なんで私が鬼嫁に!?

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1:匿名の魔王:2019/04/19(金) 08:39

"鬼"を怒らせてしまった村人達は、鬼の怒りを沈めるため、美しい娘を選んで"鬼"の元へ嫁にやることにした。
そして選ばれたのが──。

「ええぇえ〜っ!? なんで私が鬼嫁に〜!?」




※以前こちらで出していた作品を基に再構築したものになります。

2:匿名の魔王:2019/04/19(金) 08:49

【 慈鬼(いつき) ♂??歳】
森の奥深くに棲む青鬼で、昔は地獄にいた。
人間界では顔立ちの整った青年の姿をしている。
雷を自在に落とすなど強大な力を持つため、村の人間からは恐れられている。

【桃莉 (ももり)♀15歳】
小さな農村で発明に没頭する少女。
嫁として貰い手がない"売れ残り"だったため、木通慈鬼の怒りを抑えるため嫁に出されてしまう。

【貴島 紫桜 (きじましろう) ♂ 25歳】
村で唯一の医者。
慈鬼のことを"弟殺し"と恨んでおり、倒そうとする。

【村長 ♂99歳】 村の長として自治している老人。 慈鬼の怒りを鎮めるために、桃莉を生贄として慈鬼の元に送り込む。

【尼紫鬼(にしき) ♀?歳】
美しい女性の姿をした赤鬼。
慈鬼のことが好きで、地獄へ連れ戻そうとする。

3:匿名の魔王:2019/04/19(金) 12:48

『悪さこいてると、森に置ゐてってしまうからね。こわ〜い青鬼に喰われるだぁよ』

悪ガキを窘める言の葉というのは、なまはげがやって来るだの悪魔が連れていくだのと地域によっても違う。

電気が普及しつつある日本の中で、未だに電気の通らない王井《おうゐ》村では、"森に棲む青鬼"が使われているらしい。

実際、村では古くから森の青鬼の存在は信じられており、森を無碍にすると祟が襲うだの呪いがかかるだのてんやわんや騒がれてきた。

最も迷信を危惧するのは高齢者か幼子、宗教に心酔する者くらいで、近頃の若者は鬼の存在など信じていない。
そのため、若者による森の木の伐採が進み、森に聳える立派な木は人々の建築材料やら薪やらとなって消えていくのが現状であった。

4:匿名の魔王:2019/04/19(金) 12:54

「森を無碍にするでない。森を荒らした末には、森に棲む青鬼の怒りに触れる……」
「うるせぇ! 長だか村長だかか知んねぇがぁよぉ、そんなもん迷信だってぇの!」

王井村を囲うようにして聳え立つ森の奥深く、斧を振り上げる大工と老人が口論していた。
早朝の霞がかった中で互いの顔も明確には見えないが、大工の不機嫌そうな声色から苛立ちが伺える。

木が覆い茂る森の中、この一帯だけ不自然に木がない。
大工と老人がいる場所を中心とした半径30メートル内の杉は、全て切り株と化している。
というのも、近頃人口が増えつつあるため、家の材料や薪として多くの木が切られているからだ。

無精髭が特徴的な中年の大工は、筋肉質な太い腕で次から次へと手際よく太い杉の木を伐採していく。
太く伸びた杉の木は、ぎぃっと悲鳴にも似た音を立てながらあっけなく横たわった。
それを眺める村長の顔が険しい。

「そんなに大きな杉の木を、何本倒す気だ? もう、十分であろうに……」

──バサリ。
数秒言葉を交わす間にも、また一本と木が死んでいく。
大工は斧に付着したおがくずを手で払いながら怒鳴る。

「さっきからうるせぇぞ、じいさんよぉ。森にゃこんな腐るほどあんだぁ、一、二本切ったって変わりゃしねーよ」
「だが森の青鬼の呪いが……」

かすれた細い声に反して図太く食い下がる老爺に、中年の男は怒りを含んだため息を零した。

「そんな迷信あてにして……邪魔すんな! ほら帰った帰った」
「やれやれ……」

これ以上の制止は無駄だと諦めたのか、村長は古びた黒い木杖をつきながら背を向けた。
大工はもう一度斧を持ち直し、おおきく振りかぶったその刹那に──。

5:匿名の魔王:2019/04/19(金) 13:01

一瞬、霧を劈くような閃光が瞬いたかと思うと、鼓膜を破るような轟音が響いた。
眩い光が地面に降り立ち、二人の目を眩ませる。

「う、ゔぅうわあぁああ゛ー! 俺のぉ、俺の斧がぁあ……!」

雷が降り立った地は大工のすぐ横の──斧であった。
斧は雷撃を直に受け、木でてきた柄の部分は黒く煤けた。
斧は煙を上げながら山の斜面を下り、あれよという間に下の小川にぼちゃんと落ちて滑るように流れた。
多くの木の命を奪った凶器は、一瞬でただの鉄くずと化してしまった。

「周りの木を切ったのがいけなかったなァ。少しでも残しておけば、雷は杉の木に落ちたろうに……」
「こんな晴れてんのに雷落ちるなんて思わねぇだろうが!」

村長は転がり落ちる斧を、射抜くような目で視た。

雷は高い場所に落ちやすい。
高い杉の木が多く生きるこの森なら杉の木に落ちる可能性が高かったが、一帯の木はほとんど大工が切り落としてしまった。
罰が当たったのだ、と村長は鼻で笑う。

「いや、だとしたら斧より高い我々が雷を受けるはずだが……」

村長はピンポイントで斧が直撃を受けたことに、気が付き、はっと双眸を見開いた。

「まずいぞ……! こりゃあ、まずいかもしれん……」
「な、なんだよじいさん……!」

雷の恐怖で震える大工が、ぶれた声で訊ねる。
村長は額に脂汗を浮かべながら、低い声で言い放った。

「青鬼の……憤慨」

雷が斧に落ちたのが偶然ではないとしたら。
多くの木を殺した斧が意図的に雷撃を受けたとしたら。

「森の青鬼が、憤っておる!」

雲ひとつない快晴にも関わらず、ごろごろと轟音が響いていた。

6:匿名の魔王:2019/04/19(金) 13:07

最初こそ偶然だと甘く笑っていた大工だったが、快晴なのに──雲ひとつないのに二日間も雷が落ちるという現象を目の当たりにし、震え上がった。
青い光を纏った雷は、新築の家や薪の貯蔵庫に落ちている。
村長の言葉通り、木を切ったことによる呪いや祟の類でなければ説明がつかない。

大工と村長を含めた村の役員が集い、事態対処のため寄合を開くこととなった。

大工、村長、副村長、図書館の司書、その他にも4、5人の老婆や老爺が囲炉裏の周りを囲み、話は進んでいく。

「青鬼についての伝説などが記された資料を村の図書館から集めました」

最初に進み出たのは、村のはずれにある小さな図書館の女性司書だった。

司書は民話や言い伝えなどを書庫から急遽かき集め、資料にまとめたという。
彼女は黄ばんで表紙が外れかけている薄い冊子を取り出し、正座している太ももの上に広げた。

「森に棲む青鬼は自然を愛し、森を汚す者には雷を落とすと言い伝えられています。普段は──碧鬼(あおおに)山の頂上にいるようですね。現在は立ち入り禁止区域ですが」
「確かになぁ、オラもガキん頃は『悪さしたら碧鬼山の青鬼の餌にされるでぇ』ってお袋に脅されたもんよ」

副村長は胡座をかきながらそう言い、孫の手で背中をかいた。
司書は続ける。

「昔の人は、村で一番美しい娘を嫁に出すことで青鬼の怒りを鎮めたようです。これは江戸時代の記述ですね」
「村で一番美しい娘と言ったら……副村長さんとこの桜子さんとちゃうかね?」

司書の話を聞き終えると、一人の老婆がぽつりと零した。
全員の眼球が一斉に副村長の方へ向く。
ぱちり、と囲炉裏の火が跳ねた。

「と、とんでもない! うちのはもう伴侶がおる。それにワシに似て目が細い。魚屋の娘はどうだ」

全員の眼球が真反対の魚屋の男へ向けられる。

「なっ、うちのも夫がいる! それに魚に似て唇出っ張ってる上に分厚いんじゃ、青鬼もお怒りになるだろう。そもそも元凶の大工んとこも娘がおったろう」

全員の眼球が隣の大工へ向けられる。

「ふざけんなよぉう、確かにうちのは村一番の別嬪だがよぉ、明日結婚式をあげるから無理でい!」

全員の眼球が、囲炉裏の火へ向けられる。

「綺麗で」
「結婚してない」
「そんな娘おったら、鬼なんかにやらんでうちの息子と見合いさせたいわぁ」

がんっと重くなった空気に、全員が押し潰されそうになった。

7:匿名の魔王:2019/04/19(金) 13:10

と、その時、あっと大工が短い声をあげた。

「確かうちの近くにいませんでしたかねぇ。美しいが、嫁の貰い手がない売れ残りの女が」
「はて、誰だったかな」

首を傾げる村長に答えるように、噂好きの反物屋の老婆が横から申し出た。

「もしかしてそれ、五丁目の時計屋さんとこの桃莉ちゃんちゃう? 確かに美人やけど変人で、見合いした男も話ついてけん言うとったで」
「なんか、"あんぺあ"だの"オウムの法則"だの毎日言うてた、発明家目指してるっちゅう……」
「オウムの法則? 鳴き方に法則でもあるんか?」

横文字に明るくない者達に言葉の意味を理解出来るはずもなく、見当違いのことを言い始める。
大工に至っては鳥のオウムと勘違いする始末。

「確か父親が最近亡くなって、あの時計屋に引き取られたんだろう? 身よりもないし、いいんじゃあないかね」
「あんな変な子、貰い手一生ないと思うで。もう桃莉ちゃんにしましょ」

反物屋の老婆はため息をついて、囲炉裏を囲む者達をぐるりと一周見た。
しかし目線は合わない。
みなが俯いていた。
非道だとは思いつつも、下手に反論して自分の娘を出せと言われるのが怖かった。

「それじゃ、桃莉ちゃんには悪いけど……」
「これも村のためじゃ」

村長は杖をひとつ突いて、やおら立ち上がる。
囲炉裏の火は、ぱちぱちと激しく火の粉を散らす。
村長の耳には、くべられた薪の木が悲鳴を上げているようにも聞こえた。

8:匿名の魔王:2019/04/20(土) 17:12


「あ〜もう! 叔父さんってば昼間から酒屋でマージャンなんて……店のこと私に押し付けて……!」

その頃、村で唯一の時計屋、『秋桜(コスモス)堂』では、例の少女、桃莉がラジオの修理に奮闘していた。
はんだごてを器用に使い、欠陥した部品を付けていく。
ジュッと熱そうな音をたて、金属が液体のように溶けた。

元来、修理は時計しか受け付けていなかったが、機械全般を修理できる桃莉を引き取ってからと言うものの、店主が時計以外の修理も受け付けるようになった。

その店主は桃莉の叔父であり、父を無くして身寄りのなくなった桃莉を引き取った男だ。
親切心からではなく、半ば押し付けられて渋々引き取ったため、愛情も無く、桃莉に修理や店番を任せて使用人扱いしている。
桃莉が来てから時計以外の修理も受け付けるようになったため、金も時間にも余裕が出来た桃莉の叔父は、これまで以上に博打や酒に溺れるようになった。

「私だって遊びたいのに……」

桃莉は現在14歳、まだ学校にも通っている身だ。
機械を治すほどの腕を持つものの、まだまだ遊びたい年頃である。
今頃同じ学校の娘達は駄菓子屋か、ちょっとませた子ならば、ボーイフレンドを誘って喫茶店にでも行っているのだろう。
同級生の何人かの女の子が、王子様みたいな男の人と一緒に下校しているのを見たことがある。

「私も恋人ほし〜……ぅあ゛っぢっ!」

ぼーっとしながら溶接していたため、手元が狂ったのかバチバチと電気の筋が立つ。

「はぁー、毎日修理修理だもんなぁ、縁のない話かー」

9:匿名の魔王:2019/04/20(土) 17:35

オイルや鉄の臭いにまみれた自分には縁のない話か、とため息をついて工具を片付けていると、ガラリと店の引き戸が開いた。

「いらっしゃいませー」

桃莉は、お客だろうと何の疑いもなく玄関の方へいそいそと出向く。
暖簾をくぐって入って来たのは5、6人の大人達だった。
村長に副村長、大工さんに反物屋のおばさん。
狭い村なので、大体の人は顔見知りだった。

「突然押しかけて悪いわねぇ、ちょっと桃莉ちゃんにお話があって」
「え……私にですか?」

反物屋のおばさんはそう言うと一歩進み、皺だらけの手で桃莉の両手を握る。
弱々しそうな老婆なのに、その手を握る力は、桃莉の手が赤くなりそうなほどだった。

「えっ、え、ななななんです!? 村長まで……」

少なくとも、修理の依頼ではなさそうだ。
桃莉は反物屋のおばさんと、その周りにいる村長達をぐるりと見回すと、恐る恐る後ずさる。
それを逃すまいと、おばさんは更に詰め寄り、大きな声でこう言った。

「あなたに……青鬼の元へ、お嫁に行って欲しいの」

10:伊藤整一:2019/04/20(土) 19:13

時代設定は昭和、大正明治のうちどれが一番近いですか?


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