〜アタシは“城ヶ崎莉嘉”だから〜
「お姉ちゃん!」
「はいはい、莉嘉」
アタシはいつだって、お姉ちゃんの背中を追いかけてきた。
だって、お姉ちゃんはカッコよくてアタシの憧れで……何より、お姉ちゃんの事が大好きだから。
……でも、少し考え方が変わってきた。
『お姉ちゃんみたいなカッコいいカリスマJKになりたい』から、『お姉ちゃんよりも凄いアイドルになりたい』……って。
そして、自分らしさを見つけたい、見て欲しいって。
お姉ちゃんの背中を追いかけるんじゃなくて、お姉ちゃんの背中を追い越したいって思ったんだ。
つまり、お姉ちゃんを目指すのを辞めるってこと。
だけど、アタシはお姉ちゃんを目指してこれまでやってきた。
アイドルになったのも、お姉ちゃんみたいになりたかったから。
セクシーなお仕事がしたいのも、お姉ちゃんみたいになりたかったから。
「アタシ、お姉ちゃん目指すの辞める!」
だから、少しテイコウがあったけど、結局お姉ちゃんと二人で話せる時にそう言った。
当然、お姉ちゃんに理由を聞かれた。
「アタシね―――――」
アタシはその時、自分の思ってることをぜーんぶ言った。
そしたら、謝られた。「気づいてあげられなくてゴメンね」って。アタシが勝手に決めたことなのに。
アタシが勝手に決めたことで、お姉ちゃんに悲しい顔をさせちゃった。
でも、アタシはこれだけは譲らなかった。
みくちゃんみたいに、自分を曲げないで……っていうのはちょっと違うかな。ゴメンね、みくちゃん。
そして、呼ばれ方も。
「妹ヶ崎」じゃなくて、「莉嘉ちゃん」とか、「莉嘉」って呼ばれたい。
“お姉ちゃんを目指すアタシ”じゃなくて、“城ヶ崎莉嘉”を見て欲しかった。
……って、その時は思ってた。
ある時、お姉ちゃんが出るライブのチケットを貰った。
当然、お姉ちゃんのカッコいい姿は見たかったから、見に行った。
「美嘉ー!」
お姉ちゃんは、ファンの人達みんなに名前を呼ばれて、やっぱりキラキラしてた。
そんなお姉ちゃんを見て、「やっぱりお姉ちゃんは凄い」、「お姉ちゃんには追いつけない」って思った。
そして、「お姉ちゃんを目指す」ってもう一度思ったの。
「やっぱりお姉ちゃんを目指さないの、やめた!」
って言った日には、お姉ちゃん、すっごい安心してたなー。
……だから。
「ねえ、Pくん。アタシね、“お姉ちゃんを目指しながら”“アタシらしさ”を見つけたいの! 」
あたしは一ノ瀬志希、18歳の高校三年生。
346プロのアイドルで、デビューしたばっかりだからまだソロ。よく分かんないけど、女子人気が高いらしい。
「志希。ユニットを組んでくれないか?」
……このまま、ずっとソロだったら良かったんだけどね。
「いやいや。プロデューサーもあたしがそういうの向いてないの知ってるでしょ?」
「ああ、十分に分かってるさ。だが、これは事務所側からの依頼だから……頼んだ」
げっ、プロデューサーが組ませようとしたんじゃないの? プロデューサーが組ませようとしたのなら断れたんだけど……
「……はいはい、りょーかい」
断ったらどうなるか分からないし、承諾するしかなかった。
「ありがとう。ちなみに、ユニット相手と顔合わせは明日だ」
「早くない? で、それ誰?」
「内緒」
ケチだなー。
ま、これは明日のお楽しみってやつかな。気は乗らないけど、ちょっと気になるし明日は時間通りに来てやろう。
「急に呼び止めてすまなかった。じゃ、気をつけて帰れよ」
「はーい」
……相手、どんな子かな。
「アタシ宮本フレデリカ! よろしくシルブプレ!」
これでもかと言うほど輝いている金髪が揺れた。
「……一ノ瀬志希。よろしくー」
対して、若干引き気味なあたし。
だってさ、普通思わないでしょ。まさか相手がこんなにキャラ濃い子だったなんて。
流石のあたしでも、ちょっと面食らってしまった。
「アタシはねー、19歳! 短大生! ……シキちゃんはー?」
「えっと、18歳。高校三年生」
いきなり自己紹介をしたかと思えば、年齢を言ってあたしに尋ねてくる。
表情も行動も、面白いほどに変わる子だ。
……でも、まさか年上だとは思わなかったな。
「わー、JKだ! JK!」
楽しそうな表情をしながら彼女は言う。正直、あたしには何がそこまで楽しいのかが理解できない。
……ま、これも彼女の性質なんだろうけど。
ともかく、そんなふうに仲良く? 話していると、プロデューサーに資料みたいなのを配られた。
「ユニット名は……レイジー・レイジー?」
フレデリカちゃんが紙とにらめっこしながら尋ねる。
「ああ、そうだ。意味は……」
「だらけている、とかそのへんでしょ?」
あたしはプロデューサーの説明に口を挟む。
普通に話聞いてるだけって、なんか面白くないし。
「……正解」
プロデューサーは「やられた」って顔をしながら言う。
「わーお、シキちゃん頭いい〜」
「そーでもないよ」
フレデリカちゃんが褒めてくる。なんかむず痒い。
「……お前達、仲いいな
「でしょでしょ? ねー、シキちゃん」
「ぐえっ」
プロデューサーが言うと、フレデリカちゃんがあたしの首に手を回しながら言う。首しまるって……
ていうか、どう見たって一方的なやり取りだけど、プロデューサーにはこれが仲良く見えるんだ。
「とにかく、上手く行きそうで良かったよ。明日からレッスン、よろしくな」
「はーい」
「……はいはい」
なんか全く上手くいく気がしないんだけど。……何日目になるのかな。あたしがこの子の顔から笑顔を消してしまうのは。
「シキちゃん考え中?」
「んーん、違うよー」
想像していたことが顔にも出てたみたいで、フレデリカちゃんに気を遣われてしまった。……あたしも、まだ落ちぶれてないんだな。表情に出るなんて。
「じゃ、話し終わったっぽいしあたし帰っていい?」
「ああ、いいぞ」
なんか居づらかったから、あたしはプロデューサーから許可をもらってその場をあとにした。
……このままこの子といたら、調子狂いそう。
「失礼しまーす……」
「おお一ノ瀬。珍しいな、お前が時間通りにここに来るなんて」
げっ、今日ベテラントレーナーさんなんだ……。
「まあ、うん……」
何となく遅刻しちゃいけないような匂いがして、珍しく時間通りにレッスンルームに来た。
「シキちゃん今日からよろしく〜」
「……よろしく」
どうせ、振り付けとか歌とかすぐ覚えちゃうし……面倒臭いけど、どうにか乗り切ろう。
あたしはそう思いつつ、配られた振り付け表を見ながらお手本通りのダンスを踊る。
「一ノ瀬は相変わらずだな。宮本も線は悪くないし、その調子でいけ」
「はぁい……」
「はーい♪」
レッスン中も、フレデリカちゃんはテンションが高かった。あたしからしたら、なんでこんな面倒臭いことを楽しそうにできるのかが理解できない。
なんて失礼なことを思いつつ、あたしは今日のレッスンをこなした。
「はぁ……はぁ……」
技術は高いとはいえ、あたしはアイドルになる前までずっと部屋に篭もって研究していた。運動なんて無縁だったから、体力がない。
「一ノ瀬は技術は十分だが、体力をつける必要があるな。宮本は……とりあえず、オリジナルの振り付け考えるのやめろ」
「え〜、いいと思ったんだけどな。まあ、いいや!」
……うん、もう最早振り付けの原型留めてなかったしね。でも、これもいい個性なのかもしれない。多分。
「じゃ、レッスン終了だ。水分補給忘れるなよ」
そして、ベテラントレーナーさんはそう言ってからレッスンルームを出た。
「疲れた〜……」
あたしは疲労のあまりその場にへたり込む。レッスン真面目に受けるの、久しぶりだったから。
「はい、シキちゃん。ドリンク!」
すると、フレデリカちゃんがあたしにドリンクを差し出しながら話しかけてきた。
……優しい。
「ありがと。……フレデリカちゃん」
「フレちゃんでいいよ〜」
一応礼を言うと、そんな言葉が返ってきた。
「フレ、ちゃん?」
「うん、フレちゃん♪」
フレちゃんね。フレちゃん……悪くは無い、かも。
「じゃ、帰ろ?」
「……うん」
体を起こされて、あたしはフレちゃんと一緒にレッスンルームを出る。
……その時、気付いた。
フレちゃんの匂いが、あたしのママに似てる、いい香りだったことに。
ママの香りは心地よかった。安心した。大好きだった。……なのに、あたしは無意識に拒否してた。
その理由は……もう、戻ってこないものだったから。ママはもういない。ママの匂いはない。どれだけ似た匂いがあろうと、ママは存在しない。
ないものに変な快感を味わうくらいだったら、もう忘れたかったの。
……だから。
「シキちゃん、なんでそんなにフレちゃんから離れるの?」
「……べーつに」
レッスン前。
事務所の中で、あたし達はそんなやり取りをする。
……ママの匂いを発してるこの子には、近づけない。
離れてたら嫌われる。この子に嫌われるのは嫌だったけど、ママの匂いを思い出しちゃうのはもっと嫌だったから。
「……ねえ、シキちゃんアタシの事嫌い?」
なのに
「アタシ、なんか悪いことをしちゃった?」
……なのに
「えっとごめ……」
「フレちゃんには関係ない!」
「シキ……ちゃん?」
なんでこの子は、こんなにあたしに寄り添ってくれるのだろうか。
それで勝手にイライラしちゃって、あたしは思わずフレちゃんに大声で怒鳴ってしまった。
ああ、あたしバカだ。友達なんてどうだって良かったのに、独りだって平気だったのに、なんで。なんでこんなにこの子に対して必死になってるの。
「……ごめん」
フレちゃんが悲しそうな顔をした所で、あたしは我に返った。……その悲しそうな表情見て、心が痛くなった。いたたまれなくなった。
「あっ、シキちゃん……」
「……頭、冷やしてくる」
困惑したような表情のフレちゃんに、あたしは一言そう告げて事務所から出た。
……失踪、かな。久しぶりの。
―――――雨が降っていた。
ぺトリコールの匂いが鼻を突く。それと同時に感じたのは、雨の冷たさと虚しさ。「なんでこんなとこにいるんだろ」って感じ。
「ヤバいよあの子」
「傘もささないでさ……」
コンビニの前でフラフラしてると、そんな声が聞こえてくる。
……雨に濡れたから、今のあたしの髪はまるで海藻。だから、驚くのも無理はないよね。
「…………」
ああ、居心地が悪い。かと言って事務所に戻るのもなんかばつが悪い。
そんな時だった。
「シキちゃーん!」
「フレちゃん……?」
彼女が、あたしの元へ来たのは。
「なん、で……」
「もー傘もささないでこんなとこに! 風邪ひくよ!」
フレちゃんはちょっと怒ったような表情をしながらあたしの頭を拭く。優しい手つきとタオルの感触が心地よい。
「さ、戻ろ?」
「……ん」
そして、彼女はあたしの手を引いて、歩き出した。
……さっきまで拒絶していた筈なのに、あたしはそれを黙って受け入れていた。
「志希! ったくレッスン前に突然失踪なんて……」
げっ、プロデューサー……
「トレーナーさん達カンカンだぞ」
「にゃ、にゃははー、そうなんだー」
プロデューサーの言葉に、あたしはふざけながら答える。
そんなあたしの様子を見て、プロデューサーは更にため息をついた。
「シキちゃん、アタシも着いていくからトレーナーさんに謝りに行こ?」
「……はーい」
適当に流そうと思ってたのに。
やっぱり、フレちゃんに言われると、断ることは出来ない。
「一ノ瀬! 急にレッスンをサボるんじゃない!」
……そして、あたしはたっぷりと叱られたのであった。
「あの、フレちゃん……」
「シキちゃん、なぁに?」
それから説教が終わって、事務所の中。
あたしは、フレちゃんにしなきゃいけないことがあった。
「……ごめんなさい」
そう、それは謝罪。あんなに一方的に怒鳴っちゃって、しかも失踪した時に探す手間をかけちゃって、もう謝ることしかなくて。
「……アタシは大丈夫だよ」
本来なら絶交されてもおかしくないのに、フレちゃんは笑って許してくれる。
……なんで、そんなに優しいの。なんで、あたしの傍にいてくれるの。なんで、なんで……
“君は、ママみたいにいい匂いなの”
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
色んな感情が溢れ出して、あたしは涙を流しながら同じ言葉を繰り返す。
「大丈夫……大丈夫だよ、シキちゃん」
そんなあたしを、フレちゃんは優しく抱きしめてくれる。
―――ああ、これが愛なんだ。
ダッドの傍に居たかったから留学して、それでも貰えなかったもの。
幼い頃にママが病気で亡くなって、貰えなくなったもの。
それが、今あたしの心を包み込んでいる。
周りと同じじゃない、そんなあたしはいつも独りであたしの方も人を信用しようとしていなかった。……だっていい匂いがしなかったから。
それでも、働いていい匂いを出してるプロデューサー。ママみたいないい匂いを出してるフレちゃん。二人がいたから。二人となら……
『高垣楓さんの“こいかぜ”、でしたー』
ステージ裏。そんな声と、沢山の人の歓声が聞こえてくる。
……こんなステージで、あたしは歌うんだ。
「緊張、してる?」
隣からそんな声が聞こえてくる。
あたしは、何も言わずにその方向を見た。
「アタシはしてるよ〜、シキちゃんは?」
……緊張、してる。トラブルがあって震えちゃってた、初めてのライブの時みたいに。
だけど、何となくそう言いたくなくて、あたしは黙っていた。
「シキちゃんってホント顔に出ないね〜」
すると、フレちゃんはそう言いながら笑った。
「……別に」
あたしは目を逸らしながら言う。
その時、あたしの手にふわりとした感触がした。
「大丈夫、いっしょだよ」
そして、フレちゃんはまるで太陽のような笑顔で言った。
「……ありがと」
その時、感じた。あたしの心に触れていくのを。あたしの心からあたたかいものが広がって行くのを。
「出番、だね」
「うん」
もうすぐ、か。
あたしが少し表情を強ばらせると、フレちゃんの手を握る力が強まる。
まるで、「大丈夫だよ」と語りかけるように。
『レイジー・レイジーの二人です!』
司会の人の声が聞こえる。
ステージの歓声も、ここまで聞こえてくる。
「シキちゃん、行こ?」
「……うん」
お互い、またぎゅっと手を握る力を強めながら歩き出す。
大丈夫、フレちゃんとなら……
「はーい、一ノ瀬志希でーす♪」
「宮本フレデリカ! らびゅー♪」
最高のステージに、出来るから―――――
訂正
>>22-31
しきフレ
ジリリ、ジリリ。うるさい目覚ましの音が鳴る。アタシは、目が開いてない状態のまま手を動かし、目覚まし時計を探す。……あった。
「ん……」
目覚ましの音を止めて、重たいまぶたを何とか開き、身体を起こす。これが、いつもの朝だ。
こうして、今日も一日が始まる―――
ママが焼いたトーストを胃の中に押し込み、制服に着替えた。それから、持ち物も確認する。スマホ、財布、メイク道具……と、教科書。忘れ物はない。
さあ学校へ行こう。そう思った時、肩を控えめに叩かれる。
「莉嘉、はい。お弁当」
「……はあ。作んなくていいってアタシ言わなかったっけ?」
「言ったけど……購買のじゃ体に悪いじゃん。アンタはまだ15歳なんだから」
「はいはい分かった。ありがと。おね……美嘉」
お姉ちゃん、と言いかけたのをのみこんで、慌てて言い換える。お姉ちゃんの事は呼び捨てって中3の時に決めたんだから、しっかりしてよ。と、自分に言いたくなった。
「気をつけて行きなよー。行ってらっしゃい」
「……分かってるって」
お節介な事を言いながらアタシを見送ったお姉ちゃんの顔は何だか寂しそうに見えた。……まあ、アタシがこんなのになっちゃったから、ね。
「おはよー、莉嘉」
「おはよ」
学校について教室に入ると、友達の由奈が挨拶をしてきたのでアタシも挨拶を返す。自分でもちょっと無愛想だと思うけど、アタシと友達の距離感はそんな感じだから。昔のアタシがみりあちゃんにしてたみたいに、ベタベタすることはない。
「そういえばさ」
「何?」
「莉嘉って、美嘉ちゃんの話全然しなくなったよね」
何だ、そんなこと。改めて言うから、もっと大事な話だと思ったじゃん。
「まあね。いつまでもガキじゃないんだから」
「でも私知ってるよ?」
……知ってる? 何を?
「莉嘉の弁当、美嘉ちゃんが毎日作ってるらしいじゃん」
「……は? それどこ情報?」
「美嘉ちゃんがインタビューの時言ってたよ」
「はあああ!?」
お姉ちゃん、何余計なこと言ってんの!
そんな思いでアタシは思わず叫ぶ。……当然、アタシに視線が集まる。アタシは「ごめーん、ちょっと驚いてさー」と言いながら誤魔化した。視線が逸れていくのを確認して、アタシはため息をつく。
「おはよー」
先生が入ってきた。話は終わり。由奈はアタシの机から離れて、自分の席に座る。
ああ、今日も眠気との戦い……授業が始まる。
午前の授業は終わり、昼休み。アタシは由奈と机を合わせて一緒に弁当を食べていた。……お姉ちゃんが作った、弁当を。
「莉嘉、お姉ちゃん大好きだったのにねえ」
「またその話?」
「中学生の時は純粋だったよねえ」
由奈はそう言いながらスマホを取り出す。
「こーんな歌も歌ってたよねえ」
「え? ……ちょ、ちょっとそれ禁止! 禁止だから!」
ニヤニヤした顔で由奈はアタシにスマホを向ける。
―――えとえと前からずーっと それからそれから……好きです!
……DOKIDOKIリズム。アタシが12歳の時に出したデビュー曲。ガキみたいでバカらしい曲。当時のアタシはこれを元気に歌って踊ってたけど、今思うと恥ずかしい。
「こーんなに可愛かったのにねえ」
由奈が愉快そうに笑う。頬が熱い。多分、アタシ今顔真っ赤。
「城ヶ崎さん、うるさい」
「ゴ、ゴメンゴメン」
ほら、由奈のせいで前田さんに怒られちゃったじゃん!
そんな気持ちを込めて由奈を睨むけど、由奈は笑うだけ。ホント、憎たらしい。……ったく、どうして今日はこんな昔のことばっかり……
まるで、「お姉ちゃんに素直になれ」って言われてるみたいでイライラした。
「じゃあね、部活頑張って」
「莉嘉、バイバイ」
友達と別れて学校を出た。アタシはアイドルもあって部活に入ってないから、学校が終わったら寄り道するか家に真っ直ぐ帰るだけ。
今日はもう家に帰ってしまおうかな、なんて思いながら、歩く。
「……あ」
その時、大人っぽい感じの店がアタシの目に入った。確か、最近オープンしたばっかりのカフェ。……最近、お姉ちゃんもアタシもゆっくり休むことが出来てなかったから、誘ってみようかな。でも、なんか恥ずかしいし……
『お姉ちゃん大好きだったのにねえ』
由奈の言葉が頭に浮かぶ。……違う。大好き“だった”んじゃなくて、今も大好き。ただ、ちょっと素直になれなくて、それで当たっちゃうだけで……
「……よし」
……そろそろ、素直になろう。
アタシは決意した。お姉ちゃんを誘ってこのカフェに行くって。もう高校生だから、なんて意地張ってたけど、たまにはいいよね。……おかしい事じゃ、ないよね。
―――だから、素直になる!
「莉嘉、おかえり」
「あ……ただいま」
玄関を開けて中に入り、リビングに向かうと、お姉ちゃんがソファに座っていた。
よし、言おう。そう思っても、全然言葉が出てこないし、何か悪いことをした訳でもないのに、お姉ちゃんと目を合わせることすら出来ない。
「……莉嘉、なんか言いたいことある?」
「えっ」
タイミングを考えている時、お姉ちゃんが言った。……やっぱり、お姉ちゃんはアタシのお姉ちゃん。アタシがいつもと違うことなんて、お見通し。
「あ、あのね……」
「うん」
お姉ちゃんが真剣な表情でアタシの顔を見る。余計言いにくいけど、素直にならないと。
「最近オープンしたカフェがあるんだけど……」
「あ、知ってる。それで、そのカフェが?」
「うん。その……美嘉……ううん、お姉ちゃん!」
お姉ちゃんがびっくりしたような顔をする。そうだよね。アタシがお姉ちゃんの事をお姉ちゃんって呼ぶの、1年ぶりだもん。
「今度の土曜日、一緒に行こ?」
恥ずかしさで思わず下を向く。お姉ちゃんは何も言わないし、アタシが顔を下げてるから表情も分からない。なんて言われるんだろ、断られないかな、そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
「……なんだ、そんなこと。
もちろん。可愛い妹の頼みを断るなんて、アタシ出来ないし!」
「お姉ちゃん……ありがと!」
甘えるのが恥ずかしくなって、お姉ちゃん離れをしようとした。でもやっぱりお姉ちゃんが大好きだから離れられなくて、そして強く当たっちゃって。そんなアタシだけど……今日、素直になれたんだ。
>>34-35
3年後城ヶ崎姉妹。年齢操作に注意
「シキちゃん、空を飛ぶってどんな感じだろ」
いつものように美しい髪を揺らす彼女が言った。
空を飛ぶ、ね。物理的に飛ぶのか、或いは……なんて無粋な思考を巡らし始めたところで、やめた。シャンデリアに轢かれてハッピーエンドなあたしはあそこで終わったんだ。
「気持ちいいんじゃない」
とは答えたものの、正直あたしにも分かんない。だって空を飛んだことなんてないし。例えあっちであってもね。
そんなあたしの確かではない言葉に、彼女はちょっとだけ腑に落ちないをしたものの、「そっか」と言って話を終わらせた。そうやって切り替えが出来るところは、あたしより大人なのかもしれない。
「もし気持ちいいなら……アタシ、シキちゃんと空飛びたい」
「……ん?」
前言撤回、話は続いていた。
それに、気持ちいいなら空飛びたい? 何を言ってるんだ、この子は。もしかして、おかしくなっちゃったのだろうか。
「……フレちゃん、おかしくなっちゃった?」
「そうかもねー。なんでだろー♪」
本当に、フレちゃんは読めない。……でも、そんな所が面白い。面白くて、あたしは好きだ。この子とならなんだって出来そう。それから、理解できない所へだっていけそうだもの。
「ねえシキちゃん」
「なに、フレちゃん」
「朝になっちゃったね」
窓の外を見る。真っ暗だった空は少しだけ明るくなっていて、ラボの前を通る車の数も増えてきていた。多分、5時くらいだろうか。
「アタシ達、夜更かしさんだね」
「ねー、フレちゃん。お仕事、あったっけ?」
「確かオフだったよー」
そっか。そう言いながら、あたしは彼女の顔を見つめる。
綺麗な緑色の瞳の下には、ちょっとだけクマが出来ていて、フレちゃんらしくない顔だった。こうしたのはあたしか、それとも彼女自身か。そう尋ねれば、彼女はきっと自分がしたと言うだろう。何故なら……とっても優しいから。
「あたし、寝てもいい?」
正直、眠気なんてなかった。なんでこんな事を言ったのか分かんなかった。でも、あたしはいつの間にかそう言っていた。多分、彼女のクマを見るのが嫌だったからだろう。あたしが目をつぶれば見えないし、彼女も寝てくれれば消えるはず。
そんな幼くてバカらしい思考に、あたしは自分でも呆れたくなった。
「いいよー」
その返事を聞いて、あたしは直ぐに目を閉じた。ベッドに移動するのはめんどくさいから、ソファに寝転んで。
目を閉じていたから、その後彼女がどんな行動を起こしたのかは分からない。だけど、目を開けたら身体にはタオルケットが掛けられていて、彼女自身は何故か料理を作っていた。
……やっぱり、フレちゃんって面白いよ。あたしの負け。
>>37
しきフレ。キャラ掴めてなかったら虚しい
「おねーさん、誰?」
「え、ええと……」
―――正直な所、私は困惑していた。
人通りの多い廊下であるのにも関わらず、ぐいぐいと近付いてくる女の子は、一ノ瀬志希ちゃん。同じ岩手出身だけど、私よりも一回り近く年下で、普段は全くと言う程関わりがない。
だからこそ、接し方が分からなかった。
「三船美優……です」
ふうん。そう言いながら、私を見詰めてくる志希ちゃん。
大きくて猫のような瞳は、まるで私を逃がさないと言わんばかりにぎらりと光っていた。
私が消極的でなかったら、上手く接してあげられるのに……なんてマイナス思考になってまうのは、いつもの事。
「なんか単純っていうか、淡々としてる匂い」
「……どう捉えたらいいのかしら?」
「面白くはないね」
私が何も言えずにいると、志希ちゃんが口を開いた。
本人に悪気は無いのだろうけど、こうもはっきり言われてしまうと傷付く。かと言って、別に貶されているわけでも無いみたい。
要するに、志希ちゃんは私を“つまらない人間”だと捉えている。そう、ただつまらないだけの人間だって。
「アイドル、楽しい?」
一方的に色々言われたと思えば、志希ちゃんは唐突にそう尋ねてきた。
拍子抜けしてしまって、思わず目を丸くしてしまったけれど、どうにか頷くことは出来たと思う。
話がコロコロ変わる子、私の志希ちゃんに対する印象は、大体そんな感じだった。
「あたしも楽しい。だって、アイドルになって、今まで無かった事ばっかり! 新しくて、刺激的で」
アイドルについて語る志希ちゃんの目は好奇心に満ち溢れてて、キラキラしていた。
私には無い輝き。それが、今のこの子にはあるんだって、その目を見て思った。
……だから、志希ちゃんには私がつまらない人間に見えるのかな。
「美優さんは、アイドルのどんな所が楽しいの?」
「ええと……」
何と返すべきか分からなくて、必死に考えていた時。
遠くから足音が聞こえてきて、その音が段々と廊下に近付いてくるのが分かった。
「あちゃー、バレちゃった。美優さん、次会った時は答えを聞かせて。じゃあねー」
志希ちゃんは楽しそうに笑いながら周りを見渡し、走り去ってしまった。
そんな志希ちゃんを追いかけていく城ヶ崎美嘉ちゃんの背中を見ながら、私は考える。
「志希ちゃん、か」
少しだけだけど、志希ちゃんと話した時間は嫌じゃなくて。それどころか……ちょっと楽しかったな、なんて思って。
また会える事も、彼女が私を覚えているのかすらも分からないのに―――出された問題の、答えを探していた。
>>39
しきみゆ初挑戦
しきみゆどころか美優さんにすら初挑戦なのに下調べ無しはまずかった。ていうか文章が色々とおかしい