月を埋葬

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1:かちか◆p2:2019/01/07(月) 23:19

暗いのか明るいのかよく分からない小説のようなものを書きます!月は「紙の月」って言われるくらいが好きです。

6:かちか◆p2:2019/01/09(水) 15:58

>>5
初期のやつ投稿してた。
最初の情報過多ナレーションは忘れてください。
このくらい減ります↓

『骨喰い』。
この『町』の人間なら誰もが知っている言葉である。
読んで字のごとく『骨を喰う者』という意味で、そのグロテスクな内容にもかかわらず、その逸話はどんなに幼い子供でも知らない者はいない。

7:かちか◆p2:2019/01/10(木) 11:52

次の日。
昨夜は墓守に諭されて渋々ながらも夕方頃から就寝したのだが、結局は慣れないベッドのおかげでぐっすりとはいかなかった。
それでも一晩眠ったからか、上体を起こすと昨日よりは体が軽いような気がする。
「…………」
まとまらない頭でぼんやりと扉の方を見ていると、唐突にノブがひねられ、ドアが勢いよく開いた。

「おはよう!」
「…………」
なんとなくデジャヴを感じつつもなんとか相手を見上げる。その短い髪が一部だけ飛び跳ねているのを眺めつつ、不機嫌そうに唸った。
「……ノックしろよ」
「あ、そういうの気にするんだ。ごめんごめん」
へらへらと笑いながら椅子に腰掛け、昨日のように盆を机に置く。未だに溶け切っていないらしい塩か何かが沈んだ、野菜の緑が鮮やかなスープが盛り付けられている。
「はい、朝ごはんだよ。自分で食べられる?」
「馬鹿にすんな」
「あはは。それ食べながら、ちょっと聞いてくれる?」
言いながら右手を顔の横にもってくると、ぴょこんと人差し指を立てた。
もったいぶるようにポケットに手を入れ、「くーいず」と声を上げる。
ポケットから出てきたその手に握られていたのは、真っ白い棒だった。
骨喰いの肩がぴくりと反応する。
イギーは得意げな表情で、あまりにも簡単な問題を出す。
「これ、なーんだ?」
いっぽう骨喰いはといえば素早く目を逸らし、面倒くさいという意識を隠そうともせずに、半ば投げやりに呟く。
「……骨」
「そう! 骨です」
「あんでそんなもん持ってんだよ」
「昨日の夜拾ってきたに決まってるでしょ? 僕は墓守なんだから」
なぜか上機嫌ににっこりと笑い、魔法使いの杖のようにくるくると空中に円を描く。
「お前な、ふざけてんじゃ……」

不意に、彼のまとう雰囲気が変化する。目を細め、口もとは三日月のように弧を描く。

「くふふ」
それまでの無邪気なものとは違う、昏い影のある笑顔だった。
「君の、お手伝いを。しちゃった」
青白い手で骨をくるりと回し、それは骨喰いの手にあるスープ皿を指す。そこには、生々しい白色の粉末が沈んでいた。

8:かちか◆p2:2019/01/10(木) 11:52

「…………」
骨喰いはその正体を察して、不可解だというように相手を睨みつけ、黙りこくる。
自分がしていたこと、彼が今していることは決しておこなって良いことではない。場合によっては罰則をこうむることにさえなるだろう。なぜ憎むべき墓荒らしのためにそんなことをするのかが理解できない。理解ができないものは警戒すべきである。
得体の知れない墓守は、それに納得したように大きく頷く。
「だろうね」
「あぁ?」
「『どうして?』って顔をしてる」
「当たり前だろうが」
「まあね。……でもさ、僕って元々罪人みたいなものだから」
一瞬自嘲的な笑みを浮かべるが、「そんなことよりもさ」と呟いた時にはもうつい先程までの表情が戻っている。
「これで共犯だね。お互い、どちらに密告されても困るわけだ」
「……何が言いてぇんだよ」
骨喰いはこの少年を少しでも信用しかけていた己を呪った。相手の体が線が細く、その気になればいつでも殴り倒せそうな存在だったことが警戒心を緩めていたのかもしれない。
当たり前のことだ。仮にも泥棒を助けるのが純粋な善意のみによるものであるはずがない。犯罪の手伝いか、過酷な労働か。少なくともなんらかの責務を負わせるつもりなのは明白だった。
密かに利き腕の拳を握り、目で続きをさとす。
目の前の墓守は、ゆっくりと口端を釣り上げて言う──

「僕と、友達になって」

9:かちか◆46:2019/01/10(木) 21:10

「……は?」
「聞こえなかった? 僕と友達に──」
「ちょっと黙れお前」
ぎゅ、と相手の口を塞ぎ、骨喰いは考えた。
『友達』とはあの『友達』で間違いないはずだ。そんな同音異義語は聞いたことがない。
あまりにも状況に似合わない浮ついた言葉に、骨喰いは大いに動揺していた。
まずは安心させて、信頼しきったところを思い切り裏切るつもりなのかもしれない、とも考えた。しかし、自分相手にそんなことをしていたら時間と金がかかりすぎる。この少年は馬鹿では無さそうだから、今までの彼の態度を鑑みてそれは理解しているだろう。おそらく、そこまで無謀なことをするような人間ではない。
それに。
「……何? わ、分かってると思うけど、拒否権なんてないからね。君はただ『はい』って頷きさえすれば、……もう、聞いてんの!?」
まるで初恋をした少女のように赤面しながらせわしなく視線を泳がせる、この少年が嘘を吐いているとはかなり考えづらかった。
演技にも見えない、だからといって心を許す理由にはなり得ない。しかし今ここを出たとしても、今度こそ『町』の人間に完膚なきまでに叩きのめされるだけだ。
彼は結局、考えても埒が明かないと結論したようだった。

「あー……その『友達』? になれば衣食住が提供されるわけか」
「そ、そうだよ」
「……わあったよ。『友達』な」
観念したようにため息をついて呟かれた言葉に、イギーの表情が花が開くように明るくなる。
「本当!?」
「うるせえな、ただし俺の認識とお前の言う『友達』が同じとは限ら──」
「やったあぁ!」
「聞けよ!」
「これからよろしくね!!」
イギーは椅子から勢いよく腰を浮かせると骨喰いの手を取り、ぶんぶんと振りたくった。感極まっているのかやたらと力が強く、よく見ると目尻に涙さえ浮かべている。
それを向けられている当人はといえば小さく「うわぁ」と声を漏らし、迷惑そうに眉を寄せただけだったが。

彼はよく笑う方だし、この短時間でも様々な笑顔を見てきた。しかし、心から幸せそうな笑顔はこれが初めてだと、この墓守の『友達』はこっそりと思った。

10:依紗◆ac:2019/01/10(木) 23:59

かちかさんこんにちは。
題名につられて来ました。

イギーと骨喰いの掛け合いが面白いです。
世界観、哀愁があって好きです。
題名と合わせてどうなるか楽しみです。

続き、待ってます。

11:かちか◆p2:2019/01/15(火) 21:44

そんな奇妙な同棲生活が始まってからというもの、斧を持って追いかけ回した相手を『友達』などと言い出す胡散臭い墓守は、しかし思いの外協力的だった。宣言通り衣食住やその手伝いなどは全て申し分なく、時には机に本を並べて読み聞かせまでしてくるほどである。
ただ食事はさらさらとしたスープか、体の調子が良い時でも少し具材を足してとろみを出したものがせいぜいで、骨喰いに言わせれば「水みたいなもん」だった。しかし栄養があり、かつ食べやすいものになるように工夫を凝らしているのは確かだし、いつも骨喰いの隣で食事をとる彼の分のメニューを見れば、より良い食材を骨喰いの分にまわしているような気さえするのだった。

そして、ほんの少しずつ、ふたりの距離は縮まっていくことになる。

>>10
依紗さん、ありがとうございます。ちょっと更新が滞ってしまいましたが明日からはまた精進して行きますのでよろしくお願いします!


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