晴れることのない世界   

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1: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 16:29




   晴れないんだ、空も僕の心も。



      >>2 ルール等
      >>3 主な登場人物紹介


 

2: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 16:33




   ルール
   ▼ 荒らし・ナリはとても明るいお空の
     星に座ってでもどうぞ
   ▼ gdgd&亀更新
     下手くそでも太陽より暖かい目で
     お願いしますね
   ▼ アドバイス・感想はぜひ!
     でも暴言・誹謗中傷などはおやめ下さい


 

3: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 16:52




   主な登場人物

   名前 / 藍原 志步(アイハラシホ)
   学校 / 御所北中学校2年4組
   性別 / 女子
   
   名前 / 長谷川 悠樹(ハセガワユウキ)
   学校 / 御所北中学校2年1組
   性別 / 男子

   名前 / 薊 大翔(アザミハルト)
   学校 / 華栄中学校2年1組
   性別 / 男子

   名前 / 坂下 飛彩(サカシタヒイロ)
   学校 / 海浜崎神刀中学校2年5組
   性別 / 女子


 

4: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 17:59

 第一章

   1

鳥の囀りなんて聞こえない。

聞こえない......喧嘩の声しか。
「もう!一体何回言ったらわかるの?」
「はあ?分かるわけねぇだろ!」
「親に向かって、なんて言い方なの!?」
「俺は親だなんて思ってねぇよ。」
「あらそう。私だってあなたみたいな子、生んだ覚えも育てた覚えもないわ。もう、出て行きなさい!」
「ああそう。結局最後は全部これ。まぁ別にいいけど?」
お兄ちゃんとお母さんの声。お父さんはいない。私が幼い時、踏切の所に留まっていた人を助けようとしたところ、電車に轢かれてしまったんだ。

バタン!とドアが閉まる音がした。この光景だって、何回見たことか。

こんな毎日に悩まされている私の名は、藍原志步。来年受験の中学2年生だというのに、このままでは受験のフォローどころか、あることさえ忘れているのではないかと心配になる。

「あ!」
微かな音が聞こえる。近くの公園に通る汽車の汽笛だ。私はこの汽笛が聞こえると、中学校に向かうことにしている。
「行ってきます。」
そんなこと言っても、反応してくれる人は誰もいないのに。

今日は、土砂降りの雨だなぁ。なんて考えながら、靴を履き、家を飛び出す。傘は持たない。

中学校は走ったら5分弱くらいで着く位置にある。そう遠くないから、未だに遅刻したことはない、寝坊したことはあるけど。

「おはよう!」
朝から輝かしい笑顔を見せつけられると、元気に過ごす気力が一層無くなる気がした。きっとその人の家では家族円満なんだろうなぁ、とか勝手な予想しては自分に向けられた挨拶でも笑顔でもないのに、憂鬱になって八つ当たりしそうになる。

「志步!おはよ。」
この人は守咲愛姫と書いてもりさきありすと読む、幼稚園からの友達。家も近く、親同士も仲がいいんだ。だから、私達も仲良し......ではない。これは見せかけのもの。表面上だけの友達なんだ。
「ああ、愛姫。おはよ。」
素っ気なく挨拶を返した......つもりだったんだけど。
「志步、ありすぅ委員会でもモテモテでぇ。」
どうでもいいみたい。自慢がしたいだけなんだったら他を当たって欲しいけどな。

「ほら、ありす、クラスでも学年でも一番モテてるでしょ?だからぁちょっと困っちゃってぇ。志步は全然モテてないからぁ、良いよねぇ。ありす、モテすぎて困っちゃうなぁ。」
......何でこんな自慢ばっかりの人がモテるのか、疑問なんだけど。

「あ!沙海だ!じゃあ、行くね。ばいばい!」
ふぅ。やっと終わった......ていうか、女子と話す時くらい、上目遣いと可愛子ぶるポーズ止めなよ......

「キャッ!」

え......?

「またやってるよ......長谷川さん。七翠ちゃん、可哀想......」
......また?どういうこと......?
「駄目だよ、そんなこと言ったら。長谷川さんにバレたら七翠ちゃんみたいにいじめられる......」

......これ、いじめなんだ。つい、立ち止まってしまい、続いて来た人が私にぶつかった。
「あ、すみません......」
謝ったその心には、ぶつかった人への気持ちはなく、七翠さんのことしか考えられなかった。

「あれぇ、志步、知らないの?悠樹くんのいじめ。」
いつの間にかやってきた、ありすと沙海。来なくていいよ、本当に。
「有名だよね、志步遅れてるー......」
「沙海ぁ、駄目だよ。志步に失礼だよぉ。」
その言葉も失礼だよ。

「七翠ちゃんって1組でしょ?1組ではそんなに目立ってないの。だけど、考査ではいつもトップじゃない。悠樹くん、七翠ちゃんに考査の点数、負けちゃって。それなのに七翠ちゃん、悠樹くんに謝らなかったの。ひどくなぁい?」
......どこがひどいのかわかんないんだけど。
「だよね、酷いよね。」
沙海はどこにひどいと思ったのか。

「まぁいいや。じゃあね、志步。」
小さく手を振る愛姫に、苛立ちを感じながらも学校に向かう。ため息をつきながら、真っ直ぐ前を見た。

みんな、笑ってる......よね。この中学校にいじめなんて、信じられない。平和だと思っていた。それは、間違っていたの?

後ろには長谷川さん......その人から逃げるかのように、私は走り出した。

黒い未来へと。


 

5: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 18:55

   2

「可哀想。」
「最低。」
その言葉を、一体何度聞いてきただろう。いじめは最低だ、なんて綺麗事を言われてもなぁ。苛つくもんは仕方ねぇだろ。

でも俺は知っている。俺がいじめている神崎七翠を嫌っている人は多いということを。
「ねー、神崎って苛つくよね。」
「分かる!デブスのくせにさぁ......」
こんな会話を放課後になるたび、嫌という程聞いている。その会話をしている人が神崎を可哀想というのは、如何なものか。正直さ、お前らがやってることは俺のやってることより最低だよ。

あぁ、今日も遅刻だなぁ。そう思いつつも、足取りは重い。いじめにも飽きてしまったものだから、学校に行く気がない。最近は、神崎をいじめていない日が続いているのだ。

「長谷川さん、最近七翠ちゃんいじめてないよ。他のターゲット見つけたとか?」
登校途中、こんな声が聞こえた。そんなこと噂してんなら、お前をいじめてやろうか。
「えー、私になったら嫌だよぉ。」
誰だって嫌に決まってんだろーが。
「でもさ......」
会話はまだまだ続く。なんでこんなしょーもない話に突っ込んでんだか。

皆が望むなら、いじめてあげるけど?

神崎を見つけて、ロックオン。走って神崎に声を掛ける。
「よ。」
神崎は驚いたようにしていたけど......その顔はすぐに青く染まっていったのがわかった。俺はそんなことを気にしないで、神崎の髪を引っ張った。はは、こんな優越も久し振りだなぁ。
「キャッ!」
うるせぇなぁ。なんでこんなことで声上げてんの。まだまだお楽しみ残ってんだけど?

鋭い視線を感じた。声も聞こえた。もう、馴れっこだ。気にしねぇよ。

......やってること最低なことくらい、分かってんだよ。親は悲しまない。だから、いじめてもいいのか?違う。分かっている。でも......止められないんだ。苛つくんだ。この気持ちに歯止めが効かない。

自分の行いに涙が溢れてくる。流石に学校で涙なんて見せられるものではない。必死に堪えた。

「俺、何がしたいんだろ......」
教室に向かう神崎に背中を向け、学校とは反対方向に進んで行った。

秘密の場所に向かって。


 

6: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 20:43

   3

秘密の場所、そこは......

「よぉ、悠樹。また来たのか。」
椅子の背もたれにもたれながら、手をひらひらさせて言うのは、ここで知り合った大翔。
「よ、大翔。お前はいつ来てもいるよな。」
大翔は微かに笑い、隣の椅子を引いた。

そう、ここは森の中の洞窟にあるカフェのようなところだ。カフェと言っても、これを知ってるのは俺を含めて3人、俺と大翔、飛彩で、飲食ができる訳では無い。ここは所謂防空壕。そして、近くには青空教室の跡がある。だからここを青空教室と呼んでいる。青空教室は奥にホワイトボードがある。特に意味は無いが。そしてテーブルが置かれていて、それに沿うように椅子も並べられている。青空教室は、何か悩んでいる人が来るところなんだ。特に意味もなく、ふらふら歩いていると、いつの間にか青空教室に辿り着く。なんとも不思議だけど、これで俺たちはお互いに悩みを解決し合い、よりよく過ごそうとしているから、まぁいいとしよう。

「悩みが絶えないんだ。」
大翔は深刻そうにそう言った。毎度のことで慣れてしまった俺は、さして気にもせずに聞く。
「今回は何があったんだよ。」
「待て。俺の話は終わりだ。」
は?意味が分からん。話を聞いてほしいからここに来てんじゃないのかよ。
「悠樹、大翔は毎日来てんの。その度私が聞いてあげてんだから。大丈夫だよ。悠樹はたまにしか来ないし、何か悩んでるんでしょ?言いなよ。」
そういう飛彩も毎日来てんのか。

「実はさ......」
俺は最近あったことをすべて話した。2人は暫く黙っていたけど、やがて飛彩が先に口を開いた。
「じゃあ、いじめんのはもう止めたら?ストレス発散なら毎日ここ来て、私とかに当たればいいじゃん。」
飛彩の意見に賛成したように、大翔も口を開いた。
「そうだよ。このままでは良くない。暫く学校休んでみたら?ここ、来いよ。」
二人の笑顔に緊張が解けた俺は、青空教室に響き渡るくらい笑った。二人はぽかんとしていたけど。
「あんがと。」
ここに来て良かった。そう思ったのは、何回目か数え切れない。でもそう思ったんだ。

「よし、俺の話を聞いてくれ。」
......大翔......お前どんだけ悩みあるんだ。
「全く......」
飛彩もすっかり呆れている。大翔の悩み事に付き合わせっきりでごめんな。
「俺さ......スポーツを始めたいんだ。」
は?え、これ悩み事?やればいいじゃん。
「でも、俺は家に帰っていない。どうしたらいい?」
「質問がアバウトすぎるわ!」
流石関西生まれの飛彩のツッコミ。速攻で入るんだな。そう言えば、久しぶりに聞いたなぁ。飛彩の関西弁。

飛彩は関西から引っ越して来たんだ。周りで関西弁を使う人はおらず、浮いていたそうだ。まぁそりゃそうなるよな。つい自慢げになってしまうところもあり、クラスで好かれている方ではなかったらしい。それでいじめにあったんだ。それでここに行き着いたらしいけど。まぁそんなことがあったから関西弁はコンプレックスだったんだ。だから、関西弁が出ないようにしてたんだと思うけど、最近は使うようになったのか?最近来てなかったから分からねぇ。

「どんなスポーツやんの?」
大翔はこの質問を待っていたかのように身を乗り出して答えた。
「剣道!」
......なんで?
「強くなりたい。こんなヘナヘナ、もう嫌なんだ。」
目を伏せながらでも、力強い気が伝わってくる。もうヘナヘナじゃない、あの時から変わった。もう行けるはずだろ。そう言ってやりたかった。でも、飛彩が目で合図をして来る。分かってるよ。彼奴なりに考えてんだ。これではダメだって。それは、話を聞いてきた飛彩の方がよく知っている。その飛彩が言うんだ。その言葉は言うな、って。だから、言わねぇよ、俺は。言わなくても分かるよな。

お前はもう、彼処に行けるんだ。


 

7: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 21:05

   4

「志步ー!」
あ......愛姫......
「ねぇ、悠樹くんってかっこよくない?」
いきなり何を言い出すかと思ったら......
「全然。」
私はきっぱり言い張った。遠目だから容姿ははっきりしなかったけど、いじめているなんて最低だよ。こんな人、絶対かっこよくない。
「えー?」
愛姫が疑問そうに言ってくるけど、あんなやつの何処がかっこいいのか分からなかった。

「愛姫!」
沙海が愛姫を呼ぶ。そうそう、そんな感じで愛姫を連れてって頂戴。まぁ現実はそう上手くいかないものでね......
「待って、沙海。」
え......

......今更だけど、これ、私もいじめと同格のことしてるような......人の事言えないなぁ。
「藍原さん。」

は、はい?突然呼ばれて声が裏返りそうになる。
「こっちに来てくれるかしら。」
え......待って、あなたは誰?愛姫から遠ざけてくれたことに感謝はするけど......
「私は日下部瑶。」
日下部さん......?
「藍原志步さんよね。」
そうだけど、なんで知ってるの?
「少し協力してほしいことがあるの。」
日下部さんは青ブチの眼鏡のブリッジをくいっと押し上げて言った。
「私に出来ることがあるか分からないけれど......」
私は、かなり不器用。おまけにドジ。こんな私に頼むなんて、相当人気のない仕事なんだろうなぁ。
「これをお願いしたいの。」
日下部さんからある資料を渡される。ざっと目を通してみて、ドキンとする。
「これって......」
顔に熱を失っていくのが、自分でもわかるほどだ。周りから見ると、自分が思っている以上に青ざめているだろう。
「その様子だと、何か知ってるようね。」
知ってるけど......
「これがどうしたの?」
「今大変なのよ!」
私が一息つく前に日下部さんは切羽詰まったように言った。なにが大変なの?
「このままでは、日本が、いえ世界がなくなってしまうの。そこで藍原さんに頼みたいことがある。」

世界は絶望へと、1歩ずつ進み出していたのです。


 

8: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/08(日) 21:34

   5

「藍原さんなら、出来ると思うの。」
日下部さんは一生のお願いとでもいいそうだけど、そんな期待は、軽く飛んでいくと思う。
「無理です。」
私は躊躇いなく断った。日下部さんは一瞬何が何だか分からなくなっていたっぽい。
「え......でも......」

「確かに、三日月れもんは私の友達です。でも、そんな重大なこと、出来ません!」
三日月れもん、インターネットのサイトを通して知り合った子で本名は知らないけれど、ググれば出てくるほどの有名人らしい。
「このまま終わってしまってもいいの?」
日下部さんは説得しようと言うけれど、もう終わってしまってもいいと思った。
「はい。それに、何とかしようと国家だって......」
動いているんじゃないか、そう言おうとした。でも、日下部さんの声に遮られたんだ。
「無駄。」
言い捨てるように日下部さんは言った。あまりにもひどい言い方だと思ったけれど、それが日下部さんが国家に対する気持ちなんだろうな。
「ねぇ、何か企んでる?」
......逆に疑われてる?
「違います。でも......」
「もういいわ。さよなら。」
日下部さんはそう言うと、私の視界から消えていた。

やってみても良かったかもしれない。そう思った自分がいなかった訳では無い。でも、無理なんだ。私には、きっと。それは仕方ないこと。もう変わらないこと。

「三日月れもん......一体、あなたは何を考えているの?」
私はふと呟いた。

「志步!」
愛姫と沙海......もう相手するの疲れたんだけど......
「居なくなって心配したよぉ!」
心配してくれなくていいよ。

ガタ......

「えっ......ありす、怖い......」
もう、黙ってて!でも、一体何が......?

ドン......バン!ドドドドドド......

「何が起こっているの?」
何が起こるのかわからず、いつまでもこの忙しい鼓動は落ち着きそうにない。

「助けてぇっ!」
バァンッ!バンバンバン!

これって......
「大変だ......日下部さんが言ってたことってこれ?」
「そうよ。」


 

9: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/09(月) 11:01

   6

ドン!と突然大きな音がした。何かあっても、ここは防空壕。そうグルグル考えていたほどビビっていたのかもしれない。
「これ......何の音?」
飛彩が聞くが、誰も分からないし、飛彩だって答えは求めていない筈だ。
「もしかしたらここに避難してくる人がいるかもしれない......」
大翔が言ったことを聞いて、念じていた防空壕という認識がはっきりした。そうなれば......

きっともう青空教室はお終いだ。救いの場所を求める人だけが来る青空教室。それが、憩いの場を求める人も来る青空教室になってしまうのか。そんな場所で悩みを打ち明けるような勇気は、きっと誰にもない。

「......あのね、こんな時にごめん。でも聞いてほしい。」
飛彩が深刻そうに言ってきた。ここに来ている以上、話を聞かないわけがない。
「勿論。聞くよ?」
大翔がそう言った。飛彩は顔色を明るくし、話し始めた。飛彩の話が、後々重大なことになるとは俺たちはまだ、知らない......

10: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/10(火) 18:51

   7

突然声がして振り向くと......
「日下部さん?!」
どうして......疑問にも思ったけれど、今はなんだかそれどころじゃない気がした。今のところ、一番詳しそうな日下部さんを頼るしか生きていけないと思ったのだ。
「日下部さん......?って誰?」
愛姫と沙海は、日下部さんが誰なのか分からないので首を傾げている。
「ほら言ったでしょ。まぁ今こんなこと言っても遅いけど。ついて来て。」
日下部さんは愛姫たちの質問には答えず、っていうか答え方がないんだけど、どこかに案内しようとしてきた。勿論、私はついて行く。でも......
「ありすぅ、なんだか心配で......」
やっぱりな。愛姫と沙海はついて行くか迷っているみたいだ。
「ついて来ないなら、そこに居てもいいけど。その代わり、命はないと思いな。」
日下部さんの声に、愛姫と沙海はついて行くことにしたみたい。本当に面倒......

「はぁ、仕方ないなぁ......」
日下部さんは、今までの口調から一変し、眼鏡を宙に舞わせた。日下部さんはどんどん前進していく。壁が崩落したところもあり、床には血と思われる液体が散っていた。
「ひっ......」
愛姫は、血を見て声を出した。そういうものには慣れていないのか、愛姫たちは私の背中に隠れながら進んでいる。ああ、鬱陶しい。

しばらく進むと、見たことない場所にたどり着いた。そこは家みたいなところで、壁や天井は頑丈に作られているのか、周りは壁などが崩れているのに対し、ここでは全く崩れていない。窓は一切無く、鉄出てきた冷たそうな扉があるだけだ。
「ここって学校内?」
これくらい歩いただけで学校から出るとは思えない。でも、こんな場所、初めて来たのだ。
「ああ。」
日下部さんは面倒くさそうに言うと、扉を開けた。
「入って。」
日下部さんはまたも面倒そうに言い、私達は日下部さんが開けた扉から家みたいなところに恐る恐る踏み込む。中は思ったより広く、私の部屋より広いかもしれない。でもそこには何もなく、地下に続く階段があるだけ。しかも、階段と言っても梯子のようで......
「下行っといて。」
日下部さんはこの階に用事があるのか、梯子を降りる前に部屋の隅で何かしていた。このまま突っ立ておくのも何だし、梯子を降りることにしたのだけど......地下は真っ暗で、明かりが何も無い私たちには到底降りれそうになかった。日下部さんが面倒そうにこっちを見て、梯子を指さす。口は動いていないが、きっと早く降りろ、と言いたいのだろう。愛姫と沙海をチラッと見る。2人は怯えていて、先に梯子を降りてもらいたかったのだが、頼めそうになかった。仕方なく、まぁ命のために梯子を降りる。
「愛姫、沙海、私の次でいいから降りてきて。」
愛姫と沙海に一言掛けると、梯子に足をかけた。途中から明るくなり、床に足がつくと、周りにはかなりの人がいるようで。顔見知りもいた。
「やぁ。」
私は呑気に話してくる人......後で知ったのだが、この部屋、旧救急所のリーダーに、今起こっていることを聞こうとした。でも、誤魔化そうとする曖昧な返事で......納得できる訳がなかった。

そして、愛姫や沙海、日下部さんも降りてきて、リーダーが話し始めた。
「今、大変なことが起きている。みんなは始終ここにいた方がいい。生きるためのものはある。これで全員だ。では僕らは用事があるから外に出るが、ほかの人はここに居ておくように。」
......どういうこと?私たちは駄目なのに、リーダーたちはいいの?

「私も行きます!」
......つい叫んでいた。


 

11: 明 ◆U.PIL.eLKb48.:2017/10/10(火) 21:09

   8

「話っていうのは......」
外ではまだ大きな音が聞こえる。元々話を聞くのが苦手な俺は、やはり外に気を取られて飛彩の話をちゃんと聞けてない時もあった。いや、聞けてない時の方が多かったのかもしれない。
「......それでね、ってさぁ悠樹聞いてる?」
なんて結構言われた気がする。
「あぁごめん。」
そう言ってもやっぱり外の方に集中してしまうようで。自分でも直そうとは思ってるんだがなぁ。

「......で、悩んでるの。どうしたらいいかなぁ。」
あ、やば。全然聞いてなかった。
「俺はさ、危なさそうなのはやめた方がいいと思う。」
大翔は真面目に聞いてたんだ。やっぱすげぇな。
「悠樹、聞いてなかったでしょ?」
飛彩が言ったことは図星だ。でも図星なんて言うつもりはない。メンツが丸潰れだ。と言っても聞いてなかったのはそうだし、どうにかカバー出来るようなものではない。そもそもこのメンバーなら取り繕わなくてもいい気がする。
「ああ。ちょっと考え事してて。」
考え事、というのは嘘ではない。

「え、大丈夫?」
「話聞くけど......」
あぁ、飛彩や大翔はなんて優しいんだろう。
「大丈夫。飛彩こそ......」
次の言葉を発することが出来なかった。勿論それには訳がある。俺、実は、結構涙脆い方で。涙が溢れそうになるところなんて見せられるかよ。ずっと2人に頼ってばかりだったなぁ。始めからずっと。そう考えるほどに涙が溢れてきそうになって言えないんだよな。

「あのね、引っ越していじめられてからここに来るまでは、インターネットサイトで質問とか色々、してたんだよね。み......き......て......ってたの。」
飛彩が話している時に、とてもつもない音がした。それと重なってしまい、聞こえないところがあったんだけど、ここで飛彩の話を途絶えさせるわけにはいかなかった。
「それでね、そこでこんなグループに入らない?って勧誘があったの。」
グループ?宗教がどうとかって聞いたことあるけど、そんな感じなのか?
「世界撲滅委員会って言うね。いじめられてて、兎に角全部が自分の味方、救いになるって脳が勘違いしてたのか、入っちゃったんだ。で......」
もう泣きたいのか笑いたいのか、よく分からない飛彩は大きく深呼吸をするとこう言った。

「全ての存続をかけたゲームが今、行われているんだ......」

12: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/10(火) 21:34

   9

「はぁ?」
私も行くと宣言してしまった今、旧救急所ではリーダーを中心として大混乱中。
「いや、無理でしょ。だって特殊能力とかないじゃないですか。」
特殊能力?え、この人たちなんなの?
「確かにそれはそうだな......」
「いやでも!ここは少しでも人数が欲しいものですよ。」
人数が必要?待って、これどういうこと?
「特殊能力が無ければ即死ですよ。無駄死は避けたいです。」
無駄死ですとっ!それならこっちから願い下げだよ。
「特殊能力の診断はすぐにできるものでは無い。しかしもし、持っていたとすれば......」
「よし、数名残れ。それで診断をしろ。」
診断!?もう全然わかんない。
「でもリーダー、駄目です!」
「絶対にここまで来させないと誓う。死者零で行くぞ。」
「でも......」
死者......戦いに行くの?死者が出るほどの......
「よろしく頼むよ。」
リーダーが寂しそうに微笑んだ。ここまでして......私は本当に行くべきなの?

「あの!言っといて何ですが......」
私が言おうとしたその瞬間......ドン!と大きな音がした。
「......やばい、もう時間が無い。行くぞ!」
「......おう!」
戦場に行ってしまう......リーダー......

「おい、診断するぞ。こっちに来い。」
リーダーたちが戦場に向かったら、直ぐに私は呼ばれた。感傷に浸ってる時間はないみたい。
「今から特殊能力の診断をする。もし特殊能力を持っていれば、お前も戦いに行くこととなる。」
それはとても怖いこと。出来れば、特殊能力なんて持っていて欲しくなかった。そして......

こんな世界、終わってしまってもいいと思った。


 

13: ◆5wB7Z2Dhantyc:2017/10/22(日) 18:28

   10

「あの......特殊能力って......」
私は特殊能力についての説明が不足していると思い、隊員に話しかけた。
「ああ、特殊能力っていうのは......普通じゃない能力のことだ。」
この説明で分かれ、とでも言うの!?無理でしょ。

「まぁとにかく、この装置に頭突っ込んで。」
前には頭がすっぽり入りそうな正方形型の装置が何個もあった。頭を入れるところがこっちを向いていて、中は見れない。初めて見るものだし、恐怖心に駆られて診断をやめたくなったが、隊員の鋭く、また面倒そうな目を見ては止めるわけにはいかなかった。恐る恐る入れてみると......

ガシャン!

「はは、上手くいった。これを使えばいい。くくく......」


 


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