神の所在

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1:結衣◆yU:2018/02/07(水) 21:06

―――拝啓、神様。
そこに、私はいますか。





>>2

2:結衣◆yU:2018/02/07(水) 21:07

初めまして!初スレ立てで初心者ですがよろしくお願いします!
読みにくかったり、分かりにくかったりしたら教えてください。まだまだ発展途上ですがよろしくお願いします!

戦う女兵士の日常です!

3:結衣◆yU:2018/02/07(水) 21:22

「神様?」

戦争が終わって、つかの間の休息。訓練の合間に小島隊長が話しかけてきた。
「そう。藤崎は神様って信じる?」
「神様―――ですか」
花菜は考えてから、言った。
「私は、信じますよ」
「へえ、どうして?」
「神様は、私のことが嫌いみたいだから」
そう言うと、小島隊長は困ったような顔をして、その節はごめんねと言った。
「いえ、まったく気にしてませんよ、安心してください」
「いやいや、気にするって…ほんとに。仕方なかったんだ」
仕方なかったのは分かっているのだ。でも、あの瞬間、私は神様に見放されたと、そう思った。

少し、昔の話をしよう。

4:結衣◆yU:2018/02/07(水) 21:37

目を醒ますと、周りは炎の海だった。
遠くから、母親が私を呼ぶ声がする。煙を吸っていたからか、目の前が朦朧として、吐き気がした。
「お母さん!お母さん!」
母親の名前を叫ぶも、すぐに咳き込んでしまう。クラクラする。なんでこんなことになってるのか、一切理解できなかった。
幼いころ特有の柔らかい関節を駆使して、狭いところを通って、ようやく外に出るけど、前が見えなかった。さっきの炎が目に焼き付いて離れなかった。
「あ…」
でも、呼吸は幾分か楽になっていた。
「ッかあさん!おかあさん!おか、ぁ」
目を凝らして、凝らして、ようやく遠くに母親の姿が見えた。同時に、その周りにいる兵士も見えた。
「、おかあさん…」
母親が、兵士にもたれかかっている。抱き着いているように見えた。でも、その身体の中心に太い剣が刺さっているのを見て、愕然とした。
へなへなとその場に座り込む。瓦礫が足に刺さって痛かったけれど、そんなことを気にする暇もなかった。
「おかあさん、」
涙は出なかった。兵士の声と、住民たちの叫ぶ声が混ざる。ここでやっと、家事なのではなく、街全体が燃やされているのだと知った。

お母さんはもう戻ってこない。
あの兵士たちに、私の最愛の母親は殺されてしまったのだ。

5:結衣◆yU:2018/02/08(木) 21:57

許さない。
街を包む炎の中、一人で囁いた
許さない。
この炎よりも、心の中で燃える何かがあった。

ロクな母親ではなかった。いや、今まで一応育ててきた親にそういうのは失礼かもしれない。
でも、私の家庭は世間一般の幸せな家庭ではなかったことは確かだ。
ネグレクトや暴力こそなかったが、私が生まれてすぐに未亡人となった彼女は男狂いになったらしい。家に帰ることは少なかった。
けれども、一度だけ、現場を見た。
家に上がると奥の部屋から甲高い叫び声が聞こえるものだから、何事かと思って、少しの恐怖感でゆっくりと扉を開くと、暗い部屋の中に、二匹の獣がいたのだ。

ああ、なんだ、人間も犬も、変わりはしない。
少しだけ夢見ていたその行為は、獣のそれと全く変わりがなかった。そこに、人間的な美しさなど、感じられなかった。
吐き気がして、扉を閉めて、家を出た。誰にも、言わなかった。言えるはずなかった。相手の男、前に話していた男ではない。きっと、何人も付き合っているのだろう。何人とも行為に及んでいるのだろう。それは、娼婦みたいで気色悪い。

「は……ばかみたい、」
母親が何人の男とも「そう」していることくらいは知っていたはずなのに、ただ、どうしようもなく気持ち悪くて、その夜には家に帰ることができなかった。
ここが地獄か。
今思えばなんてヤワな地獄だったのだろうと思うけれど、幼い私にとって、家庭とは地獄そのものだったのだ。

6:結衣◆yU:2018/02/09(金) 21:29

けれど、私は母親のことを好きだったのだ。
父を亡くした私たちにとって、お互いは唯一であったはずなのだ。

男たちと話すよりも暖かい、その声で呼ばれるのが好きだった。
ゆっくりと抱きしめられたときの、あの熱が好きだった。
どれだけ男を抱きしめても、変わらない母が好きだったのだ。

ロクな母親ではなかった。けれども、彼女はどこまでの私の母だった。

だから許せなかったのだ。彼女を殺した、あの兵士が。
手元にある木の棒を握る。燃え尽きたそれはもはや灰になっていたけれど、それすら気にならなかった。
「ああああああああ!」
甲高い声で叫んで、兵士に飛び掛かる。目標はただ一点、母を貫いた兵士のみ。それ以外は目にも入らなかった。
驚いた兵士が剣を持ちかけて、狼狽えた様子が見える。そりゃそうだ、こんな子供が突っ込んできてんだ。好都合。
兵士の懐に素早く入り込む。未だ狼狽している彼の鳩尾に、木の棒で一撃を入れた…はずが、大したダメージも与えないまま棒が朽ちる。ちくしょう、情けない。すぐに手を離して、両の手を空にしてやった。ころす。ころしてやる。木の棒程度に逸らされるほど弱い殺意じゃないんだ。
木の棒を投げた勢いで、思い切りしゃがみこむ。兵士の振るった剣が髪の毛を掠った。危ない。死ぬところだ。けれど、自分の口元が弧を描いているのがわかった。抑えきれなかった。楽しい。生きている心地がする。生死の狭間で、今私は戦ってる。意味のない毎日を過ごし続けるより、今この兵士に殺される方がきっと幸せだ。
でも、死ぬ気は毛頭ない。
思い切り体勢を低くする。この未発達な体で唯一訓練された兵士に勝てるところは、関節の柔らかさと身の軽さだ。それを最大限利用せずに、どう勝つ?
そのまま足払いをかけた。子どもだからってナメているのか分からないが、兵士は思い切りバランスを崩す。情けない。こんな幼い女に負けてどうする!
兵士の身体に思い切り体当たりをすると、大の大人とは思えないほど簡単に倒れ込んだ。馬乗りになって剣を奪う。初めて持ったけれど、その重量に驚いた。しかし、この重さは胸を貫くには向いてそうだ。私でも力を籠められる。
両手で剣を握り、振り上げる。その剣の先から、母親の血が滴った。

なあ、どうだ。自分が人を貫いた剣で殺されるのは。自分よりずっと幼い、非力な子供に殺されるのは、どんな気分だ?
願わくば、母の血が毒となって貴方の身体を蝕んでいきますように。出来るだけ安らかに、苦しんでください。

一心不乱に剣を振り下ろそうとした瞬間。ガツンという大きい音がして、意識は途切れた。

7:結衣◆yU:2018/02/10(土) 15:23

「……どうする?」
「どうするも何も、反抗する人間はすべて殺せと言われたはずだろ」
「でも、こんな子供だぞ」
「上の命令に逆らうのか?」

ぼんやりとした意識の中で、兵士たちの会話が聞こえた。目を開ける。皮肉なくらい青い空が憎らしい。未だに燻っている炎は、もっと。
兵士たちはどうやら、私の今後について話し合ってくれているらしい。馬鹿らしい。こっちは殺そうとしたのだ。殺してくれて構わないのに。
ほんの少しの苛立ちを抱えたまま、身を起そうとすると不自然なほどの眩暈に襲われた。また後ろに倒れ込む。
脳震盪か。気絶するって相当じゃないか、これ?後遺症残ったらどうするつもりなんだか。いや、生きる気満々かよ、アホらしい。

「起きたぞ」
「ああほら、早くしないから起きちゃっただろ」
「だから最初から生かしておこうって俺は」
「お前人を殺めることも厭うのかよ、なんで軍人やってんだ」
「徴兵だよ!」

目の前で行われるコントじみたやりとりにため息が出た。
こっちはもう殺される準備くらいできているのに、そっちでいがみあってどうする?意味ないだろう。早くしてくれ。痛いのは嫌だぞ。一思いにやってほしい。

それにしても。

「……徴兵。」
ぽつり、と声が漏れる。
いいなあ。いいなあ。徴兵。女には馴染みのない言葉。厳密には召集されることもあるのだろうけれど、前線に立つ兵士となるのは男だから、私には関係がないのだ。
もし、私が徴兵されたら、いっぱい戦うのに。ここにいる優柔不断な兵士よりも、もっと華々しい戦果を挙げてみせるのに。
さっきの戦いを思い出す。戦いと言えるほど私は強くないし、あっちには躊躇いがあったけれど。それでも、殺し合ったのは事実だ。それを思い出すと、どうしても笑みがこぼれる。
羨ましい。前線に立つ自分を想像する。絶望的な状況。味方はない。応援もない。手には一本の剣。一人で、祖国への愛と異邦への憎しみだけを武器に、他国の兵を蹂躙していく。まさに孤軍奮闘。柔らかい身体を駆使して、何人もの人をなぎ倒すのだ。女ごときに!と言われるはずだ。その言葉で私はきっと破顔して、相手に頭がおかしいとでも思われるんだろう。
そして、きっと、途中で相手の数に押されて、背中に傷を付けられるのだ。そこから総崩れ。抵抗むなしく、私は殺されていくだろう。それでいい。それがいい。叶うはずのない夢。
そんな夢を見せるほどまでに、さっきの戦いは私にとって鮮烈な印象を残した。きっと、戦場は、さっきの戦いよりもずっと血生臭くて、危険で、それでいて私を昂らせてくれるはずなのだ。ああ、戦場で散りたい。私の身体は、戦場への夢を放そうとしない。私の身体は、戦いを欲している。

8:結衣◆yU:2018/02/10(土) 19:03

私が戦争へ思いを馳せていると、覚悟を決めたんだかどうなんだか、一人の兵士がこちらに問いかけてきた。
「おいお前。…何歳だ」
「……十三」
「十三?……なぜあんなことをした」
それはほとんど尋問だった。
その兵士の顔を見上げると、驚くほどに厳しい目でこちらを見つめてくるものだから、場違いにドキドキしてしまった。だって、あまりにも熱烈すぎる。ああ、こんな趣味なかったはずなのだけれど、どうやら先の戦いで少々狂ってしまったらしい。
「お母さんが、……殺されたから。」
頭の中の饒舌さとは違って、口ぶりはまるで――飼い主をなくした犬のような。
「……戦うのは初めてか」
「殺し合いは、はじめて……でも、喧嘩はこの辺りじゃ強いほう」
それを言うと、兵士は少しだけ訝しんで、また続けた。
「あいつをどうする気だった」
あいつ?
あいつというのは、先程の、あの、死ぬほど私をナメていてくれたあの兵士だろうか?
それならば、
「殺そうとした」
彼の目が、いっそう細くなって、私を睨みつけた。ごくりと生唾を飲む。たまんない。

そうか。それだけ言って、彼は去っていこうとした。だめ、いかないで、いかないで。もう少しだけさっきの目で、私を見つめていてよ。
引き留めなきゃ。どう?どうって、話をするんだ。話を。彼と話をしよう。

「兵士さん」
思いのほか声が擦れてしまったのだけれど、どうやら彼は気付いてくれたらしかった。半身振り返って、またこちらを見下ろす。
「…私、兵士になりたい」
怒らせろ。気狂いだと思わせろ。そうしたらきっと、私を見ていてくれる。
「兵士になって…たくさんの軍隊を、なぎ倒したい。私、女だから、なれないけど……戦いたいって思った…」
頬に、雫が落ちた。それは涙なんかではない。
「国のために戦いたい。…女だし、子供だから、なれないんだろうけど…テロリストにでもなったほうがいいのかな」
半分は嘘だ。国のためになんて戦いたくない。自分のためだけに戦いたい。自分のこの欲求を満たすためだけに戦いたいのだ。
「さっき…剣を持ったときに、結構、イイって思って…。重さ、ちょうどよくて……」
自分でも何を言っているのかが分からなくなってきていた。子どもの言葉だからって許してくれるだろうか。ああいや、許さなくていいんだ。あの目で見てくれるだけでいい。
雫がまた、落ちる。
「兵士に、なりたいなあ…。後ろで弾薬つくるより、わたしは戦いたい…」
それは雨であった。瞬く間に土砂降りになったそれは、街の火を消してゆく。神の御心だ。戦争なんてやめろと、囁いてでもいるのかもしれない。
そんな神様がいるのであれば、はやく、私の息の根を止めてはくれないだろうか。人を殺めることに快感を覚えた私に、どうか、鉄槌か何かを、一思いに。


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