小説の掃き溜め

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1:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:39

書きかけのものとかサイトで公開する意味もないようなものとかの供養所
別に自分だけが使うとかも決めてないので供養したい小説があったらご自由にどうぞ

2:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:39

今更だけど文字数制限あるのかどうかわからなくて困っている

3:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:42

沈む夕日を見て私は思う。ああ、長いようで短い一日だったな……と。



ガタッ、バキバキ、メリッ……音が私の脳内を支配する。どうしてこんなことになってしまったのだろう……もう何も思い出せない。
どこかで発砲音が聞こえる。ああ、とうとう銃撃戦が始まってしまった。この地球はこれで終わりなのだと暗闇の中で悟った。
タタタ……と足音が聞こえる。こっちにこないで、私はここに隠れているのだから早く帰って……なんて声を出してしまったのなら、途端に私という存在はここから消えてしまうだろう。乱れきった呼吸を無理やり潜め外の様子を窺う。想像していたよりも酷い有様だ。私はふと家族のことを思い出した。
まだ平和だった頃、私は家族3人でここへ来たことがある。母と妹と、そして私。父はいつかの日にどこかへと消えてしまったのだ。この町を、この国を、この世界を残して。幼い頃に父を亡くした妹は私を何度も頼ってきてくれた。母も私のことを大切に育ててくれた。あの日来たこの町がいずれ崩れてしまうなんて、あの時は誰も想像できなかっただろう。母と妹はどこにいるのか……もう何もわからない。ただ生きていてくれればいい、そう願うばかりだ。
足音が遠のいた。良かった、助かったのだ。そう考えたのもつかの間、ゴトゴトと何かがこちらへと向かってくる音が聞こえた。この国に戦車はまだあったのか……などとどうでもいいことを考えてしまう。恐怖を感じる余裕などない。死ぬ間際には案外意味の無いことを考えてしまうのだ。……ああ、もう死ぬのか。自覚したときにはもう遅かった。バン……と大きな音が聞こえた。

…………こんなところで死んでたまるか……心の中に誰かの声が響く。この声は……











ここはどこだろう。どこか遠くで射撃音が轟き、消えてゆく。まだ日は昇らない。一筋の光さえ見当たらない、真っ暗な世界のままだ。ただ一つ……いや、もっと変わったことと言えば、私の周りには人がいなくなり、そこにあったはずの瓦礫が吹き飛び、粉々に割れ、人々が無惨な姿で転がっていることだろう。
…………どうしてこんなことに……私は存在するはずの過去の記憶を手繰り寄せた。……記憶が無い。思い出せないのだ。私という存在が何なのかもわからない。ただ意識が途絶える前の町の姿の朧気な記憶と、私のしてしまったことの記憶だけが残っている。……私のしてしまったこと…………
取り返しのつかないことをしてしまった。私はたくさんの人を殺してしまったのだ。なんてことをしてしまったのだろう。がくりと膝をつき自らの濡れた頬に触れる。溢れる涙と返り血に濡れた頬。私は人を殺してしまったのだと改めて実感する。耐えきれずに嗚咽をもらす。そのまま全ての感情をぶつけるように叫んだ。
ふと顔を上げ辺りを見回すと、全てが淡い紫色に包まれていた。やがてそれは橙色をはらみ、見事な朝焼けへと変化してゆく。涙も枯れきったような目に無機質な空が映る。自らだけではなく空までもが私を軽蔑してくるように感じ、そっと目を細めゆっくりと立ち上がった。先程までは気にならなかったむせかえるような血腥さと腐敗臭におえ、とえづく。
──先程の残虐な行動、見ていたよ。まるで人間ではないような動きだったね。君には心が無いのかな?……影が私に声をかけてくる。否、声などではない。私の脳内に、心に直接話しかけてくるのだ。これはある種の超能力のようなものなのだろうか、とうとう私の頭は狂ってしまったのだろうかと思った。
だ……れ……?私の声が外に出ることは無かった。あのように咽び泣いたのだから当然であろう。
精一杯の力を振り絞りその人物を睨みつける。




ネタはあるけど気力が尽きた

4:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:42

あ、いけたわ

5:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:43

ちなみにこれTwitterでふざけてた第三次世界大戦ネタね
寝ぼけながら書いてそのまま寝落ちしたけど起きたら書く気力無くなってたから供養

6:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:54

ホトトギスの花が咲いている



「────夏が終わる頃に、私は死んでしまうの。」

 嘘だ、と思った。夕日に染まる海も、波の打ち付ける防波堤も、茜色に染まる彼女の顔も、なにもかも嘘だと思った。
 ただただ信じたくなかった。けれどそれは事実なのだ。
「──だったら……」
 きっと、これでいいのだ。僕は……

「夏なんて、終わらなければいいのに。」

 この願いが全てを壊してしまうなどとは、まだ誰も知らずに。


  Endless Summer Project
   ──終わらない夏のおはなし。





「ねえ、夏廻ちゃん!」
 声をかけてくるのは、僕の親友の椛音だ。
 小学校1年生の夏休み、あの時に彼女と出会っていなければ、今の人生は薄っぺらいモノクロビデオのようなものだっただろう。ただ運命として決まっていることを、ただつまらなくこなすだけ、そんな人生。椛音はそこにたくさんの色を与え、そしてたくさんの幸せををくれたのだ。
「なに?またなにか面白いものでも見つけたの?」
 読んでいた本をぱたんと閉じ、軽やかに立ち上がる。また、僕の人生に新しい差し色を入れてくれるのだろうか。
「防波堤の上に登ってみない?」
 僕達の住んでいる町、夏暮町には美しい海がある。砂浜が途絶えたところに防波堤があり、そこに登るとえも言われぬ美しい海が見られると言われていた。
「でも……危なくないかな?落ちたら怖いし……」
 僕が落ちてしまいそうな訳ではない。おっちょこちょいな椛音が落ちてしまうかもしれないと心配しているのだ。
「もー!また私の心配するー!いいから行こっ!!」
 そう言うと椛音は僕の腕をむんずと掴み、半ば引きずりながら海への道を一直線に駆けた。
 にしても、どうして僕が椛音の心配をしたのだとわかったのか……いつも一緒にいるからなのかな。
「まって、いいから!僕は自分で歩けるから!!」
「でも私が引っ張って走った方が速いでしょう!!」
 なんておかしなことを言うのだろう。この間の徒競走では僕の方が速かったじゃないか。……まあ、走る気があるかどうかの話なんだろうけど。
「でもこれじゃ転んじゃうよ……ってうわあああ!?」
「うわああああっ!?」
 ふたりは声を揃えて叫んだ。僕の心配通り一緒に転んでしまったのだ。
「あ……あはは……」
 誤魔化すかのように苦笑いをする椛音、いつもこうなんだから。
「ほら、言わんこっちゃない……」
 僕が呆れ顔でため息をつくと、椛音はぷっと笑い出した。
「ふっ……ふふっ……あははははははっ」
「ちょっ……!なんで笑ってるの!!」
「だって……あははっ……夏廻ちゃんの顔っ……ぷっ……おかしいんだもん……ふふっ……あははははっ」
「なにそれ……ふふっ……あははははっ……」
 いつもこうだ。椛音が僕の人生を、飽きることのない楽しいものに変えてくれる。

 ずっとずっと、一緒に居られたら、それだけできっと…………幸せなんだろうな。
 そう考えながら、ふたりで笑い続けた。




「もう……そんなに無茶なことしてたらいつか大変なことになるから!」
「でも、たとえ大変なことになっても、夏廻ちゃんがなんとかしてくれるでしょう?」
「でも……願いには穴があるんだよ……?」
 僕は夏暮町に少しだけ住んでいる「願いを叶えられる種族」だ。 生きている間に一つだけ願いを叶えることができ、その願いを誰にも塗り替えることのできないようにすることができる。
「でも、夏廻ちゃんならきっとできるって信じてるから!」
 にかっと元気な笑顔を見せる椛音。ああ、僕はこの笑顔には逆らえないのだ。
「……いや、うん……でも椛音とずっと幸せでいられるためには何だってするつもりだから……」
「私も。夏廻ちゃんのためなら、きっと何だってできる気がする!」
 そう言って椛音はふわり、とスカートを揺らしながら立ち上がり、そして駆け出す。
「ほら!今日はどこに行こうかな?」
「ちょっ……待ってー!」
 ふたりならきっと、どこまでも駆けて行ける。そんな気がした。


それがただの妄想に過ぎなかったとしても。

7:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:55

「私……治らない病気になってしまったみたい……」

 嘘だ
 夏が終わる頃に死んでしまうなんて嘘に決まっている。

 ───夏なんて終わらなければいいのに
 これが僕の、最初で最後の願い。


 こんな愚かな真似なんて、しなければよかったのに。



「どうして……どうして……」

 どうして。なんで。


「ねえ、夏は終わってなんかいないよ……?」

 なんで起きてくれないんだろう。
「忌々しい夏の終わりなんて、もう来ないんだよ……?」

 もうわかっているのに、どうしても認めたくなかった。
 なにもかもわからないままでいたい。それでも信じなければならないのだ。
 ただ、一つの事実が心に深く突き刺さった。


 椛音が死んだ。

 疑いようのない真実。

「椛音……ねえ……帰ってきてよ!!起きて!起きて!!夏は終わってないよ!!まだいなくなる時じゃないよ!!起きて!!起きて!起きて……よ…………ねえ…………」
 あふれる涙を止める方法がわからなかった。どうして自分が泣いているのかさえわからなかった。
 全てが嘘に見えた。病室の窓から差し込む夕日も、もう2度と動かない椛音の体も、椛音のいないこの世界も、みんなみんな作り物のように思えた。
「椛音……僕、約束守れなかった。椛音と一緒に幸せでいようって決めたのに、守れなかった……願いであんたのこと、守れなかった……」
 僕も一緒に眠ってしまいたい。そのまま目が覚めなければいい。そう思ってしまう。
 全ては僕が願いを間違えたからだ。何も考えなかった僕が悪いんだ。夏が終わる頃に死んでしまうというのは、椛音の考えた時のたとえにすぎなかったのだ。
 僕は馬鹿だ。宇宙一の大馬鹿者だ。自分の願いを間違えたばっかりに何に代えても失いたくない親友を失ってしまったのだ。
「ごめんね……椛音……」
 こんなこと言ったって、椛音にはもう届かないのに。
「さよなら。ずっとずっと、大好きだったよ…………」

 椛音を殺してしまった僕にこんなこと言える筋合いなんてないけど、事実なのだ。心の底から愛していたのだ。
 僕は座っていた椅子を立ち、最後にちらりと椛音の方を見ると、そのまま逃げるように病室の後を去って行った。

8:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:55

「あんた!なんでいっつもそこで暗い顔して突っ立ってんのよ!!空気重くなるからやめなさいよ!」
 いきなり声をかけられて、肩をビクッと震わせる。いきなりなんなんだ、この人は。
「だ……誰……?」
 驚く僕に少女はこう畳み掛ける。
「誰とかそういう前に雰囲気重くするのをまずやめなさいよ!…………なにがあったのか、話だけでも聞いてあげるから……」
 変わった人だなあ……文句を付けるふりをして優しいことを言ってくれる。ずっと人と話していなかった僕にとって、なんだか刺激が強すぎるような気もするが。
「あ……いや……優しいの……ね?」
「はぁ?優しいわけじゃないしっ!ただちょっと私が気になっただけなんだからっ!決してちょっと優しくしてあげようとかそんなこと思ってないんだからねっ!」
 僕はなんだか心が温まってくるような気がした。この気持ちはなんだろう。
「僕は…………親友を殺してしまったんだ……」
「……え?」
「実は……」
 今までずっと辛かったことを、一気にぶちまけた。この人なら大丈夫、そう直感が言っている。
 だから……


「はぁ?それって結局誰も悪くないじゃない!あんた馬鹿なの!?」
 なんてことを聞くのだろう。僕は確かに大馬鹿者なんだから、今更言う必要もないじゃないか。
「うん、僕は親友を死なせてしまった馬鹿だよ。」
「そうじゃないの!だってあんたが願いを叶えられない種族だったら結果は同じじゃない!あんたはちょっと願い事を間違えちゃっただけ!それで普通の運命を歩んだだけ!それだけのことよ!それに終わらない夏がどうよ?別にもうみんな気にしてないわよ!ここで重い空気撒き散らされてる方がよっぽど迷惑だわ!!」
 一気にまくし立てられて、僕は気付いた。なんだ、そんなことだったんだ……
「あ…………そっか……じゃあ…………」
「そうよ!いい加減過去のことを引きずって暗い顔してるのはやめなさい!……そんなに辛いなら、私が友達になってあげてもいい……けど…………」
「本当に……?やっぱりあんた、優しいのね……」
「はぁっ!?べっ……別に優しくなんかないわよっ!ただ…………っとにかく、私が友達になってやるんだから暗い顔するのはやめなさいよね!」
 久しぶりに声を上げて笑った。なんでだろう。心の底から元気が湧き上がってくるようだ。
「ふふっ……あははっ……ふっ……ははっ……」
「ちょっと!なんで私のこと笑うのよっ!」
「なんだか昔に戻ったみたい……ふふっ……」
「むーっ!……でも、笑ってくれて良かった…」
「本当にそういうところが優しいのね……」
「なっ!?そんなことないわよ!何回言わせるつもり!?」
 僕はただ笑った。懐かしくて、全てがどうでも良くなった。
「……ありがとう。」
「礼を言われる筋合いなんてないわ……私は小湊 明音。あんたは?」
「僕は柊華 夏廻。これからよろしくね!」




 僕はあの懐かしい防波堤の上に立っていた。
「椛音…………」
 輝く海も、真っ赤な夕焼けも、体を包む暖かい風も、みんなあの時と変わらず、作り物のような美しさでそこにあり続けている。
「ねえ、椛音。僕、気付いたんだ。……ありがとう。」
 夕日に向かって静かに声をかける。この声は椛音に届いているのではないか、そんな気がする。
「ありがとう!!ずっとずっと大好きだよー!!」
 夕日に大きく叫んでみる。ああ、映画の主人公にでもなったような気分だ。
 僕はそのまま海をちらりと見ると、防波堤を飛び降りて、地面をしっかりと踏みしめた。

 帰ろう。

 新しい幸せが待っている場所へ─────。




終わらない夏を生きる、全てのはじまりを作った少女の、
別れと出会いの狭間で廻る、はじまりのおはなし。

9:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:56

創作プロジェクトのやつ。これは初めて書いた小説かな。
改行多すぎて草しか生えない

10:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 01:56

というか4000文字も耐えられないのかー、貧弱だなあ…

11:鈴零◆EQ:2016/09/27(火) 02:00


ここの板だいぶ過疎なのね

12:鈴零◆EQ:2016/09/30(金) 16:28

 ……懐かしい旋律が聴こえる。この音は……なんだったかな……思い出せそうな気がして、でも思い出せなくて。
 目の前に白いぼやけた人影が見える。触れられるような気がしたのに、伸ばした手がそれに届くことはなかった。
 届け……届け……! 必死に手を伸ばしてもそれに追いつくことはできない。逃してはいけないのに届いてくれない。やわらかかった懐かしい音も今では耳の中にガンガンと響いている。
 どうして届かない……? 疑問が脳を埋め尽くし、全てが白いもやに覆われた。

13:鈴零◆EQ:2016/09/30(金) 16:28

冒頭部分だけ晒し

14:鈴零◆EQ:2017/01/21(土) 10:03

 ――懐かしい旋律が聴こえる。この音は……なんだったかな。思い出せそうな気がして、でも思い出せなくて。
 目の前に白いぼやけた人影が見える。触れられるような気がしたのに、伸ばした手がそれに届くことはなかった。
 届け……届け……! 必死に手を伸ばしてもそれに追いつくことはできない。逃してはいけないのに届いてくれない。やわらかかった懐かしい音も、耳の中にガンガンと響いている。
 どうして届かない……? 疑問が脳を埋め尽くし、全てが白いもやに覆われた。

 ぱちり、と目が覚めた。どうしてこんな夜中に……。目を擦りながら時刻を確認する。ベッドの横に置いてある時計の針は、夜中の2時を指し示していた。
 どこからかピアノの音が聴こえる。音を立てないよう慎重にベッドを降りると、そのまま玄関までそろりそろりと歩いて行き、目の前にあった靴を引っかけ家を出た。
 音の聴こえる方へゆっくりと足を進める。傍から見れば不審者のようであろう。自他共に認める“ごく普通の”男子高校生が、寝癖でボサボサの髪を揺らしながら上下ジャージで夜中に歩いているなんて、普通ならありえない光景である。
 ふと気がつくと自分の住む町が一望できる小高い丘に来ていた。どうしてこの場所に来たのだろうか……この場所に来れば泣きたくなってしまうほど悲しいことを思い出すというのに。
「……ねえ、覚えてる?」
 声をかけられ肩をびくりと震わせる。こんな夜中に出歩いている人がいるというのにも確かに驚くが、理由はそれだけではない。かけられた声が昔好きだった人にそっくりだったのだ。
「君もずいぶん成長したね」
 思い切って声のする方へ振り返ってみる。そこには“あの時”と変わらないままの大好きだった少女の姿があった。
「ッあ……あ……」
 声が出ない。どうして彼女がここにいるのだろう。
「どうしても気になっちゃったから、会いに来たの。ふふっ……」
 だって彼女は3年前に死んでしまったはずなのに……。

15:鈴零◆EQ:2017/01/21(土) 10:03

 あの時のことは昨日のことのように覚えている。あの日この場所で彼女に告白をした。返事は「しばらく待ってほしい、いつか必ず答えを伝えに来るから」とのことだった。返事が待ち遠しかった。

 彼女が死んだと伝えられたのは、その数時間後のことだった。死因は事故死。信じられない……そう思っても、事実は事実なのだ。いくら泣いても彼女がこの世界に帰ってくることはないのだ。
 ただひたすら泣いた。せめて返事だけは聞きたかった。もし彼女が生きていたら、もし告白の返事がイエスであったのなら……。そう考えると、やるせない思いが心にのしかかってくるようであった。
 彼女の葬式では、彼女が生きていた頃によく演奏していた曲が流れた。彼女のピアノを使って。だがその音は彼女の演奏していたときの優しさが失われ、まるで持ち主がいなくなったことを悼むかのように物哀しげな音を奏でていた。
 彼女の奏でていた曲が、耳にこびりついて離れなかった。

「懐かしいね、この場所」
 彼女はそう呟くと、静かに明かりの灯らない夜の街を眺める。自分は彼女のこの顔が好きだったのだ。
「私はね……あなたに返事を伝えに来たの」

「――私も、あなたのことが好きでした」

 頭が真っ白になった。彼女が告白の答えを告げてくれたのだと理解するまでしばらくかかってしまった。
「……え?」
「ほら、告白の返事。私も好きでした」
 大きく目を見開き素っ頓狂な声をあげる。その様子を見て彼女は口元に手を当てて静かに笑う。
 変わっていない。あの時と全く変わっていないのだ。そんな彼女を見るとなぜかとても安心した。
「――ねえ」
彼女が近づいてくる。そして肩に手を置いてしばらく動かなくなったと思うと、今度は頭についていた薄桃色のヘアピンを外し、それを押し付けてきた。
「これ、私と会えた思い出に……ね」
 彼女がゆっくりと抱きついてくる。その体はどんどん透けてゆき、そして消えた。

「――君は、どうしてここに……」
 空を見上げ、小さく呟いた。

 カーテンの半開きになった窓から注ぐ光と鳥の声で目が覚める。時計を見るとまだ起きるには早い時間だった。――いい夢だったな。まだ夢の余韻に浸りたくて、そっと目を閉じた。
 ふと、左手に何かが触れる。驚いてそちらを見ると、そこには薄桃色のヘアピンがあった。それは夢で見た物と寸分違わぬ物であった。
「夢じゃ……ない?」
 驚いて、起き上がり窓の外を見た。普段と変わらない空。しかしその景色を見ると、不思議なほど心が安らかになった。ずっと心に重く固まっていた思いが、全て消えたような気がした。
ふっと目を閉じると、言葉が自然と口からこぼれ落ちた。

「――ありがとう」

 全てが動き出す前の町。東の空から降り注ぐ光が、柔らかく世界を照らしているようであった。

16:鈴零◆EQ:2017/01/21(土) 10:04

ここに載せるのも変だけど自信作です だいぶ前のだけど


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