君に、愛の言霊を――、

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41:遥姫 ◆ml2:2016/06/15(水) 00:00 ID:gBQ


魔法の手 【 うたの☆プリンス様っ♪ / 翔×春歌 】


「どうしましょう……」


 目の前に広がる楽譜を見つめ、春歌は溜息をついた。――スランプだ。
 仕事内容はCMソング。完成まであと少しということでつまづいてしまった。期限はあと1週間しかない。


(……何も、浮かばない)


 今までどうやって、音楽を作っていたのか。それさえも思い出せなくなってしまう。まるで、目の前に高い壁が立ちはだかったように、その向こうが見えずにいた。
 こうしていても時間は過ぎていくだけ。悩むよりも、手を動かせ、頭を回せ。そんなこと誰よりも自分がわかっている。けれど、手は一向に動かなかった。
 携帯の着信音が、静かな空間に鳴り響いた。この着信音は、――。春歌は弾けたように携帯を手に取って、通話ボタンを押した。


「も、もしもし……」
《あ、春歌か?》
「翔君……っ!」


 電話越しに聞こえてきたのは、1ヶ月ぶりに聞く声だった。
 ――来栖翔。只今世間を賑わせている期待の新人アイドルだ。その持ち前の元気の良さと、可愛らしい容姿を買われて様々な番組やCMに出演している。テレビをつけていれば、毎日その姿が見えるほどに翔は人気を集めていた。しかし、こうやって会話は出来るんは久しぶりだった。スランプのこともあってか、やや気持ちがうつむき加減になってた春歌は、少し泣きそうになる。が、翔に気づかれるわけにも行かずに、それに耐えた。


《このあとから、2日オフなんだ》
「そうなんですか?」
《ああ、……でさ。久しぶりに会えねーかなって。いや、休みはまだあるから、明日でも――》
「今日、今日がいいです!」


 只今の時刻は、夜の11時。けど、時間なんて関係ない。今はただ、こんな機械越しではなくちゃんと声を聞きたかった。
 言葉を遮るように告げた春歌に、翔は驚いたように息を呑んだ。しかし、そのあとにくすりと、笑う声が聞こえ、わかったと返ってくる。


《じゃ、30分ぐらいしたら着くと思うから、部屋で待っててくれ》
「はい、わかりました!」
《それじゃ》


 電話が切れた。つーつーと、音を聞きながら春歌の胸は踊っていた。やっと、翔君に会える。それが心の中を占めていた。しかし、その視線が机の上に落とされたると、その気持ちはまた沈んだ。
 まだ、仕事が終わっていない。――けど、この時間だけでもいい。翔君と一緒にいたい。春歌は、机に広がる楽譜を束ねる。


(まだ解決したわけじゃない。でも、きっと、翔君に会えばいい方法が思いつくかも知れない)


 それは確信には程遠いもの。けれど、今までの経験から何となくそう思ったのだ。
 春歌は、二人で買ったお揃いのマグカップにココアを入れ、そしれ翔の到着を待った。
 


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