宮廷靴磨き 〜シューシャンボーイ〜

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1:にしき:2018/05/03(木) 00:57

スラム街の貧しい家庭に生まれた少年、セジョーア・ロックローズの両親は、街で靴磨きの仕事をして生計を立てていた。
しかし、ロックの両親は貴族の借金取りに臓器提供用のドナーとして拉致され、殺害されてしまう。
ロックはいつかその貴族の仇をとって復讐するため、靴磨きで資金を稼いでいた。

そんなある日、ひょんなことから宮廷専属の靴磨き師にならないかとキー第二皇子に持ちかけられる。
恨み続けている貴族の情報を集めるため、ロックは宮廷で靴磨き師として働き始める。

靴磨きを通して様々な客との出会いと事件に遭遇し、次第に巻き込まれてゆく。

2:にしき:2018/05/03(木) 00:58

・character data


・セジョーア・ロックローズ 15歳 ♂
カギトニア帝国にあるスラム街の貧しい家庭、ロックローズ家に生まれる。ロックと呼ばれている。
幼い頃から両親の仕事である靴磨きの手伝いをしていたため、靴磨きの腕前は一流。
街のゴミ捨て場に破棄された本を読んでいたため、ある程度の教養も備わっている。
街の酒場でバイオリンやピアノを演奏して金を稼ぐことも。
親譲りかギャンブルにも強く、たまに酒場でチェスやポーカーなどの賭けをして儲けている。


・カイジョーア・ロックローズ ♂
ロックの父親。スラム街でロックと暮らしていたが、借金を期限まで返却できず、ある貴族に全臓器を売られてしまう。
靴磨きの腕は超一流で、何人かの有名な貴族とも知り合いだった。
賭け事が好きで、ロックとポーカーやチェスの対戦を交えていた。
スラム街では多くの人に慕われていたらしい。


・キードラド・ オープンストナー 15歳 ♂通称キー
カギトニア帝国の王室に生まれた、次期帝王と期待されている少年。第二皇子。ロックからはキーと呼ばれている。
帝王候補だが勉強が嫌いで、度々サボって街へ繰り出す上に女好き。
街にお忍びで出かけた際にロックと出会う。
ロックの才能を見抜き、宮廷専属の靴磨き師として雇った。


・パスコー・ド・ニューリョック 40歳 ♂
キーの側近として仕えている大臣。ロックからはパスコー卿と呼ばれている。
ロックの父、カイジョーアの代からの常連客で、ロックの事情を知る数少ない理解者。
貴族に関する情報や助言を提供してくれる。


・ダイヤル・オープンストナー 14歳 ♀
カギトニア帝国の王室に生まれた、キーの妹。ロックからはダイヤル妃と呼ばれている。
宮廷に入ってきたロックのことを庶民だと見下し、度々嫌がらせを行う。
キーとは正反対の性格で、勉強や習い事も真面目に行うが融通が効かない頑固者。


・パンドレア・オープンストナー 50歳 ♂
カギトニア帝国の現帝王。ロックからはパンドレア帝王と呼ばれている。
キーやダイヤルを溺愛する親バカだが、帝王としての威厳も保ち、度々叱咤する。
靴に対して異常な執念を持ち、手入れにこだわっている。
出来がよく、靴磨きの技術も一流であるロックのことは実の息子のように思っている。

3:にしき:2018/05/03(木) 15:33

 いつも仕事をするとき、親父は言っていた。

 靴はどんな持ち物よりもヒトを表す、と──

 何年も靴と触れ合っていれば、靴一足から様々な情報を読み取ることができる。
 その靴の形状や色、値段、手入れの度合い、革の皺や底の擦り減り具合。
 そこから裕福さや貧困さはもちろん、几帳面さやプライドの高さを垣間見ることもある。
 そして俺は靴を磨くとき、その人の持つ人格を俯瞰するのだ。

 重厚な革靴、鋭いハイヒール、クタクタのブーツ。
 人の性格が十人十色というように、靴も多種多様だ。
 同じ靴を持っていても、時が経てば靴は持ち主の仕様に染まっていき、違いを生み出す。
 靴はただの道具でもなく従順なしもべでもなく、もう一人の自分だ。
 少なくとも俺は、そう信じている。
 
 
 持ち主の脚を支え、大地に触れる靴を癒して労う。
 俺は、この仕事──靴磨きが好きだ。

4:にしき:2018/05/03(木) 16:44

 ──カギトニア帝国。
 地中海に面している小国で、オリーブやトマトの栽培、そして牛の放牧が盛んである。
 そのため牛革の出荷量が高く、バッグや財布の製造が栄えている。

 その中でも一際栄えているのは靴の生産だ。
 様々なブランドが確立し、腕の良い職人の取り合いや技術の争いが絶えない。
 どんな革を使うか、デザインはどうするか、縫製はどうするか。
 数々のブランドが靴の販売に力を入れ、日々靴の開発に執念を燃やしている。

 そしてこの国の人々も靴に拘りを持ち、自分に合ったものを選ぶ。
 色や形はもちろん、履き心地や機能性も重視して買っていく。
 貴族の間では、どれだけ良い靴を履いているかということはステータスの一つとなっていた。



 ドレスに身を包んだ貴婦人や馬車、鎧を纏った騎士達が忙しなく動き出す朝の街。
 その一角にひっそり佇みながら街の喧騒を眺める。

 行き交う人の靴を見ては、ドレスから見え隠れするあのハイヒールは上物だとか、あの革靴の形状が流行っているな、なんてとりとめのないことを考えていた。
 兵士の擦り減った革靴、貴族の立派で砂一つかぶっていないブーツ、軽快な音を鳴らす貴婦人のヒール。
 どの靴もそれぞれの個性をもち、今日の大地を踏みしめていく。

5:にしき:2018/05/04(金) 00:58

 暫く俯いて地面に視線を向けていると、大きな人影が俺を覆った。
 思わずバッと勢いよく上を見れば、ニヤリといたずらっ子みたいな笑みを浮かべたおっさんが俺を覗き込んでいる。
「よぉ少年、元気にしてたか」
「……パスコーの爺さんじゃねぇか。驚かせんなよ」
 パスコー・ド・ニューリョック公爵。
 帝王の側近として代々仕えている名門貴族、ニューリョック家の出身だ。
 パスコーはニューリョック家の当主で、現在は大臣を務めている。
 
 親父の代からの常連客で、随分と贔屓にしてもらっている。

「今日はどうする?汚れ落として艶出し?」
「おぉ、それで頼むよ」
 パスコーは勝手知ったる木製椅子に腰かけ、いそいそと脚を差し出した。
 今日も今日とて彼は上質な茶色の革ブーツを履いていた。

 まるで樹木の幹を思わせるような深い品のある茶色。
 ふくらはぎまで届くほどの丈で、つま先が鋭くカーブしている。
 踵のヒール部分は太い直方体になっていて足場もグラつかず歩きやすそうだ。
 中央はいくつか穴があけられていて、その穴に黒い紐が通されている。
 紐を通す穴の数でサイズを幾分か調整できる仕組みのようだった。
 
「これは……有名ブランド『ブレークジョーマエ』の新作か」
 革靴の質感とデザインの既視感で分かった。
 一流の素材と有名デザイナーの起用で評判の高い高級ブランド、ブレークジョーマエ。
 庶民には手が届かず、高嶺の花……もとい高値の靴だ。滅多にお目にかかれないシロモノ。

「さすがロック、ご名答。よく見抜いたな」
「ブレークジョーマエの靴を磨くのは三度目さ。こんな立派な靴を磨けるとは光栄だぜ」
 久々に巡り合えた上等な靴に興奮しつつも、浮足立つ鼓動を押さえつけた。
 古びた木箱から汚れ落としとクロス、ブラシ、靴墨などの商売道具を取り出し、準備に取り掛かかった。

 


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