川上奈緒の事件簿 リターンズ <お嬢様学園のいじめ>

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1:りさ:2019/02/24(日) 16:49

***************キャスト***************
いじめられる側

・川上 奈緒(かわかみ なお)
普通の学校からお嬢様学園へ転校。
のちに罠にはめられ退学になる

・修倉 未南(しゅうくら みなん)
奈緒が転校後にできた最初の友達。
いじめによって自殺未遂に追い込まれる

いじめる側

・姫川 椿(ひめかわ つばき)
日本有数のお金持ちの一人娘。
未南の元大親友

・和田 萌奈(わだ もえな)
椿の親友。男子にモテモテ。
可愛くてお金持ちだが素行が悪い


・野村由香子(のむら ゆかこ)
姫川椿に忠誠を誓う家来のような存在。
父親は椿の会社の重役

2:りさ:2019/02/24(日) 16:53

(1)

「転校生を紹介する。川上奈緒さんだ」
担任の先生が私を紹介した。

教室の女子生徒全員が私のことを見つめる。

「よろしくお願いします!!」

元気よく挨拶した。
その瞬間。
さっきまでザワザワと、にぎやかな
教室がシーンと静まりかえった。
うわ・・・・・。やっちゃった?

クスクスクスと静かな笑い声が聞こえる。

「え・・・・・・・・」
私の挨拶に誰も反応しないので
きっと失笑されたのではないかな?

「みんな、拍手」
先生がそれをフォローするかのよう
にみんなに拍手を促した。

そうすると、まばらだがパチパチと
拍手が起こった。

あれ?
なんだか、みんな嬉しくなさそう。
もしかして歓迎されてない?
そんなの気のせいだよね……。

「川上さんは親の仕事の都合で
 転入してきました。みなさん
 仲良くしてあげてくださいね」

3:りさ:2019/02/25(月) 21:52

挨拶が終わったあと。
先生から窓際の一番後ろ
の席に座れと言われた。

隣の席には、飛切りの美少女がいた。
びっくり!
まるでアイドルみたい!
うわぁー。かわいい。
この子と友達になりたいな。

そう思い。
ホームルームが終わるとすぐに
隣の席の美少女に話しかけた。

「川上奈緒です。よろしくね」
「あ、修倉未南です。よろしく」
急に話しかけられたからか
彼女は驚いた表情を見せた。

「この学校のこと何も知らないから
 いろいろ教えてね」

私が、そう、お願いすると。

「うん、困ったことがあったら
 何でも聞いて」

未南は、やさしくほほ笑んでくれた。
まるで天使のような笑顔だ。
かわいいだけでなく性格もいい感じ。
これは絶対、友達になるべきね。

「私のこと奈緒って呼んでね。
 ねえ? 未南って呼んでもいい?」

「いいよ」

「あとで私のこと、友達に紹介してね」
「あ……。私ね、いま、一人ぼっちだから」

未南は、小さな声で
そう言って顔を伏せた。

「え……。友達いないの?」
「いたよ。親友がね。でもいろいろあってね」
尋ねられた未南は表情を曇らせた。

「そっか。それじゃあ。私達、友達にならない?」
「うん、いいよ、私なんかでよかったら」

「ありがとう、すごく嬉しいよ」
「こちらこそ。ありがとう」
未南に笑顔が戻ったのがうれしかった。

やったね。

すぐに友達ができた。

友達ができなかったらどうしよう

という不安から一気に解放され

清々(すがすが)しい気分で

新しい学校生活が始まった。

4:りさ:2019/02/26(火) 21:29

(2)

キーンコーン・カーンコーン
チャイムが鳴った。
それと同時に先生が来た。

一時限目は数学の授業だ。
先生は、いかにも数学教師って
感じがする中年の男性教師だった。

先生は出席を取ったあと
「問題出すから解いてみろ」と
いきなり黒板に問題を書き始めた。

いきなりかよ……。

「難しいが良く考えれば解けるはずだ。
お前らは選抜クラスなんだ。これくらいは
解けるようになっておけ」

そう、このクラスは二年生の成績上位者
だけを集めた選抜クラスなんだ。

私は転校する前の学校で成績トップだったから
このクラスに入ることができた。
て、今朝、校長先生が言っていた。

「解答時間は15分!」
と先生が言ったので
問題を解き始めた。

私は無言でシャーペンを走らす。
夢中になっていると15分なんて
あっという間だった。

「誰か解けたやついるか?」
先生の問いに反応する人はいなかった。

手をあげようかな?
私は恐る恐る手をあげた。
自信はないけど一応解けた。

「おっ。お前、たしか転校生だったな?
 できたか? 前に出て答え書いてみろ」

「はい!」

前に出て、黒板にスラスラと解答を書く。

「できました」
「よし、正解だ」
即行、正解って言われた。

「よく勉強しているな」
先生に褒められた。嬉しい。

とてもいい気分で、席に戻ると
隣の席の未南と目が合った。
未南は嬉しそうに、ほほ笑んでくれた。
私も同じように笑い返した。


(3)
終了のチャイムが鳴る。
一時限目が終了して休憩時間になった。
さっそく、未南に話しかけようとした時。

「あなた、スーパールーキー川上奈緒でしょ?」
「はっ、はい」

不意に誰かから声をかけられ、慌てて返事をした。

「やっぱりそうだ。テレビで見たことある。
女子の高校バスケ界じゃ、ちょっとした有名人だよね」
「有名だなんて、そんなぁ……」

そうそう。そうなんだ。
私はスーパールーキーの異名を持ってる。有名人かな?
なんか、私のこと知ってる子がクラスにいた。

「私は柄谷央弥(からたに おうみ)。私たち友達にならない?
 あっちに私の友達がいるから。あっちで一緒に話そうよ」

央弥ちゃんはショートカットでよくしゃべる活発そうな子だ。
うん。大歓迎だよ、私も友達になりたい。

「え! いいよ! 未南も一緒に行こう!」
未南に声をかけた。
「未南は来なくていいよ」
しかし、未南の返事を聞く間もなく
なぜか央弥ちゃんに拒否られた。

「なんで未南は来ちゃダメなの?」
「私、未南のこと嫌いだから」
「ええ? なんで?」
「その子いじめられてるから一緒にいない方がいいよ」
央弥ちゃんは小さな声でポツリと言った。

「はっ? いじめ? どういうこと?」
私が、そう聞き返すと
「チッ」
央弥ちゃんは急に険しい表情になり舌打ちをした。

あれ? 怒った? と思ったら……。

「はじめまして、川上さん」
私はその声に振り返る。
超美人でスタイル抜群な子に声をかけられた。
この子は誰だろう?

5:りさ:2019/02/27(水) 20:47

「私は学級委員の姫川椿です」

わっ。この子は。
クラスのリーダー的存在の子かな?
そうかもしれない。そんな雰囲気ある。

この子。顔がすごく整ってて綺麗!
めっちゃ顔ちっちゃい! 
それに細くてスタイルいい!
姫川椿は、いかにもお嬢様って感じ
がする気品に満ちた美女だった。

そこから、ひょこっと、またまた美女が現れた。

「和田萌奈でーす。椿の大親友だよ! よろしく!」
「フフッ。萌奈っていつもこうなのよ」

和田萌奈の印象は……ギャル。
まず、はっきりとした茶髪がひときわ目を引いた。
メイクはバッチリとギャルメイクだし。
それと、大きな胸と、くびれたウエスト。
すらりとした細い足。さらに超ミニの
スカートからは大胆に太ももが露出していた。

清楚な椿とは、まったく対照的な印象を受けた。

「姫川さん、和田さん、これから二人のことなんて呼べばいいかな?」
「私は普通に椿でいいわ」
「私も、萌奈でいいよん」
「フフフッ。萌奈はね、私達のムードメーカーなのよ」
イメージ通り。たしかにそんな感じがする。

「私のことは奈緒って呼んで。仲良くしてね」
「こちらこそ、よろしくね」
椿は、そう言って上品に、ほほ笑んだ。
その美しさは、まるで女優やモデルのようだった。

私って、超幸せ者じゃん!!
転校初日から。こんな可愛い子
と友達になれるなんて!!

6:りさ:2019/02/28(木) 20:38

「さぁ、そんな子、放って置いて別の場所で話しましょうよ」
「そうそう。未南の奴は相手にしなくていいよ」

だが突然。
椿と萌奈の態度が豹変した。

「ええ? なんで? みんなで、ここで話せばいいじゃん」

「ダメよ。未南と友達になっては」
「そうだよ。不幸になるよ。コイツといるとね」

椿と萌奈のひどい言葉に
一瞬、自分の耳を疑った。

なんだか、わけがわからないよ。
未南のどこがダメなの?
かわいいし、性格も良さそうなのに……。

そんなことを言われている未南は
「椿…………どうしてそんなこと言うの?」
と今にも泣き出しそうだった。

「ふん。あんたとは絶交って言ったでしょ?
 口も聞きたくないわ、話しかけないで」
椿の辛らつな言葉に、さっきまでの
よいお嬢様なイメージが一瞬で崩れ去った。

「椿……? どうしてそんなひどいこと言うの?」
私は、ちょっと咎(とが)めるように言った。

「ああ、この子はね。クラスのみんなから
 嫌われているのよ。だから、みーんなで
 無視してるの」

未南が嫌われている?
無視されている? 
どうして?

横を見ると、未南はうつむいていた。
涙を流しながら……。

7:りさ:2019/03/01(金) 20:07

「あーあ。また始まったよ。もう、うんざり。じゃあね」

央弥ちゃんは呆(あき)れた様子で、この場から離れていった。

ああ、さっきまでの幸せな気分が崩壊していく。

「私が転校してくる前。
このクラスで何があったの?」

私は椿と萌奈に聞いた。

「ね? 椿。転校生の小人ちゃんに
 何があったか、教えてあげたらー」

「そうね。教えてあげてもいいわね。
 教えてあげて、由香子」

椿が由香子と言うと、椿と萌奈の間から
小柄な女の子が現れた。

ツインテールに幼い顔立ちの女の子は
一見すると中学生と錯覚するほどだった。

「この学校のテニス部の監督だった、こいつのお父さんはね。
 電車内で中学生に痴漢して警察に捕まったんだよ」

由香子が、未南を指差しながら語気を強めて言い放った。

「え……。マジな話?」
それが、本当なら嫌悪感を持たれてもしょうがないけど……。

「未南。あなたも学校を辞めるべきじゃない?
 責任を取りなさい! そうでしょ? みなさん!」
と椿が言うと、教室にいた生徒から
一斉に未南を非難する罵声が飛び交った。

「椿さんの言う通りよ」
「犯罪者の娘は学校に来るなぁー」
「学園の恥だわ!」
「あんたなんか、この学校に通う資格ないよ」

「お父さんはそんなことしていません……」
未南は消え入りそうな声でそう言った。

それでも、その言葉はしっかりと椿の耳に入った。
「は? あんた今、何て言った?
 嘘つき。あなたのお父さん、まだ
 警察から帰ってきてないじゃない」

「お父さんは間違えて逮捕されたの。
 犯人は絶対にお父さんじゃない!」

「もしかして、犯行を否定するわけ??」
由香子が、そう聞くと
たちまち、あちこちから
未南を非難する声が上がった。

「でも、痴漢したって言う目撃証言もちゃんとあるのよ?」
由香子が、さらに未南を問い詰める。

大勢のクラスメートが一人の生徒を責める。
教室は異様な空気に包まれていた。
ダメだ!
このまま傍観者になってはいけない!
止めなければ……。

8:りさ:2019/03/02(土) 08:19

「待った!!」

私が、そう大声で叫ぶと
騒がしかった教室が
静かになった。

「ちょっと、やり過ぎなんじゃないの?
お父さんのことで傷ついている未南を
全員で責めるなんて、どうかしてるわ。
こういうときは、クラスメート全員で助けて
あげるべきじゃない?」

「ハァ? あなたは偽善者だわ」

椿は呆(あき)れた様子で首を左右に振った。

「私達にとって痴漢とかの性犯罪は
最も卑劣で最低な行為よ。だから
非難されるのは当然のことじゃない」

「それは違うわ。確かに痴漢は許せない。
 でも罪を犯したのは未南じゃない。
 こんな風に集団で無視をしたり
 悪口を言うのは、人を深く傷つける
 卑怯な行為だわ」

9:りさ:2019/03/03(日) 07:27

「今日、来たばかりの転校生のくせに。
 私の意見に反論するなんて生意気よ」

椿は不愉快そうな顔をする。

「この学校は地位が上の人に逆らってはダメなの!
 もし逆らったとしたら、いろんなきつくて
 辛い罰が下されるのよ。覚えておきなさい!」

椿は私を、にらみつけた。

「……?」

「ねぇ、奈緒。今の私とあなたは
 どのくらい地位が違うのかしら?
 会社だったら私は社長、あなたは
 今日、会社に入ってきた新入社員
 じゃないかしら?」


「私が新入社員っていうたとえは分かるけど
 あなたが社長っていうのは納得がいかない。
 だって同じ学年の生徒じゃない?」

「言ったそばから、また反論?
 素直にハイと言えないのかしら?
 私はね。至極特別な存在なのよ。
 普通の生徒と一緒にしないで。
 いいわ、教えてあげる。
 由香子! 私がどんな存在か
 この子に説明しなさい」


由香子が、すかさず「ハイ」と
歯切れの良い返事をした。

「ええい! 頭(ず)か高い。
 この方をどなたと心得る!
 日本有数の巨大企業である
 姫川グループ社長の御令嬢で
 あらせられるぞ!」

由香子は誇らしげに語った。

「…………?」
「驚いて、声も出ないみたいね。ハハハッ」
椿の、せせら笑いが教室に響く。

「……えっ。あの有名な企業のヒメカワ?」
「そうよ。超が付くほど有名のね」

「マジで? すごっ」
「お父様の年収は、十数億円で総資産は数千億円と
 言われているわ。一人娘の私はその跡取りで
 将来は日本の経済界の頂点に立つ存在よ」

なんだかすごい。
この人は本物のお嬢様なんだ。
目の前にいる椿が、よりいっそう
美しく高貴な人に見えた。

10:里奈:2019/03/04(月) 20:27

「すごい、すごい。美しい上に、お金持ちだなんて」

本音を言うと。正直、うらやましいや。
私なんて、見た目も、生活も普通なんだもん。

「フフ、私がどういう人間がわかってもらえた?
 これを聞いたら友達になりたくなったでしょ?」

「え……ああ、うん」
私は戸惑い気味に答えた。

「そう。それでいいのよ。仲間に入れてあげるわ」
「あっ。でも私、未南とも友達になってて……」

「あのね。そんなの破棄しなさい。いますぐ」
「…………はぁ」

ど……どうしよう?
ハイなんて言えない。
でも反論したらまたキレるかも……。

「これはあなたにとって、大変重要な選択よ。
 奈緒の今後の学校生活を大きく左右するわ。
 私と友達になってバラ色の道を進むか
 未南と友達になってイバラの道を進むか
 ここが天国と地獄の分かれ道よ」

「…………?」

未南と友達になることが地獄だなんて思わない。

むしろ、ここで未南を無視したり、みんなと
一緒になって非難したら一生後悔するだろう。

「簡単な選択肢じゃね? 迷う必要がどこにあんの?
 未南なんて無視して私達と友達になればいいだけじゃん」

萌奈がギャルっぽい言葉使いで口をはさんだ。

「で、……でも、無視するのよくないと思う」

「こんな奴、無視すればいいんだよ! キャハッハ」

突然。萌奈が、そう言ったあとで
平手で未南の頭を力いっぱい叩いた。
頭をパーンって叩く音が、ハッキリと聞こえた。
未南は叩かれたのに硬直したまま微動だにしない。
なんで怒ったりしないの未南???

私はマジでキレそうだよ。
いや…………。
我慢できねえ。
マジギレしなきゃ友達じゃねーだろう!

11:里奈:2019/03/05(火) 20:17

「やめなさいよ!!」
私は思いっ切り机を叩くと
同時に立ち上がった。
椿たちとクラスメイトの
視線が一斉に私へ集中する。

「未南を傷つけるのは、友達の私が許さない!」
そう言い、萌奈をにらみ付けた。

「椿―――!こいつ、私達に逆らう気だよ!どうする?」
萌奈が椿に、すがるように言う。

「まあ、いいわ。今日のところは大目に
 見てあげましょう。転校生だからね。
 でも、一つだけ忠告しておくわ……・。
 私を本当に怒らせた者は、この学校から
 居なくなるってことをね。覚えておきなさい」

は……? 居なくなる? どういうこと……?
椿が言ってることの意味がわからなかった。

「もう行きましょう」
椿は、そう言うとクルリと反転して歩き出した。

「馬鹿な奴! せっかく椿が友達になってやるって言ってんのに!」
萌奈は吐き捨てるように言ってから椿のあとを追った。

「しつれいします」
由香子は丁寧に頭を下げると教室を出る二人のあとを早歩きで追った。

ああ、なんかショックだった。
いろいろあって、私も傷ついたなぁ。
自分のことより……いまは。

「未南、大丈夫??」
心配になり声をかけた。

「大丈夫だよ……ごめんね……」
「謝らなくていいよ。悪いのは未南じゃないから」
「でも……みんな……私が悪いって……」

泣きながら途切れ途切れに
話す未南を見ていると。

なんとしても、この子を
守ってあげなければという
気持ちが込上げてきた。

「私は未南の味方だよ。なにがあってもね。
 もう誰も未南を、これ以上、傷つけたり
 しないように、私が守ってあげる。だから
 もう泣かないで」

私は必死に思いを伝えた。
未南はハンカチで涙を拭いた後
無理やり笑顔を作った。

「ありがとう。奈緒は本当に優しいね」
「当然だよ!このくらい」

ありがとうって感謝してもらえたら
なんだか心が暖かくなって嬉しくなる。

小さい頃に亡くなったお母さんも言ってたなぁ。

お母さんが好きな言葉は、ありがとうかな……って
お母さん。私もそうだよ。ありがとうって言葉が好きだよ。
私は小さい頃のことを思い出していた。

12:里奈:2019/03/06(水) 19:40

(4)
おなかは鳴る。
恥ずかしくなるほど大きな音
で教室に鳴り響いてしまった。

四時限目が終了するまで。
あと数分。
耐えてくれ!
私の胃よ!
再び鳴ったら恥ずかしいじゃないか!

どうして おなかが へるのかな
おやつを たべないと へるのかな
いくら たべても へるもんな
かあちゃん かあちゃん 
おなかと せなかが くっつくぞ

キーンコーン・カーンコーン
こんな歌を歌っているとチャイムが鳴った。

はー,お昼だ。
なんとか、おなか鳴らなかったよ。

「ねえ? 奈緒は食堂でお昼、食べるの?」
未南が私に声をかけた。

「うん」
「じゃー。一緒に食堂行こう」

未南に誘われ食堂に行くことにした。
場所もわかんなかったから、ありがたい。


私と未南は教室を出て
食堂に向って歩き出した。

「だれかと一緒に昼御飯食べるの久しぶり
 奈緒と友達になれて良かった」
未南は嬉しそうに言った。

そうだった。
未南は一人ぼっちって言っていた。

でも友達って誰なんだろう?
仲直りできるなら、させてあげたい。

「未南の友達って誰だったの?」

名前を聞いても分からないかもしれないが
思い切って聞いてみた。

「椿だよ」

「椿って姫川椿?」

「そうだよ。椿は私の親友だった」

ここで予想外の名前が出てきた。
あの姫川椿が未南の親友とは驚いた!

未南の話によれば、椿と未南の両親が友達で
未南と椿は赤ちゃんの頃から友達だったようだ。

また、野村由香子は幼稚園からの友達で
和田萌奈は中学からの友達だと言う。

先ほど、未南に向って、あんなひどいことを言った
人たちが友達とは意外だった。

ところで、未南が一人ぼっちになった原因は
あの痴漢事件なのかな?

それを聞く前に食堂についてしまったので
また、あとで聞くことにした。

13:里奈:2019/03/07(木) 20:16

(5)
ここが高校の食堂?
すごく豪華で、だだ広い。ここは
まるでリゾートホテルのレストランだった。

ここらへん、さすが名門お嬢様学園って感じがした。

さらに中に入ってビックリした。
ホテル並みのクオリティーの
バイキング形式になっている。

ハイテンションで浮かれながら
お皿にたくさん料理を盛ったあと。
二人で空いているテーブルに着き
しばし料理を堪能した。

しばらくして。
先ほどの話の続きを切り出した。

「さっきの話、途中だったけど
 椿たちと何があったの?」

未南は暗い表情を見せ黙ってしまった。

言いにくいことなのかな?
絶交されるほどの理由ってなんだろう?
やっぱり気になるなぁ。

「私と椿、萌奈と由香子はね」
しばらく沈黙が続いたあと
未南は口を開いた。

「中学の頃からテニス部で同じだったの。
 みんな仲が良かったわ。でもね
 私のせいで今はこんな風に」

「やっぱり原因は、痴漢事件?」
「違う、テニス部のいじめだよ」

「いじめ?」
「テニス部は先輩によるいじめが慣例化してて
 1年生の頃、私も椿もいじめを受けていたんだ。
 でもね、2年生になると、先輩に強要されて
 私達も1年生をいじめることになったの。
 テニス部内では、かわいがりって言うんだけど
 実質、いじめと変わらないものだった」

「未南もしてたの?」

「私は、断固拒否していた。いじめは絶対にダメだと思っていたからね。
 でも椿達は楽しんで後輩をいじめていたような気がする。練習を口実にね。
 みんなにやめようって言ったら、先生に告げ口をするなって言われた。
 ねえ奈緒?私のお父さんが、テニス部の監督だったこと知っている?」

「うん、由香子が言ってた」

「新学期から、お父さんが、この学校に転任して来て
 テニス部の顧問になったの。そのとき、いじめのこと
 相談するチャンスだと思ったんだ。お父さんが
 どうにかしてくれると思って。でも私のお父さん厳しくて
 いじめをした全員を退部処分にしちゃったの。
 椿や萌奈は、かつては自分達も、いじめの被害者だったと
 お父さんに訴えたらしいけどお父さんは聞き入れなかったわ」

「絶交されたのは、その逆恨み?」

「そうだと思う、突然もう私は友達じゃないって言われた」

そうか……・そんな理由があったのか。
未南は悪くない!
勇気を持っていじめを止めようとしたんだ。
友達として、その勇気に心から敬意を表する!

14:里奈:2019/03/08(金) 20:12

(6)
食べ放題だから、ついつい。
「食べ過ぎちゃったよ」
「次の授業、体育だよ、そんなに食べて大丈夫?」

未南に言われて、ハッとした。
そうだった、次は体育、しかもバスケット。
ほどほどにしないと…体調悪くなりそう。

でも皿には、さっき取ってきたばかりの
ケーキが、まだ乗っている。
ええい、甘いものは別腹だ! 食べちゃえ。

思う存分、バイキングを楽しみ、私は昼食を食べ終えた。
食後は。
未南と一緒に、食堂から教室に戻り
体操服を持って更衣室へ向かった。

「次、バスケだよね? バスケ得意なんだ。
 実は、私、バスケで全国大会に出たことあるんだ」

私は、ちょっと自慢げに話した。

「私もあるよ。うちのテニス部はね。毎年
 全国大会に出場するような強豪校だったの。
 椿や萌奈もレギュラーで、もしいじめが発覚
 しなければ、今年のインターハイにも出場
 してたかもしれない」

へえー。未南もあるんだ。
まぁ、私は準優勝したんだけど自慢していると
思われるかもしれないから、今は黙っておこう。
それにしても。あの椿たちが全国大会に出場
するような選手だったとは、意外だった。

(7)
私達はいろいろ話しながら廊下を歩き
やがて女子更衣室に着いた。

女子更衣室に入った瞬間。
女子特有の甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった

初めて入った更衣室の中を興味深げに見回す。
第一印象は広いって思った。
ロッカールームはたくさんあって、鍵が付いていなかった。
ドレッサーは贅沢にも20台ほど。
ドライヤーや扇風機もある。
さらに、奥にはシャワールームがあった。
設備、充実。

「ここで着替えようか」
「うん」
未南に言われたとおり、ここで着替えることにした。
すると、奥の方から

「転校生、生意気だよね! 椿さんに逆らうなんて」
「それが、どんなに無礼なことか分からせてあげないとね」

なにやら悪口っぽいことが聞こえてきた。

「どうする?あたしたちでやっちゃう?やって欲しい?」
「やって欲しいでーす」
「でも椿さんの許可がないとねー。勝手には動けないよ」

15:里奈:2019/03/09(土) 21:41

物騒な話をしていた。
話の内容からして私のこと?
って思ったら怖くなった。

「うん、転校生には手を出すなって言われた」
「転校生より、やってやらなきゃならない奴、いるよね」
「うん。あいつ、うちらで、こらしめてやろう」
「賛成。そうしよう」

話してるの誰だろう? クラスメート? 
椿たちじゃないと思うけど。まだまだ
クラスの子って、よくわからないや。

私は聞き耳を立てながら、体操服に着替えた。
「行こうか?」
着替え終わった未南が私に声をかけた。

「そうだね」
未南にも、あの会話が聞こえていただろう。
だが、そのことについては何も言わなかった。
だから、私もその話題には触れないことにした。

私達は一緒に更衣室を出て
更衣室から目と鼻の先にある
体育館へと足を踏み入れた。

クラスメートの女子生徒が、所々に
グループを作って固まっていた。

特に入れるグループもないので、未南と
他愛ない話をして授業の開始を待った。

やがて体育館にチャイムが鳴り響いた。

(8)
授業の冒頭、チーム分けをすることになった。

「チームのキャプテンを決める。
 バスケ経験者いるか? 
 いたら手をあげろ!」

男性教諭が私達に聞いてきた。

別にキャプテンをやりたいわけではない。
と思いつつ、私は右手をあげた。

もう一人,手を挙げたのは央弥ちゃん。
この子、バスケ部だったのか……。
それで私のこと知ってたんだ。

「二人か? 柄谷と、お前ダレだ?」

「川上奈緒です」

「川上? 例の転校生か? 俺はバスケ部監督の星野だ。
 お前には期待しているからな。早く部活に参加しに来い」

この人、監督だったのか?
なんか怖そうな人だなぁ。

このあと八名のキャプテンが決まった。
「残りのメンバーは、自分達で決めていい」
キャプテンの私達に星野先生が言った。

私は一瞬、動揺する。自分で選べと
言われても今日、転校したばかりで
あまり知ってる子いないし。
困ったなぁ。

16:里奈:2019/03/10(日) 07:05

私が最初に声をかけたのは未南だった。
クラスで唯一、友達と呼べる存在。
予想通り二つ返事で応じてくれた。

最初のメンバーはすんなり決まったものの。
そのあとのメンバー集めには苦戦する。
何人か誘っても、すべて断られた。

私が途方に暮れていると
「こっち、人数が余ってるんだけど?」
そう声をかけてくれたのは央弥ちゃんだった。

「こっち、足りてないから誰か入って」
都合がいい、渡りに船というものだ。

これですんなりメンバーが決まると思いきや
みんな険悪な表情になっている。

「誰がいく?」
「私は、やだ。あなた行けば?」

みんな、いやがってる。
な、なんでだろ?
私、そんなに嫌われているのかな?

「なにしてるの? 早くしなさいよ」
じれったいのか、央弥ちゃんが少しキレてる。

「未南と一緒になりたくない……」
ボソッと誰かが言ったのが聞こえた。

その瞬間、なんでこのチームに入りたくないか
わかった気がした。

未南に対して、またそんなことを……。

怒りを、ぐっとこらえて沈黙していると。

「はぁ? 何を言ってるの? いったい
 この子が何をしたって言うの?」

周りの態度に央弥ちゃんが憤慨した。

「ねえ、知ってるでしょ? あの話」
「ああ、アレでしょ? ……きもいよね……」
「先生が痴漢とか最悪じゃない?」
「マジありえないよね」

皆、未南の父親を軽蔑するような態度を見せた。

「いいかげんにしないさいよ! 
 こんなのただの、いじめじゃない
 おかしいよ、あんた達がやってること!」

央弥ちゃんが激怒する。
央弥ちゃんはクラスの中で唯一
いじめに反対してくれる生徒だった。

17:りな:2019/03/11(月) 20:03

(9)
央弥ちゃんの一喝で、なんとかメンバーが決まり
バスケの試合が始まった。

だが、未南の悲劇は、これで終わらなかった。
バスケの試合中、足を引っ掛けられ転ばされたり
勢いよく突き飛ばされたりした。

しまいには、ボールを顔面にぶつけられ
コート上に倒れてしまうのだった。
「痛い、痛い、痛い」
痛そうに顔面を抑えて、うずくまる未南。

「なにしてんのよ! こんなプレー許されるわけないでしょ!」

マジギレ発動!

「わりぃ、わりぃ、手元が狂った」 
わざとやったのでは? と詰め寄ると
相手チームのメンバー達は、しらばっくれた。

ぶつけたのは、茶髪のヤンキー女だった。
「わざとぶつけたでしょ?」
彼女に詰め寄った。

「ちげえよ」
ぶつけた子の声、さっき更衣室で
しゃべっていた子の声じゃない?
こういう意味だったのか?
そうだとしたら許せない!

「あんた、他にも、足引っかけたり
ぶつかったりしたよね。あんたの
プレーは退場ものの悪質プレーだ!」

「あんだよー。うるせえなぁ。いいがかり付けんなよ」
一触即発の険悪ムードとなった。

「おい、どうした? なに揉めてんだ? おい。
ケガしてんじゃねーか! 大丈夫か?」
星野先生の声で我に返った。

未南を見ると、鼻から微小の出血があった。
鼻血だ。
「顔面にボールが当たったんです」
星野先生に報告する。
「おい、誰か保健室に連れてってやれ!」
「私が行きます。行こう未南」

私はこの時、未南が、みんなから日常的に
いじめられているのではないかと感じていた。

18:りな:2019/03/12(火) 21:02

(10)
未南は保健室で鼻血の処置を終えた。その後。
軽い頭痛があるため、ベッドで休むことになった。

「大丈夫、吐き気とかない? 頭痛ひどくなってない?」
私は横になって寝ている未南に尋ねた。

「平気……心配かけてゴメンね」
「ホント、災難だったね」

「最近、ツイてないなぁ。次々に不幸な目に遭う。
 なんか、なんでこんな風になっちゃうんだろう」 

未南は流れ落ちた涙を右手でぬぐった。

「辛かったね。でも未南は、なにも悪くないよ」
「そうかなぁ? 悪い方、悪い方に考えちゃう」

「思いつめすぎないで!」
「最近、すごく気分が落ち込むの。
 それにね。毎日、夜、眠れなくて……。
 ほんとうに辛くて辛くて。もう死にたい……」

ええー! 死? 死にたいって?
それを聞いた私は激しく動揺した。

「死んじゃあダメ!」
焦った私は、そう声をかけた。

「ごめん、思わず変なこと口走っちゃった。
 別に自殺しようとか考えてないからね」

辛いとき、思わず死にたいとかって
思うことは、あったりするかもだけど。
今の未南、なんか心配、すごく心配。
なんとかしてあげたいなぁ。

19:りな:2019/03/13(水) 20:56

(11)
この日、最後の授業は英語だった。

春のうららの教室。
体育の授業のあと。
ゆえに睡魔が襲ってくる。

とっ。思っていると、スーピースーピー。
あれれ。どこかから寝息の音が聞こえる。

隣を見ると、未南が突っ伏して寝ていた。
はっ! やばっ! まさか顔面にボールが
当たった影響で脳にダメージでもあったのか?
ちゃう。
ちゃうちゃう。夜、眠れないって言ってたやん!
あかん。先生にバレたら怒られるっしょっ。

「未南、起きて」
私は小さな声でささやいた。
しかし、未南は目を覚まさなかった。

「起きて。ねえ、起きて」
と言いながら肩を揺らしても未南は目を覚まさない。

「修倉、居眠りか? 起きろ!」
ゲッ、いつの間にか先生が目の前にいた。

「はっ、はい。すみませんでした」
急に大声がして未南はびっくりし目を覚ました。

「学年トップのお前が居眠りしてどうする?
 夜遅くまで勉強でもしていたか? 勉強
 熱心なのはいいが、俺の授業もちゃんと
 聞いてくれよ」

「はい、いえ、最近、寝不足で……」

「まぁ、いい。教科書の26ページ。
 最初から読んでみろ」

先生に、そう言われると立ち上がり
英文を読み始めた。未南はスラスラと
ネイティブな発音で読み上げていく。
うわっ。なんか先生よりも,うまいや。
学年トップだって言うし,才色兼備やん。

(12)
この日の放課後。

教室で未南と談笑したあと。
二人で下校することになった。

未南は電車通学をしていた。
他の、お嬢様みたいに高級車で
送迎ってわけではないようだ。

一階の下駄箱へ着く。

上履きを脱いで自分の下駄箱へしまい。
通学用のバスケットシューズに履き替えた。

そのあとで、後ろを振り返ると
未南は、まだ下駄箱の前にいた。
しかも、なんだか様子がおかしい。

少し心配になってきて……。
私は未南に声をかけた。
「どうしたの?」
「クツがないの……」

未南は涙声だった。

私は、思わず「えっ?」となって
未南の所へ駆け寄った。

20:りな:2019/03/14(木) 20:24

修倉未南ってシールが貼ってある下駄箱を
覗き込むと、確かにクツが無かった。

「朝、ここにしまったのに、ないの……」
「それは大変だ。一緒に捜(さが)そう」

「うん……」
「掃除の時、どこか別の場所に移動
 したのかも? どんなクツ?」

「黒色のローファーだよ」
「黒のローファーだね。サイズは?」

「36。日本の23だよ」
「メーカーは?」

「グッチ」
「グッチって、あの高級ブランドのグッチだよね?」
「うん、そうだよ。おばあちゃんが買ってくれたの。
 ビットローファーって言って靴に金具が付いてる」

通学用のクツがグッチなんて
さすがはお金持ちって感じだ。
でもグッチってことで捜しやすくなった。

未南と共に下駄箱の中や、その上
周辺も、くまなく捜した。

しかし、簡単には見つからなかった。

「別の場所も捜してみる」
未南がふいに言った。

もし誰かがクツを隠したとしたら
みつけるのは困難を極める。
ましてや、盗まれでもしていたら
まず発見できないだろう。

しばらくして、未南は下駄箱から
ちょっと遠くにあるゴミ箱の中を
捜し始めた。

まさか?
あの中にあるわけないよね……。
そう思った。

「あったよ!」

未南が声を上げた。
その手には、黒のローファーがあった。

あわてて未南の所に駆け寄る。
「見つかって良かったね」
「誰かに捨てられちゃったのかな……」

泣くのを我慢していたのか、未南の目から
涙がとめどなく、あふれてきていた。

ひどい! ひどすぎるよ!
誰が、こんなことを……。
もし……これがいじめだとしたら……。
そう考えれば考えるほど腹が立ってくる。

未南…………。

このいじめは、私が必ず解決してみせる!
川上奈緒の名にかけて!

私は、強い意志を持った。
それは、いじめから絶対に未南を
守るという意志を持ったのだった。

21:りな:2019/03/15(金) 20:23

(13)
この日の夜。
自宅でお父さんと夕食をとっている時。

「友達が、いじめられているみたい」

私は、いじめのことを相談することにした。

「いじめ? その子は何をされたんだ?」
お父さんが食べる手を止め、私に聞いた。

「親友に絶交されたり、みんなから無視されたりしてた。
 下校の時は、クツをゴミ箱に捨てられて可哀想だった」

「それは大変だ。奈緒が助けてあげなさい。
 その子はすごく辛い思いをしているはずだ」

「うん。そのつもり」

「先生にも協力してもらった方がいい。
 きっと力になってくれるだろう。それで。
 誰がいじめをしているのか分かっているのか?」

「まだよくわからない。今はクラスのほとんどって感じ。
 その子のお父さんが痴漢で捕まったみたいで……」

「痴漢? たとえ、どんな理由があったとしても
 いじめは絶対にしては、いけないものなんだ。
 すぐにやめさせるべきだ」

「そうだよね。私もそう思う」

「いじめは早急に解決した方がいいよ。
 不登校や自殺の原因にもなりかねない。
 新聞やニュースでよく目にするだろ?
 いま大きな社会問題になっているんだ。
 お父さんも協力するから何でも相談しなさい」

心強い味方を得た。
お父さんに相談して少しだけ心が軽くなった。

22:りな:2019/03/16(土) 07:54

(14)
食事を終えて部屋に戻ると。
ネットで調べ物をするため
すぐにパソコンのスイッチを入れた。

未南のお父さんが痴漢で捕まった。
それは、本当なのか? と思い。

事件を調べるため、修倉、痴漢と入力した。
そしたら検索結果に記事が出てきた。

5月。
電車内で女子中学生の体を触ったとして
迷惑防止条例違反の現行犯で
高校教諭 修倉大造容疑者(43)を逮捕した。
何もしていないと容疑を否認しているという。

「ハァー」
事実を知ってしまい……。
ショックのあまり、大きなため息が出た。

痴漢で捕まったのは事実だったのか?
誤認逮捕の可能性が、まだあるものの
仮に痴漢が事実だとしたら、ものすごい
嫌悪感がわいてくるのも、わからなくもない。
クラスメイトが未南をいじめる理由は
この事件が原因であることは間違いない。

次に、修倉未南、テニスと検索した。
テニス部は全国大会に出場するような
強豪校だったって未南が言っていた。

「あった。あった。」
サイトには、未南が一年生のときに
全国大会で優勝したと書かれていた。

「優勝かぁ。すごいなぁ」
私は思わず感嘆の声を出してしまった。

団体戦には姫川椿と和田萌奈の名前もあった。

テニスのことを色々調べたあと。
姫川グループのことやセントマリア女学園の
ことを、ちょっと調べてパソコンの電源を切った。

あとは一学期の中間試験も近いので
寝るまでの間、勉強に励むのであった。

23:りな:2019/03/17(日) 00:06

(15)
新しい朝を迎えた。
朝食を終え、真新しい制服に袖を通す。
「いってきまーす!」
リビングに居たお父さんに
大きな声で挨拶して家を出た。

外に出ると、小雨が降っていた。
私は傘を広げ、徒歩で学校へ向かった。

自分が住んでるマンションの敷地を出ると
道路をはさんだ向かいには豪邸があった。
ここらは高級住宅街。道中
行く先々に豪邸が立ち並んでいた。

みんなお金持ちなんだろうな……。
ふと、そんなことを思った。

二年生になって一ヶ月が経った。
転校は急な出来事だった。

最初はお父さんだけが引っ越したのだが
食生活や家事が、崩壊しまくっていたため
遅れて前の学校から転校してきたのだった。

ここに引っ越してきた理由は
弁護士のお父さんがタレントとして
こっちのテレビに出演するから。
もう一つは弁護士事務所を開業
するためだった。

お父さんが、この町を選んだ理由は
お金持ちが、たくさん住んでるとこで
開業したいっていうのが本音かな……。

そんなことを考えながら歩くこと数分
立派な門構えの学校正門に到着した。
右側の門柱には、石製の看板で
セントマリア女学園と書いてある。

このまま正門を抜けると
高級車が列を成していた。

車の後部座席から降りてきたのは
この学校の女子生徒だった。

昨日の帰りも随分、迎えの車が来てたなぁ。
高級車で送り迎えって、さすがはお嬢様学園だね。
その子たちが、ちょっぴり、うらやましかった。

24:りな:2019/03/18(月) 00:07

(16)
教室に入ると生徒の姿は少なく。 
まだ半数以下しかいなかった。

入口近くのクラスメイトに
「おはよう!」
と声をかけるも

「……」
その子から返事はなかった。

あれれ?
無視されているのかな?
少し落ち込むも、まあいいやと
なかば開き直り、自分の席に向かった。

隣の席に、まだ未南の姿はなかった。
「なにこれ?」
未南の机に違和感を覚え
思わず、つぶやいてしまった。

「ひどい……」
私の目が、まるで信じられないものを
見るようにカッと見開いた。

誰がこんなことを……。
未南の机には、チョークで落書きがしてあった。

心身を切り裂く、まるで凶器のように、文字が躍る。
早く辞めてください、ちかん、変態教師、即退学しろ!
被害者に謝れ、きもい、学校に来るな……など。
机には誹謗中傷する言葉が、ビッシリ書かれていた。
未南が見たら、どれも傷つく言葉の数々だった。

25:りな:2019/03/19(火) 00:12

「早く消さないと……」
雑巾(ぞうきん)で消そう。
そう思ったとき。

「おはよー」
背後から声をかけられ
身体がビクンと跳ねた。
しまった!
消す前に未南が来てしまった。

「おはよう。大変だよ。机に落書きされてるよ」
「本当だ。誰がこんな、いたずらするんだろうね」

未南は、怒ったり泣いたりせず、なぜか笑顔だった。

「先生が来たら言おうよ。これ。ひどすぎるよ」
「先生に言わなくてもいいよ。このくらい平気だから」

未南は、そう言って、右手でチョークの
落書きを全部、消してしまった。

「絶対、先生に言わないでね」
さらに念を押された。

え……?
なんで?
先生に言った方がいいのに……。

いじめは一人で悩まず。
誰かに相談した方がいいよ……未南。

(17)
終業のチャイムが鳴る。
三時限目が終了して休憩時間になった。

しばらく未南と会話をしていたら。

野村由香子が、こっちに向かって、歩いてきた。

「椿が、話があると言っている。
 だから、奈緒。一緒に来てほしい」

突然の申し出に、ちょっとビックリ。
いいけど、話って何?
椿のところに行くあいだ。
胸のドキドキが止まらない。
トイレとか誰もいない教室に連れていかれて
リンチとか? って、そんなぁ? まさかね。
あるわけないしょっ。漫画やドラマじゃあるまいし。

26:りな:2019/03/19(火) 20:59

でもリンチはイヤ。ぜっ、た、い、イヤだ 
もし、そうなら全力ダッシュで逃げよう……。

結局、取り越し苦労した。
行き先は、椿の席だった。

「来てくれて、ありがとう」
椿は私の到着を喜んでくれた。

「あなたにあげたいものがあるの」

椿の右手には、青い小箱があった。
いや、青と言うより空色。スカイブルーに
ホワイトリボンが結んである箱だった。

何かと思い、差し出された箱を受け取った。

「開けてごらん」
椿が優しい声で言った。
椿に言われた通りにして、リボンをほどくと
箱の上には英語でティファニーと書いてあった。

「椿、これは?」
「私から、あなたへの転入祝いよ」

「こんな高価な物、もらえないよ」
「遠慮しないで、ぜんぜん安物だから」

安物? でもコレ、ティファニーだよ?
5千円とか1万円くらいのもあるのかな?

箱を開けると、きらきらと輝くゴールドのペンダントが入っていた。

ヤバッ! これ何万すんの? 
いくらするか想像もつかないや!

「椿? やっぱ、こんな高価なもの、困るよ」
私は返すつもりで、椿に箱ごと差し出した。
椿はそれを受け取ると。
箱からペンダントを取り出した。

「私が、つけてあげるわ」
椿は、そう言って。
吐息を感じるくらいまで私に大接近してくる。
椿ってば、超美人で、女の私でも、ドキドキしちゃう。

「似合っているじゃない、とても素敵よ」

首につけられてしまうと、もう返すとは言えなかった。
困惑しながらも、高価なペンダントをもらってしまった。
椿って案外、いい人なんだね。リンチされるかも,とか
被害妄想していた自分を全力で恥じた。

27:りな:2019/03/20(水) 22:00

(18)
昼休み終了まで、あと五分。
私と未南は食堂から教室に戻った。
私たちが席に着いて、まもなく。

突然……。
「きゃっ」
未南がハズキ・ルーペをお尻で
つぶした時の様な声を上げた。

どうしたんだろう?
視線をやると。
未南は顔を真っ赤にして
恥ずかしそうにしている。

「どうしたの?」
「変なものが机の中に入っている……」
「変なもの? 何?」

私は未南を見て首をかしげた。
むむ、まさか? 
またイタズラされたのかな?
虫とか? 虫とか大嫌い! マジ怖いよ!

未南は、ゆっくり、それを取り出した。
「こんなものが机の中に……」
虫じゃない。なんと!未南が遠慮がちに
取り出したのは痴漢もののDVDの箱だった。
パッケージの表には女子高生姿の女性が見えた。

「ええ? なんでこんな物が入っているの?」

未南は顔を赤らめ、小さく首をふった。
「私の物じゃないよ。 ホントだよ」
そう言った未南は、耳まで真っ赤だ。

「わかっているよ。いったい誰が
 こんな悪質な、いたずらを!」
「これ、どうしよう?」
未南は、めちゃくちゃ困っている。

「いいよ。私に、ちょうだい。私が捨ててきてあげる」
私は未南からDVDの箱を受け取った。
「捨ててくるね」
本当にヒドイいたずらだ。怒りプンプン。こんなもの
教室の後ろにあるゴミ箱に捨ててきてやったわ!

28:りな:2019/03/21(木) 21:47

それから間もなく。

「だーれ? こんなの捨てたの?」
「たぶん、あいつじゃね?」
「まぁ、いやらしい」

ゴミ箱の周辺で話をしている女子生徒の
声が、こっちまで聞こえてきた。
私は彼女たちの話に聞き耳を立てた。

「コレさぁー。修倉先生の所持品じゃない?
 警察にバレたらヤバいんで証拠隠滅とか?」
「ああ! そうかもね! 大事な証拠品! 発見!」
「はぁ? ヤバイからって学校で処分すんじゃねーよ」
「ねえねえ。コイツ。持ち主に返しにいこう!」

大声で話をしている女子生徒の声が
教室中に響いて、ハッキリ聞こえた。

たった今、私が捨てたDVDケースを持って
そいつらが未南の目の前までやってきた。

その子たちは地味であんまり目立たない外見の
地味子ちゃん 三人組だった。

お嬢様が聞いてあきれる、品のない言葉使い
だったけど。とてもあんなこと言わない様な
真面目な子たちに私の目には映(うつ)った。

29:りな:2019/03/22(金) 23:08

「これ、あんたのでしょ?」
眼鏡をかけた子が、厳しい口調で聞いたと同時に。
未南の机にDVDケースを叩きつけた。

未南は首を大きく振った。
「私のじゃない」
未南の声は少し涙声だった。

「本当に? 痴漢の証拠。処分したんじゃないの?」
「違うよ」
未南は泣きそうになっている。

「フッ。私、わかっちゃったわ。私の推理では…………」

おいおい、眼鏡の子。
名探偵、いや、迷探偵みたくなってきたぞ。
それでも彼女は得意げになっている。

「あなたの家に今朝、捜査のために,警察がやってきた。
 それで修倉家は大パニックよ。あなたはお父さんの部屋で
 事件の証拠となる、このDVDを偶然みつけてしまったのね。
 それであなたは、これを通学カバンに隠し持って学校に
 きたってわけね。大事な証拠品を処分するために……」

毛利、小五郎のおじさんレベルの推理じゃん!

「朝、警察なんて来てないし、私の家に、こんな物ありません」

未南は全面的に否定した。  

30:くらん◆bY:2019/03/23(土) 10:02

実は、最初の方から見てたもので、すごい面白いな、と思ってました。
今更コメントしたのは、眼鏡の子の推理が面白かったからです。
迷惑だったらすみません。

31:りな:2019/03/25(月) 21:14

(18-続き)

「ふーん。違うの? いい推理だと思ったのにさ。
 それじゃあさぁ! この、いやらしいDVD!
 あんたのお父さんに差し入れしてあげたら? 
 先生、大喜びするんじゃない? ハハハっ!」

眼鏡の子が、そう言うと。
地味子の三人は大声で笑った。

く、くやしい……。
友達が侮辱(ぶじょく)されている。
キレそうだよ! 怒りを抑えきれない。
マジギレ発動!
マジキレしなきゃ友達じゃねーだろ!

「いいかげんにしなさいよ! 未南の机にコレ入れたのあんた達でしょ?」

「ちげーよ!」
「勝手に決めつけてんじゃねえよ!」
「ちょう、うざいんですけど!」
三人が一斉に逆ギレした。

負けないもん!
マジギレ発動中!

「未南を辱(はずかし)めるために、あんたらが仕組んだんでしょ?」 

「うっせーんだよ! 転校生!」
「お前は関係ないんだよ! 出しゃばるな!」
「てめーは黙ってろ!」

イラ、イラ、イラ。
一回言うと三倍になって返ってくる。
互いの怒りはヒートアップしていき。
あわや喧嘩が勃発する事態になっていた。

「もう、やめて。ケンカしないで」
未南が、あいだに割って入る。

すかさず。
「やめなさい!」
しかりつけるように言ったのは、仲裁にきた椿だった。

「でも椿さん、こいつ生意気な奴で」
地味子ちゃんの一人が,とりなすように椿に言った。

「この私がやめなさいって言ったのよ、聞こえなかったの?」
椿の声には威圧感があった。

「す、すみませんでした」
眼鏡の子が、パシッってDVDケースを手に取ったあと。
三人は椿に頭を下げ、そそくさと逃げるように、席へ戻っていった。

私のこと助けてくれたのかな?
「椿、ありがとう」

「ケンカしちゃダメよ」
椿がやさしい声で言った。

32:りな:2019/03/26(火) 19:53

(19)

帰宅して一時間が経過した。
あのあと、下校まで、何も事件は起こらなかった。
心配していた未南のクツも今日は無事だった。

放課後は未南とデート!
おしゃれなカフェでケーキを食べた。

そして。
この日の夜。 夕食の支度を終えて
お父さんと夕食をとっていると。

「いいネックレスしているなぁ?
 それ買ったのか?」
お父さんに聞かれた。

「クラスメイトに、もらったんだよ」

「昨日、話していた子にか?」

「違うよ。姫川椿っていう大金持ちのお嬢様から。
 あの超有名な会社、ヒメカワの社長令嬢だよ」

「ヒメカワ? あのヒメカワか?
 お父さんが出演している番組の
 スポンサー企業になってるぞ」

「ああ! ヒメカワのCM流れていたね」

「いい子と友達になったな」

「まだ友達ってわけじゃないけどね」

「その子とは仲良くしとけよ」

「うん、そのつもり」

椿と友達になれるといいなぁ。
今日は、椿の好感度が大きくアップした。
このペンダント、ネットで調べたらすごく高価な物だった。
転校生の私に、こんな高価な物をくれるなんて驚いた。
椿の気持ちが、ホントにうれしかった。これ毎日つけようかな?
このペンダントは私の宝物だ。一生大事にしよう。

(20)

新しい朝が来た! 希望の朝だ!
今日も元気に登校した!
翌日は昨日の朝よりも早く学校に着いた。
机の落書きをどうにかしようと思っていた。

教室に入る。登校しているクラスメイトは
昨日より少なかった。未南も居なかった。

机の落書きは?
脇目も振らず、未南の机を見に行った。

内心、落書きが無ければいいが……。
そう思っていた。

だが、その期待は見事に裏切られた。
もう落書きがあったのだ。

33:りな:2019/03/27(水) 12:32

昨日と同じように未南の机には
チョークで落書きがしてあった。

これ、誰がやったの?
きっと犯人はこの教室の中にいるはず!
でも犯人を特定する証拠が何も無かった。

だからといって、このまま落書きを消しても
なんの解決にもならないかもしれない?

少しでも問題解決の糸口を得るため考えてみた。

キョロキョロと教室を見渡すと、落書きをした
容疑がかかる人物は登校しているんだよね。

転校初日、未南の顔にバスケットボールを
ぶつけた、茶髪のヤンキー女、榊田真紀!

昨日もめた地味子、三人娘!

それから、姫川椿と和田萌奈。

未南の机に落書きした犯人はこの中にいる!?

ケンカしちゃダメよって、椿から言われているから
なんか、榊田真紀や地味子には聞きずらいなぁ。
どうしよう? 椿って学級委員だよね?
そうだ、姫川椿に相談しよう!

34:りな:2019/03/27(水) 20:44

そう思って、椿のところへ行く。
椿は友達の萌奈と、楽しそうに話していた。
それをさえぎって、遠慮がちに椿に話しかけた。

「話したいことがあるんだけど……」

「何? どうしたの? 仲間に入れて欲しいの? いいよ」
椿が、私に向かって,優しくほほえんでいる。

「あっ。そうじゃないんだ……」
そうでもいいけど、今は違う話をしにきたんだ。
よし。本題に入ろう!

「椿。未南の机がチョークで落書きされてるよ!
昨日もされてた。しかもひどいことが書いてある」

「あら? そうなの? 気が付かなかったわ」

椿は落書きのことを知らない素振りを見せた。

「え?」 
て、ことは。
椿たちは犯人じゃないってことか?
ちょっとだけ疑ってたけど……。

「本当だよ。見に来て」

私は椿と萌奈を連れて行き、未南の机を見せた。

「ほらね」

椿と萌奈の二人が落書きを見る。

「ふふふ、ははは、ははは」

椿が突然、笑い出した。

「あの子、嫌われているからね。
 いい気味だわ」

私は予想外の言葉に唖然(あぜん)とした。

「どうして、こんな態度を取るの?
 二人は親友だったはず……」

「親友……。確かに未南は親友だった……。
 でも、それはもう過去の話よ…………」

椿は悲しげな表情を見せた。

35:りな:2019/03/28(木) 20:28

「過去じゃないよ! 今もだよ! 今も
未南は椿のこと、親友だと思っている」

と真剣に訴(うった)えかけていた。 

「もう戻れないわ、昔の関係には……。
 あいつがいけないのよ、あいつが……」

はっ? 
なに昔の恋人みたいなこと言ってんの……。

「それってテニス部のこと?
 退部させられたって聞いたよ」

「あ、あいつ、そんなことまで
 あなたにしゃべったのね」

「あれ、悪いの椿なんじゃ?」

「あなたまで、そんなことを言うの?
 理不尽な理由で退部させられて
 大好きなテニスを奪われたのよ。
 あなたにその苦しみが分かって?」

「気持ちは分からなくもないけど。
 部活を辞めるのも親友を失うのも
 両方、大きいと思うけどな」

「プライドをズタズタにされたのよ。
 あの親子にね。あの二人、もう
 絶対に許すことができないわ」

「まぁ、椿も苦しんだんだね」

「未南には私以上の苦しみを与えたいの。
 倍返しよ! 倍返し。地獄を見るがいいわ」

地獄って、そんな……。
椿って敵にまわすと……怖い。と思った。
――――?
この瞬間……。
椿が、このいじめに関わってんじゃねぇ?
そんな疑惑を持ってしまった。
そんな、まさかね。

36:りな:2019/03/29(金) 21:00

だが二人が落書きをした可能性もゼロじゃない。
非礼を承知で、単刀直入に質問した。

「これやったの椿と萌奈じゃないよね?」

机の落書きを指差して二人に聞いた。
瞬時に二人の表情が変わる。

「やったの、うちらじゃねーよ」
萌奈はイラッとしたのか
怒り気味の口調で答えた。

「無礼者! この私を犯人扱いするなんて
 失礼よ! 謝りなさい! いますぐに!」
椿はひどく憤慨して謝罪を要求している。

うわー! 失言だったかも……。
「ごめんなさい」
椿の迫力に負けて、すぐさま謝罪した。

「まぁ、いいわ。許してあげる。特別にね」
椿は怒った顔をしたが、すぐ笑顔に戻った。

生まれて初めて、無礼者って言われた。
プライドの高そうなお嬢様をこれ以上
怒らせるのは得策ではない。
方向転換しよう。

「でも、これ誰がやったんだろう?」

「さぁー? 誰がやったのかしらねー?
 修倉親子は、学校全体の敵だからね」

椿の言う通り、犯罪者の家族が
学校や世間から敵視されることが
実際にあるらしい。オウムの教祖の娘や
毒物カレー事件の息子など、親がしたこと
で子供が責められ、いじめられたり,差別
されたりする場合が実際にあったみたいだ。

37:りな:2019/04/01(月) 00:10

「あのさ、椿は学級委員なんだから
 立場上、クラスで問題が起きたら
 注意しないといけなくない?」

「あら? そうかしら?
 でも犯人が分からないから
 注意することができないわ。
 しかも、このクラスの子が
 やったとは限らないじゃない?」

「きっと犯人は、クラスの人だよ」
私はなおも食い下がった。

「違うかもよ? 証拠でもあるの?」
椿の答えは、そっけない。

「なんか、めんどくさっ」
萌奈の唐突な一言で、思わず「え?」となった。

「自分で言えばいいじゃん?」
萌奈の予想外の言葉に私は戸惑った。

「私が言うの?」
とっさに言い返したあとで。
他人に注意してよ、と言っておきながら
自分では言えないのか? と自問した。

「わかったよ。自分で言うよ」
私は意を決した。
勇気を出して言わなくちゃ!
未南と約束したんだ……守るって……。
だから言わなくちゃ! 

38:りな:2019/04/01(月) 20:22

「この落書きを書いたのは誰ですか?
 もし、この中に書いた人がいるのなら
 こういうことするの、やめてください」

教室にいるクラスメートに向かって
言ったが、誰からも反応がなかった。
みんな無視してる?

もう一回言おう。
「ひどい落書きは、やめてください!」
少しばかり語気を強めて言った。
私の言葉に茶髪のヤンキー女、榊田
地味子、3人娘たちも無反応だった。

私は、徹底的に無視されているので。
まるで独り言を言っているみたいで。
なんだか恥ずかしくなってきた。

やっぱり、先生に言おう。それがいい。
お父さんも言った方がいいって言っていた。
善は急げ。職員室へレッツゴー。

おっと! その前に、落書きの証拠写真を撮って。
それから、ハンカチを使って落書きを消した。
だって未南に、こんな落書き見せたくないもん!

「ごめん。ちょっと、急用を思い出した!」
椿と萌奈に、そう、声をかけた。
あまり時間がない……。急いで教室を出て
廊下を小走りして、階段を駆け下りた。

39:りな:2019/04/02(火) 20:17

(21)
「ハァ、ハァ、ハァ」
職員室の前で、弾んだ息を整え、中に入る。
入り口でキョロキョロと首を動かし担任を探した。
担任は眼鏡をかけている若い男の先生だ。
あっ! 高木先生! みつけた!

「先生! ちょっといいですか?」

「川上さん? なんでしょうか?」

「実は相談したい事があって」

「相談ですか? いいですよ。
 あまり時間がありませんが……」

「うちのクラスの修倉未南のことは
 わかりますよね? 今日学校に来たら
 チョークで机に落書きがしてありました」

「修倉さんの机に落書きですか? 
 なんて書いてありましたか?」

「早く学校を辞めてください、ちかん
 犯罪者の娘、きもいから学校に来るな
 よく学校これたね、学校から消えてほしい
 とか書いてありました」

「えっ? そんな、たくさん、ひどいことが……」

「これは、先ほど撮った証拠写真です」

私は高木先生にスマホを渡した。
先生はスマホの画面を凝視する。

「これはいけませんね。誰が落書きを
 書いたか、わかっていますか?」

「誰か書いたのか、わかりません。
 でも二日連続で書いてありました」

「今日だけではないのですね」

「はい。未南は、痴漢の容疑で、父親が逮捕
 されたことが原因でいじめられています」

「僕も同僚が逮捕されたので、すごく
 ショックを受けていましたが……。
 いじめのことは知りませんでした。
 いじめられているって本当ですか?」

「いじめは本当です。
 いじめがなくなるように
 先生、協力してください」

「わかりました。全面的に協力します。
 二人で一緒にいじめをなくしましょう」

「はい!」

「あっ。そろそろホームルームの時間ですね。
 一緒に教室に行きましょう」

「そうですね」

私は高木先生と職員室を出て教室へ向かった。

40:りな:2019/04/03(水) 21:05

(22)
廊下には、すでに人けが無く
辺りには静寂が漂っていた。

自分の教室に向かう途中
教室の中をチラリと覗く。
ここは女子高だから中は
女子生徒ばかりだった。

教室の前に着くと、先生は前の扉
私は後ろの扉から教室に入った。

教室にはクラスメイト全員が揃っていた。
空席は自分の席だけだった。
急いで自分の席に着席すると。
私は顔を未南に向けて
「おはよう」
未南に小声で挨拶をした。
「おはよう」
未南も、つられて小声で返事をする。

高木先生は教壇に立ち、出席簿を開いた。
「おはようございます。出欠を確認します。
 えーと……。全員揃っていますね」
高木先生は挨拶したあと出欠を確認した。

「今日は皆さんに残念なお知らせがあります」
そう前置きしたあと一旦、言葉を詰まらせた。

「先日。逮捕された修倉大造先生は
 とうぶん学校に来られないようです。
 着任早々、本当に残念です」

警察に捕まったまま
家に帰ってきてない
と言っていたなぁ。

「みなさんショックだと思いますが
 中間試験も近いので、余計なことは
 考えず、勉強に集中してください」

高木先生の話を聞き、クラスメイトがざわつく。

高木先生は、しばし沈黙した後。
「それと、もう一つ!」と怒気を込めて言い
出席簿を机に思いっきり叩き付けた。
バンという大きな音が教室に鳴り響く。
騒がしかった教室が急に静まり返った。

41:りな:2019/04/05(金) 20:34

高木先生は怒っているみたいだ。

「修倉さんがいじめにあっていると聞きました。
 それが事実であれば、非常に怒りを覚えます。
 誰がやったんだ? という犯人捜しはしません。
 だが、いじめは絶対に許されない行為です」

最初は、おだやかな口調だった。

「いじめは悪だ! 悪そのものだ!
 君達は恥ずかしくないのか?
 高校生にもなって善悪の区別が
 付かないわけがないだろ?」

徐々に強い口調となり

「このクラスは成績優秀者だけを集めた
 選抜クラスだぞ! 他の生徒の模範に
 ならなければいけないクラスだ。
 そのクラスの生徒がいじめとは
 情けないにも程があるぞ!
 金輪際、いじめはするな!
 わかったか?」

しまいに高木先生はブチ切れた。
教室が重苦しい空気に包まれる。

「返事は?」

怒りがおさまらない高木先生は
机に拳を思いっきり叩き付けた。

その音に一瞬ビクッとする私。
その直後。

「はい」
「はい!」
「はーい」
生徒達はバラバラに返事をした。

「はい」
ほんの少し遅れて、私も返事をした。

これをきっかけに
いじめがなくなればいい……。
そう願わずには、いられなかった。

42:匿名:2019/04/08(月) 20:32

(23)
授業が終わって、休憩時間になった。
あのあとの一時限目は、考え事ばかりで
授業に、まったく集中できなかった。

これでいじめがなくなるの? とか
先生の行動は正しかったの? とか
いじめが続いたら、どうすればいいの?
とか、いっぱい悩んでしまった。

そんなことを考えつつ、机の上にある
教科書とノートを片付けた。

「奈緒? 一緒にトイレ行こうよ!」
未南から、ふいに声をかけられた。

「いいよ。いこう」
私は誘いに応じて、トイレに行くことにした。

教室を出て、二人で肩を並べ、廊下を歩いていると

「チクってんじゃねえぇよ!」
という声と共に、後頭部をパチンと叩かれた。

「痛い! 何するの?」
私が振り返ってそう言うと、二人の
女子生徒が背中を向けて猛ダッシュで
逃げていくのが見えた。

「痛い……」
未南も後頭部を押さえ痛そうにしている。
どうやら未南も叩かれたようだ。

私はとっさに追いかけることができず。
犯人を捕まえることができなかった。

クソう……。ホント腹が立つ……。
やり場のない怒りを覚えた。

43:りな:2019/04/09(火) 20:02

「先生にチクったの奈緒でしょ?」
「う、うん」

私が答えると未南は、厳しい
目つきで私を、にらんできた。

「なんで先生に言うの? 
 絶対に言わないでって
 言ったのに」

「ごめん、でも先生に言った方がいいと
 思って……。先生ね、いじめがなくなる
 ように協力してくれるって言ってたよ」

「なくなるかなぁ? なくなればいいけど
 またみんなを怒らせて、もっと嫌われたら
 どうしよう……」

不安そうに言う未南の手を
私はギュッと握った。

「大丈夫、何があっても私が守るから
 一緒にがんばろう」

そう言ってる私も、本当は不安だった。
嫌われるのも、いじめられるのも怖かった。
でも今、未南を守れるのは私しかいない。
自分に、そう言い聞かせていた。

44:りな:2019/04/10(水) 20:21

(24)
トイレから教室に戻り、席についた。
次の授業の準備のため
英語の教科書とノートを
出そうとしたが、英語の
教科書が見つからなかった。

「おかしいなぁ」
さっきまであったはずなのに……。
机の中身を全部だし、英語の教科書を探した。

未南が私の異様な行動に気が付いた。
「どうしたの?」
「英語の教科書がないの」

「忘れてきたんじゃない?」
「ううん。きちんと持ってきたはず」

「じゃあ、なんでないんだろう?」
「わからない」

なんでだろ?
もしかして。
誰かに盗られた? 
そうかもしれない。

さっきは頭を叩かれ、今度は教科書を盗まれた。
そう思うと激しい怒りが込上げてきた。
怒りで自分の体が震えるのが分かるほどだった。

「誰よ!! 私の教科書、盗ったの!」
思わず立ち上がって叫んでいた。

「私の英語の教科書返してよ!」
誰からも反応がなかった。

「犯人はクラスメイトでしょ?」
もう頭にきた!

さらに怒りが増した私は、自分のイスを蹴っていた。
イスが後方へ飛ぶと壁にぶつかり大きな音がした。

「知らねーよ、お前の教科書なんて」
「あいつ、頭おかしいんじゃね?」
「あの子、馬鹿?」

クラスメイトの冷ややかな言葉に
怒りと共に涙が出そうになった。

45:桃瀬&◆hw:2019/04/11(木) 19:56

この小説、すごく好きです!更新されるのいつも楽しみにしてます!これからも応援してます📣

46:りな:2019/04/11(木) 22:21

「お願いだから返してよぉ……」
先ほどまでの威勢は失せ、弱気になっていた。

なんで、みんな笑ってんの?
そんな私を見てクラスメイトたちは
ニヤニヤしている。妙だなぁ?
何かがおかしい……。

「どうしたの? 奈緒? 何で怒ってるの?」
気が付くと目の前に、姫川椿が立っていた。
椿は私に向かってやさしくほほえんでいる。
それを見て少し冷静になった。

「教科書、誰かに盗られた……」
「ん? 盗られた? 証拠もないのに
 盗られたって決め付けるの、良くないわ」
私が困っているのに、椿は嬉しそうな表情を見せた。
それには少しだけ違和感を覚えた。

「そうかもしれないけど実際に
 教科書がなくなったんだ」
私が切羽詰まった気持ちで、そう言うと

椿はふきだして笑い。
「教科書無くしちゃったの? しょうがないわね」
と、せせら笑うような口調で言った。

「私、学級委員だし、みんなに聞いてあげるわ。
 みなさーん、奈緒が教科書なくしたみたいだけど
 誰か知らなーい?」
椿は教室内のクラスメイトたちに向かって言った。

「知らないよ」
「知りませーん」
「私も知りませーん」

聞かれたクラスメイトたちは、素っ気無く答えた。

47:匿名さん:2019/04/12(金) 20:04

思ったことがあるんですけど…>>30のレスや>>45のレスで、応援が来てますよね??
それに対して何も応えないんですか?

48:りな:2019/04/15(月) 23:34

「み--んな。お前の教科書なんて
 知らないって、キャハハハハ」

大声で笑ったのは萌奈だった。
それにつられて教室中から笑いが起こる。
目の前の椿も、笑みを浮かべている。

「残念。誰も知らないって……。
 力になってあげられなくて
 ごめんねぇー」

椿が、ちょっと幼い口調で言った。

「誰も知らないわけないじゃん!
 犯人はこの中にいるはず!」

「犯人捜しは、やめましょう。
 クラスの雰囲気が悪くなるわ
 私がお金あげるから、これで
 新しいの買いなさい」

椿はポケットから財布を取り出した。
高級そうな財布の中には札束がギッシリと
詰まっていた。そこから五千円札を取り出し
そのお金を、私に差し出した。

「え……。そんなの受け取れないよ」

「いいじゃない。もらっておきなさい。
 遠慮することはないわ。入学早々
 誰かさんのせいで、とんだ災難ね」

椿から差し出されたお金を受け取れずに困っている
と座っていた未南が席から立ち上がった。そして
教室の隅にあるゴミ箱まで歩いて、立ち止まった。
その行動を不思議に思い、ずっと目で追い続けた。

まさか? あの中に教科書が! と思った直後。
未南がゴミ箱の中に手を突っ込んだ。

「汚い!」
「何やってんのあいつ」
「ゴミ、あさってんじゃねーよ!」

クラスメイトは未南に軽蔑した言葉を浴びせる。

私の教科書がゴミ箱の中にあるのだろうか?
このまえ未南のクツがゴミ箱に捨てられていた。
それを考えれば、その可能性は十分にありうる。

しばらくたって、未南が探すのをやめた。
身体を起こして、こちらを向くと、未南の
手には英語の教科書があった。
あれは私の教科書なの?

未南は私のもとに駆け寄り教科書を差し出す。
「未南、それ私の教科書?」
私は教科書を受け取って未南に聞いた。
私の問いに未南は黙ってうなずいた。
みつけてくれたんだ! ありがとう
と言おうと思ったその時、椿が大きな声で笑った。

「アッハハハ、あーら。犯人は未南だったの?」

私はすぐに反論した。
「何言ってんの? 未南が犯人なわけない。
 休憩時間、ずっと私と一緒にいたんだもん。
 この前、未南のクツがゴミ箱に捨てられてた。
 教科書だって、そいつらのしわざに違いない」

「あっそう……それはお気の毒ね。ねえ?
 どうしてこんな目にあうかわかる?」

は? 先生にチクったから?

「未南の友達だからよ。嫌われ者の未南のね。
 だから 早く友達をやめた方がいいよ」

「はぁ? なにそれ? 意味わかんない」

私が椿をにらみつけると

「私のことは嫌いになってもいい。でも
 奈緒のことは嫌いにならないで……お願い」

未南が涙を流してそう訴える。

「いいよ。そのかわり未南は消えてよ。
 私の目の前からいなくなってよ!
 これ以上、私に嫌な思いをさせないで」

それに対し、椿が耳を疑うような
ひどい言葉を投げかけた。

「えっ?」

目を大きく見開き、驚いた表情の未南。

49:りな:2019/04/16(火) 21:02

追い打ちをかけるように
周囲から汚い言葉が飛ぶ。

「椿さんの言う通りだわ。消えて!」
「もう学校くんな!」
「学校やめちゃえよ」
「未南、さようなら」
「いっそ、しねば?」

こいつら最低だ
傷つく言葉を平気で言ってる。
これは言葉の暴力だ。
こつらは、お金持ちのお嬢様で
世間には立派かもしれないけど
やってることは最低なヤツらだ!

「そ、そうだよね。私なんか消えちゃえばいいよね」

未南は涙ながらにそう言うと。
教室から飛び出していった。

「待って! 未南!」
私は教室を出て未南のことを追いかけた。

みんな、ひどい

ひど過ぎるよ……。

未南が何したっていうの?

「未南!」

私の必死の叫びは未南の耳には届かなかった。

走って階段を昇って最上階まで来てしまった。

どうしよう?
まさか?
飛び降りたりしないよね?
最悪のケースが脳裏をよぎった。

未南が突き当りにある教室に入った。
ここ、音楽室?
あとを追って私も教室に入った。

ああ! うそでしょ? 
教室には未南の姿が、もうなかった。
ギャアアアアアアアアアッ!
私は心の中で絶叫してしまった。

あの開いている窓から下へ飛び降りてしまったの?
そんなあ……。
まさか……。
そう思うと、恐怖で全身がブルブルと震(ふる)えた。

いやだ
死んじゃあ、いや。
まだ友達になったばかりだよ。
これからいっぱいおしゃべりしたり
遊んだりするはずだったんだよ。
それなのに……。

「どうして?」
涙腺が崩壊して涙が止まらない。
絶望に打ちひしがれながら。
フラフラと窓に向かって歩いた。

50:りな:2019/04/17(水) 20:09

あれ? どっかから、声がする。耳を澄ますと。

「うう、ハァ、ハァ,ハァ。うう、ハァ、ハァ、ハァ」

泣き声交じりの荒い息づかいが聞こえる。
どこだろ? と声のする方まで歩いていく。

「未南?」

泣いているのは未南だった。
机の陰(かげ)に、しゃがみこんで
未南は泣いていた。

ホッ……。
飛び降りてなかった。
早合点だった。
生きててよかった――――。

私の声に反応して未南は顔を上げた。

「あっ。奈緒……。来てくれたんだ。
 怖くなって逃げてきた。心がすごく痛くて
 私、辛いよ……。もう学校やめようかな?
 こうなったの。全部、私が悪いんだよね?
 いじめは、その人に原因があるんだよね?」

私は、大きく首を振った。

「未南は、何も悪くない。これだけはハッキリしてる。
 未南をいじめていい理由なんて、ひとつもないよ。
 いじめは、いじめてる人が100パーセント悪い。
 いじめは、しない、させない、くわわらないだよ」

「なんか標語みたいだね。でも私は
 これから、どうしたらいいんだろう?」

「周りの人に助けてもらおう。友達や先生
 家族に頼ろうよ。私も未南の助けになりたい」

「迷惑じゃない? 私のせいで奈緒まで辛い思いをするかも」

「迷惑じゃないよ。だって友達だもん。未南のこと大好き。
 何があっても私は未南の味方でいる。約束するよ」

「ありがとう。私、がんばる。がんばるね」
「うん。がんばろう……。ね、教室、戻ろうか?」

「ごめん、もう少し、ここに居てもいいかな?」
「あっそうだ! 英語の授業さぼっちゃわない?」

「えっ? 大丈夫かな?」
「たまには,いいんじゃない?」

「そうだね。たまには、いいかな?」
ニコッと、未南の口元からほほ笑みがこぼれた。


結局、授業をさぼり、誰もいない教室で
ずっと、おしゃべりをしていた。
会話に花が咲き、授業の終わりを告げる
合図のベルが鳴るのを早く感じた。

51:りな:2019/04/18(木) 20:49

(25)
私と未南は、二人しかいない音楽室で
二時限目を終えた。
私たちは教室に戻るため、音楽室を
出て、階段を下りていく。

結局 英語の授業には出席しなかった。
罪悪感がないと言えば、嘘になるけど。
まぁ、いいか!
一度くらいは、なんてことないさっ。

ああ、そうだ! 
未南に、ひとつ聞きたいことがあったんだ!

「未南ってどうして、あんなに英語が上手なの?」
「小さいとき、アメリカに住んでたからだよ」

「ええ? 未南は帰国子女なんだ?
 でもお父さん、学校の先生だよね?」

「でも昔はプロテニスプレイヤーだった。
 日本とアメリカを行ったり来たりしてたよ。
 でも聞いたことないでしょ。修倉なんて名前」

「ごめん、ぜんぜん記憶にないや」
昔の人で知っているのは松岡修三とか伊達公子とかかな? 
修倉なんて選手の名前、まったく聞き覚えがないや。

「ケガが多くて、あんまり活躍してないからね。
 三十前に引退して、その後は教師になったの」

「へー。元プロなの。テニス、上手なのはお父さんの影響?」
「うん。小さいときから、お父さんにテニスを教わってた」

そーか。そーか。それでテニス、上手なんだ。

未南がテニスの高校生チャンピオンなのも合点がいく。


(26)
未南と一緒に教室に戻った。私と未南に
クラスメイトから向けられる視線が突き刺さる。
教室内が、ざわざわと、ざわついてくる。

「未南、帰ってきたよ」
「本当だ。奈緒もいる」
「あの二人、授業さぼったの?」
「また先生にチクりにいったんじゃね?」
「チクり魔だな、あいつ」

私たちに対する容赦ない悪口が聞こえる。

「クラスメイトの言葉なんて何一つ気にする必要はないよ」

私は未南を励ますように語りかけた。

未南は、こっちを向き、無言でうなずいた。

52:りな:2019/04/19(金) 21:35

クラスメイトの声を無視して
席に向かって歩いていくと。
野村由香子が、こっちへやって来た。
由香子は椿の友達の一人だ。
未南に、何か言うつもりか?
私は思わず身構えた。

「椿が、話があると言っている。
 奈緒だけ、一緒に来てほしい」
「私だけ?」
「未南は来なくていい。いくぞ、奈緒」
「うん、ちょっと行ってくるね」

由香子から、そう言われたので
由香子の後ろからついていった。

行き先は、椿の席だった。

椿は、手と足を組んで座り
ちょっと不機嫌そうにしていた。

「どうして英語の授業に、でなかったの?
 まさか、先生のところ、行ってたの?」

椿が少々強い口調で聞いてきた。

「違うよ、ずっと未南と音楽室でしゃべってた」

私がそう言うと、椿が安どの表情を見せた。

「そうなの? それなら、いいわ。
 私ね。奈緒をいじめてはダメって
 クラスのみんなに言っておいたわ」

椿は真顔でそう言った。

「ありがとう」
私は、とりあえず、お礼を言った。

「私もいじめは良くないって、思うの。
 もし、またいじめにあったら、私に
 相談しなさい」

椿の意外な申し出に、ちょっとビックリ。
椿って私には、案外やさしいんだよね。
そうだ。ついでに。
「相談と言うか、ひとつ、お願いがあるの」
「なあに?」
「未南と仲直りして!」

「あのね。何度も無駄に言わせないで!
 未南とは絶交したって言ったじゃない!」

椿が怒りだしてしまった。
なかなか頑固な性格で一筋縄ではいきそうもない。

「そんなことより、今日の放課後、暇かしら」
椿が、唐突に話題を変えてきた。

「うん、まぁ、暇だけど」
「お暇? じゃあ、二人っきりで、なにか
 おいしいスイーツでも食べにいかない?」

え? え? 椿から誘われちゃった。
「う、うん。いいけど……」

「じゃあ、放課後、帰らないで教室で待っててね」

あっさりOKを出してしまった。
だって、断ったりしたら……。
よくも私の誘いをことわったわね!
許せないわ! キーー! 
とかなりそうだし……。それに
椿とは仲良くしたいと思ってる。
でも、ちょっぴり不安だなぁ。
椿と二人きりで何を話せばいいんだろ? 

53:すぴか☆彡キサラギ◆y2:2019/04/20(土) 12:35

言葉の使い方?が上手で読んでて面白いです!
これからも頑張ってください!

54:りな:2019/04/20(土) 20:07

(27)

校内の掃除を終えると、放課後になった。
帰宅の途につく人や、部活動に行く人が
次々に教室をあとにする。

「これから椿と一緒に食べに行くの」

「いいなぁ。うらやましい」

未南が可愛くすねる。
やっぱ、未南ってかわいい!

「一緒に行こうって、言えばいいじゃん?
 私、椿と二人っきりって、なんだか不安」

「それ、無理だと思う……。私、先に帰るね。バイバイ」
未南は、悲しい表情を浮かべたあと。
私に手を振りながら教室を出て行った。

私は人もまばらとなった教室で
約束通り椿が来るのを待っていた。

鏡で顔を見たり、髪の毛を直したり
なんだか、さっきから落ち着かない。

「奈緒! お待たせ!」

椿が手を振りながら教室に入ってきた。

「椿!」

私も笑顔で手を振り返す。

「さぁ行きましょう。すぐ行くから入口で待ってて」

椿は席からカバンを取ると。
すぐに私が待つ入口にきた。
私たちは一緒に教室の外に出た。

55:りな:2019/04/21(日) 07:20

私と椿は、肩を並べ、廊下を歩き出した。

うわぁー。なんか、ド緊張する。

こんな超美人でお金持ちのお嬢様と
いままで友達になったことないもん!

もし椿を、人気の美人女優と例えたら。
私の立場なんて、珍獣ハンターとか
雪山登山させられる、お笑い芸人だよ。

いやいや、そんなことより。
とりあえず、なにか話さなきゃ!

「今から、どこへ行くの?」

「姫川プリンセスホテル。
 私のお父様の会社が
 経営するホテルよ」

「知ってる。知ってる。
 全国展開している。
 高級ホテルだよね」

まあ、泊まったことないけど……。

「スイートルームが空いてたから
 その部屋で、有名パティシエが
 作ったスイーツを食べましょう」

スイートルームでスイーツですと?

夢のような話だ。
いや、まてよ?
まさか、罠? お金はどうすんの?
割り勘ね、とか言われて、あとから
何十万も請求されたらどうしよう?
これは、ちょっと、まずいかも……。

「私、お金、そんなに持ってないよ。どうしよう」

「心配しないで、費用は全部、私が払うから」

なんという神対応!

「外に送迎の車が用意してあるから
 それに乗ってホテルに行きましょう」

椿の言葉には、何度も驚かされてしまう。
椿って、やっぱり、ただ者じゃないのね。


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