君に、愛の言霊を――、

葉っぱ天国 > 二次創作 > スレ一覧キーワード▼下へ
1:遥姫 ◆ml2:2015/09/02(水) 21:20 ID:NrY




スレタイ適当、笑。

えーと、ここは私が様々なジャンルの小説を書くところになりますね、
公式cpだったり、伽羅の独白だったり、夢だったり…。

まあ、暇つぶし程度に寄ってくれたならと思います。


・ 荒らしや、迷惑行為はお断りです。
・ 感想は大募集しております!
・ 更新は亀さんです、笑。


それでは、よろしくお願いしますね!

 

2:遥姫 ◆ml2:2015/09/02(水) 21:56 ID:NrY


 名前を、  【 学園アリス / なつみかん 】



――棗、

 目の前の、少女は寂しそうに笑って自分の名前を呼んだ。
 蜜柑、と口を動かしたところで少女は、遮るように次の言葉を口にする。

――もう、さよならや。

 そう、少女はその瞳に涙を浮かべた。
 嘘だと、少女に向かって手を伸ばす。けど、その手は届かず、逆に彼女は遠ざかっていくばかりで。

――蜜柑っ!!

 愛しい、少女の名前を叫んだ。



 はっ、と目を覚ます。目に映ったのは見慣れてしまった病室。
 先ほどの夢が頭の中に焼きついて離れない。汗が、頬をつたった。
 荒くなった息を整えて、起き上がると同時に病室のドアが開く。

「っ、棗!」

「ルカ……」

 ドアから入ってきたのは、学園入学前からずっと親友だったルカ。
 ルカは、起き上がっている棗に驚き、ベットへと駆け寄る。

「目、覚めたんだね」

「ああ」

「棗、起きたのか!」

 続いて、騒がしく病室に入ってきたのは目の下に星の印を入れた、翼。

「うるせぇよ、ハゲ」

「ハゲてねぇよ!」

 不意に、あの夢が脳裏を掠めた。なんとなく、あれはただの夢ではないんじゃないかと思った。どうしても、そう思ってしまうのはきっと、ここにいるはずの彼女の姿がないから――。

「おい、ルカ。……あいつは? 蜜柑は……?」

 純粋な質問だった。
 自分の言葉に、顔を強ばらせ、ルカは視線を逸らす。様子がおかしい親友に、嫌な予感を感じた。
 ルカ、と名前を呼ぼうとした矢先、「……棗、黙って聞け」と、翼が告げた。



 翼から、聞かされたのは今回のことの結末。そして、蜜柑のこと。
 彼女は――アリスを無くし、学園から出て行った。ここで過ごした、すべての記憶を消して。

「蜜柑……」

 呆然と、呟いた名前に答えてくれるものはいない。

――棗!

 もう、あの笑顔を見ることはできないのか。
 自分の名前を呼ぶあの声を聞くことはもうできないのだろうか。

「み、かん……」

 翼は、悲痛そうに棗を見つめて、ルカは顔を歪めて俯かせている。その目には涙が光っているように見えた。





 それから、5年後――。
 少しずつ、彼女がもういないということを受け入れて。そして、もう一度会うためにずっと、生き続けようと心に決めて。
 そして、その日はやってくる――。


「待ってや! 二人共――――っ!」

 あの幼い頃よりも、だいぶ大人びた容姿。けど、あの頃を一切変わらない笑顔を高台の上から見下ろした。
 どれだけ、この日を待ちわびたのだろう。やっと、彼女に会えると思うと心が震える。 

「蜜柑」

 もうすぐ、彼女は自分のもとへ帰ってくる。そのことを、噛み締めながら小さく彼女の言葉を呟いた。

――棗っ!

 それに答えるように、遠き記憶の中の彼女が答えた気がした。
 あの、自分が好きだった笑みを浮かべて――。


‐‐‐‐‐‐


最初は、学アリのなつみかんで!…といっても、蜜柑でてないし。伽羅の口調迷子だ、笑。
でも、どうしても書きたかったんだ。このスレだって、これが書きたくて立てたもんだし()

学園アリス31巻の、棗が叫ぶシーンで少しだけど、書かれていた過去の絵から妄想を含まらせた結果がこれだ。
…うん、後悔はしてないよ←




追記.翼先輩の口調が、わかんねぇ、笑
 

 

3:遥姫 ◆ml2:2015/09/21(月) 15:47 ID:NrY


赤い糸のその先は、 【 緋色の欠片 / 拓珠 】

 
 昔からの言い伝えの中にこんなものがある。
 ――運命的な出会いをする男と女は、生まれたときからお互いの小指と小指が目に見えない『赤い糸』で結ばれている。

 運命的な出会いだなんて、幼い頃の自分にとってすごく憧れるもので、自分の小指にある赤い糸の先にいるのは誰なんだろうと、いつ現れるんだろうとすごく楽しみにしていたことを覚えている。




「珠紀」

 名前を呼ばれるとともに、つないでいた手のぬくもりが増すのを感じ隣の彼へと視線を向ける。

「何? 拓磨?」

「あのさ……今度の週末に、どこか出かけないか? まあ、そうは言っても村の中だけだけど……」

 照れくさそうに、わずかに視線を逸らし。少しだけ頬を赤く染める彼は、普段とはかなりのギャップがあって。すごく愛しく感じた。

「いいよ、村の中でも!」

 だって、拓磨と一緒ならどこに行っても楽しいのは変わらないから。言いかけたその言葉をなんとか胸の中に留める。なぜなら、これを言ってしまえば、彼はさらに照れて別れ際まで無言、なんてこともありえるかもしれからだ。

「本当か? じゃあ、10時ぐらいに迎えに行く」

「うん、待ってる」

 そう言って微笑み合う。
 こんなこと、あの頃の事を思えばどんなに幸せなことなんだろうと思う。

 今思えば、幼い頃に何度も想像した赤い糸の相手は彼だったのではないかと思う。
 根拠は何もないけれど、でもそれは確かなことなのだと思う。

「拓磨、大好き!」

「な……、い、いきなりなんだよ」

「言ってみたたかっただけ」

「はぁ……全く、お前ってやつは」

 不器用で、でも優しくて。暖かい自分を見つめるその眼差しが好き。
 初めてこの村に来たとき、すごく不安で、ここに来なければ良かったって思う。でも、今では違う。この季封村に来てよかったと思えた。だって、貴方に出会えたから――。



 
――赤い糸のその先は、小さな村の中にありました。


‐‐‐‐‐‐

ほのぼののような…そうじゃないような、意味のわからないものになってしまった。
拓珠可愛いっ! 可愛いという以外に何があるというのだ!

絶対にこのふたりは、運命の糸で結ばれてたんだと思います! だって、ねぇ?(何が)


このふたりの糸が、この先切れることがありませんように!

 

4:遥姫 ◆ml2:2015/10/16(金) 19:37 ID:NrY


膝枕 【 緋色の欠片 / 真珠 】


 すやすやと、己の膝の上で静かに寝息を立てる少女。寝顔というのはその人にとって一番無防備な顔だというが、少女の穏やかな顔を見て確かにな、と納得してため息をついた――。


 宇賀屋家の縁側に座って、風鈴の音を聞きながら柄にもなくぼーっとしていたところに彼女がやってきたのが始まりだった。
 隣いいですか?、と問われ反対する理由もなくそれを了承し、隣に座った珠紀と共にただ外を眺めていた。
 ふと、肩が重いことに気づいて我に返って隣を見れば、自分の方に頭を乗せて眠る少女。そういえばと、最近は受験勉強やら、鏡の事件やらで忙しかったことを思い出す。
 普段なら恥ずかしさに負けて、すぐに起こしてしまうだろうが今回は疲れている彼女のためにも恥ずかしさを抑えてこのままでいてやろう――と思うも、結局は自分が彼女と触れていただけなのだが。一体この言い訳は誰に向けられたものなのだろう。

 この状態で小一時間、やはりこの格好では体が痺れてきてしまい、寝ているのを起こさないように体を動かしたとき。

「あ」

 既にもう遅く、彼女の頭はするりと肩から落ち、そのまま己の膝の上へ収まった。そこで冒頭へ戻る。


 好きな女が、己の膝の上で、さらには無防備な顔で寝ているのだ。どうも思わないわけがない。が、あの珠紀にだけ懐いているあの男にはなるまいと、なんとか理性を働かせる。それでも、自然と視線は彼女へと注がれる。

(……綺麗な顔してんなー……)

 こんな綺麗な彼女が、今まで男に捕まらなかったこと、自分がその彼女を捕まえたことを不意に不思議に思う。もしかしたら彼女と自分は古から繋がっていたのかもしれないなと、珍しくそんなことを思った。

 膝の上で穏やかな顔を見せる少女。この少女が、二度も世界を救ったなんて考えられもしないだろう。でも、確かに彼女は救ってみせたのだ世界を――自分を。
 逃がさまいと自分に縋り付いて、まだ方法はある、諦めないで、先輩!なんて彼女は何度も訴えかけた。時には必死そうに、時には泣きながら。だから、今、自分はここにいる。世界で一番愛しい彼女の傍に。

 真弘は、広げられたいつも手入れを欠かさないと言っていた彼女の髪をひと房持ち上げる。そして、その髪に口づけた。あの男と同じようなことをしていることが気に食わなかったが。別に、自分は自分の欲のためにしているわけではない、誓いのため。

「……安心しろ。お前は俺様が守ってやる。だから、いつも笑ってろ」

 彼女に向けられたはずの言葉は、誰にも届くことなく、セミの鳴き声によってかき消された。


参考:TOY様

‐‐‐‐‐‐

始めて、お題を使わせていただきました!
TOY様のところは、素敵なお題が多く、使いたいものがたくさんあります!なので、これからも使わさせてもらおうと思っています、

さて、今回は前回に引き続き緋色の欠片で、真弘×珠紀です。時間軸は、蒼黒の楔以降ぐらいですね。
まあ、これは――真弘先輩の独白って感じですね。

……まあ、書きたいことはかけたし満足だ!
 

5:遥姫 ◆ml2:2015/10/17(土) 12:12 ID:NrY


貴方に会いたくてたまらない ( 前編 )【 緋色の欠片 / 拓珠 】


「お願い……お母さん。私、あの村で生きていきたいの、大切な人のとなりで生きていきたいの……」

 向かい側には、日々しい顔つきをした自分の母親が自分と同じように正座している。さっきから何度も訴えているが、母からは何も返ってこない。それがさらに不安を掻き立てた。

「お母さん!」

「……珠紀。今日はこれぐらいにしときましょう」

「でも……!」

「私は、あそこへ――あんな村へ貴方を行かせることはできません」

 これから先何度も言われても、この意志は曲げない。そう言っているかのように母親はきっぱりと言い切れば、部屋を出ていった。
 部屋の中が沈黙に包まれる。聞こえるのは時計が針を刻む音だけ。

「……拓磨」

 珠紀はぽつり、と愛しい彼の名前を呟いた。


 鬼斬丸を壊し、祖母の葬式終え、季封村から家へ帰ってきてから約2週間。珠紀は未だ、村で生きる許可を得られないでいた。
 母親の気持ちも確かに分かる。季封村では何度も死にそうになった。更には身内に殺されかけたりもした。鬼斬丸がなくなったとは言え、まだ堕ちてしまったカミサマはいる。きっとそれは、玉依姫の力を持つ自分を狙ってくるに違いない。危険なのは変わらなかった。

(だけど――)

 自分は出会ってしまったのだ。あの場所で、この世界で一番愛しいと思える人と。
 確かに村は危険だ。自分だって何度逃げ出したいと思ったか。それでも、いつも傍には彼がいた。自分を支えてくれて、引っ張ってくれて、そして守ってくれたあの人が。
 村を出る前に約束したこと、“時雨が終わるまでには戻って来い”それは、もう叶いそうにない。けれど、絶対に戻ってみせるから――。

「だから、待っててね……拓磨」

-----

後編に続きます!
 

6:遥姫 ◆ml2:2015/10/17(土) 12:15 ID:NrY


貴方に会いたくてたまらない ( 後編 )【 緋色の欠片 / 拓珠 】


 突然、廊下から電話のコール音が聞こえた。こんな夜にかけてくる人物はただ一人だけ。珠紀はばっ、と立ち上がる。長時間正座をしていたせいか足がしびれるも最早気にもとめない。
 廊下に出て、突き当たりにある電話を受話器を取った。そして、少し震え気味の声で言葉を発した。

「……もしもし?」

『あ、えーと……鬼崎です。珠紀……さんはいますか?』

 何度も電話で会話をしてきたというのに、変わらずに緊張した声が受話器の向こうから聞こえた。それがなんだかおかしくて、思わず笑いをこぼす。
 すると、「おい!」と聞こえてきた笑いに腹を立てたのか乱暴な声が聞こえる。

「ごめん、拓磨。だって、何度も電話してるのに拓磨ってば言葉が片言なんだもん」

『悪かったな。……誰だって緊張するさ。好きな奴に電話をかけるなんて』

 真っ直ぐに好きと伝えられたわけではないのに、頬が熱くなるのを感じる。多分、無意識なんだろうが遠まわしに自分を好きだと告げる相手をいつもずるいと思う。

『珠紀? どうかしたか?』

「あ、……ううん、なんでもないの」

『それで……どうだ? 今月中には帰れそうか?』

「無理かな……お母さんのあの調子じゃあ」

『そうか……』

 それっきり無言になる。ふと、先程の母との会話を思い出す。母親はとても頑固だ――それが、珠紀にも継がれたのだろう――説得するのはとても難しい。本当に彼のもとへ帰れるのだろうか。もし、このまま帰れなかったらと思ってすー、と背筋が冷えたのを感じた。
 不意に、拓磨が「珠紀」と名前を呼んだ。

「何? 拓磨」

 少し声が震えていたかもしれない。それに彼は気づいていたのか気づいてないのかはわからないが、何も言わずに言葉を続ける。

『正直に言うけどな、俺は、お前をそこから拐ってしまいたいと思ってる』

「たく、ま……」

『でも、お人好しで馬鹿なお前なことだからな。絶対に嫌がるに決まってる――だから、俺は待つよ。お前をこの村で。……まあ、待つのは性分じゃないけどな』

 なんて温かい言葉なのだろうか。次々と涙が目から溢れ出てくる。何か言いたいのに言葉が出てこない。彼が愛しすぎて、何も言えない。

『珠紀……? 泣いてるのか?』

 啜り泣く声が聞こえてしまったのだろうか。でも、できるだけ声を抑えたはずなのだが。何も得ずに黙っていればふ、と笑う声が聞こえた。

『言ったろ? お前のことは離れてても分かるって』

「う、ん……」

 やっと言葉を発する。そうだった、彼は自分のことに関してならばなんでもわかってしまうんだ。ならば、さっき自分が考えていたこともきっと見通されていたのだ。だから、彼は自分を励まそうとあんなことを言ったのだ。

「拓磨……会いたいよ」

『……俺もだ』

 蔵の中に監禁されていた時とは違う。ちゃんと、声を聞くことはできるのに。名前を呼ぶことができるのに、なぜこんなにも寂しいのだろう。

「……私、頑張るから。絶対にお母さんを説得して、村に戻るよ」

 涙を手で拭き取って、そう告げる。寂しい、ならば会いに行けばいいのだ。母親を説得して、あの村へ帰ればいいのだ。

『……お前はそうでなくちゃな。くよくよしてるのは似合わない』

 優しい声が聞こえる。……いや、声だけじゃなくてちゃんと顔も見たい。彼に触れたい。
 愛しい気持ちを抑えるように胸に手を置く。

「待っててね、拓磨」

『ああ、待ってる』


――もし、あの村に戻って彼に出会ったらまず一番にこう告げるのだ、ただいまと。そして次は――好き、大好きだと溜め込んできた相手への気持ちを告げようと珠紀は心に決める。

 2人が再開するまで、あと、もう少し――。


‐‐‐‐‐‐

またもや、緋色の拓磨×珠紀です。このcpは緋色の中で二番目に好きです。一番目はもちろん、真弘×珠紀です、笑。

離れている間、二人はどんな事を想っていたのかそんなことを妄s…想像しつつ書かせていただきました!
今回は長く書きすぎました…まあ、これが私の拓珠へと愛です!←

7:遥姫 ◆ml2:2015/10/23(金) 23:36 ID:NrY


眠り姫にキスを 【 緋色の欠片 / 拓珠 】


(やめろ……珠紀! 俺なんかのために――命を捨てようとするな!)

 必死に叫ぶ声は、言葉には出ない。
 重なる唇を介して、珠紀から何かが流れ込んでくる。そう、それは彼女の命そのものだった。
 彼女は、自分の体の中に眠る封印の力を自らの命とともに拓磨に注ぎ込み、封印するつもりらしい。だが、拓磨にはそんなことを考える暇はなかった。

――愛してる。

 キスをされる前、彼女の口から囁かれた愛の言葉。その言葉は、自分の中に眠るもうひとりの自分を呼び覚まさせた。
 そして、そのもうひとりの自分も彼女が深い永久の眠りに落ちてしまうのが嫌だった。

(やめろ、珠紀……! やめてくれ!)

 しかし、拓磨の声が届くことはなく、珠紀の体からは少しずつ力が抜けていく。
 そして、珠紀が崩れ落ちたとき、それを拓磨が支えた。
 変化した腕は元に戻り、角も顔も元に戻る。彼女の望んだ通り、力は拓磨の中で封印された。

「何やってんだ……馬鹿っ!」

 抱き抱えた体から熱が少しずつ引いていく。そのなくなっていく温度に恐怖を感じる。
 珠紀が死んでしまう。自分を支え、そして愛してくれた珠紀が死んでしまう。そんなこと、拓磨が耐え切れずはずがなかった。

「死ぬな、珠紀っ!」

 今度は、自分から珠紀の唇に己の唇を重ねる。そして、彼女から注ぎ込まれた力を半分、彼女の中へ注いでいく。同時、彼女の体温が戻ってくるのを感じた。
 顔を離し、数十分経ち、ゆっくりと、珠紀の瞳が開いていく。

「たく……ま?」

 状況に追いつけていないのか、少し呆然とした声で拓磨を呼んだ。それすら、愛しくてその体をぎゅ、と抱きしめる。

「死のうとするな、馬鹿……っ」

 震える声で告げれば、腕の中の珠紀は何も言わずに頷いた。


――王子様のキスは、眠り姫を呼び起こす。どうか、自分の目の前から消えていなくならないでくれ。


‐‐‐‐‐‐

……どうしよう、拓珠ばかり思いつく。本命は真弘先輩なのに() それは全て、拓珠が素敵すぎるからだ!←←
いっそのこと、緋色の欠片専用のスレ作ろうかな…。うん、そうしよ、

一度、拓磨へ命を注ぎ込み死と生の間を彷徨う珠紀ちゃん。その間、拓磨は何を思ってたんだろうという思いつきから生まれた作品、

拓磨……かっこよすぎるでしょ←←
 

8:遥姫 ◆ml2:2015/10/30(金) 01:46 ID:NrY


夏の夜( 前編 )【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】


 夏の夜。
 花火に照らされ、無邪気に微笑む君に心奪われた――。


「へぇ……去年に比べて、賑わってるじゃないかい」

「お、おう……そうだな」

 今日は季封村総出の夏祭り。最後には花火も上がるという村一番のイベントだ。最近はこれをもとにして、村おこしを行っているらしくここに来るまでの道でちらちらと見かけない顔の人や、家族連れを見かけた。
 真弘もまた、己の彼女である黎を連れて、夏まつりへ足を運んでいたのだが。

(これは……やばいだろ)

 ちらり、と隣にいる黎の姿を盗み見する。
 スラリとした体型に似合う、淡い紫色をした浴衣に、茜色をした帯。普段は高く一つ括りにしている髪を今日は、簡単に団子にまとめていて、白いうなじが見える。
 いつもより、さらに色気の増した黎に、真弘は胸を高鳴らせた。ここに人がいなければ、きっと今にも彼女を抱きしめ深い口づけをしていたことだろう。それを安心しているのか、それとも悔しいのか複雑な思いでいる中、やっと視線に気付いた真弘に視線を向けた。

「何さ?」

「……な、なんでもねぇ……」

「ふーん……」

 黎は訝しげに真弘の顔を覗き込む。予想外の顔の近さに、真弘はふい、と視線を逸らす。
 その状態で約10秒。はぁ、と軽いため息をついた黎がやっと離れる。真弘はほっ、と安堵をつくが黎の様子がおかしいことに気づく。――機嫌が悪そうだ。

「おい?」

「せっかく珠紀たちと一緒に街まで行って買ってきたってのに……褒め言葉も、一言もないのかい?」

 ぶす、と少し膨れた顔でじろり、と真弘を見つめる黎。
 ずるい。いつもより色気が増しているというのに、その顔で見つめられてしまえが顔が逸らせなくなってしまう。
 今度は真弘の方が様子がおかしくなってしまい、それに気づいた黎が真弘へと顔を寄せる。

「どうしたのさ……――」

 ぐい、と真弘は自分の頬に伸ばされた黎の手を掴み自分の方へ引き寄せる。急なことで、更にはなれない下駄のせいか簡単にバランスを崩してしまう。
 自分の胸に収まった黎を軽めに抱きしめる。周りからの視線が恥ずかしいが、この際は仕方がない。コイツが可愛すぎるのが悪いんだと自己完結させた真弘は、ぼそり、と黎の耳元でつぶやいた。

「……綺麗すぎるんだよ、ばーか」
「――っ!」

 ばっ、と胸を押して真弘から離れた黎の顔は、見事に赤く染まっていて、真弘は、声を上げて笑った。
 夏の夜はまだ始まったばかり――。


‐‐‐‐‐‐

 自分が書いてる夢小説の主人公と真弘での、短編です!
 後編に続きますー!
 

9:遥姫 ◆ml2:2016/01/17(日) 10:26 ID:gBQ


お姫様、迎えに来たよ。 【 アニポケ / サトシ×夢主 】


 私は、一世一代の告白をした。幼い頃から想いを寄せてた少年に。
 好きです、と伝えたあと、少しの沈黙、そして返ってきたのは、ごめん、という謝罪だった。そこで、私は振られたのだと理解する。直ぐにその場を逃げ出したくて、私は駆け出した。
 その背中に向けて、彼は何かを叫んだんだ。

 ――――。


 それが数年前ぐらい。あの日を境に、私は彼の旅から抜けて故郷のマサラタウンへ戻った。それからは、彼の母親と同じように、彼を待つ人になった。
 帰ってきては、また別の地方へ。博士のところへ預けられていくポケモンたちから、帰ってきた時に聞かせてくれる冒険物語から、彼は私が以前から知っている彼ではなくなっていることを知った。
 悔しい。私が一番彼を知っていると思っていたのに、今では私の知らない彼を知っている人が居る。でも、振られた以上、もう彼のそばにはいられなかった。彼が許しても、私が許せないのだ。

 ――そして、ついにその時がやってきた。彼が、夢を叶えたのだ。
 テレビで報道するそれに、私の両目には熱いものがこみ上げてくる。ただ、嬉しさがこみ上げた。彼が夢に向かってどれだけ努力をしてきたかを、苦労をしてきたかを知っている。それが報われた。彼の夢が叶った。私は自分のことのように喜んだ。

 数日後、彼は帰ってきた。その後はただ、パーティーだ。その騒ぎように、シゲルは苦笑していたけれど、どこか嬉しそうだった。
 彼は言った、「ここで終わりではない、まだまだ強くなってやる。だから、また旅に出る」彼らしいと思った。同時に、寂しくなった。


 パーティも終わりを告げて、私は一人マサラの夜空を見上げていた。その時、つん、と足をつつかれた。足元にいたのはピカチュウで、その手には赤いバラの蕾が握られている。それを私の方に差し出しているのだから、多分、私への贈り物だ。

「……ありがとう」

 ピカチュウを抱き上げれば、甘えた声を出しながら擦り寄ってくる。それが可愛らしくて、頭を撫でていれば走ってくる足音が聞こえた。

「ピカチュウっ!」

 息を切らしながらやってきたのは、今日のパーティーの主役、サトシだった。ピカチュウは、彼を見るなり、私の腕から抜け出し、今度はサトシの肩へと登った。

「全く、先駆けしやがって……」
「サトシ?」
「いーや、なんでもない! それで、その花受け取ってくれたんだな」

 その目線は、私の持つバラの蕾へ注がれる。

「サトシからだったんだね。……ありがとう」

 きっと鈍い君のことだから、この花の花言葉を知っている私が浮かれていることを知らないのだろう。花言葉は――。

「“純粋な愛、愛の告白”」
「え?」

 まさか、その言葉が彼の口から出てくるなんて思っても見なくて、私の口からは間抜けな声がこぼれ出る。
 彼の顔は、バトルで見せる真剣な表情そのもので。

「……聞こえてなかったかもしれないけど、あの日、俺から逃げたお前に俺、言ったんだ」

――“俺がポケモンマスターになるまで待ってろ”って

「あの時、俺はトレーナーとしても、男としてもまだまだ未熟で。そんなんじゃ、絶対にお前に迷惑かけるってわかってたから。だから、ケジメとして俺が夢を叶えるまで待ってて欲しかった」

 帽子のつばを下げて、一瞬表情を隠したあと、私に顔を見せたサトシ。その表情はとても、柔らかいもので。言うならばそう、愛する人に向ける顔。

「遅くなってごめん。でも、聞いてくれるか?」





(俺は、お前のことが好きだ)
(俺のそばにずっといてくれ)

(その言葉は、とても嬉しくて涙が溢れた)
(私は、勿論――はい、とか細い声で答えた)


‐‐‐‐‐‐

 あけおめー、()
 前の小説のやつの続きがかけなかったので、あれは放置。今回はサトシだよー。なんか、再熱した((
 捏造ばっか、笑
 

10:遥姫 ◆ml2:2016/01/31(日) 16:57 ID:gBQ



 長編書こうとして、でも挫折しそうだなと悟りボツになったネタ。()
 少し長いかも、なので、設定を提示ー。


・ぬらりひょんの孫の原作沿い。
・これから書くのは、牛鬼編のお話。


【夢主】
・名前は、奴良リオ。リクオの姉。15歳ぐらい
・リクオのために、男として現在総大将の後を都合と奮闘中。学校には通ってない→家庭教師がいる。
・元は物静かだが、総大将になるため荒っぽい性格にした。
・リクオとは違い、クォーターではなく半妖。


 これぐらい。姉弟愛有りです、注意。
 じゃ、次からスタート。
 

11:遥姫 ◆ml2:2016/01/31(日) 17:10 ID:gBQ


 父様が死んで、数年が過ぎた。
 可愛い弟のためならば、私は男になり、魑魅魍魎の主になりましょう――。



 部活の合宿先が捩眼山だと知った。そこは、俺が総大将になることをよく思っていない牛鬼組の本拠地。リクオに、直接の関係がないとは言えどもリクオも確かにぬらりひょんの孫。何もないわけがない。そう思って、付いていった結果、俺の予想は見事に的を居ていた。

「リオ様……! だめです、お下がりください……!」
「氷麗、俺は大丈夫だ。お前は安静にしてろ」

 後方で叫ぶ氷麗の足は、鋭い刃物で刺され真っ赤に染まっている。それでも尚、俺のことを気にかけてくれる彼女の優しさを背中に受けて、目の前の敵を見据える。

「牛鬼は、お前たちはそこまで俺のことが気に食わないか」
「例え、お前がぬらりひょんの孫であろうが、女は弱い――っ!」
「くっ……」

 牛頭丸と名乗ったその妖怪は、刀を手に俺へと斬りかかる。俺も、刀を構えてその一閃を受け流す。しかし、人間の体ではこれが限界で、ただ俺は逃げ回るのみ、
 俺の親父も、半妖で、畏れを操り常に妖怪の姿でいた。しかし、対して俺は才能がないのか、その恐れを上手く操ることができず、今だ人間の姿。女であろうが、妖怪の姿ならば優勢な位置に立てるはずなのに。そう思ったとき、油断していた俺は手に持っていた刀をはじかれてしまった。

「これで終わりだ、――奴良リオっ!」

 刀を持たない俺に、牛頭丸は先程よりも勢いをつけて斬りかかる。
 防ぐ手を持たない俺は、痛みに耐えるために構え直す。そして、――きん、と何かが刀を弾く音が響いた。

 

12:遥姫 ◆ml2:2016/02/07(日) 20:16 ID:gBQ


 俺の視界を埋め尽くしたのは、幼少期、俺の背中を追いかけてきた弟の――リクオの背中だった。
 リクオが弾いた刀は牛頭丸の手から離れ、少し遠い位置の地面に突き刺さる。

「兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「リクオ様!」

 此方へ目線を向けずに俺に話しかけたリクオは、普段の温和な時とは違った。そう、言うならば妖怪の時の雰囲気と似ていた。
 俺がそれについての疑問を投げかける前に、氷麗が傍へとやって来る。元々足を負傷しているくせに無理に移動していたせいか、足が先程より赤く染まっている。

「お二人共、お逃げください。あの者は、若たちの命を狙っております。ここは、この氷麗が――」
「いや、俺がやる。だから、リクオ、お前は氷麗と一緒に――」
「いい加減にしねぇか」

 小さくでも低くその威厳溢れる声は確かに目の前の弟から発せられたもので、俺も氷麗も口を閉じる。
 リクオは、少しだけ此方へ顔を向けた。

「氷麗も、“姉ちゃん”もここで待ってて。……大丈夫だから、僕が何とかするから」

 そう言ってリクオは駆け出した。
 ――俺は随分と昔から男を演じてきた。リクオは、父さんが死んだせいかそのあたりの記憶が曖昧になっていて、俺が女だったことも忘れていたはず。なのに、今、リクオは“姉ちゃん”と言った。

(思い出したのか……?)

 なんにせよ、リクオに何らかの変化があったことは確かで、俺は牛頭丸とリクオの戦いを見守ることしかできなかった。
 

13:遥姫 ◆ml2:2016/02/14(日) 23:35 ID:gBQ


 闘いが始まって少し――牛頭丸がついに畏れを見せた。その爪で何やらかの呪文で動きの取れなくなったリクオへと襲いかかる。
 俺は、訳も分からずリクオの前へ体を投げ出す。ただ、大切な弟を守りたいという思いだけで。

「リオ様――っ!!」
「姉弟諸共……、これで終いだぁぁああ!」

 目の前に爪がかざされる。それを防ぐ武器もない俺は、ただ目をギュ、と瞑った。やがてやってきたのは――痛みではなく、どさりという音と静かな沈黙。そして何故か俺は浮遊感を感じていた。

「え……」

 目を開ければ、そこには妖怪へと転じたリクオがいた。
 地面へと目を向ければ、刃で爪を切られ、意識を失った牛頭丸の姿。再び、リクオへと目をやれば手には刀が握られていた。

「リク、オ……?」
「姉貴……なんて無茶しやがる。今は人間の姿だってのに」
「リクオ様、リオ様……!」

 負傷した足を引きずり、氷麗が駆け寄ってくる。その姿を一目見たあと、リクオは刀をしまい、空いた手で優しく壊れ物でも扱うように俺の頬を撫でた。

「もう、大丈夫だ。……知ってたよ、自分のこと――夜、こんな姿になっちまうんだな」

 そういったリクオの頬に流れていた一筋の血が、まるで涙のように見えた。
 

14:遥姫 ◆ml2:2016/02/14(日) 23:43 ID:gBQ


 あの後――リクオは、牛鬼のもとへ行くとそう言い残して消えてしまった。だから、俺は、今、眠ってしまった氷麗を抱えて石階段を下りていた。
 暫くして前方から微かな光と、足音が聞こえた。それはやがて大きくなり姿を見せたのは、リクオの友人のカナちゃんだった。

「リオさん……!……と、及川さん?」
「カナちゃん……こんなところ一人だなんて、危ないよ」
「それはこっちの台詞です。……他のみんなは?」
「それは……」

 俺は、言葉を濁す。清継君、島君はきっと無事だろう。しかしリクオは――。
 俺はどうしたい。できるならば、すぐに追いかけたい。でも今の俺では足でまといになるに決まってる。けれど、俺はあいつの兄貴、だから――。
 様々な思いが俺の中を駆け巡る中、ぎゅ、と俺の着物の裾を握る気配があった。

「氷麗……?」
「リオ様……、私のことは気になさらないで。リクオ様を……、リクオ様の所へ……」

 俺にしか聞こえない声で、囁くように言ったあと氷麗はまた目を閉じ、裾を掴んでいた手もだらりと下に垂れた。
 氷麗の言葉では、と気づく。――きっと、俺は行かなくてはいけないのだろう。足でまといだとしても、奴良組のために、俺たちのために、今までのことにすべて決着をつけなくちゃいけない。

「カナちゃん。氷麗をよろしく」
「え……、え、でもリオさんは?」
「俺は、3人を探しに行ってくる」
「え、あ……!」

 素早く氷麗をカナちゃんに渡し、俺は階段を今度は駆け抜けるように登っていく。行き先は、山の上――!
 

15:遥姫 ◆ml2:2016/02/15(月) 00:02 ID:gBQ


 俺が到着した時には、もうすべて、終わっていた。
 床の上には腹を切り、血を流して倒れる牛鬼とそれを見下ろすリクオ。リクオも、腹の辺りを抑えている。そして、傍らには黒羽丸とトサカ丸もいた。

「――もはやこれ以上考える必要はなくなった」

 牛鬼は、刀を構えた。しかし、リクオは動じない。

「これが私の、結論だ!!」
「牛鬼貴様ぁああ―――!!」

 しかし、その刀が振り下ろされることはなく、一直線に牛鬼の腹へ向かう。俺はそれを止めることができず、ただ手を伸ばすのみ――。
 キン、と音が静寂の中で響く。牛鬼は、生きていた。

「――-なぜ止める?リクオ………」

 リクオの刀の一閃で、牛鬼の刀の派は、近くの柱へと突き刺さり、柄は牛鬼の手から離れてからん、と床へと落ちる。

「私には、謀反を企てた責任を負う義務があるのだ。なぜ死なせてくれぬ……牛頭や馬頭にも合わす顔がないではないか」
「オメーの気持ちは痛てぇ程わかったぜ」

 リクオは牛鬼の前に立ち、そして見下ろす。

「俺が腑抜けだと俺を、――姉貴を殺して自分も死に。認めたら認めたでそれでも死を選ぶたぁ、らしい心意気だぜ牛鬼。――だが、死ぬこたぁねぇよ。こんなことで……なぁ?」

 リクオは、刀を肩へのせ不敵に笑う。そんな彼に、牛鬼も黒羽丸らも驚いた表情を見せた。

「若!? そんなことって……!!」
「これは、大問題ですぞ!!」
「ここでのこと、お前らが言わなきゃ済む話だろ」
「わ、若ぁ……」

 黒羽丸たちの困った反応を見、リクオは牛鬼へ顔を寄せた。

「牛鬼……さっきの答え。人間のことは、人間んときのオレに聞けよ。気に入らなきゃそん時斬りゃーいい。その後……勝手に果てろ」

 背を向け、戸口へと歩いていくリクオ。牛鬼は、まるで糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちそうになり、それを俺は支えた。

(2人が、奴良組がこんな目にあったのは俺のせいだ)

 そんな確信があった。
 リクオを守りたい一心に、奴良組を引き受けて、でも結局それは組のことなんて思ってなかった。ただの、俺の――私の自己満足だった。

「ごめん……、ごめんね……牛鬼」

 記憶の中にあった、あの優しげな牛鬼を思い出し、気を失った彼を抱えて、私は泣いた。
 

 

16:遥姫 ◆ml2:2016/02/15(月) 00:06 ID:gBQ


 流石妖怪ともいえよう。翌朝には、牛鬼は目を覚ましていた。
 リクオが話を終えて出て行ったあと、俺は、部屋の中へと入り込む。

「リオか……」
「今回は、ごめん。……俺の浅はかな考えのせいで、こんなこと……」

 牛鬼の傍らへと座り、顔を俯かせて俺はつぶやいた。
 ため息をつく音が聞こえたあと、俺の頭に温かな手が乗せられた。

「え……」
「お前の、リクオを守りたい思いは承知している。だが、それが組のことになるとは思わない」
「牛鬼……」
「今回のことで、リクオは変わるだろう。……お前も、すべてを抱え込む必要はない」
「……うん」

 俺が涙をこらえているのに気づいていたのだろうか。牛鬼は、不器用に、でも優しく俺の頭を撫でてくれていた。
 

17:遥姫 ◆ml2:2016/02/15(月) 00:16 ID:gBQ


 牛鬼の部屋を出て、廊下を歩いていれば、柱に背を預けたリクオがいた。どうやら俺を待っていたようで、俺が現れた瞬間、柱から背中を話した。

「……兄ちゃん、話があるんだ」

 何を言われるのだろうか。そのリクオの一言でそんな不安が自分の中を埋め尽くす。
 俺は聞かないふりをして、その横を通り過ぎようとする。でも、リクオがそれを許すはずもなく、俺の手を捕まえる。

「兄ちゃん――」
「ごめん、……これで許されるのなら、俺は何度だって謝る」
「何を言って……」

 すべての原因は、俺。牛鬼はああ言ってくれたけれど。俺がもっと自覚すれば、今までどおり奴良組は引っ張っていけるはず。
 俺はリクオからの逃れようと、手の束縛をなくそうとする。

「俺が悪かったよ。だから――」
「――姉ちゃんっ!!」

 リクオにそう呼ばれて、俺は、は、と体の動きを止めた。その数秒後に、此方へ向かってくる足音が聞こえてきて、リクオは俺の手を掴んだまま近くの空き部屋へと飛び込む。
 いきなりのことでバランスを崩しかけた俺は、畳に倒れ込む覚悟をと、目を閉じた。でも衝撃はやってこず、逆にやわからな体温が体を包む込む。

「リクオ……?」

 リクオは、俺をギュ、と正面から抱き抱えていた。
 いつの間にか占められた襖の外からは慌ただしい足音と声。次第にそれは遠ざかって行って、それでもリクオの俺を抱きしめる腕は緩まない。

「リク――」
「もう、無理しないで」

 名前を呼ぼうとして、リクオに遮られた。それは、すごく辛そうな声。

「謝るのは僕の方。今まで気づかなくてごめん。辛かったよね、悲しかったよね……。姉ちゃんは、僕の姉でぬらりひょんの孫である前に――ひとりの女の子なのに」
「リク、オ……」
「……泣いていいよ。今までの分、ここで全部吐き出して」

 そう言われて、もう我慢ならなかった。私は、リクオにすがりついて、声を押し殺して泣いた。昨夜流した涙よりも、さらに長く泣いた。
 

18:遥姫 ◆ml2:2016/02/15(月) 00:25 ID:gBQ


 ひたすら泣いて、涙が泊まった時には私の短い髪を、リクオは優しく髪撫でていた。

「姉ちゃん……長かった髪、切っちゃったんだね。口調も全く変えて……」
「リクオ……」

 先程から、リクオとしか言えていない。それぐらい、私はほかの言葉を紡ぐ余裕なんてもの無かった。

「――もう、抱え込まないで。偽らず、女の子として生きてよ。僕が、守るから。奴良組も、姉ちゃんも……僕の大事なものすべて」

 ぎゅ、とリクオは私を強く抱きしめた。漸く落ち着いてきた私は、久しぶりに使う口調に戸惑いながらも、言葉を紡ぐ。

「嫌です」
「なんで……?」
「私は、ひとりの女で、貴方の姉で、ぬらりひょんの孫だから。守られるだけは嫌です。そんなことをしたら、リクオも私のように抱え込んでしまう」
「姉ちゃん……」
「一緒に……、一方的に守るんじゃなくて。2人で、守っていきましょう」

 きっと、私たちは一人では成り立たない。二人で成り立つのだと思う。
 リクオは、小さく頷いて、私を抱きしめ直した。


 あれから、私は女として過ごすようになった、髪も伸ばし始めた。でも、一部の人間や妖怪は、私の本当の性別を知らない。いつか、話せたらいいと今は思っている。
 ――私は、リクオのとなりで生きていく。一人じゃなく。二人で。そうすれば、私たちは何倍も強く優しくなれるから。



fin
 

19:遥姫 ◆ml2:2016/02/15(月) 00:26 ID:gBQ



 よくわからねー、(棒)←
 一体何が書きたかったんだろう、私。不思議だ。
 ……まあ、ええや、終わったことは気にしない!

 さて、そろそろテストあるんで、休みます。んで、終わったら、拓珠か、真珠の転生小説書こうかなと。長さとしては、中編……ぐらいかな。
 

20:遥姫 ◆ml2:2016/02/28(日) 02:02 ID:gBQ



お姫様と、その騎士 【 らくだい魔女 / チトセ×フウカ 】



 俺の幼馴染は、銀の城のお姫様――の、はずなのに全然姫らしくない。
 宿題は忘れる、遅刻・赤点は当たり前。女らしさの欠片もない。そんな、俺の幼馴染だけど。


――あたしは負けないっ。あたしを信じてくれる仲間がいるんだもの。闇には負けないっ


 強く、優しく。頑固者で、でも放っておけない。そんな奴。
 自分のことを考えず、他人のことばっか考えるから危なっかしくてしょうがない。だから、俺が守るって決めたんだ。

「チートーセー! 早く帰ろー!! ねぇ、チトセー!!」
「あー、はいはい。わかったから何度も言うなって」
「なら早く来てよねー!」

 今まで以上に強くなって。誰からも守れるようになって。胸を張って、お前の騎士になってやるって言える日まで――この気持ちはしまっておこう。
 視界の先で、綺麗な金色の髪がふわりと揺れる。気づけば、フウカの顔が近くにあって。

「何、ぼーっとしちゃってんの? とうとう、頭おかしくなっちゃったの?」
「ばーか。そんなわけあるかよ」

 これだから鈍感は。高鳴る鼓動に気づかれないよう、フウカよりも先に箒を走らせる。


 ――不器用で、全然姫らしくないお姫様。だけど、俺はそんなお姫様の、ただひとりの騎士になりたい。
 ――だから、騎士になったときに伝えるよ。お前のことが好きだって。


----

 うん、意味がわからんね。
 久しぶりのチトフウ。本を見つつ、口調確認しつつ、ね?、笑

 なんか書きたいのと違ったような気もしなくもない、が。…まあ、今のところはこれでいいか。

 

21:遥姫 ◆ml2:2016/03/02(水) 21:36 ID:gBQ


 新月の夜の訪問者 【 ぬらりひょんの孫 / リクオ×夢主 】


 風呂上り。階段を登って自室の扉を開ければ、壁に背中を預ける一人の客人――いや、侵入者といったほうが正しいかも――がいた。

「よぉ、邪魔してるぜ」
「……ねぇ、あんた、どっから入ってきたの? 今日は窓の鍵も閉めておいたはずなんだけど」
「そらぁ……俺がぬらりひょんだからだ」

 そいつの言うとおりで、新月の夜に決まって私の部屋へ訪れるこの男は、ぬらりひょんという妖怪、らしい……が。

「それがなんだって言うのよ!! 私、勉強しなきゃいけないの。早く帰ってってば」

 窓を全開にし、男の背中を押して強引でもいい、追い出そうとした。でも、あのぬらり、くらりと躱すこの男にそれが通じる訳もなく、いつの間にか彼は私の目の前にいて、覆いかぶさるようにしで抱きしめられていた。

「つれねぇな……」
「い、いから……、離してってば!!」
「顔が赤いじゃねぇか。どうした?」
「べ、別に……」

 無駄に美形だから、その顔外気が触れ合うほど近くにあるから顔が赤くなるのであって、決して好きってわけじゃ――。

「へぇ……、“好き”ねぇ」
「はっ……」

 どうやら、口に出してしまっていたようだ。違う、違うからと必死に弁解する私を見て、男はくつくつ、と喉を鳴らして笑う。

「そぉかい。お前はそんなに俺が嫌いか」
「そ、そーよ!! 嫌いよ、あんたみたいな奴」
「――俺は好きだけどなぁ」

 空気が固まった。え、今この男、なんて言ったの。好き、私のことが好き?
 頭の中が真っ白になって、呆然としているのが悪かった。男は、さらに顔を近づけて。

「っ……」

 軽く唇を触れさせた。私の唇に。
 顔が熱い。これでもかってぐらいにきっと、真っ赤になってる。
 唇をパクパクさせるだけで、肝心の言葉が出てこない私。男は、またもやくつり、と笑った。

「俺は、狙った獲物は逃がさねぇ。必ずや仕留めてみせる。――だから、覚悟しとけよ」



(彼は、私の耳元でそう囁いた)
(さらに顔を熱を上げた私を、彼はまた笑った。――今度が愛しげに)


----

 何が書きたかったんだろうね、私()
 なにか書きたくて結果がこれだ。…まあ、満足できたしいいかな。

 で、中編、どうしよーかな。
 
 

22:遥姫 ◆ml2:2016/03/07(月) 22:36 ID:gBQ


一緒ならば 【 ぬらりひょんの孫 / リクオ×夢主 】


 宴の夜。騒がしい妖怪たちの声を背に、私と、そしてリクオは縁側で座っていた。
 何も言葉は交わさない。でも、とても穏やかな時間。
 つぼみになり始めたしだれ桜を見る。

「変わらないね、ここは」

 ここに住む者たちは血が繋がっているわけではない。でも本当の家族のようで。すごく暖かい。普通の家庭で、親からの愛情を受けて育ってきた私でも、ここの温もりは羨ましい。

「……ずっと、ここの暖かさに触れていたいな」

 ぽつりとつぶやいた。それができたらどんなにいいだろう。
 ふと、左手にぬくもりが宿る。目を向ければ、赤色の全てのもの魅了する瞳と合う。

「――じゃあ、来るかい?」
「え?」
「俺の嫁として。奴良組に」

 時が止まる。
 賑やかな妖怪たちの声も聞こえなくなる。

「え、ちょ……質の悪い冗談?」
「そんなわけねぇ。俺はお前に心底惚れてんだ」

 リクオの手が腰に周り、私を引き寄せる。酒のかすかな甘い香りで酔いそうになるほど、顔が近い。

「私……人間だよ? きっと、奴良組のお偉いさんに反対されるよ」
「なら、俺がねじ伏せてやる。俺は、奴良組3代目総大将だからな」

 口角を上げて、自信有りげに言われてしまえばもう何も言えない。だって、今までの人生で彼がその自信に応えないことはなかったのだから。

「俺と一緒になれ」

 もう、言葉はいらない。自然とまぶたが降りて視界が暗闇になる。唇にかすかな温もりが宿った。
 胸が幸せでいっぱいになる。

(生きよう。この人とともに。壁があってもきっと一緒なら乗り越えられる)

 私もリクオの背中に手を回す、その想いに応えようと唇を重ねる。
 2人の世界で、しだれ桜だけが私たちを見つめていた。
 

 ---

シリーズもの。続きます
 
 
 

23:遥姫 ◆ml2:2016/03/07(月) 23:27 ID:gBQ


(……入りにくい)

 昼頃。私は、奴良家まえの門の前にウロウロしてます。
 いやだって、昨日のことがあったわけだし入りにくいんです。

(でも、結婚、かぁ)

 そんなことができる歳まできちゃったんだ。そう思うとどこか寂しい気もする。
 そう、リクオと出会ったのはこの場所だった。


 ここに引っ越してきたあの日。大きな子の家が物珍しくて、礼儀も知らず覗こんでいればたまたま見えてしまった妖怪に失神してしまい。次に起きたとき、私がいたのはさっきまで見ていた家の中。目があったのは、まだやんちゃだったリクオ。

『遊ぼ!』

 その言葉に誘われ、私はリクオとそしてそのお付の妖怪たちと遊んだ。
 本当に、純粋な頃だったから妖怪たちの存在をすんなりと受け入れて――まあ、最初は怖かったけど――この奴良組は、私の居場所の一つになった。

 けど、あの日、リクオは妖怪として目覚め、そして変わってしまった。
 中学に上がったらあの幼い頃のやんちゃさも消えてしまった。寂しかった気もした。でも、きっとリクオも悩んでたんだ。だから、私は彼のそばにいることを選んだ。
 それから、1年。リクオは人間としても、妖怪としても大きく成長した。そして、清明を倒し、リクオが帰ってきたあとの宴で、私は告白された。

『僕は君が好きだよ』

 その顔は、今までの幼かった彼じゃない。大きく成長した大人の人だった。
 こんな私でもいいのか。そう思ったけど、でも嬉しかったから私は返事を返した。

『私も、好き』


(恋人なら、まだ良かった。でも、結婚となると――)

 きっと、昨日は私もリクオも酔っていた。普通、人間と妖怪が結ばれることはありえない。リクオのおじいさんやお父さんがそうだったとしても。
 それに、後継のことを考えればリクオのお相手は、純血の妖怪のほうがいい。
 昨日は、返事を曖昧にしてしまった。でも、だから昨日のことをなかったことにもできる。だから私はここにいるんだから。

(……ああ、でもなぁ)

 ほんと、根性なし。

「……侑葉(ゆうは)さん?」
「あ、氷麗ちゃん」

 ぱたぱたと氷麗ちゃんが駆け寄ってきた。

「今日はどうされたのですか? リクオ様にご用事でも?」
「まあね。……リクオは?」
「リクオ様は――」

 ちらり、と氷麗ちゃんは屋敷の方へ目を向けた。

「実は、朝から様子が変で……。あっちこっちを歩き回ったり、ぼーっとされる時間が多かったりと……」

 その姿が安易に想像でき、思わず苦笑する。
 きっと、昨日のが原因かな。

「そっか……じゃあ、尚更だね」
「え?」
「案内してくれるかな? リクオのところまで」
 

24:遥姫 ◆ml2:2016/03/07(月) 23:42 ID:gBQ


 とある一室にリクオはいた。
 座り込んで腕を組み、考え事をしているようだった。

「リークオっ!」
「え、侑葉!?」

 声をかけると本当に気配に気づいてなかったのか、肩を揺らして振り返る。その表情は驚きそのもの。

「い、いつから」
「今さっき。……ねぇ、昨日のことだけどさ」

 誤魔化すよりもさくっと解決したほうがきっといい。
 リクオの傍に正座して座る。

「私、ちゃんと返事返してなかったでしょう?」
「うん……」
「――やっぱり、私たちの結婚は難しいよ。リクオがやめよう、そう言ってくれればまだ、なかったことにできるよ」

 本当に嬉しかった。今まででない最高の幸せ。
 でも互いの未来を考えて、ここは引くべきだって思う。大丈夫、まだ間に合う。
 もし、昨日のプロポーズの否定が入ったなら。この関係も終わらせようと思ってる。結婚しないんだから、次のためにも別れたほうがいい。
 私も、もう、ここにはこない。

「リクオは、どうしたい?」

 リクオは、ぎゅ、と膝の上で作った握りこぶしを握った。
 そして、私に手首を掴んだ。
 一気に近くなる距離。慣れなくて、顔が赤くなる。

「り、リクオ?」
「僕は、本気だよ。君とずっとに一緒にいたい。この気持ちは、君に告白した時から変わらない」

 あの告白の時、既に考えてたってこと?

「昨日の言葉だって、嘘じゃない。どうしようもなく、君が好きで、愛しいから……僕は侑葉と夫婦になりたい」

 告白されたあの日より、さらに大人びた顔。夜とは違う、けれど見た人を離さないその瞳に吸い込まれそう。

「……いい、の? 私、人間だよ。弱いよ。……世継ぎのこととか、周りだって反対してくるかも」
「昨日、言ったでしょ?」

 掴まれた手を引かれて、一回りも大きくなった体に抱きしめられる。

「そんなものどうにかしてみせる。君のためだったら。……僕を信じてよ」

 切ない声が耳を掠める。ああ、もう、本当に……。

「君が好き、大好き。僕と結婚してください」
「はい、……貴方の隣に居させてください」

 今度こそ。もう後戻りはできない。でも、満足感が私を満たす。
 私はこの人が好きで、彼も私が好きで。なら問題ない。きっと、――大丈夫だ。

 

25:アヤカシ:2016/03/20(日) 01:18 ID:gBQ


 朝。【 RF4 / ダグ×フレイ 】


 ぱちり。仄かに光が照らす部屋の中でダグは目を開けた。窓の外は既に真っ暗で、真夜中であることを示している。
 いつもならばすぐ寝付けるはずなのに、なかなか眠ることができないのはなぜか。――それは、隣にいつもあるはずの温もりがないからだろう。

 今日は、街の年頃の女の子によるパジャマパーティーらしい。妻であるフレイもまたそのパーティーに呼ばれているらしく、宿泊のセットを持って部屋から出ていった姿は記憶に新しい。

(……新婚の時期じゃ、あんなに恥ずかしがってたのになァ)

 結婚式があった夜。隣に愛しい人がいると思うとなかなか寝付けなかった。だが、今の状況は全くの逆。
 いつから、自分は誰かの――あの少女の温もりがなきゃ眠れなくなった?冷たい温度に慣れていたはずの自分が、温もりがないことに寂しく感じ始めたのはいつ?

(あーあ……、早く朝になってくれねぇかナ)

 再びダグは瞼を閉じた。



 眩しい光が顔を照らす。ダグは傍らにだれかの気配があることに気づいて、うっすらと目を開ける。
 ぼやけた視界の先で見えたのは、昨夜はいなかった人の顔。目に捉えた瞬間、ダグの頭はすぐに覚醒する。

「ふ、フレイ……!? いつ帰ってきたんダ?」
「今さっき。もう8時になってる」

 壁にかけられた時計。確かに針は8時すぎを示している。

「ぅお……マジカ」
「もう……寝坊助さん!」

 ちょん、と眉間をつつかれる。
 感触がくすぐったくてダグは目を細めた。

「――おはよ、ダグ」
「はよ、フレイ」

 今日も、いつもと変わらない。でも何かに満たされた一日が始まる。

 ---

 …主旨が見えないや。
 
 

26:遥姫 ◆ml2:2016/04/01(金) 15:14 ID:gBQ


近くて遠いその関係 【 うたの☆プリンスさまっ♪ / 翔×夢主 】

 幼なじみ。
 それは、切っても切れぬ関係。



 いつものように、机をくっつけて友千香と、ハルと3人で弁当を食べる。
 昨日のテレビの話題から、最近の流行の話を終えた頃、友千香がある一点を見つけて、ふと、呟いたのだ。


「思ったけど…、翔ちゃんとあんたって、本当仲いいよねぇ……」
「そう?」
「はい! 見てて羨ましいです」
「……そうかなぁ」


 友千香が見つめていたのは、クラスの男子と騒いでいる私の幼馴染である翔。
 でも、仲がいいと言われても学校では必要な時ぐらいしか話さない。どっちかというと友千香やハルと喋る方が多い。そう伝えると、友千香は溜息をついた。


「仲いいじゃない。今朝だって、一緒に登校してきたし」
「でも、それは幼なじみだし、近所だから」
「幼なじみでも、近所でも、一緒に登校してくる男女はそういないってば」


 確かに言われてみればそうかもしれない。
 でも、それがどうした、っていう話。


「というか、なんで、そんな話になるの?」
「仲いいならいっそのこと、付き合っちゃえばって話よ」
「な……」


 唖然とする私の手から、箸が床へと転げ落ちかけるが、タイミングよくハルがキャッチしてくれたおかげて、どうやら水道まで行く羽目にはならなかったようだ。
 箸を受け取り、今度は落とさないよう机の上に置いたあと、改めて問いかける。


「……友千香。もう一回聞くけど、なんでそんな話になるの」
「はぁ……、あんたたち見てるとほんっと、いじらしいのよ。とっとと付き合えばこの苛立ちも収まるっつの!」
「と、トモちゃん……」
「それに!……あんた、翔ちゃんのこと好きなんでしょ?」


 バッチリ見破られてしまった。何も言えずにいれば、「図星ね」と言われ、ため息までつかれてしまった。


「なら、告白しちゃえばいいじゃない」
「……そう簡単にいかないのが、幼なじみってものだよ。友千香」


 ちらり、とまた翔の方を見ると。先程まで一緒にいた男子の姿は見えず、今度は数人か女子の姿があった。
 翔はお洒落さんだから、よく女子のファッションについての相談を受けてる。でも、こっちからしたら見え見えなんだよね。翔が好きだから、お洒落はその話題の種にしているだけだってことが。

 でも、翔は鈍いから、そんな女の子とたちの気持ちに気づかない。そんな翔に、幼なじみである私も想いを寄せてると伝わればどうだろう。――確実に、この幼なじみである関係は崩れてしまうだろう。


「好きだよ、どうしようもないくらい」
「なら」
「……でもね、きっと彼奴は私のことを幼なじみとしか見てないから。なら、この関係で満足しとかなきゃいけないの」


 私は、力なく笑った。



 幼なじみ。
 それは、近いようで遠い関係。

 ---

 トモちゃん大好きです。
 あと、真弘先輩と翔君って、なんか似てるよね、色々と、()
 

27:遥姫 ◆ml2:2016/04/04(月) 22:43 ID:gBQ


 ――珠紀は屋上で続く階段をゆっくりと登っていた。

 今は放課後。ほとんどの生徒が部活に励んでいる時間だ。だが、珠紀は今日この学校へ転校してきたばかりなため、部活はない。かといって、そのまま帰ってしまうのも惜しい気もした。

 新しい学校に慣れるためにも、少し構内を歩いてみようという考えのもと、先程まで音楽室やら調理室やらいろんなところを歩き回っていた。そろそろ帰ろうと思った、その時、ふと屋上へ続く階段を見つけたのだ。そして、導かれるようにして珠紀が屋上への階段を上り始めたのだ。

 登り続けて、ようやく鉄の扉を見つける。
 片手で押してもびくともしない。ならばと両手で押すと、古い扉特有の鈍い音を立てながらその重たい扉は開いた。

 その時、一陣の風が珠紀を襲った。さほど強いものではない、しかし急だったためか、咄嗟に珠紀は顔を守るように両腕をかざす。
 暫くして、風が腕を打ち付ける感じがしなくなったのを確認し、珠紀は両腕を下ろす。そしていつの間にか、つぶっていた目を開ける。そして、その瞳は直ぐに大きく見開かれた。

 珠紀の目の前に人がいたのだ。柵の上に両腕をおいて、そして顔をグラウンドの方へ向けている。
 向けられた背中に、珠紀の胸はざわついた。動機が荒い。そして、心がひどく締め付けられた。


(何、これ……)


 珠紀は、訳がわからなかった。ここに来たのは初めてで、そして目の前の人を見たのも初めてだ。しかし、その後ろ姿が懐かしいと感じる。

 口が勝手に開いて、言葉を発する。しかし、ひどい乾きのせいか声が出ない。もう一度、と声を発し用としたとき、その人は振り返った。

 
  

28:遥姫 ◆ml2:2016/04/04(月) 22:43 ID:gBQ


「――っ」


 男にしては、その瞳は大きい。そのせいか、中性的なイメージをわかせる。体もやはり小柄だ。何より印象的なのは、深い緑色のその瞳。夕暮れでその瞳は少し光っており、まるで宝石のように見える。

 その少年は、少しばかり目を見開いた。今の今まで、珠紀の存在に気づいていなかったようだ。しかし、そうしていたのも少しの間。じっとしたままの珠紀を不思議に思ったのか、眉間にシワを寄せる。


「おい、何そこにつったってんだよ」


 声変わり前の、やや高めの音。――ふと、頬に温かいものが伝った。
 少年は、珠紀にぎょ、とした目を向けた。そして、慌てるように珠紀の方に駆け寄ってきた。背は珠紀と同じくらい、目線の位置はやや同じだ。男の子にしては低いな、と珠紀は呆然と思っていた。
 珠紀の目の前にやってきた少年は、今度は心配げに眉を下げる。


「なんで、泣いてんだ?」
「え……?」

 
 指摘され、珠紀は漸く気づいた。己が泣いているということに。「あれ」と、珠紀は頬に手を寄せると確かに温かいものが手に触れる。間違いなく己の涙だった。
 ゴミでも入ったのだろうか。慌てて拭うが、それは一向に止まらない。
 ――悲しい、懐かしい。嬉しい。愛しい。いろんな感情が珠紀の心の中で駆け巡る。この人に会ってから、おかしくなった自分に戸惑い、溢れ出てくる涙に戸惑っていれば、手を引かれた。



「あ……」


 目の前に学校の制服のブレザーが広がった。後頭部を押し付けられている感触がする。今、珠紀は少年に抱きしめられていた。
 驚きで涙が止まる。小柄だと思っていたが、意外に硬いその胸に男の子なのだと実感して、珠紀は恥ずかしさに見舞われた。初めてあった人に、と慌てて胸を押して離れようとするもいつの間にか背中に回されたその腕がそれを許さない。


「ここには俺とお前しかいねーし。なんか、辛いことでもあったんだろ? 胸かしてやるから、存分に泣け」


 どうやら、少年は、辛いことがあったから屋上へやってきて泣いているのだと勘違いしているらしい。でも、都合が良かった。彼を見て、涙が出てきたとは到底言えない、失礼すぎる。そこは、話を合わせることにした。
 暖かい腕に包まれているうちにまた涙が浮かんできて、慌てて顔を胸に押し付ける。泣き止むまではここを動くことができない、なら素直に好意に甘えることにした。


(優しいな……)


 見知らぬ自分にここまで気遣ってくれる優しさが嬉しいと思った。そうしたら、また涙がどんどん溢れてくる。涙腺が切れてしまったのだろうかと疑うほど。
 でも、先ほどの悲しみではない。珠紀の胸は嬉しさ、幸せで満たされていた。理由はわからない。でもそのふわふわとした、感情に身を任すように目を閉じた。

 ---

 中編予定、
 真弘×珠紀の転生の話。原作は、真弘ルートの悲恋後。

29:遥姫 ◆ml2:2016/04/05(火) 11:42 ID:gBQ


桜花爛漫 【 ぬらりひょんの孫 / リクオ×夢主 】 

 浮世絵町には、最も古いとされる桜の木がある。
 春になればそれは見事な桜を咲かせる。

 しかし、ある時からその桜の木に関するおかしな噂が流れ始めた――。


「春じゃないのに桜が咲く?」
「そうなんだよ。昼は葉が生い茂る普通の木。だが、夜になると、綺麗な桜が咲いているらしいんだ」


 パソコンの画面を見ながら、清十字怪奇探偵団団長、清継はそう告げる。聞いたこともない噂に、氷麗とリクオは顔を見合わせた。


「僕はこれが、妖怪の仕業ではないかと踏んでいるんだが……奴良くん、知っているかい?」
「僕が知る範囲では……奴良組にそんな妖怪いたかなー? 氷麗は知ってる?」
「いいえ。私も初めてお聞きました」


 リクオも、またつららも首を横に振る。


「でも、桜が咲くだけなら何の被害もないんじゃ……」
「実は、その桜は人を酔わせるらしいんだ」


 人を、酔わせる?
 その場に集まる団員全員が、清継の言葉を復唱する。


「そう。その桜を眺めていたら、頭がぼーっとし始めて……。気づいたら朝になっていて、自分の姿を見下ろすと――」
「見下ろすと……?」
「何故か上半身裸だったり、顔に変な落書きをされてたりしてるんだ」
「……はぁ!?」


 清継が真顔で告げた言葉に、全員が素っ頓狂な声を上げる。


「それが、つまり……“桜が人を酔わせる”ってこと?」
「そうだ。なんとも不思議だろう」


 人の命に関わることでもない、それはただの妖怪の悪戯なのでは。全員の心の声が一致する。


「でも、この町にそんな古い桜の木があったこと自体初耳だよねー」
「ねー」


 巻と鳥居が顔を見合わせて声を上げる。確かに、リクオもそんな桜があったことは初耳だ。


「若、どうします?」
「おじいちゃんなら知ってるかなぁ……」


 リクオが唸り、考えた末、名前を出したのは――リクオの祖父、ぬらりひょんだった。




「……ってことなんだけど、おじいちゃん、何か知ってる?」
「はて、そんな妖怪おったかのぉー」


 予想外れの答えに、リクオは目を見張る。ぬらりひょんは純血の妖怪。長い年月を生きていたため、特にこの町について知らないものはないとリクオは考えていたのだが。その祖父は知らないのならば、ほかに知っていそうな妖怪はいないだろう。


「リクオや。その妖怪は人に危害を加えるわけではないのじゃろう。ならば放っておけ」


 ぬらりひょんは、そう告げた。だが、リクオはその妖怪が気になって仕方が無かった。

 ---
 急に始まって急に終わるぬら孫夢です。長編にしようとしたけど、いい感じに続きが思いつかなかった没ネタ。
 前回の真弘×珠紀中編は、内容が思いつかないので暫く放置。思いついたら上げていきます、
 

30:遥姫 ◆ml2:2016/04/09(土) 12:57 ID:gBQ

 その日の日暮れ時、リクオは噂の桜の木のもとへやって来た。噂のせいか、また元々こうなのか近くには人の気配がない。
 木を見上げれば、そこには青々とした葉が生い茂っており、どこを見ても普通の桜の木にしか見えない。


「でも、まだ夜じゃないし……もう少し待ってみようか」


 ――現在、リクオは奴良組の3代目。いつ命を狙われてもおかしくない立場でありながら、護衛もなしに夜遅くまでいれば鴉天狗に大目玉を食らうことは間違いないだろう。
 しかし、リクオはひと目でもいいから会って見たかったいと思った、人を酔わせるというその妖怪に。



 赤い空が暗闇に覆われていく。リクオはただ幹に背中をあずけ、その時を待っていた。しかしいつまでたっても桜は咲かない。


「やっぱり、ただの噂……だったのかな」


 何もないところに一本だけそびえる桜だから、変な噂がついたのか。リクオは、溜息をついてその場を立ち去ろうとしたとき、ふわり、とリクオの視界に桜の花びらが舞った。


(え――)


 振り返れば、そこには先程まで葉が生い茂っていた木が今度は、桃色の花を咲かせていた。桜だ。
 聞く通り、その桜は見事なもので風に揺られて散っていく花弁が闇夜に映える。


「綺麗……」


 桜を見つめていれば、頭が熱を持つようにぼーっとし始めた。リクオの瞳は虚ろになったとき、その目の前に桜の中から真っ白な手が差し出され、その手は優しくリクオの頬を撫でた。


――遊びましょ。


 くすくすと笑う凛とした声が聞こえる。その白い手に、リクオの手が掴まれそうになったとき――逆にリクオが、その白い手を取った。


「――あんたかい。……夜な夜な、人間を惑わす妖怪ってのは」


 リクオの姿は、先程とは違った。髪は長く、瞳は赤色に染まっている。夜のリクオだ。
 慌てて桜の中にいる妖怪は白い手を引っ込めようとするが、リクオがそれを許さない。


「観念して、その中から出て来い……!」


 リクオが勢いよく手を引き、桜の中から出てきたその妖怪はすっぽりとリクオの胸の中に収まる。
 その妖怪は、少女の姿をしていた。長い黒色の髪に、淡い桃色の着物。顔を見上げ、リクオを写したその大粒の瞳は桜に似た桃色の瞳をしている。


「お前……」


 見るからに桜を沸騰させる姿に、リクオは確かに目を奪われていた――。

 ---
 前回の続き。まだ、続くよ
 

31:遥姫 ◆ml2:2016/04/16(土) 15:21 ID:gBQ


闇に差し込んだ光 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】


 ふと、真弘は目を開けた。目の前に広がるのは黒。その一色のみ。
 口から空気の泡が流れていく。
 真弘は、静かにその空間を下へ、下へ沈んでいっていた。


(……ああ、そうか)


 ――俺は、鬼切丸の生贄として捧げられたのか。
 そうであるならば、この場所にも納得がいく。ここは、きっと鬼斬丸が封印されている沼の中なのだろう。
 あんな邪なものがあるせいか、沼の水もどこか濁っている。光が一切刺さないほどに。
 どこまで続くかわからないその黒を、真弘はぼーっと見つめた。


(……わかってたことだ)


 あの日、自らの宿命を言われた時からこうなることはもう既にわかっていた。もう、諦めるしかないのだということも。
 己の命一つで、世界が、大切な人が、ものが、全て助かるのならば安いものだろう。
 沼の水は、重たく真弘の上にのしかかり、下へと引っ張っていく。何かに引き寄せられるかのように。


(後悔も、何もない)


 意識が遠くなる。これが氏ぬということか
 これが運命なのだと、抗うこともせず、瞼を閉じかけた真弘。
 ――本当か? 本当になにも後悔はないのか?
 しかし、その彼に心の内の己が声を上げた。


(うるせぇ……もう、どうしようもねぇんだ)


 未だ無様に足掻き続けようとするもうひとりの自分を押さえ込むかのように、真弘は胸に手を置いて、拳を作る。
 声は帰ってこない。今度こそ、目覚めることのない闇に身を委ねようとしたとき、耳にす、と声が聞こえた。


――…ぱい、……ろ先輩。……真弘先輩っ!!

 
 初めはノイズがかかっているような微かな声。しかし、次第にはっきりしたその声は、確かに、己を呼んでいる。意識が一気に覚醒した。
 聞こえてきた、その声は悲痛そうで、苦しげで。でも、いつも聞いていたような気がした。そう、戦いで傷ついて、地に伏せていたとき、ごめんなさいと謝り続けながら耳元で聞こえていた小さな声。
 一筋、――真弘に光が差す。それは、真弘ただひとりを照らしていた。太陽でもない、月でもない、ましては人工の光でもない。暖かい光。


(……いや、そういえばあったな心残り)


 真弘は、思い出した。泣き虫で、頑固で、でも決して立ち止まらず、前を向き続けたお姫様のことを。――己が一番好いていた女性を。光と呼べる存在を。
 そうだ。自分は氏ねない。彼女がいる限り、彼女が自分を求めてくれる限り。だって、彼女は――。


「……俺がいなくちゃ何にもできねぇんだからよ」


 体に力をいれ、手を使って沼の水をかいて上へ浮上する。まとわりつく、重たい水に押されながらも、もがいてもがいて、そして、その光に手を伸ばした。
 
 

32:遥姫 ◆ml2:2016/04/16(土) 15:46 ID:gBQ


 ――顔に光が当たる。その眩しさに耐え切れず真弘は目を開けた。目の前に広がったのは、黒――ではなく、赤色に染まった空。朝焼けだ。真弘は、地面に仰向けに寝転がっていた。
 腕に重みを感じ、首を横へ少し傾けさせれば自分の腕を枕にして、息を立てて眠るひとりの少女がいる。
 脱いだ上着を腕枕の代わりにし、少女を起こさぬように体を起こす。そこは、あの忌々しい剣が眠っていた沼の岸だった。


(……そうか。鬼斬丸、は……消えたのか)


 どれほどの前かはわからない。でも、確かに鬼斬丸はこの世からその存在を消した。自分の身に宿る、封印の力と、少女の玉依の力によって。
 しかし、それは本当に危険なことで。下手をすれば命を落としていた。――いや実際落としかけていたのかもしれない。自分も、少女も最後は命を削って力を注いでいたのだから。


(でも、助かってるということは……、やっぱあの光か)


 鬼斬丸を壊すために、力を使い果たし、気を失う寸前。真弘は、一瞬であるが暖かい光が、少女と自分を包んだのを感じた。
 もとより、鬼斬丸は、天之御中主神が弱きものの助けになるように残した力。始めから負の力ではなかった。それが、鬼斬丸が壊れたことで消滅し、本来の力に戻ったとするならば。あの光は、鬼斬丸の本当の力で。それが、己らを助けてくれたのだろう。


(なんつーか……複雑、だな)


 今まで忌々しい因縁の元凶としか思っていなかったものに最後の最後で助けられるとは。真弘は、小さく苦笑した。
 隣で、むずむずと少女が動く。そして口からこぼれる声は、己の名前で。思わず頬が緩んでしまう。


(全部、終わったのか)


 明るくなり始めた周りを見渡し、改めて実感する。
 全てを終わらせた。今、隣で眠るどこにでもいるような少女が。
 

「……ありがとな、珠紀」


 優しく、その頬を撫でてやれば珠紀は、頬を緩めさせる。それでさえ愛しく見える。
 ――本当にありがとうな、夢でも、現実でも、……助けてくれてよ。
 遠くから、自分たちを呼ぶ声が聞こえる。それは段々と近づいて来る。
 また、隣の少女へ目線を落とし、これから訪れる日々へ思いを馳せた――。


 ---

 唐突ネタ。
 シリアスはよく書くんだけど苦手。
 

33:遥姫 ◆ml2:2016/04/20(水) 01:49 ID:gBQ


君の愛が欲しい 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】


「先輩、あの――」
「お、おう、珠紀。悪いな、ちょっと今から用事が……ってことで、じゃーな!」

 
 ひらりと手を挙げて、颯爽と去っていくその後ろ姿を見て、私は密かに握りこぶしを作った。
 ――鬼斬丸が壊れて、1ヶ月ほどたった。あの頃のことが嘘のように季封村には平和が訪れている……んだけど、最近真弘先輩の態度がよそよそしくなったと思うのは私だけだろうか?

 近づけば逃げる、話しかければ逃げる。もちろん、あっちから近づいて来るなんてもっての他。


(私たち、恋人じゃなかったっけ……?)


 私たちが互いの思いを通わせたのは、ほかの人とは違う特殊な状況の中。氏ぬか、生きるか、そんな命の駆け引きがある戦いの中で、私たちは好きだといい、そしてキスをした。はっきりとはわからないけど、先輩は私のことを「俺の女」と言ってくれたことから、つまり、そういう関係だと思っていいはずなんだけど……。


(……やっぱり、私の思い違いなのかな)

 
 吊り橋効果、というものがある。不安や恐怖を強く感じている時に出会った人に対し、恋愛感情を持ちやすくなることらしい。もし、そうなのだとしたら――。
 一度溢れ出した不安は止まらなかった。でも、やっぱり先輩が浮かべてくれたあの表情はきっと嘘には見えなかったから、私はそんなくだらない考えを振り切るようにして頭を振る。


(そうやって簡単にネガティブなるのが私の悪いところ! 不安なら聞いてみればいいじゃない)


 ぱちん、と勢いよく頬を叩いて、さてどうやって先輩を捕まえようかと、いつの間にか止まっていた足を動かして、廊下を進んでいった。
 

34:遥姫 ◆ml2:2016/04/20(水) 02:02 ID:gBQ


「はぁ、はぁ……漸く捕まえましたよ先輩……」

 始まりは、そう、放課後になって逃げられる前に先輩の教室に行ったところからだ。私の姿を見つけた先輩はすぐさま、前のドアを通って廊下を走っていく。
 それを見て、ほうけているような私ではなく、そのまま先輩を捕まえるべくこうやって暫く鬼ごっこもどきのようなものをしていたのだけれど、先輩が、一口がひとつしかない部屋に逃げ込んだのが運の尽き、漸く捕まえたのだ。
 念のためにと、その腕を掴む。久しぶりに全力で走って、体力を消耗しきり胸で呼吸している私とは反対に、真弘先輩は、少し生きが上がっているものの私よりかはまだ余裕そうだ。もし、先輩がここに逃げ込まなければ――と想像し、ぞくりと未だ続いていたかもしれない鬼ごっこに恐怖を覚え、それを頭の隅に追いやった。


「さあ、先輩。今度こそ観念してください……!」
「な、なんだよ、俺が何かしたっていうのかよ!!」


 わけのわからずに、ぎゃーぎゃーと叫ぶ真弘先輩に、私の今まで我慢していたものが切れてしまったのだろうか、ぷち、と何かが切れた音と同時に私の口は動いていた。


「何か……? ええしましたとも。なんで最近私を避けるんですか? 話しかけても、近づいても……」
「それは……」
「先輩、……私は、先輩の恋人、ですよね?」


 その彷徨う視線に不安になる。先程まで強気だった口調が一気に弱々しくなってしまう。
 ふと、お昼頃に浮かべた嫌な思考が脳裏をかすめる。ああ、もう、なんでこんな時に思い出しちゃうんだろう。


「なのになんで避けるんですか?……私のこと嫌いになっちゃったんですか? あの戦いの中の出来事は、全部、嘘なんですか……?」


 改めてその言葉を口にすると、もう、我慢ならなかった。溜まっていたものが溢れるように双眼から熱いものが頬を流れていく。
 先輩が、ぎょ、と表情を固くさせるのも、お構いなしに、私は涙を拭うことも忘れて、先輩を見つめる。


「ねぇ、先輩……っ、避けられるのが一番辛いよ……。嫌いなら嫌いって言われたほうがマシ……」


 訳も分からず、振り回されて何度も期待して苦しむよりも、フラれてしまったほうがマシのように思えてくる。
 私、何を言ってるんだろう。ふと思い返して、気持ちを落ち着かせるために一旦ここは出直そうと、一言謝罪を入れたあと、すぐさま踵を返して駆けていこうとした。しかし、伸びてきた手が私の腕を掴み、それはかなわない。


「待てよ。……言いたいことだけ言いやがって、俺の話も聞け」


 そのまま腕を引っ張られて、バランスの崩した私は真弘先輩の腕の中。目の前に、紺色が広がった。
 

35:遥姫 ◆ml2:2016/04/26(火) 00:57 ID:gBQ


 先輩に抱きしめられるがまま、私は胸の中でじっとしていた。そうしてどれぐらいの時間が過ぎただろうか、先輩がぽつり、と語り始めた。


「なぁ、珠紀、俺はな。……お前が思っている以上にお前のことを好いてる」
「先輩……」
「だからこそ、不安になったんだ」
「え?」


 一瞬だけ緩みかけた気がまた引き締まる。それってどういうこと?、続きを促すように胸から顔を上げて真弘先輩を見つめた。先輩は、私を少し切なげに見つめ返してくる。ねぇ、どうしてそんなに悲しげなの。胸がひどく締め付けられた。


「お前は、すごいお人好しだ。この戦いの中でいやってほど思い知らされた。……だから、つい思っちまったんだ。お前が、俺のことを好きだと言ってくれたのは、俺を生かすためだったんじゃねぇかって」


 先輩の言葉に思わず呆然とする。先輩、ずっとそう思ってたの?


「そ、そんなわけないじゃないですか……!! 私は、本当に先輩のことが……」
「まあ待て。落ち着けよ」


 思わずカッとなって、先輩に迫る。けれど、先輩は動じるどころか少し困ったような笑みを浮かべて、私の頭を撫でる。それはまるで、私の気持ちを落ち着かせるようなものですごく優しいものだった。
 ずるい。いつもは子供っぽいくせに、時々大人びたような言動を取る先輩が、すごくずるい。でも、そう不満に思いながらも、結局はそれに甘えてしまっているんだ。いつも、私は。
 

36:遥姫 ◆ml2:2016/05/08(日) 01:18 ID:gBQ


「もし、そうだったなら俺はお前から距離を置いたほうがいいと思ったんだ。お前のおかげで、俺は生きている。もし、お前が使命感とかで俺と付き合ってるなら、俺が開放しなきゃいけないって思ってた」


 優しく私の頭を撫でながら、先輩は言葉を続ける。漸く、先輩が私から逃げていた理由がわかった。結局は、私のためだったんだね。本当に、どこまで行っても先輩は優しい。優しすぎるから、不安になる。


「先輩、それは全部、先輩が思っていたことでしょう? 本当にそうだとは限らないよ」
「珠紀……」
「私は、先輩が好きだよ。玉依姫とか守護者とか……そんなの全部なしにして好き。もしも、この宿命がなくて私たちが普通の人間だったとしても、私は先輩を好きになる」


 それは紛れもない自信からくるものだった。きっと、生まれ変わっても私は何度も先輩を好きになる。私は、守護者じゃない、優しくて、時々子供っぽくて、でもかっこいい先輩を好きになったんだから。だから、ね?と、先輩を見つめると、私を見つめる双眼が一瞬驚いたように大きくなり、そして、優しげに細められた。


「ほんと、お前ってさー……」
「なんですか?」
「……いや、なんでもねー」


 ぽんぽん、と軽く私の頭を撫でて、先輩は私から離れる。無くなっていく熱が寂しくて、私は先輩が完全に離れる前にぎゅ、と抱きついた。

 お、おい、珠紀!?、と焦る先輩の声を聞きながら、ぎゅうぎゅう、とその体をさらに強く抱きしめる。


「先輩」
「あん、どうした」
「好きって、言ってくれませんか?」


 先輩の胸から顔を上げて、真っ直ぐに見つめて告げる。先輩は、きょとんとしたあと、しょうがねぇな、と言いたげな顔をしていたけれどその顔は嬉しげに笑っている。

 先輩は、また私の体を抱き抱える。今度は、私も背中に手を回す。とくん、とくんといつもよりも早い胸の音が心地いい。


「珠紀、好きだ。……愛してる」
「私も好きです、先輩」


 お互いを見つめて、どちらかじゃなく同時に顔を寄せる。そして、私たちは3度目のキスをした。密かに目を開けて、近くに有る先輩の顔を眺めて、あぁ、幸せだなと実感し、私は再び目を閉じた――。



 ---

 今私の中で、真弘先輩ブームが起きている。やばいかもしれない。愛ではちきれてしまいそうだ、()
 

37:遥姫 ◆ml2:2016/05/08(日) 17:05 ID:gBQ


強くなりたい。その理由 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】


 先輩の、その宿命を知ったとき。どうしてと思った。どうしてそんなことを、教えてくれなかったのかと。でも、先輩は言いたくなかったんじゃない、言えなかったんだ――。


 私たちの、私の中の先輩はいつも笑っていた。偉そうで、俺様で、自分勝手で。絶対にあきらめない強さを持っている人だと私は勝手に決めつけていた。先輩が隠していたことなど知らずに。それが、先輩の枷になってしまっていたのかもしれない。

 あの人は、優しくて、頼りになる私の先輩だったから、先輩は、言えなかったのかもしれない。そんな人が、守るべき人に弱さを見せることなんてできなかったから。

 でも、先輩は、確かに私に助けを求めていたんだ。時折見せた、あの寂しげな表情、後ろ姿。気づいていたはずなのに、言えばいいのに、私はそれを見て見ぬふりをしていたのだ。確かに、嫌な予感はしていた、でも、先輩に限ってそんなことはない、見間違いだ。そう思っていた。

 そう、何も言えなかった先輩のせいじゃない。何も気づくことができなかった、弱かった私のせいだ――。
 
 だからね、先輩。私は、強くなりたいよ。貴方から何もかもを奪おうとする全てのものから守りたいよ。……ううん、私は強くなるよ。誰よりも、何よりも大切で大好きな先輩だから。


「だから、先輩……待っててね。すぐに行くから」


 ひとつ深呼吸をしたあと、私は、部屋に貼られているその結界へ、手を伸ばした。


 ---

 珠紀のモノローグ。時間的に、真弘先輩が蔵に閉じ込められて、それを助けるために珠紀ちゃんが救いに行くところぐらい。

 

38:遥姫 ◆ml2:2016/05/09(月) 10:08 ID:gBQ


 原作では、蒼黒の楔は、前作の緋色の欠片の幻の大団円エンドの後となっておりますが、個人ルートエンドでは怒鳴るだろうという妄s((ゲフンゲフン、想像の賜物です。

 真弘先輩エンドの後だとして、個人的に書きたいシーンを書いてみました。気が向いたら、最初から書くかも…?

 ---

 みんなが寝静まったあと、一人、水車小屋の外に出る。外は相変わらず真っ暗で、それが、貼れることのない闇のように見えてしまう。小屋からだいぶ離れたところで、私は、ナイフを取り出した。これは、護身ように誰もいない民家から拝借したものだ。自分の身を守るために持ってきたこれが、まさか、自分の命を絶つために使われるなど、あの時の私は想像もしていなかっただろう。


(……これでいい)


 私は、不意な事故で、鏡の契約者になってしまった。みんなは、まだ方法があるとは言っていた。私も表面上はそれに同意していた。でも、どうしようもないと、内面は思っている。だって、もうこんなギリギリな状態で、私が生きる方法なんて見つかるはずがない。時間の無駄だ。ならば、この世界を救うために私が死ぬしかない。


「おーちゃん」


 ぽつりと、呟くようにその名前を呼ぶ。するり、と私の影から白い何かが出てきて、私の体をよじ登り、肩へとやって来る。にー、と私がしようとしていることを知ってるように寂しげに鳴くおーちゃんの額をそっと撫でた。おーちゃんには、辛いだろうけれど、私が死んでしまったあとの遺言替わりになってもらおうと思う。祐一先輩がいるから、きっと、伝わると思う。


「みんなに伝えてくれる?……最後まで、こんな私についてきてくれてありがとうございました。そして、弱い私ですみませんでした、って」


 おーちゃんは、悲しげな表情で私を見つめたあと、にっ、と鳴いて私から飛び降りて小屋の方へ駆け出す。そう、それでいいんだよ。おーちゃん。辛い役目を任せてごめんね?

 その白い白い後ろ姿が見えなくなったあと、私は、ナイフを首筋に当てた。かたかたとナイフを持つ手が震えるのを、柄をしっかり持って抑える。死ぬって、どんな感じなんだろう。と思う。今まで、死と背中合わせの戦いをしてきたけれど、粗めてそんな事を思うのは、私をみんなが必死に守ってきてくれたからなんだろうか。ふと、みんなの顔が浮かんだ、拓磨、遼、祐一先輩、卓さん、慎司君、美鶴ちゃん、清乃ちゃん、芦屋さん、アリア、フィーア――そして、真弘先輩。


(真弘先輩、ごめんね……)


 半年前の頃。生きることを諦めていた先輩に私は、何度も言った。生きることをあきらめないでと、でも、そんな事を言っている私が、今、生きることをやめようとしている。ほんと、笑えちゃうよね。ひっそりと苦笑する。
 
 ここに来て初めて知る。生きることを選ぶのはどんなに苦しくて、辛いことなんだろうと。でも、今の私と同じような状況だった先輩は、最後はその流れに逆らって、生きることを選択したんだ。本当に強い人だと思う。私は、そんな人と今まで一緒にいられて、良かったと思っている。


「さよなら、みんな、真弘先輩……」


 押し当てたナイフにぐっと力を入れる。これで、全部終わる――。頬に温かいものが伝うのを感じながら、私は死ぬその瞬間を迎えようとした、でも、その次の瞬間、すごい力で私の手の中からナイフが離れていくのを感じる。何かに、弾き飛ばされた?

 ゆっくりと目を開けた先に見えたのは、強い光を宿した瞳。それは、私を睨みつけている。


「さよならじゃ、ねーよ。何やってんだ、お前……」


 いつにない低い声が、怒っているのだということを示している。そこには、――真空の刃を手にした、真弘先輩がいた。 
 

39:遥姫 ◆ml2:2016/05/09(月) 10:21 ID:gBQ


 ぺたりと、その場に座り込む。相変わらず先輩は私を睨んだまま。私は震える声で言葉を紡ぐ。


「真弘先輩、なんで……」
「なにやってんだって聞いてんだよ!!」


 私の問い掛けには答えず、さっきよりも声を張って先輩が叫ぶ。先輩の表情は険しく、でも、どこか悲しげな、切なげな表情をしている。それをさせているのが私だとわかれば、それからそらすように顔を俯かせた。


「全てを、終わらせようとしていました」
「自分の命を絶ってか」
「だって、それしか方法がないじゃないですか。今の状況は、本当にぎりぎり。残された時間で、私が助かる方法が見つかるだなんてありえない」


 私は顔を上げる。先輩の表情は、さっきの険しさはない。ただ、切なさしか含んでいなかった。


「ならば、どうするべきか――。私が、死ぬしかないじゃないですか」


 声が震えている。あぁ、改めて自分で言葉にすると現実味が増す。そこまで、本当にギリギリの状況なのだと、思い知らされた気がした。

 私を見つめる、先輩の目は、ただ、私を優しく見つめるだけだった。


「――半年前、お前は言ったな。諦めないで、生きて、とその言葉……お前が今、一番必要としてるんじゃないか?」
「それは……。……私には先輩のような、強さはないです。死ぬ選択しかない中で、生きることを選ぶなんて、そんな強さは持ってない」


 再び顔が下に向く。自分が不甲斐ないせいで、こんなことになってしまっている現状から目をそらしたかった。ふと、先輩がつぶやいた。


「俺は、強くなんかない」


 弾かれたように顔を上げる。そこには、さっきと変わらず優しげな表情を浮かべる先輩しかいない。


「俺は強くなんかないさ。……だけど、俺が、お前の目からそう見えたのであれば、それは、お前がいたからだ」


 先輩が、私から目線をそらし、私の背中が向けられている方を見る。重い体をひねってみてみれば、そこにはみんないた。


「珠紀」
「拓磨、みんな……どうして」
「オサキ狐が教えてくれたんだ」


 その言葉と同時に、祐一先輩の方からおーちゃんが降りてくる。そして、地面に座り込んだままの私に駆け寄って、にー、と鳴く。その瞳は、強い光がある。おーちゃんは、遺言を伝えてない。そんな事を思う。きっと、私を助けるために呼びに行ってくれたんだ。そう思えば、たまらず、おーちゃんを抱きしめた。

 

40:遥姫 ◆ml2:2016/05/09(月) 10:29 ID:gBQ


「珠紀、俺はな、お前がいてくれたから、生きたいと思えるようになった」

 
 先輩の声が聞こえてきて、おーちゃんを抱きしめる腕を緩めて顔を上げる。


「人間は、一人じゃ強くなんてなれねーよ。――もし、今、お前が、諦めようとしているのならば俺たちがお前を支える。一人で抱え込むな。俺たちは、ひとりじゃない。……そう教えてくれたのも、お前だったはずだろ?」


 先輩から目を離して、みんなを見つめる。私を見つめる目は、優しく、そうだというように互いに頷いている。私は、もう一度先輩を見つめる。


「私は、これからも生き続けていいんですか……?」
「当たり前だ。俺らにゃ、お前が必要なんだよ」
「先輩……っ」


 堰を切ったように、涙が次から次へと溢れ出す。涙腺が壊れてしまったんじゃないかと思うほど、流れていく。そんな私を、先輩はその場に膝をついて抱きしめてくれた。強く、でも優しく。私を包み込んでくれる。それが暖かくて、私の涙はいつまでたっても止まりそうにない。


「私、生きていたいよ。みんなと、先輩と……。ずっと、先輩の隣にいたい」
「俺もだ。絶対に、お前を死なせたりなんかしない」


 その言葉が、力強くて。まるで、暗闇を払う光のようで。私は、先輩の胸に顔を押し付けて、今までの文をすべて吐き出すかのような勢いで泣き続けた。


 ---

 緋色では、先輩だったけど、蒼黒では珠紀ちゃんが命を絶たなきゃいけないことになってた。もし、お話が続いてたなら、こんな展開もありえたんじゃないだろうか?、と、ふと思う。

 それより、真弘先輩ルートのアニメ化はまだですか、((

 
 

41:遥姫 ◆ml2:2016/06/15(水) 00:00 ID:gBQ


魔法の手 【 うたの☆プリンス様っ♪ / 翔×春歌 】


「どうしましょう……」


 目の前に広がる楽譜を見つめ、春歌は溜息をついた。――スランプだ。
 仕事内容はCMソング。完成まであと少しということでつまづいてしまった。期限はあと1週間しかない。


(……何も、浮かばない)


 今までどうやって、音楽を作っていたのか。それさえも思い出せなくなってしまう。まるで、目の前に高い壁が立ちはだかったように、その向こうが見えずにいた。
 こうしていても時間は過ぎていくだけ。悩むよりも、手を動かせ、頭を回せ。そんなこと誰よりも自分がわかっている。けれど、手は一向に動かなかった。
 携帯の着信音が、静かな空間に鳴り響いた。この着信音は、――。春歌は弾けたように携帯を手に取って、通話ボタンを押した。


「も、もしもし……」
《あ、春歌か?》
「翔君……っ!」


 電話越しに聞こえてきたのは、1ヶ月ぶりに聞く声だった。
 ――来栖翔。只今世間を賑わせている期待の新人アイドルだ。その持ち前の元気の良さと、可愛らしい容姿を買われて様々な番組やCMに出演している。テレビをつけていれば、毎日その姿が見えるほどに翔は人気を集めていた。しかし、こうやって会話は出来るんは久しぶりだった。スランプのこともあってか、やや気持ちがうつむき加減になってた春歌は、少し泣きそうになる。が、翔に気づかれるわけにも行かずに、それに耐えた。


《このあとから、2日オフなんだ》
「そうなんですか?」
《ああ、……でさ。久しぶりに会えねーかなって。いや、休みはまだあるから、明日でも――》
「今日、今日がいいです!」


 只今の時刻は、夜の11時。けど、時間なんて関係ない。今はただ、こんな機械越しではなくちゃんと声を聞きたかった。
 言葉を遮るように告げた春歌に、翔は驚いたように息を呑んだ。しかし、そのあとにくすりと、笑う声が聞こえ、わかったと返ってくる。


《じゃ、30分ぐらいしたら着くと思うから、部屋で待っててくれ》
「はい、わかりました!」
《それじゃ》


 電話が切れた。つーつーと、音を聞きながら春歌の胸は踊っていた。やっと、翔君に会える。それが心の中を占めていた。しかし、その視線が机の上に落とされたると、その気持ちはまた沈んだ。
 まだ、仕事が終わっていない。――けど、この時間だけでもいい。翔君と一緒にいたい。春歌は、机に広がる楽譜を束ねる。


(まだ解決したわけじゃない。でも、きっと、翔君に会えばいい方法が思いつくかも知れない)


 それは確信には程遠いもの。けれど、今までの経験から何となくそう思ったのだ。
 春歌は、二人で買ったお揃いのマグカップにココアを入れ、そしれ翔の到着を待った。
 


続きを読む 全部 次100> 最新30 ▲上へ
名前 メモ
画像お絵かき長文/一行モード自動更新