●作者からメッセージ●
こんにちは!
恋愛小説は3回目。
頑張って、読者の皆さんに希望や勇気を届けられたら嬉しいと思います。
掛け持ちしまくりですが、どうぞよろしくお願いします。
登場人物
詩神 美海
お金持ちの家庭のひとり娘。
みんなは気楽だと思っているが、実はとても苦労している。
冴橋 来雅
美海の幼なじみ。
優しくて頼りになるイケメン。
モテているらしいが、自覚はない。
桜庭 涼
美海の秘密を知っている。
隣町に住むイケメン。
私立に通っている秀才。
ー第1話ー
ひとりだって大丈夫。
ママがいるから。
パパが仕事で出ていって、大きな本館にひとり残される。
おばあちゃんもいないし、開けてもいいんだよね。
こっそりパパの部屋からカギを持ってきて、ママのいる別館の二番目に狭い部屋のカギを開ける。
「ママ?」
「美海…。開けてくれたの?」
「そうだけど。ママ、本館来て」
本館へ呼ぶと、ママに残っているパンをあげた。
ちょっとの間、食べてないはず。
家の怖いおばあちゃんが別館に閉じ込めたから、会えてもなかった。
ご飯くらいは食べないと。
「ありがとう、美海」
私の名前は、詩神美海。
詩神家のひとり娘で、出来が悪いのに期待されている。
詩神家でひとり娘なら、私が詩神会社を継がないと倒産してしまうから。
こんな理由で厳しい生活をしている。
「いいの。ママを守りたいから」
「美海の気持ち、すごく嬉しい。そうなんだけど、ここにいたら死んでしまうわ。美海を置いていなくなるなんてイヤなの」
ご飯食べれないからっ?
だから、もう持たないの?
そんなのイヤだよ…!
私、ママを守って一緒にいたい!
「そのために考えたの。ママは、どうしたらいいのかって」
「答えは?」
ゴクンとつばを呑み込む。
ヘンな、イヤな答えはやめて。
おばあちゃんに反抗してもいい…!
「詩神家を離れて、和泉家に戻ろうと思うんだ」
「そんなことしたら離れちゃう!お願いだから、詩神家にいて!」
ママは、肩をゆっくり掴んで笑った。
柔らかい笑み。
イヤなんだって。
ママと離れることが一番。
「もし、詩神家のままだったら、死んじゃうかもしれない。ちょっとでも長い間生きて…。いつかは、美海とも会えるはずだから」
「そうしたら、私のママじゃなくなるの!?私のママだよねっ!?」
ママはにっこり笑ってうなずいた。
荷物、もうまとめてある…。
行く気なんだ…。
「佐江子さんに電話するわ」
佐江子さんは、おばあちゃんのこと。
私が我慢したら、ママが楽になれる。
生きられるんだ…。
「ごめんなさい、美海。いつかはきっと会えるから、大丈夫」
うん、会えるから…。
パパが帰ってきて、ママのことをパパに伝えた。
おばあちゃんはすぐ納得。
ママは和泉家…結婚する前の産まれた家に帰ってしまった。
離婚じゃなくて、別居状態。
生き抜くために。
「悲しかったな、美海。お母さんはママにあんまり会うなって言ってるんだろ?パパがいるから大丈夫」
そう、だよね。
ママがいなくても、パパがいるから大丈夫だよね、きっと。
「こんなことを言ったけど、パパ、休みが取れないんだ。明日もひとりになっちゃう。大丈夫そうか?」
「うん、大丈夫だよ。宿題とかあるから、やらなきゃだし」
これでいいんだ。
考えすぎると、泣きそうだし。
ママが決めたことだし、ママが幸せになるためなんだもん。
「おやすみなさい、パパ」
「ねえ、美海」
パパに呼ばれて振り返る。
優しい目で微笑んで、首を横に振る。
「おやすみ。美海」
ザーザーと降る雨。
別館の、一番狭い部屋へ入る。
私が外した小窓、直って良かった。
小窓を開けて、隣の家を盗み見る。
…あ、来雅勉強している!
「美海?」
「そうだよ!おはよう、来雅!」
来雅は、私の幼なじみ。
本名は冴橋来雅。
隣の家で、別館の一番狭いこの部屋のちょっと上が来雅の部屋。
「来雅の家さ、お母さん今いる?」
来雅は首を横に振る。
じゃあ、来てよ。
ちょっとひとりは寂しいから。
来雅を本館に呼んだ。
なぜか、来雅のお母さんは私のことが嫌いみたいで、関わると叱られるの。
だけどいいよね。
唯一、ひとりの幼なじみだもん!
「美海ー、来たぞー」
「来雅!」
もう来たんだ。
さすが、来雅だね。
来雅の好きな紅茶を出して、広いリビングの机の上に宿題を広げる。
「宿題やってたんでしょ?教えて!」
「ああ」
来雅は頭が良いから、宿題とかも難なくやっちゃう。
そんな来雅に比べると、私って全然出来ないんだけど…。
「おーい、美海」
「あ、ごめんごめん」
私は、紅茶の乗ったお盆を持ってキッチンからリビングへ向かった。
翌日の月曜日。
私は市立園田中学校へ向かった。
そこの中学校の生徒で、中1。
「あっ、美海ーっ!」
家を出てちょっと歩いた交差点で、仲良しの瑠夏と会った。
手を振って待っている瑠夏。
急いで交差点を曲がって、瑠夏と一緒に登校する。
「いいよねえ、美海は。お家がすごく整ってて、来雅くんと幼なじみ!」
『お家がすごく整ってて』?
整ってるのは、外だけ。
中は全然そんなことない。
叩かれたり、叱られたり、閉じ込められたりはよくあること。
「あれ?美海?」
「どうしたの?瑠夏」
「え、だって美海がボケッとしてるからどうしたのかって」
ボケッとしてた?
そうかなぁ。
会話をしながら教室に向かう。
教室に着くと、ひとりの女の子が私の元に近寄ってくる。
「ねえ、詩神さんのお家ってお金持ちなんでしょ?お父さんが会社を経営していて、詩神さんがあととり娘」
「一応そういうことになってるけど」
クラス中がわっと盛り上がる。
みんなが質問攻めしてくる。
何でこんなに気になるの…!?
「何の会社を経営しているの?」
「詩神さんが継ぐの!?」
「お母さんは何の職業なのー?」
ママの仕事…。
どうして、ママの名前が…。
これがボケッとしているのかも…!
ダメだ、ダメだ。
こういう癖、直さないと。
「えっと、お父さんは医療関係の仕事を経営していて、私が継ぐみたいなことになってて、ママは…」
ママの職業はパパが経営している医療関係の仕事を生かした詩神病院の社長を勤めている。
このことをみんなに言うと、おおっと声が上がった。
「詩神さんスゲー!」
「お金持ちは違うのね、やっぱり」
「いつも幸せな暮らししてのんびり暮らせそうだよね」
みんなが言ってること、全部違う。
確かに、お金持ちって優雅に過ごすイメージがあるけど、全然ない。
ひとり娘だから?
「ねえねえ、詩神さん。また今度遊びに行っていい?」
うっ、マジ…。
「いいけど、大したものないからね。普通の一般的な家が広いって感じ」
「その広い家に行きたいの!私、浅瀬菜奈だから!」
浅瀬さんって言うんだ…。
全然知らなかった。
瑠夏が頬を膨らませる。
「いつも他の子とキャーキャー言ってる癖に、お金持ちのこと知ったら、美海に近寄ってさっ」
「まあいいじゃんいいじゃん。瑠夏も何度か家来てるし」
一番多くいるのは瑠夏なんだし。
瑠夏、自分が一番じゃなかったらヘコんじゃう時あるんだよね。
直した方がいいかもだよ、瑠夏〜。
「ねえねえ、詩神さん!」
3年生の学年カラーのスリッパ!
どうして私のこと知ってるの?
悪いことでもしちゃったかな?
屋上へ呼び出されて、3年生の先輩はこちらを振り返った。
「急にごめんなさい。知ってるよね、私のこと。お父さんの仕事を継ぐって母から聞いたから。私の母は、詩神さんのお父さんの事業ライバルなの。私が詩神さんと繋がることって、結構大切なことらしいの」
パパの事業ライバルの娘さんと!?
今から繋がっておくってこと!?
私、めちゃめちゃ継ぐことになっちゃってるじゃん…。
「私の名前は木下だから。木下救急会社のあととり娘ね!よろしく!」
木下救急会社って聞いたことある…!
確か、詩神医療会社のパートナーでありライバルらしい会社だった。
「ちょっと、美海っ!」
「瑠夏!?どうしたの!?」
「こっちだよ!何があったの!?」
木下先輩とあったことを瑠夏に話すと、瑠夏は驚いた顔をした。
そんなにビックリする!?
「未来の話をされてるんでしょ!?さっすが美海!頑張れ!時期社長さんっ」
じ、じ、時期社長って…。
急に恥ずかしくなって赤面化する。
ちょっと、瑠夏〜!
その日の放課後。
家に帰ると、見慣れた靴があった。
この靴の持ち主、ママだっ!
「ママがいるの…?」
リビングへドシドシと入っていくと、木下先輩に似ている人が椅子に座ってパパと話していた。
「あ、ただいま…」
「美海、お帰り。木下さん、こちらが例の時期社長候補の美海です」
パパに自己紹介するよううながされて、渋々お辞儀する。
木下さんはにっこり微笑む。
事業笑みって言うのかな。
「初めまして。私の名前は、詩神美海です。…いつかは、詩神医療会社の社長になりたいと思っています!どうぞよろしくお願いします…」
はぁ〜、言っちゃった〜!
社長になりたいだなんて〜!
木下さんは目を見開いて微笑む。
「いい子ねえ、美海ちゃん。さすが、お宅の娘ね。ウチの花奈もよろしくお願いします」
よ、良かったのかも…?
別館の私の部屋に向かう。
っていうか、あの靴ママと一緒。
ママがパパにもらった靴って言ってた気がするな。
ブランド物で高くて、個数も全然なかったから、余計嬉しいって。
木下さん、それを手に入れたんだ。
力は大きいって思える。
「おーい、美海ーっ!ママから電話。美海の部屋に繋ぐぞー!」
ああっ、どうせ仕事の話中だったのに私が本館にいなかったからっ!
…ショック。
そい思うのもつかの間。
ママから電話がきたんだねっ!
急いで部屋の受話器を握る。
「美海ですけどっ!」
「ママよ、美海」
良かった…ママが元気そうで。
ママは笑ったのか、言葉を緩ませて話し続けた。
「悪いけど、明日の放課後、和泉へ来てくれる?お願いがあるの」
浅瀬さんには、どうやって断ろう?
すごく楽しみにしててくれたのに。
その夜、ずっと同じことを考えていた。
パパは木下さんやその会社の人と会食で家におらず、作り置きのハヤシライスを食べたんだ。
ほぼずっとひとり。
慣れてるけど、ママがいなくて寂しい気持ちが勝ってるかも。
すると、いきなり電話が鳴った。
おそるおそる受話器を取る。
「もしもし、詩神です」
「あ、美海〜?瑠夏だけど〜」
あっ、瑠夏か…。
めちゃめちゃ緊張した〜。
ちょっと言葉が緩くなる。
「美海の家に、明日浅瀬が行くらしいじゃん。私も…」
「そのことなんだけど…」
はっきり言っちゃっていいよね。
言わないと、ママに会えない。
お願いがあるんだよね。
私に出来ることなら、全力を尽くしたいから、いいよね。
「ママに呼ばれて、ちょうど同じ時間に行かないといけないところがあるんだ。だから、無理かも。浅瀬さんも」
瑠夏は「そっか…」とつぶやく。
もしかして、気を落としちゃった!?
そんなつもりなかったんだけどっ。
「大丈夫。美海は、美海のお母さんのために動きなよ。浅瀬には私から言っとくからさ」
「ありがとう、瑠夏」
瑠夏との電話を切って、リビングのドアを開ける。
どうしてこんなに広いの?
私がひとりで過ごしている今、この空間が余計に広く見える。
ママも一緒に住んでいたあの時は、すごく楽しくて全然気にしてなかった。
楽しくて楽しくて夢中だったから。
だけど、無音のこの部屋。
私以外に誰もいないこの部屋。
広すぎて悲しいよ…!
来雅、来て…!
気がつけば、別館に来ていた。
だ、ダメ。
もう寝ないと。
私のヘンな気持ちが、頭の中をグルグル周回している気がした。
ついに、今。
和泉家へ向かうんだ。
電車に乗って、地図を開く。
ここから、歩いて行けば着くよね。
電車から降りると、すぐママがいた。
「ママっ!」
「美海…!」
良かった、会えた。
ママの温もり。
ギュッと抱きしめてくれて感じた。
私、こんなに良いママがいて幸せだって思ったんだ。
ママが住んでいるところは、ママのママの家。
つまり、おばあちゃんの家。
怖い詩神家じゃなくて、優しい和泉家の方のおばあちゃん。
温度差が激しいんだよね、ホント。
「おばさん、回覧板!」
ママに回覧板を渡す男の子。
その子は、一瞬こちらを見て口を紡いだ。
私にヘンな反応する!
ずーっと前、来雅と来た時もそう。
回覧板を渡しに来た男の子。
不思議な反応をしていたんだよね。
「何か、用ですか?」
「いやいや。何でもないよ。ごめん」
その子は、身をひるがえして隣の家に帰ってしまった。
どうして謝ってきたんだろう。
うーむ、気になるな。
「それより、美海。お願い聞いてくれるために来てくれたんでしょう?ありがとう、美海。正直なところ、美海なら来てくれるって思ってたから」
ママに信頼されてるかも…。
ふふふ、良かった。
…それより、お願いって何?
ママに尋ねる。
「佐江子さんに、このお手紙を渡してほしいの。中は絶対に見ちゃダメ。佐江子さんに渡すだけよ」
「そんなことなの?」
ママはにっこり笑う。
なんか、ヘン。
絶対ウソついてる!
ホントは何かしてほしいんじゃ…。
「ママ、何でもするよ。私、ママのためなら何でも出来る」
ママはちょっと涙を流して微笑む。
そして、家の中に入っていった。
私を家に上げる素振りはなかった…。
おばあちゃんも…。
「ねえ、キミ」
へっ?
不思議な男の子だった。
クスッと笑ったその子は、私の手を掴んでおばあちゃん家の横の家。
つまり、その男の子の家へ私を連れていったのだ。
ー第2話ー
一体、この子何なの!?
その男の子はリビングにも行かず、二階へ上がり、ひとつの部屋へ案内したんだ。
「ここが俺の部屋。入って」
言われるがままに入った部屋。
男の子の部屋って、来雅の部屋以外入ったことなかったけど…。
ちゃんと整理整頓されてる男の子の部屋って、素敵…。
「俺のこと…。俺は、桜庭涼って名前なんだ。キミは?」
「わ、私は…。って、どうしてあなたに言わなきゃならないの。ここに連れてこられたのとか、意味分からないんですけど!」
ホントだよね。
急に案内してきてさ。
もしかして、ナンパだったり!?
離れた方がいいね…。
「俺は、キミのこと知ってるよ。ずっと前から」
「何言ってるの?私はあなたのこと全然知らないし、聞いたことも…」
いや『全然』じゃないかも。
私、ずーっと前におばあちゃん家来た時も、この子が回覧板を渡しに来た。
その時、何となくピンとしたんだ。
アルバムで見たことあるって思った。
ただめちゃめちゃ似てる、だけ?
「キミの名前は、詩神美海ちゃん。当たってるでしょ?」
何で、この子は私のこと知ってるの?
おばあちゃん(怖い)の力?
パパの力?
それとも、この子ストーカー!?!?
「私、ここに来る意味ないので、帰りますからっ!」
部屋を飛び出して家を出る。
その時、落としてしまったんだ。
おばあちゃん(優しい)の家と、私の家の場所に赤丸が打ってある地図を。
昨日あったことを瑠夏に相談する。
とりあえず、話せば何かなるかも!
そう思ったけど、瑠夏は騒ぎ立てる。
「ちゃんとした答え待ってるの。落ち着いて落ち着いて」
瑠夏は、その…涼くんがちょっとイライラしちゃうみたいで、さっきから暴走気味なんだよね。
「おいおい。瑠夏のペースに落ち着いてる冷静な詩神さんも着いてけねーぞ、瑠夏っ!」
瑠夏の頭をポカッとやったのは、クラスメイトの大杉くん。
クラスの中でも中心の子で、ワイワイしてる子らしいけど…。
「そんなことないよね、美海っ!」
「う、うん。そんなことないない!」
部活、選ばなきゃな…。
瑠夏といろんな部室を行ったり来たり繰り返している。
すると、ちょうどサッカー部の辺りで声が上がった。
「来雅くん推薦入部なんだってね。美海の周りは本当にすごい人ばっかり」
ある意味すごい人もいるけどね。
来雅とかは、エースだし、モテるからすごいよね。
「キャアアアッ」
サッカー部でも声が上がっていたけど、次は校門辺りで黄色い声が。
そんなに魅力的な男の子?
女の子って、大変。
そう思いながら瑠夏と中部活を見学しに行こうとすると…。
「ねえ、美海」
「どうしてここにいるの!?私、あなたに教えてないよね。住所とか」
涼くんが来るなんて、聞いてないんだけど…っ!
瑠夏に耳打ちする。
「この子が涼くんだよ」って。
「おい、お前。美海にナンパしたらしいな。迷惑だよっ!」
瑠夏が涼くんに怒ってる。
私なんかのために…。
ナンパと聞いて周りがざわつく。
「他校の生徒は入ってはいけない決まりだ。詩神、外へ」
担任の生徒がサッカー部の顧問だったので、その騒ぎにいち早く駆けつけてくる。
なんかかわいそうな感じがしてきたんだけど…、涼くんが。
「涼くん」
ふたりで校外へ出る。
どうして来たの…、ホント。
涼くんを振り返る。
「ねえ、何で来たの!?学校にまで来るとか、めちゃめちゃ迷惑だよっ!」
間違ってないよね?
だって、ちょっと会っただけなのに、ここまで来ないでよ…。
新連載おめでとう!
いろいろと恋のトラブル的な物があったりしてこれからどうなるかわくわくする!楽しみにしてるね!
すると、いきなり涼くんは耳元でささやいたの。
「俺はずっと…」
「お前っ!」
瑠夏がバンと涼くんの背中を蹴る。
あああ…大丈夫…?
涼くんが立ち上がる。
結構笑ってるんだけど…。
「キミ面白い子だね。…で、美海」
どうして私なの〜?
瑠夏の方が魅力的で惹かれる子だよ。
も、もしかしてお金目当て!?
これは隠さないと。
「学校の時間が終わるまで、ここで美海を待たせて」
「お前なあっ」
「待つだけなら、いいけど」
瑠夏がえーっ!っと言った顔をする。
まあ『待つだけ』だもんね。
私と瑠夏が学校に戻る。
まだあとちょっと部活見てない…。
「ねえ、美海。涼のヤツ、いいの?」
「大丈夫だよ、全然」
言い返せる力はある。
もし何かなったら、家に逃げ込むか、来雅に助けを求めればいい。
周りが助けてくれるから…!
「私決めた!サッカー部のマネージャーやるわ」
「マネージャー!?」
瑠夏はコクンとうなずく。
そして、来雅を指差してつぶやいた。
「ずっと守ってほしいの。美海を。それを影からでも支えたいし」
瑠夏、私のことも考えてそれにするの!?
もったいないよ…!
瑠夏はそそくさとサッカーへ走っていってしまう。
「何にするの?詩神さんは」
後ろから浅瀬さんが歩いてくる。
そうだよねえ。
瑠夏が決めちゃったもん。
私も頑張って決めなくちゃ。
「浅瀬さんは何にしたの?」
「野球部のマネージャー」
ちょっとマネージャー多くない!?
瑠夏といい、浅瀬さんといい。
私もマネージャーにしようかな…?
だけど、内申書にいいの書きたいし。
運動苦手じゃないから…。
「決めるの早いね。私は中部活見てくるね〜」
体育館へ行くと、すぐに卓球部が目についた。
ちょっと遊びでやったことがあるだけの卓球だけど、楽しかったな。
出来たら、やってみてもいいかも。
「あれ?詩神さん!」
き、木下先輩も卓球部!?
でも入ってみたいな…。
「卓球部の部長!気に入った?」
「はい…」
木下先輩はパアッと目を輝かせて部内に入れてくれた。
仮入部…、楽しそうだな。
瑞ちゃん、ありがとう!
読んでくれたみたいですごく嬉しい。
良ければこれからもよろしくね♪
推しキャラが今の時点であったら教えてほしいな〜♪
もうヘトヘトでくたくた。
スクールカバンを肩にかけて瑠夏と交差点まで歩く。
涼くん、まだいるのかな!?
「ごめん瑠夏。ちょっと先帰ってて」
私は、あわてて涼くんと別れたところへ走っていく。
って…まだいるじゃん…!
「美海、待ってたよ」
「1時間くらいあったけど…」
「考え事してたから全然大丈夫!」
心配したつもりじゃないんだけど…。
別に、勘違いされてもいいけど。
「何で来たの?」
「ずっと前からキミのことを探していたから。突然来ただろ?昨日。これ、地図」
はあっ、地図落としたんだ!
そのせいで居場所を突き止められたってことなんだね…!?
ウソォーーー!
いつ落としたんだろう…?
「俺さ、ずっとずっと、ずぅっと前から美海のこと好きなの」
はっ…?
涼くんは突然、告白してきた…。
私が初めてされた告白だけど、相手に無感情なんですよぉっ!
「ごめん、無理。全然あなたのこと知らないの。涼くんが私のこと知ってたとしても…」
私は、家に向かって駆け出した。
涼くん、待っててくれたのにごめん!
だけど行かせて。
私はどうしたらいいの…?
「美海っ!」
涼くん、追いかけてきたの…?
家に入ろうとするけど、涼くんが手首を握っていて身動きが取りにくい。
「好きなんだ。美海のことが」
そんなこと言われても…。
私に何をしろって言いたいの?
本当に何も出来ないんだってば。
「ねえ、美海。別館へ案内して」
「無理よ!パパが帰ってくるんだから!帰って!」
お願いだから、帰って。
私にはそんなに望まれても何も出来ないんだよ…。
翌日も、その翌日も。
毎日涼くんは中学校に来た。
そのたびに瑠夏が背中を蹴っている。
「ねえ、美海!もうしつこいよ、涼。来雅に言おうよ」
確かに、何も出来なくてイヤ。
来てくれて、告白もしてきてね。
だけど何も出来ない。
逃げているだけな私もイヤ。
「来雅くん、ちょっと…」
瑠夏が男の子と話していた来雅を呼んで、今まであったことを伝える。
来雅は聞く中で、どんどん顔をしかめていく。
「涼、かぁ。俺はどうしたらいいの?美海はどう思ってんの?」
「私は…」
正直に言えば、涼くんが怖いし、何がしたいのか分からないし、プラスの考えはひとつもない。
だけど、どこかで見たことがあるの。
それだけしか何も…。
「美海の気持ち次第だな。勝手にやるのもよくない。答えが決まったらまた呼んで」
来雅は、また男の子たちとの話に入っていく。
涼くんも男の子だし、来雅は考えてることちょっとも分からないのかな?
どういうことか、教えてよ!
「美海…」
瑠夏が背中をさすっている。
あれ、私泣いてる。
男の子の集団がドドッとこちらへ駆けてくる。
「どうしたの?詩神さん」
「瑠夏がいじめたのか〜?」
「違うってば!うるさい!黙って」
どうして出来ないの?
周りで付き合ってる子とかいる。
告白されたことあるって子もいる。
なのにどうして…!?
「ついに詩神さんも恋を!?」
「えええっ!1年2組のプリンセスだったのにー」
『1年2組のプリンセス』。
こんなの、どうせお金でしょ?
私は、お家の大きさでしかみんなに見てもらえない。
それに、お家の大きさでしかみんなに向き合えないんだ…。
「教えて…瑠夏…。どうしたら…私は何とか…なるの…?」
それさえ分かれば。
きっと、涼くんも楽になれる。
1日でも早く答えを出したい。
ふたりともがいい答えを。