先輩の中には未知が住みついている

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1:羊◆.o:2018/12/30(日) 20:45

中二病の先輩と現実主義者の後輩がいちゃつくだけのたいして面白くもない小説っぽいなにか


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▷なんかてきとう
▷オムニバス方式
▷アドバイス感想くれたら嬉しいです

2:羊◆.o:2018/12/30(日) 20:53

▽キャラ紹介▽

▷後輩
高校二年生。学級委員長を務める優等生で、頭脳明晰な現実主義者。
セミロングの髪を下の方で二つ結びにしている。
先輩が気になるが相手は自分のことなんて眼中にないと思っている。

▷先輩
高校三年生。高3にもなって中二病真っ盛りのやべーやつだが、器用でなんでも卒なくこなすので他の学生達からはある種の尊敬を集めている。
後輩が好きなので告白や少女漫画の真似事を積極的にやってるが全部ガチスルー。かなしい。

3:羊◆.o:2018/12/30(日) 21:21

『異世界の旅人』


「...なあ後輩」
「なんですか、先輩」

「僕は、異世界の旅人なのだ」

夕陽に照らされて、昼とは異なる様相を呈す教室に、男女二人の影が落ちている。
西の空を染める黄昏の光が窓から射し込むのを傍目に、私と先輩は二人きりで帰り支度をしていた。
運動場から響く運動部の掛け声や、音楽室から反響した吹奏楽部の合奏の音色が、こじんまりとした教室の静寂を乱している。

私は目を細めた。

もちろんこの表情は先輩への呆れみからくるものであり、それ以外の何物でもない。
むしろ他の要因が思いつかない。

「あれ、なにやら不満気だね?」
「いや...先輩....唐突に何を言いだすかと思えば...」

先輩は、邪眼系中二病がメディアで専ら痛い奴の代名詞として取り上げられ世間一般にも周知されて久しい現代、時代錯誤も甚だしい絶滅危惧種の純・邪眼系中二病患者である。
それこそ、その言動は中二病当事者たる中学二年生も裸足で逃げ出す代物で、自らを中世欧羅巴を股にかけた謎多き貴人・サン=ジェルマン伯爵だと吹聴したり、やたら難解な言葉を並べた理解に苦しむような詩を呼吸の如く撒き散らしたり、日頃からその中二病的膂力を磨き上げることに余念がない。

「先輩、事実無根という言葉をご存知です?」
「失礼だなあ...知っているさ」
「先ほどの先輩の発言はこれに当てはまります」

頬杖をついてむすっと先輩を見据える私に、先輩は切り返す。

「いいや、もちろんこの発言は事実に則ってのことさ。
キミは知っているかい、とある哲学書の眼は異世界の窓であるという一節を」
「は、はぁ....」

先輩特有の不可思議中二病ワールドに当惑の念を募らせて唸る私に、先輩は濡れ烏色の髪を揺らし、その整った顔立ちに不敵な笑みを浮かべた。

認めるのは悔しいものの、先輩は眉目秀麗である。それこそ先輩が先輩たる所以であり、彼が纏う胡散臭くもミステリアスなオーラの源泉だ。こんな箇所にまで顔面偏差値の影響が及ぶとは、世の中は不公平なものである。

「....毎回言ってますが、先輩がそうおっしゃるのであれば明確な証拠をご提示くださいよ」
「ふふん、証拠がほしいの?」

眉間に皺を寄せて不満気に喋る私に、先輩がニヤリと口角を上げた。

束の間。

唐突に、私の頬に大きな手が触れた。にわかに訪れたひんやりとした感触に驚く。それは先輩の手であった。
そして、あろうことか、先輩は蛇に睨まれた蛙の如く硬直した私に、身を乗り出して顔を近づけてきた。
先輩と私の顔が、おでこが当たりそうなほどに接近する。

人間の脳というものは複雑怪奇であるが故に、想定外の出来事に対し咄嗟に情報を処理できず、固まることがままある。
私もその例に漏れず、私の思考は停止状態に陥っていた。結果、いつもの回避行動が取れず、私は先輩の瞳に映る自分の惚けたような表情を見続ける羽目になってしまった。

....私が先輩を突き飛ばしてしまうのも無理はないというものである。

4:羊◆.o:2018/12/30(日) 21:26

「ギャー!!なな、何をするのです!先輩のヘンタイ!」
「えー...ヘンタイとは失礼な」
「い、いきなり、き、きす、なんて....」
「.....ん?フフフ、キスじゃないぞ?君に実演したまでさ。つまり、僕は君の世界を覗いたんだ」
「は、はあ?」

先輩は目を細め、私の反応に口を覆い隠してケラケラと笑った。顔が赤くなるほど面白いらしい。当の私も、勘違いの恥ずかしさと、いきなり根無し草理論で軽率な行動を取る先輩への怒りを逸らすように、先輩を視界から外す。
運動場で走り込みをしていたサッカー部が、いそいそと後片付けを始めるのが窓越しに見えた。

「....君自身は堅苦しい真面目ちゃんなのに、君の世界は随分と桃色なんだねえ」
「な、何ですかそれ!...大体私の世界とか意味わかりませんし...」

先輩の言う桃色がなにを指すのか要領を得ず、私は明確な反論も出せず口ごもる。

「...先輩、突き飛ばしたことと先程の勘違いは謝ります。ですが、まさか女の子にみんなこんな事やってるんじゃ」
「あはは、僕はそこまで破廉恥漢じゃないぞ。」

先輩が、再び私をまっすぐ見据えた。

「こんなこと、特別に思っている子にしかやらないよ」

軽率に口走る先輩の声色は日頃より散見される通り歌うように軽やかで、真剣味のカケラも見当たらない。先輩があまりに恥ずかしげも無く言うものだから、私が二倍の恥ずかしさを背負わねばならないのが癪に触って、私は溜息を漏らした。
先輩の真意は分かりかねるが、一連の言動がどうせ私をからかってのことであるのは先刻ご承知である。
腹の底に沸々と湧く寂しさを押し潰しつつ、私は言った。

「...先輩、閑話休題です。もう、帰りましょうか」

黄昏時が終わりを告げ、地平線に沈む太陽が空を紅に満たしている。天頂には仄かに夜の色が滲み、一番星の金星が輝いていた。夜の帳が降りて、満天の星空が私達の街を覆うのも近いだろう。
先輩が本当に異世界の旅人であるならば、私の世界を旅できるのであれば、私はここまで苦悩することもない筈だ。つくづく突飛なお話である。
視界の端に映る先輩は、何故だか俯いている。

私は先輩の手を取った。


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