「 紅茶を飲みながら食べるって、なんか変な気分 」 >>2
「 たしかに君に優しくしたいけど、君より君のことを労えるわけなんてないよ 」
彼女はかっこつけた台詞を言いながら冷えた麦茶をコップに注いだけど、少し零した。
「 どういうこと? 」
「 君って、ほんと自分のこと好きだと思うよ。ナルシストってわけじゃなくて、ちゃんと自分に優しくできるでしょ。誕生日には自分にプレゼントを買って、月末にはご褒美に美味しいものをたべて、なんか辛いことがあっても俺は偉い、俺は偉いって自分を鼓舞できてさ 」
彼女はいつも通りばーっと喋って、わかりやすく溜めた。
「 わたし、きみのそういうところすきだなと思うよ 」
彼女はあまり愛情表現をしないタイプだと思う。でも、たまに言ってもらえるだけで構わないんだよなあ。
ぽ
「 僕のこと、好きなんでしょ? 」と彼は言った。正確には、彼が言ったわけではない。彼の指先が、瞳が、彼のさらさらな髪を揺らす風が、全部わたしの好みをつくようにスローモーションで動いて、梅雨のじめじめした世界の中にきらきらとちらついて離れない。わたしをとりまく空気が、変わった音がした。きっとそうだ、とわたしは答える。世界が変わるような、そんな出会いだった。
そうするとやがて、きみは涙を流す。流した涙はさらさらと頬を伝って、彼女の腕や太もも、床を濡らしていく。それはまるで、なにかの象徴のように。しかし、それらはきみがそのちいさな手で自分の目をこする間に音もなく乾いていった。もうきみの涙は目に見えない。この部屋の湿度がすこし、上がった。