君に、愛の言霊を――、

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1:遥姫 ◆ml2:2015/09/02(水) 21:20 ID:NrY




スレタイ適当、笑。

えーと、ここは私が様々なジャンルの小説を書くところになりますね、
公式cpだったり、伽羅の独白だったり、夢だったり…。

まあ、暇つぶし程度に寄ってくれたならと思います。


・ 荒らしや、迷惑行為はお断りです。
・ 感想は大募集しております!
・ 更新は亀さんです、笑。


それでは、よろしくお願いしますね!

 

75:遥姫 ◆ml2 hoge:2017/02/12(日) 10:53 ID:Be6



「あたしのモノ」 【 うたの☆プリンスさまっ♪/唯(翔)×春歌 】
                                ※翔君の女装注意!


「ええと、すみません。人を待っているので……」
「いーじゃん、別に。俺たちと一緒に来る方が楽しいよ」
「そーそー」

 困りました……。
 今日は、翔君――いえ、唯ちゃんと行ったほうがいいのでしょうか――と、デートの予定だったのですが、今朝突然翔君に仕事が入ってしまい、デートする駅前に現地集合ということに。だから、こうして私は10分前からずっと待っていたのですが、突然男性二人に絡まれてしまいました……。


「お、お断りさせてもらいます。大切な約束なので――」
「強情だなー」
「えぇ? 俺、結構タイプだけどな」


 少しずつ後退していく。距離をとったら、その場から逃げ出そうと思った。でも男性の一人に気づかれたのか、腕を取られて逆に引き寄せられてしまう。


「っは、離してください!」
「君が俺たちと付いてきてくれるならね」


 もう片方の手で、巻き付いた手を外そうとする。込められるだけ力を入れるけれど、びくともしない…。男の人ってこんなに力が強いの……?
 そうしているうちに、空いていた左でも別の男性に掴まれてしまう。


「い、嫌です。離してくださいっ!!」
「そんなこと言わずにさー」


 まともな抵抗もできないまま、ずるずると引きずられるように進んでいく。じわりと目元が熱くなる。ぎゅ、と目を瞑った中で心の中で叫んだ名前は――。


「――ちょっと、あたしの連れになにやってるの?」


 耳に届いたのは女性にしては少し低い声。目を開けて、霞んだ視界の先に見えたのは黒いマニキュアを塗った手が私の腕を捕まえている男性の腕を、握っているところだった。


「離さないと、この腕このままへし折るよ」


 ぐっと、力を入れたのが男性の顔が僅かに歪んだ。腕が離されると、男性と私の間を離すように誰かが割って入ってきた。さらりと揺れる金髪。偽物のはずなのに、すごく綺麗に見えた。


「大丈夫? 春歌」
「しょ――ゆ、唯ちゃん」


 僅かに向けてくれた顔、それは唯ちゃん――翔君だった。
 頬が僅かに赤らんでいるし、呼吸も少し上がっている。ここまで走ってきたということが一目瞭然だった。それが自分のためだと思うと、状況が状況なのに嬉しくなってしまう。


「へぇー、君も可愛いじゃん。ちょっと男の子っぽいけど」
「後ろの子も、この子と一緒なら付いてくるんじゃないの?」


 反省の色ひとつ見えない男性二人。寄せられる目線が、体を舐めとるようなもので怖い。翔君の背中に隠れるように体を寄せる。それでも目線が向けられているような気がして、翔君の服の裾を掴んだ。


「……悪いけど行くつもりはないよ。こいつを渡す気もない」


 服の裾を掴んでいた手を外されて、代わりに男の子らしい骨ばった手が入り込んでくる。指を絡めるように繋げられれば、強く握られた。


「こいつは、あたしのモノだから」


 聞こえてきた声に、驚いて顔を上げると横から見えた翔君の顔は、女の子の格好をしているはずなのに凄くかっこよかった。


  

76:遥姫 ◆ml2:2017/02/12(日) 11:10 ID:Be6



 なんとか男ふたりを撒いて、デートをせずに寮へと戻ってくる。翔君の部屋へ入れば、二人してソファに脱力するように座り込んだ。
 隣で息をついた翔君は、被っていたウィッグを外して顔を覗き込んでくる。


「春歌、平気か?」
「うん、大丈夫。翔君が来てくれたから」
「でも、悪い……。やっぱり、一緒に行ったほうがよかったな。……怖かっただろ」


 顔を覗くように、本心を探すように合わせられるスカイブルーの瞳。思い出したのは、さっき感じた恐怖。必死に抑えようとするけれど、やっぱりダメで目から熱いものがこぼれていくのを感じる。


「こ、怖かっ、た……っ」
「うん」
「もし、翔君が来てくれなかったらって思うと……っ」
「うん」
「……っ怖かったよ」


 翔君が、私の頭を引き寄せる。翔君の大きな胸の中に収まった私は、子供のように泣きじゃくった。心の中に住む恐怖を洗い流すように。感じたものすべてを、彼の温もりで塗り替えるように。ただ泣いた。
 翔君は、服が涙で濡れていくのも構わず私の頭を撫で続けてくれた。時折、「大丈夫だ」とか「俺がいる」とか、優しく囁いてくれた。それが一層、私を泣かせた。


 どれほど経ったのか、ようやく涙が引いた。きっと、目は真っ赤に腫れていることだろう。今日一日は、外に出ることもできなさそうだった。けれど、先程まで感じていた恐怖はもうない。その代わりに、今日は翔君と一緒にいたいという気持ちが強くなる。


「ごめんね……服、濡れちゃった」
「気にすんな。春歌の涙を拭けるなら、構わねぇよ」


 顔を上げると、変わることのない笑顔がそこにあった。翔君は、優しい。私にはもったいないくらい素敵な彼氏。改めて、この人が私の恋人であることを嬉しく思う。
 ふと表情を緩めさせた翔君は、私の頬に手を添える。何をするのかと思えば、そのまま目尻へとキスを落とす。


「しょ、翔君!?」
「春歌は、俺のモノだ。俺がずっと守る。これは絶対だ」

 
 女の子の格好をしていたから、翔君の顔には微かに化粧が施されている。でもそれを感じさせないほど翔君は男らしくって、かっこよかった。きっと、翔君のカッコよさは見た目なんかじゃない。生き方とか、考え方とか、言葉とか。そういうものなのだと初めて知る。


「だから、お前も俺の傍にいろ」
「うん、ずっと翔君の傍にいます」


 どちらからでもなく、二人で同時に顔を寄せて重ねた唇は僅かにしょっぱい味がした。それでも、何度か合わせていくうちのその塩辛さは、甘いものへと変わった。




 ――――

女装してても、翔君はかっこいいんだよ!…というのをぶつけてみた。
なんで女装しているのかは、こうした方が来栖翔だとはばれずにデートできるからです。紛らわしくてごめんね。

 

77:遥姫 ◆ml2:2017/05/16(火) 00:33 ID:0qk


  

 ふわり。遮る物何一つ無い草原に風が吹く。草木の独特な匂いが珠紀の鼻を擽った。
 靡く髪を抑えながら珠紀は膝下へと視線を落とす。自身の太ももを枕にし、規則正しく息を立てて寝る顔がそこにはあった。

 風の悪戯で額に落ちる彼の前髪を、指でそっと退ける。夏の森林の色を思わせる翡翠色は瞼の裏に隠され、代わりに何時ものガキ大将のような一面から想像できないほどの幼い寝顔を覗かせる。
 
 こんな顔をしていれば可愛いのにな、と思うも珠紀はそれを口に出すことはない。今は寝ているこの彼が、大きく開いた口で怒鳴り散らす様、もしくは唇を尖らせ顔を背けヘソを曲げる様子が目に浮かぶから。だから、珠紀は何も言わずに心の中にしまっておくのだ。


 珠紀は顔を上げた。一面に広がる緑色。その向こうにはもっと深い緑をした山と、雲一つない空が広がっている。耳に届くのは、時折強く吹く風の音と草木の揺れる音、そして彼の寝息のみ。穏やかな日が差す、緩やかな昼頃――数年前の出来事と比べ物にならないぐらいの平和な風景があった。

鬼斬丸、鏡を巡る戦い。己を玉依姫としてではなく、春日珠紀として守ってくれる守護者の面々はこの平和を珠紀が居たおかげだからだと言う。決して諦めず前を向く珠紀がいたからだと。けれど珠紀はそれを否定した。前向きだなんてただの表向きのもの。本当は後ろ向きで、泣き虫な強がりは自分。あの戦いを乗り越えられたのは間違いなく仲間の――この、彼のおかげだと。

 普段は子供っぽくて、騒がしくて、ちょっと馬鹿で。けど小さな背中はとても頼もしく、力強い言葉は珠紀に勇気をくれた。でも、彼の一面はそれだけではなくて、本当は怖がりで、強がりな彼。それでも自分を守ってくれる姿に珠紀は彼を支えたいと思った、そして――ずっと傍に居たいと思った。


「んん、……」
「先輩?」

 下から聞こえた声に目線を落とす。隠れていた緑色が僅かに見えた。けれど寝ぼけているのかまだぼんやりとしたままだ。普段とのギャップの差に珠紀は思わずくすくすと声を立てて笑ってしまった。
 どうやらその声で完全に目を覚ましたのだろうか。彼はぼけっとした表情から不満げな顔へと一転させる。

「なーに笑ってんだ?ばーか」
「何でもないですよ。……ただ平和だなと」

 気持ちいいひだまりの下、大好きな人とのんびりと時間を過ごす。この村に来るまではなんとも感じなかったこの時が今ではどうしようもなく愛おしい。
 全て言葉にせずとも、意外なところで鋭い彼には分かってしまったようで、今度は柔らかな笑みへと顔を変化させる。

「たーまき」
「なんですか?」

 伸ばされた手の甲が、優しく珠紀の頬を撫でる。珠紀はその上から自分の手で覆う。

「たまき」
「だから、何ですか?」

 目元が優しく緩められ、瞳は眩しそうに目を細められる。その視線の意味に気づいて珠紀の頬は僅かに赤くなる。

「珠紀」
「……まひろ、先輩?」

 彼の名前を紡ぐと、向けられていた顔は嬉しそうに笑った。子供のような無邪気な笑みに心が暖かくなる。

「珠紀、好きだ」
 
 ストレートな言葉に瞬きを繰り返す。照れ屋な彼からは想像できないほど、真っ直ぐな言葉。不意打ちだったからか再び頬は朱に染まる。それを見て、けらけらと笑い返されてしまった。

「笑わないでくださいよ」
「……平和だなと思ってよ」

 不満げに唇を尖らせ文句を言えば、返ってきたのは同じ言葉。何気ないのになんだか面白くて、楽しくて。珠紀も笑ってしまった。
 草原に、青い空のもとにふたりの笑う声が響く。

「……ね、真弘先輩」
「ん?」
「好きですよ」


 お返しにと呟いた言葉。少し呆然とした表情の後、彼は――真弘は、静かに微笑んだ。




―――――


リハビリです。んでお久しぶりです。

78:ヨナ:2017/05/17(水) 21:15 ID:knE

こんなに沢山小説を一人で書いて凄いですね♪(#^.^#)

79:遥姫 ◆ml2:2017/07/27(木) 22:01 ID:eIk

 
>>78
 
お返事遅くなってしまって申し訳ないです…(;´∀`)
自分を妄想を小説に書き起こすのが好きなので、あとは分力を上げたいのでひたすら小説を書いてまして…。
すごいだなんて、…ありがとうございます。そういうお言葉が励みになります!(´∀`*)

80:遥姫 ◆Onw:2018/02/21(水) 19:47 ID:x/k



○登場人物

鬼崎拓磨( オニザキ タクマ ) / 高校二年 / 身長178cm
 / 鬼崎家の守護者。鬼の力を宿す。不器用ではあるもののその内はとても優しい。若干ヘタレで心配性な面をもつ。先輩である真弘に思いを寄せる。

鴉取真弘( アトリ マヒロ )/ 高校三年 / 身長157cm
 / 鴉取家の守護者。鴉の力を宿し、自由自在に風を操れる。常に騒がしくお調子者の俺様先輩。しかし、時に年齢以上に大人びた一面も見せる。


○他登場人物

狐邑祐一( コムラ  ユウイチ )/ 高校三年 
 / 狐邑家の守護者。狐の力を宿す。真弘とは幼馴染であり、守護五家とは違った絆を真弘と結んでいる。

春日珠紀( カスガ タマキ ) / 高校二年 
 / 守護五家に守護される玉依の家系。当代玉依姫。

犬戒慎司( イヌカイ シンジ )/ 高校一年
 / 犬戒家の守護者。言霊を操れる。


○簡単な作品紹介

主人公の春日珠紀は、両親の海外転勤を機に、祖母が住む母の実家に引っ越してきた。だが、着いた村で珠紀は突如カミサマと呼ばれる奇妙な生き物達に襲われる。珠紀を救ったのは、不思議な能力を操る鬼崎拓磨という少年だった。祖母は彼女を村に呼んだ理由を打ち明ける。それは、先祖代々続く「玉依姫」の使命として「鬼斬丸」という刀の封印をすることだった。村に鬼斬丸の力を狙う謎の集団「ロゴス」が集まってくる中、玉依姫を守るべく「守護者」と呼ばれる少年達が現れる。戸惑いつつも彼らに支えられ、珠紀は玉依姫としての使命に目覚めていく――。

81:遥姫 ◆Onw hoge:2018/02/21(水) 19:48 ID:x/k



  一瞬の夢、夕暮れの幻。  / 鬼×鴉

    *  *  *

 屋上へ続く重い扉を、難なく片手で押すとわずかに冷えた風が拓磨の頬を撫でた。
 なんでこんな寒い中に屋上へ来なければならないんだ、と心の内で愚痴をこぼしつつ屋上に出た拓磨は己がこんな場所まで来る原因となった姿を探す。
 あたりを一通り見渡すも姿はない。探し忘れていた場所があったことを思い出す。絶対的な確信を持って、その方向へ顔を上げた。
 拓磨の読み通り、屋上の屋根の上にその姿はあった。片足を投げ出し、片足を左腕で抱え込んでいる姿。遠くを見つめている横顔は、簡単に表現しにくい儚さがあった。黄昏ているようにも、寂しそうにしているようにも見える。一瞬、声をかけることを忘れ見入っていた拓磨だったが本来の目的を思い出し、頭の中にあったものをかき消すかのようにかぶりを振った。

「またそこですか……あんたも物好きっすよね。余計に風が当たりやすいところにわざわざ居るなんて」

 遠く離れた場所にいる人物に、この声を届けるためやや張り上げて言葉を投げかける。
 口から飛び出すのは少し嫌味を含んだ言い方。ちょっと子供っぽいあの人はすぐに反応するだろうと目線を動かさずにいれば、拓磨の予想通りに顔がこっち向いた。不機嫌そうに顔をしかめているというおまけ付きで。

「一々うっせーぞ。拓磨」
「そんなんじゃ、風邪引きますよ。真弘先輩」
「この俺様がそう簡単に風邪ひいてたまるかよ」

 減らず口を叩く真弘には先程の儚さなど欠片もなかった。だが、それでいいと拓磨は思う。あんな顔をされてしまえば、嫌でも距離を感じてしまう。大人と子供という越えられない年齢さを。

「つーか、なんでお前がここにいるんだよ。珠紀は?」

 拓磨が思考に浸っている間に、真弘は立ち上がって屋上の屋根から飛び降りた。一般人だったら骨にひびぐらいは入りそうな高さを真弘は怯えもせずに自らの力を使って綺麗に着地する。流れるかのような仕草に一瞬言葉を失う拓磨。けれど、ずっと黙っているわけもいかず口を開いて質問に答える。

「珠紀は、慎司と一緒すよ。なんでも帰りに買い物に行くとかで」
「で、お前は?」

 偉そうに胸の前で腕を組み自分を見つめる真弘。小さくせにと拓磨は思うも決してそれを口にはしない。後々面倒になることを経験済みだからだ。
 また黙り込む拓磨に真弘は話の続きを催促するように、「で」と少し強調させて告げる。遠慮ないなとため息を付きつつ拓磨は話を再開させる。

「真弘先輩を呼びに。祐一先輩が用があるらしくって。図書室で待ってるらしいっすよ」
「祐一が? 珍しいこともあるもんだな」

82:遥姫 ◆Onw hoge:2018/02/21(水) 19:49 ID:x/k

「そーっすね」
「何か知ってるのか、お前」
「いーえ。俺はただ祐一先輩に頼まれただけなんで」
「……ふーん、そうか」

 じっと拓磨を見つめる緑の瞳は何かを探るようにして一瞬細められる。しかし、事実拓磨は何も知らないため黙ってその視線を見つめ返した。
 真弘が拓磨を見つめ続けて数秒。結果、何もわからなかったのか息を吐いて目線を元に戻した。どれだけ自分は信用されていないんだと、拓磨は小さく悪態をつく。

「何の用なんだあいつ。つか、それなら教室で言えよ……」

 面倒くさそうな表情浮かべ、耐えずに幼馴染への愚痴をこぼし続ける真弘。ぼんやりとその姿を見つめていた拓磨だったが、何かに気づいたように目を僅かに開かせた。そのまま真弘の顔へ手を伸ばし、鼻をきゅと摘んだ。

「な、何すんだ」
「どれぐらい外にいたんですか。鼻。真っ赤ですよ」

 鼻を摘まれたせいで、若干鼻がかった声になっている真弘の文句を聞き流し、拓磨は呆れたようにため息をつく。
 
「いくら俺たちが丈夫だからって……あ、ほら。手も冷たくなってるじゃねぇすか」

 鼻から手を離した拓磨は次に、真弘の手を握る。拓磨の手より僅かに小さいそれは、氷のように冷たくなっていた。

「う、うっせーな。離せって!……たく、この心配性が」

 真弘の小さい手をいとも簡単に覆ってしまった拓磨の手をさっと振り落とせば、再び握られないように真弘は両手を制服のズボンのポケットへと収めてしまう。
 人がせっかく心配しているのに、そんなこと言うならば最初から心配かけさせるようなことをしないでくださいよと、拓磨は思うが敢えて口に出すことはなかった。一秒後に拳が飛んでくるだろうということを長年の付き合いから理解していたからだ。
 真弘は、数秒拓磨の顔を見つめて背中を向ける。一直線に屋上の扉の方へ歩き出した。

「どこ行くんすか」
「図書室。祐一のいう用事ってもんが気になるしな」
「そーすか。んじゃ、俺がついて行っても?」

 真弘は、ぴたりと足を止めた。数秒の沈黙の後返ってきたのは――。

「……勝手にしろ」

 そっけない言葉。でもあの素直じゃない真弘先輩だから仕方がないかと知らずのうちに頬を緩めた拓磨は、「じゃあ勝手にさせてもらいます」と真弘の背中を追いかけた。

83:遥姫 ◆Onw hoge:2018/02/21(水) 19:49 ID:x/k

  *  *  *


 図書室の扉を開ける。変わらず静かな空間がそこにあった。窓から差し込む日の光によって橙色の世界へと変わった中に遠慮なく入り込んでいく真弘。続いて拓磨もその中へと足を踏み入れる。

「あれ、祐一先輩いないっすね」

 拓磨に言付けを頼み、真弘を呼び出した祐一の姿は其処にはなかった。いつもいる奥の窓際の席は空いている。
 帰ったのだろうか。でも、約束をないがしろにする人ではないはずだしと拓磨は祐一がいない理由を頭の中で巡らせるが真弘は特に驚いた様子もなく奥へと足を進める。

「まぁ、帰ってくるだろ。来なかったら来なかったで、帰ればいい」

 真弘は足を止めれば、近くの椅子を引いて腰掛ける。その様子を拓磨はジッと見つめていた。
 ――拓磨は、知っていた。真弘が、そこが自分の場所だと言わんばかりに自然と座った席は、祐一がいつも居る場所の近くだということを。それは紛れもなく、真弘が何回もこの図書室に足を運び、図書室の住人とも言っていいほどこの場所を好んでいる祐一といつも共に過ごしているという証。本人がおらずとも見せつけられた絆の深さに拓磨は真弘の近くに行くことさえ躊躇って、入口の付近から動けずにいた。

「……随分、と……あっさりしてるんすね」

 拓磨が、長い沈黙の後に告げたその一言は微かに声が掠れていた。何時になく動揺していることが見え見えだった。拓磨はそれを承知の上で返事を待つ。

「あいつはマイペースだからなぁ。いちいち気にしてたら身が持たねぇよ」

 パイプ椅子の背もたれに腕を乗せて、窓の外をぼんやりと眺める真弘の横顔はどこか穏やかだ。意識せずにやっているのか、それとも――。

(……本当に、歳が離れてるってのは厄介だな……)

 同じ村で過ごした幼馴染。しかし、歳が一つ違うだけでもこれだけの差が出るのかと拓磨は苦虫を潰したかのような表情を浮かべるが、悔しがっても仕方がないことなのだということも拓磨はきちんと理解していた。けど、もし、と考えてしまう思考は止められない。

 もし、同い年だったら――
 もっといろんなことを共有できたかもしれない。
 もっと一緒にいることができたのかもしれない。
 今よりもっと――自分のことを意識してもらえたかもしれない。

 今だけ拓磨は、あのマイペースな先輩を羨ましく、そして妬ましく思えた。

「……どうした。さっきまであんなに元気だったくせに。体調でも悪いのか?」

84:遥姫 ◆Onw hoge:2018/02/21(水) 19:49 ID:x/k

扉の前で立ち尽くし、黙り込む拓磨の様子がおかしいことに気づいたのか真弘はようやく目線を向けてくる。拓磨は、向けられる眼差しから逃げるように顔を横に背けて小さく、「なんでもねぇっすよ」と答えた。
 これではただの拗ねている子供ではないか。段々と自分自身にも嫌気が差してきた拓磨は耐え切れずに溜息をつく。
 真弘は再び黙り込んで拓磨を見つめていたが、唐突に椅子から立ち上がる。乱暴に立ったせいか、静かな空間に椅子のがたん、という大きな音が響く。音に気づいて顔を上げた拓磨は、こっちに向かってくる真弘に目を丸くさせた。

「ここに来てから様子おかしいぞ。お前」

 拓磨の傍までやってきた真弘は、下から拓磨を見上げる。自分の気持ちなど何も知らない無垢な翡翠の瞳。拓磨は横に目線をずらした。それでも真正面から感じる目線に拓磨はまた溜息をつきたくなる。
 ――いっそのこと白状してしまおうか。向けられる目線にそんな思いが湧き上がる。運がよければ意識してもらえるかも知れない。そんな思考の後、拓磨は口を開いた。

「……別に、大したことじゃねぇっすよ」

 ひと呼吸置く。拓磨は僅かな可能性にかけて、紡ぎ出す声に小さな本音を乗せた。


――……ただ、祐一先輩が羨ましいと思っただけっス。


 真弘は最初、ぽかんとした表情をしていた。拓磨は、それを横目に見る。反応からして自分が求めていた可能性はないのだと、と瞬時に判断すれば目線を横に流す。先ほどの誤魔化すための言葉を続けようとして――聞こえてきた忍び笑いに目を見開いた。

「なんだ。あの拓磨のくせに一人前にヤキモチかぁ?」

 目線を戻せば真弘は掌で口元を抑えて、笑いをこらえていた。今度は拓磨が呆然とする番だった。やがて、沸々と怒りがこみ上げてくる。自分にしては告白とも言ってもいい言葉だったのに馬鹿にされるなんて。いくら己の好きな人だからといって許せはしない。

「……笑うのはあんまりじゃないっすか」
「まーまー、不貞腐れんなって」

 真弘の言うとおり、拓磨は不貞腐れた子供のようにわかりやすく不機嫌さを表情に出していた
 真弘は、ふいに緑の双眼を細めて頬を緩める。それは親が子を見るような、慈しむようなそんな顔。見たことのない表情に拓磨は、怒りさえも忘れて見入ってしまうと同時にこんな表情もできるのかと新たな真弘の一面を知る。
 真弘は少し踵を上げて、腕を伸ばして拓磨の頭に触れる。そして何を思った混ぜ返すように髪を乱暴に撫で始めた。

「ちょ、何するんですか……!」

 真弘の表情にすっかり油断していた拓磨は、髪を撫で続ける手の首を持ち、なんとかそれ以上髪が崩れるのを阻止する。だが、いつもなら飛んでくる怒号は今はなく、真弘は先程と同じように拓磨を見つめていた。まるで何かを待つように。
 拓磨は、ごくりと喉を鳴らし。張り付く喉から言葉を紡ぐ。

「……本当にヤキモチだって言ったら、先輩は困ります……?」

 拓磨は、抑えた真弘の手首を引いて体の距離を縮め、僅かに背中を曲げて顔の距離をつめた。すると、途端に丸まっていく緑の瞳に拓磨は困ったように笑った。
 真弘は、それでも真っ直ぐに拓磨を見つめ、そして。

「…じゃ、もし、そのヤキモチが嬉しいと俺が思ってたらお前はどう思う?」

 はっきりとしない遠まわしな答え。相手らしさを感じると共に言葉の裏に隠されたその気持ちに拓磨は、一瞬戸惑う。夢ではないのだろうか。すべて、夕暮れが見せる幻かも知れない。しかし、拓磨はそれでもいい、とも思っていた。一瞬の夢でも構いやしない。この瞬間が幸せならばそれで――。

「それは思ってもみませんけど、嬉しくてたまんないっすかね」

 ――満足だ。
 拓磨は、ようやく表情に笑みを浮かべる。真弘は、嬉しそうな反応にふい、と顔を横に背けて「そーかよ」と素っ気無く返す。
 照れてるんだろうなとその様子を微笑ましげに見つめたあと、空いている手を拓磨は真弘の頬に添える。

(文句言われたらその時だ。殴られるのも……まぁ、今回は目をつぶりましょーか)

 真弘の顔をこちらに向かせ、この後の反応を色々と予想しながらも拓磨は顔を近づけて、小さな唇に口づけを落とした。


 Fin.


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