【正味】混合とか【やりたい放題】

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1:マメツキ:2017/09/09(土) 14:29 ID:27M

 アポロ→ぜんざい→マメツキとなったマメツキです。
 わりとやりたい放題やってますが、今回はよくやる混合をメインにやっていこうと思います。
 混合と言っても私の小説のキャラが他作品にトリップや転生、または他作品のキャラが他作品にトリップ、転生するなど、他にクロスオーバーもやるかもしれないそれです。こちらではあまり夢はないかと。
 ルール。荒らしや成り済ましはご勘弁。
 晒しやパクリはもっとご勘弁。
 ケンカもやめましょう。
 基本的に私一人が自由にする場ですので感想のみ書き込んで下されば嬉しいです。

 補足として現在ここにある私が書いているスレから小説引っ張って来る可能性がかなり高いですが引っ張っている場合「!」をつけますので、これがあるとあぁ引っ張って来たんだなぁと思っていただければ幸いです。
では!(゚▽゚)/

2:マメツキ:2017/09/09(土) 14:34 ID:27M

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うちの子転生トリップ。環境はちょいちょいアレンジ加えつつも生き写し。記憶は無し。技は体が覚えてる的な。トリップするのは志賀 暁くん。個性は『絶対領域(テリトリー)』。自分が把握している空間内なら物を入れ換えたり酸素を無くしたり無重力にしたり重力をかけたり空気を固めて射出したり応用でかまいたちや空気を熱して爆発させたりできる、わりと良い個性。自分を浮かすことも可能。欠点らしい欠点は無いが半径500m圏内までしか発動出来ない。

**

 俺の家は大手製菓会社で、兄が一人いる。出来の良い兄貴はいつも褒め称えられ、ただ平均値なのに何故かさげすまれる俺。兄貴の個性は『記憶操作』、俺は『絶対領域(テリトリー)』、このどちらが会社に貢献するかなど目に見えていた。もちろん兄貴の記憶操作である。交渉ごとで自分たちが良い方に傾く交渉が兄貴がいれば100%できる。両親や召し使いがどちらを贔屓にするかなど、目に見えていた。
 俺も兄貴も容姿に優れていた、とは思う。ただ、外面だけは良い天才肌の兄貴と、普通な能力で無愛想な俺。人気がどちらに傾くかなど火を見るより明らか。クソみてぇな性格した女遊びの激しい兄貴でも、記憶操作なんて個性が有るから無敵で、でも記憶操作は俺だけには絶対効かなかった。から、夜な夜な隣の部屋から聞こえる媚声にうんざりしていた中学校生活。
 いつも比べられてきたひとつ上の兄貴が嫌いだった。



「……雄英、落ちた」



 俺が中二の冬。オールマイトに憧れて雄英を志望した兄貴が、入試に落ちた。他のヒーロー科も全滅。何でも出来た天才肌の兄貴が、落ちた。
 こんな俺でも人が死ぬのは辛いし、何より親や周囲を見返すために来年は雄英を受けるつもりだった。両親に「大丈夫だ!」「就職でも構わない、お前は社長になるのだから」と慰められている兄貴を横目に、俺は鼻を鳴らしてソファから立ち上がった。暴力の被害は受けたくない。まあ、遅かったのだが。



「何鼻鳴らしてんだよただの出来損ないごときが! 落ちた俺を笑ってんじゃねぇよ役立たずの癖によ! 志賀家の汚点が! 恥さらしが!」
「っ……!」



 どかっばきっと鈍い音が響くリビングで、親とも呼べない俺を産んだ奴等が、喧嘩とも呼べないただ一方的に殴られる俺を冷めた目で、しかし怒りを込めて睨んでいた。いつの間にか抜かしていた俺より身長の低い兄貴が、俺をひたすらに殴る。顔、腹、肩、腕、足。
 兄貴が俺に当たるのは良くて、俺は兄貴に当たるのはダメなのかヨ。
 もう、死にたい。それなのに死ぬことを許さない世界がただひたすらに憎たらしい。

 そんな中。
 俺は再び出会う。



「……あ?」
「ん……?」



 彼女に、出会う。
 ライトグリーンの髪の、今度は一卵性異性双生児ではない、天才の弟の姉でもなんでもないただの鉄の個性を持った『鉄我 星奈』に、出会う。

3:マメツキ:2017/09/09(土) 14:35 ID:27M

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 以前の鉄我 星奈との中学校のテラスでの偶然の出会いから数ヵ月。雄英入試ももう目前に迫っているこの寒い季節。猫好きや甘味好きと言う共通の『好き』を持った俺たちが打ち解けるのは速かった。星奈チャンはどこか懐かしい感じがすると彼女にぽつりと言ったのは昼休み、テラスで持ち寄ったスイーツなどの食べ比べをおこなって居たときだった。



「……何て言うか、私も分かる。暁は、すごく懐かしいんだよね」
『俺も俺も。なんでだろーネ』
「さぁ。あ、あっ、あっ! 暁おまっ、ショートケーキ食べた!? 食べたな!? 私のとっておき!」
「俺の好物はショートケーキだからァ。目の前に置いとくのが悪い」
「おまっ、暁、っんバカ!」
「うわっ! 俺のマカロン!」



 急速に減っていく机に大量に乗ってたホールケーキやクッキー、飲み物などの甘いもの。しばらくそんな感じで、不意に星奈チャンが手を止めたので、俺もピタリとゼリーに伸ばしかけていた手を止めた。



「そう言えば、暁は高校どこいくの?」
「雄英ィ。兄貴落ちたし、見返したいし、それ以前に自分を省みずに助けるヒーローってかっけェジャン?」
「へー、暁は雄英なんだ。一緒だね。体作りは一年生からやってるよ」
「え、マジで? 俺も全部一緒」
「やば、シンパシーやば」



 ニッ、と笑って見せる星奈チャンに「一緒かァ」と笑うと「受かったらだけどね」と意地悪く笑われた。まあ、その前に。



「多分俺、雄英受けるっちゃ受けるけどォ、受かったら多分家勘当されると思うんだよネェ」
「え、なんで?」
「ほら、兄貴が落ちたジャン? 俺が受かると兄貴のやつ絶対癇癪起こして親に勘当しろ! とか言うからァ。親も多分勘当したがってるからすると思うんだよネェ」



 もし受かったあとどーしよっかなァとゼリーをパクつきながら思案していると、「ウチ来れば?」と星奈があっけらかんと言い放つ。ゼリーが変なとこ入って蒸せたのは多分当たり前だ。



「ウチ来れば? って、簡単に言ってくれちゃってこの絶壁女……。家だけシェアハウスってことォ?」
「……いや、違うけど。ホントは今殴りたいけど、この話終わってからね。私めっちゃ我慢してるから」
「星奈チャンの魅力は胸じゃなくて足じゃナァイ?」
「ホントにぶん殴りたいけどあとでね」



 ここまで煽って殴りに来ないのは、わりと大事な話らしい。手に持っていたゼリーカップとスプーンをテーブルに置き、真面目な雰囲気を作る。



「あのさァ、シェアハウスじゃないってどういうことォ?」
「……あっ、シェアハウスっちゃシェアハウスなんだけど、そうじゃなくて、えーとね」



 必死に言葉を捻りだそうとする星奈チャンに、俺の頭にぽんと全く別の、俺の願望と言うかなんと言うかな案がひとつ浮かび上がるも、これは夢を見すぎかと思いつつ、ふざけるように口角を釣って言ってみた。



「なァに? もしかして婿に来いとかァ? それなら俺も途方にくれずに済むケド」
「あ、そうそれ」
「は?」



 本気で唖然として、頬杖をついていた顔をぱっとあげる。あんぐりと開けた口をした俺はさぞや滑稽だろう。さらりとなにいってンのこの子。
 星奈チャンはハッとしてから意味を理解しぷいっと顔を背けて腕をあげて「見ないで見るな」と呟いてるけど、赤い耳が覗いてるから、本気だろう。そこに思い至って、体温が急激に上昇したのが分かる。



「あのさァ、不意打ちとか……不意打ちとかやめてくんない……?」
「なんで二回言うのよ、バカツキムカつく。で、どうなの」
「……ここまで来て言えとか言うかヨ、フツー。……マジでわかんねェの? 星奈チャン」
「……分かるけど、聞きたい」
「乙女かヨ……しゃーねェな」

4:マメツキ:2017/09/09(土) 14:36 ID:27M

!

「うちの中学からじゃ、あのヘドロ事件の爆豪? って奴と緑谷ってのが雄英行くみてェ」
「どっから仕入れたのその情報」
「先生に聞いたんだヨ」
「教えてくれるんだ……」



 以前のプロポーズ紛いから数日。いつもの場所に集まるくせにギクシャクしていた時期からようやく抜け出し、うちの中学から雄英行く奴を先生に聞いてきた。爆豪、個性が『爆破』の過激な人物だ、最近は落ち着いてきているらしい。幼馴染みで無個性の緑谷と両とも酷く仲が悪いらしい。
 爆豪とは去年同じクラスだったらしい。先生に聞いた。ほとんど授業サボりまくりだったからなぁ……。

**

 そしてやって来た雄英一般入試当日。俺と星奈チャンは二人並んで校門を潜った。



「でっか雄英流石!」
「せっちゃんホント語彙力無いよネ」
「うるさい」



 俺はというと。入試を受けるまでが大変だった。親兄弟から猛反対を受けたのだ。出来損ないなんかに、お前に掛ける金が無駄だ。そんなことを言われても、彼らの目の奥に「こいつがもし受かったら……」と言う恐怖が映っていた。そこに俺が「勘当したけりゃしたらァ?」と挑発すればそのあとは売り言葉に買い言葉。入試結果を待つまでもなく勘当された。そういうわけなので、早いかとも思ったが星奈チャン家に挨拶に行くと泣くほど大歓迎された。実際泣かれた。ご両親の薙斗さんと聖さんからダダ泣きされながら娘をよろしくされ、なんか新築の家まで用意してくれるそうだ。金のことを相談すると全部受け持ってもらえるらしい。星奈チャンのご両親人気ヒーローでびっくりした。そりゃ金あるわ。俺も個人資産あるけど。



「それでは志賀さん、勘当された今のお気持ちをどうぞ」
「とても清々(せいせい)した清々(すがすが)しい気持ちです」
「クソ良い笑顔!」
「褒めんなヨ」
「褒めてないから」



 半目になって呆れ、スタスタ歩き去る星奈チャンの後ろ姿を眺める。彼女のハーフアップの髪を括っているリボンは俺の髪と同じ紺色。俺のピアス空けまくりの左耳で一番シンプルなピアスの色は、星奈チャンの髪の色。左の薬指の指輪をあまり見せないように学ランのズボンのポケットに左手を突っ込んで俺もそのあとを追った。後ろで「どけデク!」とか聞こえたが誰の声だろうな。


**


 プレゼント・マイクの説明会も終わり、実技がもう始まっている。俺の座る席が爆豪の隣だったことに驚いたが、それ以上に驚いたのは爆豪が俺を覚えていたことだ、多分だが。あのとき「……は?」と口をあんぐり開けていたのを見た、記憶力良いんだろうな。多分俺たちが受けることを知らなかった様だ。案の定人見知りを発動した俺は「ん」と頭を下げただけに終わる。隣の星奈チャンに無愛想だとくつくつ笑われたが初対面にどう接すれば良いか全然分からん。とりあえずげんこつ落とした。
 とりあえず、入試に集中しようと俺は背後に迫った3P敵を重力で押し潰した。65p目だ。敵pが65、この入試はヒーローの素質を見るためのものだろう。なら、敵を倒すだけでなく救助も必要な筈。下の人に当たりそうだったビルの落下物を消し飛ばしたり、別個で人を抱き抱えて避けたりと大忙しだ。そこで現れたお邪魔虫の0p敵。クソでかい。



「うわあああっ!?」
「なんだあれ!? でかすぎだろ!」
「逃げろ逃げろ!」



 逃げ行く人の波に逆らって、転けてる奴に手を貸したりしつつ0p敵のところに辿り着く。トントンと靴の足先を地面に叩き付けたり肩を回したりしていると、後ろから叫び声が聞こえた。



「おい! アンタなにしてんだよ! 逃げろよ!」
「……あ? ああ、俺? ダイジョーブ大丈夫ゥ、すぐ」



 終わるからァ。そう呟いて0p敵を睨むと、ぐしゃごしゃとえげつない音を立てながら、ぺしゃんこに潰れた0p敵。少しふらつきもするが、全然動ける。さて、そろそろ終わりか。

 そこで終了の合図。あとは結果を待つのみだ。


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5:マメツキ:2017/09/09(土) 14:37 ID:27M

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 一週間後、鉄我邸にて。新築は四月に入ってかららしい。星奈チャンや俺、薙斗さん聖さん四人とも各々そわそわしながらリビングにいた。
 俺と星奈チャンの筆記はギリギリ合格点。お互いA判定もらってたからここは心配してない。あとは実技。俺は確実通ってると思うが、星奈チャンは分からない。教えてくれないから。



「私ちょっとポスト見てくるわね!」



 意気揚々と唐突に出ていった聖さんに返事も出来ずに見送ると数秒後来たのゲシュタルト崩壊起こしながら二通の手紙を持って入ってきた。



「雄英から! 手紙!」
「うわあああああっ、緊張する!」
「俺まず自分の部屋で見ます、もし落ちてたら落ちてるとか薙斗さんと聖さんに見せたくねェんで」
「二人とも自分の部屋で! 部屋で見てきて! 心臓持たない! どうしよう薙斗!」
「お、おおおお落ち着け聖! 深呼吸だ! そら、ひっひっふー、ひっひっふー」
「「それじゃない」」
「落ち着くのはもしかして俺か!?」



 どたばた騒がしくも暖かい風景を横目に、俺は与えられた広い自室で封を切る。雄英卒の薙斗さん聖さんもこうだったのだろうか。中には小型プロジェクター。ここで合否が、決まる。



「……頼むヨ」
『私が投影された!』



 しょっぱなオールマイトとかビビった。どうやらオールマイトが今年から雄英教師になったらしい。うわ、うわーテンション上がる。



『素晴らしい成績だったよ志賀少年! 敵ポイント68p、そして聡明な君なら気付いていただろう! 我々が完全審査性のレスキューポイントが50! 総合118pと雄英高校トップの成績で、合格だ!』
「っしゃあああああああ!」



 大声で叫んだあと、ダダダダと荒々しく階段を駆け降りてリビングのドアを開けて雪崩れ込むと、薙斗さんが腕を広げて構えていて、そのまま俺より数センチ身長の低い彼に突っ込んだ。薙斗さんはグッと俺を抱き締めて叫ぶ。



「合格おめでとう暁!! お前の叫び声は下まで聞こえたぞ!」
「うわああああっ、うわ、うわー! ヤベェ超嬉しい受かったァ! 嫁も出来たし合格出来たしナァニ!? 俺もう死ぬのォ!? クソ嬉しいあざっす薙斗さん!」



 うわー言い続けて薙斗さんから離れると、星奈チャンが飛んでくる。「受かった、受かったぁ……!」と泣きそうになって笑ってるので俺も笑った。



「晩飯食べにいくぞー! 合格記念だ! 焼肉だー!」
「マジかあざっす!」
「焼肉ー!」
「薙斗が食べたいだけなんじゃ……」



 血縁関係のある家族とこうまで賑やかに騒いだことはなかった。血が繋がっている訳でもない俺を暖かく迎え入れてくれた薙斗さんと聖さんがとても好きだ。愛されたことのなかった俺が、報われた気がする。


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6:マメツキ:2017/09/09(土) 14:38 ID:27M

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https://ha10.net/up/data/img/20499.jpg
志賀くんです

7:マメツキ:2017/09/09(土) 14:39 ID:27M

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  俺は雄英のA組で既に席についていた。一人だけ出席番号も関係無く一番後ろの一人席。これは辛い。
 緑谷や丸顔と教室に集まるなか現れた薄汚い男、相澤先生。担任らしく、みんながみんな担任!? と目を剥いていた。そして渡される体操服とグラウンドに来いとの指示。
 早速グラウンドに出ると、個性把握テストを行うと告げられた。丸顔が「入学式は!? ガイダンスは!?」と聞くと、彼曰くそんな悠長なことしてられないよと告げられた。マジか。



「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト」



 なるほど。それで個性を把握するのか。爆豪がデモンストレーションで叫びながらボールを投げると700m超えが出て、みんなが面白そうだのさすがヒーロー科だのと騒ぐ。ただ、そのどれかの言葉が相澤先生の地雷を踏んだようで、最下位は除籍処分になるらしい。どうやら雄英はこんな風に困難をぶつけてくるらしい。いい性格してるわ。

それから。

 把握テストも無事に終わり、最下位除籍は合理的虚偽だと告げられ、ショックを受けているクラスを見た俺。今はというと、新築一戸建ての家のソファででろんとだらけていた。



「……あー、疲れたァ」
「お疲れー。A組入学式出てなかったねー、何かあったの?」
「B組出たのォ? 俺んとこそんな悠長なことしてられねェっつって個性把握テストやってたわ」
「うわー」



 ドン引きした星奈チャンが持ってきたケーキに飛び付くと、私のとこの先生はすごく親身だったよ、と星奈チャンに言われたので羨ましいと返しておいた。



**



 翌日からの通常授業。とても普通に必修科目と英語の授業。昼は大食堂で飯。とりあえずランチラッシュが最終的に白米に落ち着くよねとか言ってる隣でケーキ盛り合わせ頼んだらすんごい残念そうに見られた。また白米食いに来よう。

そして午後の授業はおまちかねのヒーロー基礎学。今日の講師はオールマイトで、戦闘訓練をするらしい。コスチュームを渡され、グラウンドベータに集合だと言われた。

 俺のコスチュームはとても個性に寄せてある。目に見える範囲にしか発動出来ない個性、だからスコープと言うかゴーグルを身に付け、黒い手袋を装着し、コートにワイシャツ、あとベルトポーチ。とてもシンプルだ。
 さて、始まるのか。ヒーロー基礎学。



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8:マメツキ:2017/09/09(土) 14:40 ID:27M

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 一クラス21人、奇数なので一人余る。今回、初の戦闘訓練は屋内対人戦闘だった。ツーマンセルでヒーロー、敵に別れてビルでの演習。核(ハリボテ)を敵がビルのどこかに隠し、ヒーローが探す。戦闘になってテープを巻けば巻かれた方の負け。
 ここで冒頭でも言った奇数人。一人余る。オールマイトはそれを見越していたようで、俺にB組に入ってくれと言った。拒否る理由もなかったのでこくりと頷く。
 第一戦、ヒーローチーム緑谷、麗日VS敵チーム爆豪、飯田。



「っはー、あの相性最凶最悪の幼馴染み同士が対戦相手とかやべェこえェ。オールマイトせんせェ、これやべェことンなるんじゃナァイ?」
「ん? 志賀少年、君も二人を知ってるのかい?」



 ぎゅるんと方向をモニターから俺に変更したオールマイト先生が首をかしげる。……君も、ってことはなにかしら、どちらか二人と繋がりがあるってことか。あーあー通じるとかバレたらヤバイんじゃねェ? とか眉を潜めるも、「まーネ。中学一緒だったし」と手をひらひらさせる。正直あまり関わりはなかったからよく知らねェけど。
 隣の赤髪が「中学での爆豪と緑谷ってどうだったんだ?」と俺に質問し、視線が俺に集まった。興味津々かヨ。



「んー、つっても、俺そんなに詳しく無ェんだよなァ。緑谷とは同じクラスになったことねェし、爆豪とは二年の時に一緒みてェだったらしいけど俺授業サボりまくりで面識なかったし、成績が学年トップしか取ってなかったのとプライドエベレストってくらァい。でもまあ、噂になるぐらいには知ってたヨ、有名だったしネ。関係最悪最低ド底辺、仲の悪すぎる幼馴染み」
「ド底辺……。はー、やっぱり爆豪の奴色々やべーんだ。入試一位は伊達じゃねーな!」
「はーん、爆豪一位だったんだァ。初めて知ったワ」



 とまあこんな感じで会話も赤髪、切島とした。爆豪たちの訓練も終わり、次は俺たち。葉隠、尾白VS俺、轟、障子。障子の六本腕かっけェ。戦闘用のビルに行くと、敵チームの二人は既に隠れているようなので、意気揚々とビルに入ろうとしたら轟に止められた。



「なァに? ツートンカラーの火傷チャン」
「……外出てろ、危ねぇから(火傷チャン……)」
「なんかあんのォ?」
「……おう」
「じゃあ任せた」



 あっさり身を引くと、ちょっと二人とも目を見開いて驚いていた。……ひどくナァイ? 争ってめんどくさくなるのは嫌なんだヨ俺。
 俺がビルを出るのと入れ違いで轟がビルに入り、その瞬間ビルがぱきんと凍る。障子の隣で「涼しい」と呟くと障子に変な目で見られた。

 結局俺達の完全勝利で終了。味気なかったな……。



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9:マメツキ:2017/09/09(土) 14:40 ID:27M

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 翌日、学校への登校中、門の前で人だかりが出来ていた。聞こえてくる内容を聞く限りオールマイトの授業の様子を聞きに来たんだろうな。

「うわー、やだなー。記者わんさといるじゃん」
「オールマイトいる世代に雄英入った宿命じゃネ? ……俺もわりと困るケド」
「ああ、あんたの元実家大手製菓会社取締り代表だからね。知ってる人は暁のことも知ってるんじゃない?」
「こーいうこともあんのォ? あーもーどうしよォ辛い死にたい」
「生きてよ私が困る」
「うん俺生きる」

 そのまま二人で、俺は顔を見られないようにその場を駆け抜け、校舎に入る。雄英バリアーなるものが門に設置されているので入ってこれない筈。

「あー冷や冷やしたァ」
「アンタは本当にね」
「ん」

 うんざりしたように頷き、下駄箱手前で俺たちはまた放課後に、と別れたのだった。
 教室に入って席につくと、相澤先生が入ってきたのでシーンと静まり返る教室。今朝のホームルーム、先生が言うに学級委員を決めてもらうらしい。普通科なら雑務って感じで誰もやりたがらないが、ヒーロー科での学級委員長は集団を導くって言うトップヒーローとしての素地を学べるからなっておいて損はない。現にA組の面々も諸手をあげて主張している。
 俺は別にやりたい訳でもないし、導くって言う素地はまた今度機会があるだろう。やりたい訳でもないが。
 飯田が挙手ではなく投票で決める方が良いと自分自身腕を聳え立たせながら告げる。やりたいならやめときゃ良いのに。蛙吹、もとい梅雨ちゃんが短い期間で投票もクソもないわ、みんな自分に入れると飯田に言うも、飯田はそれで複数票とった方がよりふさわしいと言い張るので投票となった。とりあえず面白いから飯田に入れよ。

**
 厳正な投票審査の結果、緑谷、八百万が委員長になった。
 そして昼。俺は食堂にて以前「白米!」と言い張るランチラッシュの目の前でケーキを頼んでしまったのでとりあえずハンバーグ定食大盛りを頼んだ。リベンジというかなんというか、相手も俺を覚えていたようで、「味わってね!」と言われる。とりあえずサムズアップしたあとケーキ盛り合わせ頼んだら気前よくケーキ一切れサービスしてくれた。ランチラッシュいい人!
 片手のトレーに大盛りハンバーグ定食、もう片手にケーキ盛り合わせのトレーを抱えながら席を探していると、切島と爆豪を発見した。見た感じ、爆豪が一人で食べてたところに切島が来たってところか。

「切島チャン、ここあいてんの?」
「お、志賀か! 空いてる空いてる!」
「邪魔すんネ」

 とりあえずハンバーグ定食を机に起き、席についてからケーキ盛り合わせを置く。切島の真ん前で俺の斜め前に座る爆豪はすごい顔して俺のこと睨んで来たけど、気にせずに早速ケーキに手をつけた。

「一番に手ぇつけんのがケーキかよ! 定食だろ普通!」
「俺も思った、自然と手がケーキの方行ってわりと俺今びっくりしてる」
「男子高校生にケーキ!」
「男子高校生だってケーキ食うケドォ!? ってかもう日本人の主食は甘味で良いと思うんだよネ、スイーツ万歳」
「甘党!」
「糖尿病が心配」

 隣でげらげら笑う切島を気にせずハンバーグ定食ほったらかしでケーキパクついて、不意に爆豪のどんぶり見たらラーメン真っ赤でビビった。思わず「うーわ赤い、赤い赤い赤すぎる」と呟くとあぁ!? と凄まれた。こわ。

「それ辛くナァイ? 普通に食ってるケドぜってェ辛いやつだロ」
「うるせークソ甘党」
「とても正論」
「切島チャンが裏切った、ダト……?」
「ぶはっ! はははっははははは!」

 笑いすぎじゃね? とかジト目で切島を見つつ、食べ終わった盛り合わせの皿を端に寄せ、ハンバーグ定食に取りかかる。大盛りでもちょっと足りないかも知れない。そこで食べ終わった爆豪がガタッと席を立ち、颯爽とどっか行った。

「アイツマジ無愛想だわー」
「それナー」

 げらげら笑いながら食べ進めると、皿がいつの間にか空になっていたので立ち上がると切島にまた教室でなーと見送られた。これが友人……!
 このあと教室で一人でホールケーキ食べてるとどっか行ってたらしい爆豪からすごい目で見られ、切島に爆笑されて「一切れくれよ!」と笑いながら言われたのであげた。もちろんホールケーキは完食した。満足満足。

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10:マメツキ:2017/09/09(土) 14:41 ID:27M

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https://ha10.net/up/data/img/20511.jpg
星奈チャンです

11:マメツキ:2017/09/09(土) 14:41 ID:27M

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 今日の昼になにやら放送があったらしいがケーキに夢中だった俺は全く知らず、どうしてか緑谷が非常口うんたらかんたらの飯田を委員長に推薦した。いいんじゃね?

 翌日の昼。今日のヒーロー基礎学だが、相澤先生とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになっにらしい。何をするのかと言うと、災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練。
 訓練場に着くと、スペースヒーローの13号に増えるお小言をいただき、個性は人を助けるためにあるのだと言われ、少し感動する。13号……かっけえ。
 以上! ご清聴ありがとうございました! と紳士的に礼をすると、ステキーぶらーぼーと声が上がる。かっこよかった。
 しかし、相澤先生が広場の方を見て、叫ぶ。



「一かたまりになって動くな!」
「え?」
「13号! 生徒を守れ!」



 命を救える訓練時間に俺らの前に現れた。



「なんだありゃ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「ちげェ、切島、あれは……」
「動くな! あれは敵だ!」



 プロが何と戦ってんのか。何と向き合ってんのか。それは、途方もない悪意。
 黒い霧から現れた大勢の敵。侵入者用センサーはあるものの動かない。それは敵にそういうことができるやつがいると言うこと。バカだがアホじゃない。用意周到に画策された奇襲。轟曰く。
 そして先生が飛び出した。あの人強いみたいだから。俺がぼうっとしてると腕を引っ張られて避難だ、なんだと言っていたが、次の瞬間には俺は黒い霧に体を包まれ、その場から姿を消した。
 みんなが騒然とするなか腕を引っ張った本人、切島が黒いもや霧に怒鳴る。



「なっ、てめ、志賀をどうした!?」
「彼は第一にこの場から離脱していただきました。以前拝借した書類で見ましたが、この場では彼の戦闘能力はどうやら群を抜いているようなので、一番の驚異と判断させていただきました」
「はぁ!? 訳わかんねえ!」



**

 俺が飛ばされた場所は倒壊ゾーンだった。うじゃうじゃいる敵に溜め息を吐きながらなんで俺こんな戦いにくいとこで一人なのとか呆れながら拳を握ると、後ろでドサドサっと誰かが来る音がした。切島と爆豪である。



「あれェ、爆豪チャンに切島チャン? もしかして飛ばされちまった?」
「……俺たちだけじゃねえ、他もだ」
「とりあえず、この敵どうにかしねぇとな!」



 そうして始まる対人戦闘。訓練ではない。本物の戦闘を俺たちは開始した。


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12:マメツキ:2017/09/09(土) 14:42 ID:27M

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  粗方敵を倒した所で、爆豪と切島が先生のところに駆け付けるようなので着いていくことにした。
 三人で瓦礫を駆けながら目的地へと向かう。とりあえず、俺の個性、テリトリーの応用であるテレポートをこの時すっかり失念していた。俺のばか野郎。
 その時気付かずに呑気に二人の横を走っていた俺は、不意に切島に問い掛けられる。



「なあ、志賀の個性って結局なんなんだ?」
「ん?」
「おいおい睨むなよ不良みてぇ」
「目付き悪いから勘違いされるケド睨んでねーヨ。それに元ヤンにンなこと言っちゃいけません」
「え、お前中学時代元ヤン!?」
「中三の始めまでナ。昔の話だから掘り返すのやめろヨ。ブン殴るぞ」
「滲み出る元ヤン」
「やめろっつってんだロ、っの馬鹿がヨ」



 切実な顔で返すと切島に引き気味に頷かれた。引くなよ泣くぞ。とりあえず、個性はなんなんだってことだよなぁ。



「あー、俺の個性だっけ?」
「おーそうそう! 動かずに空間爆発させたりねじ伏せたりしてるからさー検討つかねんだよな!」
「まァ使い道幅広いしナ、俺の個性は。俺の個性ね、『絶対領域(テリトリー)』っての」
「テリトリー……縄張り的な?」
「ちょっと違う。俺のは、俺が視認してる、もしくは理解している場所で自由自在に無双出来ンだヨ。例えばちょっといじくって空間を爆発させたりとか酸素奪ったりとか重力重くしてプレスしたりとか。重力無くして体軽くしたりとか空間ねじ曲げてものともの入れ替えたりネ」
「無敵かよ!」
「いや、視界塞がれたら終わりだからァ。遠くで操るには遠くまで見えてないとダメだしィ……あ」



 ようやくここでテレポートを思い出した俺は切島の腕を掴んで先を行く爆豪の首根っこを捕まえそのまま広場に飛ぶと爆豪から叱咤の嵐。一言いえ! だの最初からそうしろ! だのとめっちゃ罵られた。とりあえず黙らせるために拳骨した俺は悪くない。めっちゃ怒鳴られた。やかましい。



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13:マメツキ:2017/09/09(土) 14:43 ID:27M

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 走る途中、横から俺たちに向かってくる塊を視界に止め、咄嗟に爆発させて軌道を逸らす。
 見えた姿は、女。とりあえずその女には見覚えがあった。爆豪もそうらしく、「お前、」と目付きを鋭くさせた。



「……クソ女」



 チッと舌打ちして、不思議そうな顔をする切島とぐずる爆豪を先に行かせる。標的は恐らく俺だ。目にハイライトの無い、黒髪のアホ毛の飛んだショートカット、世間一般で可愛いの部類に入る顔。中学が一緒で、星奈チャンと出会ってからからっきし絡んで来なくなった、欠片も興味の無い女。時雨 都。多分分類するなら嫌いな部類だろう。
 彼女はギッと俺を睨む。その瞳に蕩けるような舌が痛くなるような甘い熱があるように思えて仕方ない。思わず身震いしたのはご愛嬌だ。



「……久しぶりね、志賀」
「もう一生見ねぇ顔だと思ってたんだが、吐き気がするわァ。てめェ、敵に堕ちたかヨ」
「そうなるのかしら? まぁ当然よね、二回も同じこと繰り返してるんだもの。せっかく、今回は『無双』の鉄我 星奈が居ないからチャンスだと思ったのに、この世界に存在するなんて」
「なに言ってんだ」



 はー、と溜め息を吐いた時雨は熱の籠った視線を俺にちらりと向けて、「また盗られた」と爪先の石を蹴る。そして再び俺を見てきょとんとして告げた。



「……あれ、前世の記憶思い出して無い……? じゃあ、二人がまた出会ったのは、運命だって言うの……!?」
「てめェ何言ってんだ……」



 本格的に気持ち悪くなって身動ぎすると、時雨が「動かないで、暁!」とその瞳に俺を写す。名前を呼ばれて逆立ってよだつ身の毛に、あとずさると時雨がどさりと何かを放った。



「……は、」
「暁のだぁい好きな、鉄我さんだよ」



 大声で星奈チャンの名前を叫びながら、彼女を抱えて距離を取る。意識は無い。呼吸はある。制服のまま。昼休みにでも拉致ったかこいつ。



「はあぁ、欲しい、欲しいの。暁が、欲しい」
「俺はお前みてェなブスいらねェヨ!」



 星奈チャンを腕に横抱きにして抱えながら空気を固めて銃弾を撃つ。彼女の肌にかするそれに舌打ちして、蹴りを食らわすと、時雨は星奈チャンを避けて俺の鳩尾をその手に握る剱で貫通させた。ずるりと引き抜いた血のつくその剱を舐める女はもう狂気に染まっていた。



「がっ、」
「ふふ、熱いなあ、美味しい……」
「時雨、てめ、」



 ふと、星奈チャンが目覚めた。俺の存在に驚いたようだが、時雨の剱を見て目の色を変えた。俺から飛び退いた星奈チャンは鉄のガントレットを作り出し、殴り掛かった。



.

14:マメツキ:2017/09/09(土) 14:44 ID:27M

!

 星奈チャンも時雨に見覚えがあったのか、腕を振り下ろすと同時に怪訝な顔で声を張り上げた。



「何で、私ここに居るわけ!? って言うか、時雨さんあんた敵にっ……!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい! この鉄女が! 高校に入ってから急に胸が大きくなったからって良い気になって……!」
「ねぇそれ今全然関係無くない!? 関係ないよね!?」



 時雨の振るう剱を飛び上がりながら避けた星奈チャンはバッと腕で胸部を隠す。顔が真っ赤だ超かわいい。流石俺の嫁。
 脳内わりとフルスロットルしてるが、俺は今腹を押さえて悶絶中だ、風穴空いてんだぞコルァ。とりあえず個性で傷の進行を止めてはいるが、腹を貫通してるからヤバイ状態。痛くて死にそう。正直泣きたい。



「はあぁ、鉄我さんと無駄なことしてたから、もうおしまいにしなきゃ……」
「はぁ!?」



 そう眉をしかめた星奈チャンに時雨が入り口の方を指差せば集まったプロヒーローたち。誰かが読んでくれたのだろう。よかったよかった。
 そう気が緩んだのも束の間、時雨が再びターゲットを俺に絞った。



「最後にもう一回!」
「……!」
「っだめ!」



 俺に向けられた手のひらに危険を察知した星奈チャンが俊敏に俺に飛び付いて、なんの個性かは知らないが時雨に吹き飛ばされる。
 ぽーんと吹っ飛ぶ俺たちの最後に見た時雨は歪な笑みを浮かべていた。さて、勢い任せに飛ばされて入り口まで宙を浮きながら空中散歩してるわけだが、これ高さかなりあるから落ちたら大事故だぞ。やべーやべーと考えるうちに、俺の視界に入る錆びた赤。あ、腹……。
 宙を舞う血を目撃した俺は、そのまま意識が飛んでしまった。



.

15:マメツキ:2017/09/09(土) 15:12 ID:27M



 ぼやけた意識に、唐突に鮮明な映像が映し出された。



「……誰?」
「……アンタこそダレェ?」



 木々や葉に隠れるように存在していたいっそ神秘的と言っていいようなテラスで死んだ目をした俺と、絶望したような顔の星奈は出会っていた。
 それから似たような境遇でわあわあと気を合わせてはお互い惹かれていく。この世界星奈には双子の弟がいた。星奈も出来が良いが、彼女の弟はそれこそ『奇跡』と呼ぶに相応しい人災レベルの頭脳と身体能力を持つ、明るく人当たりの良い性格の天才だった。星奈は己と弟を比べ、気落ちしていたが俺も似たようなものだった。双子と違って仲は最悪だったけど。
 そこから何年も時を重ねて、周囲に人が増えて過ごして行った濃い時間。段々と薄れていく楽しくも辛い戦いが続いた幸せな時間に待ってくれと手を伸ばした。


 ハッと目を覚ませば視界に白一色しかない。鼻につく消毒液の臭いにあぁ医務室かと納得し、さっきのも夢だと理解した。そのまま身を起こそうとすると途端に腹に激痛が走る。


「あ゙っ、てぇ!」


 パッと押さえると余計に痛みは増してドサリと上体を倒す。傷痕こそないものの痛みがあるそれに、あぁ聖さんの個性だなと予想をつけた。しかし、聖さんに個性を掛けてもらったのは初めてなのに、どうして懐かしい感じがするんだろうか。
 不意にシャッとカーテンが開き、そこから弾丸のようにライトグリーンの塊が腹に飛び込んできた。そう、腹に。



「うわああああああああああああ! 暁起きたあああああああああ! 心配したんだからああああああ! この馬鹿ああああああ!」
「いあ゙あああああああああ! 死ぬ! 死なぅああああ! あたっ、頭を押し付けるなあああ! 腹ああああああああああああ!」



 起きて早々死に際とかありえない。未来の嫁に殺されかけるとか洒落にならん。
 やはり俺を治すために来てくれていた聖さんに助けてもらった。人生で一番死に近い体験した気がする。
 むすっと頬を膨らませる星奈にはいっそ触れないで、聖さんにあのあとどうなったかを問うた。



「……聖さん、俺が気絶した後どうなったんですか?」
「んー? そうねー、端的に言えばあのあとオールマイトが助けに来たのよ。怪我人はあっきーと緑谷って子だけ。貴方が一番重傷よ」



 敵にあなたたちの中学の友達が居たことには驚いたけれどね。
 そう笑った聖さんは相変わらず何を考えているかわからない、どうしてか俺を安心させてくれる笑顔を浮かべ、俺にもう寝ろと星奈を連れてカーテンを閉めた。

16:マメツキ◆A.:2017/09/26(火) 01:40 ID:mMM

唐突な話の転換。
 フレトリ←マギの逆トリからのフレトリ→マギのトリップ。煌帝国組、シンドバッドたちの時期のずれた原作前の幼い彼らが国軍大罪支部(フレトリ本編未登場)にやって来た。
 ちょっとした大罪支部の彼らの紹介。階級の高い順から。

プライド・ライロット【傲慢】【少将】
10歳と言う幼いながら支部では少将と言うトップの地位につき、ついでに支部のno.2。無邪気に面白おかしく残酷をモットーに仕事をする愛らしい容姿の少年。基本的にお仕事しなさいちゃんと働きなさいとみんなに説教するオカン。優秀な指揮官。トリガーは『黒影』

普 柘櫚(アマネ ザクロ)【怠惰】【准将】
 成人済み。きりっとした太い眉に半デコと眼帯と爽やかな笑みを常日頃いかなるときでも浮かべるイケメン。笑みがちょっと気味悪い。勤勉なクセにサボりグセが凄い。関西弁。戦闘スタイルが激しすぎて財務に回された支部のno.1。妻になるはずだった女性を亡くしている。トリガーは『拒絶』

枦木 海助(ロギ カイスケ)【強欲】【大佐】
 成人済み。金と地位と名誉を求める究極の欲しがり。欲しすぎて上二人の首を狙いにいく程度には強欲。女を欲しがらないのは嫁がいるから。愛妻家。戦闘センスが高いが基本自分と嫁のためにしか使わない。元盗賊。見た目だけなら好青年。トリガーは『強奪』

ゼクロス・アライブ【憤怒】【少佐】
 成人済み。男性。後に『七つの色瓶』の『黒』の呪いを受けて幼児化する強い人。茶髪でセンター分けの前髪と跳ねた髪と長い襟足を乱暴に後ろで縛ってるのが特徴。顔の鼻部分に横一線に傷がある。とある事件以降ふざけた白と黒の仮面を被るようになった。落ち着いてよくキレる。トリガーは『闇』

ラスト・メラニカ【色欲】【中尉】
 成人済みの女性。強欲の嫁さん。愛夫家。元ビッチ。美しい容姿と鈴を転がしたような声の持ち主だが脳内は基本ドピンク。戦いにもよく出るが基本ストレス発散する強欲の後ろでにこにこしてるので実力は不明。トリガーは精神操作系だと思われるが詳細は不明。

嶋 凛太郎(シマ リンタロウ)【暴食】【少尉】
 成人済み。怠惰に拾われた怠惰の補佐官。サボりグセのある怠惰をつれ戻すのはコイツの役目。黄色いハチマキをしているイケメン。食人種。陶器でも鉄でも何でも食らう。後の『七つの属王』の八代目『光の王 アヴァタール』。仕事に対しては真面目だがいつでも美味しそうな怠惰の首を狙っている。トリガーは『悪食』。

セトラ・レッドアイ【嫉妬】【少尉】
成人済みの女性。ホントはもっと高い階級なのだが昇進を拒否して拒否しまくる軍帽を目深に被る女。結婚済み。相手は大罪支部の『戦闘する医者』と呼ばれる軍医。後に『七つの色瓶』の『藍』の呪いを受けて幼児化する強い人。無口な方だが夫のことになると饒舌。基本色欲と居ることが多い。常時滞空。トリガーは『夢』


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17:マメツキ◆A.:2017/09/26(火) 23:07 ID:mMM



 それは、いつものように柘櫚が凛太郎の追手から笑顔で逃走に成功した時のことだった。



「ははは、相変わらず嶋は足が速いわー。臭いを辿って追い付かれるのも時間の問題やなー」



 からからと笑う柘櫚の真後ろでどさどさと二人分の人が落ちる音が響く。なんだなんだと不思議に思って振り向こうと横へ顔を向けた、振り返る、と言うその前に地面と激しくこんにちはした。
 目の前がチカチカしてあまり周囲のことがわからないが、恐らく自分は今首に何かの気配を感じている。考えられるのは刃物ぐらいで。
 柘櫚自身、自分の首が狙われるようなことをした心当たりはもう数えきれない。さぞ多くの人間が自分を恨んでいるだろう。恨まれては居ないが、美味しそうと言う理由で自分の補佐官に首を狙われているのだ、なんらおかしくはない。しかし、地面に頭を押さえつけられ、背中に馬乗りになられ、首に刃物をつきつけられても柘櫚は笑みを絶やさないのだ。それは、相手に悟られていなくとも、自分はこの場をすぐにでも形勢逆転できると言う自信。
 視線で姿を捉え、ふっと柘櫚はより笑みを深めた。



『ちょいちょい少年。君どこの子やねん。うちの指揮官くんやないねんから、子供が暗器なんか持つなや。危ないやろ』
「っうるさい! シンと私をさらって何をするつもりですか! ここはどこですか! あなたは何者ですか!」
『……ん?』
「おい待てジャーファル! 少しこの人の話を聞こう!」
『お、ええ判断や』



 そう言うと紫髪のふと眉の少年にキッと睨まれた。あれ、これ俺がアウェー? と首をかしげる。
 ここはどこ。俺は誰。なるほど、警戒していた天使の手先ではないようだ。目が本気で怯えているし、間違いないはず。と柘櫚は『俺はなー』と口を開いたその時。視界の端に見慣れたブーツが見え、咄嗟に立ち上がり、ジャーファルと呼ばれた少年を小脇に抱えて飛び上がる。この間0,1秒。次の瞬間には俺の頭があった地面が刀により抉れた。俺は呆然とするジャーファルくんを抱えて宙で冷や汗を垂らす。もちろん笑顔で。相当ご立腹だ。こりゃヤバい。



「……殺る」
「うっわ、俺の補佐官ながら物騒! 紫髪の少年! この子頼む!」



 木の幹を蹴り、紫髪の少年の側でジャーファルくんを下ろす。第二打撃、来ました。



「絶対殺る」
「いややわー、近頃の若者ってホンマどんな成長しとんのもー!」



 明らかに俺めがけて振り下ろされている刀の刃を指で摘まんで受け止める。刀の持ち主、凛太郎は飛び退くと少年たちを見て、俺を見る。



「……なんすか、怠惰さん。そのガキども。あっ、あぁ……やっぱり隠し子説ってホントだったんすね……」
「おいこら待て! なんなん隠し子説って!? ちゅーかやっぱりってひどないか凛太郎くん!」
「だって女性にだらしないじゃないすかアンタ」



 俺の心を限りなく削りとってくる凛太郎に待て! と手袋を投げ付け、後ろから殺気を送ってくる少年二人に微笑み掛ける。



「すまんね、いきなり俺の補佐官が。君らはまだ現状を把握できてないみたいやからちょっと落ち着いて話をしょう」
「そもそも、アンタが仕事サボって本部から脱走したから俺が呼ばれたんじゃないすか怠惰さん。その首噛み千切りますよ」
「もうお前の食人種の酷さはよくわかってるから! お前はちょっとプライドくん呼んできて、また異世界からの旅人やで」



 異世界からの旅人。その言葉で目の前の二人は目を見開いていた。



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18:マメツキ◆A.:2017/09/30(土) 00:03 ID:aVQ

変更。
『普 柘櫚(あまね ざくろ)』→『聖辺 柘榴(ひじりべ ざくろ)』



 二人をとりあえず本部に連れていき、現在廊下を並んで歩いている。凛太郎はちゃんと少将を呼びにいってくれた。
 不思議そうに廊下をキョロキョロと見回す二人に笑みを浮かべ、すれ違い様「お疲れ様です」「相変わらずですね」「真面目なんですからちゃんと仕事しましょうよ」と呆れた笑みを浮かべる隊士に「ほっといてやー」と苦笑いして、声をかける。



「いきなりでびっくりしたやろー、えーっと、ジャーファル? くんとシン、くんでエエの?」
「あっ、ジャーファルです、合ってます」
「俺はシンドバッドだよ」
「シンドバッドくんとジャーファルくんやな」



 てくてくと歩きながらそう告げて、とりあえず執務室に着くまで説明でもしようかと口を開いた。



「質問があったら好きなときに聞いてくれてかまわへんからな」
「……はい」
「わかりました」
「ここは多分、君らの居った世界とは違う異世界や。こうやって異世界から訳もわからずやって来る人間はわりと多い。そして、この大罪支部本基地の近くがかなり多発している。原因はまったくの不明。近くの、学園と言う教育施設の天才が原因究明に奔走してくれているお陰で俺は寝る暇さえなくなってるわけやけど、なぜか七日きっかりでもとの世界に帰れるんや。一生帰れないと言う事態にはならないと思うから安心してくれてエエよ」



 そう言うと少しホッとした面持ちの彼らに微笑み、何か質問は? と問い掛けるとここは何て言う国ですかと返ってきた。



「『日本』って言う極東の島国や。四季はかなりはっきりした、戦争がない平和な過ごしやすいとこやで」
「「戦争がない!?」」



 どうやら戦争がないってところがカルチャーショックらしい。まあ、『他国との』って意味やけど。



「なんで戦争がないんですか!? どういう方法で!?」



 やけに食い付くシンドバッドくんに「ちょっと誤弊があったわ、訂正」と頬をかく。ジャーファルくんがハテナを浮かべて首をかしげた。可愛い。



「『他国との』戦争がないだけや」
「他国との……? それはどういう」
「シンドバッドくん、さっき言うたよな。その方法は? て」
「? はい!」
「他国なんか目やない、もっと相手にすべき敵が居るからな」
「「っ……」」



 ふっと俺の笑みに影が差す。二人がびくりと肩を揺らしたのに気づき、じんわりとした怒りを心の奥底に押し返す。



「……もっと相手にすべき敵……」
「せや。本音は他国も戦争したいやろうな。でも、そんな余裕はない。
敵、そいつらは言ってしまえば……人類の敵や。人間と言う種族を実験動物や食糧、殺人訓練の相手としか見ていない。まれに戦力としてさらっていく時もあるけどな」



 人類の敵。その言葉の裏に隠された意味は、暗に相手は人間ではないと言っているようなものだ。



「……その、相手とは」
「天使や」
「てっ、天使!?」
「そう、天使。で、悪魔が人間の味方」



 逆だろ、と言う顔をする二人に苦笑いが浮かぶ。前に来た白雄くんと白蓮くんにもそんな顔されたなあ……。

19:マメツキ◆A.:2017/09/30(土) 00:18 ID:aVQ



 そうやって色々話して、質問には答えで返し、俺の執務室前に着いたので「まぁ、ここにいる間不自由はさせないから安心してくれや」と微笑みかけてからドアノブに手を掛けた。「はい!」と満足、と言ったように目を輝かせたシンドバッドくんとふにゃ、と笑むジャーファルくんに安心して扉を開けた。



「っしゃ今だっ!」
「えーいもういい! 取っちゃえ! 狙うは首だよね、首!」
「……死体は俺に回せよ」
「「お前以外食べねーよ」」



 開けた瞬間双剣を振りかざしてとびかかってきた海助くんにぎょっとして後ろの二人を抱えて前方にジャンプ。カウンターとして海助くんの顔面にそのまま膝蹴りを喰らわせた。流石柘榴くん! と気のいいことを言っているプライドくんは可愛いから許すけど凛太郎くんと海助くんは許さん。



「こらお前たち! 客がいる前でなんてことしとるんや! 仮にも俺お前等の上司やぞ!」
「ええー、だって先輩「下剋上なんか上等や! 好きなときに首取りにこい!」って言っただろうがー」
「俺も……」
「海助くんはしゃーないけど凛太郎くんにはなんも言うてへんわ! つか敬語使え敬語! 見ろ! シンドバッドくんとジャーファルくん唖然! どないするねん!」



 とりあえずシンドバッドくんとジャーファルくんをプライドくんに預け、二人をがみがみ叱る。「俺はとっとと寝たいねん!」と言うと「「おい本音」」と突っ込まれた。
 視界の隅で「あの人部下になめられてるんですね……」「こら、ジャーファルくん! なんてことを!」「いやいやシンドバッドちゃん! あながち間違ってないよ!」「「ええ!?」」なんて三人のやり取りがあったなんて知りません!



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20:マメツキ◆A.:2017/10/09(月) 17:48 ID:zdo

また性懲りもなく新しいモノ。
 UQホルダー丸無視ですがご了承ください。

宮崎のどか成り代わりがシンドバッドの冒険にトリップするハナシ。

**

 私には幼い頃から前世の記憶と言うものがあった。つまらなくも楽しいただただ普通の平凡な毎日。父も母も健在で普通に一般家庭の一人娘だった。私は二次元が好きで、少年な飛ぶ、マガジンの二つの週刊誌をよく読む女で、もちろんネギま!の存在も知っていた。ドキドキワクワクハラハラさせる内容だったので、私の中でも一二を争う好きな漫画だ。かわいくもかっこいい子供先生や個性豊かな女の子たち。その中でも宮崎のどかと言う女の子が一等好きだった。本が好きで、オドオドしていて前髪が長くて勇気が無いように見えるのに、実は美少女で図書館探検部なんて言う運動部に近い部活に所属し、先生に告白したのは彼女が一番最初で、敵にも臆することなく話ができる、見た目と違いとても意思の強い女の子だった。貧乳がコンプレックスだったようだが。
 そしてふと思うのだ、いどのえにっきなんて強力なアーティファクトを持っているのだから、彼女に戦闘の実力があればもっとネギ先生の役に立てたのではないか、と。
 まあ、そう思っただけだ。思うだけなら自由なのだから。そう、思っているだけでよかったのだ。



『は……ぅ…』



 私は真っ赤な夕焼けを見上げていた。道路の真ん中に寝転がって腹に刺さる包丁を理解出来ずに空を見上げていた。熱い、痛い。そんな感情しか持てなくて、自分がどうなっているかなんて理解も出来なかった。
 霞んでいく視界に命の限界を無意識に悟り、訳もわからず目から滴を一滴垂らして私は意識を失った。
 原因は通り魔だった。そんな夕方に現れる通り魔なんてバカだけだろう。そしてそんなバカに私は殺された。馬鹿馬鹿しい。
 バカな通り魔とバカな私を嘲りつつも、私は訳もわからず死んだ筈なのに、訳もわからず新たな生を受けた。
 何で、どうしてと言うよりも、私は好きだった『宮崎のどか』に成り代わっていたのだ。二次創作では転生する場合神とかそんなのが手違いで死んでしまったとか言うけど、私の場合そんなの記憶にございません、だ。いや、忘れているだけであったのだろうか、真偽は知らん。
 本来ならここは宮崎のどかの席だ。私の魂とかそんなのが無理矢理割り込んだのだろうか、例え違うとしても私が彼女になったのが問題だ。神よ、私に罰とか罪とかを与えたいのか。ふざけんな信仰なんかしてやらんからなテメエ。
 まあ、とにもかくにも私は『宮崎のどか』となったのだ。起こってしまったことは仕方ない。こうして燻っているより、前を向いて『彼女のいた原作』の通りに話を進めるのが良いだろう。それが最大限の礼儀だと私は思うね。まあ、しこりにはなるだろうが。

 そんなこんなで私は中学二年生三学期まで、本屋ちゃんと呼ばれるように努力し、夕映と仲良くなり、バレないように古罪に八極拳等の教えを乞うたりもした。元々、武術の才能がこの私の入っている体にはあったらしい。どうやらこの体は原作とは少し違うようで。身長はそのままだが、胸は大きいのがその証拠だ。
 性格は別に偽らなくてもよかった。前世の私の性格が彼女の性格と丸かぶりしていたからだ。彼女みたく純粋でなく、荒ぶってくれちゃってるが。
 夕映とは最初は原作通りを狙って仲良くなったが、次第に情が移ったらしい。普通に仲良くなれた。

 驚くことに、八極拳が古罪とも互角に戦えるようになった。その、頃。


 彼はやって来た。



「今日からこの学校でまほ……英語を教えることになりました。ネギ・スプリングフィールドです。三学期の間だけですけどよろしくお願いします」



 彼を見たとたん、心臓がどくりと音を立てる。頬が紅潮し、訳もわからず目を逸らした。どうしたことか。私は、恋に落ちてしまったらしい。



……と、なってくれればよかったものを。そうならないのが、世の中なんだよなあ。



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21:マメツキ◆A.:2017/10/09(月) 18:42 ID:zdo



『あ……桜通り……か、風強いですねー……ちょっと急ごうかなー。怖くないー……怖くないですー、怖くないかもー……』

『わ、私なんかが……パートナーでいいんでしょうか?』

『よーし……あ……あの、ネギ先生! よ、よろしければ今日の自由行動、私たちと一緒に回りませんかー……!』

『私、出会った日からネギ先生がずっと好きでした! 私、私……ネギ先生のことが大好きです!』

『い、いえー……あの事はいいんですー! 聞いてもらえただけでー!』

『あ、あのー、小太郎クン、ごめんねー』

『わああ……絵本の出来事みたいですー』

『プラクテ・ピギ・ナルー、火よ灯れー……!』

『が……学園祭……一緒に回りませんかー……?』

『私、ホントにトロくてドジで引っ込み思案なんですけど、先生が来てからいろんなことを頑張れるようになりました。ネギ先生のおかげだと思います』

『先生は負けずに頑張ってて、私いつも勇気をもらって……私……そんなネギ先生が大好きです』

『バカァ!』

『ネギ先生に好きな人が居ないんだったら、一緒にがんばろー、夕映』

『いえっ、別に許すとかそんなっ』

『あのっ、そのっ、私は今回お役にたてないですのでッ、そのっ、頑張ってくだ』

『それは多分……嫉妬です。嫉妬……なんて……一番大切な友達なのに……一緒にがんばろー、って言ったのに……』

『それが怖くて、私は自分の心を覗くことも出来ません』

『そそそそそそうなんでしょうか、やっぱりー……!』



 ああ、私が白々しい。


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22:マメツキ◆A.:2017/10/10(火) 00:17 ID:zdo

ある日の夏休み某日。私たちはネギ先生の従者として、生徒として英雄としてコズモ・エンテレケイア残党から世界を救った。その中でも壮大なお話があるのだが、ちょこちょこかいつまんで説明したい。魔法世界に行ったらトラブルに巻き込まれた。これが一番妥当な結論だろう。
その前のエヴァの指導は私自ら、魔法の使い方と体の使い方の鞭撻を頼んだ。怪訝な顔をされたが人生の先輩であり、ネギ先生より精密な技量と技術を持つエヴァを師と扇ぎたいと告げる。と気をよくしたエヴァに気合いを入れて教えてくれた。瞬動術に虚空瞬動に浮遊法に感卦法に魔法の指導。旅行前に全て教授してくれたのが救いだろう。
私は原作の宮崎のどかと違い、魔法の才能まで備えられていた。どうやら私は炎熱系を得意としているようだ。エヴァは少し不満そうだったが。
残党により先生たちと引き離された私は原作通り遺跡で目覚め、トレジャーハンターたるクレイグたち一行に同行させてほしいと頼み込んで部活で鍛えた持ち前の罠探知を使い、真名を見破る魔法具と読み上げ耳と言う魔法具をゲット。いどのえにっきはカード状態でも読み上げ耳をつければ自動で読み取ってくれるからわざわざ出してバレる心配もない。舞踏会ではクレイグたちが消されたことに動揺こそしたものの、瞬動といどのえにっきを使い、デュナミスからグレートグランドマスターキーの使用方法を根こそぎ聞き出し、朝倉を連れてその場を離脱した。
身に付けたスキルは最終決戦でこそ役に立った。まず、風のアーウェルンクスと対戦することでみんなの逃げる時間を極限まで伸ばしたつもりだ。エヴァから教わった魔法がわりと役に立ってくれたものの、さすがは創造主の使徒と言うか、しばらくしてから長瀬よりひどくやられた。彼らは私を長瀬より危険視したらしい。そしてなんやかんやで3-A全員集合。エヴァたちの救済もあり時間稼ぎも十分。アスナを呼び覚まし、ネギを助け、世界は救われた。
麻帆良に帰り、ネギに好きな人が居るとバレる波乱の体育祭の幕開けだ。長谷川千雨辺りだと目星をつけて二人になったときに聞いたら案の定だった。

『大丈夫です、ネギ先生ー』
「え?」
お前のことなんか
『気にしてませんからー』

笑顔で言ってやった。そこから私はそれからのクラスの激しいネギ先生取り合い合戦には参加しなかった。元々ネギなんてどうでもよかったし、原作ももうすぐ終わる。そしたら、私はもう自由なんだ。そして『私がネギが好きであると言う真っ赤な嘘』を、私はとうとう見抜かせなかった。夕映にネギを諦めると笑顔でいってのけ、私は麻帆良学園中等部を卒業した。
我ながら打算的なことをしてきたと思う。好きでもない相手に吐きそうになりながらファーストキスをあげた。二度目は学園祭で吐きそうになりながら、吐き気を押さえてセカンドキスをやった。そのあとは流石に先生と別れたあとトイレに駆け込んで胃液を吐いたが。後々にあれは本当に必要だったのかと悩み、結論は必要に掛けた。
卒業後、私はクラスが離れた3-Aと距離を取ることにした。なるべく3-Aだった人に出会わないように、図書館島探検部も図書委員とかもやめた。以来図書館島には近寄ってない。近いうち、ネギとの仮契約を破棄して学園長に記憶消去を頼むつもりだ。だって、多分あの人は私がネギを好きじゃないのを知っている。時々私を見る目が、まるでネギの成長の為にすまない、と言っているようなものだったから。流石覗き見をする趣味の悪い狸じじいだ。ぬらりひょんみてぇな頭しやがって。
高校になってからは寮制でなくなったので一人暮らしを始めた。正解だったらしい。今日の今日まで3-Aに誰一人出会ってない。クラスも違うのは学園長の配慮だろうか。なぜかエヴァは相当私になついていたらしく、記憶消去までエヴァだけに伝えてしまっていた私は本当にやってしまうのか、戻ってこれないぞ、頼むからやめろと何度も何度も引き留められた。時おり泣きそうになりながらすがりついてくるものだから困る。

『…早く、捨てたいなぁ』

 暗い部屋のなか、ポツリとそれだけ呟いた。

23:マメツキ◆A.:2017/10/10(火) 00:44 ID:zdo



 最近、ネギを見かける事が多くなった。何かを探しているらしい。目が、微睡み、蕩けるような甘い熱に浮かされているので大方長谷川でも探しているのだろう。まあ私にはもう関係の無いことだ。
 嫌な予感を感じた私は、素早くその場を瞬動で離脱した。



『……早く、通達が来ないかなー……』



 電気もつけていない一人暮らしの家で、椅子の上で膝を抱えながらそう呟いた。クローゼットを開けて目に入った中学の時の制服に、激しい嫌悪感を感じる。
 こんな中学に入ったから私は私を偽って『宮崎のどか』を演じねばならなくなったのだ。あのくそがきが来るまで私は、恐らく平和な日々を送っていたと言うのに。麻帆良学園中等部だったことを表すこの制服が嫌いだ。憎悪すら感じて、指を鳴らして燃やした。消しズミになったごみを箒で掃いて乱雑に保管されているカードを睨み付けた。



『……これがあるから、私は……』



 宮崎のどかとネギ・スプリングフィールドから離れられないのだ。カードの中で控えめに笑う偽りの宮崎のどかをにらむ。
 最早魔法を使うのも億劫だった。カードを手に取り最新のコンロに火をつけて、鍋も敷かずに腕を振り上げる。そう、まさに青く輝く炎の中にパクティオーカードを叩き付けようとした。

 その時。ピンポンと軽快な音が響く。誰だよ、とのどかになりきり扉を開けると、そこには多忙で学園にあまりいないはずのネギ先生がいた。目を見開く。何で、先生がこんなとこに、居るんだ。



「何で僕がここにいるんだ、って顔してますね」
『……』
「……のどかさんのように、いどのえにっきが無くても、のどかさんのことなら、僕、なんでも分かっちゃうんですよ……」



 少し身長の伸びたらしい昏い目をした先生の手が私の頬を滑る。その顔は喜色に富んでいた。なんで、どうして。
 トサリと座り込んだ私にネギ先生は微笑んで、私を抱き締める。



「ねえのどかさん。離れてから分かる大事なことって、本当に有るんですね」
『……な、にを……』
「ねえのどかさん。あなたは今でも僕が好きですか」



 ぐ、と心臓を掴まれた気になった。ひゅ、と息を呑んで怯えを孕ませた目で、私を力強く抱き締めるネギの背後を見る。何もない。見慣れた家の回りが見えるだけだ。人っ子一人、居ないけど。



『ネギ……せん、せ』
「僕はもうあなたの担任の教師ではないです。ねえのどかさん、あなたは僕が好きですか」
『……ネ、ギく』
「はいなんですかのどかさん」



 ぎゅ、と強くなる抱き締める力に本当に恐怖を感じた。この先生は、一体どうしたんだ。原作内、七年後じゃあ、もっと。

 普通の『ネギ・スプリングフィールド』だったじゃないか。



「のどかさん、やっぱりあなたはもう僕が好きではないのですね」
『……ネギく、ん』
「もしかしたら最初からですか? そうなんですか? あなたは最初から僕のことなんて好きじゃなかったんですか? 力を得るため? それにしてもまったく気付かないほどの高度な演技をずっと貫き通すなんて素晴らしいです流石です『僕の』のどかさん」
『わ、たしは……』



「あぁのどかさん。泣かないで」



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24:マメツキ◆A.:2017/10/10(火) 01:05 ID:zdo



 私のいつの間にか溢れた涙を拭おうと体を離したネギは、にんまりと笑ってがたたん、と私を押し倒した。
 怖い、怖い。すごく怖い。この昏い目をした私の知らない『ネギ先生』が怖い。
 私が離れたから? だから先生はこんなになってしまったのか? だとしたら何て面倒な。
 ネギ先生はうふふと可愛らしくわらった。



「ああ、僕ののどかさん。きれいでかわいいのどかさん。僕よりマスターに教えを請うた愚かなのどかさん。好きです愛しいのどかさん。ねぇ可愛らしいのどかさん、あの魔法世界の戦いからもう三年。あなたは今高校三年生で、まったく3-Aメンバーと関わってないですよねどうしてですかのどかさん。夕映さんが泣いていましたよ、ハルナさんが心配していましたよ、いいんちょさんが一番のライバルが減ってとても悲しいと言っていましたよ。他にもたくさんあなたを求めている『ナカマ』が居ます。もちろん僕も。僕はあなたが欲しくて堪らない。かわいい僕ののどかさん?」
『っ……!』



 顔を背ければネギに組み敷かれたこの状態では、片手で顎を持たれると抵抗なんてあったもんじゃない。
 ネギは例をあげる。たいそう貴女を気に入っていたマスターが寂しそうにしていましたよ、刹那さんが気にやんでいましたよ、と。
 キスにぐちゅりと舌をさしこまれて余計に涙が滲んでいく。もういいだろ、やめてくれ。



「泣かないでのどかさん、僕は貴女が、好きなんです。愛してます。あなたが欲しくて欲しくて僕はどうにかなりそうです。
あなたの全てを僕にください、のどかさん」
『ッ!』


 ドゴッ、と鋭い音が響く。ネギは気を失って私に覆い被さってきた。滲む視界に映ったのは、


**

 目が覚めると、図書館島の地下のあのクウネル・サンダース何て言うふざけた名前の本名アルビレオ・イマの屋敷だった。
 見回すと、そこには紅茶を飲むエヴァとクウネル。ネギの姿は無いようだ。ショックで気を失ったらしい。私に気が付いたらしいエヴァが真っ先に駆け寄ってきて、私の腰辺りに飛び付く。
 無言の彼女の頭を撫でて、クウネルに問い掛けた。



『……ネギ先生は』
「先程の記憶を消して地上に居ます。あの常軌を逸脱した行動は恐らく今後とらないだろうと思います」
『……ありがとうございます』



 まっすぐに見つめてくるクウネルから目を逸らした。この人は苦手だ。
 どうやら二人は私を助けに来ただけらしいので、すぐに私は解放された。二人が言うには、私にはずっと麻帆良にいてほしいらしい。いないといけないらしい。


……なんだそれ。



.

25:マメツキ◆A.:2017/10/10(火) 01:28 ID:zdo



 次に目を覚ましたときには、私はお世辞にも質の良いとは言えない布団に寝かされていた。
 むくりと身を起こすと、紫の髪の少年が私を見てパッと顔を輝かせる。



「起きたか! よかった……!」
『……ありがとう?』



 待て待て。まったく現状が理解できない。目の前の菫色の髪の少年は私が海岸で意識がない状態で倒れていたから連れてきたと説明してくれた。
 名前は『シンドバッド』と言うらしい。私も名乗り返して、何か持ってるものは無かったかと聞けば、アーティファクトカードを手渡された。まさか、ここまでか。
 シンドバッドはどうやら病気の母と二人で暮らしているらしく、貧しい生活らしいが充実しているようだ。母、エスラにはひたすら助けてもらって、という類いの礼をする。
 顔を洗いにいかせてもらったとき、私は気が付いた。幼い。



『……14くらいかな』



 あぁ神さま。今度は退行トリップか。罪でも罰でもこの際どうだっていいから、こんな嫌がらせはもうやめてくれ。中等部の制服とか嫌がらせだろうがふざけんな。
 シンドバッドも14らしい。母の薬代の為に仕事をしているんだとか。偉いぞシンドバッド……。なら、すぐに出ていく方が良いだろう。



『……ごめんね、シンドバッドくん。大変なのに、お邪魔しました……』
「? 何言ってるんだ? 行く宛がないんだろ? しばらくはここに住めばいい」



 お前こそ何言ってるんだ?

 パッと焦ってエスラをみればしたり顔で手を振っていた。構わないよ、ってことかこのやろう。久々に触れた人の心の暖かさにやられた私はもうここに置いてもらうことに決めた。

**


 あるとき、シンドバッドがユナンと言う男を拾ってきた。私は洗濯物を抱えてぱたぱたと奔走していたが、ユナンを紹介されたときは驚いた。雰囲気が、常人とは違うものだったからだ。どちらかと言えば、クウネルに似ている。



「やあ、僕はユナン、旅人さ。シンドバッドに助けられて、数日ここにいるつもりだよ」
『あっ、こ、こんにちは……ユナンさん、ん?』



 洗濯物を抱えていたはずが、シンドバッドが綺麗な笑顔で任せろ、と素早く干していく。しばらくもしないうちに干し終えたらしい、光速で帰ってきたシンドバッドは私の横を陣取って手を握り、ユナンを家に案内し出した。
 シンドバッド微笑ましいなあなんて思ってユナンを二人で案内する。逆にユナンから微笑ましい目で見られていたなど知るよしもない。


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26:マメツキ◆A.:2017/10/10(火) 23:25 ID:zdo



 ユナンが来て数日。私に密かにシンドバッドを頼んだように彼にも旅人としてシンドバッドをお願いしたらしい。エスラさん怖いものなしかよかっこいい。

 そして現在。シンドバッドはドラグルと言う軍の小隊長に痛めつけられつけていた。どうやら、再三にわたる軍くらの召集命令を無視していたらしい。こんなところまでごそくろうだ。

 シンドバッドは国民を労働力としてしか見ていない軍には入隊しないと言い切った。
 明かされる兵役として強制的につれていかれた父はとうとう帰ってこず、遺品があるのは知っていたが、まさかそう言うことだとは。ナギさんのようで、少し違うなと重ねる辺りあちらにも少々の思い入れはあったようだ。
 しかし要求は認められなかった。父も最後は出兵したのだろうと。


**


「……簡単に説明すると……このパルテビアは、隣国のレームとずっと戦争をしていて、働ける男は皆、兵士として召集されちまってるんだ……」



 ユナンと私にそう説明したシンドバッドは深刻そうな顔で、「でも最近は、『迷宮』のために人を集めているらしい」と続ける。
 補足として、『迷宮』__ダンジョンはパルテビアとレームの国境線上に出現した謎の建造物のようだ。私にとっては、聞き馴染みのある言葉だ。一応はトレジャーハンターだから。
 その迷宮は一万人以上の兵士を送り込んだが誰一人として帰ってこなかった『死の穴』と呼ばれているようで、今集められた兵士はそこに行かされることになっているらしい。



「俺はまだ、死ぬわけにはいかないんだ……母さんのため、村のためにも……」



 シンドバッドはお国に対して相当な不信感を抱いているらしかった。私はそれから目をそらして、自分の不信感を重ねて、駄目だ。シンドバッドは違うんだ。
 ユナンは言った。君はこのままでも良いの、と。
 シンドバッドは答えた。言い訳あるか、と。
 ユナンは言った。君なら出来る、でも力が足りないと。



「そう、世界を変える王の力が……!」
「王の力……!?」



 ぐっと、しかし折れないようにアーティファクトカードを握った。



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27:マメツキ◆A.:2017/10/11(水) 00:00 ID:zdo


 シンドバッドはそんな力あるものか、とユナンを笑うも、そんな力があるなら構わず使ってやると言い切った。どくりと心臓が跳ねる。
 シンドバッドはその力が迷宮にあると知り、未知なるものへの高揚感に思いを馳せていた。
 ユナンを見た。彼は私を見て、微かに微笑み、ゆっくりと告げるのだ。



「君は、どうかな?」



 私の視線は瞬時に険を含んだはずだ。



『……なんの、ことですか』
「力のことさ。君は、王の力に近しい技術をたくさん持っているんだろう? 手に持つそのカードだって、迷宮(ダンジョン)の単語に目を輝かせたトレジャーハンターの性もそうだ。君は一体、何に怯えているのかな?」



 なんだ、この男は。なんなんだ、この男は。いけしゃあしゃあと「君ならあの軍の人を返り討ちにできる術を持っているのに、何に怯えているんだ」と述べる。から、ムカつく。何も知らないクセに。
 目を逸らしてキツく目を閉じる。もうそれ以上はやめてくれ。シンドバッドも不思議そうな顔をしているじゃないか。



『……万が一そうだったとして、あなたはなんで、そんなことを』
「ルフさ。ルフがね、僕に教えてくれるんだ」
『……ふざけるのも大概にしてください、』
「……ふざけてないよ。君は、ネギと言う少年の、」
『っやめてください!』



 目に涙が滲んで、そんな情けない顔を見られたくなんてなくて、その場からバッと駆け出した。しまった、こんなの肯定しているのと変わりないじゃないか。
 それでも足を止めることなんて出来なくて、海辺の岩の辺りに腰を下ろす。
 もういやだ、なんなの。過去にした原作の為の行為が今になって私の首を絞めていく。消せるわけないのに、消したい過去は息苦しい。未だに手にしていたカードをしばらく見つめて、呟く。



「……あとで、ユナンさんに謝らなきゃ」



 カードを持つ手を振り上げ、「っ、」と海へ放り投げようとしたとき、後ろからぱし、と手首を取られた。はっとなって振り返ると、そこにはなんと表せばいいものか、訳のわからない笑みを浮かべたシンドバッドがいた。

 夕暮れのことだ。
 手頃な岩の上に二人で腰を掛けて、海を眺める。シンドバッドは私が喋るのを待っているらしい、14ながら出来た男だ。



『……ねえ、シンドバッドくん』
「ん? なんだ?」
『……好きでもない人とキスは出来る? もししたとしてどんな気持ちになる?』
「……おう!? いきなり何を言ってるんだ!?」



 隣であわてふためくシンドバッドに微笑み掛けて、『私はしたくなかった』と意思は告げた。過去形なのはご愛敬だ。シンドバッドは私の言葉にシンと静まり、次の言葉を待っている。



『……私ね、上の人に『彼のためだから、すまないが』って言われて、断れなくて。だって、断ると命の危険もあったから。私が彼を好きだって言わないと彼が成長出来ないからって。どんな気持ちになるって言うのは、吐きたくなる気分になるよ』
「……その彼が、ネギって少年なのか?」
『うん』



 カードを見せて『これはキスした証だよ。陣の上ですると出てくるんだ』と告げて、シンドバッドに再び目をやる。



「……証だから、さっき海に捨てようとしたのか」
『戻ってくるから意味なんて無いんだけどね』
「……」



 他のこともちゃんと話そうか、と自分に嘲笑して彼にぶつける。失望されたか、嫌われたか。嫌われるのは嫌だなあ。
 そんなことを考えていると、不意にグッと手を握られ、彼に腕を引かれた。抱き締められる形なのは気のせいか。最後と言うことなのか。邪推してれば彼は腕に力を込めた。



「……言わなくていい。言いたい時に言えばいい。言いたくないなら言わなくていい。俺が傍に居てやるから。好きなときに言えばいい。今までの辛かったことも嫌なこともしんどかったことも。俺が全部受け止めてやるから」



 シンドバッドは、ネギとは違うんだ。どこか重ねて見ていたらしい。彼の肩口に額を押し付けて、背中に手を回して、あちらで一度たりとも流したことのなかった涙は止まらなかった。



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28:マメツキ◆A.:2017/10/11(水) 00:33 ID:zdo



 ユナンも言い過ぎたと理解していたらしい、私が失礼な言動に対して平謝りになっていると彼も言い方が悪かったと謝ってくれた。彼は、私にもう怯える必要は無いのだと言いたかったらしい。あ、この人いい人かもしれないと思ったのは余談だ。

 シンドバッドはシンドバッドで、母から自由に生きていいと言われて父の形見の剣をもらったらしい。

 シンドバッドはその際も私の手を離さなかった。エスラさんに微笑ましいものを見る目で見られたので気恥ずかしかったが、もう気にすることもない。私はシンドバッドに着いていくことを決めたのだ。

 そうして私たちはティソン村を飛び出した。


**


 そうして現在第一迷宮バアルの中だ。どうやらソロモン72柱がモデルらしい。なんてこった。
 迷宮前で軍に宣戦布告をして、ユナンにまた会おうと約束して二人で手を繋いで入ったのだが。



『シンドバッドくんが、いない!』



 どこ行ったんだアイツ! 多分、別々の場所に転送されたんだろうな。くそ、迷宮め。とたんに忌々しいものになったわ。
 むかむかした気持ちを押さえながら私はそこから続く道を歩く。出たの先には、見たことのない地形に、不思議な生物、湿った生暖かい空気。地形等はオスティアに似ているが、浮遊しているものでもない。摩訶不思議、この一言につきる。



『……すごい』



 とりあえず、ダンジョンや遺跡に入ったときは何が起こるかわからないから感卦法をしておく。右手に気、左手に魔力、か。これ習得するのかなり大変だったんだからな。

 さくさく、と草の上を歩いていると人の叫び声も響いてくる。どうやら入るときの順番に関わらずタイムラグが発生するようだ。覚えておこう。
 眼下に広がるのは子竜が軍の人をさらったり殺したりと言う場面だった。



『……うわー、……』



 なんとむごたらしいものか。そして私に気付いた一匹がギャアギャアと声をあげて襲いかかって来た。
 まあ。



『……準備運動かなー……』



 いどのえにっきをアデアットし、向かってきた子竜に名前を見破る指輪をした指を向けて名前を呟いて思考を読む。なるほど、ここらの子竜の名前はみんな一緒か。やり易い。
 振り下ろされる鉤爪を瞬動で避け、その子竜の顎に膝を叩き込む。感卦法で強化されているから鉄製のハンマーで殴られたぐらいには効くはずだから骨は砕いたはずだ。
 そのまま回し蹴りを食らわせて頭の上の部分を消し飛ばす。魔法の射手を三つほど乗せた蹴りだ、消し飛ぶくらいはしてくれなければ意味がない。
 こと切れた子竜を一瞥することなく周囲を見れば、シンドバッドがドラグルを助けて「こっちだ! 早くしろ!」と怒鳴っている後ろ姿を見つけた。
 そのシンドバッドの後ろには子竜が迫っている。やるしかない。
 瞬動を駆使し、拳に魔法の射手を乗せて子竜に叩き込み、ドパァンと破裂するように肉片を巻き散らかして死んだ子竜を蹴り転がし、唖然とするシンドバッドとドラグルを抱えて瞬動で安全そうな穴に隠れた。



「……ふぅ、この穴なら大丈夫そうだな」
『そうだね……』



 シンドバッドからなんであんなことが出来たのかと聞かれたから曖昧に笑えば察してくれたらしい。潔く引き下がってくれた。
 問題はこれだ。



「貴様らは先刻のガキども……なぜ私を助けた!?」
「……は?」
『シーッ!』
「私は軍人、貴様は国に仇なす『非国民』! 女の方は国民ですらない! 貴様が私を助ける同義は……ない!」



 頭の堅い子供かコイツは。刹那か。



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29:マメツキ◆A.:2017/10/12(木) 02:09 ID:zdo

ドラグルの言葉にシンドバッドはその場に座り込みながら文句を垂れる。

「だいたいな、そんな真っ青な顔で震えながらとかお前の方がよっぽどガキじゃないか」

ガキと言われたことに屈辱を受けたらしいドラグルは自分の高貴な名前を覚えてろと長々しく語ったものだから割愛。シンドバッドはドラコーンな、と言ってのけた。
わななと身を震わせたドラコーンは由緒正しい名前を!とシンドバッドにつかみかかる。彼は彼でそんなのいちいち言ってられるかとのこと。最後に俺なんかシンドバッドで六文字だぞ見習えと訳のわからないことを言っていたが。
私から見ればどちらもガキにしか見えないわけだが。
その直後、ドン、と地響きが聞こえて二人は一旦争うのはやめたようだ。物陰の奥には仰々しい雰囲気を纏った一頭の竜種がいた。樹竜や黒竜とは全くの別物で少し目が歓喜に溢れる。久々の冒険の気配だ。
そのドラゴンが弱りつつも媚を売る子竜を踏み潰し食らったのなんて見ていない。ドラゴンはこの部屋にだったひとつしかない扉を守っているようだ。

「ここは誰もが生死をかける場所…この迷宮の中で俺たちは試されているんだろうな」

シンドバッドが言ったのは生き残れるかと言うものだ。ドラコーンはそれを勘違いし、誰かを切り捨てる覚悟があるかと解釈したようだ。実際、私とシンドバッドに自分の盾になれと言われた。とりあえず私が守ったのはシンドバッドであり、お前じゃないけど。ただ、シンドバッドが仲間と認めたなら助ける義理も出来るだろう。現時点では望めないが。

「非国民ってくだらねぇ!いい加減にしろよ。お前みたいな軍国馬鹿のせいで今まで何千何万の人が死んだと思ってるんだよ!俺はそんなやつの為に働くなんてごめんだね!」

シンと静まるその場で、ドラコーンはなら私一人でやる、とドラゴンの方へと歩み始める。駆け出した後ろ姿を見送ったシンドバッドはぽつりと呟いた。

「非国民なんて言葉、久しぶりに聞いたぞ」

腹立つ奴だ、とぶすくれるシンドバッドを一瞥した時、ドラゴンの足音とは違う地響きが響く。シンドバッドと顔を見合わせ、怪訝に眉を寄せた。

『なに、この音』
「この音の間隔は、波…いや違う、水だ」

シンドバッドはこれを利用する手段を見つけたらしい。立ち上がったシンドバッドに手を伸ばされ、苦笑してから『手伝うよ』とその手を取って立ち上がった。
地鳴りの正体は間欠泉だった。どこから吹き出してくるかわからないし、勢いは強く運悪く間欠泉が有るところに足を踏み入れれば地雷のように何かしら吹き飛ぶだろう。シンドバッドは一人で突っ込んで行って扉の前で死にたくないと思ってしまったから殺せ、殺してくれと懇願するドラコーンを一喝した。

「死にたくないと思うことの何が恥ずかしいんだ。人間なんだ、当然だろ!」

シンドバッドは告げた。そうやって死んで皇帝が、軍が、国民を救ってくれたことはあったか。この国は救ってくれなかったと。国は民がいるから存在する、民を見捨てる国なんて必要ないと。

『まあ確かに生きるより死ぬ方が楽なのは分かるけど』
「っ!のどか!?」
『…死んだらそこでおしまいだからね。でもそれは逃げたことになる。責任から、この世のすべてのしがらみから。君は、大切な何かの為に行動しているように見えるのに志し半ばで終わっていいと思えるのかな?』
「…私は」
『思えるわけない。そう、思えるわけが無いのなら、たとえ不老不死になってでもやり遂げるべきじゃないの』

そう、私は思うけど。そういうとドラコーンは私達二人を何か見つけたかのように呆然と見つめてくる。その間にドラゴンが近付いてきた。シンドバッドは静かに告げる。

「力ある者が周りを犠牲にして来た、その報いを受ける音だ!」

シンドバッドが振り返ってドラゴンを睨めつける。タイミングよく吹き出した間欠泉はドラゴンの顎を直撃した。倒れたそれに近付くシンドバッドに着いていき、周辺を調査すると階段を発見した。なるほど、扉はフェイクか。ドラコーンに貴様は一体何者なのかと聞かれたシンドバッドはハテナを浮かべて答えた。


「俺は俺さ。船乗りシンドバッドだ!」

30:マメツキ◆p.:2017/11/05(日) 23:17 ID:7kQ

マギの『練紅明』に当たるネギま世界の『練紅明』女主の話。
 つまり。ネギまの世界に存在する練紅明がマギの世界に行っちゃう話。短編のシリーズ。

 **

 私は麻帆良学園中等部所属3年A組32番、練紅明です。中等部入学一年生からクラスが変わらないので三年間クラスメイトと共に過ごしてきたのですが、中一の春、私は何が何やら訳のわからぬままクラスメイト、エヴァンジェリンに吸血されてしまい、以来眷属にはなっていませんが、ずぶずぶと彼女に戦闘の指導を頼んでもいないのにされてしまい、魔法の世界に引きずり込まれてしまった次第です。
 ネギくんが来てからは波乱の2年の三学期と最高学年でした。彼からのラッキースケベ率が私だけ異様に高かったことをよく覚えています。
 なんやかんやで訳のわからぬまま停電の日にエヴァンジェリンに呼び出されネギくんと戦わされたり。
 修学旅行で長瀬さんたちになし崩し的に鬼と戦わされたり。
 学園祭でぽかをやらかし最終日の超鈴音の侵略イベントで一位になってしまってクラスメイトに襲われたり。超の別れで私がなぜか強制召喚されたり。
 早乙女さんにハメられてネギくんと仮契約をしたり。
 ネギま(仮)部もとい白き翼に無理矢理入らされ夏休みに合宿として海に連れていかされて、魔法世界に行ってトンデモ体験して世界を救ったり。
 体育祭にてネギくんのサポートを必死で行ったり、果てはエヴァンジェリンに脱がされたり。
 アスナさんの100年の冬眠計画で自分では珍しく涙するもすぐ帰ってきてちょっと怒ったり。
 そう、もう残るイベントは卒業式だけだったのです。だけだった、のですけど……。

 私、卒業式前日に異世界に飛んでました。しかし、原因は明らかですよ。エヴァンジェリンに暇潰しだと言われて未使用の液体飲まされたんです。我ながらひどいクラスメイトだと思いますよ、ええ思いますとも。
 転移したと思ったら自分そっくりな、しかしながらそっくりはそっくりでも男性の上に落ちて唖然としましたよ、私はね。相手は驚きで気絶しましたから。
 そこからなんやかんやでほとんど私の異世界の話に興味を持たれたようで、今、煌帝国に客人として住まわせていただいています。
 ちなみに、私が落っこちた男性はこの世界の私でした。名前まで一緒とは恐れ入る。彼の兄の紅炎殿に異世界の歴史を話す代わりに客人となっているわけです。言っときますが私今、制服です。



『……紅明殿、おはようございます』
「はい……おはようございます……」
『……なぜ私を叩き起こすのでしょうか紅炎殿』
「おはよう」
『はい、おはようこざいま……違いますよ、なぜ文字通り叩き起こすのですか』



 現在与えられた自室にて。昨夜、嫌ってほどこの世界の文字を勉強していたから猛烈に眠いと言うのに……この第一皇子は容赦がない。
 うつらうつらしつつじんじんと痛みを主張する額を押さえて紅炎殿を見上げると「……食客として紹介するから、今のそのみっともない格好からあの制服とやらに着替えろ」と告げられた。



『えぇ……あー、あぁ』



 今一度自分の服装を省みる。寝巻きだけは煌のものを借りたのだ。ただの着物だった。
 今現在、着物は形を大きく崩し、本来首もとにあらねばならぬ服の端が二の腕の辺りまで擦れ下がり、辛うじて胸の先端を隠している程度だ。無駄に大きくなったクラス一のそれを見てこんなに大きくならなくてよかったのに……とさっさと仕舞う。
 はたと気が付いた。



『……? どうなさいましたか、御二人とも』
「「いや、別に」」



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31:マメツキ◆p.:2017/11/06(月) 00:14 ID:7kQ

出席番号が32から33番に。正味スレ三つのうちどれかで書いたネギま世界のシン女主が名前だけ。その女主はトリップしてない設定。

『…誰に食客として紹介するんですか?』

ここへ来てもうすでに半年が経過している。向こうじゃとっくに卒業式も終わってるでしょう。食客としての皇族の皆さんへの紹介はもう済んでいますし、今更誰に。既に制服に着替えて部屋を出た私達は緩慢な動きで廊下を歩いていく。そこで問題なのは紅炎殿の口から飛び出してきたその言葉だ。

「七海の覇王と呼ばれし、シンドリア王国国王のシンドバッドだ」
『ンッ』
「紅明さん!?」

バシッと紅明殿の裾を握り込んでしまった。自分からは到底有り得ない声が出てしまったが、仕方のないことだろう。うちにも居るのだ、シンドバッドが。

『うちにもいますよ…シンドバッドに当たる女性が…』
「えっ」
「…本当か?」
『本当ですよ…友人です。彼女も七海の覇王と呼ばれていました。亡国の姫で、女性のくせに男性のように凛々しく美丈夫で、やたら女好きで、果ては七海の女たらしとまで言われた、魔装と言う自分専用の固有魔法を作り上げた奇跡が不老不死の化け物にまでなりましたよ』
「…七海の覇王と魔装と七海の女たらし、同じだな」

ちょっとエライものを見るような目になられた紅炎殿から逃げるように紅明殿の背に隠れる。
シンドバッド殿はバルバッドと言う国の自治と七海連合が後ろ楯となると煌帝国に謁見と言うか会談にいらっしゃっているそう。今日が彼が居られる最後の日らしく、今日の晩餐で私をそこで食客として挨拶させるらしい。

『それ…皇帝陛下の御前で行うのですよね』
「あぁ」
『私…その、皇帝陛下の御前は…なんと言うか、居心地が悪くて。全身舐め回すように見られていると言うか、悪寒が…」
「…」
「…」
『…やっぱり自意識過剰でしょうかね』

二人が何も言わないのであればきっと気のせいなのでしょう。その後、一応シンドバッド殿にご挨拶を行うと、速攻で手を握られてニコニコされた。ああ、そっくりですね。

「別の世界の第二皇子だと伺いました、聞いたときは驚きましたよ」
『え、あ、はぁ…そうですか…』
「しかし、似てるとはいえこんなに美しい御方だとは」
『それは嬉しい言葉ですが…この発言たぶんこの世界の私も褒めちゃってますよ』
「確かに…そうなるのでしょうが、私は今、貴方を褒めちゃっていますから」
(わあ、そっくり)

ノリが彼女のまんまである。もうこれは彼女を相手にしていると思った方が速いのでは。

『私の世界にも恐らく貴方と同一人物の女性が居ますよ』
「えっ、女性!?」
『はい、七海の覇王と呼ばれし私の友人です。彼女もまた貴方に似て美しい菫色の髪に凛々しい眉毛、とても整った秀麗な顔付きでした』
「えっ」
『女性好きで女遊びをし出すところもありますが』
「ええっ!?」
『自分の大事なものを手段を選ばず大切にする、とても素敵な方でした』
「エッ」

かちん、とその態勢のまま硬直したシンドバッド殿に微笑みを投げ掛け、するりと手を離してから『では』と退室する。ああいう口説いてくる系の人間には何か言われる前に褒めて固まらせるといい。実際、嘘と言う訳でもないし。私は彼女を『友人』としてとても好ましく思っていました。ただ、自分だってネギくんが好きなくせに達観して見守るだけって言うのはいただけないと思いますが。何度彼女のその手の弱音を聞いてきたか。そのたびに彼女からのセクハラをぐずぐずと許してきてしまったか。あれ、これは友人として好ましいと言えるのか。うん、そうおもってよう。

32:マメツキ◆p.:2017/11/06(月) 00:44 ID:7kQ

紅明♂side


 彼女の皇帝…父上からの視線に悪寒が走ると言う言葉に私たちはあまりのショックに無言になった。
 予想はしていた。あれは別の世界の私だろうと美しければ、見目が良ければ、すぐそういう目で見る。
 別の世界の私と言えども、確かに彼女は美しい。顔は私と同じようにそばかすが有るものの、女性特有の緩い曲線で描かれた輪郭はかくばっておらず柔らかい。目付きも私のようにあまりキツくは無い。性別の違いか、彼女の髪も私同様もさもさしてるが少しすっきりとしている気がする。あくまで気がする程度だが。
 問題は彼女のその肢体である。制服と言う衣服に窮屈そうに押し込められたその胸は明らかに激しい自己主張をしており、そのくせ胴回りは細い。足も制服の衣服から伸びるにしても、スカートと言うのが彼女のものは短いのか、白い柔らかそうな太ももが大分晒されている。靴下が太ももの半分ほどあるので締め付けられて見るものが見ればかなり扇情的だ。
 朝なんてもう目も当てられないほど。ほとんどがはだけてしまっているし、寝起きだからか特有の色気が漂っていていけない。本人は全く気付いていないから悩ましい。
 今も私の衣服の裾をそっと握ってちょこちょことあとをついてくるから別世界の自分だと言うのに妹のように感じてしまう。
 兄王様から厳しい目で見られたのは多分気のせいじゃないでしょう。

**
シンドバッドside

 宴会途中、元より別世界から来た練紅明と言う話は聞いていたが、まさか女性だったとは。本当は魔法か何かで変装した皇子なんじゃないかと疑っていたが、隣に立たれれば本当なのだと思わざるを得ない。いやしかし。



『……あれはなぁ』



 少々反則ではないだろうか。彼女の世界の俺の話は本当だとして。その直前『この世界の自分も褒めている』と言う類いの言葉を俺に掛けた。そしてそのあと、微かな微笑みを携えて己の世界のシンドバッドに当たる人物を褒め出したのだ。
 通して自分をベタ褒めされたことに変わりはない。それに最後の微笑みで全て持ってかれた。要はキュンと来た。胸にとすりと何かが突き刺さった。彼女にとっては口説かれる前に逃げ出す為の算段だとしても、意図せず彼女は俺を余すことなく全て見事にかっさらっていったのだ。



『いやしかし』



 皇子の方の練紅明の視線が厳しかったなあ。
 そして翌日、彼女の年が15だと聞いて、俺は二倍の年の差かよと飛び上がったのだった。



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33:マメツキ◆p.:2017/11/08(水) 00:20 ID:7kQ

 先日の話になりますが。
 仲良くなった紅玉さんとの御茶会中、ふいにもじもじし出した彼女に少し首をかしげた。愛らしい彼女はこの帝国の第七皇女であり、私のひとつ年上の女の子です。食客として知り合った翌日お友だちに。
 彼女は少し言いにくそうに、そして我がクラスでコイバナが始まるときのような雰囲気で口を開きました。



「……紅明ちゃんは、もう殿方と、その……キスとか、したことがあるのかしらぁ?」



 純粋な疑問だったのだろう。着物の裾できゃ、と顔を覆った彼女は約半年前、バルバッド王国に嫁ぎに言ったのだが、調印式の日に国が共和国制になり王が居なくなって結婚出来なくなったそうな。17の彼女がもう結婚だなんて、と当初は思っていたものの、この世界ではこれが主流らしい。ちなみにこの国は一夫多妻制だと言う。もううちのクラスは煌帝国に来いよ。
 若干現実逃避に走るも私はその問いに答えるべく口を開いた。



『はい、一度だけ』
「え、ええっ!」



 茶室の外で何かががたたっと動いた気がするが気にしない。私は武術や気は扱いますが気配を悟るのが苦手なんです。



『あれほど特定の行動を嫌がったのは多分私の人生後にも先にもそれだけですよきっと』
「あら……」
『実は……ああ、ちょっと私の世界の話にもなりますが……私の世界にも魔法等が存在することは知っていますよね?』



 私の問い掛けに紅茶をすすりながらこくりと頷いた紅玉さんに『私たちの世界では一般人には魔法が有ることは伏せられています』と告げると驚愕で目を見開きになられた。



「な、なぜ!?」
『さあ、詳しいことは私も知りません。私も元は一般人ですし……大方魔女狩りなど最悪の場合を防ぐためでしょうね』
「な、なるほどぉ、一般人にとって魔法は驚異だものね……」



 そこから麻帆良のことやマギステル・マギについてのことを教えて、ようやく本題のミニステル・マギに入っていく。



『ミニステル・マギ、言わば生涯のパートナーとなるわけですが、契約がこれには必要で、基本は仮契約から始まります。種類は様々ですが、主流はやはり仮契約(パクティオー)ですね。仮契約をすると、アーティファクトカードと言って、強力なものから雑魚まで様々ですが主と共に戦うものやサポート系の武器が手に入ります』
「ふむふむ、で、その方法はなんなのぉ?」
『仮契約の仕方はとても簡単です。仮契約用の魔法陣の中でキスすれば終わりです』
「キ、キス!? じゃあ紅明ちゃんは仮契約で!?」
『はい、とても乗り気ではなかったです。なんならその時の様子を見ますか? 友人がその光景を納めていたので』



 震えながらコクリと頷いた紅玉さんにちょっと疲れた笑みを向け、部屋の外にいた紅炎、紅明、紅覇殿たちを交えて鑑賞することになった。もちろんこちらに来たときに持っていた鞄の中になぜか入っていた朝倉さんのアーティファクトの一機を取りだし、立体映像として映し出した。
 いきなり部屋が別の場所になったのに驚いた彼らだが、幻影ですと告げて私たちはそちらに集中し始めた。


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34:マメツキ◆p.:2017/11/08(水) 00:50 ID:7kQ


 夏休み序盤。私は寮の室内でクーラーをガンガンにしながらワイシャツにプリーツスカートでベッドでゆったり読書に勤しんでいた訳ですが。
 同室のやかましい彼女が帰ってきました。



「ただいま! 相変わらず目に毒な格好だな紅明! いい胸だありがとうございます!」
『うっわ』
「ドン引きいくないぞ!!」



 ちらりと彼女に視線を向けてから再び本に集中する。途端に静かになったのでほっと息を吐くと目の前にセクハラしそうな顔をした彼女_七海シンがパッと私の本を取り上げ体に乗り上がってきた。彼女の片手は私の顎へ、もう片方の手は私の片足を太ももを触りながら持ち上げて。



「本当に紅明は私を焦らすのが上手いよな」
『いいかげんにしなさい』



 バキッとわりと渾身の一撃を食らわせると面白いほど飛ぶ彼女を尻目に乱れた服を直し、地面に転がる本に手を伸ばしたとき、後ろから殺気が放たれたので、私はくるりと体を回転させ右に避けてから肘を宙に置いた。
 途端に「あっ!」と言う声と顔を掠めるハリセンと、「ぎゃああっ」と叫ぶ彼女の頭にクリーンヒットした私の肘。
 ちりんちりんと鳴る鈴の髪飾りをした神楽坂さんである。



「今回こそはいけると思ったのにー!」
『エヴァンジェリンに血反吐を吐くような訓練させられた私に勝てたら免許改伝の域ですよ最早。一度生死の狭間をさ迷ってみてください、きっと何か見えますよ』
「静かに本を読ませろって言ってんのかしら……?」
『どうとでも』



 次の瞬間、私は後ろから殴り飛ばした筈の彼女に脇の間に腕を通され、身動きができなくなってしまった。ん?
 そう呆けたのも一瞬、「行くわよシンさん!」『任せろアスナちゃん!』と抵抗するまもなく神楽坂さんに担がれすたこらと二人に拉致られた訳である。この二人グルだったかー……。
 二人に連れ去られてやって来たのはエヴァンジェリン所有のダイオラマ球内の別荘。城に連れ込まれた私は城内の広場にペッと放り出された。腹いせですか神楽坂さん。



「来たわね紅明ちゃん!」
『すみません帰ります』
「ここは24時間経たないとゲート開かないわよ」
『そうでしたっ……!』



 仁王立ちしてにやにやと笑う早乙女さんを前に帰ろうとしたら出来ないことを論破され、両脇を殴りにくい近衛さんと馬鹿力のアスナさんで固められて動くことが出来なくなった。



『……なにするんですか』
「もち、ネギくんとパクティオーよ!」
『すみません帰ります』
「帰れるかしら」
『袋の中のネズミでしたねっ……!』



 にへらにへらと笑う早乙女さんと朝倉さんに『必要ないです!』『10歳とそんなことする気ありません!』『いいんちょさんじゃあるまいし!』と抗議を続けると、綾瀬さんに「諦めてください」と諭された。



「ここにいるほとんどがネギ先生としてます、してる人、手を挙げてください」



 神楽坂さん、近衛さん、桜咲さん、宮崎さん、綾瀬さんに早乙女さん、長谷川さん、果ては七海さんまで……。



『っていやいや私はしませんってば! 絶対しませんから! もう十分な実力有りますから!』
「バカね紅明ちゃん! これからネギくんのお父様の探しに魔法世界に行くのよ!? パクティオーは必須よ!」
『私ほど無関係な人いませんよね!?』
「ネギま部入部済みやで」
『はめられた!』



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35:マメツキ◆p.:2017/11/08(水) 01:08 ID:7kQ



『そもそも! 不本意ですが私の師匠のエヴァンジェリンに許可とってからにしてくださいよ!』
「甘いぞ紅明、私はもうとっくの昔に了承済みだ」
『このロリババア』



 上から氷柱が降ってきたのでさっと口を閉じる。



『っ、そうだ宮崎さん! あなたこれ許していいんですか!?』
「私は別にー……」
「私とハルナにこれを進めたのはのどかなのですよ」
『それでいいんですか宮崎さん……』



 もういいですわかりましたよやればいいんでしょうやれば。そう観念したように呟くとなぜか周りがキター! イヤアアア! と騒ぎ出した。どうやら私が折れる折れないで賭け事をしていたようだ。ロクでもない人たちですね、もー。
 さっと連れてこられた訳がわからなさそうなネギ先生と私の身長差はゆうに20か30は違う。こんないたいけな少年に……。事情を説明されたネギ先生も驚いて拒否っていた。いいぞもっと拒否れ。え、折れるなよ。早乙女さんと朝倉さんなに言ったんですか。
 身長差からか強制的に座らされた椅子にて待機。ちらりと七海を見るとちょっと心苦しそうだった。なら勧めるなよ。



「で、では……いきます!」
『いつでもどうぞ。私はもうどうにでもなれ精神ですよ』



 目は死んでいただろう。キスのとたんに輝き出す周囲に目を細めて、パッと離れるそれにいつもと変わらない顔で周囲に告げた。



『終わりましたよ』
「なにその反応! 反応が薄すぎよ紅明ちゃん!」
「練ってばつまんないなー」
『強要しといてなに言ってんですか早乙女さん朝倉さん』



 重苦しく溜め息を吐いてジトリと睨むとへらへら笑うだけとは恐れ入る。



「次は私とだな紅明!」



 背後から両手でむにゅりと胸を掴まれ、声からして七海かと予測をつけてから、周囲を見る。回りの面々はまたか、というような顔つきだ。止めろよ。それにしても屋上か、ちょうどいい。



『アンタは一辺生死をさ迷え!』
「え、ぅあんっ!」



 ぶんと塀の外に向かって彼女を背負い投げた。



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36:マメツキ◆p.:2017/11/14(火) 23:56 ID:KXc



『ってな感じの顛末です』



 何か質問はありませんか、と問い掛けて恐らく目は死んでるだろう。早乙女さんの下世話のせいでとんでもない目にあった記憶だ。そんなもん思い出したくない。
 紅玉さんは「初めてなのになんであんなに真顔なのぉ!?」と驚いていたので別に好きでも何でもなかったので、と返し、紅覇は「女ばっかじゃん」とぶうたれている。男はちゃんといましたよ、二人。紅明殿は「あれ、貴女とキスしても出ますか」と問われたので出ません、専用の魔法陣が必要ですが、私は書けませんと返した。紅炎殿は「お前のアーティファクトとやらは何が出た」と問い掛けてきた。



『私のは……【武器庫書】ですね。全568ページ。一ページに一つずつ武器が封印されてます。そのページに武器の説明もついてます。術者以外は武器を貸すことは出来ませんが、術者が既に出したものを使用することは出来ます。一気に出せる数は三つまでです』
「使えそうな奴じゃないか」
「……ていうか、明姉は明兄と違って……もしかしなくても戦闘タイプ? さっきの記憶でもわりと人投げてたじゃん」
『そうですね。……戦いがあれば真っ先に特攻を指示されるぐらいには戦闘タイプですよ、私。よく周りに頭のいい脳筋と言われます。っていうか紅覇殿、貴方の方が年上なので姉はやめてください』



 得意な戦闘スタイルは最後方から戦術を指示するか、最前線で素手の拳を振るうことですよ。ぐっと拳を握りながらそういうとみんなが「うわあマジかあ」みたいな顔されるんですけど失礼じゃないですかね。
 どうやらこの世界の私、紅明殿は専ら室内で軍議ばかりらしい。とりあえず。



『部屋に籠って本が読めるのは羨ましいです』
「そちらは?」
『外に引きずり出されます。ダイオラマ球に放り込まれたら地獄の修行……最早地獄の始まりですよ、ふふふ』



 地獄の修行ってなにしたの? と紅覇殿に問われ、思い出そうとすると、記憶を引っ張り出すたびに体が震えてきて、顔から血の気がさああと引いていく。
 がくがくと全身が震えて真っ青で涙目になりながら『……あ、あのですね、手始めに……』と言葉を紡ぐと紅覇殿に「もういいよ! ごめんなんか思い出させたっぽい! ホントごめん!」と肩を掴まれた。

 そんな出来事が会ったわけだが、シンドバッド王が帰られた今日、紅玉さんはびゃーびゃー泣いていた。なんでもシンドバッド王に手籠めにされたとか。マジですか。紅玉さん可哀想。



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37:マメツキ◆p.:2017/11/20(月) 00:21 ID:asM


 紅玉さんはシンドリアに留学するらしい白龍? さんに着いていくらしい。凄まじい執着。
 一方の私は一人のんびりと廊下を散歩していた。悲しきかな、エヴァンジェリンのせいで体を動かしとかないと色々危機が迫ったときどうしようと言う思考に陥っている。私も大概脳筋である。
 ふと訓練場に差し掛かると、訓練を見学していたらしい武官達数人がこちらへ下劣な視線を寄越してきた。彼方でなかったものだから最初はずいぶん驚いたものである。多分認識阻害魔法の掛かった麻帆良はそう言うのも阻害されていたのだろう。
 いつもは無視するのだが、彼らは私に聞こえる程度の声で会話をし始めた。



「あの紅明様の女の方、やっぱり紅明様に似て戦いには不向きなんだろうな!」
「バカ言ってんじゃねぇ、金属器を持ってねぇ分紅明様より弱いに決まってんだろ!」
「まぁな……女だし、戦えるわけねえよな!」



 あ、地雷踏み抜きましたね最後の御人。それより前の発言も聞き捨てなりませんが、女性差別ですね、流石の私もぷちっと来ましたよ。



『女だからと戦えない訳ではありませんがね』



 離れたところから蔑笑を浮かべて喧嘩を売ると見事に反応してくれた彼らは「なんだその目は!」「敵うとでも思っているのか紛い物が!」と激昂する。私はそれら全てを鼻で笑って宣戦布告した。



『敵うと思ってるからですよ。そうですね……一対一ずつ手合わせして、私が負けたら夜の相手でもして差し上げましょうか?』



 途端に彼らの目の色が変色する。わりと良い餌を目の前にぶら下げてやった甲斐があります。
 確かアーティファクトのストックに確か麻帆良の体操服があった筈。アデアットと唱えて衣服を変えると彼らの目付きはその下劣さを色濃く増した。
 確かに、ウルスラのブルマよりはマシかも知れませんが、わりと丈が短いですからね、ズボン。太股がむき出しになる程度には。黒のニーソ履いててよかったです。



「なにをしている」



 背後からいきなり掛かった声に私は肩をびくつかせ、そのまま振り向くとそこには不思議そうな顔をした紅炎殿と紅明殿が立っていた。武官は慌てて頭を垂れる。もう一度紅炎殿になにをしているのかを問われ、『彼らと手合わせするところでした』と答えた。



「……そうか、手合わせか。そう言えば俺たちはまだお前の実力を知らんな」
「ああ、そうでしたね」
『今から証明いたしましょうか?』



 ちらりと彼らをみやってから紅炎殿を見てそう告げると頼む、と頷かれた。紅炎殿は時期にバルバッドへ向かわれる。紅明殿がバルバッドの自治権ぶんどって来たらしい。流石です。
 恐らく実力を見せれる滅多にないチャンス。武官の方も張り切っている。私としてはとっとと終わらせたい。
 立ち位置に着いて相対するのが彼らの中で一番強い者らしい。



「いくぞっ!」



 そんな掛け声と共に槍を手に突っ込んで来た彼には悪いが、これもすぐに終わらせるため。
 私の間合いに入ってきた彼の顎めがけて足を振り上げた。



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38:マメツキ◆p.:2017/11/20(月) 00:37 ID:asM



 目にも止まらぬ速さで繰り出された私の蹴りは、コンッ、と顎から軽い音を発して無事に狙ったところに命中していた。



「はっ……!? がっ、く……」
『脳を揺らしましたからね、まともに立ってなどいられないでしょう?』



 がくがくと震える足と、訳が分からなそうに気分の悪さに耐える武官へトンと踏み込み、素早く腕を引いてからひゅご、と風を切らせながら思いきり拳を鳩尾へと振り抜く。ドパッ、と武官の背中の衣服が破け飛ぶ音を耳にしながらみしみしと鎧の上からでも分かる程の威力に少し手加減し過ぎたか、と吹き飛んだ武官が壁に衝突するのを見て手のひらを握っては開く。



『終わりましたよ、次に吹き飛びたいのはどこのどいつですか』



 肩を回してごきごき鳴らしながら武官を見やるともういいもういいと首を振るばかり。根性なし。
 どうですか、とばかりに紅炎殿たちを振り返るとお二人とも唖然としていらした。



「……殺したのか」
『……え? あぁいえ、寸止めですから多分死んでませんよ。』
「……寸、止め……?」



 あれで? と壊れた壁の瓦礫に横たわる武官を指差して脂汗をたらりと垂らす紅明殿にあれでです、とこくりと頷くと「あれで……」と哀愁を漂わせ始める。



「お前は一体何者なんだ……」



 ちょっと呆れた様な紅炎殿に問われ、少し考えてから返答する。



「一応、体術だけなら世界最強を誇っていますが……それ以外はただの魔法使いです」
「せっ、世界最強!?」
「魔法使いだと……!?」



 おや?



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39:マメツキ◆p.:2017/11/23(木) 00:42 ID:8Mw

一通り私が不本意ながら不老不死の吸血鬼な悪の大魔法使いの弟子であり無理矢理血を飲まされ眷属のせいで不老不死だと言うところまで伝えると不老不死!? と大きなリアクションを返された。それからアーティファクトを解き、場所を変えて日の当たるテラスにてあーだこーだと不老不死の有効性の議論に発展した私達三人は語らいながらも私が実際に体験した夏の大冒険を語っていく。大前提として前回にもこうして話す機会があったのでネギくんのことやクラスメイトのこと、私がエヴァンジェリンに襲われたところから学園祭まではの話はしてある。

『学校には総じて夏休みと言う夏の長期休暇があるのですが、私が居た地球とは別の世界の真相を知ったのはその時の命懸けの冒険でした』
「ほう。口振りからするに行き来は可能か?」
『はい。しかしかなり大掛かりな手続きを踏まなければなりませんし、特定の地域からしかそちらに行けません。それに、魔法世界_所謂新世界の住人がこちらの世界_旧世界へやって来るのは私たちが向こうに行くより難しいです。しかし旧世界人があちらに旅行に行って帰ってくるのは簡単ですよ、帰らねばなりませんから』
「なるほど」
『私達が新世界に行く切っ掛けとなったのが、学園祭の時の話に出てきたアルビレオ・イマの話になります。以前から彼はネギくんの父である英雄、ナギとは旧知の盟友であり、彼のことを深く知っていました。10年前に死んだとされるナギにネギくんは6年前命を助けられていますから、生きていることは確証済み。アーティファクトカードも死んでいませんでした』
「…カードで安否が分かるのか」
『はい。これが主が生きているカード。主が死んでいると背景が消えます。
かくしてナギの生存が保証されたところで、アルビレオもナギの居場所は知りませんでしたが、新世界の方にいけば証拠なりなんなり少なからず掴めると言いました。
話を戻しますけど、まあ、うちの先生は興味を持ってようやく人生の大半を掛けて探し続けた憧れに会えると興奮して魔法を暴発させましたよ。今回は武装解除ではなくただの突風だったので被害はなかったのですが。なんせ彼は今すぐ行ってきますと抜かしましたからね、うちの師匠に足引っ掛けられて叱られてましたが』
「確かまだ10の子供でしたね、仕方ないと言えば仕方ないのでしょうか」
「知らん」
『そうこうしているうちに、ネギくんは夏休み後半に魔法世界に赴くことになり、ネギくんの父を探すクラブ、仮名ネギま部をアスナさんが発足させ、何が何やら戦力としてうちのかしましい女連中に勝手にその部に入れられていた私ですけど』
「勝手にか」
「なかなか気の強い女の子たちで」
『はい。ネギま部の名誉顧問にうちの師匠が着任し、夏祭りでは部員の証であるバッチを狙ってうちのクラスの一般人連中が襲ってきてその理由が私たちもイギリス旅行に連れていけだの合宿だなんだと無理矢理海に連れていかれそこで話を盗み聞きしていたうちのクラスの一般人連中が合流してなかなか帰省しないネギくんを迎えに彼の幼馴染みの女の子が乱入してきて宿は36人も個室は用意出来ないと大部屋で雑魚寝。しかもネギくんは寝ていると抱きつきグセがあるようで、それを狙って枕投げ。
一旦は決着がつき、ネギくんは一番害がないとされる方々の間へ。見張りのアスナさんがもう大丈夫かと寝た瞬間ネギくんを狙うクラス連中が寝相の悪さを装い接近、のちになぜか静かに大乱闘となりネギくんは右へ左へ頭を蹴られリボンで引っ張られ、その微妙な騒がしさに目を覚まして上体を起こした私にちょうどネギくんが勢いよく風を切って飛んできてまして、その際頭をぶつけました。そのあとのことは気を失っていたので覚えていませんが、朝起きてみると争っていた方々がもみくちゃになっていたのでまあ、ざまあみろとは思いましたね』

今でも思い出すと痛い…と額を押さえると二人からめちゃくちゃ可哀想なものを見る顔をされた。

40:マメツキ◆p.:2017/11/23(木) 01:26 ID:8Mw

『そこから実際国際指名手配される程度には賞金首な師匠にアスナさんが七日間着の身着のまま雪山に放り出されて修行をしたりなぜか私は私の体重の三倍の重さの重石を足に連れられ海に放置されました。多分本題の冒険よりその修行の方が生命の危機を感じましたけど、ようやく海外に渡来、そして偶然旅行に来ていたクラス連中に物凄い確率の中発見されてしまい、ネギくんの4歳からの故郷であるウェールズに計29人で押し掛ける形になります』
「なぜネギの故郷であるウェールズに行ったんだ?」
『そこに新世界と旧世界を繋ぐゲートがあるんですよ。そしてとうとうそのゲートが開いた当日、一般人連中には危険だから絶対に来るなと言っておいたのですが、一部が面白がって着いてきてしまい…向こうに着いてからその壮大さに圧倒されているときに一部彼女たちがついてきてしまったことにより不法入国、わりと問題になりかけましたが、ここでその日一番のアクシデントが発生しました』
「…アクシデント」
『なんとも間が悪いことに修学旅行の時の私の半身を石化しやがったフェイトも渡来していたのです。その殺気に気付いたネギくんは素早く警備兵にありったけの戦力を呼んでくださいと指示しますが、警備兵が動くよりも早く、彼らは電撃にて気絶。次の瞬間簡易杖を構えていたネギくんの右胸は石の槍に貫かれていました』
「心臓でなくてよかったですね…」
「気付いた時点で結界を張るなりすればいいものを」
『簡易杖では難しいんですよ。私たちのカードやネギくんの杖はロック魔法が何重にも掛けられた厳重な扱いの箱の中。
異変に気付いた仲間もやって来ましたが、敵も最強クラスの仲間が集まり、神鳴流剣士の桜咲さん、忍者の長瀬さん、半狼の犬上くん達が個々で戦闘を開始しました。ちなみに、ネギくん倒れてます。で、アスナさんの魔法無効化能力パンチで箱が開き、私たちの武器が解放されました。私達はアスナさんに助けられましたよ、どうやらもう少し遅ければ地面と同化していたらしいです。次に、このかさんのアーティファクトの能力にある一日一回完全治癒呪文を発動、ネギくんは一命をとりとめました。もうじき三分たちかけていましたから実を言うとかなり危なかったです』
「確か、三分経つと完全治癒は出来ないんでしたね」
「逆を返せば三分以内ならどんな傷も治せると言うことか」
『頭が潰れてたり既に亡くなっていると意味がないらしいですよ。
そこから反撃に移ろうとしますが、彼らがやってくれやがりました。ゲートの楔をぶっ壊したのです。この時点で私達はもとの世界に帰る手段がなくなりました』
「「!?」」
『楔は世界に散らばっていますが、最後が運悪くここだったらしくて。
そして彼らの転送魔法により私達はバラバラに新世界中に飛ばされました。或いはジャングル、或いは雪山、首都、どれもこれもここからシンドリア以上の距離でバラバラにされました。私達がナギの情報を見つけて家に帰るには、広大な大地に飛ばされた18人を全て発見して全員揃わなくてはならなくなったのです』
「とんでもないことになったんですね」
「お前はどこに飛ばされたんだ?」
『運良く「オスティア」と言う浮遊島を国土とする国へ。ふらふら散策して傭兵などの仕事を受け持ちながら食いつないでいたらそこで奴隷にされた仲間を三人見つけました。三人は一緒に飛ばされたらしく、そこから砂漠をあるいていたところで一人が風土病にかかり、運良く通りがかった商人さんが気前良く薬をくれたそうですが、その風土病を治す薬が100万ドラクマ……こちらで言う100万ファン。その借金を返すために闘技場付き飲食店で働く奴隷をやらされたそうです。そしてのちのち合流したネギくんや犬上くんたちがそれに憤慨し、そこの闘技場でやる予定のトーナメントの優勝賞金が丁度100万ドラクマ、彼らは年齢詐称薬を飲み、大人に変装して出場しました』
「…なぜ変装をしたんだ?」
『アーウェルンクス一味のせいで、私達が世界の楔を壊したことにされたからです。濡れ衣着せられて指名手配なので、もとの姿で出るわけにはいかなかったんですよ』


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