どうしたんですか。」

恐る恐る聞いた翼に、イチイは噛みつくように言った。

「あの婆は、逆らったらめっちゃくちゃにされるんだよ!」

「め、めちゃくちゃ?」

余りにも、震えているので、翼は聞かないようにした。

まあまあ、と、サィヤがとりなす。

「兄さんも当たらない!あと、香乃姫も可愛いよ??」

翼の胸の中は、嫉妬(?)に燃えていた。それを知るのは、後のこと。

「あ、あの。皆さんのこと、呼び捨てして良いですか?」

「いいよ!」

一番最初に、サィヤが飛びついた。

他の4人も許可した。

翼は、ホッとした。

7:スミレ◆5w:2017/03/29(水) 12:45

*鬼村 南部*

香乃姫は、祖母の方をみる。

「おばあさま、イチイ様を鬼頭にするのですか?」

香乃姫の祖母__雅様は、ニヤリと不適な笑みを漏らす。

「もちろんですとも、香乃姫。」

香乃姫は、心配そうに、

「イチイ様を婿にしなくても。」

雅様は、再び笑った。

「私の願いは、香乃姫が結婚する事ですよ。」

香乃姫は、ジッと雅様を見た。

「おばあさまと、イチイ様は、仲が悪いと、宮中でも噂の一つでしたのに。」

雅様は、不意にまじめな顔になる。

「そんな事を、香乃姫に伝えるなんて…。育ちが悪うございます。帝の妻ですのに。」

くしゃっと顔を歪めた雅様に、香乃姫は笑いかけた。

「ご心配なさらないで、おばあさま。」

8:スミレ◆5w:2017/03/29(水) 17:03

*鬼村 宮中*

香乃姫は、しずしずと、廊下に出る。

帝に呼ばれたのだ。

(帝は、一体何を考えられているのでしょう?)

帝の部屋に入り、簾の向こうから、帝の声がする。

「香乃姫、イチイとの結婚は、聞いたか?」

「…はい。」

ちょっと、帝の声が明るくなる。

「どうじゃ。結婚を決めたか?」

香乃姫は、小首を傾げ、

「まだでございます。」

帝の声は、静かになる。

「悪い縁談では、なかろう?悩むこともなかろう?」

(そうですけど……)

香乃姫は、静かに言った。

「イチイ様が、私を好いているとは、まだ分かりませんから。」

帝の声に、心なしか怒気が含まれた。

「そなたは、かなり人気があるのだぞ?イチイも悪くなかろう。」

(この人は、私を政治に使おうとしている。)

「そうでしょうか?まだ、考えがまとまらないので、考える時間をお与えください。」

帝は少し考え、

「よかろう。良い答えを出すことを期待している。」

帝の部屋を出た、香乃姫は、フウッと、ため息をついた。

(帝は、邪神様が降臨されるから、焦っているのだ。)

部屋に戻った、香乃姫は、倒れ込んだ。

(イチイ様との婚約。確かに悪くは、ないですね。)

そして、何時の間にか眠ってしまっていた。

9:スミレ◆5w:2017/03/29(水) 17:31

翼は、ごくっと、唾を飲む。

なぜなら、香乃姫がイチイのもとに来たのだ。

「イチイ様、私との婚約、考えていただけませんか?鬼頭の座も考えてあります故。」

「いや、でも…。」

言いかけたニィを、イチイは手で制した。

「香乃姫もお知りの通り、コレは、椿姫の娘、翼です。」

(コレって!!)

微かに翼の肩が、動く。

「香乃姫も知っておられますが、今年は邪神様の降臨の年です。先代の椿姫が、神の御子で、鈴玉を抱いていたように、翼も恐らく、邪神様の降臨を食い止められるのでは。」

香乃姫は、柔らかく笑う。

「でも、私達が婚約しない理由には、ならないでしょう。」

イチイは、チラリと翼を見、

「……では、謹んでお受けいたします。」

婚約を受けたのだった。

婚約の知らせのため、イチイも香乃姫と宮中に行くことになった。

帰る前、香乃姫は、翼に、

「時折、きてくださいね。何かあったときは、私達を頼ってくださいね。」

と、笑いあった。

10:スミレ◆5w:2017/03/29(水) 20:40

淡々と、イチイが香乃姫に婿入りする日が決まっていく。

翼としては、嬉しかった。

誰かが幸せになれるのだから。

[神抱き御子よ。]

(なっ、何。)

その声は、翼の内側からする。

女のような、男のような声。

[邪神が降臨し日に、そなたの真の力が目覚め、それを阻止するであろう。]

(どうして、何?真の力?)

[そなたの鈴玉は、そなたの中にあり、そなたの外にある。]

リン。リン。

鈴の音を残しながら、声は消えた。

(私の中にあって、外にある?)

翼は、不思議に思った。


邪神降臨まで、後2日。

11:スミレ◆5w:2017/03/30(木) 21:45

時は進み、邪神降臨の日。

今宵は、満月。

赤い月と、青白い月が重なるように見える。

翼は、サィヤが教えてくれたとおり、紅の着物を着た。

もとより、美形の翼だから、着物はさらに、翼を引き立てる。

(呪文とか、よく分からないが。)

疑問を抱きつつ、翼は大きな庭園に出る。

と…

赤と青白い月の陰から、ヌルリと何かが現れた。

ヌメヌメと音を立て、ソレは、翼に向かってくる。

月明かりの下、ソレの姿が見えた。

大きな大蛇。

金色の目と、チロチロと出た、赤い舌。

『そなたの鈴玉を渡せ。』

「なぜ。」

邪神は、翼をねめつける。

『余は、数万年前、そなたの先代、月波によって、封じ込められたのだ。鈴玉は、余の蘇りを、復活を、手助けするのだ。』

(こんなのに……?)

復活しても、意味がない気がした。

恐らく、邪神はあまりよい政治を行わなかったのだ。

それで、月波が封印したのだ。

『はやく余に渡せば、命を失わぬ。』

(お母さんは、こんなに大きな使命を私に託したのだ。お母さんの意志を、すべてを、無にしない。)

覚悟の色を、瞳に映した翼は、

「嫌です。」

きっぱりと、言った。

邪神は、翼をジッと見る。

『はやく余に渡せば良かったものを‥。ならば、望むようにしよう。』

次の瞬間。

ズドン!

大蛇の尾が、地面に叩きつけられる。

間一髪で、よけた翼に、邪神は、大きく口を開ける。

その口から、雷の玉ができる。

雷の玉は、大蛇の口から放たれた。

(もう、死ぬのか。)

翼が覚悟し、目を閉じた瞬間。

12:スミレ◆5w:2017/04/01(土) 16:34

誰かが、翼を突き飛ばした。

「!!」

その誰かの姿を、翼が見た瞬間。

バリバリバリィ!

雷の玉が、その誰かに当たった。

邪神は、翼と誰かを睨みつけ、消えてしまった。

あまりの恐怖に、翼は座り込んでしまった。

「翼……!」

ニィが、駆け寄る。

サィヤと、シイヤも、丘に登ってくる。

恐る恐る、翼は、倒れた誰かを見た。

ツンツンッとした、白銀の髪。

ゴウだった…。

「「「ゴウ!!!」」」

ニィ達が、駆け寄る。

翼は、まだゾッとして、立てなかった。

サィヤが、ポツンと、

「邪神様が、こんな事を……。」

つぶやいた。

あたりは、静寂に包まれた。

13:スミレ◆5w:2017/04/02(日) 15:02

立てるようになった、翼は、ゴウのもとに行く。

「ゴウ、ゴウ!!」

誰も、何も言わない。

やがて、翼は、

「ゴウは、私をかばった。私はゴウを目覚めさせたい。どうすれば、いい?」

ニィとサィヤ、シイヤは顔を見合わせて、言った。

14:スミレ◆5w:2017/04/02(日) 17:51

「そのためには、桃源郷に行かないといけない。」

(桃源郷…。中国の神話で出てくる。)

翼は、身を乗り出すようにして、

「何処にあるんですか!?」

サィヤは、ゆっくり言った。

「誰にも分からない。」

翼は、ゆっくり立ち上がった。

「助けられるなら、すぐ行きます。」

 ***桃源郷へ***

翼は、必要な物をまとめ、歩き始めた。

(必ず、ゴウを助ける。)

翼は、それしか思えなかった。

草原が広がっていて、ところどころに、鬼灯がなっていた。

草は、チクチクしていた。

(此処からどうするか‥…。)

15:スミレ◆5w:2017/04/03(月) 17:33

どことなく、草原を突っ切る。

その向こうには、林と、宮が建っていた。

恐る恐る、宮に近づくと。

「貴女が、翼様ね〜!!」

鈴を転がしたような、軽やかな声がした。

宮の戸が、開く。

腰までかかる、黒髪。

涼やかな瞳。

「私、香乃姫です。」

「あ、イチイの…。」

翼は、香乃姫をジッと見る。

香乃姫は、翼の手を取り、自身の局に入れる。

「此処なら聞かれません。」

ホッとし、翼は此処へ来た理由をポツリポツリと話し始めた。

話を聞き終わり、香乃姫は、

「桃源郷ですか…。宮の者に、聞いてみます。今夜は、ゆっくりしていかれません?」

翼は、少し悩んで、

「では、お言葉に甘えて。」

16:スミレ◆5w:2017/04/05(水) 10:32

香乃姫の局は、書物と机、布団しかない、簡素な部屋だった。

しばらく、翼は、落ち着かなかった。

やがて、香乃姫が戻ってきた。

香乃姫の後ろから、もう一人誰か来た。

「この人は、薫姫。私の友達。」

薫姫は、じっくり翼を見る。

それから、ニコリと笑って、

「よろしくな、翼。」

翼は、薫姫の大きな瞳にのまれてしまった。

(綺麗な瞳。澄んでいる……。)

ジッと見てるうちに、翼は、不思議な気持ちになった。

(まるで、懐かしいところに来たような……。)


これは前世の記憶と知ったのは、後のことだった。

17:スミレ◆5w:2017/04/07(金) 20:26

薫姫は、うーんと、考え込む。

「桃源郷かぁ…宮でも、知ってる人は、少ないだろうし。」

香乃姫は、翼の顔をのぞく。

「翼様、夕食です。」

お膳にのった、華やかな料理が運ばれてくる。

(美味しそう。)

とりあえず、食べることにした。


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