「―――次の方、お願いします」
……来た!
私の、番。
「みさき はるな! 11歳です!夢は、みんなを元気にできるアイドルになることです!」
これから始まるんだ。アイドルへの、道が―――
アイドルガールズ 〜トップアイドルを目指して〜
―――私は、アイドルになりたかった。
女の子の誰もが、一度は夢見るアイドルに。
でも、普通ならオーディションなんて受けずに、夢を見るだけで終っちゃうと思う。
だって、「アイドルになれる」なんてそう簡単に思えないもん。
私がオーディションを受けたのには理由がある。
「春菜、アイドルにならない?」
「えっ!?」
ある日、私は突然お母さんにそう言われた。
アイドルにはなりたかったけれど、私みたいな普通の女の子がなれるとは思わなかったから……
「ならなくていいよ……」
だから、そう言って断った。
だけど、お母さんは諦めなかった。
「春菜、アイドルになりたかったんでしょ? ほら、これ見て!」
お母さんはそう言って紙を差し出す
「えーと、アイドル募集……?」
その紙には、『アイドル募集』と書いてある。
お母さんが目で「下まで見て」とうったえるので、私は紙を最後まで見てみることにした。
○○事務所、○月○日土曜日、12時よりオーディション開始。
中学生以下、特に小学生を募集しています……!?
「あなたはまだ小学生。アイドルになれるチャンスはあるのよ。夢を捨てないで」
ここの事務所でなら、私はアイドルに……!
「お母さん……
私、アイドルになるよ!」
自分でもよく考えてなかったって思うけど、私はお母さんの言葉でアイドルになることを決めて、このオーディションを受けたのだ―――――
「はるなさん、ですね。始めましょうか」
「よろしくお願いします!」
オーディションは、意気込みを言ったり自己PRをしたり、面接をすることだった。
「……みんなを元気にできるアイドル、ですか。具体的に、説明できますか?」
「はい、出来ます!」
……こういうことを聞かれても、ちゃんと答えられるように考えてきた。
「歌番組とか見てると、とっても元気になって明るくなるんです。そんな思いを、今度は私が他の人に届けたいんです!」
「そうですか。とてもいい目標だと思います」
「ありがとうございます!」
私の思い、認めてもらえたのかな……?
―――その後も色んな話をして、時間はすぐに過ぎていく。
「はい。この辺で終わりにしましょう。合格発表は後日、郵送させていただきます」
「ありがとうございました!」
オーディションが終わった。
私は頭を下げておじぎをすると、面接室をあとにした。
……やれるだけのこと、やったよね?
参加してる女の子たちはたくさんいたけど、どれくらいの人数が合格するんだろう……。
「じゃあね、はるなちゃん!」
「うん、バイバイ!」
私は家の玄関の前で、友達に手を振って別れた。
……どうにかやりきった。
今日はオーディションが終わって三日後。まだ結果の連絡はきていない。
オーディションの結果が気になりすぎて全く授業が頭にはいらなかったけど、友達にはいつもの私でいることは出来た。
……今日こそは、合格発表きてるかな。
私はそんな期待を抱いて、家の中へと入った。
「ただいま!」
私はリビングに入って掃除をしていたお母さんにそう言う。
お母さんは「おかえりなさい」と言って振り向いた。
けれど、いつもと全然雰囲気がちがう。
「……お母さん? どうしたの?」
私は気になってそう尋ねた。
「来たのよ」
すると、お母さんはニヤニヤしながら言う。
……来た? 何が?
「ちょっと待ってなさい」
そう尋ねる前に、お母さんは掃除をしている手を止めて、玄関の方へと歩き出す。
少し時間が経って、お母さんが戻ってきた。
「これ」
お母さんは私に封筒みたいなのを差し出す。
「……もしかして」
「そう、そのもしかしてよ。お母さん、春菜が帰ってくるまで開けるの我慢していたのよ」
ああ、それでお母さんいつもとちがったんだ……
私はそう思いつつ、封筒を開け……ようとした。
「ああ! やっぱり無理っ!」
開けようとした。開けようとしたんだけど……
緊張して手が震えて開けられなかった。
「あら? お母さんが開けてもいいの?」
「だ、だめっ!」
私は封筒に伸ばされたお母さんの手を払う。
お母さんは「酷いなー」とか言ってるけど、気にしない。
「…………」
私は手が震えるのをどうにか耐えながら封筒を開ける。
封筒の中には、畳んである紙がはいっていた。
これを開けたら、合格かどうかがわかるんだ……!
「うぅ……」
そう考えるとさらに緊張して、へんな声が出る。
私は覚悟を決めて、紙を開いた。
そして、恐る恐る結果が書いてある部分をみる。
「……っやったあ!!」
『美咲 春菜
あなたは○月○日に行われたアイドル選考オーディションに合格しました』
紙には、そう書いてあった。
ということは、合格……!
「春菜、おめでとう!」
お母さんも私と同じで紙にくいついている。
私は大喜びのお母さんに、「ありがとう!」と笑顔で言った。
「あ、続きがあるみたいよ」
すると、お母さんが突然紙の下らへんを指さしながらそう言う。
私はお母さんの指さしたところを見た。
『貴方には、スカウトを受けたアイドルとユニットを組んでもらいます。○月○日 日曜日 事務所にて顔合わせを行います』
……えっ!?
……そして、顔合わせの日曜日。
私は、これからお世話になる芸能事務所を訪れていた。
「ここが……」
大原プロダクションと入り口に書かれた、立派な建物。
芸能事務所っぽさはしっかりあった。
「スカウトされたアイドルかぁ……どんな子なんだろ?」
ユニットを組むなら、仲良くなりたいな。そんなことを思いながら、
私は事務所のドアを開けた……。
「え……!?」
がらがら……この光景には、そんな言葉似合うと思う。
誰も、いない。
早く着きすぎた学校みたいに……。
「どうしよう……」
10分くらい待っても、誰もこない。
……これ、帰った方がいいのかなぁ。
私はそう思って、事務所のドアを開ける。
「待った!!」
「えっ!?」
そして、事務所から出ようとすると、後ろから大きな声が聞こえてきた。
私はあわてて振り返る。
「やあ、待たせたようだな。私はこの事務所の社長だ」
えっ社長さん……!?
えっと……とにかく、謝らないと。
「帰ろうとしてごめんなさい!」
私が頭を下げてそう言うと、社長さんは愉快そうに笑った。
「大丈夫だよ、謝らなくて。そもそも、私が遅れたのだからな。はっはっは!」
……社長さんが遅刻!?
だ、大丈夫かなこの事務所……
「そ、そんな目で見ないでくれたまえ。とにかく、社長室へ移動する。着いてきてくれ」
社長さんは、私の顔をみて苦笑いしながらそう言った。
私、そんなに怖い顔してたかなぁ。
少し気を付けよう。
そう思いながら、私は社長室へと向かった。
「ここだ。とにかく、そこのソファに腰掛けてくれ」
「は、はい!」
私は案内された社長室に入り、ソファに座る。
こんな所で社長さんと二人きりなんて、緊張する。
「オホン、この事務所の方針は年少アイドルの育成―――」
社長さんは事務所の方針、目標などを説明し始めた。
「―――まあ、それくらいだ。君ともう1人、スカウトがいるが……」
……そうだ!
「スカウトされた女の子は、どこですか?」
私は目的を思い出して、そう尋ねる。
「うっ……」
すると、社長さんは苦い表情をした。
なんでだろう……?
「ああ、それはだな―――――」